「閣下。第1陣、火星にて守備隊と合流、戦闘配備終了いたしました」
「うむ。・・・先制攻撃開始は30分後、我々もそれまでには合流する」
「はっ!」
連絡将校の去った『かぐらづき』執務室で、草壁は呟く。
「理想のために現実は無視できんか・・・保険は必要だな」
そして、通信機のボタンを押す。
「私だ・・・を呼べ」





「きゃあ〜〜〜〜〜〜!」
ラピスが連れて来られたブリッジでは、嬌声が湧き起こった。
「かわいい〜〜」
「ね、ね、いくつなの?この子」
「お菓子あげてもいいかな?」
ほとんど動物扱いである。
当のラピスは、迷惑そうでもなく、嬉しそうでもなく無表情にアキトの手を握っている。
「へえ〜ラピス・ラズリって言うんだ。ルリちゃんの妹だね」
「じゃあ、ラピラピね」
「いいなあ〜、ユリカも欲しいなあ〜」
「ユリカ・・・犬や猫じゃあないんだからさ・・・」
「う〜ん、ルリルリが成長した今、ロリ系同人誌のネタに詰まってたんだ〜」
「ヒカル、お前・・・そんなのにまで手え出してたんか」
「少女・・・医者が調べるもの、それは症状・・・一等でもらうもの、それは賞状・・・仏教の宗派は小乗・・・」
「萌える!萌えるぞお〜!よっしゃあ!次のフィギアは決まった!」
「あの・・・みんな?」
・・・一部男性にも大人気のラピス。
本人はおもちゃにされることに、次第に飽きてきたらしい。
アキトの後ろに隠れ、女性陣の手を逃れようとする。
「ちょっと、アキトさん!どいてください!」
「そーよ、アキト君。独り占めはないじゃない。ルリルリだけじゃ足りないの?」
「艦長命令です!どきなさあ〜い!」
アキトが隠している、のではなく、ラピスが嫌がっている、という事実ははなから考えていないらしい。
「いや、そんな・・・俺が悪いのか?」
第1フロアの下では。
オペレーターシートで頬杖ついて、この狂態が終わるのを待っていたルリが呟く。
「ばかばっか」

「さて、皆さん満喫していただいたようですから、ここらでそろそろ作戦説明を始めましょうか」
プロスの声が、全員を振り向かせる。
「ええ〜、まだ・・・?!」
抗議しようとしたユリカの口元が止まる。
額に青筋を立て、こめかみをひくつかせているプロスの表情に、クルーの血の気が音をたてて引いて行き、こそこそとそれぞれのシートに戻る。
「テンカワ、さん」
「は、はいっ!・・・ラピス、姉さんのところで遊んでおいで」
無言でアキトの赤い制服をつかむ。
「あの、ラピス?」
「・・・・・・・・・」
「えーと、ラピス、さん?」
「・・・・・・・・・」
「はあ・・・・姉さん」
『わかったわよ。ラピス、医務室へいらっしゃい。ソフトクリームがあるわよ』
イネスの言葉に、ラピスがぴくりと反応する。
しばらくアキトとコミュニケのソフトクリームの画像を見比べていたが、意を決したようにとことことブリッジの出口へ向かうと、消えていった。
(なるほど・・・アキト君よりソフトクリームね)
(ホウメイさんに頼んでおかなきゃ。艦長権限で買い占めて、と)
(あう・・・まだバレンタインショックが響いてるなんて・・・お金がないよ〜)
三者三様の思いを胸にするブリッジクルー。
アキトもまた、複雑な心境だった。
(俺って・・・ソフトクリーム以下?)





「では、今回の作戦概要を、ジュン君、お願い」
ジュンが一歩前に出て説明を始める。
「今回の連合軍の作戦は、遺跡とユートピア・コロニーの守備、チューリップの破壊、敵旗艦の撃破、上空警戒の4方面で行われる。
旗艦『はまゆう』の第1大隊と第2大隊が拠点守備、カトレアとミサイル艦がいる第8大隊と主力の第3から第7大隊がチューリップ撃破に動く。
チューリップが集中しているのはマリネリス峡谷とヘラス平原、その内マリネリスからオリンポスへ抜けながら破壊していくのが第8大隊で、主力艦隊は早期にユートピア平原背後のヘラス平原を制圧する。
背後を制圧するまで、クリユス平原の敵拠点は無視して問題ない。チューリップもないからね」
ジュンが足元に広がるスクリーンを歩きながら説明し、プロスがその後を引き継ぐ。
「ナデシコは第2艦隊に特別遊撃部隊として所属します。作戦開始から2時間以内に主力艦隊がヘラスを制圧、その後ナデシコは合流して敵旗艦を狙います」
「旗艦って・・・最初に叩かないの?」
「はい。偵察の報告では、ナデシコが会見宙域で見た例の巨大戦艦は存在しないようでして。ですが、これだけの大戦です。確実にチューリップから現れるでしょうから」
「旗艦が出現しなければ上空警戒、出現報告があったら旗艦の殲滅、いずれにせよ、作戦開始から2時間後にはナデシコの作戦行動は決まります」
ユリカの声も、珍しく緊張を含んでいる。

