ぴっ。

《愛の逃避行。もつれた愛の行き先は、展望室です。》

オモイカネがカラフルな表示で答える。
「ふふふ・・・オモイカネも本当に人間らしくなったわね」
「ああ、こりゃあ、ドクターがやったんだろ?」
「そう。どうやったのか、知りたい?」
「遠慮します!」



「ルリちゃん!待ってよ!」
泣きながら展望室に逃げ込むルリ。
トレーニングを欠かさないアキトが追いつけないほどの、驚異的な速さで駆ける。

「ルリちゃんっ!」
「オモイカネ!ドアロックしてっ!」

あとちょっと、だが、アキトの鼻先で展望室のドアが閉まり、電子ロックの音が響く。
「ちょっと!ルリちゃん!どうしたんだよ?!」
ドアを叩きながら喚くアキト。
中に聞こえるはずはないのだから、コミュニケを繋げばいいのだが、そこまで頭が回っていない。
「いやっ!来ないでっ!」

・・・ルリはちゃんとコミュニケを『受信オンリー』にしていた。



何なんだ?!
いったい、何がどうしたって言うんだよ。
俺、何か悪いこと言ったのか?
「ルリちゃんっ!・・・オモイカネ!開けろ!」

しばらく叫びながらドアを叩いていたアキトだったが、意を決したようにドアから離れる。
目を閉じると。

「・・・ジャンプ!」





ルリは展望室の真中で、膝を抱えていた。
頭を立てた足に埋め、呟き続ける。
「アキトさんの・・・ばか・・・」

一大決心をして。
それでも悩んで。
苦しみ抜いたルリにかけられた言葉は。

(私の気持ちになんか、全然気が付いてくれてないなんて・・・しかも、自分が嫌われるなんて思って・・・)
気持ちに気付いて貰えなかったのは仕方ない。
けれど、自分がアキトを嫌う、と思われていたのは許せなかった。
アキトは悪くない。
わかって欲しいというのも、全部自分のわがまま。
そんなことはわかってる。
でも、それでも、何だかもやもやした気持ちが消えない。
それが胸にいっぱいになってしまった時、衝動から叫んでしまっていた。

ちょっと優しくされたから。
家族って言ってくれたから、甘えていたのかも知れない。
でも、だからこそ、これだけ一緒にいて、何も気付いていない鈍感さが、今は腹立たしかった。
(家族って言ってくれたくせに・・・「もう!ばかっ!」



「いきなり『ばか』はないじゃないかっ!」
目の前に、突然ボース粒子が渦巻き、刹那、アキトの形を取る。
仰天したルリは逃げようとするが、立ち上がる前にアキトに手をつかまれる。

「いやっ!いや!離して!」
何も映し出さない展望室の無機質な壁に、ルリの悲鳴が反響する。
何とか逃げようともがくルリだったが、アキトの腕力に敵うはずもなく。
「ルリちゃんっ!」
アキトの大声に、怯えたようにびくっと肩を震わせる。
その様子を見たアキトも、少し冷静になったのか、握った手の力を緩めて謝る。
「あ、ご、ごめん」

手首をつかまれたまま、観念したように斜め下に視線を落として、肩を竦ませるルリ。
その儚げな仕草と愛らしい姿が、アキトを次第に落ち着かせていく。
「あのさ、ルリちゃん・・・」
ルリは答えない。
「最後までちゃんと聞いてくれる?」
優しく尋ねる。
ルリも落ち着いたのか、だが、まだ黙ったままで軽く頷く。



安心したアキトはつかんでいた手首を離した。
ゆっくりと手を引っ込めると、つかまれていたところをさする。
「あ、ごめんっルリちゃん。痛かった?」
慌てて手首に触れようとするが、
「・・・大丈夫です。私、白いから跡がつき易いだけなので・・・痛くはありません」
「・・・ごめん」
2人とも、そう言ったきり、黙って向かい合う。
周囲が全く目に入っていないのか、いつの間にか夜の海になっていることにも気付かないようだ。





