始めに。このお話は前作になっている『黒い悪魔』をお読みにならないと話の内容が分からない部分があります。ご了承下さい。


 

あの惨劇から数年。多くの人々の心に深い傷跡を残した、悪夢と言うべき戦争。

その悪夢から数年。平和な日々が続き、人々はやっとあの忌まわしい悲劇の記憶を忘れることが出来始めていた…

 

 

だが、そんな日常を脅かす災いの影は、もうすぐそこまで忍び寄ってきていたのだ!

 

 

 

 


「黒い悪魔」劇場版

『THE KING OF DARKNESS』

前編


 

 

 

 

光無き暗黒の宇宙。その何も無い空間に眩い閃光が走る。

それはあるコロニーから発せられた光。とはいえ、それは宇宙船を誘導する誘導灯などという安全な光では無く。

美しいその輝きは、沢山の人間が暮らすコロニーが爆発する事によって生み出されていたのだ。

そのコロニーは、『シラヒメ』と呼ばれていた。

 

 

このコロニーはヒサゴプランというビックプロジェクトに関わっているコロニーの一つであり、その警備は途轍もなく厳重で並大抵の戦力では突破できるようなものではない。

しかし、現にコロニーでは爆発を起き被害が出ている。

では、このコロニーを守る為には厳重すぎるとも言える防衛線を突破してきた存在が居たのか?

しかし、それも違う。

その存在はシラヒメが建造される前から、内部に潜み続けていたのだから…

 

 

シラヒメ内部。そこに隠された秘密研究所に今、七つの影が姿を現した。

影の存在に気が付いた科学者達は恐怖に震えた。

今、この場に彼等が姿を現すという事。 それは機密保持の為に邪魔になる自分達を始末しに来たと言う事を意味していたからだ。

ある者は目前に迫る死の恐怖に悲鳴を上げ、またある者は何とか助かろうと命乞いを始める。

「ひぃぃぃ……………」

「待ってくれ!我々がいなければ研究が……」

だが、影達はそんな命乞いなど気にも留めずに、叫び続ける彼らへ銃口を向ける。

「機密保持のため……む!」

だがしかし、影が引き金を引こうとした寸前。 一番先頭に居た影が視界の端に何かの姿を捉えた!

すると、その影はまるで静止画のように硬直し、次の瞬間にはすばやく銃を懐に収めながら、視線で仲間に気付いた存在を伝え、突然の退却を告げた。

「…ここは一旦引くぞ…」

「…御意」

残りの影達はその存在に視線を向けて確認すると、突然の任務放棄に全く反論する事無く銃を収めた。

影達が銃を下ろす姿に助かったと思った科学者達は、安堵のため息をつく。

だが、それも長くは続かなかった。

凄まじい轟音を響かせながら、外壁を突き破って巨大な何かが進入してきたのだ。

 

しかし、七つの影はその突入してきた巨大な存在の事、さっきまで殺害目標であった科学者達が慌ただしく逃げ出して行く事にも見向きもせずに、脱出の準備を進める。

そして脱出の準備の済むと先頭の影が巨大な存在に向かって言葉を言い残す。

だがしかし、言葉を残そうと口を開いた瞬間!

「遅かり…ぐはっ!」

影達のすぐ近くで爆発が起き、台詞を全部言えぬまま炎の中に姿を消してしまった。

 

 

 

 

「シラヒメ?応答してください。シラヒメ?」

「救助を開始する。攻撃を警戒しながら接近。コロニーの破片に注意してくれ」

「了解」

突如、謎の爆発を起こしたシラヒメの救難信号を受けて、偶然近くをパトロール中だった連合宇宙軍第三艦隊所属戦艦『アマリリス』はその救助へ向かっていた。

そしてアマリリス艦長『アオイ・ジュン』は、シラヒメの爆発原因が判らない事に不安を感じながらも、人命を第一にと焦らず冷静に救助の指示を出していた。

「…シラヒメで何が起きたんだ…」

「所属不明の機影の反応!」

「何!?」

「スクリーンに拡大します!」

オペレーターの報告と共に、スクリーンに映像が映し出される。

「…何だアレは……?」

映像の中、コロニーの残骸の中から一つの黒い機影が現れる。

それは、エステバリスより一回り以上大きな機動兵器のようだった。

激しい爆発の中から現れたにも関わらず、傷一つ無い正体不明その機体をアマリリスのクルー達は皆、呆然しながら見つめる。

すると、その機影は発見された事に気付いたのか、アマリリスとは反対の方向に向きを変えると、恐ろしいほどのスピードで何処か飛び去ってしまった。

「あれが噂の幽霊ロボット…?」

呆然とするジュンの掠れた呟きに、答えられる余裕を持つ者は居なかった…

 

