がたっ。椅子が倒れる音。

次にふらりと地面に崩れ落ちる薄桃色の髪の少女。その一部始終を彼女はつぶさに見つめていた。

ひらひらと空を舞って、テーブルの上に落ちる3枚の紙。記された"アキトの言葉"。

複雑に身を捩じらせて、絶望に顔をゆがめて。黄金の瞳は見開かれたままだった。

見開いたまま気を喪ってしまった少女、ラピス・ラズリ。

少女を抱き上げながら、酷く自分という存在に嫌悪を感じる彼女、エリナ・キンジョウ・ウォン。

「あなたの為・・・・・・なんて言い訳、いえないわね」

そう、たとえそうだったとしても。自分達はラピスの心に少なからず、いや大きな傷をつけてしまったのだ。

アキトから彼女を無理やり引き離す為に。そして、ナデシコBのメインオペレーター、"アイドル"にする為に。

それが彼女を自立させる路であるとはいえ。彼女は一生、この日、この瞬間の事を忘れないだろう。

「・・・・・・最低の母親ね、私は」

ラピス・ラズリを彼女は愛していた。だが、それでも自分達の道具として彼女を使う。

言い訳はたくさん用意している。けれど、その事が逆に彼女の心を重くするのだ。

ラピスにはラピスの幸せがあるに違いない。そしてそれは多分、ずっとアキトの側にいる事だっただろう。

それではいけないと、彼女自身は思っている。だから、こうした。

でもそれは結局の所、ラピスに別の生き方を強要しているのかもしれない。いや、多分そうしているのだ。

ラピスはこれで自立するだろう。だがしかし、永遠に人を愛する事の出来ない女性になってしまったかも知れない。

それはまだわからない事だった。もしかしたら、回復できるかもしれないもの。新たに見出す事の出来るかもしれないもの。

(せめて、代わりにあなたを愛する人はたくさん出来るから・・・・・・ごめんなさい、ラピス)



























Bride of darkness



第12話 『白い感情』











ゼロ。白刃を煌かせ、北辰の部下―――北辰七人衆の4人が、彼女の懐に飛び込んでくる。

もう駄目だ。一対一でもワイヤーカッターなどを駆使し、広く空間を取らなければ勝てない相手なのに。

武器は北辰より投げつけられた短刀一振りのみ。後ろに壁。痛みに疼く、満身創痍に近い身体。

(結局、一人じゃ何も出来ませんでした・・・・・・悲しいけど、私はただの少女だから)

