自分がこんなにずるい女だとは思ってもみなかった・・・・・・



火星の後継者のクーデターの後、私とユリカさんはアキトさんを追いかけ、そして再会

アキトさんは、連続コロニー襲撃犯とはいえ、その事は世間には公表されていない

だから、また、以前のように一緒に暮らす事も出来る・・・アキトさんの心さえそれを許せば・・私はそう思っていた

アキトさんの生存が公表されれば、世間の目はネルガルを疑う、火星の後継者のジャンプ実験では大量のジャンパー達が殺されているのに、都合よくアキトさんだけが、生きて発見されたと言うのは不自然過ぎる、だから、テンカワアキトは表向き死んだ人間にしておきたい、それがネルガルの意向だという

私とユリカさんはそれでも良かった、たとえ表向きは死んだアキトさんでも本当は生きている、以前と違う形になってもアキトさんと一緒にいられるのなら

後は、アキトさんの心の問題だけ・・・・・私はそう思っていた

けれど、破局は思わぬ所から訪れる・・・

「私は彼に抱かれた・・・」

エリナさんにそう告げられた

許せなかった・・・・・・ユリカさんという人が有りながら、エリナさんを抱いたアキトさんも抱かれたエリナさんも

火星の後継者との戦いの中、アキトさんの一番苦しい時を支えてくれたエリナという女性、そんな彼女とアキトさんが男と女の関係になっても、不思議は無いのかもしれない

アキトさんは苦しかったのだろう、それは解る、解ってはいる・・理屈では

それでも、湧き上がってくる怒りをどうする事も出来なかった

なのに、意外にもそれを許すと言ったユリカさん

私はあっけにとられた

一番怒らなければならないはずのユリカさんが?

強い人だと思った

だから、アキトさんはユリカさんを選んだのだと納得する事も出来た・・・その時は

でも、ユリカさんは『許す』事は出来ても『耐える』事は出来なかったのだ

何度かのユリカさんとアキトさんの世間の目から逃れた密会

最初の頃は、ユリカさんは喜びに満ち溢れていた、でも

アキトさんが自分以外の女を抱いた事実が、少しずつ・・少しずつ・ユリカさんの中で大きくなっていき・・・・・

何十回目の密会から帰って来た時・・・ユリカさんは泣いていた・・・・・

『アキトは何処かに行ってしまった・・今のアキトはアキトだけどアキトじゃない・・・・・』

ユリカさんにだって、アキトさんが辛かった事はわかっている、でも、だからこそアキトさんには、自分だけを見て欲しかったのだろう、辛い時だからこそ、それがユリカさんのとっての王子様というものだから

私は、そんなユリカさんを慰めた事が何回もある

それでも、二人の密会の数は減っていき、結局二人は別れてしまう

ユリカさんの悲しむと同時に、何処か清々としていた

もう、これで辛い思いをしなくても済むと

ユリカさんには、アキトさんの背後にどうしてもエリナと言う女性が透けてみえてしまっていたのだ・・・・彼女とアキトさんは、その時にはもう、完全に別れていたのに・・

私は腹がたった、エリナさんに文句の一つも言ってやりたかった、だから、ネルガルに押しかけた

アキトさんと別れるつもりだったのなら、わざわざそんな事を言う必要は無かったはず、何故、わざわざ私達にそれを言ったのか問い詰めた

「もう、あんな辛い想いはごめんよ、私は彼とよりを戻すつもりは無い、彼が私を抱いて居る時も、何時も彼の中にはミスマルユリカが居た・・・・その気持ちが貴方にわかる?」

「私だって、『女』だから、彼の一番苦しい時を支えたのは私だから・・・・私の苦しみの何分の一かでも、彼女に味あわせてあげたかった・・・今に貴方にも解る」

「解りたくありません」

「すぐに解るわよ・・・・・・きっと・・・」

背筋がぞっとするような薄ら笑い、エリナさんにはこの時にはもう、私が自分自身ですら気がついていない、いえ、気がつかないふりをしようとしていた想いを見抜かれていたのかもしれない

