機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第9話  「発 覚」

 


初戦の勝利という歓喜も、知ってしまった現実の前には霞んでしまった。
木星蜥蜴の正体を知ったクルーの反応は様々であった。


最もクールな対応をしたのは整備班であった。
というより、動揺してミスをすることが許されない職場である。
大した動揺もなく、日々整備に追われている。

「やっぱりここの耐圧に問題があるな・・・・・・。
交換しちまおう。」

戦いの後の整備で多少の不具合――――ジェネレーター周りの軽い熱暴走や焦げた配線など――――が見つかった。

「しかし、まあ、大した設計ではあるな・・・・・・・」

ウリバタケなどは感心する。
先行試作型と言って良いこの船で、グラビティ・ブラストを2発という過酷な使用の後で、この程度の不具合で済んでいるのだから。
試作型はだいたいそうだが特に軍用兵器では現地での大幅な改良が必要となる事が多く、最終的には別物となる部分も少なくはない。(こうした現場からのフィードバックが次の設計に生きるのである)
しかし、この船ではそう言った苦労は少なさそうである。

「もっと手が掛かるかと楽しみにしていたんだが・・・・・・」

マッド・エンジニアであるウリバタケは物足りなさそうである。

「でも班長、その分の時間で他の事が出来ますよ」

そう言って笑う若い整備員。
この整備員もマッド・エンジニアの傾向があり、ウリバタケと妙に馬が合う。
既にウリバタケを中心に「M.E.I.N.(マッド・エンジニア・イン・ナデシコ)」という怪しげなクラブを設立し、余暇を利用して日々怪しげな制作に燃えていた。

「まあ、な。んじゃ、さっさと終わらしてアレを設計するか!」

「アレ」とは一体何なのだろうか・・・・・・・・

 

 

 

 

「どうする?リョーコ・・・・・・」

ヒカルが暗い表情でリョーコに話しかけた。
ここは彼女たち3人の相部屋。
彼女たちは最も動揺している部類の人間である。
前線で直接戦うのは彼女たちなのだから、当然と言えよう。

普段なら彼女たちはトレーニングに行っている時間ではあるが、今日は3人ともさぼりである。
ベッドの中から起きあがる気がしないリョーコ、イスに座って天井を見上げるヒカル、瞑想ルームに閉じこもっているイズミ。
相手が同じ人間だったというのは彼女たち前線のパイロットにとってはかなりのショックであった。

「・・・・・・」

リョーコは何も答えなかった。

最も、同じパイロットでも男性陣に動揺は無い。
アキトもガイも事実を知っていたからだ。
ガイはのんきに一人ゲキガン大会をやっていた。

 

 

 

 

 

「ミナトさん、メグミさん、そろそろお昼にしましょう。」

ブリッジ。ルリ、ミナト、メグミ以外は先に食事に行き、戻ってきたところである。

「私は今日もあまり食欲無くて・・・・・・」

メグミが乗り気でない事を告げるが、

「駄目だよ、メグちゃん。
昨日もそう言ってお昼食べなかったじゃない。」

ミナトがそう言って引っ張っていく。

「それでは艦長、私たち3人は食事に行きます」

「あ、はい。いってらっしゃい」

ルリがユリカに言い残し、3人はブリッジを後にした。

「ふう、メグミちゃんは大分堪えているようだね・・・・・・」

閉じられたドアを見ながら、ジュンがユリカに話しかける。

「仕方ないよ。
いきなりあんな秘密を知らされたんだから。」

答えるユリカも気が重い。
パイロット3人娘の落ち込みも非道いらしい。

プロスペクターとゴウトも浮かない顔である。

「正直ネルガルでも最後まで揉めたんですよ、あそこまで話すかどうか。」

それに対してユリカはきっぱりと言う。

「話していただいたことは間違いでは有りません。
この船は民間所有とはいえ軍艦なんですから、自分たちの戦う相手のことは知っておくべきです」

そしてユリカは冗談っぽく、

「もし何も知らされないでいたことが後で判ったら、それこそサボタージュや反乱になりましたよ♪」

これには、アキトの悪夢を知っているプロス達も苦笑するしかなかった。

「今は皆さんには大いに悩んで頂くしかないですね。
強制できることでは無いですから。」

 

 

 

 

 

 

数日後、整備の終わったナデシコは戦場に赴いた。
任務はチューリップの破壊。
今回の戦闘からアキトもエステバリスで出陣した。
とりあえずは戦場に慣れるという意味で、後方守備ではあったが。

「どひゃひゃひゃひゃ〜!来い!キョアック星人の手先め!」

相変わらず絶好調のガイ。

「行くぜぇ!

ガイ!スーパー・ナッパー!!

既に一人で敵バッタを100は破壊した。
落ち込んでいた3人娘も、戦闘となると頭を切り換えたようだ。
こちらも既に、3人で50機を落としている。

「グラビティ・ブラスト、はっしゃー!」
ユリカのかけ声と共にチューリップは破壊された。

しかし。

「あ、やばい!3機見逃しちまった!
アッチにはコックしかいねえぞ!」

焦るリョーコの声。
やはり集中力が衰えているのだろうか。
いつもならやらないようなミスをしてしまう。

3機のバッタはナデシコに肉薄し・・・・・・・・

ガガガガ!