生命の残り時間を、彼女はおかしいほど冷めた眼で見つめていた。

諦観とでも呼ぼうか。彼女の心の中にあるのは、ただそれだけだった。不思議と未練は残らない。

このくらいの自分が死んだところで、何が変わるものか―――そうとさえ思っていたのかもしれない。

アキトには悪いと心のどこかで思ってはいた。けれど、どこかだけだ。自分がいなくても、変わらないと思うからだ。

刃の輝き。白い、透き通るような光だ。生命を奪う事だけが目的の、単純だが美しくさえあるそれを、彼女を見つめていた―――







だが、彼女は死ななかった。いや、死ぬ事を許されなかった。

あとから何度もこの時の事を彼女は思い起こす。その度この時に死ぬべきだったと感じる事になった。

けれど、彼女はまだ色々と知るべきだった。神がいるとするなら、酷薄あるいは慈悲よりか、そう判断したのだろう。





凄まじい火線が室内に降り注ぐ。壁という壁に穴が開き、血飛沫が床と壁に飛び散る。

外から撃ちかけられたそれらは、まず人質にとられていた隊員の身体を貫いた。

次、北辰達に。数名に銃弾が突き刺さり、少なからぬ傷を与えた。

「くっ!跳躍」

呻くような北辰。苦々しそうな表情。それも、すぐにボソンの輝きにかわる。

彼女に挑みかかった4人も結局は止めを控え、北辰一行は全て虚空へと消え去ったのだった。







彼女、ホシノ・ルリは呻いていた。

身体の痛みも、呻きの理由ではある。4人のうち2人の突きを受けた。

彼女の無意識下の動きで刃こそ突き刺さらなかったが、打撃は身体に食い込んだ。

ボクサーのパンチを喰らうよりも強く鋭い衝撃。身体の中に少なからぬダメージを被って、彼女は立っていられなかった。





だが、本当に呻いていたのは彼女の心だった。

結局殺したのは自分だった―――斃れて動かない壮年の隊員を見下ろしながら、その想いが心を刺す。

自分の為に、彼は死んだ。多数室内に入ってくる増援の隊員達の顔を眺めながら、彼女は自分自身を詰る。

いや、彼だけでは無い。顔ぶれを見ればわかる、全員A集団4チーム24人の構成員だ。

それが、わずか11人。彼女が危機に陥ったのを見て、数々の罠を強行突破してきたのだろう。

コミュニケから各人の状況はわかる。特にA集団の隊長達は彼女の動向から目を離さなかった。

だからこれほど早くこの部屋に到着できた。そして―――13人も、死ぬ事になったのだ。





罠を張ったのは北辰である。だが、彼が殺したわけでは無かった。

仲間を撃ったのは増援の隊員達である。けれど、彼らが殺したわけでも無い。

そういう状況を作り出したのは、彼女自身。殺したのは彼女。彼女がいなければ、こういう事にはならなかった。

勿論、それは客観的に言って彼女の責任では無い。だがしかし、この時の彼女は全て自分の責任だと感じていた。

道具だから。隊員達は彼女の護衛だから。そういう風に割り切るには、あまりに彼女は優しすぎたのだ。

たとえ無表情にいくらでも敵を殺す事の出来る、事実そうしてきた彼女でも、限界はあるのだった―――





「大丈夫ですか、ルリさん?」

見た目大丈夫そうでは無い。治療は間違いなく必要だろう。だが、若い隊員はまずそう声を掛けた。

彼女を励ます為だったかもしれない。ただまともな意識があるかどうかの確認であったかもしれない。

いずれにせよ彼女の周囲では医療キットを担いだ兵士が2人付いて、止血処置をはじめていた。

だが、彼らの幾人かは知る事になった。本当に大きな傷が開いていたのは彼女の心である事を。

「・・・・・・私が、殺しました」

「はい?」

二度は言わない。ただ俯いて、彼女は隊員達の為すがままにされるのみだった。





結局任を果たす事の出来なくなった彼女の代わりに隊員達はデータを回収し―――

そもそも彼女が必要とされるような、強固なプロテクトはかけられていなかった―――

負傷した彼女と深手の隊員達を護衛して退却していった。

そして施設は完全破壊され、一定数の犠牲は出たもののゴートの作戦は成功裡に終わったのだった。





























ふわふわとしている。まるで空を飛んでいるみたいだった。

はじめて、彼女の感知したもの。それは柔らかいもので、気持ちのいいものだった。

「ぅん・・・・・・っ」

手足に触れる、柔らかくてかつすべすべしたもの。更なる眠りの世界へと彼女を誘う。

でも、何か大切なものを置き忘れた―――そんな気がした。今安らいでいるこの気分は、不自然な気がする。

瞼を上げる。碧みのある白。そうだ、この肌ざわり、感覚は自分のベッド、絹のシーツだった。

ぱちぱち。瞼をしばたかせて、何故今自分がここにいるのか、思いだそうとする。

だが、何かひっかかっていた。思い出したくないような気もする。

半身を起こして。端末を手に取り、電源を入れる。使い方はエリナに教わって、すぐに使いこなす事が出来た。

時刻が表示される。午前3時。最近寝ている時刻と同じぐらいだった。目を覚ますというのは、ありえない。

そもそも何故明かりがついているのだろう―――彼女は疑問に思い、そして思い出してしまった。







アキトは自分を捨てた。

正確には、自分があまりに彼にべったりしすぎたのだ。甘えたかった、だからそうしていたのだ。

それを、手紙で咎められた。そうである限りいい大人にはなれないとも―――

そして。彼は自分と二度と会わないと。彼が認める大人にならない限り、二度と―――





あらためて、身体が震える。そんなに―――そんなに、自分は悪い事をしてしまったのだろうか?