 

このシラヒメの事件。

これでコロニーで原因不明の爆発事件が起きたのは四件目だった。

そのいずれの事件のコロニーも消滅同然の被害を受けたのだが、幸いな事に死者は出ていなかった。

死者がいないのだから、事故の原因を救助したコロニーの住人達から聞けば、すぐに事件解決になると思われたが、事件の真相は依然として判明しなかった。

それというのも救助された者の証言を得ようと質問しようにも、重傷で話を聞くことの出来る状態では無い者、怪我が無くても精神的に衰弱している者、錯乱している者、思い出そうとすると気を失う者など、まともな証言を取れる者が誰一人居なかったのだ。

そして、もっとも事件に関係のあると思われるジュン達も目撃した幽霊ロボット。

この噂にもなっている機動兵器については、何故か今まで何度も目撃情報があるにも関わらず、

「コロニーが爆発する中で無傷、そのうえそんな速度で航行出来る機動兵器サイズの機体など現段階の技術力では建造不可能」

ということにされ、調査委員会は相手にもしなかった。

次々と起きているコロニーの爆発事故。だが、こんなにも怪しい事件にも関わらず、調査委員会はこの事を偶然によるただの事故だと判断。

宇宙軍には調査を禁じ、調査は統合軍だけが行なう事ということで決定された。

 

 

 

「くそっ」

ジュンは行き場の無い怒りをぶつける様に壁に拳を打ち付ける。

「はなっから、やる気が無いんだあいつらは!………痛い…」

しかし、さすがに痛かったのか、さっきまでの怒りの表情を涙目の情けない顔に変えながら痛めた手をさすりはじめる。

「かくして、政府と統合軍の合同調査と相成り、宇宙軍は蚊帳の外と相成りましたと…シップ要るかね?」

コーヒーを飲みながら調査委員会の報告書を読んでいるのはムネタケ・ヨシサダ。

ジュンの拳で穴の開いた壁に目を遣り修理代は彼の給料から引いておこうと考えながら、ジュンにシップを勧める。

「参謀っ! ……あ、シップは下さい」

痛みを堪えながらも話を続けようとするジュンにシップを手渡してやりながら、ヨシサダは見ていたウィンドウを閉じる。

「だからね、行ってもらったよ。ナデシコに」

「…彼にですか…」

それを聞いたジュンは何故か不安そうに顔をしかめた。シップが沁みただけかもしれないが。

「そう彼です」 

「…彼で大丈夫でしょうか?」

「大丈夫でしょう……多分」

その『彼』で良かったのか、本当は不安だったのだろう。

ヨシサダの答える声に最初ほどの自信は感じられ無かった。

 

 

 

ジュン達が不安を感じていた頃。チューリップを通過して一隻の戦艦が『アマテラス』に現れる。

その戦艦は『ナデシコB』 宇宙軍の新型艦だ。

そして、そのブリッジの艦長席に座る男。

ジュン達を不安にさせていた彼は…

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」

何故かコンソールに突っ伏して、苦しそうに息を荒げていた。

 

 

 

所変わって地球のある食堂。そこでこんな会話が交わされていたりする。

「あ、そういえばナデシコBの艦長って誰に決まったのかな?」

「そうですねぇ。こっちの私は、私達と一緒に住んでますし、ジュンさんあたりじゃないですか?」

「うーん、なんかこの前。お酒を飲みながらブロスさんが、『今度の艦長はジャンケン大会とかで決めても良いかも知れませんねぇ』とか言ってたからな〜」

「……まぁナデシコですし、誰が艦長でも大丈夫でしょう」

「……そうだね。ナデシコだしね」

食堂で二人のちょっと渇いた笑い声が響ていた。

 