私は、怖くなってそれ以上エリナさんと話す事が出来なかった

次に私はアキトさんに会った

ユリカさんとアキトさんにはよりを戻してもらいたかったのだ、でないと私は・・・

「アキトさん、ユリカさんを追いかけましょう、ユリカさんだってきっと待ってます」

悲しそうに首を横に振るアキトさん

「もう・・・・・終わったんだ・・・俺達はお互いを苦しめるだけなんだ・・・・」

何を言っても聞き入れてもらえず、結局何も出来なかった私・・・

「また来ます・・・・・私は諦めません」

そうだ、私は諦めない、ユリカさんだってアキトさんだってきっと本当は・・・

でも、その後、二人とも頑なに会おうとすらしない、間に立った私は疲れ果てて・・・ある日

「もう、いいんだ俺達の事でルリちゃんが苦労する事なんてないじゃないかっ!!」

「ユリカさんじゃないと駄目なんです、私にアキトさんを諦めさせてください!!」

私はその時、自分が何を言ってしまったのか、気がついていなかった

「ルリちゃん・・・俺・・」

「ユリカさんだから、私の最初の家族だから諦める事も出来るんです・・だから・・」

その時の私は、多分泣いていたのだと思う

そのままアキトさんに抱きしめられ・・・そして、その日から私と彼は男と女の関係へと変わる

違う、私はこんな事を望んでいた訳じゃない

本当は、最初からこうなりたかった・・

違う、私はユリカさんとアキトさんにもう一度一緒に幸せになって欲しかっただけ、これは何かの間違い・・・

エリナさんへの怒りも、本当は彼女が羨ましかったから・・・

自分で自分を騙して来た私

今ならはっきりと解る、結局、私の心はアキトさんを拒む事が出来なかったのだから

破瓜の痛みにすら喜びを感じて、彼をしっかりと抱きしめてしまったのだから・・・・

その後、自己嫌悪を感じながらも、アキトさんに抱かれて歓喜の声を上げるようになっていく私

私は本当にずるい・・・

ユリカさんやエリナさんの方が、私よりも純粋だったのかもしれない、だから、アキトさんと一緒に居られなかったのだ、でも、私はずるい女だった

そして、何時の間にかアキトさんに抱かれた事を隠して、平気な顔でユリカさんに会えるようになっていた私

『自分の男』を『他の女』に取られたくない・・・私はアキトさんの話を極力避けるようにすらなっていく・・・エリナさんの薄ら笑いの意味が、今なら解る・・・・・

その後、エリナさんとユリカさんが結婚して家庭を持った時・・私は、心から祝福した、これでもう、『自分の男』を取られずに済むと

二人の結婚の話をアキトさんに話した時、私は残酷な笑顔で彼を見ていたと思う・・・

『今はもう、あなたは私の物』と

最近思うことがある

私はエリナさんの復讐の道具に使われたのではないか?

考えてみれば、彼女ほどアキトさんの為に尽くしていながら報われなかった人も居ない、だから、心の奥底ではアキトさんとユリカさんを憎んですらいたのかもしれないのだ・・・・

そんな彼女だからこそ、アキトさんの心の一番深い部分を占め、ユリカさんも、それを見抜き、だからこそ恐れて・・・その影に耐えることが出来なかった・・・

そして、私が・・・ホシノルリがアキトさんの事を『家族』ではなく『女』の目で見ている事に気がついたからこそ、彼女は自分がアキトさんに抱かれた事を私達に告げた・・・・こうなる事を望んで

『家族』で有るはずの私が、ホシノルリがミスマルユリカからテンカワアキトを奪う事になれば、ユリカさんから全てを奪う事が出来るから・・・・

・・・・考え過ぎだろうか?

おそらく考えすぎなのだろう、それでも、あの時の彼女の薄ら笑いを思い出すと、どうしてもそう思えてしまう時があるのだ

でも、もし、私の考えの通りだったとしても、彼女を非難したりは出来ない、私だって同じ立場ならやったかもしれない事、いや、もっと狡猾にアキトさんを奪い取っていたのかもしれない、今の私はむしろ彼女に感謝すらしているのだから

エリナさんに比べれば、私なんて運が良かっただけだろう、でも、それでも構わない、私はアキトさんを愛しているし、アキトさんは私を愛してくれている、その結果さえあれば

私は、ずるい女なのだから・・・・

このまま次の短編へ進む

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後書き

一応、劇ナデアフターで、あり得るかもしれない話にしてみたつもりなんですが、どうでしょう?

劇ナデでのエリナとアキトの関係って、公式というよりも、半公式設定で無かった事にしてもいいんですけど、この話では有った物として扱いました

エリナとの事って、アキトがいい加減な男って事じゃなくて、『アキトがどれだけ辛い思いをしてきたか』の象徴だと思うんですよね、だから有ったとしても違和感は感じないし

どうも、ユリカ派の『劇ナデのアキトはユリカ一筋』とかの言い分に反発を感じるんです、私

エリナとの対比でユリカ派の言ってる事を見ると、『何、甘い事言ってるのやら』って気分になる事があるし

エリナって、自分と男と女の関係になったアキトが別の女を救い出す為にボロボロになって戦っているのを支えてるんです、凄く辛い思いをしてると思いません?

そんな女性を平気で見捨てられるんですか?、『ユリカが好きになったアキト』って男は?

劇ナデアフターで、ルリ×アキトにする気なら、正直ユリカよりもエリナの方が怖いです

私の中で、ルリ×アキトはあくまで『好み』で、『劇ナデアフターで納得が出来る』のは、ユリカ×アキトやルリ×アキトよりも、エリナ×アキトの方ですから、b83yrのSSなんで『好み』でルリ×アキトになりますけどね

ユリカの事は嫌いじゃないけど、エリナあたりと比べれば『甘い』と思いますよ、私は


この作品は、らいるさんとぴんきいさんのHP、『そこはかとなく存在してみたり』内の企画、festa-sokohakaの参加作品です

festa-sokohakaは残念ながら2005年の3月いっぱいで閉鎖ということになりました

追記(04/05/09)

やりたかさんより、関連SS、『わな?』を投稿していただきました

この話の雰囲気を壊したくない人は、読まない方が良いです(苦笑)

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