人と人とが解り合うというのはどういうことだろう。

全くの他人。
いや、それが親子兄弟であっても、真実相手を解ることなどは出来はしない。
自分はあいつのことを解っているというのは自惚れに過ぎず、下手をすると手痛いしっぺ返しをくらう。

しかし、それでも。
お互いに解り合ったと思える瞬間が確かに存在する。

それは、お互いのことを認め合った瞬間なのかもしれない。


機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第21話  「白 鳥」


 

軍隊において強兵とはなにか?
端的に言えば敵に勝てる兵士のことであろう。
では、敵とは何か。
直接的には敵軍の兵士であるが・・・・・・
敵の兵士しか見えない軍隊は必ず敗北する。

常勝のナポレオンが敗れたのはロシアの極寒の気候であった。
赤壁の戦いで魏武(曹操)は自軍の疫病に破れた。
北条家が滅んだのは己の城に対する過信であった。

戦場において敵となるのは敵兵だけではない。
地形、天候、飢え、疫病、望郷の念・・・・・・
ありとあらゆる物が敵となって兵を苦しめる。
それらに打ち勝つことができる兵を強兵と呼ぶ。

軍隊の訓練とは強兵を養うためのものである。
従って如何に宇宙時代といえどもそのための訓練は残っていた。
パーティを組んでのサバイバル訓練もその一つである。

例えば宇宙船での戦闘において、隔壁に穴があけば空気が無くなり中の人間は死ぬ。
生命維持装置が故障した場合も同じである。
しかし、1撃で爆発四散しない限りは生き残る可能性は残っている。
そのとき、パニックを起こした物はそのチャンスを物にできない。
冷静に、己の取りうる手段を取捨選択しなくてはならない。
訓練とはその行動のための物である。



「くそったれ!」

月臣は荒れていた。
それはそうだ。
今現在一番気に入らないヤツと、この10日間のサバイバル訓練を組まされたのだから。
厳正なるくじ引きの結果なので誰に文句を言えようはずもないが、面白くない。
10日間、採掘が終わり廃墟となった無人コロニーにて訓練を受けなくてはならない。
教官たちの仕掛けたトラップに神経をすり減らされることは確かだが、それ以上に神経をすり減らすのは、この男=白鳥九十九と一緒だからだ。

「どうした?
月臣君、もう疲れたかい?」

「なんでもねえよ!べらぼうめ!」

すでに3日目。
なぜだか貯まるイライラは月臣の中で爆発寸前だった。

「そうか。
でもここで休もう。」

「なんだ、白鳥。
おまえの方が疲れたんじゃないのか?」

月臣は嫌みったらしく言ったつもりだった。
しかし、

「あはは、実はそうなんだ。」

あっけらかんとそう言って笑う白鳥を見て、よけいに腹が立った。



そしてその晩、月臣は爆発した。
きっかけは実にくだらないこと ―――カレーライスにソースをかけるかかけないか―――であった。
その日の夜は久々に安全圏(広いコロニーの中に数カ所のみ安全な場所が設けられている。安全な場所を見極め、休むのも重要な訓練であるからだ)でのキャンプとなり、火を使った暖かい物を食べることとした。月臣がカレーを作り、白鳥がご飯を炊いた。

