白鳥九十九の死は、大々的に喧伝された。

「ぼくらの使命、それは宇宙の平和と人類の未来を築くこと。夢の実現だ」
「ぼくらは争いを望みはしない。無益な殺生こそ正に無意味だ。だが、地球連合政府は卑怯にも全権特使、白鳥九十九大佐の死をもって、ぼくらに答えた!!」
「だがみんな、くじけちゃいけない!正義は1つだ!」
そうだとも。ぼくらは必ず、悪の地球を打ち破る!」
「だから見ていてくれ、みんな!『熱血ロボ・ゲキガンガー3』の第39話のように、我々は戦う。正義は必ず勝つ!」
「さあ、みんなで叫ぼう!正義の合言葉!!」



「九十九、これがお前の信じた正義、か・・・」



『レーーーッツ!!』



「私はわからなくなりました。艦長・・・」



『ゲキガイン!!』



「三郎太・・・あまり自分を責めるな」
源八郎の言葉が、ゆめみづきの係留された木連市民艦、『れいげつ』のドッグに消えていく。
3人は一応に重い顔で、スクリーンから流れる市民の唱和を聞いている。



1週間前。
会見を目前に控えた木連優人部隊旗艦『かぐらづき』の艦内に、三郎太は草壁を訪ねていた。
「そうか・・・では、白鳥少佐が裏切りを企てているのではないか、と?」
草壁が顔の前で肘ついた手を組みながら、鋭い眼光を放つ。
しかし、頭の中が未だ混乱している三郎太には、その光の意味まではわからなかった。
「は・・・あれは自分の見間違いではありません。悪逆な地球人に、ゲキガンガーを理解できる人間がいるとは・・・」
「うむ。考えられないことだ」
三郎太の語尾を食って、草壁が力強く言い切る。
はっきりとした語調に、ふと不安を感じる。
「ですが、あの白鳥少佐が我々を裏切るなど、考えられません」
「では、君は自分の見た操縦士は、やはり見間違いであった、と?」
「いえ!自分は少佐に憧れていました。見間違えるはずがありません!」
思うように乗ってきた三郎太に、草壁は密かに笑みを漏らす。
「しかし、君の言う通り、白鳥少佐は立派な木連軍人だ。裏切りとは最も縁遠いと思うが。・・・やはり、君の間違いではないのか?」
「いえ、間違いありません。あれは確かに白鳥少佐に相違ありません!」
三郎太は完全に草壁の手に落ちた。

「しかしだな」
ゆっくりと、しかし確実な歩みで三郎太を揺さぶる。
「単に似たような顔、というなら地球にもいるだろう。ゲキガンガーを崇拝していると言うのなら、話は別だが」
「それも確かです。ゲキガンフレアを地球人が攻撃に使うことも、あり得ないことです。私は確かに聞いたのです!あの操縦士がそう言っているのを!我々に対する侮辱です!」
三郎太には、裏切り者がそれとわかる言葉を安易に使うことの、矛盾に気付く余裕が失せていた。
「まあ、そう興奮するな」
立ち上がると、宥めるように三郎太の肩に手をかける。
「は、申し訳ございません」
源八郎にも常々注意されていることだ。
熱血も、短気になるだけでは意味がないのだと。
「仕方ないさ。それより・・・」
背を向けて戻る草壁の胸中に、怪しい炎が灯る。
「その報告は確実だと、君は言いたいのだな?」
「はい。確かです」
「そうか。・・・実はな、アドラステア探索隊より報告があったのだ」
「は・・・?」

優人部隊は探索隊の動向を確認していない。
自分たちは戦うための部隊であることを曲解していることもある。
が、草壁が戦闘に専念させるため、敢えて銃後のことを知らせていないからだ。
そうは思うものの、やはり三郎太の間の抜けた返事を聞くと、憤りを感じる。
それを抑えてゆっくりと口を開く。
「新しい生産工場が見つかったのだ」
「それは・・・どのようなものなのですか?」
優人部隊軍人である自分になぜそんな話をするのか、つかめない三郎太に草壁は話し始める。
「それはまだ確認できていない。だが、軍事技術であることは確かだ」
「すると・・・」
三郎太にも理解できたようだ。
真剣な表情で続きが語られるのを待つ。
「そうだ、火星掌握作戦の決断は下されるだろう」