 

場面は宇宙に戻る。ここはアマテラスの中の一室。

今ここに、むさ苦しいおっさんの大きな叫び声が響いていた。

「なんだ貴様らは!!」

むさ苦しいおっさん、もとい統合軍准将アズマの叫びに、

「連合宇宙軍少佐ダイゴウジ・ガイ様だ!!」

ナデシコBの艦長である『ヤマダ・ジロウ』こと『ダイゴウジ・ガイ』が負けず劣らず熱く叫び返す。

鼓膜の破れそうな二人の声の大きさに顔を顰めながら、ガイの隣に立っていたナデシコBの副長を務めている男性も名乗ろうとする。

「…くぅ…連合宇宙軍大尉タカ…」

が、さらに隣に居たナデシコBオペレーターである子供に邪魔されて最後まで言えなかった。

「あれ?艦長の名前ってヤマダ・ジロ「ちがーう!!ダ・イ・ゴ・ウ・ジ・ガ・イだ!!」

「…でも、オモイカネのデータには本名ヤマダ・ジ「ダイゴウジ・ガイは魂の名前だ!!」けど…」

しつこく続けるガイだったが、その子供は「どうせ自分は艦長としか呼ばないから関係ないや」

と納得した振りをすると、ついでとばかりにもう一つ気になっていた事を質問した。

「そういえば、ボソンジャンプの時の『ゲキガンワープ』とかいうの、なんですか?」

「俺様が名付けた技の名前だ! カッコいいだろう」

「全然カッコ良くないと思いますけど…」

「それでも漢か!!」

「でも、ボソンジャンプが完了するまでずっと叫び続けて無くても…」

「ヒーローが技を使う時に叫ぶのは当然の事だろうが!!」

急にヒーローについて熱く語り始めるガイとそれを興味無さそうに聞いているオペレーターの子供。

その自分を無視して始まったガイのヒーロー像演説会だったが。その光景に、

「わしを無視して漫才をしてるんじゃない!なんで貴様らがそこにおる!!」

アズマ准将が切れて怒鳴った。だが、ガイもそれに負けずと叫び返す。

「宇宙軍が地球連合所有のコロニーに立ち入るのに問題無いだろう!!」

「ここはヒサゴプランの中枢だ!開発公団の許可は取ったのか!」

「そんなの知るか!!」

ナデシコの艦長は細かい事を気にしない性質ようだ。

「この間のシラヒメで、ヒサゴプランに関係するコロニーが爆発事故を起こしたのは連続で四回目。

 となれば、次に事件が起きるのもヒサゴプランに関係あるコロニーに決まってる。

 俺様の推理に間違いは無い!」

自慢げに自分の推理を語るガイだったが、実はムネタケ参謀に受けた説明を自分流に簡単にして語っているだけだったりする。

「【ヒサゴプラン】に欠陥など無いっ!!」

「俺が怪しいと言ったら怪しいんだ!」

「なんだと、貴様!」

だからと言って相手がそれで納得する筈も無く。二人は罵り合いながら、取っ組み合いに突入した。

流石にそれには、慌てて両方の部下が止めに入ったが二人の暴走を止める事は出来ず巻き込まれて乱闘模様になってしまった。

「艦長、止め…ぐべっ!!」 ズガッ!

「ストップ、スト…べびゅ!!」 ボグッ!

「准将、そこま…うぎゃ!!」 ドカッ!

「ゲキガンアッパァー!!」

「連合軍ストライクっ!!」 

 

ズドォォォン!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・バタン!

