未来を変える。
実はこれほどおこがましい考えはないのではないか。
確かにアクション一つで未来は変わる。
しかし、それを思い通りに変えるには、人の手はあまりに小さい。
それでもあがくのが人だ。
人にはあがくしかできないのだから。
『・・・・・・アキトさんは、知っていたんじゃ?』
ルリは不意に思い当たった。
アキトは『夢』で未来を見ている。
なら、自分の出生のことも知っていたんじゃ?
そう思い当たると、ルリは居ても立っても居られずアキトの部屋に走った。
「 | ・・・・・・知っていた。」 |
アキトの、それが答えだった。
「 | 知っていたけど・・・・・・言えなかった。」 |
アキトは言う。
アキトにしたら言えるはずがない。
ルリに、お前は受精卵を加工されて作られた実験体だ、などと。
全てが虚無の中で、あの時ルリがどれだけ傷ついていたか。
しかし。
それを聞いたルリは爆発した。
「 | なんで教えてくれないんですか!!!」 |
それはアキトが初めて見るルリの激しい感情だった。
怒り。
「 | 私が・・・・・私がどれだけ答えを求めていたか! だいたいアキトさん、私のこと家族だって言っていたじゃないですか! それなのに、こんな大切なことも私に隠して・・・・・」 |
ルリは爆発した。
それまでくすぶっていた不安を、一気に怒りとして吐き出した。
不安・・・・・・。
アキトの悩みを気づかなかったときの痛み。
アイが現れ、自分の居場所が無くなるように感じた事。
アキトが艦を降りると言ったときの、仕方ないけど割り切れない気持ち。
それら、ルリの心の奥でくすぶっていた全てが、一気に怒りとなって爆発した。
「 | もう・・・・・もう、しばらく会いたくないです。」 |
そう言って、ルリはアキトの部屋を出ていった。
ルリの姿が消え、アキトは悔恨の念に沈んだ。
やりきれない思い。
俺が傲慢だったのか?
確かにルリを思って黙っていたことだが・・・・・・
それは傲慢なだけではなかったのだろうか?
俺が臆病だったのかな・・・・・・
過酷な事実ではある。
しかしルリにそれを告げなかったのは、ルリを傷つけることを怖がった自分の都合だけじゃなかったのか?
俺は・・・・・・いらないな・・・・・・
もう、ルリにも見限られてしまった。
あの幸せだった家族ごっこもおしまいだろう・・・・・・
喪失感に、アキトの目から涙がこぼれた。
結局ルリはピースランドには行かなかった。
あまりにも突然で気持ちの整理が付かない、なんらかの区切りがついたら会いに行く。
ルリのその回答にプロスペクターは大いにあわてたが、使者はアッサリ引き下がった。
「 | 姫に無理強いはならぬ。」 |
国王夫婦の厳命があったからだ。
ルリとアキトが疎遠になったことについて、ユリカは何も言わなかった。
ミナトもメグミも。
ルリから大体の事情は聞いた。
アキトにはルリに言えない事情があるのだろう事も察しが付いたが、今ルリにそれを言っても反発するだけだろう。
今はただ見守るしか出来ない。
なんとなく歯車がずれてきたナデシコ。
そして、事件が起こる。
ナデシコ初の、人的損害が。
連戦連勝のナデシコは、今日も戦っていた。
宇宙軍もかなり失地回復をし、現在は宇宙戦がメインである。
ナデシコは宇宙軍の左翼陣の要にいた。
「 | ガーイ!スーパー、ナッパー!!」 |
いつものようにエステバリスで敵を撹乱・誘導し、
「 | グラビティ・ブラスト、発射!」 |
敵を殲滅する作戦であった。
しかしその作戦がうまくいったと思ったとき、後方から敵艦隊が現れた。
「 | 嘘!伏兵?」 |
流石のユリカすら予測できなかった見事な伏兵。
