機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第8話  「戦 闘」

 


 

「さて艦長、申し訳ないのですが打ち合わせ通り・・・・・・・。」

プロスペクターがユリカに目配せをした。

「はい!
それではミナトさん、ナデシコをこのまま現座標に固定してください。」

ユリカもそれに応じ、操舵士のミナトに指示を出す。

「ええ?せっかく発進したのに、ゲートを出たばかりのこの位置で止めるの?」

驚くのは当然であろう。
現在ナデシコの位置は、ゲートを出たばかりの海底である。
しかし。

「ハイ!」

戸惑い顔のミナトに満面の笑顔で答えるユリカ。

「ナデシコはこれより最長で2時間、この位置に潜伏いたします。
総員戦闘配置に着いてください。
2時間後までに敵襲がない場合は、ナデシコは南米に向けて進路を取ります。」

その指示にはクルー全員が首を傾げつつ、それでも従った。

「ルリちゃん、レーダー感度を最大にして置いてね。
敵影が見えたら第1種戦闘態勢発令。」

「はい。」

 

 

 

 

「なんだって、こんな海の中でオレたちゃじっとしてなきゃなんないんだ?」

「さあね・・・・・」

とりあえず整備班にはやることがない。
発進に当たってなんの不具合もなく、日常のルーチンワークも既に終わっているからだ。

「敵が来るかも知れないって言うけどよ・・・・・
あ!てめえだろ!クラブの8を止めてるの。
さっさと出せよ!」

「お前がここのハートの4を出したら、オレも出してやるよ。」

各々、とにかく暇つぶしをしている。
だらけているように見えるかも知れないが、彼らを束ねるウリバタケ自らが、

「はいはい、艦長とルリルリの写真はもう売り切れだよ。
残りはメグちゃんとミナトさんとパイロット3人娘だけ。
イズミちゃんの写真は3割引だ!」

「班長、食堂の女の子の写真はまだっすか?」

「今印刷してるよ〜。」

と、商売に燃えている。

 

 

 

 

 

 

 

「うおお!まだか!キョアック星人は!」

青いエステバリスの中では、暑苦しい男が一人で張り切っていた。

「うるせーぞ、やまだー。」

「ダイゴウジ・ガイだ!」

リョーコの苦情にツッコミを入れつつ、痺れを切らしたガイはブリッジにコミュニケを入れる。

「ナナコさん!敵はまだ来ないのですか?!」

面食らうブリッジクルー。

「ナナコさん、て?」

「多分艦長の事だと思いますよ。」

首を傾げるユリカと、冷静に対処するルリ。

「私はユリカなんですけど・・・・・
指示は先ほどしたとおりです。
ヤマダさんはそのままエステで待機してください。」

「だからオレはダイゴウジガイだって!!」

 

 

 

 

 

 

「テンカワ、お前はいいのかい?」

ホウメイが昼用の下ごしらえをしながらアキトに聞く。

「ええ、オレ、予備パイロットっすし。
まだフォーメーションの邪魔になるんで、出番無しっす。」

包丁を動かす手を止めずに答えるアキト。

「だから、自分の出来ることをやります。」

 

 

 

 

 

 

ナデシコが海中にて待機を始めて1時間後。

「敵影を捕捉。
3時の方向より敵無人機多数の反応です。」

ルリの声がブリッジに響き渡った。

「時間通りでしたなぁ。
では、艦長。」

のんびりとしたプロスペクターの声に促され、ユリカがてきぱきと指示を出す。

「ナデシコ、グラビティ・ブラストチャージしつつ緊急浮上。
浮上後、エステバリス隊発進。
目的は基地周辺から離れた所へ敵を誘導すること。
ナデシコは浮上後、敵の真ん中にグラビティ・ブラストを発射。」

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 

 

 

 

戦いは一方的であった。
基地周辺にたどり着く直前の敵に、ナデシコがグラビティ・ブラストを発射。
この時点で敵数は3割減。
同時に発進したエステバリス隊が敵に突っ込み、攪乱しつつ誘導。
そして、最後に一カ所に集まった敵を、再びグラビティ・ブラストにて、今度は一掃。

 

 

 

 

 

 

戦いで目立ったのはガイであった。

「ふははっはははははっはは〜〜!」

笑いながら、何も考えずに敵に突っ込むガイ。

「あ、おい、バカ!いきなりフォーメーションを乱すんじゃねえ!」

リョーコの制止も馬耳東風。

「無駄だよ、リョーコ。あのガイ君だもん。」

ヒカルが諦めたように言えば、

「バカは死ななきゃ直らない、てね。」

シリアスモードのイズミも冷たく言う。

「あぁぁぁぁぁ・・・・・相変わらず変なヤツ・・・・・」

皆の冷静な反応を受け、頭を抱えるリョーコ。

「ったく。
しゃーない。バカは放っておいて、あたし達だけのフォーメーションで行くぞ!」

 