 

 

この乱闘騒ぎは仲裁に入った三人が早々と気絶した後、数時間の死闘の末にガイとアズマのダブルノックダウンで幕を閉じた。

その後、目を覚ましたガイはアズマ達の嫌がらせとして、子供たちと一緒にお姉さんとヒサゴンのわかり易いヒサゴプランの説明を聞いていた。

ヒサゴプランの説明を続けていたお姉さんだが、ボソンジャンプが出来る条件についての説明になると歯切れが悪く口篭る。

「ええ、ただしですね、今の段階では普通の人は使えないんですね。

 生身の人間がこれを利用するとですね、その…体をですね…」

「改造しちゃうんですか?」

「そ、そこまで露骨なものじゃなくて…」

子供の率直な質問に、ガイの方を窺いながらお姉さんが口篭っていると、

「ナナコさん、俺のことは気にするな」

ガイにナナコさんと呼ばれて、?を頭の上に浮かべていたお姉さんだったが、言われたとおりに気にせず説明を続けることにした。

「あ、えーと、今の段階ではボソンジャンプに生身の人間が耐えるにはDNAを弄らないとダメなんです」

「ええ!?」

「少佐、改造人間?」

子供達はお姉さんの説明に驚き、ガイに本当なのか確かめようとする。

それにガイは軽く笑うと、なんかよくわからないポーズを取りながら答えた。

「ふっ、そうだ。 俺様は正義の味方になる為に、自ら改造人間になったのだ〜!!」

「おぉ、すげぇ! じゃあさ、じゃあさ、少佐って変身したり出来るのか!!」

「残念ながら、変身は出来ん」

さすがに、変身はしないだろう。

「が、必殺技はある!」

あるんかい!

「だが、これは俺様も危険な状態になる諸刃の剣。 残念ながら、今お前たちに見せる事は出来ねぇ…」

「「えー」」

こんな感じで、子供たちとじゃれ合っていたガイだったが…

 

 

【 AKIRUY AKIRUY AKIRUY AKIRUY AKIRUY AKIRUY 】

 

 

突然、コロニー内のいたる所で大量にウィンドウが現れ、周囲が意味不明な文字で溢れかえる。

それを見たガイは文字に意味は理解できなかったが、自分の出番だと気付くと素早く見学用のカートに飛び乗り、

「ナナコさん、カート借りて行くぞ!!」

「だから、私の名前はナナコじゃ…」

お姉さんの訂正と了承を最後まで聞かずに、カートで土煙上げながら走り去っていった。

 

 

コロニー内が謎のウィンドウで混乱していた頃。

アマテラスの外では、アマテラスの守備隊である戦艦と機動兵器が豪雨の様な砲撃で敵を迎撃していた。

その砲撃の雨を受けているのは漆黒の機動兵器。それはシラヒメで目撃された幽霊ロボットと同じ物だった。

幽霊ロボットは迎撃してくる守備隊の攻撃を回避しようともせず、凄まじい速度で突き進んでいく。

そして、守備隊の奮闘も空しく。あっと言う間に、幽霊ロボットはやすやすと最初の防衛線を突破して行った。

 

 

管制室はこの突然の襲撃に慌しく対応していた。

「コロニーに近づけるな!弾幕を張れ!」

「肉を切らせて骨を断つ!!」

「な、何をおっしゃるのですか准将?」

「コロニー内及びその周辺での攻撃を許可する!」

「え?じゅ、准将。それではコロニーが…」

「飛ぶ虫も止まれば撃ちやすし!多少の犠牲はやむをえん!」

『おっしゃあ!』

『野郎ども、行くぜ!!』

『おう!!』

アズマがコロニー内での戦闘を許可すると、勇ましい掛け声と共に姿を隠していたエステバリス達が一斉に姿を現す。

それはスバル・リョーコ率いるライオンズシックル。

彼らは姿を現すと、幽霊ロボットに向かって一直線に突撃を開始した。

その中で一際目立つ真紅のエステバリス・カスタム。リョーコの駆るそれが次々にレールガンを撃ち放つ。

不意を衝かれた幽霊ロボットは、この攻撃は防がないと危ないと判断したのか動きを止めると。 なんと!こともあろうに幽霊ロボットはその弾丸を拳で打ち払った。

「なにぃ!」

全ての弾丸を打ち払い防ぎきると、唖然としているリョーコ達を無視してコロニーの奥に向けての進撃を再開した。

 

 

リョーコ達が幽霊ロボットと交戦を開始する少し前。カートで爆走していたガイは、やっとナデシコBに到着していた。

ブリッジ前まで乗ってきたカートを乗り捨て、艦長席に座ると指揮を執り始める。

「戦闘モードに移行してそのまま待機、当面は高みの見物といくぜ!」

「加勢はしないんですか?」

「ナデシコBは避難民の収容を最優先だ。どうせ向こうもお断りだろ」

「はぁ…」

『その通り! 今や統合軍は陸海空! そして宇宙の脅威をも打ち倒す無敵の軍だ! 宇宙軍など無用の長物!