「但し、ヘラスを制圧した主力部隊は、第6と第7戦闘母艦大隊を残してオリンポスの第8大隊との合流に向かいます。チューリップ撃破に機動兵器ではどうにもなりませんから」
続くユリカの説明に、メグミが不安そうに声をあげる。
「じゃあ、味方はあんまりいないってこと?」
「問題ねえよ。空母にはエステが山ほどあるんだろ?」
リョーコが強気の発言をするが、
「ヘラスでどれだけ苦戦するか、によるな」
「何だよ、テンカワ。弱気だな」
「リョーコが楽観的すぎるんじゃないの〜?」
「ばかやろう!初めから負ける気で戦闘なんかできるかよ」
「まあまあ。と、ここまでが連合軍の作戦なんですが、艦長は?」
全員の視線が、ユリカの集中する。

にっこりと満面の笑みを浮かべたユリカ。
「作戦名は『ナデシコらしく』でいきましょう!」
「はあ?!」
クルーが疑問符を顔に張り付かせる。
「自分たちのために。地球のためとか、正義のためとか、そんなの止めちゃおうかなって思って」
打って変わって軽いユリカ。
「ナデシコの作戦行動はヘラスの制圧まで確定しないでしょ?だから、それまでに・・・」
「遺跡をぶっ壊す、だろ?」
スパナで肩を叩きながら、ウリバタケが答える。
笑って頷く。
「はいっ。だって、あんなのがあるから、戦争してるんだよね?だったら無くなっちゃえばいいんじゃないかな」
唖然とするクルーの表情が、次第に笑顔に変わる。

「そうですね〜。それもいいかも」
「うふふ。じゃあ、遺跡まで全速で飛ばしちゃおうかしら」
「ま、戦闘がないのは残念だけどよ」
「じゃあ、ユリカ。僕たちは最初からいきなり命令違反かい?」
ジュンはそれでも少し不安げな様子で尋ねる。
軍人気質は抜けないようだ。
「だってジュン君。ナデシコは遊撃部隊だよ?連合軍の軍艦じゃないし」
満面の笑みに、ユリカに弱いジュンはなす術もなく撃沈。
「そ、そうだね」
「おし!じゃ、相転移エンジンを絶好調にしとくか」
ウリバタケが気合を入れると、クルーはそれぞれの仕事を始める。
「作戦まで10分です!皆さん、早いとこ戦争終わらして祝賀会しましょう!」










「テツジン発進準備!三郎太!」
「了解です!」
戦いの火蓋は切って落とされた。
草壁の主力が到着する前に、地球軍の先制攻撃を受けた木連艦隊は、それでも隊伍を乱さずにオリンポスの次元跳躍門を堅守している。
「直に主力艦隊が到着する!それまでに遺跡を確保するぞ!」
かんなづきの艦橋に、源八郎の指示が響き渡る。
「ゆめみづき、前進します!艦長」
「よし、我々も行くぞ!ここは僚艦に任せる!」
かんなづき、ゆめみづきがレーザー駆逐艦を引き連れて遺跡へと向かう。

「レーダー有効範囲内に、敵艦を捕らえました!遺跡の守備部隊です。戦艦およそ40、駆逐艦120、機動兵器が射出されています。その数、小型戦闘艇と併せ、200!」
「ふむ・・・多いな。よく集めたものだ」
『源八郎!感心している場合ではないぞ。マジンを出す!』
「おう、元一郎、気をつけろよ」
『ふっ・・・誰に言っているのだ』
不敵な笑みを浮かべて、元一郎がモニターから消える。
その様子を眺めていた源八郎は、正面に向き直ると、次々に指示を出す。
「テツジンを出せ!時限歪曲場、出力最大!跳躍砲の準備は?!」
「完了しております、艦長!」
「よし、三郎太!」
『了解!テツジン、出ます!』
「うむ。三郎太」
『・・・は?』
出撃直前の、静かな発言に、三郎太の動きが止まり源八郎を見つめる。
「・・・死に急ぐなよ。九十九は望んでいないぞ」
言葉少なに、だが、三郎太には十分通じる迫力を持って言う。
沈思した三郎太は、直ぐに返答する。
『大丈夫ですよ、艦長』
言い残して出撃するテツジン。
源八郎は誰にも聞こえないよう、呟く。
「九十九・・・和平は遠そうだ・・・」

「白鳥少佐・・・自分は・・・自分には戦うことしかありませんっ!」
テツジンで三郎太は揺れていた。
自分が草壁に報告しなくとも、九十九の死は避けられなかった。
新たな生産工場を手にし、戦う理由を評議会に突きつけられるようになった草壁が、あの時点で和平に応じる可能性などなかったのだから。
それはわかっている。
自分なりのけじめもついている。
だが。

