機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第5話  「猛 獣」

 


 

「なにやってんだよ、アキトよぉ。」

ガイが少し呆れたように、アキトのシミュレーターの入り口に来た。

「せっかくお前良い場所取ったんだぞ。なんであそこで頭を狙う?」

 

 

 

 

ルリたちと別れた後、アキトはトレーニングルームに来ていた。
毎日のメニューをこなし、体が温まったところに現れたのがガイである。

「よお、頑張ってるなぁ、アキト!」

すっかりマブダチな感じのガイの挨拶に、アキトも笑って応えた。

「ガイか。いやあ、とにかく必死だからさ。」

そして、ふと思いつき、

「ガイ、頼みがあるんだ。
俺とシミュレーションで戦って、俺が今どれくらいかを見てくれないか?」

 

 

前にアカツキとやったときは、いいようにやられた。
いつやられたかも判らないほどに。
あれから半年以上、前にもまして頑張ってきた成果を、アキトは知りたかった。

「ああ、いいぜ。
その代わり、今日は後で付き合え。
ゲキガン大会をやってやるからよ。」

その申し出はアキトにとっても嬉しいものであり、勢いよく承諾した。

 

 

 

 

 

アキトは夢の中でも、ガイの腕前を知らない。
何せ、バカばっかりやっていたはずだ。
初めてガイの腕前を見てみようというつもりもあった。

 

 

 

 

結果は、すさまじい物であった。

猫の反射神経と機体制御―――それも、パンサーを思わせる―――で自由自在に動き回り、鷹の様に正確に相手を見つける。
正確な射撃と、圧倒的な格闘戦。
これが実戦なら、自分は何度、訳の分からない状態で死んだか判らない。
そんな動きを鼻歌交じりにやっているガイであった。

考えてみたら、夢でのデルフィニウムとの戦いの時も丸腰で出ていって、囲まれても無事だったのである。
怪我をしたのも、そして・・・・・死んだのも戦闘とは無関係な時であった。
さすがは、「あの性格なのに」プロスペクターに見込まれただけのことはある。

 

 

アキトが何も言えないでいると、ガイは少し笑って、

「まあ、気にすんなよ、アキト!
俺と対等にやれたヤツラなんて、1組しかいないんだからよ。」

「一組?」

アキトが尋ねる。

「ああ。変な女3人組さ。
一人は気が合ったけどな。他の二人は・・・・
ま、そんなことより、もう上がりだろ?これから」

言いかけるガイを遮り、アキトが大きな声を出す。

「頼む!俺を鍛えてくれ!」

 

 

 

 

 

結局。

ガイに「何故だ」と聞かれても、アキトには理由を話せなかった。
あの「悪夢」は、ガイがまもなく死ぬ未来だったのだから。
迷って、悩んで。
そんなアキトの部屋へ、ルリがミナトと遊びに来た。

 

「プロスさんに相談してみたら?」

事情を聞いたミナトがそう言う。
今、ミナトにも全てを話したところだった。
別にアキトにしてみれば、隠すほどの話でもない。
・・・・こんな話をミナトが信じたのは、ルリの裏付けがあったからだが。

 

しかし、アキトは迷う。
果たして、友人に「お前は死ぬ」と言えるだろうか?
そう悩むアキトの気持ちはミナトにも判る。
だから、黙るしかなかった。

そこにルリが言った。

「アキトさん、忘れてますよ。
アキトさんは未来を変えるつもりなんですよ。
どうせ変える未来なら、変えるためにも話しちゃった方がいいじゃないですか。」

 

 

あ、と思った。
そうだ。
目的は「未来を変えること」だ。
そして、俺一人じゃ、未来なんて変えられない。

「ありがとう!ルリちゃん!」

嬉しそうにそう言ったアキトの顔を見て、ルリの顔がほんのりと赤くなった。

 

 

 

 

 

 

3人はまずプロスペクターの元に行った。

「おやおや、どうしたんですか?お揃いで。」

穏やかに、それでも多少メンバーに驚いた様子で、プロスペクターは3人を部屋に招き入れた。

 

 

 

