機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第6話  「恋 人」

 


 

あの後。

ガイの部屋でゲキガン大会になった。
参加者は、部屋主のガイは当然として、アキト、ヒカル。
リョーコは部屋で寝てしまい、イズミは・・・・・
ウクレレを持ってどこかに行ってしまった。

 

「オレの!オレのジョーがぁ!」

「そうか、お前にも判るかぁ!」

「うわーん!ずるいよ、ジョー!」

 

廊下には泣き叫ぶ3人の声がこだましたという。

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ってきたアキトを待っていたのは、入り口の前にたたずむルリであった。

「どうしたの?ルリちゃん。」

暗い廊下。

時刻は夜9時。艦内消灯の時間である。

「少し、お話があるんです。」

ややためらいがちに、しかし真剣な眼差しで、ルリはアキトにそう言った。

 

 

 

 

 

「はい。」

アキトがコーヒーを入れて持ってくるまでの間、ルリはテーブルの前に正座し、肩をやや張った状態で膝の上に拳を握り、うつむいて身動き一つしなかった。
その様子を見て、アキトも真剣な顔になり、ルリを促す。

「なにか深刻な話のようだけど。
何でも良いよ、話してごらん?」

やがて、ルリが重い口を開いた。

 

 

「・・・・・・アキトさん、明日艦長が来ます。
アキトさんはどうするんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルリはこのところ、そのことばかりが気になっていた。
まだ会ったことも無い艦長。
アキトの悪夢では、二人は結婚し、自分を含めて家族であったという。

かつての恋人。

ルリにはその意味は解らないが、悪夢の中のアキトが艦長を心から愛していただろう事は、アキトの話から解った。
かつての恋人で、確実に幼なじみではある存在の登場。
まだ知らぬ艦長の登場に、ルリの心は揺れた。

もやもやした、不安。

焦燥。

初めて見つけたアキトという自分の居場所は、その艦長によって消えてしまうのではないか?
そして、そんな事を考える自分にも、嫌になっていた。
部屋でまんじりともせずにそんなことを考えていると、気がついたらアキトの部屋の前にいた。
何度も帰ろうと思い、それでもそこから動けず・・・・・
そこにアキトが帰ってきたのであった。

 

 

 

 

 

アキトにとっても、その問題はくすぶっていた。
夢の中での自分は、本当にユリカを愛していた。
全てを奪われ、絶望し、それでも戦えたのはユリカの為であった。

「アレは夢だ。」

そう否定しようとしても、夢のアキトの強烈な思慕は、アキトの中に残っている。
現実のアキトにとっては、ただの鬱陶しかった幼なじみ。
しかし、夢での時間は恋人であり、夫婦であった。

 

 

 

 

実は、アキトは、はじめルリにカッとなった。

なぜだろう?

人間、触れたくない問題をえぐられると、相手が誰であろうとそうなるからだ。
しかし、ルリの様子を見て。
この子が真剣な様子を見て。
これまで日常の中に埋没させ、考えようとしなかったこの問題と向き合う覚悟がついた。

 

 

 

 

 

 

 

ルリにとっては永遠とも言える短い間の後。
アキトは話し始めた。
ゆっくりと。
自分の気持ちを探るように。

 

 

 

 

 

「変な感じなんだ。
ルリちゃんにも前に話したけど。
現実には、もう10年くらい前に別れたっきりの、その後連絡も取り合っていない幼なじみでしか無いんだよ、ユリカは。
・・・・・でも、夢でのオレの記憶があって。
その記憶は、オレに会ったこともないユリカへの想いを焼き付けててさ。」

ルリは、まだぴくりとも動かずに、アキトの話を聞いている。
アキトは、ルリに向かって、しかし自分に対して話していた。

「この思いは、本当に強烈なんだ。
今、目の前にユリカが現れたら、多分見境無く抱きしめてしまうと思う。」

そして、アキトは自分の手を見た。
何かを求めるかのような、自分の手を。

「抱きしめたい!
また、ユリカと幸せに暮らしたい!
明日会えると思ったら、それだけで気が狂うほどに恋しい!」

そして、言葉を句切り、初めてルリを見た。

 