実際は工作によって、評議会の決定は草壁にとって既に決まっているものである。
だが、ジリ貧のままでその議決を得るよりは、手土産をぶら下げてやった方が、国民に対する効果もある。
「地球人のことだ。和平によって我らの戦意を削いでおいて、その間に軍の建て直しを図るつもりだろう」
「すると、今回の和平会談は地球側の時間稼ぎに過ぎないというわけですか」
三郎太の言葉に、静かな怒気が含まれる。
その片棒を、白鳥九十九が担いでいるというのが許せないのだろう。
「そうだ。残念ながら、資源において、我々は劣っている。いかな古代の生産工場とて、限界もある。だが、地球は資源も豊富で、食料や人口も増え続けている。こと物資という面では我々が不利なのだ」
草壁は無念そうに、唇を歪める。
「しかし、戦意は我々の方が遥かに上です!正義もこちらにあるはずです」
「そうだ。確かに我々には正義がある。そしてその正義を貫くための熱い血潮もある。地球側の卑劣な策などに、乗ることはできないのだ」
「では!」
三郎太が勢い込んで聞く。
草壁の思惑は、9割方、遂行されたといってよいだろう。
後は。

「高杉中尉。白鳥少佐を撃てるか?」





それでもやはり、逡巡した。

「なんですか、これは」
「和平会談を潤滑に進めるために、こちらで作成した文書だが」
「違う、これはそのような平和的な文書ではない!」
「地球圏の武装放棄、財閥の解体、政治理念の転換・・・」
「これが和平の条件なのか・・・」
「そうだ」

「この文書の撤回を願います!」

「正義はひとつのはずです!」

「そうだ・・・君の言う通り、正義はひとつだ!!」





「合図・・・それでも、自分には撃てませんでした・・・」
「三郎太・・・」
「では、一体誰が九十九を・・・?」
元一郎の言葉は低く、重く三郎太にのしかかった。

三郎太は軽く頭を振って、
「わかりません・・・骨ばった、不気味な男でした。まるで爬虫類を思わせるような・・・」

「・・・・・・北辰、か」
小さく呟いた秋山の言葉に、驚愕の表情を隠せない元一郎。
「なにっ?!・・・そうか、奴が・・・」
握り締めた拳が震える。
九十九とは親友だった。
和平を、と願う彼の言葉に、最初は気でも違ったかもしくは地球人に洗脳されたかと思ったのだが、説得する九十九の熱意に負けたのだ。
完全に理解し得たわけではない。
だから、揺れていた。
和平交渉に自分が同席しなかったのも、その表れなのかも知れない。
けれど、その躊躇いが、九十九の死となって元一郎に返ってきた。

あくまでも戦う決意であったなら、木連の正義を心から信じられていたら、この手で殺せたかも知れない。
まだその方が良かった。
そして、九十九の考えに心から賛同できたら、木連に背いてでも九十九を救えたかも知れない。

そのどちらでもなかった自分が、元一郎は許しがたかった。



怒りに震える元一郎を、三郎太が不思議そうに眺める。
「元一郎、落ち着け」
源八郎の静かな、太い声。
「・・・・・・済まない」

九十九は死んでいなかった。
ゆめみづきに跳躍して来るまでは。



『元一郎・・・知っておいてくれ・・・真、実・・を・・・』
『九十九っ!!』
事切れた九十九の躯を前に、呆然と直前の言葉を思い返していた。

『中将閣下は、戦争を望んでいる・・・』
『和平の意思などなかったんだ・・・』
『俺たちは利用されただけだった・・・』
『元一郎・・・後を頼む・・・和平を、真の平和を・・・』

遺伝子改造を行ったとはいえ、次元跳躍門を使わず、歪曲場を張らない生体での跳躍は死を意味する。
それがわかっていて、ただ真実を告げるためだけに、九十九は生体跳躍の限界を超える危険を冒したのだ。
体細胞が耐え切れず、死を待つだけの苦しい息の下で言った、九十九の言葉。
草壁の発表と、九十九の言葉と。
どちらを信じるべきなのか、それは明らかだ。
だが、杜若が沈み、九十九が逝った今となっては、彼らがいくら和平を望もうと、話し合う相手がいないのだ。
また、木連軍人として、木連のための戦いを拒否することもできない。
市民を守ることが自分たちの勤めであると、幼い頃から教育されてきたからだ。
それはもう、自分たちの存在意義となっていると言っても過言ではない。

