機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第7話  「前 夜」

 


 

「アキトさん、ユリカさんって、一体・・・・・・」

人気の無くなった食堂で、いつもの遅い昼食を取るルリとミナト。
メグミは今回は、手続きの関係で早めの昼食となり、既にブリッジにいる。

「ルリちゃんのお兄さんの料理なら、あたしも食べたかったなぁ・・・・・」

メグミはそう言って、たいそう残念そうだったが。

今日の注文はオムライス(サラダ付き)であった。
アキトはしめて10人分の(ホウメイとホウメイガールズ、そしてアキト自身の分を含む)オムライスを作ることになった。
サラダはホウメイガールズが担当したが、アキトの彼女たちへの指示を見て、

「やるじゃないか、テンカワ。」

ホウメイは弟子の働きに満足したという。

 

 

 

 

 

「・・・・・あ、その、えーと・・・・・・」

冒頭のルリの質問に、言葉が詰まるアキト。
ルリの隣でオムライスを食べていたが、その手が止まる。

「子供の時も頭が良くて優秀だったけど・・・・・・」

・・・・・・・ただ、性格が・・・・・・・・

そう言いたいのだが、さすがにそれは気が引けた。

「まあ、あたしは気に入ったわよ。
カチコチの人が来ると思っていたから、あの人ならうまくやっていけそう。」

ミナトがフォローを入れる。
しかしそう言うミナトにしても、相当なショックであった。
現に、ミナト(とルリ)は、「今朝の一件」をショックのあまりに忘れてしまい、それでこうしてアキトの所に来ることが出来たのだから。
もし、そのショックがなければ・・・・・・二人とも、1週間は食堂に近づけなかったであろう。

「でも、何か不安で・・・・・」

ルリがこぼした。
その不安は、民間所有とは言え生死が隣り合わせの「戦艦」のクルーとしては、当然であろう。
しかし、その不安も出発までの1週間でかなり軽減された。


 

 

 

 

 

 

 

「ユリカ、いきなりぶいは不味いだろう・・・・」

ブリッジ、艦長席。
渡された資料に目を通し、必要な事項の決済をしているユリカに、ジュンが小言を言った。

「え〜!だって、ユリカは艦長さんなんだから、みんなのハートをキャッチして、いい関係を作ろうと思ったんだよ?」

子供のように、「何が悪かったの?」という表情で聞くユリカ。
この顔をされると子供の時からジュンは何も言えなくなっていた。
しかし、今はユリカは艦長、自分はその補佐をする副官である。
必要な諫言はしなくては。

「いや、しかしね、ユリカ。
人の上に立つ人間が、あまりちゃらんぽらんだと、下の人間が困ることになるんだよ。」

なんとか怯まずに言えた自分に満足するジュン。
ユリカも、

「そっか・・・・・ありがとう、ジュン君。」

と素直に聞き入れた。

『う・・・か、かわいい!』

まっすぐな瞳で自分を見るユリカに、思わず萌えてしまうジュン。

「ん?どうしたの?ジュン君。」

そんなジュンの心の内など知る由もないユリカは、純真な眼で不思議そうにジュンを見つめる。

 

『う、うおおおおお!』

 

今やジュンは萌え死に寸前である。

そこに。

ジュンにとっては命の恩人が会話に参加してきた。

「くすくす!」

笑い声の主を見ると、通信席に座るおさげの女の子であった。

「あ、ごめんなさい。つい・・・・」

自分に注目が集まっていることに気が付き、非礼をわびる通信士。

「ううん、いいのよ。えっと・・・・・メグミさんでしたね。」

そう言って微笑むユリカ。

「わあ、凄い。もうあたしの名前覚えちゃったんですか?艦長!」

驚くメグミ。
メグミ自身は、人の顔と名前を覚えるのが得意ではないので、余計に感心してしまう。

「うん。私、これしか取り柄がないから。」

そう言って微笑むユリカ。

「いえ、凄いですよ。
私なんて、人のこと覚えるの苦手で・・・・・
でも、艦長と副長って、仲が良いんですね。うらやましいです。」

その言葉を聞いて、急にシャンとなるジュン。
何とか「お似合い」と言って欲しい、彼なりの虚勢である。
しかし・・・

「うん!ジュン君はユリカの、子供の時からの大切なお友達なの!
これからもずうっとお友達!
ね、ジュン君!」

満面の笑みを浮かべてそう言うユリカに、端から見てハッキリと解るほどに落胆したジュンは、力無く

「・・・・・・そうだね・・・・・・・」

とポツリと答えた。

 