『和平を・・・』

自分が九十九だと信じて疑わなかった、そしてそれだけに、怒りに任せて撃破した敵機動兵器のパイロットが最期に言った言葉は、三郎太も耳にしていた。
彼は確かに、和平を、と言ったのだ。
地球人は本当に和平を望んでいた。
末期の言葉で嘘をつける人間などいない。
彼らの覚悟は本物であったのだ。
敵、それも、悪逆非道な地球人を殺すことに、何の罪の意識も感じなかった自分が、九十九と、九十九に似たパイロットの最期の言葉で、ふと自分たちは間違っていたのではないかと後悔にも似た感情に襲われ始めた。

『我々は勝利するまで、前進を止めない!』

勝利、とは、誰のための、何のための勝利なのか。

『正義の秩序を取り戻すまではッ!』

正義、疑いもなく信じてきた正義。
しかし、正義とは何なのか。

『地球人のように、無益な殺戮を楽しんだりしない!』

本当にそうだろうか。
彼らは殺すことを楽しんでいるのか。

和平の芽は、恐らく完全に摘み取られてしまったのだろう。
それは、もう仕方のないことだ。
九十九のことで多少の悔恨は残るが、木連軍人として戦いに赴くことを否定はしない。
だが、その戦いの向こうには、何があるのだろうか。

「木連の正義、なのか?」
地球の完全な制圧。
そして、制裁。
だが、それが自分の信じた正義の姿なのだろうか。
九十九の信じた正義とは一体、何だったのだろうか。
そして、散って行ったあのパイロットは、どんな正義を信じていたのか。
「考えもしなかった罰、なのでしょうか。少佐・・・」

けれども。
今は戦う。
あの『撫子』と戦えば、答えは見つかるのかも知れない。
それが例え、自分の死を以ってしてだとしても。



「これは・・・『撫子』ですっ!」
通信手が叫ぶ。
「来たか・・・」
もの凄い速度で、遺跡へ接近する撫子。
遺跡を守備する敵艦隊を抜けて、木連艦隊には目もくれず、一直線に向かっている。
「何だ?何を狙っているんだ・・・?」
源八郎も撫子の行動の意味がつかめず、困惑する。
『艦長!自分が行きますっ!』
「待て、三郎太!敵艦を突き抜けられる訳が・・・おい、戻れっ!」
通信を切って、突っ込むテツジン。
仕方なく、源八郎はマジンの元一郎に通信を繋ぐ。
「元一郎、三郎太を止めてくれ!あいつ、敵艦に突っ込むつもりだ!」
『わかった、待ってろ!』
テツジンを追って速度を上げるマジン。
「援護だ。跳躍砲、敵艦隊の真中に打ち込んでやれ!」
「了解!」





「艦長〜、さっきから連合軍の軍人さん、煩いんですけど」
メグミが呑気な声でユリカに苦情を訴える。
「切っちゃって下さい」
「は〜い」
前線では木連艦隊との交戦が始まっているが、ナデシコはそれらを一切無視して遺跡へ向かっている。
ここで援護のためにグラビティブラストを撃つわけにはいかない。
大気圏中では、相転移エンジンの出力が安定供給されないため、グラビティブラストを発射するためのチャージ時間がかかってしまう。
ウリバタケら整備班が効率上昇のために改造やらで策を弄しているが、それでも宇宙空間のようにはいかない。
遺跡破壊のために、一発でも無駄撃ちはしたくないのだ。
「ルリちゃん、グラビティブラストチャージは?」
「完了してます。最初は3発、その後フルチャージまでは10分です」
「ありがとう。メグミさん、前線の様子は?」
「交戦時の戦線を維持してます」
「艦隊中央にボソン反応」
「へ?」
メグミの報告にルリの声が重なり、次の瞬間には、軽い衝撃波が側面に来た。
「第2大隊、駆逐艦2割が消滅」
「前線から機動兵器、ゲキガンタイプ2機が接近してきます!」
今度はルリの報告に、メグミが声を重ねる。
「どうする、ユリカ?ここまでは到達できないと思うけど・・・」
ジュンが副長席から、振り向く。
「エステバリス隊、発進。第2大隊の機動兵器は数が少ないから、協力してナデシコに接近させないでください」
『了解!』
3機のエステとミルトニアが空戦フレームで発進する。
「遺跡までの射線軸確保。グラビティブラスト、いけます」
ルリの声に、ユリカは毅然として命令を下す。
「グラビティブラスト、発射!」










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome





52 Regret and confession, and those who inherit a last wish.

「何、これ・・・?」
ナデシコの前に現れたモノ。それは・・・。











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《あとがき》

Last3。
もうちょっとだ。
早く終わらして祝賀会やろ、っと(笑)。

b83yrの感想
やっぱ良いなあ、このユリカ
ユリカって、『使うのは簡単だけど、使いこなすのは難しい』キャラなんだろうな
私的に、一番ユリカらしいのは、『優秀な壊れキャラ』なんだが、両立させようとすると・・・・・
はたして、上手く両立できている人が、どれだけいるだろ?
私も、『目指しては』いるんですけどね、『目指して』は(苦笑)
 
さて、そろそろ完結ですか
やっぱり、作品を完結してくれると嬉しいですね♪
・・・・・・・・・私のSSの完結は何時になる事やら(苦笑)
 


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