機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第11話  「結 束」

 


その日の夜。
アキトの部屋に、ユリカとルリが集まった。

「・・・・・・だから、秘密が秘密である内は、未来って変えれないと思うの。
クルーのみんなに話して、協力を仰いだ方が良いと思うんだ、ユリカは。」

会話の中身は、今後の方針である。

「まあな。
オレ一人じゃ何も出来ないことは解りきっているし。」

ユリカの意見に、アキトも同意する。
ちゃぶ台の上には、ユリカが持ってきたお菓子が、山のように積み上げられている。
それを頻繁につまみながら、ユリカはアキトの同意が得られたことで嬉しそうに、

「でしょでしょ?
うーん、やっぱり未来の夫婦は、気持ちが通じるのね♪」

などとはしゃぐ。
アキトは苦笑したが、ルリは半眼でユリカを見て、

「誰もそんなことまでは言ってませんよ。」

と呟いた。

「あ、ルリちゃん、つめたーい!」

不平を言うユリカを無視して、ルリは続ける。

「大筋に於いては私も賛成です。
しかし、ネルガルの意向はどうします?
まずはプロスペクターさんを説得できなければ、ネルガルを敵に回すことになります。」

しかし、ルリの意見にもユリカは怯まない。

「あ、それはユリカに考えがあるんだ。
ネルガルも、そして艦長としてのユリカも頭を悩ませている問題があるんだけど・・・・・・
その問題をこのことで解決できるかもって、そう思ってるの。」

ユリカの言う「問題」。
アキトやルリには心当たりがない。
それもそのはず、艦内において、この2人だけがその問題で悩んでいないからである。

「そっか。
二人には解らないか・・・・・・
あのね、この間のユリカの放送以来、みんなは敵が同じ人間って事で、悩んでるの。
多分、このまま行くと、半分近くのクルーが降りそうだって、ジュン君が言ってた。」

やっと解る二人。

「でも、なら何で話したんです?
黙っていても支障は無かったでしょう?」

ルリが疑問を出す。
効率面でも人心の把握という面でも、あの秘密は秘密のままの方が良いのは自明だ。
するとユリカは、少し悲しげな微笑みを浮かべ、答えた。

「うん、ジュン君やプロスさんにも、そう言われた。
でも、ユリカが押し切ったの。
これからはイヤでもこの船は戦争に参加するんだし・・・・・・・誰かが、ううん。
もしかしたら、全員が死ぬかも知れない。
こうなることは解っていたけど、でも、死ぬかも知れない人たちに何も知らないままでいいなんて、ユリカには言えないし。」

ああ、それでか・・・・・・
アキトとルリは、漸くユリカという人間の根本に触れた気がした。
おちゃらけて、脳天気で、非常識なところがあるユリカ。
しかし、暖かな包容力と優しさのあるユリカ。
ユリカなりに、真剣にクルーを思いやっているのだ。

「ごめん、ユリカ・・・・・・」

アキトがユリカに頭を下げる。

「ごめんなさい、艦長。」

ルリも、頭を下げた。

「え?なにが?」

ユリカはきょとんとしてしまう。
こういう顔をすると、本当に無邪気な少女のようだ。

「オレ、一昨日、非道いことを言った。
自分のことで一杯一杯になってて・・・・・・
そうだよな。
大変なのは、オレだけじゃないんだよな・・・・・・・」

「私、ずっと艦長を誤解していました・・・・・」

アキトもルリも、本当にユリカにすまないと思った。

「あ、あはははは♪
そんな、いいんだよ、二人とも♪」

そう言いながら、ふとユリカは想う。
この2人って、本当の兄妹のようだな、と。

 

「それでね、話を戻すけど。
プロスさんが集めてくれた今のメンバー、正直言って誰も欠けて欲しくなんだ。
でも、私たちには強制なんて出来ない。
それでね・・・・・・」

 

 

 

翌日。
クルーの全員が既に配置に着いたナデシコ。
それぞれの心は、揺れている者が多かった。
後数日で、この船に残るかどうかを決める。
この船を降りれば、とりあえずは「戦争」に参加しないで済む。
ジュンの出した試算の通り、クルーの半数は船を降りることを決めかけていた。

