機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第4話  「仲 間」

 


アキトの荷物は、ごく少なかった。
着替えと洗面道具。
サイゾウに贈られた包丁のセット。
そして、ネルガルに渡された、1グロスほどのCC(チューリップ・クリスタル)。

アキトはネルガルの実験に付き合い、CCによるボソンジャンプが可能となっていた。
まあ、それは当然だろう。
火星生まれなのだから。
そしてアキトには、夢で自由にジャンプしていた記憶があるのだから。
とにかくアキトの協力により、既に出ていた犠牲を除きネルガルのジャンプ実験による犠牲者は無くなった。
これは、素直に喜んで良いことだとアキトは思う。

ただ、採取したアキトの生体データ及びナノマシンにより、人工的にジャンパーを作る実験を続けるらしい。
それは、なんともアキトにとってはやりきれないことである。


サセボドックに着き、警備室に行く。
今度は前回と違い、押し問答をすることなく、スムーズに入れた。

『俺、あの夢から通して考えても、ここにこんなにスムーズに入れたのは初めてじゃないかな?』

妙な感慨に耽っていると、奥からプロスペクターがやってきた。

「アキトさん、お久しぶりですねぇ。」

にこやかな笑顔でプロスペクターが言う。

「お久しぶりです、プロスペクターさん。
わざわざお出迎えですか?済みません。」

恐縮するアキト。
なにせ、相手は(正体は不明だが)自分を拾ってくれた恩人である。

「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。
アキトさんに提供していただいた情報によって、あれからこのプロジェクトはもの凄くスムーズに進みました。
と言うわけで・・・・・・・」

胸のポケットから電卓を出すプロスペクター。

「ほら、会長から特別ボーナスがこんなに。」

「え!!」

その金額は、しがないコック見習いでしかないアキトの、想像を絶する金額であった。

「い、いいんすか?こんなに・・・・・・・」

狼狽するアキト。
人間、持ち慣れない金額を目にすると、現実感も湧かないが、パニックにはなる。

「ええ、正直これでも少ない位なんですよ。
ネルガルにあなたがもたらしてくれた情報を考えれば。」

にこやかに、当然という顔をして言うプロスペクター。
と、そこに、

 

 

 

こんこん

 

 

 

ドアをノックする音に続いて、小さな妖精が現れた。

「失礼します。」

妖精の名は、ルリという。

「おや?どうしたんですか?ルリさん」

さすがにプロスペクターも驚いている。
しかし、アキトは単に嬉しそうに、

「こんにちは、ルリちゃん。」

と、にこやかに言う。

「あ、なるほど。お二人はお知り合いでしたね。」

プロスペクターも頭の回転は速い。すぐに報告書にあった二人の関係を思い出した。
その報告書の署名にはエリナ・キンジョウ・ウォンとあり、なにやら感情的な文章であった事もついでに思い出したが、プロスペクターはアキトを「そういう」男とは思っていない。

「はい。アキトさんがいらしたようなので、迎えに来ました。」

そう言って、ぺこりと頭を下げるルリ。
ルリにそう言われると、さすがのプロスペクターも勤務時間がどうのとかは言えない。

「判りました。それではテンカワさん、これはIDカードです。艦内の精算にも使いますので大切にしてくださいね。
それと、これは制服です。艦内の移動時にはこれを着用してください。
そしてこれはコミュニケ。連絡や報告の他、戦闘時の生存確認にも役立ちますので、決して手放さないでください。」

そう言って、カードと紙袋と腕時計の様な物をアキトに手渡した。

「それでは、これから宜しくお願いしますね、テンカワさん」

「はい!こちらこそ宜しくお願いします!」

 

 

 

 

 

警備室を出ると、ルリがアキトに嬉しそうに言う。

「アキトさん、いらっしゃい!」

サイゾウのいうような趣味はアキトにはないが、そんなルリを見て可愛いと思う。

「これからもよろしくね、ルリちゃん。」

前途は多難だが、この「妹」と一緒に居られるのは嬉しいとアキトは思った。
ルリはアキトから荷物袋の1つ(大きい物を受け取ろうとしたが、アキトは小さい荷物を渡した)を受け取って、既に調べていたのだろう、アキトを部屋へ案内してくれた。

着いたのは、前とは違う個室である。
プロスペクターの言っていた、ネルガルへの貢献が考慮されたのであろうか?
とりあえず部屋に入る。
荷物を置き、制服に着替えてコミュニケを装着する。

その間、アキトはかまわないと言ったのだが、ルリは顔を真っ赤にして部屋を出ていっていた。アキトがかまわないと言ったとき、少し困ったような、怒ったような顔をしていたが。