それ故に、彼らは動けない。
ただ、黙って草壁の叫びと唱和を、ぽっかりと空いた胸の空白に埋め込んでいく。










決戦が近づいてきていた。

月面を奪還したことで国民の戦意が高まったこともあり、主戦論が世論を覆い尽くした結果、連邦議会総選挙は戦争継続を唱える共和党が勝利した。
当然の帰結として連合軍の戦力増強が計られ、第4艦隊が火星奪還の援軍として編成された。
ガッサンディシティの、アスカ・インダストリー月面ドッグで修理を終えたナデシコに、火星奪還作戦参加が正式に伝えられたのは、和平会談の失敗から2ヶ月後のことだった。

「あら、久しぶりね」
軽いエアの音と共に、イネスの声が軽やかに流れる。
ヒラヤマは医務室に足を踏み入れると、軽く会釈をする。
「あなたがわざわざ出向くなんて、重大なことかしら?」
ヒラヤマに椅子を勧めながら立ち上がると、奥のコーヒーメーカーを操作する。
ガリガリと豆を擂る音と同時に、香りが部屋に満ちる。
腰掛けて話し始めようとするヒラヤマを軽く手で制すると、
「コーヒー一杯の時間くらい、あるんでしょ」
「敵わないな。時間を作って来たのまでお見通しですか」
苦笑する。
「そりゃそうでしょう。アスカの諜報部トップが作戦前にナデシコに来るんだから」
笑いながらカップを置くと、
「さて、ボソンジャンプについて、よね」
何も言わずに頷く。

イネスは淹れたてのコーヒーに口をつけると、切り出した。
「現時点では、提出した報告書通りよ。時間移動であること、遺跡に干渉されたナノマシンである程度のジャンプが可能なこと、C.C.がジャンプフィールドを作ること、遺跡は移動時間を演算するユニットと思われること」
「後は、テンカワのナノマシンは製造不可能であること、ですね」
ヒラヤマの言葉に、思わず顔をしかめる。
「そうね。そこまでわかっているのなら、後は何を聞きたいのかしら」
「やはり無理ですか・・・。では、木連のように遺伝子改造という手段をとった場合は?どうなります?」
「C.C.が必須であることはわかるわよね。視認できる距離が限界。イメージによるジャンプでは、どうなるかわからないわ。イメージ伝達率が低いと不安定なジャンプになる。また、時間移動である以上、イメージした場所と現在の場所でのタイムラグが発生した場合、過去へ跳ばされたジャンパーが同じ場所へ戻ってこられる可能性も低いわ。過去へ行ったきり、ってことになるわね」
「火星の生存者を乗せたカキツバタが、8ヶ月のタイムラグを生じさせたようなもの、か」
「そうね、生存者たちの、思い出にしがみ付く気持ちが強かったから、過去に跳ばされていた時間が長くなってしまった。出現場所も、地球への思いが強かったために、最も近いチューリップを出口として選んだのでしょうね」
イネスはコミュニケを操作しながら、カキツバタのジャンプ経路を出す。
「当時、地球にチューリップはなかった。だから遺跡はこのチューリップを選択した。つまり、火星のナノマシンでも近い所を選ばせられるくらいの伝達率はある、ということ」

「遺伝子改造では?」
「未知数ね。ゲキガンタイプのジャンプパターンから、ビジュアルで捉えきれる範囲であることは確かなんだけど。ボソン砲は、予め観測済みの宙域へ送り込むわけだから、イメージの問題ではないんだけど」
「既にイメージは映像化されているわけですからね」
「そう。無人兵器は出口が固定されたチューリップなので、これも問題なし。ゲキガンタイプは人のイメージで跳ばすわけだから、これらのように簡単にはいかないのね。チューリップを使えば固定ジャンプは可能だと思うけど」
「ゲキガンタイプを、ボソン砲のように跳ばすのは?」
「遺伝子改造してイメージを伝えられる人間が乗ってるのよ?人間なんだから、無心ではいられない。するとイメージが二重に送られることになって、それこそ失敗の可能性が最も高いジャンプと言えるんじゃないかしら」