下からのバルカン砲の攻撃により、四散した。
テンカワアキト、初陣にてバッタ3機撃墜。

 

 

 

 

 

 

アキトは後方で戦況を見ていた。
正確には見ていることしか出来なかった。
ガイはともかく、3人娘はフォーメーションで動いている。
そこにアキトの入る場所は無かった。

「おめえは、とりあえず戦場に慣れろ!」

リョーコの言葉に他の全員がうなずき、かくして後方にて傍観が決まった。

「アキトくーん、頼んだわよ。」
「アキトさん、頑張ってくださいね。
私、信じています。」

出撃直前、ミナトとルリからこっそりと通信で激励されたが、だから苦笑するしかなかった。
ミナトがルリをせっついたのだろう。
照れながらも激励してくれた妹が可愛かったが。

配置は戦場の後方。
決して間近に敵を見られる所では無い。
しかし・・・・・・
アキトの身体はすくんだ。

戦場の恐怖。

TVで見るのとは訳が違う、実際の戦場。

幾ら離れているとはいえ、自分が今殺し殺される場に居るという事実は、やはり怖い。
知らず、ユートピアコロニーの最後を思い出してしまう。

「あ、やばい!3機見逃しちまった!
アッチにはコックしかいねえぞ!」

通信で響くリョーコの声。

来る・・・・・

思わず足が震える。

「はあ、はあ、はあ・・・・・・・」

知らず、呼吸が上がる。
レーダーに映る敵影。
モニターでも確認できる。

フラッシュバックする記憶。

爆発音。
振り向いた自分の目に見えた、さっきまで生きていた人々。
アイちゃん。

「・・・・・・うっ」

恐慌を来たす寸前。

『アキトさん、頑張ってくださいね。
私、信じています。』

先ほどのルリの表情が脳裏に浮かんだ。

「・・・・・・護る!
オレは、今度こそ護ってみせる!」

身体の震えは収まり。
練習通りにアキトは3機のバッタを撃破していた。

「いよう!やるじゃないか、アキト!」

ガイの祝福がコミュニケで聞こえた。

 

 

そして、これが新たな幕開けであった。

 

 

 

 


「アキト・・・・・・?」

ユリカが首を傾げた。

「ジュン君、アキトって?」

ユリカの前方で、ルリが身体を堅くした。
僅かに気がついたのはミナトのみ。
ジュンがウインドウを開き、説明を始めた。

「この人だよ、ユリカ。
名前はテンカワ・アキト。
ナデシコにはコック兼パイロットとして搭乗。
18歳、火星出身・・・・・・・」

「あ、このコックさん・・・・・・・
・・・・・・テンカワアキト・・・・・・アキト・・・・・・アキト?」

 

 

 

 

 

 

 

 

帰還したアキトたちを迎えたのは、整備員達の拍手喝采であった。

「この野郎!見せてくれるじゃねえか!」

「かっこつけやがって!」

まるでここぞという場面で逆転のホームランを打ったバッターのようにアキトは熱烈に祝福された。
頭を叩く者、背中を叩く者、蹴りを入れる者、どさくさ紛れにカンチョーする者・・・・・・

「痛い、痛いっす!勘弁してください!」

このとき、アキトはガイも一緒になって自分を蹴っていたことに気がついた。

「ガイ!てめえ!」

「わっはっはっは!いいじゃねえか、アキトよお。」

そこにウインドウが開く。

「アキトさん!」

「ルリちゃん!」

この子のために、自分は頑張れた。
そういう感慨がアキトの胸中に溢れ・・・・・

「アキトさん、艦長にばれました・・・・・・」

「は?」

ずどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど

バタン!

けたたましい足音が近づき、乱暴にドアが開けられ・・・・・・

「アキト!アキトなの?」

周りの一切に目もくれず、ユリカがアキトに突進してきた。

「もう、どうして黙っていたの?
相変わらず照れ屋さんだね!」

そう言って、アキトに抱きつく。

「「「「おお!」」」」

呆気にとられる周りの一同。

「心配したんだよ、アキト!
でも良かった、こうして会えて♪」

言っている台詞と表情は軽いが、胸には万感の思いがあるユリカ。

「・・・・・・」

アキトは無言であった。
夢で恋い焦がれ、狂気の道にまで走って追い求めたユリカ。

愛してる・・・・・・!

そのユリカが今。

抱きしめたい。
腕を動かせば、その願いは叶う。
ユリカは今ここにいる。

アキトを、夢の中のアキトが占めている。

ユリカ!