 

「でも、違うんだよ。」

 

 

 

「え?」

ルリもその言葉に顔を上げた。
アキトと目が合うと、アキトは、泣きそうな、辛そうな顔をして、ルリを見つめていた。

「この思いは、夢でのものだから。
これは、オレの想いじゃないんだ。」

 

 

 

 

 

アキトの中に生きる「アキト」の想い。
ユリカへの愛。
ユリカを守れなかった事への後悔、絶望。
己を駆り立てる狂気と憤怒。

 

 

「どれだけ強かろうと、それはオレの想いじゃないんだ。
言ってしまえば、映画を見て主人公になりきってしまっているだけさ。」

 

 

 

時として―――特に悪夢を見たときなどは、「アキト」の想いに飲み込まれそうになる。

 

 

 

「こんな悟りきったことは、本当はオレには言えないんだ。
たぶん・・・・・・一人だったら、オレはとっくにこの想いに負けて、オレじゃなくなっていただろうな・・・・・・」

 

 

 

「でも、ルリちゃんが居てくれたから。」

 

急に名前を呼ばれ、ルリはビックリした。

「私が・・・・・」

「そう、ルリちゃんが居てくれた。
そして、サイゾウさんやホウメイさんや、ガイや、ミナトさんやウリバタケさんが居てくれたから。
だから、オレはオレで居られるんだ。」

アキトはつくづくそう思う。

特に、この目の前の少女は、どれだけアキトの支えになっているだろう?

 

 

 

 

ルリは泣いた。

涙は流さないし、声もあげはしない。
しかし、ルリは泣いていた。心の中で。

すまなさがあった。アキトの心に土足で入ってしまった事への。
この人は、今どれだけ苦しんで、これだけのことを話したのだろう?

恥ずかしさがあった。自分の思いだけでこんな事をしてしまった事への。
私は、なんて自分勝手なんだろう?

そして、うれしさがあった。自分は、この人の側に居ても良いのだという。
ルリの、自分はやはりいらないのではないかという不安を、アキトは拭ってくれた。

 

 

 

「ごめんなさい・・・・・」

ルリが、やっと絞り出した言葉はそれだった。
そして、アキトは

「ありがとう・・・・・・」

それだけを応えた。

 

 

 

 

それから。

 

 

 

冷めてしまったコーヒーを入れ直し、他愛のない話をして・・・・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

心地よいまどろみ。

こんなに安心して眠れたのは、ルリは久しぶりであった。
今日は、目覚めもパッチリと、爽快な朝に違いない。
でも、何か違和感があった。
不快な物ではなく、自分を安心させてくれる類の物であったが、何かがいつもと違う。

匂い。

布団の感触。

何かが違うのに、なぜこんなに安心していられるのだろう?

 

ルリが目を開けて、初めに見えたのは天井であった。
お魚の浮いていない天井。

 

 

はっ

 

 

飛び起きて周りを見る。
頭はまだ状況を理解できていない。
自分は、昨日と同じ服を着ていた。
部屋の様子も、初めて見た物ではない。
そして、ルリのいるベッドの反対側。

 

そこには毛布にくるまったアキトが寝ていた。

 

 

 

「ええっ!?」

このとき、初めてルリはパニックという物を体験した。

 

 

 

 

 

ルリの声にアキトが起きる。

「あ、おはよう、ルリちゃん。」

毛布から這い出したアキトの格好は、トランクス一丁だった。

ルリはほとんど、パニックを通り越して頭が真っ白になった。

 

 

 

 

「あ、ごめん!
オレ、寝るときはいつもこの格好だから・・・・・」

そう言って、アキトが着替えをしている間中ルリは硬直していた。

 

 

アキトがとりあえずズボンをはいても、それでもルリは固まっていた。

「どうしたの?ルリちゃん?」

その言葉をキッカケに、ようやくルリはフリーズ状態から抜け出した。

「・・・・・あ、あの、昨日・・・・」

「ああ、あんまり気持ちよさそうに寝ちゃってたから、起こすのも可哀想で。」

真っ赤になって問うルリに、あっけらかんと答えるアキト。
ようやく頭が回り始めてきたルリは、ようやく状況が飲み込めてきた。

『・・・・・そうでした。
昨日、あれからいろんな話をして、そのうち私、だんだん眠くなってきて・・・・・』

状況を理解すると、対応も早い。

「あの、お邪魔しました!」

首筋まで真っ赤になって、脱兎のごとくドアに向かって駆けだした。

「あ、ちょっと、ルリちゃん・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ハルカミナトは朝が苦手であった。

しかし、彼女は勤務の日の朝は早い。
仕事の2時間前に起きなければ、自分の顔(表情)に責任を持てないからである。
鳴り響くアラームを止めると、いそいそとベッドからはい上がり・・・・・
ぼーっとすることしばし。

「・・・・・・なんか、しゃっきりしないわね。」

何時にもまして頭が寝ているミナトは、とりあえずシャワーではなく、24時間営業の大浴場に行こうと決めた。
のろのろと着替え、最低限の身だしなみを整えた後、お風呂セットを持って部屋を出た。

『こんな時に限って誰かに会うんだけど・・・・・
正直、見られたくないわねぇ。こんなみっともない顔・・・・』

眠そうで不機嫌に見えるその顔も魅力的なのだが、本人がそう思うのは女心と言うヤツであろう。
のそのそと廊下を歩いていると。
右側前方のドアが空き、、ルリが真っ赤になって飛び出してきた。

「あ。ルリルリ・・・・・・」

声をかける暇もあればこそ。
ルリはミナトには全く気がつかず、「何かから逃げるように」走り去っていった。

「・・・・・あれ?でも、ここって・・・・」

ミナトが首を傾げていると。

そこで再びドアが開き、上半身裸にズボンをはいただけのアキトが出てきた。

「あ、ちょっと、ルリちゃん・・・・・」

なにやらあわてている様子。

 

 

 

 

真っ赤になって逃げていったルリ。

上半身裸でそれを追いかけようとするアキト。

 

 

 

 

ミナトの秀麗な眉目がつり上がり、肩が震える。

「あ、ミナトさん、おはようございます。」

ミナトに気がついたアキトが挨拶するが、ミナトには聞こえていない。

「・・・・・・こ、この・・・・・・・」

声が怒りに震えている。

「え?」

 

 

 

 

 

「このロリコン!けだもの〜!!」

絶叫するミナト。

「はい?」

アキトには何のことか解らない。

 

「さあ言いなさい!
ルリルリに、一体何をしたの!
あの子はあんなにあなたを信じ切っていたのに!」

胸ぐらを掴まんばかりのミナト。

 

 

「誤、誤解だあ〜〜〜!」

 

その後、ミナトの誤解を解くまでに30分の時間がかかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああ・・・・・・」

「ふううう・・・・・・・」

朝10時のナデシコブリッジ。
仲良くため息をついているのは、ルリとミナトだった。

ミナトには、ルリのため息の理由は解った。
朝聞いたアキトの釈明で、そのことに見当がつくからだ。

ルリにはミナトのため息の理由が解らない。
だから、

「どうしたんですか?ミナトさん。」

と聞く。

「・・・え?
あ、あはははは・・・・・ちょっとねぇ・・・・・」

笑い声にも力がないミナト。

 

 

 

 

二人のため息の理由は、朝の一件。
ルリには照れと恥ずかしさが有るが、ミナトには自己嫌悪が強かった。
まあ、それはそうだろう。いきなり大声でアキトをロリコン呼ばわりしてしまったのだから。

「はあ・・・・・・」

「ふう・・・・・・」

再びため息。
あの後、アキトは引きつりながらも笑って許してくれたが、ミナトは当分自己嫌悪が続きそうだ。

そこに、プロスペクターに案内されて一人の少女が現れた。

「やあ、皆さん。
ただいま着任されました通信士の方を紹介いたします。」

プロスペクターに促され、その少女は自己紹介を始めた。
三つ編みにそばかすがキュートな、少し小柄の少女。
年の頃は17,8歳であろうか。
また整備班が萌えそうである。

