「う・・・・・・あぁっ!」

苦しそうな息遣いの合間聞こえる小さな叫び声。歯軋り。

胸の上、薄い毛布が上下するのが見える。シーツを握り締めた右手の甲が白い。

「ごめんなさい、許して・・・・・・くぅ!」

蒼銀色の長髪がベッドの上に散りばめられる。頭を左右に振って、苦痛を紛らわそうとしていた。

堅く閉じられているはずの眼。しかし、頬を冷たい流れが伝っていた。

身体に浮かぶ汗ともども、下着や寝衣のみならずシーツまでをしっとりと濡らしている。

「ただ・・・死ぬだけじゃ、だめ?うぅっ・・・・・・だめ、なの?」

びくり。小柄な身体が身じろぎをする。不自然に折れ曲がり、まるで痛みを堪えるかのようだ。

うっ、あぁ・・・・・・助けて。助けて、アキトさん!」

ばさり。毛布が跳ね除けられ、飛び跳ねるように半身を起こすルリ。

黄金色の瞳を見開いて、自分の両手を見つめる。そこにあるのは、いつもと同じ白い色の手。

「・・・・・・まだ。まだ大丈夫、なのかな」

不安に彩られた声でそう呟く。こうして今日も、彼女は悪夢を見続けるのだった・・・・・・



























Bride of darkness



第14話 『少女と騎士と』











暗闇。何も見えない、けれど彼女にとっては優しく感じられる場所。

考えない、何もしない。彼女の好きな事だった。闇に全て委ねてしまうというのも、悪くない。

他の人は闇を嫌うという。だが彼女は、ただ明るく見えるだけで道筋がわからない希望こそを嫌っていた。

ただ眩しい世界。何の充実も無い光を見続けて傷つくよりは、このままこの暗い世界にいたかった。







・・・・・・身体を揺さぶられたような気がした。次第に暗闇から引き戻される感覚。

「・・・いい!なんて事を、眼を覚まして・・・・・・覚ませ!!」

左手首にぐるぐると何かを巻かれて締めつけられる。きりり、身体を奔る痛み。

意識が覚醒する。だが最初、彼女は何が起こったのかわからなかった。

閉じた瞳を微かに開く。鬱陶しい、暴力的なまでの光が彼女の裡に射し込んだ。

「うぅ・・・・・・わたし」

次の瞬間、頬に痛みが奔る。顔が強く張り飛ばされて、頭が壁に打ち付けられた―――痛い。

今まで実験とかで彼女は散々苦痛を味わってきた。でも、その中でもこれは、一番痛かった。

何故だか、よくわからない。でも、ただ張り飛ばされただけなのに、凄く、染み入るように痛く感じたのだ―――

「どんな事情があるのか、深い事は知らない。けれど、どんな事があっても自分から死ぬ馬鹿がいるかっ!」

ぼやけた視界、その中に大写しになる男の姿。彼女のはじめて知った軍人、高杉三郎太だ。

はじめて会って以来ずっとざっくばらんな風に彼女に、いや誰にでも接してきた彼。

その彼が、はじめて怒りさえ含んだ真剣な表情を彼女に向けている。こんな表情をする人だったんだ―――

「・・・・・・失礼。上官にどんな事情とはいえ手をあげるのは、軍規に違反します。だけど、自殺なんてするもんじゃない。

言ったじゃないか、どんな事でも相談しろって。俺は貴女の為ならどんな事でも力になるつもりだって」

「・・・・・・ごめんなさい」

素直に言葉が出る。そうだ、自分はとても悪い事をさっきしたのだ―――





気の迷いみたいなものだった。実際に辛かった。だけど、彼の言うとおり自分から死んではいけなかったのだ。

自殺は我侭を通している事に過ぎない。その事を今更になって強く意識する彼女。

(アキトがいない。誰も私の事を見ようとしない・・・・・・でも、それでも生きなきゃいけなかった)

