「そういえばエリナ君、彼らの様子はどうだい?」

会長室で、決済の書類に目を通し終わったアカツキがエリナに尋ねる。

「概ね順調です。」

エリナは端的に答えた。
彼女にとって、いい加減な連中がてんでバラバラ好き勝手にやっているような『彼ら』の話題は不愉快なだけである。
今のところ一応結果は出ているようだが、運が良いだけ、信用は出来ないと思っている。

「概ね、というのは何か問題が有ったと言うことかい?」

アカツキが言葉尻を捕らえて再び尋ねる。
仮にもネルガルの会長、いい加減な受け答えは出来ない相手だという事をエリナは思い出した。

「木星蜥蜴の正体を明かしたことによる、予想通りの混乱がありました。」

エリナは心持ち背筋を伸ばして報告する。

「『彼』が全てをうち明ける事で事態が何とか収まったようです。」

「ふうん、『彼』には世話になりっぱなしだねぇ、ネルガルは。」

アカツキはそう言って笑った。
エリナがもう少し人間関係の機微に通じていれば、その笑いの奥に何かを感じたかも知れない。
しかし、エリナは気が付かない。
気が付かずに、自分の不満をアカツキにぶつける。

「会長! 私は納得できません!
何であんないい加減な船を会長は信用できるんですか!!
今回の事だって、最初から何も言わなければ何ともなかった物を、あの艦長が・・・・・・」

そこでエリナの言葉が止まる。
アカツキが面白そうに自分を見ていることに気が付いたからだ。

「エリナ君、君は随分あの船に随分思い入れが有るんだねぇ。」

そう言って笑うアカツキ。

「でも口出しは無用だよ。
あの船については僕は非常に満足してるんだから。
君は君に全てを任せたカキツバタの方で結果を出してくれたまえ。」

そう言い終わると右手を振るアカツキ。
もう用は無いという合図だ。

「くっ!」

下唇を噛みつつ、きびすを返すエリナ。

「失礼しました!」

バタン!

ふう・・・・・・

やや乱暴にドアが閉まるのを確認して、アカツキはようやくため息を付く。

「彼女ももう少し頭が柔らかくならない物かねぇ・・・・・・」

そう言いつつ、先ほどエリナが持ってきた報告書の1つを手に取り。

ふうう・・・・・・

先ほどよりも長いため息を付く。

「こちらの『彼女』の事もどうした物やら・・・・・・」

その報告書の表紙には。

 

 

 

『イネス・フレサンジュに関する最終報告』

 

 

と書かれていた。

 


 

機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第13話  「崩 壊」

 


 

補給のためナデシコは現在サツキミドリ2号に停泊している。

1年近くクルーを養って余りあるほどの物資を積んでいるナデシコ、さほど差し迫っているわけではないのだが、補給はこまめに行っている。
物資は多くて困ると言うことはないし、何よりナデシコは実験艦である。
地球で初めての相転移機関船でもあり、どんな不具合が有ってもおかしくないからという理由がある。
特にネルガルに実戦データを引き渡すのは重要な契約業務であり、こまめなドッグ入りは必然であろう。
地球圏の木星蜥蜴との小戦闘後は可能な限りドッグ入りするのがナデシコの行動パターンとなっていた。
長いときは1週間ほど徹底的な検査を受けるナデシコだが、今回のサツキミドリ2号への停泊は2日の予定であった。
しかし、サツキミドリ2号に入港する前日の悲惨な事件により、その予定は2週間に延びることとなった。

「ルリルリの横顔1枚お願いしまーす!」

「毎度!」

整備班休憩室の片隅。
今日もウリバタケは隠し撮り写真の販売に燃えていた。
可愛い女の子が多いナデシコとはいえ、整備班を代表に圧倒的に男の数が多いナデシコ。特に整備班は女っ気が無く、また『漢』揃いと言うこともあり、こういう写真やウリバタケ特製フィギュアは慢性的な品不足であった。

「班長、メグちゃんの等身大ポスター出来ていますか?」

「おう!こいつは気合い入ったぜ!」

今日も特設即売所の前には長蛇の列が出来ていた。

「やっぱメグちゃんかわいいっすよねぇ♪」

「あの声がたまらんです。」

とメグミ派が盛り上がれば、

「ミナトさん、最高!」

「死ぬんならあの胸で窒息死してえ!」

などとミナト派も盛り上がる。
すでに整備班の中ではそれぞれの女性クルーのファンクラブが設立されており、夜な夜な怪しげな集会がどこかで開かれ、結束を固めている。

と、そこに。

「班長!我々はついにやり遂げました!」

ヘルメットに作業服、懐中電灯に大きなリュックサック。
全身煤けた4名の整備班員が現れた。
全員疲れきってはいるが、何かをやり遂げた者だけが持つ目の輝きをしている。

