火星。

昔から不吉や争いを表す星。

 

 

紅い大地はまるで太古からの争いの血がしみこんだかのように

舞い上がる砂埃は生物を拒絶するかのように

 

惑星改造のために大量にばらまかれたナノマシンは

太古のオーバーテクノロジーの影響を受け

そこに生まれた子供を火星人と言える体質にした

 

 

オーバーテクノロジー

 

 

人類がかろうじて使うことは出来るが

制御の術を未だ知らない

先火星文明の遺作

 

 

彼らはとうに姿を消し

残された遺作が人類にもたらす物は

果たして吉凶いずれになるのか



機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第17話  「時 間」


ナデシコ火星着(残り時間6時間)

荒廃したコロニー跡。
ユリカはあまりにも思い出と違う風景にしばし唖然とした。
ユリカにとってここは楽しい思い出の場所。
アキトと出会った思い出の場所。
しかしその面影はここにはない。

「・・・・・・皆さん、火星です。
これからは時間との戦いです。」

気を取り直し、コミュニケで艦内に通信を流す。

「ゴートさん、コロニー生存者の探索活動を開始してください。」

「了解です。
シャトル発進します。」

プシュッと言う音と共にナデシコ底部よりシャトルが切り離された。
そのままシャトルは緩やかに下降していく。

ユリカはそれを確認するとアキトの方を見る。

「アキト、遺跡の奪取をお願いするね。」

アキトはうなずき、CCを1つ握りしめて、

「解った。」

そう言って消えた。
ボソンジャンプしたのだ。

「ルリちゃん。
私はブリッジに戻ります。
艦内はA級警戒態勢のまま待機。」

「解りました。」


火星地上・ユートピア・コロニー跡(残り時間5時間52分)

着陸するシャトル。
パイロット以外の全員が素早く下船し、整列した。
全員、ナデシコでは最高の重装備である。
これでも蜥蜴と出くわした場合は太刀打ち出来ないのだが、だからといってしないよりはマシであろう。
そして、護衛のエステバリス3機が格納庫から降りる。

「これより作戦を開始する。
エステバリス隊はその場にて待機。」

「了解!」

そう言ってリョーコ達はエステバリスの電源を落とす。
無駄なエネルギー消費を抑える為だ。
予備バッテリーは当然用意してあるが、何が起こるか解らない。
用心のため温存できる物は温存する。

「地上班は、まずは各班手分けして生存者の発見を急げ。」

「了解!」

ゴートの指示を受けるや否や、3人ずつの班で散開する。そして1時間24分後、4班からの連絡がゴートの元に入った。

「隊長、人間の出入りした形跡のある地下鉄駅跡を発見しました。」

「解った。
全員そちらへ向かえ。」

ゴートが着いたところは崩れかけた地下鉄駅の入り口であった。
隊員の報告通り、階段に積もった土埃の上にいくつもの足跡がある。
手すりも手の跡が有った。
瓦礫を乗り越え奥に進むと、先行していた隊員が手招きしていた。

「ここか。」

「はい。今ウチの班長が中に入っていきました。」

とその隊員が言った刹那。

 ガーン・・・・・・

一発のくぐもった銃声が中から聞こえてきた。

 

 

極冠遺跡(残り時間5時間56分)

ジャンプアウトしたアキトの前には遺跡があった。
現実には一度も来たこと無い場所。
しかし「夢」での場所のイメージ通りに来ることが出来た。
台座に据えられた遺跡はパンドラの箱のように見える。

 その箱を開けたのは誰なんだろう・・・・・
 オレの親父達か、ネルガルか、草壁達か・・・・・・

そう思いながらアキトは遺跡に触れた。
金色に輝く遺跡の触感は、金属ではなく石のようであった。
できるなら破壊した方が良いのかも知れない
触りながらアキトは思う。
しかし、どうすればこれを破壊できるというのか。
とりあえず時間もない。
ナデシコにジャンプさせるか。
そう思い、アキトが遺跡と一緒にジャンプするイメージを浮かべようとした時。
遺跡が強く輝き始めた。
「・・・・・・敵か?」
ナデシコが発見され、敵がチューリップで増援を送り始めたか。
焦るアキト。

