あなたは長い旅をしていたとします。
熱い日差し。
足はぱんぱんに張り、喉もカラカラ。
ふと見ると涼しげな木陰がありました。
大きな木の下には他にも旅人が居て、楽しそうに談笑しています。
貴方も木陰に入って腰を下ろしました。
喉を潤し汗を拭き、他の旅人達との楽しい談笑。
時が流れるのも忘れるほど楽しい話。
貴方は十分に休息できました。
暗くなったら危険が増します。
また先に進まなくてはなりません。
でも。
貴方はすぐにその場を離れることが出来るでしょうか?
機動戦艦ナデシコ2次SS
ダンシング・イン・ザ・ダーク
第22話 「休 暇」
ナデシコクルーは未だ長期のボーナス休暇中。
ずいぶんと長期であるが、彼らはそれだけの働きをしたというのが表向きの理由。
裏の理由としては、初の連続ボソンジャンプを行ったクルーの身体的影響やナデシコ本体への物理的影響を徹底調査したいネルガルの意向があった。
ネルガルの最重要課題であるボソンジャンプを見事成功させたクルーとナデシコは、研究スタッフにとっては最も貴重なサンプルである。
だからクルーには3日に1回の生体チェックとサンプル採取(血液、毛髪など)が義務付けられているが、基本的に休暇は休暇である。しかしながらナデシコクルーは半軟禁状態であった。
行動に制約が有るわけではないが、何処に行くにもネルガルの監視の目が光っているような状態。
特にサセボシティ内から出ることは禁止されている。ある意味それは当然だろう。
彼らは木星蜥蜴の秘密を知っているのだから。
クルーに気付かれることなくネルガルは常に彼らの行動を監視していた。
まあ基本的にクルー達は脳天気なのでそんなことは気にせず、遠出も面倒なのでサセボのあてがわれた宿舎近辺でぶらぶらしている者が多かった。というわけでアキトも雪谷食堂に住み込みで働いていた。
この機会にサイゾウの元で修行するという目的はもちろんだが、ここに引き取られたアイがなじむまで一緒にいてやりたいという気持ちもあったからだ。
ちなみにホウメイ達はナデシコが完全ドッグ入りしているのでドッグ内の食堂を占拠し、活動している。
アキトも手伝うと申し入れたのだが、「お前さんはアイちゃんに甘えさせてやんな。
また会えなくなるんだからさ。」というホウメイの一言で却下され、有りがたく受け入れることにした。
ルリも当然のように雪谷食堂に住み込んでいる。
ここは自分の帰る家だと思っているので。
ちなみにユリカと同室だ。
ユリカも当然のような顔をして雪谷食堂に住み込んでいる。
本来ネルガルの社員であり艦長であるユリカにはそんな真似は出来ないはずなのだが、どういう交渉をしたのかあのプロスペクターをも押し切ってしまった。
まあ、実際長期休暇中なので問題はない。明るく器量よしのユリカと、小さいながらも一生懸命なルリ、ルリの後をちょこちょこついて歩くアイ。
いきなり3人の看板娘を抱えた雪谷食堂は大いに繁盛したという。
そんなある日。
「ヤマダさん、私たちの方が先約なんです。
おとなしく諦めてください。」ルリがジト目で冷たく言えば、
「ダイゴウジ・ガイだ!!
男同士の約束を、たかが女の為に破らないよなぁ?アキト。」ガイは燃え上がる目で熱く呼びかける。
ルリとガイ。
凡そ共通点のないこの二人の仲はすこぶる悪かった。ルリにしてみると、ガイは「いい歳してなにやってんの、このバカ」としか思えない。
確かにパイロットとしての腕は超1流。
だが、毎回毎回アキトを巻き込んでバカをやるガイが、ルリには許せなかった。
ルリにとってガイは、理解できない異様な生き物であり、正直関わりたくない。
しかしその生き物がアキトの周りを徘徊している。
ルリにとってガイは天敵であった。ガイにしてみると、ルリは「クソ生意気なチビ餓鬼」であった。
アキトやヒカルのお陰で漸く定着してきた「ダイゴウジ・ガイ」という名前も、この餓鬼だけは頑なに呼ばない。
いつもすましきった顔で、餓鬼のくせに1人前のことばかり言う。
たまにはり倒してやりたくなるが、年下の小さな女の子に手を挙げることは、ガイの男としてのプライドが許さない。
憤懣やるかたないが、苦手な?口げんかを繰り広げざるを得ない。接点がなければお互いに見向きもしなかっただろう。
しかし不幸なことにこの2人には接点が存在した。
アキトという接点が。
ルリにとってアキトは大切な人。
ガイにとってアキトは親友。
そしてルリとガイの利害はほぼ確実に一致しない。
だからこの二人は、いつも些細なことでも衝突してきた。
この二人は、客観的に見ると「一人の男を少女と男が取り合っている図」というのがどれくらい異様かという事には全く気が付いていない。ちなみに今回の事は、全面的にアキトが悪かった。
ルリやユリカとサセボ・ビーチで遊ぶ約束をしていたのをうっかり忘れて、ガイと遊ぶ約束をしてしまったのだ。
本来責められるべきはアキトである。