「初めまして、あたしはメグミ・レイナードといいます。
声優の仕事をしていまして、契約の都合でこれまで合流が遅れていました。
今日から宜しくお願いします!」

そう言ってにっこり笑ってお辞儀をした。

「それでは、私は艦長を待たなくてはならないので、これで失礼しますね。」

 

 

 

 

 

 

「ふうん、メグちゃんって、あの『銀河戦隊スターダスト』に出ていたんだぁ。」

「いえ、あたしなんて、ほんのちょい役だったんですよ。」

お互いの自己紹介を終えた後、ミナトとメグミはすぐにうち解けた。
メグミが声を当てていたアニメが、ミナトの知っていた作品であったことから、今その話題であった。

「ねえ、ルリちゃんはどんなアニメが好き?」

メグミがルリに話を振る。

「いえ、私はアニメとかは見ません。
見たことが無いんです。」

ルリの返事。

「私はずうっと研究所で育ちましたから。
そう言った物は、知識としては知っていますが、自分から見たことは無いんです。」

「そっかぁ。
でもね、ルリちゃん。
アニメって、多くの人たちが力を合わせて、みんなを楽しませようって作っているの。
だから、私は好きなんだ。
ルリちゃんにも、今度無理にとは言わないけど、一緒にそう言うアニメを見て欲しいな。」

メグミのその言葉を聞いて、ルリはこの人も好きになれそうだ、と思った。

 

 

「ところで、艦長ってまだ来ていないんですか?
どんな人かなぁ?」

メグミが思い出したように言った。

「どうせおじさんなんだろうけど、堅苦しくない人がいいですよねぇ。」

するとルリは1つのウインドウ(最近よく検索していたので、開くのは慣れたものであった)を開いて、説明を始めた。

「艦長は20歳の女性です。
名前はミスマル・ユリカさん。」

そして、ウインドウを読み上げながら説明をした。

 

 

 

「ふうん、お嬢様かぁ。」

とはミナト。

「首席で卒業って・・・・凄い人なんですねぇ。」

とはメグミ。

『アキトさんの夢での恋人・・・・・』

という思いはルリ。

 

 

資料によると、ミスマル・ユリカという艦長はかなりのスーパーウーマンである。
それに、良家のお嬢様で、美人である。

「こんな人もいるなんて、世の中って不公平ですよねぇ。」

メグミがたまらずぼやく。

 

 

 

 

すると。

シューッ

プロスペクターが1組の男女を連れてまた現れた。

「お疲れさまです、皆さん。
艦長のミスマル・ユリカさんと副長のアオイ・ジュンさんが着任されましたので、ご紹介いたします。
それでは、艦長、どうぞ。」

 

写真で見るより美しく、また生気に溢れる目をした女性。

 

そう3人が思っていると、その当人は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がこのナデシコの艦長、ミスマル・ユリカでーす。
ぶい!」

 

 

「「「ぶい?」」」

してやったり、という笑顔を浮かべる彼女の後ろでは、副官という若い男性が頭を抱えていた。

 

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<あとがき>

と言うわけで、メグミとユリカ登場です。(あ、あともう1名も)

次回でナデシコ飛ぶといいけど・・・・・・どうなるか未定です。

遅くても、次の次には飛ぶでしょうが。

 

実はパソコン入れ替えまして、セットアップでかなりの時間を取られました。

パソコンが来たのが金曜日。

セットアップが(メールのバックアップ以外)終了したのが今朝(4月21日)だったりします。

やばい!アップできないかも!とか思って、掲示板に昨日いいわけ書いて置いたんですが・・・・・・・・

結構書けるモンですね、半日でも。

書いて、読み直しして、推敲して、・・・・・・・何とかなりました(笑)

 

よかったよかった(笑)

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