しかし。

そのアキトの目の前の空間が、一人の少女を産み出していった。

ミカンを大切そうに両手で持った、小さな女の子。
泣きながら不安げに立っているその女の子は・・・・・・

「・・・・・・アイちゃん!」

「おにいちゃーん!」

驚くアキトに、アイは泣きながら抱きついてきた。



ユートピア・コロニー地下(残り時間4時間13分)

警戒しながらもゴートたちが銃声のしたところに駆けつけたとき、足を打たれうずくまる隊員とそれを囲む数人の人間がいた。

「お前達は?」

その中の一人がゴートたちに尋ねる。

「地球のネルガル所有・機動戦艦ナデシコの者だ。
私はゴート・ホーリー。
ウチの隊員を撃ったのはお前達か?」

ゴートがそう言うとその男はすまなそうに、

「すまない。
蜥蜴の奴らがとうとう入り込んできたのかと思ったんだ。」

そう言って頭を下げた。
幸い撃たれた隊員の容態は悪くはなく、血止めの治療を施したゴートは安心した。

「しかし、地球の奴らがどうしてここまで?」

最初に会った男が聞いてきた。
話のとっかかりとして良い質問であった。
ゴートは傷ついた隊員を部下に任せ、男に向き合った。

「我々はあなた達ユートピア・コロニーの生き残りの方たちの救助に来た。
時間がないので全員に一度に説明したいのだが、どこかに集まって貰えないだろうか?」

 

 

 

ナデシコブリッジ(残り時間5時間23分)

ブリッジは今異様な緊張に包まれていた。
たった一つの遅延が命取りになるかも知れない。
そのことを全員が自覚しているため、各々の職務に集中している。
咳一つ聞こえない緊迫した空気の中、メグミのコンソールがアラームをならす。

「艦長、アキトさんより入電です!」

「繋いでください!」

映し出されたウインドウには、アキトの顔。

「ナデシコ、こちらテンカワ。
準備が出来たのでこれより遺跡と共にジャンプする。」

そういうアキトの下をピョコピョコと動く女の子が・・・・・・

「アキト、その子は?」

ユリカが尋ねる。

「ああ、ここで会ったんだけど・・・・・・
前に話したアイちゃんだ。
詳しくは戻ってから話す。
じゃ、行くぞ。」

「アイちゃんって・・・・・・あのアイちゃん?」

ユリカが呟いたとき。
アキトのウインドウの下でピョコピョコ顔を出す少女が居た。

「お兄ちゃん、これなあに?魔法?」

そう言いながらウインドウを表から見たり裏から見たりしているらしい。

「あ、これはね、アイちゃん。電話みたいな物なんだ。
って、と言うわけでユリカ、今から遺跡と一緒に飛ぶから。」

そう言っておもむろに切れる通信。
残されたのは呆気にとられたブリッジクルー一同。

「何処に行っても女の子に縁のある人ですねぇ、アキトさんって。」

思わず漏らすように言ったメグミの言葉に笑うブリッジクルー。

「へっくしょん!」

くしゃみをするアキトに、

「大丈夫?お兄ちゃん。風邪?」

心配そうな顔のアイ。

「はは、大丈夫だよ。
それよりこれからお兄ちゃん達の船に行くからね。
しっかり捕まっていなよ?」

「うん!」

そういってしっかりとアキトに抱きつくアイ。

今度は、もう大丈夫だからね。

心の中でアイにそう話しかけながらも、アキトは意識を集中する。
遺跡と自分たちを、ナデシコの格納庫に・・・・・・

「アイちゃん、すぐに着くから目をつぶってて。」

「うん」

アイが目を閉じるのとほぼ同時に二人の体にナノマシン紋様が浮かび上がり、遺跡が金色に発光する。

そして、そこはがらんどうの空間になった。

 

 

 

ナデシコ格納庫(残り時間5時間16分)