そこに、コミュニケのウインドウが開く。

「おはようございます、皆さん。
艦長のミスマル・ユリカです。」

見ると、ユリカの後ろには、難しい顔をしたプロス、ゴート、ジュンと。
アキトが立っていた。

「お忙しいところすみません。
今日は、どうしても皆さんに聞いていただきたいことが有って、お仕事中にお邪魔しました。
これからお話しすることは、皆さんにはなかなか信じられないかも知れませんが、最後まで聞いてください。」

ユリカの前置きの後、プロスペクターが話し始めた。
前回には伏せられていた、アキトの秘密を。

流石にこんな与太話を簡単に信じられる者はいない。
ユリカの場合は、事前にネルガルから渡されていたトップシークレットの資料とアキトの話があまりにも一致していて、信じざるを得なかったのだが。
そんな物を一般クルーが目を通せるわけもなく・・・・・・
それでユリカが採った方法は、証拠を突きつけることであった。

すなわち。

アキトのボソンジャンプである。

アキトは手持ちのCCを使い、艦内のあらゆる場所に出現して見せた。
何もないところにいきなり現れ、またいきなり消えるアキトを見れば、どんな疑り深いクルーでも信じざるを得ない。

最後のジャンプで再びブリッジに現れたアキトは、ウインドウの中央に立ち、話し始めた。

「オレ、こんな力はいらないっす。
ただ、火星生まれと言うだけでこんな力を持っているけど、オレの見た夢では、奴らは火星生まれの仲間達を次々に実験台にし、殺していったんだ・・・・・・」

「戦争なんか、どっか違う世界の事だと思ってたっす。
でも、あの日いきなりチューリップが落ちてきて、目の前でみんなが死んだ・・・・・・」

フクベが、ぴくりとした。誰にも気が付かれなかったが。

「オレは、オレをお兄ちゃんと読んで慕ってくれた小さな女の子も、助けることは出来なかった・・・・」

アイちゃんは、夢では先火星文明の時代に飛ばされ、そして20年前の火星に再び飛ばされた。
悪夢によれば、死んではいないはずなのだが・・・・・・せめてイネス・フレサンジュという女性に会えなければ、確証は持てないアキトである。

「奴らには100年前の恨みが有るのかもしてない。
でも、だったら1年前のオレの恨みはどうなるんだ?
100年前の奴らの恨みを晴らさせるために、甘んじて耐えろと言うのか!」

話している内に激昂してきたアキト。
側に来たルリが、アキトの手を握る。

「・・・・・・あ・・・・・・・」

我に返るアキト。
ユリカが、アキトの後を受けて話し始める。

「彼らには、彼らの言い分があるんだと思います。
でも、私たちには私たちの言い分があります。
一方的に彼らの言い分を認めて私たちの幸せを捨てる必要は無いんです!」

落ち着いたアキトが、再び話し始めた。

「話し合いで解決できるのかも知れない。
でも、奴らは話し合おうとはしていない。
だから、奴らを話し合いの席に呼び出すためにも。
そのためにも、オレは戦って・・・・・・」

「そして、あの悪夢を壊したいんだ。」

 

 

 

最後にユリカが、決して強制はしないことをもう一度繰り返し。
しかし、是非残って欲しいことを希望し、ウインドウを閉じた。

放送が終わり、アキトがブリッジを出たところで、ユリカに呼び止められた。

「どうした?ユリカ。」

アキトの問いに、ユリカはなかなか答えない。
いつものユリカらしくもなく、うつむき加減に暗い顔をしている。

「・・・・・・ごめんね、アキト・・・・・
また辛いこと思い出させちゃって・・・・・・」

ユリカは、うっかりしていた。
アキトの見たユートピアコロニーの最後と、そのあと見た悪夢を聞けば、加害者意識に沈んでいるクルー達に別の側面を見せられるのは確かだ。
しかし、そのためには、アキトは向かい合わなければならないのだ。悪夢と、過去と。
そのことに、激昂していくアキトを見てやっと気が付いたユリカ。
そんな自分が情けないユリカであった。
アキトはユリカの頭をぽんと叩き、

「ばーか。」

と言う。
そして、照れくさそうに。

「ありがとうな、ユリカ。
・・・・・・オレは、一人じゃないんだな・・・・・・」

そう呟いた。

「昼はルリちゃんと一緒に来いよ。
お礼に、腕によりをかけた料理を作るからさ。」

その様子を、こっそりウインドウで見ていたルリは、安堵の笑みを漏らした。

・・・・・・良かった・・・・・・アキトさん、落ち込んでない。

安心してウインドウを閉じ、
・・・・・・ふと気が付くと、にたーっと笑ったミナトと目があった。

「良かったね、ルリルリ♪」

ルリは思わず赤面し、久々に呟いた。

「・・・・・・バカ・・・・・・」

 