抱きしめようと腕を動かしかけた刹那。

『アキトさん』

ルリの、少し照れたような顔が脳裏に浮かんだ。


 

 

 

 

コノ ユリカ ハ、アノ ユメデノ ユリカ デハ ナイ・・・・・

コノ オレ モ、アノ ユメデノ オレ デハ ナイ・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・

やっとの思いで、アキトはユリカの肩を掴み、引き離した。

「何の冗談だ?艦長。
オレには、アンタに抱きつかれる覚えは無いんだけど・・・・・」

なるべく平然と。
アキトはユリカに言った。

「まったまた!昔はユリカユリカって、私のことを追いかけてばかりだったじゃない♪
懐かしいね、アキト♪
そうそう、そう言えば・・・・・・」

機関銃のように興奮して話し続けるユリカ。
しかし。

「アンタの勘違いだ。
オレには覚えがない。」

そう言って、アキトはきびすを返し、格納庫を出ていった。


 

 

 

 

 

 

部屋に戻ると、ドアの前にルリが居た。

「・・・・・・」

何も言わないルリ。
何も言わないアキト。

ドアのロックを解除し、そのまま中に2人で入った。

やがて。

「笑っちゃうだろ?ルリちゃん。
こういう日が来るのは判っていたのに、オレ、舞い上がっちゃってさ・・・・・・」

自嘲気味に、笑いながら話し始めるアキト。

「笑いません。」

ルリは、そんなアキトにキッパリと言う。

「笑いません。私は。」

真剣に、まっすぐにアキトを見て、ルリは言う。

その目を見て。
捨て鉢になりかけたアキトは、ようやく自分を取り戻す。

「・・・・・・ありがとう・・・・・・」

そう言って、ルリの小さな頭を抱きしめた。

「・・・・・・私は、何も・・・・・・」

「いいや、もう何度も助けられているよ、ルリちゃんには・・・・・・」


 

 

 

 

 

 

「なんで?どうして?」

ユリカは泣きそうであった。
子供の時から、また必ず会うんだと決めていたアキト。
ナデシコの艦長になり、絶対に助け出すと決めていたアキト。
あの人はアキトのはずなのに。

「絶対変よ!」

あの目元、顔つき、髪型。
絶対にアレはアキトだ。

「・・・・・・そっか、きっとアキトったら、みんなの前だから照れちゃったんだね。
もう、本当に照れ屋さんだね♪」

照れ屋さんのアキトと話すにはどうしたらよいか?
他に誰もいない・・・・・・例えば、アキトの部屋に行けばよい。
決断、即実行。
このあたり、確かにユリカは名艦長の素養が有るのかも知れない。

こんこん!

アキトの部屋の前。
待つことしばし。
がーーー。
ドアが開き、アキトが居た。

「アーキートっ。
もう、アキトがあんまり照れ屋さんだから、ユリカが来たよ♪」

そうだった・・・・・・コイツはこう言うヤツだった・・・・・・

諦めと共に、ため息を付くアキト。

「うわあ、なんか、男の人の部屋って言う感じだねぇ。
あ、ルリちゃん」

座布団にチョコンと座っているルリに気が付く。

「えー?なんで?なんでルリちゃんがアキトの部屋に?」

う・・・・
アキトは狼狽した。
『ひょっとして、またロリコン呼ばわりされるのか?オレは・・・・・・』

 

しかし。

 

「知り合いだからです。」

あっさりと答えるルリ。

「あ、そうかぁ。お知り合いさんなら、当然だね♪」

あっさりと納得するユリカ。

・・・・・・「当然」なのか?

ユリカの大騒ぎを予想し、動揺したアキト(何せ、『ロリコン』呼ばわりばかりされている)は、拍子抜けしてしまった。
・・・・・・オレって、バカ?

そして、ユリカは(一方的に)話し始める。

「もう、アキトったら、いくら照れくさいからって、さっきのアレは非道いよぉ。
ユリカ、ぷんぷん〜!
でも良かった♪こうしてアキトに会えて。
ユリカ、火星のことを聞いて、スッゴク心配したんだよ。
でも、さっきは危ないところをありがとう!
やっぱり、アキトはユリカの王子様なんだね♪」

アキトにとっては、地獄のような時間であろう。
強烈な思いが燻る相手からの、強烈なラブコール。
しかし、問題は、その「強烈な思い」の正体だ。

このまま何時までもユリカのマシンガントークが何時までも続くと思われたとき。
それまで黙って聞いていたルリが爆発した。

「艦長!
これ以上アキトさんを苦しめないでください!」

ビックリするユリカとアキト。

「お願いです!
艦長がそう言うことをすればするほど、アキトさんは苦しむんです!
だから・・・・・・」

最後は、言葉にならなかった。
アキトに抱きしめられたから。

「いいんだ、ルリちゃん。
ごめんな、オレがこんなだから、ルリちゃんに心配ばかりかけて・・・・・・」

そして、ユリカを見て。

「ユリカもごめんな。
オレ、逃げていた。
本当は、もっと早くに話すべきだったと思う。」

きょとんとしているユリカ。

「これから話すことを、真剣に聞いて欲しい。
オレの見た、『悪夢』の話を。」

 

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<あとがき>

はっはっは。

何回下書きをボツにしただろう・・・・・・・・今回の話・・・・・・・・(涙)

ようやくまとまりました。

正味で、これまでの2話分の手間かかりました(遠い目)



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