アキトの側にいてはいけなかったのだろうか?甘えるように、あの人の瞳を見上げてはいけなかったのだろうか・・・・・・?

いけなかったのだろう。甘えてばっかりでは、相手の好意は勝ち取れないのだ。彼女の理性がそう告げる。

だが、心はどうしようも無かった。好きだったから。本当の意味で"自分"を見せる事の出来る、唯一の人だったから。

寂しい気持ちを埋めてもらう為に。いや、自分自身というものを作り出す為にも。彼の側にいなければいけなかった。

でも―――彼女の中で後悔が大きくなる―――彼女は彼に何もしてあげる事が出来なかった。

彼は彼女を救ってくれた。いや、真実の意味で、彼こそ彼女の"創造主"なのだ。彼は彼女に身体以外の全てをくれた。

だけど、彼女は何も出来なかった。倒れている時も、彼の為に何一つする事が出来なかったのだ。

だから愛想をつかされたのだろう。一方的に自分が相手を求めたのが悪い。そう彼女の理性は冷たく自身に告げた。





けれど―――あまりに酷いペナルティだった。

どうしても彼に毎日会ってないと、彼女は彼女自身を保つ事が出来ないような恐怖にとりつかれる。

今もそうだ。頭ではわかっていても、感情を抑制する事はあまりに難しいのだ。

今まで彼女は感情そのものを置き忘れたかのような生活を送ってきた。だから、感情も未成熟。

大部分の事には彼女は耐える事が出来る。痛みや苦しみ、餓えに貧困、侮蔑や恥辱にでも耐えてみせよう。

以前の彼女は常にそういった境遇にあった。毎日生きる事が拷問だったのだから、それに戻されてもどうにかなる。

だけど、これだけは―――アキトに会わずにいる、そして新しい生活に放り出される事だけは、耐えられそうに無かった。





彼女はあさって、ここから出なければならない。そして、連合宇宙軍司令部に編入されるのだ。

少なくとも大佐になるまでは会わない―――手紙にはそうも書いてあった。

用意されている地位は司令部勤務、中尉。そしてナデシコB完成次第、メインオペレーター兼艦長代理、大尉である。

彼女の明晰な頭脳は告げている。いかに広告塔としてどんどんと地位が昇進されるとしても、大規模な戦乱でも起こらない限り、

大佐になるには10年はかかる。普通のスピードなら20年以上。今度会う時には少なくとも自分はもう大人なのだ。

そして多分しかるべき相手ともう結婚させられているだろう。そうなれば、彼に甘えるどころか、他人行儀で会わなければならない。

いや。もっと切実な問題がある。彼は今復讐の為に戦っている、彼が戦死する可能性が極めて高い。





二度と会えなくなる―――彼女は身体の芯が冷め切るのを知覚した。嫌な汗が身体の表面を伝っている。

それは残酷な事実だった。生きる気を失くさせるぐらいに。彼女にとっては、それは彼の死とほとんど同義。

彼に会えないぐらいなら、死んでしまいたかった。意味の無い生だからだ。親以上に彼は彼女にとって重要な存在だった。

けれど、死ぬ事は許されないだろう。それどころか、彼の名を呼ぶ事も許されない。

彼女には監視役がつくはずだし、何かアクションを取るだけで極秘の存在であるアキトの身そのものが危なくなってしまうのだ。

「・・・・・・嫌」

また心を置き忘れて生きる事になるのだろうか?生きながら自分は死ななければならないのだろうか?

そうなのだろう。彼女の理性が再び囁く。

ネルガルの為、そして彼の為に自分は利用される。利用されるべきだった。それには自分の能力だけが必要なのだ。

それならば従順である方がいい。絶望に打ちひしがれて感情を失くし、コンピューターとしてのみ機能する自分でなければならないのだ。

―――たとえそれが嫌でも。無理にでもさせられる。そしてそれが可能な事である事は彼女自身がよくわかっていた。

(試験体・・・・・・アキトにとっても、私はそうだったの?)