何もない空間が光ったと思えば、そこに巨大な箱が出現した。

「解っていても、ボソンジャンプってのは驚くな・・・・・・」

ウリバタケのつぶやきは見ていた整備班全員の代弁であった。
どう見ても無から有に転じたとしか思えない現象。
それをやってのけるのが、あのアキトなのだ。
ある種の畏敬の念をもっておそるおそるアキトを捜すと・・・・・・

「お兄ちゃん、凄い凄い!」

アイに抱きつかれ、もみくちゃにされている情けないアキトの姿があった。

「アイちゃん、解った!解ったから!」

 おいおい・・・・・・

整備班員達の畏敬の念はどこかに飛んでいったという。

「あ、セイヤさん、後お願いするっス!」

アキトはそう言ってアイをだっこしたままブリッジに急いだ。
アイのことの報告をしないとならないからだったが。
アキトが見えなくなると、整備班員達は一様にこう思ったという。

 あの、ロリコン野郎・・・・・・


ブリッジに着くとまたひと騒動だった。

「アキト、お帰り!」

ユリカはそう言って出迎えたあと、

「この子がアイちゃん?
こんにちは、アイちゃん。
私はミスマル・ユリカ。ユリカお姉ちゃんって呼んでね。」

そう言って強引にアイと握手した。

「こ、こんにちは・・・・・・」

その勢いに多少引き気味のアイ。

「うわあ、可愛いわね。」

「本当!よろしくね、アイちゃん。」

ルリを除いた全ての女性クルーがアイの周りに集まってきた。
元々は人見知りしないアイだが、いきなり大人達に囲まれかなり萎縮してしまったようである。
そこにアラームがなった。

「3時の方向より木星蜥蜴接近。
バッタやジョロではなく、戦艦のようです!」

ルリの声が響く。

「ナデシコ、ディストションフィールドを張りつつ敵艦隊に突入!」

ユリカの指示が飛ぶ。

「ええ?」

思わず聞き返すミナト。

「お願いします、ミナトさん。」

自信に満ちた目でそう言うユリカ。

「・・・・・了解。」

ユートピア・コロニー地下(残り時間4時間13分)

 地下にこんな空間が有るとはな・・・・・・・

案内されてきたゴートは中に入るなり驚いた。
と言ってもバスケットボールのコートが2面、余裕を持って取れそうな程度である。
しかし専用のシェルターでもないのにこれだけの空間が、木星蜥蜴の襲撃の後も残っていることに驚いてしまう。
1世紀以上前、火星の開発が始まったばかりの頃の施設らしい。
内壁はかなり壊れているが、基本構造材が特別に丈夫なため、全員ここで共同生活を送っているらしい。
ゴートのとにかく子供も含めて全員に話をしたいという強固な希望に首を傾げながらも、この空間に全員が集まってくれた。
水の確保などに出かけていた者も呼んで貰ったので30分ほど待つことになったが。
ゴートは単刀直入に切り出す。

「我々はあなた方を救助に来た。
全員これから我々の船に乗って欲しい。」

ざわめく一同。

「地球での生活はネルガルが保証する。
住居、職業、学校、全てを、だ。」

これはプロスペクターからの入れ知恵である。
地球に行っても生活するツテがない人も居るかも知れない。
例えばアキトだって、事情がなければいきなり地球に放り出されてどうなっていたか解らないのだ。
アキトの場合はたまたまネルガルと繋がって生活の術を得た。
ならば、火星の生き残りの人たちにもネルガルがそれを用意しよう。
上層部の許可を得て説得のための材料としてプロスペクターが用意してくれた事である。