今までとは違う、人の意志のある敵の行動だった。
そして、その位置取りは宇宙軍の退路をふさぐ形となっている。
これまで破竹の進撃だった分、宇宙軍艦隊は動揺した。
「 | 敵に立ち直る隙を与えることはない! 撃て!」 |
月臣の命令とともに木連艦隊が一斉砲撃を開始した。
盛大な花火が前方にきらめく。
「 | ふ・・・・・・流石九十九だ。 これまでの我々の戦法すら罠に使うのだから。」 |
遠大な罠である。
戦線の後退に動揺し、優人部隊の前線導入を即時決行しようとした上層部を説得し、これまで通りの機械化兵器のみの攻撃を行わせていた白鳥九十九。
敵に自分たちを侮らせる。
そして、1戦を持って敵に深刻な精神的ダメージを与える。
計画自体もともかく、そのために焦る上層部やはやる部下を説得し、押さえてきた力量。
「 | 木連にあいつが居てこれほど嬉しいことはない。」 |
友を誇らしげに語る月臣。
部下達も心からその言葉に賛同した。
「 | 今までのあいつの苦労に報いよう! この戦いの勝利で!」 |
今まで押さえてきた分、木連の志気はこれ以上ないくらいに高い。
これまでの連勝に慣れ、その分動揺の大きい宇宙軍との勝敗は決していた。
ふと月臣は1機の敵機動兵器に注意を向ける。
おそらく敵のエースだろう。
動揺する敵の中で、1機だけ果敢に向かってくる機体。
「 | 敵とはいえ・・・・・・見事だな。」 |
しかしその機体も限界が近い。
月臣はそう見ていた。
「 | ヤマダさん、そろそろ戻ってください! ヤマダさんの機体が持ちません!」 |
メグミが必死で呼びかける。
しかし。
「 | ダイゴウジ・ガイだ! 俺のことなんかよりナデシコの方を心配しな。」 |
ガイはそう言って聞かない。
もとより自分の機体の状態は解っている。
しかし、プロとして自分の戦線での価値も解っていた。
「 | ナデシコはもう離脱可能です! だから!」 |
今度はルリが必死で呼びかける。
いつもの不仲を忘れさせる、真剣な様子で。
事実、ユリカの判断でナデシコは即座に防衛主体に切り替え、戦場からの撤退を図っていた。
そこに。
「 | ガイ!」 |
アキトがコミュニケで割り込む。
ガイ以外のパイロットはナデシコ近辺に集結している。
「 | よお、アキト。無事だったか。」 |
「 | お前、何やってんだ!早くこっちに来いよ!」 |
怒ったように言うアキト。
「 | いやあ、無理だ。 でもな、俺は満足だぜぇ。 味方を護って宇宙に散る! 男のロマンじゃねえか!」 |
「 | ふざけるなよ! 今から俺が行くから・・・・・・」 |
「 | 来るんじゃねぇ! お前は『護りたい』んだろうが!」 |
ガイの一喝。
「 | お前がそこを離れたら、そこからナデシコは攻撃されるんだ! ちっとは頭使え!」 |
ガウン!
ガイの機体が被弾する。
「 | 俺は笑って死ぬのが夢だった。 お前のお陰でそれが出来るんだ。 お前や、くそ生意気なちびガキ達のおかげさ。」 |
そう言って笑うガイ。
その笑顔を、アキトは生涯忘れることがなかった。
「 | じゃあな! お前はお前の夢を実現しろよ!」 |
そう言って。
ガイは敵に向かって飛んでいく。
「 | これが最後の、ゲキガンフレアー!!!」 |
いくつもの光点がきらめき。
「 | ヤマダ・・・・・・いえ、ダイゴウジ機、反応消失。」 |
ルリの言葉がむなしく響いた。
「 | ガイイイイィィィィィ!」 |
アキトの叫びとともに。
「 | ・・・・・・エステバリス全機回収。 ナデシコ、戦線を離脱します。」 |
ユリカの感情を押し殺した声の元、初の敗残兵となったナデシコは戦場を離れた。
「 | くそお!」 |
ガコン!