「なに!ついに・・・・・・ついに全員分揃ったのか!」

ウリバタケの目も輝く。

「は、はい!
我々はついに!
ついに女性クルー全員のパンチラ写真をこのカメラに納めました!」

 

 

うおおおおおおっ!

 

 

どよめく整備班一同。

「ま・・・・・まさか、ルリちゃんのも?」

「ああ!」

「サユリちゃんやミカコちゃんのも?」

「もちろん!」

「イズミちゃんやホウメイさんのも?」

「・・・・・・ああ。」

 

 

うおおおおおおおお!

 

 

「良くやった!
辛かったろう、苦しかったろう!
でもお前達、よくぞやり遂げた!!」

そう言って4人を抱きしめるウリバタケ。
その目には熱い涙が光っている。

「班長!」

「俺達、俺達やり遂げたっす!」

「苦しいときも、みんなの喜ぶ顔を思い浮かべて忍んだっす!」

「時には足蹴にされ、見付かりかけたこともあったっす!」

そういって、4名の精鋭達も漢泣きした。
周りの整備班達もみな泣いている。

「ありがとう!ありがとう!」

「うう、この船に乗って本当に良かった!」

 

そうやって全員の気持ちが一つになった。
もう彼らの頭には迷いはない。
1つの目標に向かって固く結束した。
パンチラという目標に。

 

「・・・・・・さあ、何時までも泣いては居られねえ!
今日は整備も終わったし、これから上映会だ!」

ウリバタケが「未来への希望に燃えた目」で、全員に言う。

「うおお!話せるぜ、班長!」

「良かった、俺、この船に乗って本当に良かった・・・・・・」

「班長バンザーイ!」

「整備班バンザーイ!!」

「ナデシコバンザーイ!」

 

 

 

「やかましい!」


ドンガラガッシャーン!

いきなり飛んできたパイプイスに沈黙させられる整備班一同。
まともにパイプイスがぶつかった潜入整備員bとcは完全に沈黙させられた。

「だ、誰だ!」

ウリバタケの誰何の声に答えたのは。
ナデシコ女性クルー一同であった。
全員が妖気のような怒りのオーラを放ち、パイプイスを投げたリョーコに至っては頭から湯気が出ている。

「だれだ!じゃ、ねえ!」

そう言いながら突進しようとするリョーコを、ユリカが抑える。

「・・・・・・」

無言のユリカ。
いつもの明るい雰囲気は無い。

「・・・・・・全ての証拠はルリちゃんの協力の下に押さえました。
後でプロスペクターさんからしかるべき罰が下ります。」

それでも何とか振り絞るようにいうユリカの言葉を聞き、整備班一同顔色を無くした。
言葉の内容もさながら、ユリカの迫力にである。

「でも、私たちの気が収まらないんです・・・・・・」

そのユリカの言葉に女性クルー一同がうなずき。
包囲の話が徐々に狭まっていった。

 

 

1歩づつ・・・・・・

 

 

その後1週間、ナデシコ整備班は完全にその機能を停止したという。
整備班が居なければナデシコも動くに動けず、結局予定の3倍以上サツキミドリ2号に停泊する事となった。

 

 

 

「まったく!
ウリバタケさん達ったら・・・・・・」

ここはナデシコ食堂。
今、ユリカはプンプン怒りながらカレーライスを食べている。
隣のルリもまだ不機嫌そうだ。

ルリの公開日誌に『整備班ノゾキ発覚事件』として記されたあの忌まわしい事件から10日が過ぎた。
打撲、裂傷、捻挫等のダメージから(職場復帰できる程度には)立ち直った整備班一同だが、女性クルーの白眼視の中、肩身の狭い思いをして生きている。

「まだいってんのか? ユリカ。」

アキトがやや呆れたように言う。
しかし。

ギロ!