「なるほど。それはかまいませんよ。
テンカワさんの技術が上がることはネルガルにとってもメリットですし。」

話を聞き終え、プロスはそう言った。

「ただ、かなり機密事項が含まれますので、これからはあまり人には話さないでくださいよ、テンカワさん。」

やんわりと、しかし眼鏡の奥で光るまなざしで、アキトに注意を促す。

「すんません、つい・・・・」

アキトも謝るしかない。
既に、ルリやミナトに話してしまっているのだから、汗をかいてしまうアキトだった。

「そうですね、私も同行して、私からヤマダさんにお話ししましょう。
その方がすんなりと納得していただけるでしょうし。」

普段の優しげな目に戻り、プロスは続ける。

「実のところ、未来を変えるというのはネルガルでも既にやっているんですよ。
例えば、来週には宇宙戦フレームと共にエステバリスパイロットが3名こちらに着任します。
同時に宇宙軍に要請して、サツキミドリ近辺の宙域を徹底捜索していただいています。
ネルガルは1企業ですから、事前に判っている不幸な事件は未然に防ぎたいですからね。」

言外に、遺族への補償のことも含ませているのだが、ルリだけがそれに気が付いた。
アキトは単純に喜び、ミナトはそこまで詳しく事情を聞いていないので、理解できていない。

「それと、フクベ提督にはお願いして軍にとどまっていただきました。今回はそのお陰でフクベ提督だけが同乗します。」

これも、無用のトラブルを避けるためにプロスペクターが奔走した結果である。

 

 

が、そこでプロスペクターはあることを思い出す。

「テンカワさん、納得できないかもしれませんが、なんとかご了承ください。」

アキトはフクベの特攻のあおりで故郷を失っている。
そして、そのことをアキトは知っている。
それに対する言葉である。

 

果たしてアキトは、身じろぎ一つしない。
何かに耐えるように、堅く拳を握りしめ、何処とも言えない1点を睨んでいた。

―――――握る拳がふるえている。

そうプロスペクターが思ったとき、その手に小さな白い手が添えられた。

「ルリちゃん・・・・・」

アキトが見ると、ルリがこちらを見ていた。心配そうに。

「大丈夫だよ、ルリちゃん。
頭ではもう判っていることだから。」

なんとか、アキトはそう言って、ルリに笑いかけた。
そして、プロスの方を見て、

「頭ではもう判っていることですから、大丈夫です。
ご心配かけて、すんません。」

頭を下げた。

 

悪夢の記憶だけでは、故郷を無くした怒りは消えない。
未来を変えたいという自分の目的があるが、怒りを踏みとどまるのが精一杯だったろう。
ルリの手。
守りたい、大切な家族の手が、アキトを止め、前に歩かせてくれた。

『いいなあ、兄妹か。
アニキと、そう言えばしばらく会ってないっけ。』

アキトとルリの様子を微笑ましく見ながら、ミナトは兄のことを思いだした。

 

 

 

 

 

 

 

4人が突然部屋を訪れたことで、ガイは驚いたようだ。
部屋の中は薄暗く、壁ではケンとジョーが殴り合っている。
例によってゲキガンガーを見ていたらしい。

「済みませんが、大切なお話がありますので、ビデオを止めてくださいませんか?」

プロスペクターにそう言われて、しぶしぶ、本当にしぶしぶビデオを止め、部屋の明かりを付けたガイ。

「ったく、何なんだよ、いいところだったのによ!」

不機嫌そうなガイの言葉に、アキトがつい、

「・・・・今の、ひょっとして第2話?」

と聞く。
アキトも好きなのだ。ゲキガンガーが。

「お!わかるか?
そう、あのシーンの後、お互いを認め会った3人が、初めてチームになって敵を倒すんだよ。」

 

うおっほん!

 

プロスペクターが咳払いをする。
ミナトとルリも、半目で呆れたように2人を見ていた。

「すまん。」「ごめん」

 

 

 

 

 

 

ようやく話し始めたプロスペクター。
突拍子もない話だが、だからこそプロスペクターが話しているということは、ガイにも判ったようである。
プロスペクターの話が終わり、秒針が一回りしても、ガイは下を向いたまま動かなかった。

「ガイ・・・・・・」

アキトが声をかけても動かないガイ。

 

「ヤマダさん」

ルリが言うと、

「・・・・・・ダイゴウジガイだ。」

と小さく応える。

 

 

と、やおら顔を上げたガイ。
目は爛々とし、表情は喜色に溢れている。

「待ってたんだよ。
待ってたんだよ、こういう燃えるシチュエーションを!
残酷な運命、立ち向かう子供達!
巨大な運命に、諦めずに戦いを挑む!
くう〜!燃えるじゃねえか!」