「あのさ・・・」
しばらく経って、ようやくアキトが口を開く。
ルリは黙って顔を上げる。
涙の跡が頬に残り、蒼銀の髪が一筋、張り付いている。
そんな表情も愛らしく見え、アキトはふっと目を逸らした。
「・・・アキト、さん?」
「え?いや、その・・・」
「どうしたんですか?何か言いかけてたんじゃなかったんですか?」
ルリの真摯な瞳が、アキトの胸中を測りかねて金の揺らめきを映す。
見つめていると、その底にまで沈み込んでしまいたくなるような、金色の双眸。

黙ってルリの瞳に目をやるアキト。
見詰め合う金色の瞳が、絡み合う。
まっすぐにアキトを見つめ、まっすぐにルリを見つめ続ける。



永遠にその時間が続くかと思われた。
だが。
最初に口を開いたのはルリだった。

「ずるいです・・・アキトさん・・・」
「え?」
ルリの瞳が湿り、アキトはたじろぐ。
すっ、と体をずらして視線を避けるアキトに、
「いっつもちゃんと最後まで話してくれない・・・」
どきっとする。
「苦笑いして誤魔化してばっかり・・・」
ルリの言葉はアキトの胸を刺す。
(そうだ・・・もう誤魔化さないって決めたのに・・・)
アキトは改めてルリに向き直ると、優しく小さな両肩に触れる。
触れられた瞬間、ぴくっ、とルリが反応し、ツインテールの髪が揺れる。
鼓動が跳ね上がり、ただじっと、アキトの言葉を待った。

「ルリちゃん」
アキトの金の瞳が、ルリを捉える。
「火星からサセボに戻ったと時のこと、覚えてる?」
「え?あ、はい・・・」
「あの時、ルリちゃんに見とれて、って言ったよね?」
(あ、どうして最初に眉をしかめたのかって聞いた時だ・・・)

「あれ、嘘じゃない」
「・・・・・・」
「嘘じゃなかったって気付いた、そう言った方がいいのかな」
「どういうことですか?アキトさんの言いたいこと、わかりません」
落ち着いたものの、遠まわしなアキトの言い方に、刺のある返事を返すルリ。
アキトは今日何度目になるか、決心をする。










(そう・・・嫌われたって仕方ないじゃないか・・・本当のことをちゃんと伝えたんだったら・・・)

























「ルリちゃん、俺、ルリちゃんのこと、好きだ」





「家族として、妹としてじゃなく」










「1人の女の子として」



















アキトはルリをまっすぐに見つめる。
ルリは。

驚きで眼を大きく見開いたまま。
言葉を出そうとする唇が、開きかけて止まる。

そして、俯くと、肩を震わせた。

「ごめん、ルリちゃん・・・びっくりしたよね・・・」
力なく囁くように言うアキト。

と、突然。

「えっ?ルリちゃん?!」
しがみついてきたルリに、驚いて腕を所在無げに振り回すアキト。
胸より少し下にある、銀の髪をただ見つめることしかできない。

ルリはアキトの背中に両腕を回し、力いっぱいに抱きしめる。
小刻みに震える肩で、ルリが泣いているのがわかる。
「ルリちゃん・・・どうしたの?」
混乱を収めて、ようやく搾り出すように尋ねる。
「・・・・・・」
「ルリちゃん?」
「・・・・・・ばか」
「へ?」
思いもしなかった返事に、間の抜けた答えを返す。

ゆっくりと胸に埋めていた顔を離し、アキトを見る。
額にパイロットスーツに付いたセンサーの跡が残っている。
耳まで赤くなったルリが、回した腕を離さずに、それでもアキトを見つめたまま、言う。

「アキトさん・・・私も、アキトさんが好き」
「・・・えっ?」
「ばか・・・鈍感すぎです・・・」
「あ、あの、それって・・・」
鳩が豆鉄砲食らったような、あまりにも意外な言葉に何とも言えない表情のアキト。

「もう・・・何度も言えません」
「あ、・・・そ、そう?」
何故か、がっかりしたような顔をするアキトに微笑んで、
「でも、もう一回だけ言ってあげます」










「私はアキトさんが大好きです」















「しっかし、こんなことやってていいのかねえ・・・」
「ホウメイさん、これはナデシコのためになるんです。艦長の私がいいって言ってるんだから、いいんです」
「ねえ、イネスさん。それってさあ・・・」
「単なる野次馬根性とも言うわね」















しばらく真っ赤になって、見詰め合っていた2人が、やがてゆっくりと動き出す。
アキトが膝を少し折り、ルリの身長に合わせる。
2人の顔が少しずつ近づく。

互いの体温を感じられる距離。
高鳴る鼓動を抑えられず、ルリはそっと眼を閉じる。
期待、それとも、不安?