 まっ、そこでゆっくり見てるがいいわ!がははははははは!!』

アズマは言いたい事を言って気の済むまで笑い終えると、いきなり通信を切った。

しかし、ガイは最初のアズマとの遣り取りが演技だったかのように一言も反論せず黙って真剣な顔をしていた。

そのアズマの挑発を気にもしないガイに、クルー達はまともな事も出来る艦長だったんだと見直していたが、

「それにな…、主役は遅れて登場するもんだ!!」

「強敵に倒されていく味方達…」

「そして其処に颯爽と現れるヒーロー。くぅぅ、燃えるぜ!!」

その後のガイの叫びを聞いて、一度でも見直した自分を恥じた。

 

 

コロニーの防衛隊であるエステバリス砲台フレームからの砲撃をものともせずに突き進んでいく幽霊ロボット。

この機体を止めることは、アマテラスの大戦力でも不可能だったようだ。

そして遂に、幽霊ロボットは自分の目標へ通じるゲートの前にたどり着いていた。

「敵、十三番ゲートに取りつきました」

「十三番?何だそれは?わしゃ知らんぞ?」

「それがあるんですよ、准将。」

「どう言う事だ!?」

「茶番は終わり、と言う事です。」

不敵な笑みを浮かべる男が見ているモニターには、ゲートを拳の一撃で粉砕している幽霊ロボットが映っていた。

 

内部に進入していく幽霊ロボットが破壊されたゲートを通って、リョーコ達はその後を必死に追いかける。

「まてー、このやろー!」

リョーコ達がゲートを通過したその時!

コロニーの内壁が開いて、そこから次々と白い泡のような物が吹き出した。

リョーコ機はそれを辛くも避けたが、他の機体はその泡に捕まり動きを封じられてしまった。

さっき泡はトリモチの様に粘着力が強い物質のようだ。

リョーコは捕えられた仲間の救出するを無事だった機体に任せ一人で追撃を開始したが、

追いついた時には、すでに幽霊ロボットの最終目的地に到達していた。

またもや幽霊ロボットの拳の一撃で吹き飛んでいく扉。

リョーコ機を通じて送られてくる映像を見ていたガイ達にもその先にある物が見えた。

広い空間。その中心に唯一つだけ、ぽつんと巨大な箱が置かれている。

 

 

「「あれは……」」

 

 

 

 

 

「なんだぁ、あの箱?」

「なんですかあれ?」

しかし、それが何なのか誰も知らなかった。

 

「箱の中に何か入ってるのか?」

「僕に聞かれても知りませんよ」

「こんな箱何に使うんだ?」

それが何なのかそれぞれ疑問を感じていると、

 

『それは人類の未来の為!!』

 

それに元木連中将、草壁 春樹が答えた。

沈黙の中、草壁中将は次の台詞のタイミングを計って、ガイ達が驚くリアクションを待っていた。

しかし、何時まで経っても反応が無い事に気付いた草壁が視線を向けると…

「サブロウタさん、木連の人ってこんな箱を集める趣味あるんですか?」

「そんな変人、居る訳無いだろ」

「何考えてんだろうな〜」

ガイ達は箱について議論を続けていて、彼に全く気付いてなかった。

 

『無視するな貴様ら!!』

相手にされていない事に気付いた草壁は額に青筋を立てながら叫ぶ。

その次の瞬間! それを合図にしたかのように飛んできた攻撃に気付いた、これまたさらに忘れられていた幽霊ロボットから警告の声が飛ぶ。

「そこの君!右だっ!」

リョーコ機に向かって六つの錫杖が飛ぶ。

何とか回避して致命傷は避けたリョーコだったが、機体の戦闘能力はほとんど奪われてしまった。

「ぐわぁぁっ!」

「うぬっ!」

動けなくなったリョーコ機を庇う様に、幽霊ロボットが間に入り、胴体上部のレールガンを連射する。

しかし、それは全て変則的な動きで飛び回る事によって回避され、敵機ダメージを与える事は出来なかった。

 

