機動戦艦ナデシコ2次SS

ダンシング・イン・ザ・ダーク

 

第1話  「悪 夢」

 


「終わった・・・・・」

そのつぶやきは誰にも聞こえなかったが。
ただ一人。
リンクをしているラピスには伝わった。

「帰るか・・・・・・」

装甲が無くなったブラックサレナが消えた後には。
吹き飛ばされた追加装甲と、夜天光の残骸が残された。

 

 

 

「アキト・・・・・おかえり」

無表情に自分を出迎えてくれる少女。
しかし、いつもと様子が少し違う。

「どうした?ラピス」

アキトはラピスに問いかける。
するとラピスは、ゆっくりと答え始めた。

「ルリとオモイカネに会った。
ルリが、このユーチャリスも、ハッキングで捕らえてきたから。」

「そうか・・・・」

「ねえ、アキトはなぜ帰らないの?
やっと、ユリカを取り返せたのに・・・・・」

その疑問はもっともだ・・・・
そう思うアキトであったから、・・・・・・悲しげに答えた。

「帰れないからさ」

「なぜ?」

「もう、俺自身が限界なんだ・・・・・・

イネスさんに感謝だな・・・・なんとか、ここまで持たせてくれた・・・・
ルリちゃん達や・・・・・

そして、ラピス。ありがとう。」

 

 

そう言って。
まるで、いきなり糸が切れたマリオネットのように、アキトは崩れ落ちた。

 

「アキト!」

あわてて駆け寄るラピス。
重いアキトの体を抱え上げ、頭を抱き寄せる。

「アキトアキトアキト!」

必死に揺さぶり、呼びかけるラピス。
アキトは、ゆっくりと、ラピスの手を握り・・・・・

「・・・・・ラピス・・・・・・今まで、辛い思いをさせたな・・・・

これから・・・幸せに・・・・なって・・・・・」

 

 

不意に。
ラピスには、アキトとのリンクが断ち切れたのが判った。

 

 

「いやああああああ!あきとおおおお!」



 

 

 

 



がば!

草原の中。
目が覚めると、俺はここにいた。

「・・・・・・何だったんだ、今の夢は・・・・・」

最悪の、長い悪夢だった。
長い、長い悪夢。
実際に数年間を生きてきたかのようだ・・・・

 

 

 

「・・・・・・ここは?」

見覚えがない風景。
しかし、記憶にはある。
夢の中で、火星から「ボソンジャンプ」とかいうのをしたとき。
目が覚めて最初に見たのは、この風景だった。

「まさか・・・・」

そう思って、形見のペンダントを見ると・・・・・
あの青い石は、やはり無くなっていた。

「なんだってんだ、畜生!」

さっきまで俺は火星のコロニーのシェルターそにいて・・・・・

火星・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

 

 

「アイちゃん!アイちゃんは?」

我に返って、あたりを探すが、あの小さな女の子はどこにも居ない。

 

地球?地球なのか?ここは・・・・
あの夢で見ていたように・・・・・

 

 

 

そして、俺は助けられなかったんだ・・・・あの人達を・・・・

 

 

「うわああああああ!」

 

 

 

 

 

 


ひとしきり、もだえ苦しんだ後。
アキトはやっと冷静になった。

「あれが未来の夢だというなら・・・・あそこに行ってみよう・・・」

そう思ってアキトが向かった先は、未来でお世話になった、雪谷食堂であった。

 

 

 

「本当に、あった・・・・」

夢で見たとおりの、古ぼけた食堂。
古ぼけてはいるが・・・・・中は客が一杯で・・・・
そして、入り口の戸に張り付けられた、「従業員募集」の張り紙・・・・
じゃあ・・・・まさか・・・・・
そう思い、アキトは走っていった。
サセボドック・ネルガルの造船施設へ。


 

 

 


「来たのはいいけど・・・・どうすりゃいいんだ?」

勢い込んで来たのだが。
考えてみたら、何をどうすれば、あの夢を確認できるのか・・・・・・
皆目見当も付かず、途方に暮れるアキトであった。

 

「ええい、ままよ!」

そうだ。夢では、プロスペクターという人が出てきて、俺をナデシコとか言う船に乗せてくれたんだ。
そう思い、警備員に近寄っていった。
アキトとしては、あの悪夢が予知夢とかいうやつで無いことを証明したいのだ。
雪谷食堂までは、何かの偶然で済む。
しかし、ナデシコが現実だとすると・・・・・
あの夢は、現実の未来の可能性が大きくなる。

 

 

 

アキトの期待は、最悪の形で裏切られた。
プロスペクターという謎の男は実在し、今、取調室に連行されたアキトの目の前に来たのだ。

「あなたですか、私に会いたいという方は。」

にこやかな表情で出てきたのは、アキトが夢で見たプロスペクターと同じ男だった。

「あ、俺は・・・・」

自己紹介をしようとするアキトを制して、プロスペクターは、

「ああすいません。一寸、舌を出して貰えますか?」

 

 

う!