 

このとき、パイロット達以外のナデシコクルーも、全員がガイの死を確信したという。

壮絶な無駄死にを。

 

 

しかし。

「どわはははははははははははは!」

笑いながらガイは、

「ゲキガンフレアー!」

のかけ声と共に敵影の最も濃いところに突っ込み、

「どうだ!
見ていてくれたかい?ナナコさん!」

無傷で敵多数を撃破した。

 

 

 

 

 

 

「うそ・・・・・」

見ていた全員の目が点になった。

「・・・・・・すごい・・・・・バカだけど、すごい・・・・・・」

何せ、ガイはまだ1発の弾薬も使っていない。
今使ったのはディストーション・フィールドだ。

「母なる大地を!
緑の地球を!
このオレが護る!」

敵中を突っ切り、振り向いて決めぜりふを言うガイ。
もう、ノリノリである。
木星蜥蜴7割がガイを第1殲滅目標に切り替えたようだ。

「ゲキガン・パーンチ!」

乱戦となり、嬉々として格闘を始めるガイ。

「・・・・・・ヤマダさん、大丈夫なようですね。」

ルリがぼそっと言い、ブリッジが我に返る。

「あ、そ、そうね。
ルリちゃん、リョーコちゃん達の様子は?」

取り繕うように確認をするユリカ。

「はい、ヤマダさんの方に行かなかった敵機動兵器と交戦中。
敵、後3kmの移動で安全圏に移動します。」

 

 

 

 

 

 

「おら、そっち行ったぞ!ヒカル!」

リョーコの牽制により、蜥蜴3匹がヒカルの待ちかまえる方に迂回する。

「はーい。
うりゃ〜!
これで23機目♪」

マシンガンにより敵を蜂の巣にするヒカル。

「敵の誘導が目的なんだから、数を落としても意味無いわよ。」

シリアスモードのため、黙々と敵を探索し、時として撃破するイズミ。
このトリオのフォーメーションでは、指揮と切り込み役をリョーコが、リョーコのバックアップをヒカルが、状況分析と残存の掃討をイズミが担当している。

「そろそろ誘導目的地に着くわよ。
ガイ君もそろそろ切り上げないとやばいよ。」

イズミの指示に、

「おう!
それじゃこれで最後、っと。」

ついでとばかりにバッタを屠り、きびすを返すガイ。

 

 

 

 

 

 

「敵、完全に市街から外れました。
エステバリス隊も射程から外れました。」

「それでは、本日2発目のグラビティ・ブラスト!
発射〜!」

 

 

 

 

 

 

「木星蜥蜴も電気羊の夢を見るのか・・・・・・・」

敵が消えた後の空間を眺めながら、シリアスモード・イズミがぼそっと言う。

「・・・・・・・変なヤツ変なヤツ変なヤツ変なヤツ変なヤツ!」

リョーコの声が何時までもリフレインしていた。

 

 

 

 

 

 

戦闘終結後、艦内全ての部署にウインドウが開いた。

「皆さん、お疲れさまでした。」

ユリカである。

「さて、皆さんにはご質問が有ると思います。」

ウインドウのユリカがそう言うと、

「「「「「「「はいはいはいはいはいはい、しっつもーん!」」」」」」」

途端に多数質問したいクルーのウインドウが開いた。
それに対し、

「それでは、私の方から説明いたしましょう。」

代わりにウインドウに登場したのはプロスペクターである。

「まず、今回の事について説明します。
今回の襲撃は、あらかじめ予想できていました。」

流石に驚き、言葉もないクルー。
自分の言葉が浸み渡るのを計ったかように、プロスペクターは間を空け、そして続けた。

「今回のことはネルガルにとって、予想していた自体でした。
これからお話しすることは、ネルガルにとっても軍にとっても最重要機密ですので、皆さんご内密に願います。

ネルガルは、ある企業を徹底的に調査することで、今回の事を事前に察知していました。
その企業については、まだ明言を避けます。
そして、ネルガルはその企業に対し逆リークをしかけ、相手はまんまとそのリークに踊らされて今回の襲撃となりました。」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。
じゃあ、木星蜥蜴って言うのは地球の中にいたのか?」

当然の疑問。
そして、そのことを予期していたプロスペクターは淡々と答える。

「いいえ、地球にいるのは、あくまで協力者です。」

そして、続けた。

「木星蜥蜴とは、100年前に月を追放された、地球人の末裔です。」

 

 

 

 

 

 

ネルガルでも、意見は2分した。
クルーにここまでの情報を流すべきか否か。
結局、情報公開することにしたのは、土壇場で裏切られることの痛みの方が大きいことと、ネルガルの目的はあくまで「ジャンプシステム」であるからであった。

 

 

 

 

 

 