 

 

その後も、地球各地をナデシコは転戦した。
途中、ニュースが入る。
連合宇宙軍は、木星蜥蜴に対しての切り札として、ネルガルのナデシコ級戦艦の採用を決定。ネルガルでは艤装の終わったばかりのカキツバタ・シャクヤクを宇宙軍に貸し出すと共に、ナデシコ級戦艦の大増産体制に入ったという。

「俺の夢だと、カキツバタやシャクヤクの完成はずっと後だったけどな・・・・・」

不思議に思うアキトに、ユリカやミナトと共に昼食に来ていたルリが言う。

「少しずつ、変わってきてるんですよ。きっと。」

翌日。
朝の食堂勤務が終わり、アキトはまっすぐにトレーニングルームへ向かった。
そこには、パイロット3人娘がいた。

「よ、よう・・・・・・」

リョーコが、照れくさそうに挨拶をした。

「あ、あのよ・・・・・・その・・・・・・なんだ・・・・・・」

何時までも言いよどむリョーコに痺れを切らし、ヒカルが変わって言う。

「もう、じれったいなぁ、リョーコは。
あのね、アキト君。私たち、残るって決めたから。
だから、協力させてね。」

そう言って、笑った。
一緒にトレーニングで汗を流し、先に3人娘があがった。

「それじゃ、お先にね、アキト君」

「北海道で食べたでかいカニ、それはタラバ、たらば・・・・・・さらば。・・・・・・プッ、くくくく・・・・・・」

「かえるぞ!ったく・・・・・・」

にこやかに手を振るヒカル、一人でうけているイズミ、イズミの背中を押すリョーコ。
アキトも、苦笑しながら、

「おつかれ!」

と返した。
と、ドアまで行ったリョーコが振り向いて、

「あ、あのな。」

「なに?」

「今度から、オレのことは名前で良いぜ。じゃあな。」

そう言って、さっさと出ていくリョーコ。
リョーコなりに、アキトの事情を知って、アキトを認めた証であったのだが。

「ふーん、ありがとう、リョーコちゃん」

そんなことには気が付いていないアキトであった。

彼女たちに限らず、それぞれがそれぞれにアキトの話を受け止め、考えたようである。
気が付けば、いつの間にか艦内の重苦しい空気が消えていた。

メグミは、ルリ達と食事に行くようになり、また良く笑うようになった。

ホウメイガールズは、またメンバーでじゃれ合うようになった。

一見何も動揺のないように見えた整備班でさえ、活気が違う。

ブリッジにも明るさが戻った。
冗談やラブラブ話が飛び交い、笑い声が聞こえる。
ただ一人を覗いて、前と同じ、いやそれ以上に艦内は活気に溢れてきた。

ただ一人・・・・・・・・

「ユリカ、アキトって誰さ!」

「ユリカの、小さいときからずうっと想ってきた王子様♪」

「ユ、ユリカァ〜!」

そう、ジュンを除いて。

 

 

 

結局、約束の1ヶ月が過ぎても、船を降りるクルーはいなかった。

「それでは、ナデシコ、進路を宇宙へ!」

ユリカの号令に、クルーがきびきびと動く。

「まあ、雨降って、地固まるってトコでしょうか・・・・・」

プロスペクターのつぶやきに、ゴウトがうなずく。
やっと、艦内にまとまりが生まれ、1つの船になった。

「結果オーライでしょう、ミスター。」

確かに、結果オーライであろう。
ただ一人、副長席で泣いている男を除いて。

「しくしく・・・・・・ユリカぁ・・・・・・」

 

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<あとがき>
奇をてらっているわけでは無いのですが、どうもTVの展開とかけ離れていくDD。
妙に時間がかかりましたが、やっと宇宙です(涙)

あ、サツキミドリには寄りません。解決済みですから。
だから、結構早くに火星に着く予定です。

火星にさえ着けば・・・・・・

連載挫折しても、いいわけが立つ!(爆)

などと言いつつ、火星以降の話が一番書きたかったことだったりして(笑)

あと、今回は一寸短かったですけど、話の区切り上、ここまでとしました。
それでは、失礼いたします。



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