少し腰が引けるアキトたち。
しかし、ガイはかまわずアキトの手を取り、涙を浮かべながら嬉しそうに言う。

「任せとけよ、アキト!
俺が鍛えてやる!
こんな燃える展開に出会えるとは、お前に感謝するぜ!」

 

 

 

呆気にとられる一同の中、ルリがいつもの一言を。

「・・・・・・・バカ?」

 

 

 

 

 

 

翌日からのアキトのスケジュールは過密であった。
朝は5時半に起床。

 

6時半に食堂に出勤。

「改めまして、今日からここで働きますテンカワアキトです。」

「わあ!」
ぱちぱちぱちぱち

挨拶もそこそこに、米研ぎ、仕込みを開始する。

「ほう、やるじゃないかテンカワ。」

材料ごとに丁寧に素早く皮むき・下ごしらえをしているアキトを見て、ホウメイは感心した。

「いや、俺なんかまだまだっす。」

アキトは謙遜はしていない。心から、自分は未熟だと思っている。

 

7時半。
ナデシコ食堂の開店。
早番の人間達が堰を切ったように押し寄せてきた。

「A定食お願い!」

「こっちはB定食!」

何時死ぬかも判らないのが軍艦乗りなのだから、せめて料理は好きな物を選べるようにしたい。
そんなホウメイの主義の元、朝から食堂は戦場になる。
所狭しと動き回る6人の女の子達。
なかなかにチームワークがよい。
修羅場のさなかにも的確なホウメイの指示の元、次々に料理が作られ、手渡されていった。

 

9時。朝の修羅場が終わった。
全員でまかない料理を食べる。
今日の朝の当番は、早速アキトであった。
アキトの腕に興味があるからであろう。

「うわぁ、このきんぴら、おいしい!」

「このおみそ汁もおいしいわよ。」

なかなか女の子達には好評の様であった。

「テンカワ、今まで良い師匠についてたようだね。
お前さん、基本が出来ているよ。
これから少しずつ任せていくから。、がんばりな!」

「ありがとうございます!」

ホウメイの言葉に、今更ながらサイゾウに感謝するアキトであった。

 

 

10時、アキトはここでトレーニング・ルームに行く。
基礎体力の向上のため、毎日日課となっていたトレーニングのためである。
走り、ストレッチをし、軽く筋力トレーニングをする。

シャワーを浴びて、

11時半ナデシコ食堂に戻る。
さあ、昼の戦場だ。
昼は朝と違い、出前もある。
どうしても食堂に来れない職員のために、やむを得ないことだ。
女の子達が交代で出前に行っていた。

 

13時を回った当たりで、ルリとミナトが来る。
混雑のピークを避けているのだ。

「ルリ坊、頼みがあるんだけど、いいかい?」

食堂にやってきたルリが注文をする前に、ホウメイがルリに言う。

「なんですか?」

「テンカワの修行のために、良かったらルリ坊のお昼の料理は、テンカワに作らせてやってくれないかな?」

ルリにしたら、願ったりの事であったので、

「はい!」

と返事をした。
それを見てホウメイは笑い、

「と言うわけだ。がんばんなよ、テンカワ!」

とアキトの背中を叩いた。
朝のまかない料理でアキトの料理の筋を認め、また、昨日のルリの話と、今日入ってくる時のルリの表情を見て、決めたホウメイであった。

「はい!頑張ります!」

アキトの返事も嬉しそうだ。

「ルリちゃん、ありがとう。
じゃあ、今日は何にする?」

「ハヤシライスをお願いします」

そう答えるルリの横から、

「あ、私も!いいでしょ、アキト君、ホウメイさん。」

ミナトも一緒に注文した。
ホウメイは笑い、

「それじゃテンカワ、あたしらのまかないも含めて、みんなの分のハヤシライスを頼むよ!」

ホウメイガールズ(仮名:正式?にこの名前になるのは後日だが、混乱を避けるため、以降この名前で通す)の歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

「アキト君って、本当に楽しそうに料理するわね。」

「はい。」

カウンターで料理を待つミナトとルリ。

「まったくだねぇ。あたしも、あの姿勢は見習わないとね。」

ホウメイも感心して見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

調理場奥の、調味料の部屋。
夢の記憶の通りにそれはあった。
アキトは、その数の多さに圧倒されていた。

「どうしたんだい?テンカワ。」

立ちすくむアキトにホウメイが問いかけた。

 

