私、天河瑠璃とアキトさんの過去のお話です

プレゼント』からの続きになるそうです


瑠璃とルリ

第15話


試験戦艦ナデシコB艦長天河瑠璃少佐、それが今の瑠璃の立場

正直、ネルガルで仕事をする事には、抵抗があったのだが、瑠璃がこの仕事を引き受けた事には理由がある

一つは『お金』

なんだかんだと、艦長職ともなれば給料もそれなりにある

夫のアキトも頑張ってはいるが、まだまだ、自分の店を出すには程遠い、やはり先立つ物が必要になってくる

それでも、お金だけの問題ならば、瑠璃ならば、その力をフルに発揮すれば左程問題なく稼ぐ事が出来るが、もう一つの理由

『1年半、ネルガルに協力してくれれば、オモイカネを譲っても良い』

こちらは、お金だけではどうにもならない

瑠璃にとって、オモイカネは、唯一の友人と言ってもよいような存在、正直、ナデシコを降りた後も、気にはしていたのだ

更に、ナデシコBは、あくまでも『試験戦艦』である事も、瑠璃がネルガルの依頼を引き受けた理由でもある

アキトは本当は反対だったのだが、『オモイカネ』を心配する瑠璃の気持ちを考えれば、反対もしづらく・・・

とはいえ

「はあ、失敗したかも・・・」

クルーから見られないように気を使いつつ、ため息をつき、アキトからプレゼントされた指輪を眺めている瑠璃

戦艦の艦長ともなれば、数週間下手すれば数ヶ月以上、自宅に帰れない事もある

『試験戦艦』とはいえ、1〜2週間程度ならば、自宅に帰れない事もある訳で

そんな憂いを帯びた瑠璃の表情を、こっそりと盗み見て頬を赤らめている少年マキビハリ


 


「艦長の旦那さんって、どんな人なんですかね?」

「なんだ、ハーリー、気になるのか?」

「だって、あの艦長の心を射止めた人ですよ、サプロウタさん」

マキビハリ、通称、ハーリー君は、今まで英才教育を受け続け、自分よりも優秀と言える存在に出会った事が無い、だからこそ、11歳と言う年齢で、ナデシコBのオペレーターなどが務まる

そのハーリーから見ても、瑠璃の能力はずば抜けていた

それだけならまだしも、瑠璃が時にハーリー相手に見せてくれる、優しさ、そして優しさ故の厳しさ

いつの間にか、ハーリーにとって、瑠璃は憧れ・・・というよりも、崇拝に近い程の存在へとなっている

その瑠璃の心を射止めた相手ともなれば、気にならない筈もない

サブロウタは、アキトに会った事はあるが・・・

正直、『冴えない旦那だな』ぐらいにしか思えなかった

・・・まあ、艦長程の相手が惹かれたぐらいなんだから、それなりに良い所もあるんだろうが・・・とは思うのだが

故に、ハーリーの質問への返答には困る

「いっそ、直接艦長に聞いてみればどうだ?、ハーリー」

サブロウタ自身も、多少は興味がある

「いっ、いえっ、だって、そんなっ(赤)」

「崇拝」にすら近い感情を持っているハーリーには、そんな事は聞きにくい

「なに、艦長の旦那さんの事、私も知りたいそれっ」

ブリッジクルーの女性が、目を輝かせて口を挟んでくる

なにせ、17歳という年齢で、試験戦艦とはいえ艦長職などに就いている瑠璃の男の事である、ただでさえ、ゴシップ好きの女性達の間で、噂にならない筈も無い

更に、17歳という歳で夫が居る等というのは、珍しい

最初、瑠璃が既に結婚している等と思うクルーは居なかったのだが、ふとした事でその事を知られて以来、艦内で噂は一気に広がった

瑠璃がなんらかの理由でブリッジから離れて居る時は、噂話の主役となる事も多いのである


 


・・・う〜〜〜、やっぱ行かせるんじゃなかったかも・・・・

一人、悩むアキト

「どうした、奥さん居なくて寂しいか?」

にやりと薄ら笑いを浮かべて話しかけて来る屋台の客

ちなみに、ここのお客たちは、『今、瑠璃が居ない事』は知っているが、『瑠璃が、戦艦の艦長』をしている事までは知らない

普通、屋台のラーメン屋の奥さんが、そんな事をしているなどとは、想像もしないだろうが

「いっ、いや、そんな事ないですよ、あはははははは」

乾いた笑いをかえすアキト

「俺なら、女房いなけりゃ、せいせいするって思いっきり羽目を外すぞ(にやり)」

と、また別の客にからかわれ

「いえ、とてもそんな気になれなくて・・・はあ」

とため息

「ほらみろ、やっぱ落ち込んでるじゃないか・・・」

からかう客

「いっ、いや、そんな事無いですって、あははは」

虚勢を張るアキトだが、どうみても空元気である


 


「で、宇宙軍の対外的イメージはどうだい?、エリナ君」

「会長の狙いも、ある程度は当たったようです」

落ち目の宇宙軍、落ち目のネルガル、人気挽回の為にはなりふりかまってはいられない

『最年少天才美少女艦長』

その『名』による広告効果

それは、確かにある程度の成果を上げている、と同時に

「でも、統合軍の方では、『あんな小娘まで利用しているようじゃ、宇宙軍もネルガルも、先は長くない』ってもっぱらの噂だそうですが」

淡々と、『事実』を報告するエリナ

「いや〜〜〜、ほんと、苦しいねえ」

ちっとも苦しくなさそうに、軽い口調で答えるアカツキ

「そんな風に思ってくれる人達『だけ』ならもっと苦しかったんだけどねえ」

皮肉げに苦笑いするアカツキ

「まあ、世の中には何にでも、まず疑いの目を向ける人が居ますし」

「エリナ君みたいにね(にやり)」

「ええ、私が特に信じられないのは、会長だったりしますから」

にっこりと、笑顔で切り返すエリナ

「やだなあ、エリナ君、僕は君にだけは、いつも本当の事を言ってるじゃないか」

「マジックでネタをばらす事がありますけど、ああいう時って、実はネタをばらす事自体がマジックの一部だったりします、会長の『本当の事』にはそれと同じにおいを感じますが」