熱くなる顔と、痛いほど締め付けられる小さな胸。



テニシアン島の夜空を背景に、星の輝きが2人を照らす。
涼やかな風が潮騒を運ぶ。
潮の匂いが、あと数センチの2人の唇の間をすり抜けていく。
岩に砕ける波が、白い泡沫を生み出しては消し、遠くで音を・・・





・・・ざざ・・・・



海の呼吸。
あの時も一緒に聞いた、思い出の波の音・・・



「音?」

声を揃えて、言う。
ばっ、と離れて、辺りを見回す。
ようやく、周囲の風景がテニシアン島の夜に設定されていることに気がついた2人。

「アキトさん、これって・・・」
「ああ・・・確実に覗いてるな、これは・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・じゃあ、いきますよ」
「・・・うん。せーの、」



「出て来い(来なさい)!!」





シュンッ。

エアの音がして、展望室の扉が開く。

「あ〜あ、見つかっちゃった」
「ルリルリ〜残念だったね〜」
「まあ、チャンスなんていくらでもあるわ。アキト、あなたも焦らないことね」
「ざ〜んね〜ん。今度の同人ネタにしようとおもったのにい・・・」
「ローリー寺西が狐に呼びかけられる・・・ローリー、コン・・・ふっ」
「お、俺は別に興味なんてなかったぞ!ほ、ほんとだぞ!」
「くっそおおおっ!テンカワ!てめえ、絶対殺す!」
「やれやれ、テンカワ、こりゃ後が大変だよ?」
「いいなあ・・・テンカワ君。僕なんかユリカに忘れられちゃってるんじゃ・・・」
「おおうっ!イメージ湧いたぜ!次のフィギアは決まりだ!」

入り口からどやどやと入ってくる『野次馬』たち。
彼らは気付いていなかったが。

「あ、あの・・・ルリちゃん・・・?」
「・・・・・・」
「あ、はは、ははは・・・」
「・・・オモイカネ」
《はい。ルリ、展望室の侵入者撃退用プログラムを起動します》
「って、なにいいいっ?!こんな所にまで?!」
「目標、まとめて全部」
《了解》
「うわああっ!おい、皆、逃げろおおおっ!」



アキトの魂の叫びは、遅すぎた。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




44 A momentary break. To a fortunate sweethearts

和平会談の日時は、5日後と定められた。その直後。
「そうか・・・よくやってくれた」












《あとがき》

お久しぶりです。
連載ほったらかして短編とか書いてたらいるです。
あはは・・・笑い事じゃないですよね(汗)。

ここからちょっと話が込み入ってきます。
何たって、らぶらぶ話だけで3話かけちゃいましたからね。
さくさくいかないと自分が混乱しそうなんで。
前以上のスピードでいきますよ(多分)、覚悟してくださいね(誰が?)

さあ、復活したからと言ってパワーアップしたわけでもないワタクシ。
キャラコメも復活するか?

b83yrの感想
わ〜〜〜い、らぶらぶだあ、らぶらぶだあ♪
 
「・・・・・・・・(汗)」×2<浮かれまくってるb83yrをみて、引いてるルリとアキト
 
ルリ「よっ、よくキャラコメで壊れてる私を見る事はありますけど・・・・・(汗)」
アキト「壊れてるSS書き見るのは珍しいかも・・・(汗)」
 
おっ、ルリちゃんとアキト君じゃないか、お二人は相変わらずお似合いだね♪<相変わらず浮かれまくったまま
 
ルリ「はっ、はあどうも(赤)」
アキト「えっ、え〜今回び〜のHP管理人b83yrが壊れているので、感想はこの辺りで切り上げさせていただきます(汗)」
 
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪<浮かれて壊れたままのび〜
 


SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu