機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第12話  「停 滞」

 


 

いきなりだが。
ナデシコの指揮系統は混乱していた。

「困りましたなぁ・・・・・・」

プロスペクターの悩みは尽きることがない。

「せっかくクルーが一枚岩になったというのに、彼があの調子では・・・・・・」

ゴートも悩んでいる。

「クルーの志気は高いのですが、だんだんと不満が出てきています、ミスター。」


地球脱出は、すこぶる順調にいった。
アキトの見た夢と違い、ネルガルは徹底的な根回しを行ったからだ。
また、ネルガルが全力を持ってナデシコ型戦艦の製造と軍への供給を行っているのも、軍の反ネルガルを抑えるのに役立った。

しかし、ナデシコは地球脱出の直前に、致命的な損失を出してしまった。
これは、誰もがミスマル・ユリカの責任と認めているものの、しかし誰もユリカを責めなかった・・・・・・(当のユリカは全く自己の責任に気が付いていない)

ナデシコの出した致命的な損失は、たった一人の男の半離脱であった。
いるときは誰も気が付かなかったが、いざ失ってみると、その痛みがボディブローのように効いてくる存在。

多くのナデシコクルーにとって、これまでただのおまけ程度にしか思われていなかった存在。

しかし、今現在は誰もが彼の偉大さをかみしめていた。



「なーんか、仕事がやりずらいのよねぇ・・・・・・」

ミナトがロイヤルミルクティのカップを口に運びながら、呟く。

「やっぱり、そうですよね・・・・・・」

メグミが、超ロングセラースナック・おっとっとを1つ口に頬張って応じる。

「私も、これほどまでに影響が大きいとは思いもしませんでした。」

ルリは、マグカップのホットミルクをふうふうとさましながら言う。

ここはブリッジ。
現在、定配置の3人以外は、多忙のためあちこちをかけずり回っている。
あまりの多忙さに、ユリカなどは半泣き状態であった。

「「「なんにせよ、困ったわねぇ(困りましたねぇ)・・・・・・」」」

別に彼女たちは仕事をさぼっているわけではない。
上の方で仕事が整理できていないため、彼女たちのルーチン・ワークのみなので異様に空き時間が出来てしまうのだ。
直接「彼」とは関係ない職分の彼女たちですらこうなのだから、たとえば整備班になると・・・・・・



「おい、プロスさん!
第3ブロックの改良プランはどうなってるんだ?
こちとら他の仕事も全部滞っちまって、仕事になんねーぞ!」

ウリバタケ以下の整備班の志気は、今現在最低の所まで落ちてきている。
なにせ、彼らは全員機械いじりが好きで、マトモに布団で寝るよりも鉄板の上でオイルの匂いを嗅ぎながら寝た方が熟睡できるような連中である。
ユリカ達の参加以降のナデシコは上の対応が早く、彼らにとって非常に働きがいのある職場だったのだが、このところユリカ達の到着以前のレベルにまで対応が落ちている。
なまじ良い状態を知った後だけに、以前並というのは以前以下に感じられ、整備班のフラストレーションはピークに達している。

「あの件に付きましては、もうしばらくお待ち下さい、ハイ」

プロスペクターも、汗を拭きながら対応している。

「もうしばらくってよ!
・・・・・・って、言ってもしゃあないか・・・・・」

原因がわかっているだけに、ウリバタケもあまり強くは言わなかった。

「あいつって、こんなにも頼りがいがあるヤツだったんだなぁ・・・・・・」

「全く、私どもも、恥ずかしながら今更のように『彼』の大切さを知りました。」

そう言って二人でため息をついた。



話のまだ分かるウリバタケの対応に向かったプロスペクターは、幸せだった。
ゴートは今、日本語の通じない男の相手で神経をすり減らしている。

「だっからよぉ!
これから宇宙で1ヶ月は戦闘三昧だったはずじゃねえか!
それが、なんでこんな辺鄙な宙域で浮かんでなきゃなんないんだ?」

「だから言っただろう。
具体的な戦略が確定してないからだと。」

「んなもん、このダイゴウジ・ガイ様がいれば、敵なんかあっという間にやっつけるんだからいらねえだろ!」

「戦略がきまらければ戦術もきまらん!
ただ戦えば良いって物では無い!」

「んな暢気な事言ってたらオレ様の見せ場が減るじゃんかよ!」

「減って良いんだ!」

ヤマダ・ジロウとの会話(?)は、ゴート・ホーリーの胃を急速に悪くさせていったという。



そして、最大の犠牲者にして諸悪の根元であるミスマル・ユリカも、艦長執務室にて缶詰状態となっていた。

「・・・・・・うう、ここで戦闘した後の補給はここでしか出来ないから、やっぱりここでの戦闘は無理か・・・・・・
あ、でも、ここのチューリップは後々の行動を考えたら絶対に潰しておきたいし・・・・・・
その前に、Aブロックの改修も終わらせないと・・・・・・」

戦略の天才にして戦術の鬼才、ミスマルユリカ。
しかし、彼女は「ひらめき型」であり、こういった細々した地道なことは苦手であった。

これまで常に彼女には優秀な補佐役がいたため、何の問題もなかったのだが。
今現在、その補佐役はいない。

「うう、ジュン君、助けて〜!!」

ユリカの泣き声が部屋に響いた。

 

 

 

 

「なんでこんな事になったんだろう?」

アキトがリョーコ達に聞く。

「知んねぇよ。」

リョーコが答える。

ここはトレーニングルーム。
パイロットは全員今ここにいた。

「ったくよう。せっかく『男の浪漫、漆黒の宇宙』に出たのに、オレ様の見せ場がねえじゃねえか。」

ぶつぶつ言っている男も居るが、誰も気にしない。

「え?リョーコは当然として、アキト君も解らないの?」

ヒカルが驚いたように聞く。

「おい、一寸待てヒカル。リョーコは当然ってのは何だ?」

「え?みんな知ってるの?」

リョーコとアキトが同時に別々の反応をする。
ヒカルはリョーコをとりあえず無視し、アキトに答えた。

「あのね、ジュン君は艦長のことが好きなのよ。
なのにその艦長がそのことに全く気が付かないばかりか、アキト君アキト君だもん。
辛いわよね・・・・・・」

そうだったのかと、初めて気が付いたアキト。
ほぼ全てのクルーが気が付いているのに、鈍すぎる気もするが。

「ならさ、オレ、ユリカに言ってくる!」

そう言って駆け出そうとしたアキト。
しかし、その肩を掴んでイズミが止める。

「それは駄目。
よく考えなさい。
ジュン君にしてみたら、恋敵の貴方に情けを掛けられて自分の想いを相手に伝えられて嬉しい?
それに、艦長はアキト君が好きなのよ。
好きな相手に、別の男からの思いを伝えられた艦長は傷つかない?」

普段がおちゃらけているイズミだけに、真面目なときは言葉が浸みる。
アキトはもう動くことが出来なかった。

「お、オレもそう思うぜ!」

リョーコがややあわててそう付け加えた。
さっき自分には解らないと言われたのが悔しかったのも有るのだろう。

「じゃあ・・・・・・オレ、どうすれば・・・・・・」

 

 

 

同じ頃。
ブリッジもその話題で盛り上がっていた。

「・・・・・・艦長も罪ですよねぇ。
振るとかならまだ解るんですけど、あれだけ一緒にいて『気が付かない』と言うのも・・・・・・」

「ジュン君、可哀想よねぇ・・・・・」

一通りの仕事を終えて、今ブリッジは暇だった。
メグミとミナトが盛り上がっている横で、ルリはウインドウでゲームをしている。

「でも、何で気が付かないかな、艦長も」

「だって、あの艦長ですから・・・・・・」

結局、結論はそこに行き着く。
別段ミナトもメグミもユリカをバカにしているわけではない。
艦長としては、尊敬すらしている。
しかし、1人の人間として見たとき、何とも頼りないのも事実だ。

そこに。

ピココパララピー♪

なにやら軽快なファンファーレが響いた。
みればルリが、もう何度目か解らないハイスコアの更新をしたらしい。
別に嬉しそうでもないルリに、ミナトは話しかける。

「ねえ、ルリルリも一緒にお話ししようよ。」

しかし、ルリは素っ気ない。

「私、少女ですからそういう話題は良く判りません。」

そう言って再びゲームに向かおうとすると・・・・・・

にぃやぁりぃ〜

2人の悪魔がルリににじり寄ってきた。

「あれ〜?
ルリちゃん、解らないって事はないんじゃないのぉ?」

「そうそう、アキトさんの事は、いっつもあんなに熱心じゃないのぉ?」

退屈は人を意地悪くする。
いい加減ジュンの話題に詰まっていたミナトとメグミは、ターゲットをルリに変更した。
この獲物はまだまだ子供で、かまいがいがある。
ルリにしても、心当たりが有りすぎるので、否定できない。
返事に詰まると容赦ないツッコミ。
ルリは真っ赤になりながら、なんとかポツリとこう言うのがやっとであった。

「・・・・・・バカ」


結局、アキトは直球勝負を選んだ。
ジュンの所に行き、2人で話す。
結局、自分に何か出来るとしたら、ぶつかっていくことだけだと思う。

「アキト」

途中ウリバタケに呼び止められた。

「ほらよ!」

そう言ってウリバタケが放ってきたのは、ウイスキーの瓶。
しっかりと「セイヤ」と名前が書いてあるのが、妙にウリバタケらしい。

「オレの秘蔵のウイスキーだ。
持ってけ。
酒でも飲んだ方が話しやすいって事もあるからな。」

そう言って手を挙げ、すたすたと帰っていった。

「ありがとうございます、セイヤさん。」

 

 

 

ジュンはベッドの上でただ横になっていた。
なにか、全てが虚しい。

子供の時からずうっとユリカだけを見てきた。
子供の時からずうっとユリカと一緒だった。
これからもユリカと一緒に居たい。
だから、ユリカがこの世界を選んだときは嬉しかった。
自分の2つの夢。
ユリカと何時までも一緒にいること。
地球を守ること。
それがこのまま叶うかもと思ったから。

でも、ユリカにとってボクはただの友達なんだ・・・・・・

そう解った途端、全てがどうでも良くなった。

もう、何もする気が無い・・・・・・

このまま・・・・・・

消えてしまえたら・・・・・・

コンコン!

部屋がノックされた。
しかし、ジュンには出る気はない。

コンコンコンコン!

・・・・・・

コンコンコンコンコンコン!!

「しつこいな・・・・・・放っておいてくれ!
ボクはもう誰とも会いたくないんだ!」

「テンカワ・アキトだけど・・・・・話があるんだ・・・・・・」



何故ドアを開けたのか、ジュンには解らなかった。
しかし、ジュンは起きあがり、自分でドアを開けた。



部屋に入ったアキトは、気が付いたらジュンをぶん殴っていた。
ほとんど乱れのない部屋。
ベッドだけが、ジュンの寝たあとを残している。
オレなら、部屋を滅茶苦茶にしてるだろうに・・・・・・
そう思ったらジュンの事が無性に悲しくなり、思いっきりぶん殴った。

「な!何をするんだ!いきなり!」

講義するジュンを、さらに殴りつける。
倒れたジュンを、馬乗りになって殴る。

「こんな所にいたって、何にもなんないだろ!」

そう言いながら、泣きそうな顔でジュンを殴るアキト。

 

「この野郎!」

ジュンがキレた。
頭突きをかましてアキトをのけぞらせ、左のパンチをアキトの頬にヒットさせる。
一見華奢に見えるジュンだが、実は強い。
特に左のパンチは、数々のK.O.記録を持つ。
アキトは軽く吹っ飛んだ。