彼女自身に生きる理由は無いかもしれない。だけど、彼女を必要とする人達はいる。

それだけで彼女は心を殺してでも生きなければならなかった。そこまで決意して、ここにいるはずだった。

だけど、本当にただの気の迷いで、その決意はいともあっさりと崩れてしまった。

自分がこれほど心の弱い人間だとは今まで気付かなかった。

背負いきれもしないのに、全部一人でやろうとしていなかったか?今更になって自問自答する彼女。

素直に人に頼るべきだった。辛いなら、話すべきだった。話し相手を適切に選んでだが、そうするべきだったのだ。

自分一人殻に籠もっていては駄目なのだ。それが楽だからといって、そうしてはいけないのだ。

よく周りを見れば自分は決して一人では無かった。一人だと思いこんでいただけで、実際には―――





「・・・・・・わかればいいさ。ともかく、言ってごらん?心持ちだけど楽になる、保障しますよ」

今度は優しく彼女の肩に手をかける男。はっとする彼女、男の表情はどこまでも真剣。だが、柔らかいものに変わっていた。

この人になら、自分の想いを話してもいいのだろうか―――彼女は自問した。

いいのだろう。感情はそう答える。大事に思ってくれていたから、こんなに早く駆けつけてくれた。理性は指摘する。

彼からはどこか、アキトとは違う性質の優しさみたいなものを感じ取れる。厳しいところもある、だけど気遣いみたいなものを。

頼って、心ごと身体を預けて。アキトほどの気持ちよさは無いかもしれない。でも、たぶん誠実さがある。

彼女の心を映し出してくれそうな。彼との関わりで、自分が今どうするべきなのか、わかるような気がした。

「・・・・・・寂しい。とても、寂しい。誰も私を見ていてくれない気が、しました」

恐る恐る想いを言葉にのせてみる。彼の表情は変わらない。じっと、彼女の言葉に耳を傾けている。

「大事な人が、いる・・・・・・でも、その人は私を捨てた。私が悪かった、ずっと、ずっと甘えてばかりだったから」

「それで、軍に来た。そっか、寂しかったのか・・・・・・」

こくり、頷く彼女。不意に彼の腕が伸びる。優しく、薄桃色の髪を撫でられる。気持ちよかった。

「ごめんな。俺達大人が気付いてやるべきだった。君が寂しかった事に。ほったらかしにしすぎたのかもしれないな、こいつは。

でもよかった、君の事をやっと俺は理解できた。今度からは、寂しさを一人で噛み締める事も無い」

「・・・・・・頼って、いいの?」

「ああ。君の大事な人のようにはいかない。だけど、出来る限りの事はする」

それからしばらく、自然と眠るまで。彼女はずっと彼に髪を撫でてもらっていたのだった。






























「これが私の機体ですか」

黒く塗られたエステバリス。色々と細部は異なるが、それはまだエステバリスではあった。

「そうよ、ルリちゃん。装甲強化型エステバリス、あのウリバタケ・セイヤの作品よ」

「ウリバタケさんのですか」

この機体はリョーコが試験を行った機体の色を塗りなおし、色々と細部を変更したものであった。

特に中身の部品をなるべくクリムゾン・ステルンクーゲルの使用するそれに変え、破壊された後に偽装されるようになっている。

「先進的な機体だと思いましたが・・・・・・ウリバタケさんらしい趣向になっていますね。流石に変形まではしないでしょうが」

何かと変形させたがる男だった。一度などはナデシコ浴場の洗濯機が合体変形して彼女に襲い掛かった事さえある。

だがそういった偏執癖こそが、画期的な発明を生む素地にもなったのだろう。

ナデシコ級戦艦に採用され、防御力を上昇させるディストーションブロック、エステバリスの主武装フィールド・ランサー。

実はイネスの次、ルリやラピスといったIFS強化体質者、アキトらA級ジャンパー並みに彼は戦略的に価値のある人物かもしれない。

彼がいるところ失敗こそあるが、常に何かが生み出されているのだ。これは恐るべき事でもあった。

「・・・・・・中身はスーパーエステバリス、エステバリスカスタムとCCを一次装甲材に埋め込んでいる以外は同じ仕様になっているわ。

少なくともステルンクーゲルを上回って、それに敵の特殊部隊が使う個々の機体とは渡り合えるぐらいの性能はあるはずよ。

流石に同時に攻撃されたりしたら、不利は免れないけど・・・・・・そのあたりはアキト君との連携しだいね」

エリナの言葉にはよどみが無い。最近元気が無いようだったが、言われている程では無いみたいだ、そうルリは判断する。

ラピスの事だろうか、よほど苦しんでいるようだった。同じく苦しんでいる彼女には、よくわかった。何故苦しんでいるのかを。

ラピスの件は、彼女自身かなり心の重い問題だった。元はと言えば彼女の我侭のせいなのだ。

彼女が我侭を通さずにアキトと別れていれば、ラピスはアキトと引き離されず、彼女がナデシコBにいる事になった。

「どうしたの、ルリちゃん?」

「あ、ごめんなさい。少しぼうっとしてました」

自分は考えすぎだ―――微かに首を左右に振る。なんでもかんでも考えてしまうのは、思慮深いというよりは悪癖に近い。

寝ている時でさえ悪夢という形で考えて、食事中も考え続けて。いったいいつ休むというのだろう?