チリィ―――ン チリィ―――ン チリィ―――ン

 

そこに鈴の音が鳴り響き、箱の近くの空間に光りが現れると、その中から血に染まったような色をした機動兵器が現われた。

『一夜にて。天津国までの伸びゆくは、瓢の如き宇宙の螺旋……』

錫杖を投げてきた六機の機動兵器が、左右に三機ずつ降り立つ。

『娘の前で死ぬか?』

「…娘?」

 

謎の機体達が降り立つと、その広間に置かれていた何なのかよく解らない箱にも変化が起きた。

箱が光を放ち、輝きながら開き始めたのだ。

この場を見ている全員が見守る中、ゆっくりと箱が開かれていく。

その中には…

 

 

 

 

最初の箱より一回り小さな箱があった。

 

皆が沈黙し続ける中、その一回り小さくなった箱が開き出す。

そして、現れたのは…

 

 

 

 

また一回り小さな箱だった。

その後、そんな事が何度も繰り返された。

そして、皆がうんざりし始めた頃。 やっと終わりが訪れた。

一際大きな輝きを放つその中には…

 

 

何も入ってい無かった。

あれだけ期待させておきながら、箱の中には塵の一欠けらさえも存在していなかった。

 

 

「…………」

この事態には、草壁達でさえ沈黙してしまっていた。

「北辰…ユリカは何処だ?」

「……む、何処へ行ったあの女…」

中に居る筈だった人物がどこかに行ってしまった様だ。

敵味方両方共にどうすればいいか判断がつかず、まるで時間が止まったかのように場が硬直する。

……………

長い沈黙が続いていたが、しばらくしてやっとその場を動かす者が現れた。

「久々の登「本命の登場だー!!」

元気に叫ぶガイに台詞を邪魔された青いスーパーエステバリスのパイロットは、落ち込み肩を落としながらリョーコ機のアサルトピットを回収して離脱した。

そして、残ったガイは、

「おお!!いかにも怪しい奴が増えてる!!」

「だが俺様にかかれば、何人居ようが同じことよ!!」

「掛かって来い!キョアック星人!!」

一人で一気にヒートアップすると、ゲキガンカラーに塗装されたアルストロメリアでビシッと指差すポーズを決めた。

 

血の色をした機動兵器、夜光天。それに付き従う六機の機動兵器、六連。

それに対峙するは、所属不明の幽霊ロボットとガイの駆るアルストロメリア(ゲキガンカラー)。

張り詰めた空気が漂う、一触即発の場面。

 

だがしかし、シリアスな雰囲気はやっぱり続かなかった。

シリアスな空気を打ち破るように、中に何も入ってなかった筈の箱の中央に青い輝きが現れる。

そこに現れたのは…

 

 

「遅くなりました〜♪ ……って、あれ? 取り込み中ですか?」

 

しばらく前から行方不明になっていた、ナデシコ元艦長のミスマル・ユリカであった。

 

 

 

 

 

「艦長! 親父さんが心配してるぞ〜!」

このいきなりの登場に驚きながらも、ガイが父親が心配していた事を伝えるが、

「…お父様には心配しないでと伝えておいて下さい。 私はまだ帰れません……」

「目的を果すまでは!」

ユリカは何か固い決意を秘めたような真剣な顔でそう言い残すと、箱や北辰達と一緒に光となって消えてしまった。

 

ユリカが北辰達と共に光の中に姿を消し暫らくして、本格的にアマテラスの崩壊が始まった。

その後、ガイが崩壊から逃げてコロニーから脱出した時には、一緒に脱出した筈の幽霊ロボットはすでに姿を消していた。

 

 

 

 


 