部屋を出ると、ルリがまだ少し赤い顔をして立っていた。

「それじゃ、案内しますね。」


 

 

 

 

「今日はアキトさんが来る。」

そう思うと、私は朝からワクワクしています。
別に前のように1週間に1度しか会えなかったわけではないです。ここに来てからは、ほぼ毎日、訓練に来るアキトさんに会えました。
それでも、これからずうっと一緒というのは嬉しいです。

「あれー?ルリルリ、嬉しそうね。」

隣の席の、ハルカ・ミナトさんがそう言います。
ミナトさんは操舵士なので、基本航行プログラムの作成等があり、先週着任しました。
なにかと親切な人ですが、3日前から私の事を「ルリルリ」って呼びます。
その呼び名には、まだ少し馴染めていません。

「はい、今日は私の大切な人が来るんです。」

私はそう答えました。
ミナトさんは、・・・・・・ちょっと驚いたようです。
きょとんとした顔をしばらくしていました。
やがて立ち直ったのでしょう、矢継ぎ早に私に質問を浴びせてきました。

「ちょっとルリルリ?『大切な人』って、お姉さんに話してみなさーい?」

ミナトさん、その半笑いの顔、少し怖いです。
圧倒されながらも、私はアキトさんのことを話し始めました。

 

 

既に私は、この船のコンピューター「オモイカネ」の調整をほぼ終えています。
あとは微調整だけです。
オモイカネはとても良い子で、私たちはすぐに友達になりました。
ミナトさんも、ほぼ基本航行プログラムの設定を終わっています。
それにしてもミナトさんって、なんで操舵士の資格なんか持っているんでしょう?
シミュレーションの様子を見た限り、かなりの腕前のようです。

 

 

「・・・・・と言うわけです。」

「なーるほどぉ。ルリルリの大切なお兄さんかぁ。」

気が付けば10時半。やっとミナトさんの質問責めが終わりました。
そろそろアキトさんが来る頃でしょうか?

「オモイカネ?」

ピッ

ウインドウ:「アキトさんは今正面玄関に着きました。」

「それじゃ、ミナトさん、私・・・・」

言いかけたとき、ミナトさんは笑いながら言います。

「行ってらっしゃい、ルリルリ。後で私にも紹介してね。」

「はい!」

 

 

 

私は走ってエレベーターに着きました。
待ち時間と、エレベーターの移動時間がもどかしいです。
途中、整備の人に3回くらいぶつかりそうになって、やっと外に。
ドアの前。
呼吸を整えて、身だしなみをチェックして・・・・・・

 

 

こんこん

 

 

「失礼します。」

そこにはアキトさんが居ました。


 

 

 

警備室を出て、私は言わなきゃならないと思っていたことをアキトさんに言います。

「アキトさん、いらっしゃい!」

うまく笑えたかどうか、自信がありません。
でも、

「これからもよろしくね、ルリちゃん。」

そう言ってアキトさんが笑ってくれたから、うまくいったと思います。

 

 

 

アキトさんの部屋に着きました。

「俺、ちょっと着替えるから、ルリちゃん待っててね。」

そうアキトさんが言うので、私が出ていこうとすると、

「ああ、別にかまわないよ、ルリちゃん。」

 

 

 

 

信じられません!

私、これでも歴とした少女です!
少女の前で平気で着替えるなんて、アキトさん無神経過ぎです!
私は走って部屋を出ていきました。

アキトさん、デリカシーが無いです。
私のこと、完全に子供扱いです。

 

 

 

でも、初めて会ったときは、「怪しい人」だったんですよね、アキトさんって。
10ヶ月近くの間に、私のアキトさんへの印象は変わりました。
相変わらずちょっととぼけていて、的が外れていて、私には少し強引で、デリカシーが無くて・・・・・・
でも、いつの間にか大切な人。

 

 

私を私として見てくれる人。

 

私が私でいられる人。

 

 

アキトさんが出てきました。

「それじゃ、案内しますね。」

・・・・・・ちょっと、素っ気なかったかも。


 

 

 

 

 

 

二人はまず、ナデシコ食堂にやってきた。
夢と同じ風景。
そして、同じ人達。
忙しそうに働いているホウメイさん、そしてホウメイガールズ。
初めて来たのに、アキトは帰ってきたと思えた。

食堂の中はにぎわっている。
とりあえず、まだ仕事ではないし、邪魔は出来ない。
そう思って、アキトたちは食堂を後にした。

 

 