「説明は聞いていてくれたみたいね。とりあえず実機に触ってみたらどうかしら」

「そうします」





キャットウォークを歩き、機体に手を触れる。センサーが増設されているのは、ボソンジャンプの為だろう。

硬質プラスチックを軽く手の甲で叩く。コンコンと重さどおり軽い音が返ってくる。悪くない。

アサルトピット内はエステバリス標準のもの。椅子の高さなどはぴったりで、既に彼女に合わせてある。

小柄な彼女が座っても遠すぎない操作卓。試しにシステムを立ち上げてみる。ほとんど調整が終わっていた。

後はほんの僅かな部分だけ、IFSを使ってデータをやりとりして書き換える。これでもう手足のように使いこなせるだろう。

「・・・・・・いい出来です」

降り立った彼女は手短にエリナに評価を告げる。少なくとも彼女にとっては、いい出来だったのだ。

リョーコなどは多少フットワークの重くなるこの機体を嫌ったが、ルリは別にナイフが届くほど近距離で格闘をするつもり自体が無かった。

「そう。後はワイヤーカッターを両手に装備させるだけね」

アキトやリョーコほどには機体の扱いは上手くない彼女。その彼女が人並み、いやそれ以上に戦う為には、特別な武器がいる。

ワイヤーカッターは彼女にしか扱えない装備で、必然的にこの装備の特性を知る者は多くない。

北辰には特性を見抜かれ、更にその技能で無効化されたが、まずほとんどの敵には見抜かれたとしても有効だろう。

「はい、よろしくお願いします」






























「くっ・・・・・・」

人間表には見えない部分がある。どんなに冷静に装った人間でも、裡には熱き心を持つという事も。

彼、北辰もまたそういう人間の一人だった。彼は外道であり修羅でもあるが、しかし機械では無い。

ただ、心が動かないだけなのだ。部下が傷つこうと、敵を何人酷い方法で殺しても。そういうのでは、心が動かない。

だが、動くごく例外が起きていた。任務の失敗、すなわち己の敗北だ―――

「ホシノ・ルリ。何故貴様はここまで生き延びられる?どうしてだ」

あの時。刀を投げつけて彼女に自殺を迫った時。彼は圧倒的な優位にあった。

圧倒的な優位にあったからこそ、そうした。彼女が自殺する所を見てみたかった、絶対の勝利を感じたかったからでもある。

だが、どうだ?彼女は生き延びた。両の掌で掬い取った砂が指の間から零れ落ちるかのように。

足止めしたはずの敵は、犠牲をいとわずに突っ込んできた。その結果、部下3人が重軽傷を負い、撤退せざるを得なくなったのだ。

さっさと殺すべきだった。最初の時の過ちと変わらない。有無を言わさず、撃ち殺すべきだったのだ。爆殺でもよい。

「貴様達を見ると、形にこだわりたくなる。何故だ、何故私は・・・・・・」

軽く壁を叩き、溜息をつく。決して他人には見せられない姿だ。『北辰』という形は、護らなければならない。

『北辰殿、奴らがまた動き出したようです』

通信。意外に早かった。あと1ヶ月は動かないものと思っていたのだ。

「今行く」

機会は与えられた。彼は軽く着衣を整えると、身を翻す。つぶやきをその場に置いて―――

「次は必ず殺す。貴様からだ、ホシノ・ルリ・・・・・・」






























ボソンの光。淡い燐光が空に浮かび上がる。

ステルンクーゲルのパイロット。彼がそれをふと見た時、全ては手遅れだった。

上空から機体に降り注ぐ光。いや、それを見る事も叶わない。ビームによって、コクピットごと蒸発したからだ。

彼の意識は魂となって永遠に彷徨い続ける―――かどうかはわからない。だが、それが生の終わりである事には変わりが無い。