ヒラヤマは溜息をついた。
イネスにも、それが何を意味するのかはわかっている。
「時期尚早だった、なんて言わないでよ」
「ああ、いや、それはもちろん。あの時点では公表が最善だったでしょう。ただ、これからのことを考えてつい・・・」
温くなったコーヒーを飲み干すと、イネスに改めて問う。
「火星ではジャンプが必要な場面も出てくるでしょう。連合軍や木連の目の前でジャンプすれば、もう隠し切ることはできない。向こうにもボソン検出センサーくらいあるでしょうから。だから・・・」
躊躇うヒラヤマの後を引き継ぐ。
「アキトにミルトニアに乗るな、と」
「できればナデシコにも」
真剣な表情でイネスの反応を窺う。

「無理ね」
予想した答えだったのか、ヒラヤマに、さほどがっかりした様子はない。
「そもそも、フレームを運んできた人の言葉ではないんじゃないかしら」
これには驚いたようだった。
ミルトニアの試作空戦フレームを搬入しようとしているのは確かだが、まだアスカの倉庫にあるのだ。
ユリカですら教えられていない。
驚いた様子のヒラヤマに、イネスは悪戯っぽく笑う。
「ミルトニアに乗るな、ってことを否定しなかったじゃない」
どうしてわかったのか、それを答える。
「はは・・・確かに。本来ならエステに乗るな、でしょうからな」
ヒラヤマも笑って返す。

「まあ、それはいいとして、あの子は降りないわよ」
「そうですか」
「守りたいものがあるから。ルリちゃんが降りない限り、あり得ない話ね。まあ、ルリちゃんが降りることに同意するとも思えないけど」
「しかし・・・では、C.C.のバックパックを外すしかないか」
思案するヒラヤマ。
アキトの守りたいもの、が家族という意味ではないことまではわかっていないようだ。
「でも、いざと言う時に困るわよ」
「う〜ん・・・」
唸ったきり、腕を組んで考え込む。

使えるものを使わないで、後悔することは避けたい。
後悔する時は、アキトが死ぬ時、ということなのだから。
けれど、だからと言ってボソンジャンプを使わせることも、賛成できない。
「ネルガルが動き始めたようなのでね・・・」
「そう。ならやっぱり、ボソンジャンプそのものを無くすしかないわね」
その言葉に、ヒラヤマが反応する。
「できるのですか?」
「どうかしら?地球の技術では難しそうね。演算ユニットは最も重要な装置だから、今までのオーバーテクノロジーから考えると考えられないくらい頑丈にできていると思った方がいいんじゃない?物理的消去は困難でしょうね」
「じゃあ・・・」
落胆するヒラヤマに、笑ってみせる。
「まだ諦めるのは早いわよ。何にしろこの眼で確かめないことにはね」
「まずは辿り着けるか、が問題か」
「そうね。テンカワ夫妻が研究した周辺の付属施設を含め、どれもディストーションフィールドで厳重にロックはしてあったけど、何とか外せないものではなかった。でも、今回は連合軍も苦労してるみたいじゃない。もちろん、アスカもね」
「知ってましたか」
ヒラヤマの口調に、僅かに動揺が含まれる。
軍が守備する極冠遺跡には、ネルガルもアスカも、研究員を派遣している。
未だボソンジャンプ研究に関する法整備は整っていないため、表向き、一企業を代表する研究員は調査に参加できないことになっている。
だが、企業の経済活動にたいする執念は、宝の山を前にして手をくわえて眺めるだけなどということを許さない。
アスカも、裏から手を回して研究への参加を認めさせているのだ。

「別にそれを責めようと言う訳じゃないわよ。ただ、情報が欲しいだけ」
「いや、現状ではまだ何もわかっていない。それこそテンカワ夫妻の研究範囲を超えるものではないんだが」
頭を掻きながら言う。
そこまでしておいて『何もわかっていない』はないと思うのだが、こればっかりは仕方ない。
「ま、そうでしょうね。叔父さまたちですら、演算ユニットに近づけなかったのだから」
イネスは全く意に介さない。
当然であるかのように受け止める。
「やはりブラックボックスなのね・・・。相変わらず、か。それは絶対に変らないのね。・・・も解析できな・・・」
「?・・・どうしましたか?」
ヒラヤマを無視するかのように考え込むイネス。
その雰囲気がいつものイネスと違う人間のように思え、ヒラヤマが声をかける。
「ま、それはいいわ。どのみち火星に着かなきゃ始まらないんだから。それで、アキトとルリちゃんがナデシコを降りない以上、どう考えているの?あなたの意見が聞きたいわ」
いつもの表情に戻り、ヒラヤマに振る。
ヒラヤマも少し怪訝そうな顔をしたが、深く追求はせず、答える。
「まあ、そうくるだろうと思っていたのでね。実はアスカで実験艦を新造する計画がある。それに乗ってもらえないかと思っているのだが」
「ふーん、どんな戦艦なの?」
「それは・・・」