 

確か、夢でもこのシーンは有った。
アキトは夢の中での痛覚を思い出し、しかしイヤイヤながらも舌を出した。
ちくっ

「う!」

プロスペクターに、携帯端末から伸びた針を舌に刺される。
チクリとした痛みを覚え、口を押さえるアキトを後目に。

「あっなたっのお名前、さっがしましょっ」

歌うかのようなプロスペクターが、端末を操作する。
やがて。

「テンカワアキトさん。火星・ユートピアコロニー在住・・・・
まさか・・・・あの先日全滅したユートピアコロニーから、どうやって・・・・・」

プロスペクターが驚くのも無理はない。
遺伝子照合したデータには、テンカワアキトが、あの日もユートピアコロニーに居たこと、その後の地球避難者名簿にも載っていないことが明らかであったからだ。

「良くわからないんです。確かに俺は、ユートピアコロニーに居ました。
木星トカゲが襲ってきて、死んだと思ったら、気が付いたときには地球にいたんです。
つい、さっき、気が付いたんですが・・・・」

ここで、アキトは気が付く。

「先日って・・・・・俺がユートピアコロニーにいたのは、せいぜい数時間前ですよ?」

問いかけるアキトに、プロスペクターが答える。

「ユートピアコロニーの壊滅は、今から9日前です。
それよりも、お聞かせ願いませんか?なぜ、私を呼びだしたんです?
あなたとは面識がないはずなんですが。」

 

問われて・・・・アキトは語りはじめた。
目が覚めるまでに見ていた、悪夢のことを。

 

 

 

途中、プロスペクターが挟む質問にも答えていくうちに、かなり詳細を話していた。

自分がナデシコという船に乗ったこと、そのクルー達のこと、火星へ行ったこと、木星トカゲが100年前に追放された人間だったこと・・・・・・
遺跡とボソンジャンプのこと、そして自分の身に起こったこと・・・・・
聞く内に、プロスペクターの目がだんだん真剣になってきた。
今では、刺すような厳しい視線である。

 

「・・・・・そういう夢ッス。」

アキトが語り終わっても、プロスペクターは真剣な表情のままだった。

 

 

しばし、沈黙の重い空気が流れる。
やがて、アキトが口を開く。

「俺・・・・・あんな悪夢なんて、信じたくなかったんです。
でも、目が覚めてから、夢で見た物ばかりで・・・・・・」

そこまで喋ったところで、プロスペクターに制される。

 

「信じられないお話ですが・・・・・
まず。言っておきましょう。
あなたが先ほどお話になった、ナデシコと言う船は存在し・・・・と言っても建造中ですが。
その目的は、あなたがおっしゃったとおりです。
そして現在、スカウト活動をはじめたばかりでして・・・・その、あなたの言われた方々を。」

そして、すっかり冷めたお茶をすすって、また話す。

「ボソンジャンプという物も、あなたが言われたように存在します。
そして、そのことが原因で、あなたのご両親が暗殺されたのも事実です。
ネルガルは、今もその研究を続けています。
つまり、あなたの見られたという夢は、少なくとも現時点で起こっている事については、事実なのです。
ネルガルのトップシークレットに関わる事ですが。」

 

アキトはうつむいたままであった。
あの悪夢は、未来の自分の姿である可能性が高いと言うこと。
そのことは、アキトを打ちのめすショックだった。

 

 

 

 

そんなアキトを、しばし無言で見つめていたプロスペクターであったが。
やがて、聞かなければならないことをアキトに尋ねる。

「それで、テンカワさん。あなたは、どうしますか?」

あなたは、どうしますか?

 

 

・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・俺は?

 

 

「俺は・・・・・」

 

 

しばしの間の後、アキトは意を決したようにしゃべり出した。

「俺は、あんな未来はまっぴらです。
自分も、自分の大切な人も全て不幸になるような未来なんか、俺は認めません。
腕ずくで、ひっくり返してやりたいです。」

そして。
それまでうつむいていた顔を上げ、まっすぐにプロスペクターを見る。

「俺をナデシコに載せてください。
俺はコックとしては半人前で、こんなIFSを付けているけどパイロットじゃなくて・・・・・
でも、あんな未来をぶちこわしてやりたいっス。
お願いします!」

 

しばらく、プロスペクターはアキトを見ていた。

まっすぐな瞳には、決意がみなぎっている。
ネルガルとしても、事情を知りすぎている、こんな人物を野放しには出来ない。

 

「判りました。では、テンカワさん。
見習いコック兼補助パイロットという条件で、どうでしょう?」

「お願いします!」

こうして。
アキトのナデシコ入りが決まった。

 

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<あとがき>

企画はb83yrさんのこのSS。
某チャットで、「いわゆる逆行物ではなく、TV版アキトが未来の自分(黒アキト)になるのって、面白そうだよね。で、アキトは自分の世界に戻って、未来を変えようとする。
当然、TV版アキトだから主人公最強主義にはならないけど、物語の終わりの方では、努力してそこそこ強くなる。味覚を失った記憶があるから、料理人としても頑張って、腕を上げていく。
未来を見るのは、遺跡のシミュレーションで、人類初のボソンジャンパーのアキトを通して、未来への警告をしたってことで。
つまり、このままいくとこういう未来になる可能性が高いって言う、遺跡からの警告。」
そのbさんのお話に飛びつき、
「書いてもいいですか?」
と許可を頂いて書き始めました。
さて、どこまで描けるんでしょうか?私に(笑)



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