「いただきまーす。」

そう言って白鳥は・・・・・やおらソースをカレーにかける。
それも、結構ジャバジャバと。

「おい」

剣呑な目で月臣が言う。

「なにをしている?」

白鳥の方は至ってのんきに、

「ああ、これ?
こうするとうまいんだよ。」

とカレーをパクつく。

「お前、俺の味付けに文句が有るってのか?」

そう言って月臣は白鳥に殴りかかった。
些細なことだとは思わないでもない。
だが、イライラの限界に達していた月臣は、どんな些細なきっかけでも爆発したかった。

「この野郎、この野郎!」

 こんなヤツは一回痛めつけてやれば化けの皮が剥がれるんだ。
 もう数発も殴ってやれば、許しを請うか逃げ出すか・・・・・

月臣は喧嘩で負けたことがない。
唯一引き分けたのは秋山だけだ。
その自信と経験が、月臣にそう確信させていた。
しかし。

バキッ

いきなり左の頬に強烈なのを喰らい、月臣は吹っ飛ばされた。

「なんだか良くわからんが・・・・・僕は売られた喧嘩は必ず買うんだ。」

白鳥はそう言って、月臣に殴りかかる。

「てやんでぇ! このやろう!!」

月臣も引く気はない。
殴り、蹴り、吹っ飛ばし・・・・・
お互いがぶっ倒れるまでその喧嘩は続いた。



「・・・・・・よお・・・・・・」

「・・・・・・なんだ?」

「なんで俺たち、喧嘩なんかしてんだろうな?」

「さあな・・・・・・」

二人とも仰向けに倒れ、星を見上げながらそんなことを話す。

「・・・・・・ククク・・・・・・」

「ハハハハハハ・・・・・・・」

なにかおかしくなって、2人で大笑いした。
笑うたびに口の中や腹や、とにかくあちこち痛んだが、今はそれすら心地よかった。

「ぐっ・・・・・・」

月臣はなんとか起きあがると、白鳥に頭を下げた。

「すまん。」

「いてて・・・・」

白鳥も起きあがり、

「お互い様さ。」

そう言ってまた笑った。

「だがな、白鳥。
お前、ソースをかけすぎだと思うぞ。」

月臣がそう言うと、白鳥も照れたように、

「ユキナにもいつもそう言って怒られるんだ・・・・・・」

そう言って頭をかいた。

「ユキナ?」

「ああ、妹さ。
まだ小学3年生なんだけど、一人前の事ばかり言っててさ。
しょっちゅう怒られてる。」

優しげな目で妹を語る白鳥。
一昨年両親を事故で亡くしたこと。
それから白鳥が妹の面倒を見てきたこと。
家や多少の財産は有るが、妹のために残しておきたいことと、なにより父が守ったこの木連を守りたくて幼年士官学校に入ったこと。

聞いていて月臣は恥じた。
自分はずいぶんこの男のことを誤解していたんだと。

「でもな。」

白鳥の言葉に我に返る。

「妹は、元気なのは良いんだが・・・・・・」

「元気が一番だろ?」

月臣は軽く返したが・・・・・・

「馬鹿を言うな!」

白鳥に怒鳴られ、目をパチクリさせる。

「仮にも木連の婦女子なら!
ナナコさんのように淑やかであるべきではないか!!」

「・・・・・・」

「どうだ?
お前はそうは思わないのか? 月臣!」

月臣はフラフラと立ち上がり、白鳥に歩み寄り。
その手をしっかりと握った。

「お前・・・・・・
お前もナナコさん萌えなんだな?!」

「いやしくも木連の漢なら当然!!
って、お前もなんだな?」

「あったりまえよ! べらぼうめ!!」

ガシッ

「「同志よ!!」」


・・・・・・漢たちは解り合えたのだった。



5日後、肩を組み、

「もう少しだ、元一朗!」

「合点だ、九十九!!」

無二の親友となってコロニーを出てきた2人を見て、秋山は苦笑した。

「・・・・・・やっぱりなぁ・・・・・・」



その後この3人は無類の絆で結ばれ、木連の三銃士と呼ばれる。
特に月臣と白鳥の絆は深く、あうんの呼吸で行動し、周りを絶句させる成果を上げた。
リーダー格であり兄貴肌の白鳥、クールを装うが人一倍熱血の月臣、冷静で緻密な秋山。
奇しくも聖典ゲキガンガー3の主人公達にそっくりな彼らの容姿もあり、木連の期待は彼らに集まった。

 憎き地球人どもを打ち倒す日も近い!