「でも、もうやっているんだね、食堂。」

ルリに尋ねると、

「はい。コックのホウメイさんという方が、
『食べるって事は、人間の基本だよ。
人がいるのに食堂がやっていないなんて、そんな馬鹿な話があるかい!』
とプロスペクターさんに言って、昨日から始めたようです。
艦内の人だけでなく、ここの工場の人たちも来ているようですね。」

と教えてくれた。
さすがに夢での、そしてこれからの自分の師匠である。
アキトは誇らしい気持ちになった。

 

 

 

 

 

続いてやってきたのは、パイロット控え室兼訓練室である。

「必殺!超!熱血斬り!」

シミュレーターの中から懐かしい声が聞こえる。
まもなく出てきた男は・・・・・

「パイロットのヤマダさんです。」

「ダイゴウジ・ガイだ!」

そう、あの男だった。

 

 

「コック兼パイロットで入ってきたテンカワ・アキトっていうんだ。
宜しく、ダイゴウジ・ガイ。
・・・・・・ガイって呼んでいいのかな?」

アキトの挨拶を受けると、それまでルリを睨んでいた「ガイ」が、いきなりにこやかにアキトを振り向いた。

「おう!ガイでいいぜ!お前のこともアキトでいいだろ?」

ガイにとって、初対面で自発的にダイゴウジ・ガイと呼んでくれたのは、アキトが初めてだった。
もうそれだけで、「コイツとはマブダチになれる!」と直感したガイであった。

しかし、友情の成立には、お互いに共通の物が必要である。
ガイにとってそれは・・・・・・

「お前、ゲキガンガーは知ってるか?」

 

アキトの首に腕を回し、真剣な目でガイが聞く。

「子供の時に見てたよ。毎回燃えていたなぁ。」

アキトのその返事に、ガイの瞳が輝く。

「そうか!実は全39話持ってるんだよ、俺!」

「まじ?そいつは燃えるぜえ!」

 

 

すっかり意気投合した二人をジト目で見つつ、ルリは呟く。

 

 

 

「バカ?」

 

 

 

 

 

 

 

格納庫。

「いいかぁ!明日には陸戦用と空戦用のフレームが、来週には宇宙戦用のフレームが届く!
かなり忙しくなるが、くじけるんじゃないぞ〜!」

メガフォンを持ったウリバタケの声が響く。
整備班は既にメンバーの集結が終わったようである。
アキトたちはウリバタケの方に近づいていった。

「こんにちは。」

全員の目が一斉にこっちを見る。
少し腰が引けたが、アキトは踏みとどまり、挨拶をした。

「あ、俺、テンカワ・アキトって言います。コック兼パイロットで入りました。
これから皆さんのお世話になりますので、宜しくお願いします。」

「おう!俺はウリバタケ・セイヤって言うんだ。
ここの整備班の班長だ。
宜しくな。」

 

 

なんとなく、ルリも続いて挨拶をする。

「私はホシノ・ルリです。この船のオペレーターをしています。」

 

 

すると、一斉に整備班がどよめいた。

「うひょー!かわいいねぇ!」

「ルリちゃん、こっち向いて!」

「今度一緒に写真とろうぜ!」

みんな好き勝手な事をいう。
ルリは真っ赤になってうつむき、、それでもやっと

 

 

「・・・・・・バカ・・・・・・・・」

 

と呟いた。

アキトがあわてて、

「すんません、それじゃこの辺で・・・・」

と、ルリの手を引いて出ようとしたのが、火に油を注いだ。

「おお!お姫様のナイトか!」

「手、出すんじゃないぞ!」

「いよ!ロリコン!」

さんざんな言われようの中、なんとかルリをかばい、二人でダッシュで逃げ出したアキトとルリ。

 

 

 

 

 

 

 

最後はブリッジ。
まだ閑散としており、ミナトしか居ない。

「ただいま、ミナトさん。」

ルリの声にミナトが振り向く。

「おかえり〜ルリルリ。
あ、この人がルリルリのお兄さんね?」

立ち上がり、近づくミナトに、アキトは右手を差し出す。

「宜しく、ミナトさん。
俺、テンカワ・アキトって言います。」

ミナトも右手で握手に応じながら、

「よろしくね、アキト君。
私はハルカ・ミナト。」

そう言いながらも、「姉」として「妹の連れて来た男」を品定めするようにアキトを見る。
そして、ルリを見て、

「ルリルリ、いいお兄さんみたいね。」

そう言って微笑むミナトの表情は、イケイケな外見とは裏腹に、本当に慈愛に満ちた物であった。

 

 

 

 

