『クリムゾングループ、株価暴落!!』

『グループ解体か!?』

各メディアでこのところ連日騒がれているこの報道。
今もワイドショーが巨大グループの疑惑と称して胡散臭い評論家どもと実のない議論を垂れ流している。

「ふふ・・・・・・」

アカツキはその様子を鼻で笑い、TVを切った。


機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第19話  「企 業」


この騒動の首謀者がアカツキである。
彼は慎重に、この日のために準備を進めてきた。

まずは噂話の流布から。
ネット上の掲示板などで、

「そう言えばクリムゾングループの施設って木星蜥蜴の被害に遭わないよね。
さすがはバリアー技術のトップだよ。」

という与太話を流した。
好意的なレスを多く付け、一時はクリムゾンの株価がストップ高を記録するまでになった。

 

 

次に流したのは、やや灰色の情報。

「クリムゾン関連の施設の側にはチューリップが多数落ちているにも関わらず被害がない。」

という噂。
これにより徐々にクリムゾンへの見る目が動揺する。

さらに次に、

「クリムゾンには用途不明・行き先不明の大量の資材が有る」

というデータをリークした。
これはネルガルのスパイが入手した本物のデータであり、クリムゾンへの疑惑を一気に増大させる効果があった。

そして、

「これは何の作業なのか?」

と題した、クリムゾングループの作業者達が開いたチューリップに梱包した資材を投与している作業風景の写真。
クリムゾンは悪意有るでっち上げと主張したが、先に広まった不透明な資材流通の資料が一切の説得力を無くした。

政府としては動けない。
巨大企業の倒産は経済を危機に陥れる可能性があり、政府としては避けたいのだが。
アカツキも良く知る「秘密」が有るからだ。
クリムゾンの取引先である木星蜥蜴が「正体不明ではない」となったら・・・・・・
クリムゾンをつつき藪から蛇を出したくはないのが政府首脳の意向である。
しかしクリムゾンの木連との内通は許し難い話である。
結果、政府は黙殺を決め込んだ。
一切の援助も支援もクリムゾンに行わない。
今やクリムゾングループは風前の灯火である。

誰もが売り放すクリムゾンの株を、ひそかに、水面下で買い進めている一団があった。
ネルガルである。
既に議決権に必要な30%は抑えた。
後は、クリムゾン家の保有する40%の株をどうするかだが・・・・・・
別にネルガルとしてはクリムゾンの全てが欲しいわけではない。
欲しいのは技術だ。
技術者を多く引き抜くことが出来れば、クリムゾンの残骸に固執する必要はない。

「熟柿は落ちるのを待つ。」

アカツキは待ちを決めた。
ここで下手に動くのは得策ではない。

「織田信長も取った戦法だしね。」

信長は浅井・朝倉にせよ武田にせよ、単なる力押しで滅ぼしたのではない。
がつんと勝敗を決めた後は相手の内部崩壊を待った。
人間うまくいかなくなるととことんうまくいかなくなる。
一旦負けると内部の不平不満を抑えられず、離反者が続出し、それによってまた力がなくなり、更に離反者を出すといった悪循環に陥る。
下手に力押しをすると逆に結束させる場合がある。
待ちの戦法は精神的強さが必要だが、コストを考えれば絶対に必要な戦法である。
既に多くの技術者の引き抜きにネルガルは成功している。

「ようやく蜥蜴の本体を追いつめられたかな・・・・・・」

しかしまだこれからである。
まだ火星は彼らの支配下であり、地球に限っても各所のチューリップを全滅させたわけではない。

しかし。

ナデシコの持ち帰った遺跡の演算ユニットはネルガルにとって大きな1手だ。
これにより、研究次第では逆に木星蜥蜴の本陣へ兵力を大量に送り込める可能性が出てきたのだから。

もちろん、まだこれから先の仮題が多いのだが。

 

 

エリナ・キンジョウ・ウォンは相変わらず多忙であった。
カキツバタのクルーの一件も何とか収拾をつけ、シャクヤクも進水させ、ドッグ艦コスモスは既に稼働中である。
それらの計画全てを遅延無く?進めたのだからエリナは決して口だけの人間ではない。

・・・・・・まあ、彼女が動き回るたびに彼女のメールボックスに恋文が増えていくのはご愛敬であろう。

また、軍との蜜月を築くべく始めたプロジェクト『ユニット』も順調である。
これは、既存の船体を可能な限り流用しユニット状にまとめた相転移エンジンとその周辺機器を取り付けるだけでディストーションフィールドの展開が可能になると言う物だ。
所詮は一時しのぎに過ぎない『ユニット』ではあるが、ネルガルの生産能力と機密の維持、そして軍の予算という面から見て最適の計画である。
既にプラントは稼働しており、歩留まりも上々だという。