力一杯壁を叩くアキト。
「 | 俺は! 俺は何も解っていなかった! 未来を変えるとか粋がって、結局ガイを死なせた!」 |
アキトの中で、怒りが渦巻いた。
自分への怒りが。
「 | ちょっとうまくいってたから、それで調子に乗って、船を降りるとか考えて! 畜生! ガイ!」 |
アキトの部屋は散乱していた。
エステから降りたときは死人のようだったアキト。
しかし、部屋に戻りしばらくすると、やるせないほどの怒りが自身を苛んだ。
もっともそれはアキトだけではない。
ナデシコクルー全員が、打ちのめされていた。
それぞれの油断、慢心。
その結果を突きつけられた。
それは、あまりにも苦かった。
ひとしきり暴れた後、アキトは部屋の真ん中で仰向けになっていた。
部屋の中は酷く散らかっている。
散乱した衣類、破れたカレンダー、割られた鏡。
どのくらい経ったのだろう。
己に絶望し、暴れて空虚になったアキトに、ガイとの最後の会話が蘇った。
『お前はお前の夢を実現しろよ。』
・・・・・・
俺の・・・・・・夢?
『俺は笑って死ぬのが夢だった。』
俺は・・・・・・笑って生きたかったよ、お前やみんなと!
『お前は『護りたい』んだろうが!』
・・・・・・そうだよ!
俺は護りたかったんだ!
みんなを!
なのにお前は・・・・・・
「 | だから、今度こそお前はお前の夢を実現しろよ。」 |
はっきりと。
ガイの声が聞こえた気がした。
起きあがるアキト。
だが当然ガイは居ない。
「 | ・・・・・・わかったよ、ガイ。」 |
気が付けば朝の時間だった。
アキトは立ち上がった。
もう、迷わない。
決意を秘めたアキトの目だった。
味方の損傷は5%、敵の損傷は42%。
文句無しの大勝利に、木連ブリッジは沸いた。
「 | やったぞ!九十九!」 |
早速回線を開いて、月臣は親友に戦果を報告した。
「 | おいおい、報告は草壁閣下へ先にしろよ。」 |
そう言って苦笑しつつも、親友の心遣いが嬉しい九十九だった。
木連にとって勝利の美酒は甘美であった。
これまで敵の反撃に耐えた末での勝利。
しかも、優人部隊の初陣での勝利である。
「 | さっすが元ちゃん♪」 |
兄から知らせを聞いたユキナも心からその勝利を喜んだ。
木連中がその勝利に意気が上がる。
戦争というのは戦いが終われば終わりという物ではない。
特に初の優人部隊の戦い、これまでの機械兵器では不可能だったきめの細かい情報収集がしたい。
それも今回の作戦を立案した九十九の為になる、月臣はそう考えていた。
破壊された残骸からはそれなりの情報が得られた。
中でも、敵ロボット兵器の残骸がいくつか入手できたのは大きな成果だった。
小型で機動性の高い敵ロボットは木連にしたら脅威である。
何故あんなに小型なのか、それなのになぜあれほどの機動力を持っているのか。
今回集められた残骸からその辺の謎が解けるかもしれない。
「 | む?」 |
気が付けば前方に、今までのどれよりも状態の良い敵ロボットの残骸が漂っていた。
「 | あれは・・・・・・」 |
あの機体は先程の機体ではないか。
勇猛に戦い、そして散ったのだろう。
なんとなく神妙な面もちになる月臣。
「 | あの機体には微弱ながら反応があります。 回収しましょう!」 |
オペレーターの言葉に我に返る月臣。
まだ任務の最中だ。
気を抜くわけには行かない。
「 | 回収せよ!」 |
部下に命令を下した。
ド集中して書いたため、燃え尽き中・・・・・・
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