そんなはずは無いと思う。だが、結果としていえば、彼女の能力が必要とされているのは間違いが無い。ネルガルは少なくともそうだ。

そして彼もそう。彼にとっても彼女の感情が必要なのではなくて、能力が必要だったのだ。

だから、今こうして捨てられてナデシコBという「側面援護」の舞台を与えられる。

ナデシコBでの任務は間違いなく彼の敵、火星の後継者関係のものが入ってくる。その為にネルガルは建造しているのだから。

恨むなどもっての他だ。感情を持つ事を許してくれた分だけ、自分を"人並み"にしてくれた分だけ、

むしろ彼には深く感謝しなければならない、それを形にして示さねばならない―――そう理性は主張した。





だが、どうしても収まらなかった。

彼に能力面以外の自分を捨てられた哀しみ。彼に会えない恐怖に近い不安。新しい生活への絶望に近い不安。

鏡に映る自分は、相変らずの無表情。こういう時に泣ければいいのに―――彼女は思った。

涙は出ない。喪失感は大きいのに、顔が悲しみに歪む事も無い。能面みたいな、白。

泣ければ気晴らしになりそうな気もした。でも、気晴らしで消えるような気持ちでは無い気も、またしていた。

はじめての感情、喪失。ずきんとくる胸の痛み。もしかしたら自分は戸惑っているのかもしれなかった。





結局、彼女はそれから10時間、同じ鏡の前に立ち続ける事になった。






























「うぐっ・・・・・・」

歪む顔。男のそれを見て、白衣の女性は微かに頷いていた。

もうまもなくだ、まもなく彼は目覚める。大した後遺症も無く、医者としては喜ばしい限りである。

ある意味彼、テンカワ・アキトとその"妖精"ホシノ・ルリは凄まじい強運の持ち主としかいい様が無い。

いや、凶運か。他の部分で徹底的に喪う代わりに、今も彼らは生き延びているのだ。

テンカワ・アキトはあれほどの人体実験を受けて重傷を受けても死ななかった。驚異的な事だ。

ホシノ・ルリに到っては重傷を負っても全て急所を外している。何一つ人体や感覚の欠損を起こしていないのだ。

「復讐、献身。強い想いは確かに人体にも作用するのね」

強い想いといえば、ホシノ・ルリには不思議な事がいくつか起こっているようだった。

一番顕著な例として、アキトの救出。彼女は未来がわかっていたかのように飛び出して、彼を救ってきた。

興味を持った彼女は、今回の出撃の前にホシノ・ルリに質問をいくつかしていた。そして、それを分析している。

考えられるのは、リンク。だが、リンクだけでは理由がつかない。ただ、ホシノ・ルリがテンカワ・アキトに繋がっているだけだからだ。

それに、反対の現象は起きていないようだった。ルリの側が意識を遮断できるという事もあるが、それにしても疑問は多い。

「未来を見るとしたら、遺跡の力が必要ね・・・・・・」

仮説だが、ルリと遺跡の間に不完全な、いや微かなリンクみたいなものが出来ているのかもしれない。

それはありうる。ルリの体内には用途及び効果不明のナノマシンが流れている事を彼女は検査の結果知っていた。

人体実験の際に投与されたサンプルがある。それが作用しているとしても、別に不思議な事では無いのだ。

「となると興味深い事になるわね。リンクは人体と機械との間でも作用しあう可能性があるのだから」

アキトの側で書類仕事をしながら、考えを呟く彼女。独り言が出るのは、少し疲れているからかもしれない。

「いえ、そもそもリンクは2つの補助脳との間で確立されているのよね。つまり最初から機械と機械との間。

光速以上の速度で通信しているリンク。研究すれば超光速通信への路も拓けるのかしら」

コーヒーカップを握った手が微かに震える。どうやら彼女は本当に疲れているようだった。






























「・・・・・・裏切り者」

背後から聞こえてきた声。振り向いた先、凄まじい光源が彼女を照らし出す。

目を細めて。手を翳しているうちに、次第に慣れる。光源の中心に立つ女性の姿を認める事が出来た。

ミスマル・ユリカ。彼女の"艦長"、家族。"大事な人"の、妻。

「泥棒猫、貴女のせいで、私は彼と結ばれなかった」

糾弾するユリカ。光が短刀の形となって、彼女の全身を貫く。凄まじい痛みに、彼女は喘ぐ。