「ルリちゃん、右」

黒い2機。宵闇に紛れるかのように素早く地面を這う。建物ごしにまだ気付かぬ敵を撃ち抜く。

やっと鳴り響くサイレン。基地各所に分散した残存5機が彼らに向かってくる。4機までは積尸気だった。

「積尸気4機、引き受ける。ルリちゃんはクーゲルを片付けてくれ」

『はい』

積尸気は敵ではなかった。ボソンジャンプ可能というコンセプト以外は(量産型のジャンプユニットは今だ開発されていないから、

この能力は現時点では一切生かされない)エステバリス以下の機体なのだ。ディストーションフィールド無しは無謀すぎる。

機動兵器が存在しえるのは、全てディストーションフィールドという強固な防壁があっての事だ。

例えば夜天光のように運動性を限界まで高め、パイロットの技量も超人級ならば、前面だけに展開するディストーションフィールドでも

どうにかならない事は無いが、一般のパイロットがこのような機体を使うというのは、機動兵器戦においては自殺行為に等しい。

一方クーゲルの方はといえば、地上での使用に問題がある。これが宇宙であれば脚部スラスターの推力を生かせるのだが、

重力井戸の底においてはエステバリスに対してはいいカモになるほか無かった。代替の機体を開発すべきなのだ。

中遠距離専用、射撃戦に特化したクーゲル。素人が使うには決して悪い思想などでは無い。

近代戦闘において格闘戦を挑む機会は多くない。たとえ強固なディストーションフィールドを纏おうとも、大体は射撃で勝負がつく。

だがしかし。ルリは手練だった。いや、クーゲルのパイロットが実戦を経験した事が無いのだから、そこには大きな差が存在する。

ハンドレールガンの射線を読み取り、上手く回避しながら接近する。司令塔に手をついてほぼ直角に移動。

ロックオン。彼女の意識の中で確かに敵機がこちらのハンドカノンの射線上に入る―――最大出力で発射。

フィールドごと吹き飛ぶ敵機。破片がぱらぱらと倉庫の上に降りかかる。ちょうどアキトもまた、積尸気を殲滅したところだ。





『後は敵司令塔を潰し、倉庫を殲滅する。ルリちゃんは司令塔をよろしく』

「はい」

本当に雑魚だった。北辰達などさえいなければ、敵は素人の集まりに過ぎない。

去っていくアキトの機体。前乗っていた機体に色々ごてごてと装甲やスラスターをくっ付けた改造機である。

一方の彼女の機体も改造機。別に敵が圧倒的な性能の機体を持っている訳では無いから、これでいいのだ。

司令塔に近づく。司令塔の中で怯える敵兵。睨みつけてくる指揮官。反応は人様々だ。

だが、等しく待ち受けるのは、死。彼女は死神だった。死神としてこの場にあろうとした。

「・・・・・・死んでください」

ラピッドライフルを向けて、連射。爆風に包まれて滑走路司令塔が崩壊する。

まるで紙屑のようだった。破壊したという実感すら湧かない。機械越しの感覚だからだろうか?

敵を殺したはずなのだ。血だって肉体だってめちゃくちゃに四散したはずなのだ。なのに、何も感じ取る事が出来ない。

(自分勝手な感覚・・・・・・)







そう彼女が思ったとき、ボソン反応が検出された。後方、彼女は左に向かって飛びながら、振り向く。

紅い機体。運動性向上に特化した、ターレットノズル装備型の機動兵器。夜天光。

『・・・・・・妖精、お主を殺す』

ぞっとするような響きが、全周波回線越しに入ってくる。だが、それに怯えるほど、彼女は初心な小娘では無かった。

錫杖を真っ直ぐこちらに向けてくる。一方僚機は3機、離れた場所でアキトと交戦に入っていた。

もし―――彼女は思う。もし、この1対1の戦闘で、北辰を斃せたのなら?