彼らの台頭は木連の人々にそんな夢を見させ、熱狂させた。
しかし、周りの期待は、あくまで『周りの』ものである。
彼ら3人ともに、それぞれの青春のまっただ中であった。

『ああぁぁあぁぁぁあ!』

女性の色っぽい悲鳴が九十九の部屋に響く。

「「「うおおおおお!!!」」」

同時に男達3人のむさ苦しい歓声も響いた。
彼らは今日も九十九の部屋に集まり、愛するナナコさんの映像を見ている。

「ああ、た・・・・・・たまらーん!!」

鼻血を垂らしながら秋山が叫べば、

「ナナコさああああん!」

涙を流しながら画面のナナコを応援する九十九。

「・・・・・・」

ひたすら食い入るように画面に見入る月臣。

全木連の期待を集める彼らだが・・・・・・今のこの様子を見れば全木連人が諦めるだろう。
現に、彼らのこういう姿を見続けた九十九の妹、ユキナは。

「いい歳して、マンガばっかり見て。
ばっかじゃないの?」

と、すっかり男性に醒めてしまっている(その割に重度のブラコンであるが)。
小学校高学年と言えば微妙なお年頃の始まり。
身内の男性に対する評価も辛くなる頃である。

「お兄ちゃんも、マンガじゃなくて本物の彼女作れば良いのに。」

兄がモテまくることをユキナは知っている。
兄だけではない。
あの3人、全員がそれぞれにモテまくる。
お兄ちゃんと、お兄ちゃんの彼女と、一緒に手を繋いで買い物に行く。
それがユキナの夢。

「でも、あれじゃあ、ねぇ・・・・・・」

もちろん現実に九十九が彼女を見つけたとき、重度のブラコンの彼女がどういう行動に出るのか・・・・・・
本人は暖かく祝福するつもりではいるらしい。

幼くして両親と死に別れたユキナにとって、家族とは九十九のことである。
今では、月臣や秋山も家族みたいなものであるが、とにかく九十九の背中を見てユキナは育った。
兄は優しく、たくましかった。

「あたし、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!」

そう言って兄に抱きついた幼い日のユキナ。
何とか兄を助けようと、2年生の時から台所に立った。
焦げたり生焼けだったりした初めての料理を、それでも嬉しそうに兄は食べ。
・・・・・・翌日腹痛で寝込んでしまった。
それでも兄は自分の料理を誉めてくれたので、その後も台所に立ち、今では白鳥家の家事一切をユキナが取り仕切っている。

「あ〜あ、お姉ちゃんが欲しいな。
お姉ちゃんが居たら、一緒にお料理とか出来るのに。」

そんなことをぼやきながら、ユキナは今も4人分(おそらく泊まっていくだろう月臣や秋山の分も含めて)の夕飯を作っていた。

「早く3人に彼女を見つけて貰わないとね。」

従ってユキナは彼ら3人の身だしなみには非常に口うるさい。

「ほらお兄ちゃん!髪がボサボサよ!」

「元一朗!ハンカチは毎日替えなさい!」

「秋山さん!ヒゲのそり残しがあるわよ!」

3人共に小学生のユキナには頭が上がらず、

「なあ、九十九・・・・・・」

「なんだ?」

「ユキナちゃん、元気なのは良いんだけどな・・・・・・」

「・・・・・・だろう?」

結果として3人共に、より一層ナナコさんに傾倒していったという。
ともあれ、この4人は仲良く、幸せに暮らしていた。



家の中では間抜けな3人だが、外では流石に木連の希望である。
順当に士官学校を卒業した彼らは、順当に軍に編入され。
草壁少将の直属の部隊に配属された。

「おい、元一朗・・・・・・」

秋山が声をかけようとするが白鳥がそれを制する。
月臣は辞令を手にしたまま、全く動かない。
それが何故かか解らない2人ではない。

「・・・・・・そうだな。」

2人は月臣を残して離れていった。

「あいつの人生目標の1つが叶ったんだもんな。」

月臣は歓喜に打ち震えていた。

  やった!!
  オレはついに閣下の元に来れたんだ!!