「ジャンプ」

アキトは仮想空間に来ていた。

恐らく両陣営ともに全戦力を費やすであろう今度の火星奪還が成功すれば、しばらく膠着状態に入る。
勝っても負けても、どちらも継続する力を残していないだろう。
本土決戦ではないから、一気に決着がつくというわけにはいかないが、大規模な戦闘はなくなる。
そうすると。

地球圏はボソンジャンプの本格的実験を開始し、ナデシコはその役割を終える。
そもそも、実験艦を3年も運用していること自体、ネルガルからアスカへ移ったからであって、フィードバックするデータが企業が変わったために上手に活用できなかったからだ。
現在、アスカではナデシコのデータを基に、新たな試験戦艦AIX―002N-βの基本設計の開始が決まっている。

ユーチャリス。

「清らかな心、か・・・」
アキトは誰もいない空間で呟く。
木星との戦争が始まってから、多くの真実が明るみに出た。
火星遺跡、ナノマシン、C.C.、ボソンジャンプ、木星の正体・・・。
アキトにとっても無関係なものではない。
いずれは知られることながら、だが、辛い事実であったことも確かだ。
火星で平凡なコックとして暮らすはずだった人生が、この3年間で大きく狂わされたのだから。

嫌なことばかりではない。
新しい家族、そのまま恋人になったルリ。
「・・・う〜ん・・・やっぱりあれなのかなあ・・・」
まだ13歳である。
堂々と口に出すには後2年は経たないと、何かしら後ろめたいものを感じる。
悪いことではないのだろう。
空間で流れ込んでくる意識は、アキトの感情に微妙に左右されるが、ルリとのことを考えていても、悪感情は入ってこない。
(それでいい、ってこと?父さん、母さん・・・)
包み込むような意識の感触は、アキトにとって、死別した両親を思わせる。

狂わされた人生、そして新しい『大切な人』。
これからは絶対に守らなければならない。
イネスに守られてばかりだった自分も、この3年で少しは成長したと思う。
自分の意志で戦うこと。
そして守ること。
今は守りきれている。
だが、火星での戦闘は類を見ないものになることは、ヒラヤマに言われるまでもない。
そして、戦争が終わった後のことも。
「ボソンジャンプ・・・どうすればいいんだ?」
声にして尋ねるが、答えが返ってくることはない。
もしかしたら、流れ込む意識の中に、その答えがあるのかも知れないが、いつものように曖昧なままだ。
「こんなの、どうしろって言うんだよ・・・」
答えを期待したわけではないが。
つい愚痴も言いたくなる。
自分が望んだわけではない。
かと言って、それしか方法がなかったという両親の気持ちもわかる。
自分とイネスを信じ、全てを託した気持ちに答えなければならないこともわかっている。
それでも、どうしようもないという気持ちは、決戦、そして戦争の終結の予感が近づくほどに強くなっていく。

逃げるわけにはいかない。
自分が逃げればルリが狙われるだけだから。
アキトは、誰かのために、という気持ちがいつか、ルリのためという想いに変わっていることに気付いていた。
そのために、自分は。

その答えは火星にある。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome





48 The ruin of the Mars North Pole point circumference

シリアスに決めてはみても。
やはりナデシコはナデシコなのだろうか。





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《あとがき》

ユーチャリス。
基本設計の開始が決定された段階ですから。
このSSでは出てきません。
私は、ナデシコより好きなんですけどね。
あのスリムで優雅な船体が。

b83yrの感想
ふむ、今回はシリアス1本で色々な人達の暗躍とかの話ですな
たまには、こう言うギャグ抜きの話も良いものです
ナデシコって、ギャグとシリアスの両立が面白いんだけど下手にギャグを入れようとするとね両方を殺しちゃう事もありますからね
 


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