いつもは数の暴力に負けていた。そして、その為に彼女の前で何人も死んでしまった。

もし自分が今までの借りを返せるとしたら?今ここで北辰と正面切って戦うのは、彼女にとってあまりに魅力だった。

「返り討ちにしてあげます、北辰」





ラピッドライフルをしまい、右手にワイヤーカッターの筐体を握る。

飛び上がったのは同時だった。飛び上がると同時に北辰はミサイルを放つ。

それを左腕のハンドカノンで撃ち落しながら、彼女は夜天光の右側面に移動してゆく。

後退する北辰。その後ろに向けて、ワイヤーカッターの先端を投げつける。輪を描くモノフィラメントワイヤー。

だがしかし、北辰はそれに絡め取られはしなかった。見切ったようにターレットノズルを下向きにして噴射。

急上昇してワイヤーの切っ先から逃れつつ、彼女に接近してくる。突き出される右腕。

錫杖の切っ先を右腕で払う。夜天光を蹴り飛ばす装甲強化型エステバリス。

再び距離をとって。ルリは左腕のハンドカノンを夜天光に向ける。射撃戦は得意だ。

けれど、北辰は彼女以上に巧妙だった。ハンドカノンの特性を見抜いたのだ。

全出力射撃の際にハンドカノンには溜めが出来る。これを見切って彼は回避する。地面に向かっておちながら、だ。

重力を上手く生かして、正面のモニターから消え去る夜天光。彼女も急いで下向きに機体を入れ替えて―――

『やめるんだ、ルリちゃん!』

アキトの声。だが、今の彼女にはただのノイズでしかなかった。戦いに全てを向けてしまっているのだ。

位置エネルギーはそのまま力のはずだ。上空を占位している彼女は、夜天光に対して優位にある。

だから、やめる理由など何処にも無い。地上付近を這う北辰機を狙って、再びハンドカノンを構えて―――





次の瞬間。凄まじい光量がスクリーンを叩く。レーダーも乱れ、夜天光を失策してしまう。

「え?」

一瞬、まさに一瞬の出来事だった。どうしてこうなったのか、理解がついていけない。

更に次の瞬間。入光量を調節して回復したスクリーンいっぱいに、夜天光が映し出されていた。





「ルリちゃんっ!!」

アキトの絶叫が空に響き渡る。3機の敵機に貼り付けられた彼には、どうする事も出来なかった。

北辰は巧妙だった。最初からこのタイミングを狙って出撃し、地上に予め燃料タンクの仕掛けをしておいたのだ。

燃料タンクの中に入っていたのは、ラピッドライフルの弾にも使われている液体炸薬。

その大爆発を利用して一気にルリとの距離を詰めたのだ。接近戦なら、北辰の方が上なのだから、有効な戦術だ。

夜天光の突き出した錫杖がろくに防御できないエステバリスの右腕に炸裂する。もぎ取られる右腕。

左腕がアサルトピットの下部にめり込む。スパークと共に地面に向かって落ち、激突するエステバリス。

『くっ・・・・・・狙いがずれたか』

北辰の声が通信越しに入る。そうだ、彼は一撃必殺を狙ったに違いないのだ。本来なら、錫杖がアサルトピットを貫くはずだった。

『だが、これで終わりだ』

錫杖を真っ直ぐに構え、突撃する北辰。動かないエステバリス―――