「まあ、それはそれとして」

話を切り替えるアカツキ

エリナも、別に気にする風も無い

ネルガル会長アカツキナガレが、こういう男である事は解っている、解った上でエリナは秘書などを勤めているのだから

「ところで、天河君の屋台の方はどうなってる?」

「『天河特製ラーメンは、奥さんが居ないと少々味が落ちる』だそうです」

「なるほど、それはそれは、愛されてるねえ瑠璃君は」

にやりと薄ら笑いを浮かべるアカツキ

「相変わらず、悪だくみが好きですね、将を射ようと欲するなら、まず馬から射よ、ですか?」

「いや、一寸違うかな、僕は射ようとしてるんじゃなくて、『将と馬の両方が欲しい』だから」

どうも、このアカツキナガレという男は、天河明人という男を、どうみているのか解らない所がある

気に食わないと言えば、気に食わないのだろうし、それはアカツキの心の中で事実なのだろうが・・・・

わざわざ天河明人の為に苦労してやる事も多い

「まったく、天河君には苦労させられるよ、瑠璃君だって彼が居なければネルガルに留まってくれたかもしれんのに」

そんな事言いつつ、別に怒っているとか嫌悪感を感じているとかでもなく、なにか楽しそうなのだ

「で、何か変った事は?」

急に真剣な表情になるアカツキ

「今の所は何も」

「取り越し苦労であってくれれば、一番良いんだけどねえ、『最善を目指しつつ、最悪に備える』口で言うのは簡単だけど」

「『僕の知る限り、それを言葉通りに実現出来た例なんて見たためしが無い』」

アカツキの口調を真似て答えるエリナ

「そ、言葉通り実行出来るなら、今頃、落ち目の会長だなんて言われてないさ、僕だって目指してはいたんだ、目指しては(笑)」


 


ある種の理想主義者には、『現実』が見えない

『現実を少しでも良い方向へ』ではなく、『自分の頭の中の理想』を目指し、そこから外れているとなれば、『現実』が悪くない物でも、非難する

いや、『現実』が良ければ良くなって行くほど、『間違っている』という声が大きくなる事すら少なく無い

その手の人間にとって、『自分の頭の中の理想』通りに世の中が動いていないのに、『現実』が良くなるなど、あってはならない事、間違った事

そんな時、彼らは叫ぶ、『こんな物は本当の平和ではない』『政治が腐敗している』等々

だが、多くの人間は、『現実』の中で生きているのであって、理想の中で生きている訳では無い、一部の人間の『理想の押し付け』は、他人にとっては『地獄』となる事すらある

そんな事は、昔から言われて続けて来ている、それでもなお、『ある種の理想主義者』や、『その理想主義者の支持者』が絶えないの何故だろう?

どんな国のどんな時代のどんな政治体制にでも、欠点や失敗が皆無などと言う事はあり得ない

欠点や失敗は、出来る限り減らした方が良い、それは、言うまでも無い事、故に『欠点を指摘する物』は『正義』に見られ易い、そして、それは確かに、『一面の事実』である事は間違いないのだ

だが

『角を矯めて、牛を殺す』

これもまた、昔から言い続けられてきた諺の一つ

小さな欠点を直そうとして、かえって全体を駄目にしてしまう事を言う

『改革』によってかえっておかしくなって行った国も少なく無い、といって、改革すべき時に改革が出来ずに、潰れていった国も多い

『正義を信じる熱血漢、理想の為なら死ねる男』

『ただ、問題は自分にとっての理想が他人にとっても理想だと、固く信じている所』

元、木連の軍人の一人から、こう評された男

それが、草壁春樹という男


 


「ところでさ、エリナ君・・・・」

真剣に悩んでいる様子のアカツキ

「『最年少天才美少女艦長』は良いとしても・・・『最年少人妻艦長』っていうのは、『広告効果』として、どうだと思う?」

「それは・・・その・・どうなんでしょう?(汗)」

重い話から、いきなりそんな話に切り替えられても、エリナとしては返答に困る

「なんだか、ナデシコのクルー達には、ばれちゃったみたいなんだよ、一部の熱狂的瑠璃君ファンには、『瑠璃君の夫』は怨嗟の的なんだそうだよ(苦笑)」

「それは・・その・・・なんというか・・・」

「対外的には、瑠璃君が人妻って事は、隠しておいた方が良いのかねえ、ネルガルとしては(苦笑)」

どこか、楽しそうなアカツキであった

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過去編なんですが、どうしても、『天秤』と被ってしまう部分も出て来るんで困ってたりします

ちなみに、過去編を始めるのに、短編の瑠璃とルリ関連SSは、こちらの部屋に移転しました

短編の方も、実は、『瑠璃とルリ』と他の連載で、私の頭の中では、他のSSと共有する世界観での話とかもあるんですよ、今回、こちらに移したのは、『瑠璃とルリ』関連の話だと明記してある物だけですが

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