「オレ、火星育ちだから、地球にはこんなに調味料があるんだなって思って・・・・」

「ああ、これかい?」

ホウメイは懐かしそうな目をして、アキトに話した。

 

 

パエリアの話を。

 

 

 

 

「オレ、今は中途半端ですが、頑張ります!いろいろ教えてください!」

アキトの言葉に、

「ああ、わかったよ。」

ホウメイもうなずいて応えた。

 

 

 

3時から、再びトレーニングである。
ゴウト・ホーリーの指導の元、格闘技の訓練を1時間。
そして、ガイの指導の元シミュレーションによる実戦訓練。

1時間の休憩の後、18時よりナデシコ食堂。

20時、ようやく食堂の営業を終え、みんなでまかないの食事。
そして清掃をして、21時に部屋に戻る。

 

「ふううううううううう・・・・・・・」

ベッドに倒れ込むアキト。
この1年近くの積み重ねがなければ、倒れてしまうような忙しさである。
しかし、自分は諦めるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

6日がたった。
今日はシャトルで、スバル・リョーコ、アマノ・ヒカル、マキ・イズミの3人が、宇宙戦用のエステバリス4台と共にやってきた。

「オレはスバルリョーコ。パイロットだ。宜しくな。」

そう言ってさっさと部屋に戻ろうとしたリョーコだったが・・・・・・

「げ!おまえ、ヤマダジロウ!」

「ダイゴウジガイだ!」

旧知の仲だったらしく、早速喧嘩を始める二人であった。

「てめえ!今度は勝ち逃げさせねぇからな!覚悟しろい!」

「はん!また返り討ちにしてやるよ!」

子供の喧嘩のようににらみ合う二人。
周りも呆気にとられて、ただ見ているだけである。
そこに。

「やっほー!ガイちゃん、おひさしぶりー!」

眼鏡をかけた女の子が割り込んだ。

「おお!ヒカルちゃんじゃねえか!
コピーしたゲキガンガーは、もう全部みたかい?」

ガイの表情もリョーコに対する物とは違った。

「もう、一気に見たっすよー。
超燃え燃えって感じで、サイコーでした。」

そして周りを振り返り、

「あ、私はアマノヒカル、蛇使い座の18歳、好きな食べ物は・・・・・」

さらにそこに3人目が加わる。

「同じくマキイズミ。おなじくまきいずみ。同じ熊切り炭・・・・・く、くくくく」

呆気にとられる一同。

 

「またバカ?」

ルリの声にも凍えがあった。

 

 

 

 

 

今日はアキトは休日であった。
毎日の基礎トレーニングを済ました後は暇で、それでリョーコ達を迎えに来ていたのだが・・・

『リョーコちゃん達とガイが知り合いだったなんて、想像もしてなかったな・・・・・』

悪夢でも、彼女たちとそう言う話をしたことはなかった。
パイロットの1人が死んだと聞いても、気にした風も無かった。

『パイロットなら、死ぬのも当たり前と言うことか・・・・』

少なくても、その覚悟が有ると言うことなのだろう。
だから、事実だけを受け入れ、何も言わなかった。

『オレも、気合いを入れ直さなくちゃな・・・・・・』

そんなことを考えていると、ガイ達が3人を連れてこちらに来た。

「アキト、紹介するぜ。
コイツらが前に言っていたパイロット3人組だ。」
そして3人に向き直り、

「コイツはテンカワ・アキト。
コック兼パイロットだ。
まだまだ未熟なヤツだけどいいヤツだから、一緒に色々教えてやってくれよ。」

反応は様々。

しかし、夢のように「パイロットらしくない」とは言われなかった。

 

 

それだけマシになったのかも知れないな、オレは。

 

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<あとがき>

プロスペクターに「性格はともかく能力は1流」ということでスカウトされたはずのガイ。
その辺を書いてみたかったんですよ。
作中に書いたように、

「怪我をしたのも死んだのも戦闘時以外で、丸腰で出ていったデルフィニウム戦では怪我一つしなかった。」

のがガイなんです。
で、思いっきり強く書いてみました(笑)
後々、戦闘時に、「バカだけど凄いガイ」を書いてみたいなと思っています(笑)

 

今回は結構まとまらなくて、難産でした。
次回はすんなり書けるといいなぁ・・・・・
次回はユリカ登場です。
おまけにジュンも登場です。
ただ、ナデシコは飛びませんが(汗)

 

・・・・・・キノコファンの方、ごめんなさい。キノコはこの作品には登場しません。

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