「でもこんなコトしてる場合じゃないのよ!!」

エリナは走る。
研究所へ向けて。

研究所内の会議室には既にお偉方が集まっていた。
中央の席には既にアカツキも座っている。

「すみません、遅くなりました。」

エリナは頭を下げ、自分の席に着く。

「それじゃ、始めようか。」

アカツキの言葉で会議が始まった。
議題は・・・・・・平たく言えばボソンジャンプ時代のネルガルの商売である。
アカツキの父親の代からのネルガルの悲願、ボソンジャンプ時代における利権の独占。
先にナデシコが火星よりもたらした『遺跡演算ユニット』が、それを絵空事ではなくした。

「じゃ、エリナ君、お願いね。」

アカツキのその声に続いてエリナが起立し、プレゼンテーションを始める。

「先に我が社のナデシコが持ち帰った遺跡により、我が社の悲願は大きく達成に向けて前進しました。
ここでネルガルとしては以下のようにプロジェクトを進めていきたいと考えています。
まず簡便なボソンジャンプの実現。
第1の方法としてこれは火星生まれの人間とCCの組み合わせにより達成することが可能ですが、これらをネルガルが独占することは不可能です。
どんな待遇をしても(火星生まれのボソンジャンプに適した)人材の流出は止められないでしょうし、CCも木星蜥蜴がこれだけあちこちにチューリップをばらまいた今となっては門外不出とはいきません。」

つまらなそうに頷くお偉方一同。
今回集まったお偉方は研究関係のお偉方である。
当然プライドも高く、今のエリナの話した内容など先刻承知、詰まらない話をするなと言いたげである。

「そこでネルガルとしてはチューリップの使用を第1段階と考え研究を進めてきました。」

これはアキトの夢にあった『ヒサゴプラン』を元に始まったプランであった。
しかし。

「しかし、肝心のジャンプの制御が困難でしたが、これも遺跡の入手によって解決の糸口がつかめました。
今後の研究により我々は『制御可能なチューリップ』をネルガルの物と出来るでしょう。」

アカツキ一人がうんうんと頷く。

「しかしながらこれは1時的なプランに過ぎません。
例えば今後木星蜥蜴との和平が成った場合。
チューリップの使用については彼らの方に1日の長があります。
彼らに利権が奪われる可能性があるのです。
ですからネルガルとしてはあくまで1時しのぎ。
本命のプランは別です。」

ここでようやくお偉方の興味が出た。

「ネルガルは遺跡その物を完全に我が物にする。
そのために今後10年を目標に、遺跡のコピーを作る。
このプロジェクトに力を入れていきます!」

をを!

お偉方の研究者達が満足の声を上げた。
実はこの会議以前の根回しの段階では様々な意見が出ていた。
中にはアキトの悪夢そのままに、人体融合実験によってジャンプ適合者と遺跡のリンク状況を調べるというのもあったが・・・・・アカツキとエリナに一蹴された。
別にそれらの研究の非人道的な面を嫌悪したからではない。
万が一その人体実験が発覚した場合企業としてのネルガルのイメージに致命的なダメージをもたらすことが明白であるし、なによりネルガルにとっては「遺跡を使うこと」が目的なのではなく「ボソンジャンプ技術を独占もしくは他より優位に立つ」ことが目的であるからである。
遺跡のコピーを作れる研究というのは遺跡を完全に制御する研究と言うことである。
一からの開発なら不可能だが、ある程度の予測理論も既に成り立ち、『既にある』遺跡を研究するのだから不可能ではない。

そして彼らにはテンカワ・アキトがいる。

火星生まれの、いわゆるA級ジャンパーならアキトの他にもいる。
例えば今回ナデシコが強引に救出してきた火星の生き残りの人たちの中にも居る。
しかし、自分の意志で、CCを使ってボソンジャンプした経験を豊富に持つ存在はアキトただ一人である。
更に彼の夢の記憶。
ネルガルは思いも寄らぬ秘宝を偶然手に入れていたのである。

アカツキが最後に立ち上がって言う。

「これは父の代からの悲願であり、ネルガルの社運をかけたプロジェクトでもある。
僕はこのプロジェクトを発動するに当たって、君たちの様なかけがいのないスタッフに恵まれたことを感謝してるよ。」