しかし。

「あんたがたは木星蜥蜴の数を知らないのか?」

右手の方に座っていた人たちの中から一人の中年男性が立ち上がった。

「1隻で来たって?
舐めてるとしか思えないね。
運良くここまでは来れたようだけど脱出なんか出来る訳無いだろう!」

吐き捨てるようにその中年男性は言う。
ゴートはその男を見て答えた。

「現在ナデシコはここより200km離れたところで木星蜥蜴の艦隊と交戦中だ。
今のところ損害はなく、更にここから敵を引き離しているらしい。」

と、その後ろにいた女性も立ち上がって言う。

「相転移エンジンとディストーションフィールドでネルガルは過信してるんじゃない?
でも木星蜥蜴だってそんな物は持ってる。
脱出なんて無理よ。」

ざわめく生き残りの人たち。
明らかに二人の言葉に動揺している。
その女性にゴートは尋ねる。

「失礼だが何故そんなことまでご存じなのだ?」

すると女性ではなく先ほどの男性の方が答えた。

「我々はネルガルの研究所で相転移エンジンの基礎理論を研究していた者達だ。」

「なるほど」

ゴートは納得した。
女性の方は更に言う。

「このままあなた達がうろうろせずに引き上げてくれた方が私たちは安全なのよ。
助けに来て貰って非道いこと言ってるのは解ってる。
でも、この1年間必死で生き残ってきたのよ、私たちは。
ネルガルの見当違いの所為で今更死にたくないわ。」

見当違いとは、さっきの「木星蜥蜴の数」の事だろう。
数の暴力の前に太刀打ちするのは難しい。
おまけに地の利は明らかに向こうにある。
ナデシコが不利なのは明白であろう。
そして、火星という敵地深くに、いくら強力な戦艦とはいえナデシコ1隻を送り込むというネルガルの甘さ=無謀さはゴートも知っていることである。
だからこその今回の作戦なのだ。

「それではあなた方はナデシコに乗りたくない、と?」

それでもしらじらしくゴートが確認すると、生き残りの人たちは一様に頷いた。

 ふう・・・・・・

予想通りとは言えため息を一つつき、ゴートは部下達に命令する。

「プラン乙発動。」

部下達は交渉の間にさりげなく出入り口を抑える配置になっていた。
命令を受け即座にマスクをつけ、銃を発射する。
銃弾が人に当たることはなかったが、その場にいた火星の生き残りの人たちは残らず昏倒していた。
対テロ用の麻酔弾である。
マスクをつけあらかじめ解毒剤を服用していて、初めて難を逃れるという強力な物だ。

「シャトルとエステバリスをこちらに。
全員を積み込む。
多少手荒に扱ってもかまわん。」

ゴートの指示は乱暴だが、実際の隊員の行動も乱暴であった。
運搬用の滑車に頑丈そうな人間から積み上げ、エステバリスが次々運んでいく。
実際、300名ほどの生き残りの人たちを全員運ぶというのに気を使っている時間は無いのだ。
今回の作戦は時間こそが最優先。
後に判明した生き残りの人たちの骨折や脱臼をした人数は50人を超えていたという。
打ち身や捻挫に至ってはしなかった人間が居ないと言うから恐ろしい。


ナデシコ、現在ユートピア・コロニーより300km地点(残り時間1時間58分)

現れた敵影のまっただ中に突っ込んだナデシコは、ディストーション・フィールドにより無事にその中を突っ切った。

「ナデシコはこのまま囮として、敵を引きつけつつユートピアコロニーから離れます。」

ユリカの考えを受け、ミナトが巧みな操艦で「囲まれる寸前の状態」を維持してここまで距離を取った。
時折ヤマダジロウから発進の催促が来るがそれは無視。
ギリギリではあるが、ナデシコは無事である。
そこにシャトルから連絡が入った。

「こちらゴート。
全員を収容した。
回収願いたい。」

「了解!ディストーションフィールド、出力最大!アキト、お願い!」

ユリカの指示にアキトは頷く。
今日何度目かのボソンジャンプ。

次の瞬間。
いきなり目標を失った木星蜥蜴の艦隊はしばし混乱したような素振りを見せたという。

ユートピアコロニー上空に再びいきなり現れたナデシコはシャトルを回収し、そして再び消えた。
ナデシコの火星滞在時間は結局5時間と12分であったという。

 

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<あとがき>

風邪その他ですっかり書くのが遅くなりました(笑)

おまけに朝更新だし。

昨日書き上がったんですが読み直しの関係で朝になっちゃったんですよ。

緊迫感がうまく伝われば良いな、とか思っています(遠い目)

 

なお、b83yrさんの作品のように無線とかも使わないのが本当だと思いますし真似ようかと思ったんですが・・・・・・

面倒になっちゃいまして(おい)無線使いまくっています、作中(おいおい)



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