だが、不思議とユリカの言葉に頷ける彼女。そうだ、自分は確かに泥棒猫なのだ―――

「私の王子様、彼の気持ちを奪った。貴女の事を私は愛したのに・・・・・・裏切り者」

反論しようが無かった。何故かはわからない、自分はまだ"そこまで"はやっていないはずなのに。

けれど、この空間ではそれで話が通ってしまっている。そしてその事を何故か認めている自分がいる―――

「所詮人形の癖に。オペレーターだけやってればよかったのよ。家族になんてしなければよかった」

ユリカの片手が挙がる。それと同時、ユリカの背後に1個小隊の兵隊が現れる。

小銃が構えられた。兵士一人ひとりの顔が彼女の中に焼き付けられる。一人は―――アオイ・ジュンだ。

他に金髪に赤のメッシュを入れた男に、小さな背のまだ子供がいた。全員士官の徽章をつけている。

「ホシノ・ルリ。国家反逆罪、騒乱罪、反乱主謀及び大量虐殺の罪で処刑します。撃て」

最後に感情を置き捨てたかのような声でユリカが命じる。手が振り下ろされて、銃が火を噴いた―――





はっと目を覚ます。夢だ、だけど妙に現実感があったのだ。

今はネルガル本社への帰還の途中、機内医療寝台の上だった。

「・・・・・・情緒不安定ですね」

呟く彼女。こうしてこの夢の事を彼女はしばらく忘れる事になる―――































女性には真摯たれ。木連軍人としての基本である。

彼は外見こそ元木連軍人らしくは無かった。200年以上前の"古典的"プレイボーイのような髪型など、まさにそうだ。

そして現役プレイボーイである事からしても、誠実さはあまり外見からは窺う事は出来ない。

だがしかし、そんな彼は不思議と人望を集めるようだった。今回の任務もそれがあるからである。

かつての戦艦かんなづき艦長にして上官、そして復帰したばかりの彼を重用してくれる軍人、秋山源八郎少将。

その彼とネルガル会長より直々の頼みで―――それがあって彼はまた軍に復帰しなければならなくなった―――今ここにいる。

軽い男に見えてもその実かなり実直で信義に堅い所を持っている彼なので、この任務を受けない訳にいかなかった。

(それに女の子一人放っておいて何が軍人か、って事もあるしね)

・・・・・・結局余人にはよくわからない理由も含まれているようではある。





「高杉三郎太中尉かしら」

ドアが開いて、一人の女性が入ってくる。黒髪を短めに纏めた彼女はとても著名な人物だ。

ネルガルの表の顔、ネルガル会長秘書兼広報官。エリナ・キンジョウ・ウォン女史である。

「はっ、高杉三郎太であります」

「エリナ・キンジョウ・ウォン。ネルガル会長秘書で、この娘の養母よ」

敬礼した彼の視線に入ってくる"天使"。まさに彼の眼にはそう映った。

エリナの半身に隠れていた少女。薄桃色の髪を膝近くまで伸ばし、黄金の瞳を備え。

身長差が40cmもある彼を見上げている。どこか儚い感じを、彼は第一印象として受けた。

(IFS強化体質者というが・・・・・・凄いものだ。こういう娘があのナデシコを動かしていたのか)

「・・・・・・ラピス・ラズリ。よろしく・・・お願いします」

「よろしく。いや、よろしくお願いします、大尉」

彼の適性階級は中佐だった。最初秋山が彼の復帰の際に提示した階級は中佐、役職はナデシコB艦長であった。

だが彼はあまり階級を欲してはいない。そもそも長く軍にいるつもりも無いのだ。

だからこの女の子にあわせてみよう―――そういうわけで、敢えてこのラピス・ラズリの副官を務める事にしたのだ。

「よろしく頼むわね。貴方や秋山少将、ミスマル大将にしか頼る事が出来ないのよ」

「わかってます。俺、いえ小官がいるからには彼女を護り通してみせますよ」

その為に軍に復帰したのだった。女の子を護る騎士というのは、彼の美的感覚にちょうどしっくりくる役回りなのだ。

大きく眼を見開いて、彼を見つめ続ける彼女。不意に彼は、彼女の瞳の奥に哀しみを感じ取った。

誰にも頼れない、苦しさ。無表情の中に、何か思いつめたような感じを、だが彼は確かに感じ取ったのだ。

(この娘、何かを抱えている・・・・・・生まれと育ちは不幸だと聞いたが、そんなんじゃないな)