「ルリちゃんっ!!!」






























「・・・・・・俺のせいだ」

「そうかしら?」

白い空間。床も白く、壁紙も白い。天井もだ。動く人物もまた、みな白かった。

ただ一人、彼だけが黒い。仲間はずれのようでもあり、また白い中で唯一認められた異色でもあるかもしれなかった。

ベッドの上、横たわる少女。身体のいくつかに丁寧に包帯が巻かれ、その上に白い貫頭衣を身につけている。

その彼女を見つめながら、彼はひたすら気分が落ち込むのだった。家族なのだ、彼女は。

「貴方がいるから、彼女は助かったんでしょうね。その事実を忘れてはいけないわ」

それはそうだった。あの瞬間、北辰に止めを刺される、ほんの一瞬前の事だ。

血塗れの彼女が彼の膝の上にどしりと乗った。ボソンジャンプで脱出してきたのである。

どうしてそうなったのかは、よくわからない。ただし、いや絶対に彼と彼女の間を繋ぐリンクが大きな役割を果たしたのだろう。

「俺が復讐に付き合わせたから。ルリちゃんはこうなってしまったんだ・・・・・・」

「彼女が望んだ事よ。むしろ五体満足で生きているだけ、十分ましだと思うわね」

慰めているのか、あるいは厳しい事を言っているのか。白衣の女性、イネス・フレサンジュの口調からは判断がつきかねた。

だが恐らく彼女の言っている事が、客観的には正しいのだろう。当人達の感情を無視すれば、まったくその通りなのだ。

「それに。ルリちゃんがいなかったら、貴方復讐なんて出来るのかしら?」

黙り込む彼。それがわかっているからこそ、彼は辛くもなる。彼には彼女がどうしても必要なのだ。

でも、彼女がこうして苦しむのを、彼は見ていられなかった。顔を背けて、部屋より出て行く。





もうルリちゃんを自分に縛るのはやめよう―――彼の中で膨らむ思い。

今まで彼女の好きにさせてきた。だがそれこそが、彼女を縛る行為だったのだ。

無理やりにでも引き離すべきだったのだ。そしてそれは今からでも決して無理では無い。

彼女の幸せの為には、もうここで自分と引き離してしまうべきだ。復讐など一人でやればいい。







結局彼に見えるのは、自分自身から見たルリに過ぎない。

彼女がどう思っているのか、その事を彼はほとんど考えもしなかった。

どうして彼女が自分の為に戦ってくれるのか、実際のところよくわかっていなかったのだ。

実に視野の狭い人間である。独りよがりな性格でこそないが、それ故に他人の好意を理解できない。

自分に自信が無い。そう言い換えてもいいだろう。彼女の想いを彼はわかっていなかった―――

こうして彼は一人後悔に沈み、一人で結論を出そうとした。







そして、1週間後。ルリの病室の前に、彼は立っていた。

「・・・・・・俺だけど、いいかな?」

「どうぞ」


































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あとがき(乱雑手記)