そして、本来ならルリもガイも事情を聞いて身を引く位はわきまえている。しかし、お互いの名前を聞き、顔を見合わせた瞬間そんなことは吹っ飛んだ。
「またやってんなぁ・・・・・・」
奥から騒ぎを聞きつけサイゾウが出てきた。
「ハハハ・・・・・・」
タラリと汗をかきながら苦笑するしかないアキトとユリカ。
「ルリちゃんったら、どうしてガイさん相手だとあんなにムキになるのかしら・・・・・・」
ユリカには不思議であった。
「やっぱり、相性が悪いんだろうなぁ・・・・・・」
アキトがため息をつきながら答えると。
「ばっかやろう、よく見ろ。
ありゃ、喧嘩友達ってやつだよ。」サイゾウがアキトの頭を小突きながら言った。
「「ええ?まっさかあ〜」」
アキトとユリカは信じなかったが。
その間にも二人の口げんかは続いていた。
「いいからここは大人の言うことを聞け!
このチビ餓鬼!」ガイが言えばルリも負けじと、
「餓鬼じゃなくて、私、少女です。
大体いい歳して漫画なんかに夢中になってる人が大人なんですか?」と言い返す。
「なんだと!
このドブスチビ!!」エンドレスで続くかと思ったその時。
「すきあり!!」
ガイがアキトをかっさらって、走り去って行った。
「何考えてるんでしょうか、ヤマダさん。
あれじゃ、悪人ですね。」呆然と見送りながら呟くルリ。
「ダイゴウジ・ガイだ〜!」
遠くからガイの訂正が響いてきた。
「しょうがないよ、ルリ姉ちゃん。
あたし達だけで行こう♪」アイに手を取られ、
「そうですね・・・・・・」
疲れたようにルリも頷いた。
「ガイ、お前なぁ!」
さらわれたお姫様ならぬアキトは、ガイに文句を言う。
「いやあ、わりいわりい。
なーんかあの餓鬼相手だとムキになるんだよなぁ。」そういって頭を掻きながら笑うガイ。
「ルリちゃんはルリちゃんだ。
餓鬼餓鬼言うなよ。」アキトがたしなめるがガイは気にしない。
「気にすんなって!
それより、ついに見つけたんだよ、あの幻のロマンアルバムを!」「まじ?
そいつは燃えるぜぇ!」男達は相変わらずバカだったようである。
そんな日々の繰り返しで休暇は終わる。
「本艦はこれ以降、宇宙軍に協力して地球の失地回復を図ります!」
ウインドウには久々に凛々しいユリカが写っている。
艦内放送で意思確認をしているのだ。ネルガルは軍との蜜月を築くべく、軍に対する全面協力を申し出た。
ライバルであったクリムゾンの没落後、ネルガルに対抗できうる企業は居ない。
相転移エンジンという切り札を持つネルガルは黙っていても収益の上昇が見込める状況ではあるのだが。「ここで黙ってみているようなら僕は経営者失格だよ。」
とはアカツキの弁である。
『ユニット』量産によって宇宙軍はなんとか木星蜥蜴に対抗しうる力を得た。
徐々にではあるが地球の失地は回復してきている。
チューリップから無限とも思える兵器を送り出す木星蜥蜴だが、チューリップを破壊できれば以降の増援はない。
その肝心のチューリップの破壊を成し得る武力は『ユニット』によって得ることが出来た。
この段階でネルガルの技術力に対する評価はストップ高を記録するほどになっている。後は企業イメージだろう。
ナデシコを始め軍に貸し与えているコスモス・シャクヤク・カキツバタにはデカデカとネルガルのマークが描かれている。
そのネルガルマークの船が苦戦している戦闘宙域に現れ、その途端に膠着していた戦況が有利になる。
戦場の兵達にとっての希望となり、心の支えとなりうるネルガルマーク。
アカツキは各ナデシコ級戦艦の戦歴を見て、そういったイメージ戦略を思いついた。
地球で、空を埋め尽くさんばかりの木星蜥蜴の襲来。
暗くなった空、怯える子供達。
そこに現れた白亜の船が、あっという間に木星蜥蜴を殲滅する。
明るくなった空を見上げれば、そこには輝くネルガルのマーク。
宇宙、圧倒的に不利な戦況。
その艦も被弾し、それでも最後まで戦おうとする兵士達。
そこに。
暗黒の虚空を切り裂く1筋の光。
その光に飲み込まれ、破壊されていく木星蜥蜴。「なんだ?何があったんだ?」
振り向けばそこにはネルガルマークの船。
エリナの発案で作られたこれらのTVコマーシャルは大成功を納め、ネルガルの評価を大いに高めた。
この高い評価を維持し高めるのは企業として当然であろう。
そのためにナデシコにも軍への協力活動が命じられた。無論当初の契約とは異なるためネルガルと全クルーとの再契約が薦められ、全員が再契約した。
「よーし、それじゃ気合い入れてくぞ〜!!」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
整備班も久々に円陣を組んで気合いを入れていた。
「さあて、これからまた頑張るよ、みんな!」
「「「「「「はあ〜い!」」」」」」
食堂もホウメイ以下活力にみなぎっている。
そしてパイロット達も。
「ふはははははっ!