「なんでボクがお前に殴られなきゃなんないんだ!
殴りたいのは、ボクだ!」

アキトに殴りかかる。
アキトも負けじと殴り返す。
後はもう、無茶苦茶だった。



殴れば拳が痛い。
殴られればもちろん痛い。
顔は腫れ、多分そこら中が青あざだらけになっているだろう。
お互い吹っ飛んだりしたので、部屋の中はだいぶ滅茶苦茶になった。
もう、腕を上げるのも億劫になってきた。
それでも、殴り合いを止めたいとは思わない。

「このやろう・・・・・・」

ぼこっ

「こいつめっ・・・・・・」

がこっ


そしてやがて。

「なんかもう、訳わかんないな」

「ああ、でも、なんかスッキリしたよ」

そう言って、お互い笑った。

「あはははは・・・・・いてててて・・・・・」

「あ、そうだ。
ウリバタケさんからの差し入れがあるんだけど、飲まないか?」

「ああ。」

切れた口にやたら浸みるウイスキー。

「いてて・・・・・うまいな、ジュン」

「あはは・・・・いて!うまいな・・・・・」

そして、飲みながら話題はユリカの事になる。

「ボクはずうっとユリカを見てきたんだ・・・・・・」

「ユリカ、鈍いからなぁ・・・・・・・」

「うん・・・・・・」

二人して深いため息を付いた。

「あのさ、ユリカには思い切ってハッキリと言わないと・・・・・・」

「うん・・・・・・でも・・・・・・」

踏ん切りがつかないジュン。
アキトはジュンの背中をバシンと叩き、

「思い切って、明日告白してみるのも良いんじゃないか?」

そう煽った。

 

 

 

翌日。

「どうしたの!?ジュン君!」

ユリカの大音声がブリッジに響いた。

しかしジュンはそれには答えず、

「皆さん、ご迷惑をおかけしました。
本日より頑張りますので、宜しくお願いします!」

そして、ユリカに向き直り。

「あのさ、ユリカ・・・・・・」

もう人前でもかまわない。
ボクは、思い切ってユリカに伝えるんだ。
そう思って、ジュンはユリカの顔をまっすぐに見て・・・・・・

「あのさ、あの、えっと・・・・・・」

「なあに?ジュン君。
あ、もう休まなくても良いの?
ユリカ達、ジュン君居なくて大変だったんだよ。
ジュン君がどんなにユリカ達のことを支えてくれてたか、よっく解ったの。
でも、無理はしないでね。」

心からの笑顔でそういうユリカに対し。

「こ、これからもヨロシク・・・・・」

結局何も言えないジュンであった。

『アキト君、今晩も付き合って貰うよ・・・・・・」


なお、後でルリはオモイカネから事のあらましを聞き、

「男の人って、解りません。」

と言ったという。
そんなルリに、

「大丈夫よ、ルリルリ。
男にだって女のことなんかわかんないんだから。」

ミナトはそう言って優しく笑った。



ウリバタケは挨拶に来たジュンを見て驚いたが、その後やってきたアキトを見て妙に納得した。

「酒はうまかったか?」

ただそれだけ聞くウリバタケにアキトも、

「はい。ごちそうさまでした。」

とだけ答えた。



普段は騒がしいガイも、アキトとジュンの怪我を見てニヤリと笑った。

「男ってのは、それで良いんだ、アキトよぉ」

その後いそいそと自分の部屋に戻っていったのは・・・・・・
自ら編集した「ゲキガンガー3 熱血ダイジェスト」を見るためだったという。

 

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<あとがき>

大変遅くなりましたが、やっと12話です。

ジュンの救済でしょうか? この話(笑)

なにせ、キノコが乗ってないし宇宙軍にも根回し済んでるしで、ジュンの爆発の場が無かったんですよ(笑)

もしジュンが休んだら、というのは、私の良く行く某チャットでの会話からのネタでした。

と言うわけで、また次回お会いしましょう。



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