自分が支えてあげないと、折れてしまいそうだった。いや、それは自惚れかもしれない。自分でも支えきれるかどうかはわからない。

だからこそ、彼は一つ確固たる決意を持った。抱えた苦しみを少しでもいいから、いつか和らげようと―――







―――こうして、一人の作られたアイドルは世に出たのだった。

































次話へ進む

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あとがき(急造仕様)




第12話、やっと次のステージに進む、その為の話が終わりました。

ラピスはルリの位置へ。勿論経験が無いからもっと多数の補佐役が付く事になりますが。

一方ルリは一つの壁にぶつかりました。実力もそうですが、直面した心の壁を彼女は越えるかどうか。

そもそも越える事が正しいとは限りませんし、彼女は彼女で自分のあり方を見直す時期にさしかかっています。

次話、新しい機動兵器、新しい生活と共に、物語が動き出します。

ルリは果たしてどういう風に自分の心に折り合いをつけるのか。

ラピスは周囲の環境に適応できるのか。それとも、ウサギのように寂しさに耐えられずに死んでしまうのか。

次話、Bride of darkness「夢の終わりに」お楽しみに!(サブタイトル違う)





・・・・・・と謎の次話予告をして。作者の思考はどんどんと先走りまくってます。

現在問題なのは、いつアキト×ルリにしてしまうか、なんですよね。実はこれが最大の問題だったり。

少なくともユリカが救い出される前には共にユリカに罪の意識を感じるぐらいじゃないと、

2人はそのままユリカのところに帰ってしまいますからね〜。それでいいという向きもありますが(おい)。

完全な幸せを3人が簡単に掴むというのはあまりに不自然ですから、避けていきます。

(勿論、みんな不幸だとかは作者が耐えられないので、ハッピーエンド的な終わり方にはなりますが)






それでは。次回もアキト×ルリで行こう!




今回も短かったですねぇ。どうしても最近長々とは書けなくなってます。それでいいのかもしれませんが。

読者を待たせない。まず第一の目標ですが、実際は内容が薄かったり進まなかったりで、

実質は読者さんを待たせているのかもしれませんね。でも、いきなり話が跳んじゃうという事はありえませんが。

とりあえず、今回の引きはかなりアニメの一話の終わりっぽくしてみました。実際自分では近いかなと思ってます。

劇画的に話を書いていくのも読みやすさ、ノリのよさという点ではひとついいのでは無いかと、まあ自分の浅はかな考えですけどね。

・・・・・・何を言いたいのかわからない、よくわからないあとがきを書くりべれーたーでした。




b83yrの感想

ルリは助かりました、まあ、『助け方』はともかく、『助かること自体』は読者も予想していたでしょうし、りべさんも読者に予想されているだろう事は、織り込み済みでしょう、でないと話が終わっちゃうし

今は、『読者の意表をつく展開』って、物凄く難しいんですよねえ、大抵の展開には、すでに『前例』あるし、となると、読者の裏をかくなんて、まず不可能で『予想されている事を承知の上で、読者に楽しんでもらう為には何をすれば良いか?』を考えないとならない

まあ、これは、SSに限らず、オリジナル作品を書く時でも、後発で始めた人が、どうしても背負わなければならない宿命なんで、どうしようも無いんですが

なんだかんだと、ちゃんと作品を完結させている人は、定期的に更新してる人が多い

やっぱり、『読者への最大のサービス』は、『ちゃんと作品を完結させる事』でしょう

SSなんてものは、どんな作品でも大抵は、、後で見直せば、悪い所なんて沢山出て来るもんです

それでも、『一つの作品をちゃんと完結させた』っていうのは、一つの評価だと思いますよ

次話へ進む

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