「さて、二人ともお昼まだでしょ?」

ひとしきりの談笑の後、ミナトが切り出した。

「ここの食堂は凄いわよ。
そろそろ他の人もいなくなった頃だし、食堂に行きましょ。」

 

 

 

 

 

 

食堂はミナトの言うとおり、もうほとんど人はいなかった。
アキトはまっすぐにホウメイの所に行き、挨拶をする。

 

 

「そうかい、よろしくね。
みんな、明日からウチで一緒に働く子が来たよ。」

そういって皿洗いなどをしていた女の子を集めるホウメイ。
6人の女の子に見つめられ、緊張しながらも挨拶をするアキト。

「・・・・・と言うわけで、明日から宜しくお願いします!」

深々と頭を下げた。

「「「「「「はーい!」」」」」」

6人の女の子の声がハモる。

「それじゃテンカワ、明日から頼むよ!
事情は知っているから、勤務時間についてはプロスさんから聞いとくれ。
それから、なんか食べていくんだろ?」

そう言ってアキトの後ろにいるルリとミナトに目を向ける。

「ルリ坊は何にするんだい?」

ホウメイが尋ねると、ルリは

「大盛りチャーシュー麺」

と応えた。

「あ、私も」

「俺もそれお願いします」

ミナトとアキトの声が重なる。

「あいよ!大盛りチャーシュー麺3つだね。」

威勢の良いホウメイの声が応じた。

 

 

「ルリルリって、本当、好き嫌い無いわね。いっぱい食べるし。」

ミナトがそう言うと、たまたま近くを通りかかったホウメイが、

「そうだねぇ。一番小さいのに一番しっかりきれいに食べてくれるから、あたしも嬉しいよ。」

嬉しそうにそう言った。
するとルリは、ややうつむき加減で照れながら、

「私、本当は嫌いな物だらけだったんです。
でも、アキトさんがいろんなお弁当や料理を作ってくれて、それがおいしくて、そのうちに・・・・・」

と言う。
アキトは隣で鼻の頭を掻いて照れている。

「ふううん、アキト君の料理かぁ。」

ミナトはそう言って興味深そうにルリとアキトを交互に眺め、

「ほう、やるもんだねぇ、テンカワ。」

ホウメイは感心したようにアキトを見た。

 

「そんな、いや、あの、俺なんかまだまだ駆け出しで、ルリちゃんがいつもおいしそうに食べてくれるから頑張れて、その・・・・」

アキトは照れて言葉にならない。

「いいことだよ、テンカワ。
料理人ってのは人様に料理を食べて貰う仕事なんだからさ。
じゃあ、ルリ坊はテンカワの大切なお得意さまだ!」

そう言って豪快に笑うホウメイであった。


 

 

 

 

時間は2時を回った。
いつまでもぶらぶらとしているわけにもいかず、ミナトとルリはブリッジに、アキトはトレーニングに向かった。

アキトと別れた後、ルリは考えていた。

『アキトさん、本当に夢の記憶でこの新造戦艦のことを知っているんだ。』

そうルリが思ったのは、アキトの歩き方である。
案内するルリを気使ってか、ルリの後を着いてきてはいた。
しかし、・・・・・・そう、歩き方に迷いが無かった。既に知っている道だと言わんばかりに。
そして自己紹介の時、ルリがちゃんと紹介しなくとも、アキトは相手の名前を知っていた。

『アキトさんの夢の中では、私と、アキトさんと、そしてまだ来ていない艦長は家族だった。
私はアキトさん達の妹で、
・・・・・・そして、アキトさんと艦長は夫婦・・・・・』

 

・・・

・・・リ・・・・

・・・・・・リ・・・リ・・・・

 

「ルリルリ?」

ハッとするルリ。
ミナトに呼ばれたらしい。

「あ、何ですか?ミナトさん。」

「さっきから何度も呼んでるのに、ルリルリったら難しい顔してるんだもの。
何かあったの?」

心配そうにこちらを見るミナト。

「いえ、ちょっとオモイカネのプログラムを変更しようか、考えてたんですよ。」

なんとか思いつきでごまかすルリ。
ミナトは納得してくれたようだ。

 

 

『何考えて居るんだろう、私ったら』

さすがに、誰にと言うわけでもなくばつが悪いルリ。

 

 

『・・・・・・ばかだなぁ、私・・・・・・』

5話へ

DDの部屋// やりたかさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


<あとがき>

ナデシコが、ついに!
ついに物語の舞台になりました!

・・・・・・いい加減飛び立てよ、おい・・・・・・・・

でわ!



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送