ユリカを始め厨房にいたホウメイガールズ、そしてユリカの隣で火星丼を食べていたルリにまで思いっきりにらまれた。

「・・・・・・う・・・・・・」

「何言ってんのよアキト!
ノゾキなんか、絶対に許せる訳無いじゃない!」

「そうですよアキトさん!
覗かれるってことがどんなに嫌なことか考えてください!」

「簡単に許したら、私たち覗いても良いって言ってるみたいじゃないですか!」

蛇に囲まれた蛙のような心境になるアキト。

「・・・・・・あ、・・・・・・その、ゴメン」

「ノゾキなんて、例えアキトでも許さないよ。

 ・・・・・・あ、でも、アキトが見たいって言うなら、ユリカ考えちゃうけど。」

「どさくさに紛れて何言ってるんですか!艦長!」

ユリカの発言に突っ込むルリ。

「きゃー!
艦長のえっちー!」

「あ、でも私もアキト君ならいいかな?」

「あ、サユリも!」

「きゃー!」

3名を覗き女子校状態となった。
ホウメイは笑いながら見ているだけで、騒ぎには加わらない。
ルリは流石にこう言う雰囲気には入っていけない。
そして・・・・・・

「は、ははははは・・・・・・」

力無く笑うアキト。

「そ、それじゃ、俺訓練に行くから・・・・・・」

そそくさとエプロンをたたみ出口へと走るアキト。

「あ、逃げた〜!」

後ろでまた嬌声があがるが、アキトは小走りで食堂を後にする。
角を曲がったところで、コミュニケの呼び出しが鳴る。
ウインドウを開くとプロスペクターであった。

「テンカワさん、重要なお話が有りますので、申し訳有りませんがお時間が御座いましたら私の部屋までご足労願えませんか?」

 

 

 

食堂の方にはアキトと入れ替わりでリョーコ達が入ってきた。

「おい、なんかアキトのヤツ逃げるように走っていったけど、何かあったのか?」

というリョーコの問いに答えたのはジュンコ。

「あのですね、今・・・・・・」

聞いてる内にノゾキ事件の時の怒りがぶり返すリョーコ。

「ああー! 思い出したらまた腹立ってきちまった!
畜生、やっぱりもう1発づつぶんなぐっとくんだった!」

頭から湯気が出てる。
そんなリョーコに思わず引くユリカ達。

「い、いやリョーコちゃん、あれ以上殴ったら・・・・・・」

「そ、そうですよリョーコさん、ただでさえ1週間寝込ませたんですから・・・・・・」

しかし、怒り爆発モードのリョーコは聞く耳を持たない。
そんなリョーコのストップ役なのは、やはりヒカルとイズミであった。

「で、リョーコはどうなの?」

尋ねるヒカルに、

「なにがだよ!」

乱暴に応じるリョーコ。

「リョーコは、アキト君なら許せたの?」

にひひと笑いながら聞くイズミ。
途端に真っ赤になるリョーコ。

「ば、ばか、なんでオレ、あたしがアキトに見せなきゃなんないんだ!」

少しどもりながら答えるリョーコに、さらにヒカルのツッコミが入る。

「『あたし』?
なーんでアキト君の話になると、急にオレからあたしになるのかなぁ?」

「ほんと、なんでかなぁ?」

ヌフフフ、と笑いながらリョーコににじり寄るヒカルとイズミ。
その後ろでは丼を手に持ったルリと箸をくわえたままのユリカ。
さらにその後ろにはホウメイガールズ達もいた。

「ば・・・・・」

追いつめられたリョーコが口を開く。

「バカーーーー!」

ごいんごいん!

思わずヒカルとイズミの頭を殴るリョーコ。

 

そこに、今まで笑って見ていただけのホウメイが口を挟む。

「で、どうするんだい? 艦長。」

「はい?」

きょとんとするユリカ。

「アタシも女だからね。
覗かれて怒るあんた達の気持ちは解るよ。
でもね。」

柔らかな微笑みのままでユリカ達に言うホウメイ。

「このまま許さないと言うなら、この船の中がバラバラになるか、整備班の人たちに船を降りて貰うかと言うことになるよ。」

「それは・・・・・・」

そこまでは誰も考えていなかった。
女としてノゾキという行為には腹が立つことこの上ないが、かといって船を追い出すというのは間違ってると思う。

「でも・・・・・・」

リョーコが言う。
そう、でも、腹が立つのである。

「・・・・・・でも・・・・・・」

エリが言う。
確かにこのままだと船の雰囲気は悪くなる一方だろう。

「でも」

ヒカルが言う。
こんな事(のぞき)を許していたら、女性クルーは安心して生活が出来ない。

「「「「「「うーん・・・・・・」」」」」」

全員が頭を抱えてしまった。
結局、女性クルー全員で会議を開くことになった。

 