その言葉は研究者のプライドを心地よくくすぐった。
彼らはきっと寝食を忘れてこのプロジェクトに打ち込むだろう。



「さてエリナ君、宇宙軍の方は順調かな?」

帰りの専用リムジンの中。
アカツキは向かいに座ったエリナに尋ねた。

「全てのプロジェクトは順調に進んでいます。
この調子ですと予定よりも早く需要を満たせそうです。」

これまで木星蜥蜴の攻撃に対してほとんど有効な対処が出来なかった宇宙軍。
ディストーションフィールドを持つ木星蜥蜴には宇宙軍のほぼ全装備が無効であった。
ほぼ唯一の対抗手段は火星でフクベ提督が使った手段・・・・・・有質量の物体を直接ぶつけることだけ。
どんなバリアも(圧倒的な)質量をもつ衝突物には無効である。
例えばどんな宇宙船も隕石群に巻き込まれては無事ではいられない。
小惑星に推進力を与えて目標に命中させる事が出来るなら、それは最高の兵器となる。
しかし、なにより命中率の問題でおいそれとは使えない作戦である。
例えば地上に落ちたチューリップの破壊を考えよう。
目標は既に動かない。座標が固定されている。
しかし・・・・・・ピンポイントで小惑星を地上のチューリップにぶつけるには、考えられないくらいの精密な計算が必要である。
コンマ何秒のずれで、近くの都市が消滅する可能性が高いのだ。
仮に命中率の問題がクリアできたとしても、舞い上がる土砂は空を覆い、衝撃は地面を大きく揺さぶり・・・・・どちらにしても地上の被害は小さい物ではない。
ならば地球にたどり着く前のチューリップの狙撃はどうかと云えば、移動する目標に対しての命中率など期待できない。
それでは小惑星を諦めて、頑丈に作った戦艦では?
チューリップを破壊することが出来ないのはフクベが証明して見せた。
せいぜい軌道をそらすことが出来るだけだろう。
バッタやジョロに対してはある程度の効果は有るが、無限とも思える敵の数を考えればおいそれとは使えない。
せいぜいミサイルなどで対処するしかない。

以上のように、かなり絶望的な状況に宇宙軍は置かれていたのである。

・・・・・・ナデシコの登場までは。

ナデシコの登場は宇宙軍にとって希望となった。
初めて木星蜥蜴に有効な兵器が現れたのだから。
予算を全てつぎ込んででもあの船が欲しい。
しかし、ネルガルの生産能力にも軍の予算にも限界がある。
プロジェクト『ユニット』は、そんな双方の事情の、理想的な妥協点となりえるプロジェクトであった。
既に『ユニット』を装着・改造された艦隊は、期待通りの戦果をあげているという。
もっとも、木星蜥蜴の方でもフィールドを強化し始めているのであくまで一時しのぎにしかなりそうもないが、今の一時をしのげなければ未来はない。

「ふうん、それは良かった。」

アカツキはエリナの返事に満足した。

「で、本命の方は?」

ネルガルにとってあくまで本命は『相転移炉式戦艦の売り込み』である(軍に対しては)。
ライバルであったクリムゾン没落の今、こちらも順調でなくては営業部の首はかなりの数が飛ぶであろう。

「もちろん順調です。」

エリナは自信を持って答えた。

「ネルガルのドッグは3年先までフル稼働です。
ついでに、クリムゾンの醜聞の反作用か、ネルガルの企業イメージが高くなっていますので、全部門で売り上げが3%上昇しています。」

「そりゃ結構♪」

アカツキは笑う。

「後は足下を掬われないようにしないとね・・・・・・」

話している内にリムジンは空港に着いた。
ここから専用機でアカツキは本社に戻る。

「そういや、せっかくここまで来たんだから、彼らにも会っておきたかったなぁ・・・・・・」

彼ら=ナデシコクルー達も今サセボにてボーナス休暇を楽しんでいるはずだ。
あのテンカワ・アキトがどんな顔になったのか。
プロスペクターやゴートから直接の報告も聞きたい。
そしてなにより。
あの美人艦長ミスマル・ユリカに会ってみたい。
プロスペクターから選考時に見せて貰ったプロファイルを見て一目で気に入ったあのお嬢さん、あわよくばじっくりと口説いてみたい・・・・・・

にやにやしながらそんなことを考えているアカツキにエリナは、

「会長、時間がありませんので。」

ジト目で呆れたように見ながらそう宣告した。

「会長に決済して頂かなくてはならない案件が、そろそろ机からこぼれ落ちる位に溜まっているはずです。」

「・・・・・・はい。」

エリナの冷たい宣告にアカツキは涙ながらに頷いたという。

 

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<あとがき>

ようやく書き上がったDD19話。

BGMにはプロジェクトXのテーマソングがお薦めです(おい)

 

おそらく今回が「2次小説を書く男」での最後の連載になると思います。

次回からはトップでお知らせしましたとおり「び〜のHP」での連載となります。

これまでのご愛顧ありがとうございました。

引き続きお読みいただけますと嬉しいです。



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