長い沈黙を破り、再びオレ様の活躍の時が来た!」ふんぞり返り高笑いするガイ。
「オメーばっかりにデカイ顔はさせねぇからな!
それとうるせえから無意味に笑うんじゃねぇ!」とガイに詰め寄るリョーコ。
そのリョーコを、「まあまあ、リョーコ。
言っても無駄なんだから。」と笑顔でなだめるヒカル。
そして。
「いよいよカツヤ君の順番が来た。
カツヤ君の時・・・・・・
活躍の時・・・・・・
プッ、くくくくく・・・・・・」イズミのお約束。
はあ〜・・・・・・
他の3人はため息を付くしかなかった。
そしてアキトは。
周りのクルーが生き生きと動くのを見て、1人複雑な表情をしていた。この休暇中、アキトは料理人として充実した日々を過ごした。
むろん日々の訓練は欠かさない。
すでに習慣になっているのだから。
しかし完全な休暇中、決してスクランブルなど無いという条件下、アキトの心は次第に料理一筋になっていった。ふと思った。
こんな日々がずっと続けば良いと。
ルリちゃんやユリカやアイちゃんやサイゾウさん、他のみんなと、ずっと、ずうっとこうして暮らせていけたら。
家族が居る充実した暮らし。
その幸せはいつしかフクベへのやるせない怒りすら癒し、たまにはみんなと一緒にフクベとも酒を飲むまでになった。
何時までも続いて欲しい幸せの日々。
その終わりは予定通りであったのだが、アキトの心に迷いを生んでいた。夜。
休暇中のいつもの癖で、アキトの部屋にユリカとルリが遊びに来ていた。
お菓子をつまみながらのいつものおしゃべり。
ユリカはいつものように多くを一人で話し、ルリも以前と比べてかなり積極的に話すようになった。
昨日までならアイも居た。
サイゾウもなんだかんだ言いながら、酒を片手に顔を見せに来たりした。
家族が居て、家族に囲まれた生活。
大切な人たちとの、当たり前の生活。
アキトにとっての憧れ。夢。
だから夢から覚めた今も、気持ちが夢から抜け出せないでいた。これまでアキトは息もつかずに全力疾走していた。
予想もしなかった故郷の崩壊、「夢」に突きつけられた未来。
その否定のため、そして自分の夢であるコックになるため、ただ前だけを見て走っていた。
しかし。
長い休暇は、アキトについ後ろを振り向かせた。
振り向いた先には、雪谷食堂での充実した幸せな日々。
あそこに戻りたい。
あそこにいては駄目だったのだろうか?
・・・・・・どうして俺はまたナデシコに乗ったんだろう?
どうして俺はここに居るんだろう?
自分でも解っている。
でも、その想いは振り払えない。
そして、何故振り払わなきゃならないのか、とも考えてしまう。再び始まったナデシコでの日々の中、アキトの心は虚空を彷徨っていた。
もう一つ理由がある。
火星から戻って来て以来、アキトはぱったりと「悪夢」を見なくなっていた。
非道いときには毎晩の様に見ていたあの夢を。
それが何故かは解らないが、その結果アキトに以前のようながむしゃらさが無くなったのは仕方ないことなのかもしれない・・・・・・
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<あとがき>
うーん、凄い久しぶりのDDですね〜(笑)
ちょっと他のことに夢中になっていたので書くのを忘れてました(おい)ルリとガイのからみについては、チャット中に朴念仁さんにアイデアを頂きました。
朴念仁さん、感謝です。近々スタイルシートを用いた大がかりな書式変更も予定しています。
IE5以降なら問題ないはずですので、旧バージョンのIEを使われている方はバージョンアップをお薦めします(マイクロソフトもIE4以下のサポートは止めたようですから。)
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