地球の、ある食堂。

そこに寄り添うように座りながらお茶を飲んでいるある夫婦が居た。

夫は名は、他の未来で『漆黒の皇子』と呼ばれていたテンカワ・アキト。

妻は名は、同じく他の未来で『電子の妖精』と呼ばれていたテンカワ(旧姓ホシノ)・ルリ。

二人はランダムジャンプによって未来から過去に飛ばされてこの時代、この世界にやって来たのだ。

説明すると長くなるんで、詳しい事は前作『黒い悪魔』を読んでね。<マテ

 

 

この二人はここ数年、楽しくも忙しい日々を過ごしていた。

新しい環境に戸惑いながらの、育児、料理の修行(リハビリ含む)、自分達のお店の開店。

短い間しか一緒にナデシコに乗っていなかったのに、古い付き合いかのように強襲して来るナデシコクルー達の起こす騒動などなど。

 

しかし、その中でも一番大きな出来事は、結婚式だろう。

と言ってもこの二人の結婚式ではない。この二人は、ナデシコに乗ろうとする前に一応の結婚式は済ませている。

では誰が結婚式を挙げたのか?

それはこのアキト達とは別に、この世界に元々居たテンカワ・アキトとホシノ・ルリだ。

彼らは、ナデシコを降りた後。 この世界のホシノ・ルリを養子にしていた。

さらに、ナデシコを降りた後に行く所の無かったこの世界のアキトにも一緒に店をやらないかと誘ったのだ。

当然の如く起きる沢山の事件。まあ、それはまた別の機会があれば…

その中には、その二人を結びつけるような事件も多々有り。

そして数ヶ月前、ルリ(小)を賭けたアキト(父)とアキトとの壮絶な戦いの後、アキト(父)がやっとのことでお付き合いというか結婚を認め。

ルリ(小)が16歳になったその日、お役所に届けを出しこの世界の二人は夫婦になってしまったのだ。

この世界のルリとアキトが結婚した現在。 この世界の二人は共に、彼らにとっての可愛い義娘と義息子になったと言う訳だ。

同じ名前の人物が二組ずつ居るせいで、書いている作者も分からなくなってくるから困る(苦笑)

現在は、その二人は地球に居ない。 新婚旅行で月に行っているのだ。

その為、二人が帰ってくるまで人手の足りないお店は、時間を限定して開ける事になっていて。

そのおかげで、二人は久しぶりにのんびりとした時間を過ごすことが出来ていた。

「あの二人、今頃何してるかな?」

「まだ出発したばかりじゃないですか」

アキトの気の早い呟きに、呆れたようにルリが返す。

それに「そうだね」とアキトが笑って返し、再びお茶を飲みながらの二人だけの、のんびりした時間が過ぎていく。

「──新婚旅行かぁ…」

そんな時間の中、ルリが小さく呟いた。

実はこの二人。結婚式は子供が出来たとわかった時に行なってはいたのが、神父役オモイカネ、参列はラピス達だけという慎ましいものであった。

そして新婚旅行には、その後の蜥蜴戦争の時の準備やらなんやらが忙しく、行くことが出来なかったのだ。

そのルリの呟きに気付いたアキトが、

「やっぱり、行きたかった?」

と聞くとルリは、

「行きたくないと言えば嘘になりますけど…」

と、子供の事やお店の事を引き合いに出して無理に行かなくても良いと答える。

だが、アキトにはそれがやせ我慢しているのだと分かった。

このまま誘っても確実に拒否されると思ったアキトは、少し考えると、

「よし。じゃあ、やっぱり今度旅行に行こう。

 ルリには我慢ばかりさせてきたからね。少しはサービスしないと俺が捨てられそうだ」

と、冗談めかしながら強引に誘ってみた。

そのアキトの気遣いに気付いたルリはクスリと笑い。

「そうですね。それ位はしてくれないと、私も愛想尽かしちゃうかもしれませんね♪」

と、同じく冗談めかして返した。

その後、さっきの遣り取りに、二人とも可笑しくなったのか楽しそうに笑い始めた。

 

 

二人は笑いあった後、旅行に行くならどこに行くかで相談していたが、気付くとかなりの時間が経っている事に気が付いた。

「…あ、そろそろアキナ達を迎えに行かないと」

「今日は、俺が迎えに行く日だね。 行ってくるよ」

子供を迎えに行く時間になっていたのだ。

アキトは留守番をルリに任せて、子供達を迎えに出かけた。

 