「木星蜥蜴とは100年前追放された地球人の末裔です。
彼らは、おそらく偶然に発見した古代火星のオーバーテクノロジーを手に、地球に復讐するために戻ってきました。」

もはや艦内には咳一つ聞こえない。
衝撃的なプロスペクターの「説明」に、艦内は重苦しい沈黙に包まれた。

何とか理解するのに精一杯。
そんなクルーの状態であった。
ごく少数の例外を除いて。

プロスペクターとゴウトは当然全てを知っていた。
ユリカとジュン、フクベも事前にそのことを聞いていた。
後は、『悪夢』によってそのことを知っていたアキトと・・・・・
そんなことには興味のないルリが、平静であった。

 

 

 

 

 

 

「順を追って説明します。
ネルガルも、20年ほど前に偶然に火星の古代遺跡のオーバーテクノロジーを手に入れました。
木星蜥蜴の物と同質・同等のテクノロジーで、先ほど彼らのテクノロジーについて述べた根拠もそれです。
また、このナデシコもそれらの研究データから作られた物です。」

プロスペクターの説明を聞きながら、ルリは思う。
何故、周りのみんなはこんなにショックを受けているのか、と。
もしやと思い、こっそりとウインドウでアキトの姿を確認する。
そして何ら動じていない様子の彼を見て、ホッと安心した。

 

 

 

 

 

 

「彼らには彼らの正義があるのでしょう・・・・・・
100年前に地球を追われた恨み。
未開の世界での苦労。」

ここで言葉を句切るプロスペクター。
相手が「同じ人間」ということでのクルーのひるみを考慮しなくては、折角集めた一流クルーを逃がしてしまう。
ユリカではなくプロスペクターが説明しているのも、彼の人心把握能力が見込まれての事である。

「しかし、我々には関係がありません。
彼らの攻撃の所為で、多くの罪のない命が奪われました。
私も大切な仲間が生死不明です。
きっと皆さんの中にも、そう言う方がいらっしゃるでしょう。」

言いながら眉根を歪め、何かに耐えるような表情のプロスペクター。
聞きながら、知らずぐっと手を握りしめるユリカ。

 

 

 

 

 

 

「ですが。
我々は木星蜥蜴との戦争を目的にこの船を造ったり皆さんを集めたのではありません。」

ここでプロスペクターは表情を変える。
先ほどまでの悲しみ、怒りの表情はもう無い。

「私たちの目的は、火星に行くことです。
火星に行き、企業として企業の財産を取り戻しに行きます。
財産とは、生き残っているかも知れない火星の住民と、彼らが残している研究成果です。
ネルガルの火星施設はシェルター構造になっていますので、可能性は高いのです。」

そして、一息を付く。

「以上のことは、皆さんにとってはあまりにも唐突で戸惑うことだと思います。
従って、皆さんに選択の機会を用意しました。
これから1ヶ月半の間、ナデシコは皆さんの習熟のために地球圏にて木星蜥蜴との戦闘を行っていきます。
その間、皆さんがこの船を降りる意志を固めた場合、私に申し出てください。
なるべく速やかに退艦し、元の職場に戻れるようにいたします。
以上です。」

この日の内に退艦を希望した者はいなかった。
そして、ナデシコは地球でのクルー訓練及び機械のバグ出しのための処女航海に出ていく。

 

 

 

 

 

 

「彼らは非常にうまくやってくれたようだね、エリナ君。」

ネルガル会長室。
アカツキはエリナから受け取った報告書を読むなり、そう言った。

見事なまでの一方的な勝利で、視覚的宣伝効果は抜群であった。
そして、数字上の説得力――――被害額――――も非常に少なく(木星蜥蜴の放った流れ弾による被害が多少有った)、人的被害は皆無。

「これでウチも新戦艦を軍に売り込みやすくなったよ。」

そう、ナデシコが1ヶ月以上も地球圏にいるのは、先に挙げたクルー及び艦の習熟の他に、もう一つ。
ナデシコ級戦艦の売り込みのための宣伝という理由であった。
今は非常時とはいえ、長い太平の間に官僚化した軍部に予算を付けさせるのは容易ではない。
しかし、現状ではほとんど通用しない地球の兵器の中、唯一敵を圧倒するナデシコ級及びエステバリスの活躍を目にすれば、鈍重な官僚もすぐに予算を付けるはず。

「後は、『彼』が言っていた軍部による一方的な接収が問題ですわね。」

エリナが注意を喚起すると、

「ああ、それは大丈夫だよ。
十分な根回しと脅しをかけておいたから。」

そう言って人の悪い笑いを浮かべるアカツキ。
その表情を見て、

『コイツったら本当に楽しそうに悪事をするわね・・・・・・・・』

エリナはつくづくとそう思ったという。

 

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<あとがき>

つかれた・・・・・・・・

何とか書き上がり、アップできました。

時間がないので、あとがきはこれだけ・・・・・・・



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