 

 

「と言うわけで、本日17:00に展望室に集合してください。
以上、艦長からの連絡でした♪」

ブリッジ。
メグミに頼んで女性クルーのみに配信した連絡。

「うーん、確かに難しいですよね・・・・・・」

「そうよねぇ。
ノゾキは許せないけど、艦内がギスギスするのも嫌だし・・・・・」

メグミとミナトも早速頭を悩ませている。
しかし、悩みながらも頭のどこかで、その会議に持っていくおやつのことも考えていたりする。

女性クルーのみの夜の会議は深夜まで続いた。
白熱する議論はなかなか決着が付かず、問題の深刻さが伺える。
しかし、もしその場を見た者がいれば、パジャマパーティにしか見えなかったであろう・・・・・・。

 

 

 

整備班員の動きは重い。

はあああああ・・・・・・

魂を吐き出すかのような、長いため息をつきながら、重い足取りで仕事をする。
発覚の際の傷が癒え、整備班員が仕事に復帰して3日が経った。
3日間、ずうっと仕事に身が入らない整備班員。
最もサツキミドリ2号にドッグ入りしているためさほどの仕事はないのだが。
それにしても、ため息をついてばかりいたり、時にはハラハラと涙を流しながら仕事をしているのが良いわけがない。
何時事故が起きても不思議では無い状況。
本来それを注意しなくてはならないウリバタケが、

「オレの青春は終わった・・・・・・」

などと呟きながら真っ白になっているので、もう整備班は崩壊寸前である。

ふう・・・・・・

ウインドウでその様子を見ている女性クルー一同。
やがて。

「・・・・・・まあ、反省しているようだし、今回だけは許してやるか。」

「そうねぇ・・・・・・」

リョーコが口火を切り、周りも何となく賛同し。
ようやく長きにわたったパジャマパーティは結論を出した。

 

 

 

翌日。
今日もダラダラと業務を始めようとしていた整備班員達の前へ、ユリカを先頭に女性クルー達がやってきた。
今回は前回と違い、全女性クルーではない。
どうしても外せない仕事の有る女性クルー(例えばミナトはルリと航路プログラムを立てるために今はブリッジを離れられない)は来ていないのだが。
硬直した整備班員達はそんなことに気が付く余裕はない。
蛇に睨まれた蛙のような者、がくがくと膝がふるえだす者、口の中でおまじないや念仏を唱える者、神に祈る者・・・・・・
そんな様子を見てユリカはため息を1つつき。
そして、良く通る声で話し始める。

「皆さん、おはようございます。
実は私たちはこの間の事件について、どのような決着をつけるかを話し合いました。」

びくっ

整備班全体が1つの生き物のように震える。

「ノゾキという事を許す気にはどうしてもなれません。
そんなことを許してたら、私たちは安心して生活できませんから。」

ガクッと崩れる整備班一同。

「でも・・・・・・」

ここで言葉を切るユリカ。

「今回だけ。今回だけは、特別に許しても良いです。
もう1度とこんな事をしないなら。」

はっ・・・・・・

思わず顔を上げる整備班達。
彼らには今、女性クルー達が女神のように見えている。

「本当に、許すのは今回だけですからね!」

そう念押ししてユリカ達は出ていった。
最後の1人が出ていってしばらくするまで、整備班員達は身じろぎ一つしなかった。
やがて。

「よ・・・・・・」

 

「よかったあああああ!」

ため息と共にそんな大声が格納庫一杯に満ちあふれた。

 

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<あとがき>

丸1ヶ月以上が経ちましたねぇ。前回のアップから。

すんません、リーフの「こみっくパーティ」(もちろんPC版)にハマっていました!!(平伏)

もちろんそれだけではなかったのですが、

全員攻略するまでSS書く気になれませんでした!!!(頭が地面にめり込むほど平伏)

 

あ、ウチのHPで共有させていただいている「コミュニケーション広場」の「お絵かき掲示板(多機能版)」に、お絵かきして遊んだりもしていました・・・・・・

ごめんなさい!

次回は、今回ほどには間を空けずにアップします(おい)ので、読んでくださる方、宜しくお願いいたします!

でわ!

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