 

 

 

なにはともあれ。

ユリカの着任は、当初イロモノじみた見方を艦内でもする者が多かったが。
出発の前日にはそう言う否定意見は無くなった。
まず、艦内の的確な把握。
そして、迅速な決済。
要求した事への対応の早さ。
ユリカと、それをサポートするジュンの仕事ぶりは、僅か1週間で信頼を勝ち得るにふさわしいものであった。

 

 

 

「艦長って、いいよな。」

グラビティブラストの整備をしながら、整備班員AがBに話しかける。

「ああ、なんか仕事がやりやすくなったよ。」

Bも同感であった。
これまで、巨大企業であるネルガル故、どうしても必要なスパナ1つの補充にも煩雑な手続きと時間が必要であった。
しかし、ユリカとジュンがプロスペクターと会議をし、そう言った遅延は最小限にまで縮まった。

「美人で明るくて気だての良いお嬢様。これは、萌えるぜ!なあ。」

AがBに同意を求める。
しかし、Bは、

「いや、萌えるならルリルリだろ?
お前、あの挨拶の時の萌えをわすれたか?」

と切り返した。

「何いってんだ。やっぱり、出るトコ出ている方がいいだろう?」

「何!お前、我らが聖なる貧乳をバカにするのか!
巨乳なんて、いつかは垂れるんだぞ!」

「貴様!言ってはならんことを!
このロリコン野郎!

「上等だ、表に出ろ!」

 

 

 

・・・・・というようなことが一部では有ったようであるが、とにかく、ユリカ艦長の評判は上々であった。
彼らを束ねる整備班班長、ウリバタケも彼らの意見を耳にし・・・・・

「コイツはいける!」

と、大量の画像ROM、フィギュアの作成をし、小遣いを稼いだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、本当はあいつ、凄いんだな・・・・」

アキトはユリカの評判を聞くにつれ、複雑な心境になった。
アキトが知っているユリカは、幼い時も悪夢の中でも、とにかくアキトを追いかけ回していた。
その所為で犯した失敗も一つや二つでは無い。
しかし、現実のユリカは確実な仕事でクルーの信頼を集めている。

「やっぱり、オレはあいつにとって要らない人間なのかな・・・・・・・」

そう思う気持ちがアキトの奥底から湧いてくる。

「あれは夢だ。現実ではない。」

ルリにそう語ったのは自分自身。
しかし、頭では解っていても。

「オレはあいつを不幸にしただけなのか?」

・・・・・・もしそうなら、オレは・・・・・・

そんな思いの中、アキトはユリカと会わないでいた。
意識的に避けている部分もある。
例えばユリカが食堂に来たときなど。

「あれ?どこかでお会いしませんでしたっけ?」

ユリカにそう聞かれたときは、自制するのが苦しかった。

「・・・・いや、初めてだよ。」

そう答え、それからトイレの個室にこもり、
・・・・・訳もなく笑った。
笑わなければ、自分がどうにかなってしまいそうで。
それ以来、ユリカとはまともに会話していない。
最も、艦長とコック見習いが話すことなど無いのだが。

「このままでいい。
オレは、あいつの側にいて、あいつを守れれば・・・・・・」

ぐちゃぐちゃになりそうな感情の中、なんとか導き出した結論であった。

 

 

「おい、テンカワ!いつまで休んでいやがる!」

堂々巡りの思考にピリオドを打ったのは、リョーコの罵声であった。

「せっかくおめえの特訓に付き合っているんだ!
何時までも人を待たせるんじゃねぇ!」

そう。
リョーコ達が来て以来、アキトの午後の特訓は、エステを使っての模擬戦が取り入れられた。
ガイの時は、

「お前みたいに無茶するヤツに、大事なエステを貸せるか!」

というウリバタケの怒声により、却下されていたのだ。
最も、整備班エステハリス担当の習熟度を上げるための練習台として陸戦及び空戦フレームが使われていたというのが真相であるが。
リョーコ達と共にやってきた宇宙戦用フレームのお陰で、陸戦用フレームが空いたのである。
更に、実際の運用によって不具合を出す必要もあり、模擬戦が許可された。

「あ、ごめん、リョーコちゃん・・・・・」

「バッキャロー!オレが何時おめえにちゃん付けで呼んでいいって言った!」

「ご、ごめん。リョーコちゃん、つい・・・・・・」

「いいか、オレのことをちゃん付けで呼びたかったら、オレの事負かしてからにしやがれ!
まあいい、行くぞ!」

「ああ!」

アキトの特訓に一番良く付き合ってくれるのは、なんだかんだ言ってリョーコであった。
基本的に、口は悪いが面倒見が良いリョーコであった。

「くっ」

「おら、どうした!」

また、教え方も一番うまかった。
こてんぱんにされても、必ず1つはポイントが解るのである。

「もう一度!」

「おう、来い!」

ユリカが来て以来。
こうやって何も考えずに特訓に打ち込み、また料理に励む時間が有ることがアキトの救いであった。

 

 

 

 

 

 

 

フクベ提督が着任したのは、出発の前日であった。
元々オブザーバーであるフクベには、艦内に於いて平時に仕事はない。

「老人がしゃしゃり出ても、邪魔なだけだろう・・・・・」

そう言いながらも、老人の目は意志に燃えていた。
再び火星に行き、自分自身への責任に決着をつけること。
それが、恥を忍んでも軍に残った理由である。

「それと・・・・・テンカワという青年か。」

あのユートピアコロニーの『奇跡の』生き残り。
彼は、自分への故郷を潰された恨みを押さえつけたという。
そして、ネルガルから聞いた彼の夢。

「ワシが楽をしようなぞ、10年早いな・・・・・・」

そのつぶやきは、誰に聞かれることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユリカ、お疲れさま。」

「ジュン君、お疲れさま。」

部屋の前でジュンと別れる。

「明日はいよいよ出発だね。頑張ろう、ジュン君!」

 

 

部屋の中はまだ煩雑している。
着任以来、任務が忙しかったからである。
とりあえず必要な物は全て使えるようにしたが。

洗面道具。

お化粧セット。

着替え。

寝るときの抱き枕。

 

 

そして。

 

 

写真立て。

中には、小さな男の子と女の子が写っている。

これはユリカの宝物。

これだけは、どんなときも部屋に飾っていた。

 

 

 

 

 

「アキト、ユリカは今日も頑張ったよ。
明日、やっとナデシコは出発できるの。
その後も、すぐには火星にいけないけど、」

写真立てを見ながら、無愛想な顔をした男の子に話しかけるユリカ。
不意に言葉に詰まり、声が震える。

「だから生きていてね。
ユリカは信じているから。
アキトが絶対に生きているって!」

ネルガルの誘いは、ユリカにとってさほど条件の良い物ではなかった。
軍に入れば、将来は約束されていたからだ。
しかし。
軍には出来ない、ある重要な条件をネルガルが提示したとき、ユリカは即決した。

「ネルガルはこの船で火星に行きます。
火星に残された人たちを助けたいのです。」

ユートピアコロニーの全滅。
その報道を見た後も、ユリカは普段は変わらなかった。
いつものように寝て、いつものように食べ、いつものように笑っていた。
しかし、夜、ユリカは泣いていた。
いつか会えると信じていた自分の幼なじみのために。
そして、いよいよ明日、彼女の船は出航するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ明日ですね、ミスター。」

ゴート・ホーリーがグラスを片手にプロスペクターに話しかけた。

「明日ですね。」

プロスペクターがシェイカーを振りながら答えた。
ここはプロスペクターの部屋。
先ほどようやく雑務が終わり、二人で祝杯を上げているところであった。

「『あそこ』にしばらくの猶予を与えるのは残念ですが。
まあ、今回はネルガルの力を見せつけることで満足しましょうか。」

そう言ってプロスペクターは不敵に笑った。

 

ネルガルはアキトの夢を元に、ナデシコ発進時における敵襲の可能性と対策について十分な協議をしてきた。
まず、何故彼の夢では、ナデシコ発進直前に木星蜥蜴が来襲したのか。
木星の兵器はより強いエネルギー源に攻撃をする傾向がある。
しかし、彼の夢だと、襲撃は艦長がマスターキーを入れる前であったという。

したがって、ネルガルが最も怪しんでいることが、何者かが木星側に情報をリークした可能性である。
ネルガル首脳にとっては、木星蜥蜴の正体は謎でも何でもない。

そして、ネルガルと同じく真相を知っている者達がいる。

アキトの話からネルガルは以前に数倍する調査を、合法・非合法を問わずクリムゾン・グループに行った。
結果、既にクリムゾンは木星と結びついており、ネルガルの進める相転移炉式戦艦建造にも軍に裏からかなりの圧力をかけていたことが解った。
また、ナデシコ発進が近づくに連れ、不穏な動きを見せるようになってきた。

そこでネルガル・シークレット・サービスはナデシコ発進について逆リークを仕掛けたのである。
クリムゾンはまんまとネルガルの罠にはまり、ネルガルはクリムゾンのしっぽ(証拠)を掴む事が出来た。

しかし、これを使ってすぐさまネルガルが反撃に出ることを、アカツキが止めた。

 

「どうせなら、致命的なカウンターにしたいじゃないか。」

そう言ってアカツキは笑ったという。

「それに相手は『蜥蜴』の仲間だからね。
しっぽを掴んだくらいじゃダメなんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、艦長のミスマル・ユリカです。
この船はあと1時間後に発進します。
みんな頑張ってドーンと飛ばしちゃいましょー!

ユリカの挨拶が艦内に流れ、艦内に程良い緊張がみなぎった。

「核パルスエンジン、出力安定!」

「機関電圧安定!」

「注水85%!」

ブリッジに各々の確認の声が響く。
ユリカが引き締まった表情で指令を出す。

「ゲートオープン!

ナデシコ、発進!」

 

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<あとがき>

前から気になっていた「if」でユリカを描いてみました。

「もしアキトがいなければ、ユリカは良い艦長だったのではないか?」というifです。

いや、ユリカって好感持てるし、私好きなんですよ。念のため。

しかし、例えばb83yrさんが作品(「頑張れ、ユリカさん」)で指摘されているように、看過できない失敗も多いんです。

それらは全てアキトがらみで・・・・

だから、「最初からアキトに出会わなければ」こういうユリカもあり得たのかな、と思って書いてみました。

 

 

ところで。

ようやくナデシコも発進?ですし、前から書こうと思って忘れていた事を、1つ。

タイトルの「ダンシング・イン・ザ・ダーク」についてですが。

これは、アメリカのロックンローラー、ブルース・スプリングスティーンのヒット曲から取りました。

私はアナログ(LP版)で持っているのですが、

「BORN IN THE U.S.A」というアルバムの、「DANCING IN THE DARK」という曲です。

訳詞がとても良いので、一部紹介いたします。

 

 

夕方起きあがる

言うことは何もない

朝になって家に帰る

毎日同じ気分でベッドに入る

身体は疲れ

俺は自分にうんざりしてる

ヘイ、ベイビー、助けてくれないか

 

火をつけることも出来ない

火をつけることも出来ない  火花が無ければ

誰か俺を雇ってくれないか

暗闇で踊るだけだとしても

 

訳は三浦 久さんです。

人生って結構うまくいかないんで、この歌ってグッと来るんですよ。

で、もがくアキトを考えたときに、「これだ!」と思って、タイトルにしちゃいました。

 

さて、次回からナデシコは少し地球を徘徊いたします。

でわ。

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