  どん底の少年時代、草壁閣下を知らなければオレはどうなっていただろう?

  やっと夢が叶った!!!

  よし、これから閣下の元でオレはやるぞ!

たった1枚の辞令。
しかし月臣にとっては万感の思いがあったのだ。

「・・・・・・あれ?
そういえばあいつら・・・・・・」

気が付けば自分以外誰もいない。

「ちっ。
気を遣いやがって。」

なにやらこそばゆいが、これこそが自分の守るべきものだと月臣は思った。



3人は新設された草壁直属のエリート部隊、「優人部隊」の幹部候補生となった。
秋山は実働部隊の指導力に卓抜した能力を見せた。
日頃からの部下との暖かい交流、豪快でありながら緻密なこの男は部下の信望が厚い。
そして非常に高い戦術眼。
机上で秋山を打ち負かす物は少なくないが、実施訓練では皆無であった。

白鳥は戦略の方が得意であった。
戦術面では秋山にも月臣にも劣るが、本人は気にしていない。
しかし、戦略に関しては木連一であろう。
裏表のない朗らかな性格は多くの者に好かれ、草壁も弟のように彼を愛した。
いつか表舞台で大きな事をやる男、そんな期待をされる男であった。

月臣は違う。
幼少時代に生き抜くことだけを考えてきた経験のある彼は汚いことも厭わない。
自らが泥にまみれようともかまわない。
そんな生き様を周りは畏怖しつつ敬愛した。
草壁も月臣に自分と同じ物を見た。
そして。

「そうか。
それでお前はここまで来たか。」

ある日月臣達と会食しながらの会話で月臣の生い立ちを聞いた草壁は確信した。
この男はオレだ、と。
腹心として、そして既に汚いことにも手を染めている自分の真の後継者として。
草壁は月臣を呼び出し、自分の行ってきた裏工作を月臣にうち明けた。
全てを。
地球の一部勢力と既に手を握り有っていること。
かつて地球が月の独立派に仕掛けたような汚い工作を行っていること。
そのための非合法組織も有ること。
秋山なら途中で席を立っただろう。
白鳥なら激昂し、木連上層部まで抗議に逝ったかも知れない。
しかし月臣は。
全てを聞いた後でこう言った。

「それで自分の仕事は何でありましょうか?」

と。
地獄に堕ちてもやるべき事を貫く決心をした男の目であった。



それでも数年は順調であった。
ついに仕掛けた地球への反攻もうまくいった。
火星を制圧し、新たなる都市もその内見つかるだろう。

しかし、火星の無人部隊からの緊急コールがあった。
突然現れ、不穏な動きをし、突然消えた地球の戦艦。
画像や各種センサーの情報を解析した結果、それは地球圏に居るはずのネルガルの戦艦だと断定された。

「ばかな!!」

解析をしたスタッフは悲鳴を上げる。

「それでは地球の奴らは時限跳躍したというのか?」

しかも無事に乗組員を乗せての、生体跳躍なのは火星での行動を見る限り確定的だ。

「信じられん!」



パニックをよそに、白鳥が月臣に囁いた。

「ジンタイプ、完成を急がないとな。」

「ああ。」

どうやら木連でも事態は風雲急を告げてきたようであった。

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<あとがき>

年明け初のDDでした(笑)
読者の皆様、あけましておめでとうございます(遅いって)

ところで、この「び〜のHP」では私のメールアドレスを非公開とさせていただいています。
いや、もの凄く鬱陶しかったんですよ、ウイルスメールが。
HPも消滅したし、ウイルスの元にしかならないメールアドレス公開は止めようと思いました。

で、ついでなんで、感想不要宣言もしちゃいます。

なんかSS読むたびに感想書かなきゃ・・・・・と思うのってイヤじゃないですか(笑)
感想要らないというお気軽なSSが有っても良いだろう、と。

bさんが部屋にアクセスカウンター付けてくださったので大体の手応えは感じますしね(笑)

というわけで、本年も宜しくお願いいたします(だから遅いって)



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