 

アキトが幼稚園に着くと、子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。

彼は楽しそうに遊んでいる子供達の中から自分の子供を探そうと、園内を覗きこんだ。

しかし、探しても簡単には見つからず、しばらくそうしていると、彼が子供を迎えに来た事に気付いた先生が子供を呼んでくれる。

「アキナちゃ〜ん、ミホシちゃ〜ん、お父さんがお迎えよ〜」

その呼び声に、すぐさま反応した女の子が一人。父親と同じ色の黒髪を、リボンで纏めてツインテールにしている。

父親が迎えに来た事が嬉しいのか、満面の笑みを浮かべて、アキトへ向かって走り寄って来る。

「ぱぱ〜♪」

「…おっと、アキナはいつも元気だな」

大きな声で呼びながら走ってきた元気な女の子は、嬉しそうにアキトに跳びついた。

「良い子にしてたか? アキナ」

アキトも同じく嬉しそうに微笑みながら抱き止め、胸元に抱き上げながら問いかける。

「うん♪ あのね、あのね。今日、お絵かきしたの♪」

女の子はアキトの質問に元気良く答えると、今日幼稚園であった事や、自分がやった事を楽しそうに話し始めた。

それを嬉しそうに聞いていたアキトだったが、このまま一人で聞いていると後でルリが拗ねそうだ。と考えると、アキナが楽しそうに話すのをしぶしぶ中断させた。

「ほら、お話はお家に帰ったら、お母さんと一緒に聞くから、鞄を取っておいで」

「は〜〜い♪」

お父さんに言われた通りに、すぐさま鞄を取りに建物の中に走っていく娘の後姿を見ていたアキトは、

クイクイ

と服の背中側を引っ張られるのを感じた。 アキナを見送っている間に、誰かが後ろに近寄ってきていたようだ。

アキトが後ろへ振り向くと、ショートカットの女の子が。

母親譲りの綺麗な銀髪である下の娘が、おずおずと彼の服を引っ張っていた。

「おとーさん…」

「…ん? おお、ミホシか。 迎えに来たよ」

アキトが頭に手を乗せて撫でてやりると、気持ち良さそうにそれを受ける。

「ミホシは帰る準備は…もう出来てるみたいだね。 よし、いい子だ」

ミホシはすでに家に帰る準備を済ませていたようで、鞄を持ってきていた。

「えらいぞ〜」とアキトが褒めながら、ミホシの頭を撫でていると、アキナが元気いっぱいに走って戻ってきた。

それと一緒に、幼稚園の先生が見送りに出て来た事に気付いたアキトは、

「ほら、先生達にお別れの挨拶して」

と、二人にお別れの挨拶を言うように言う。

父親の言葉を受けて、アキナの方は元気に手を振りながら、ミホシの方は頭を下げながらと、それぞれ違う動きながらも、

「「さよ〜なら」」

姉妹らしく、挨拶の言葉は同時に言う。

「さようなら、また明日ね」

「お世話になりました」

そうやっていつも通りに、先生達との挨拶を済ませた三人の親子は、幼稚園を後にした。

 

帰り道。

アキトが自分の可愛い愛娘達に挟まれながら、それぞれと片手ずつ繋ぎながら歩いて行くと、帰り道の途中にある墓地の入り口に、ラピスが一人で立ち尽くしていた。

彼女は道の中心に立ったまま、何かをじっーと見つめている。

ずっと何かを見つめていたラピスだったが、アキト達が歩いて行って近くに寄ると、やっと気付いたのか振る返った。

「……あ、アキト。 お帰りなさい…」

「ああ、ただいま。 何見てたんだ?」

何を見ていたのか気になったアキトの質問に、ラピスは言葉では答えず墓地の奥の方を指で指し示す事で答える。

「ぱぱ〜、へんなひといるよ〜」

彼女の指差す方へ視線を向けたアキトが見たものは…

 

 

 

 

闇の様な漆黒の衣装を身に纏う、一人の男の姿だった!

 

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あとがき

長くなったので前後編。

後編はいつになるかな?<さっさと書けよ

 

 

 

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