一難去ってまた一難なお話です。

ラピスの問題はどうにか解決しました。何処と無くラピスが大人っぽくみえますが、

実際彼女の年齢からして幼児ではありませんしね。理性的には大人らしい判断を下せるものとしました。

そして感情面も「少女は少しずつ大人へと変わっていく」。どういうレディになるかは、まだ決まってませんけど(おい)

ラピスもルリも等しく大人になっていく。そういった流れでいきますし、自然とそう感じられるように書いていきたいものです。

さて、次話。アキト×ルリにしてみせるお話です。そうじゃないと、永遠に機会が無いですしね(苦笑)

アキトを想っているルリ、それを理解していないアキト。彼は一体どういう回答を彼女に告げるのでしょうか。

そして、ユーチャリス、ブラックサレナの登場です。これからはユリカさん救出まで駆け足で参ります。

次話への間隔は伸びる一方ですが、ストーリーは充実させていくので楽しみにしていてください。





ラピスにとっての戦いは、一つ終わりを迎えました。彼女はたぶん自立していくでしょう。

一方ルリにとっての戦いはこれからです。刃を交えずとも、真剣な勝負となる事でしょう。

・・・・・・描くのはりべれーたーだけど(苦笑)。火花の散らない戦いを描くのも難しいものがあります。

心的描写を充実させないといけないし、筆が進まないし。

女性にとっては相手の気を向かせるのがまた難しいわけで―――その描写はもっと難しいわけで。

まあ、これらの戦いが終われば、後はアキト君の復讐戦です。ブラックサレナ大活躍ですね。

読者の多くの方はブラックサレナの勇姿をば見たいでしょうし、そろそろこの停滞した雰囲気を打破する事にします。

実際筆が進まなかったという部分もありますし。目標では第20話でユリカ奪還ですので。

次話、ユリカの悪夢がはじまります(謎)






それでは。次回もアキト×ルリで行こう!




とうとうローテーションが崩れました。正直全然筆が進まなかったので、無理やり1話を出してます。

さて、筆が進まなかった間。自分は一日全てをかけ、「ドラクエ6」をROMでやってました(おい)

もうめちゃくちゃやりまくって、22時間52分で全クリしました。いや、大変でしたよ、ホント(ならやるな)

次に、原典研究所という自分の通う塾兼研究所のパーティーに参加して。高校時代の諸先輩方に会ってきました。

更にmixiに参加しました。mixiいいですね、結構踏み込んだ事を書いていけますし。勿論「ルリルリ」というコミュに参加です。

そんなこんなで執筆している時間自体が少ないわけで。いやぁ、いつ全26話が仕上がるかなぁ(苦笑)

とりあえず大体半分を過ぎました。これからどうにか、話を纏めていきたいと思ってます。

―――どこかおかしい文章を書いている、りべれーたーでした。明後日へ続く(謎)



b83yrの感想

ユリカの悪夢・・・・

まあ、このHPでは、ユリカが何をしようと、ユリカ×アキトになる可能性は低い訳で・・・『び〜のHPへの投稿』というだけでも、悪夢と言えば悪夢・・・・劇ナデでの扱いが、既に悪夢と言えば悪夢だし(苦笑)

ルリ×アキトも、ようやっと、『アキト側の気持ち』が動くようで

ここでは、ルリ側の気持ちよりも、アキト側の気持ちが知りたいって時に、ルリ側の気持ちばかりやられてしまうと、読者はイライラしたりするんですよ

まして、この作品ではかなりルリを苦しめていますし、苦しめたなら苦しめたなりの、『見返り』が欲しくなりますから

まあ、『見返り』は、話の都合上ラストまで待ってくれというなら、それは仕方ないですが

でも、ラストまで長引き過ぎて、イライラが我満の限界を超えた時には、読者はそのSS読む事を止めてしまいます

そこら辺りのバランスは、難しいんですよねえ

次話へ進む

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