怒。

ヤマダさん、次は生かしておきません。



さて、ナデシコは作戦名『釣』を発動します。
安易で陳腐なネーミングですが、敵の攻撃方法を『ボソン砲』と名づけたのもそうですけど、まあ、艦長ならこの程度でしょう。

『おーい、ミサイル設定できたぞ』
整備班の人たちは、両舷のディストーションブレードから発射されるミサイルの設定をしています。
艦長の考えた作戦は。



敵艦を足止めするため、センサーを切ったミサイルを地雷代わりにばら撒き、ナデシコの全動力をカット。
ナデシコもミサイルも姿を隠した上で、コースを外し、第2ミサイル網を放出。
潜水用バラストで進路調整をして、予定直線航路からずれ、第1・第2ミサイル網の延長線上でエステバリス隊を待機させる。
ナデシコはエステバリス隊発進後、エステバリス隊の背後へ。
鋭角にナデシコ、エステバリス隊、敵艦、第2ミサイル網の順で直線コースを取るようにポジショニング。
第1ミサイル網はセンサーに引っかかりませんから、敵艦がコースを変更しない限り、これには確実に引っかかります。
当然、そこで慎重に策敵を行うでしょうから、その間に前述の位置取りを行います。
第2ミサイル網は遠隔操作可の設定になっているので、全力で策敵を行えば必ず見つかる。
だけど、そこで敵も考えるでしょう。

「ナデシコの位置に悩むはずです」
「どうしてですか〜?」
「ナデシコはミサイル網の背後から襲ってくるのか、それとも既にコースを変更して上下左右いずれかの方向から接近してくるか」
「第1ミサイル網のセンサーがカットされていたことから、あからさまに見つけてくださいと言わんばかりの第2ミサイル網は怪しいと踏むでしょうなあ」
「はい。第1ミサイル網が囮、もしくは時間稼ぎであることはすぐに見抜くと思います。戦艦を沈められる量ではありませんし。そしてその前方に第2ミサイル網。センサーが生きているということは、こちらが本命でもない、と考えるでしょうね」
「で、それが罠なのか、それともその裏をかいてミサイル網の先にいるのか悩ませるんだね、ユリカ」
「そうだよ、ジュン君。で、そこが問題。ナデシコの位置取りが終わるまでそこから動いて欲しくないから、ミサイル全弾発射、いくらディストーションフィールドがあってもちょっと辛い事態だよね。本当はそこでグラビティブラスト撃って誘爆したいところだけど、どうせ戦艦自体に被害が与えられる訳じゃないから、それはなし。それよりも、そのことで敵の注意をミサイル網の先に引き付けさせておく方が大事だしね」



「ミサイル全弾発射。直後に全動力カットしてください」
「了解」
私とミナトさんの声が重なります。
低く、くぐもった音がしてナデシコの全ての動力が落ちます。
センサーとバラスト調整の分だけは残してありますが、ブリッジも非常灯のオレンジ色に染まって。

「進路変更、7時の方向下方-5°、艦長、邪魔よ」
「そ、そんなこと言ったって・・・」
シートを立ち上げるの、忘れてましたね、艦長。
無重力になった途端浮き上がり、慣性で天井にぶつかって反作用で落ちてきました。
ミナトさんのコンソールにしがみついて、ようやく止まったところを叱られてます。
「うう・・・ジュン君、助けてよお・・・」
「はあ、やれやれ・・・」
溜息をつきながらも、副長が自分のシートを蹴って、艦長を第1フロアに連れ戻します。
ちゃんと無重力状態での移動実習やってるようですね。
あ、でも艦長も・・・、
「0G実習、さぼるからだよ、ユリカ」
「ふえ〜、そんなこと言ったって、つまんなかったんだもん」
やっぱり、さぼりですか。
同じ大学だから副長と同じ訓練受けてると思ったんですけど。
「敵艦速度を落として、本艦を追尾してきます。予定コースを直進中」
「コース変更、終わったよ、艦長」
「じゃあ、第2ミサイル網放出しちゃってください。すぐに進路変更、ちゃっちゃっとね」
『おい、艦長。エステバリス隊、出撃準備OKだぜ。まだか?』
リョーコさんがコミュニケを開いてきます。
「あれ?リョーコさん、通信開いていいんですか?」
『だめだとは言われてねえからよ』
メグミさんが不思議そうに聞いていますが、
「大丈夫ですよ。潜水艦じゃないんですから、艦内のコミュニケくらいなら」
「そうなの?ルリちゃん」
そりゃそうです。
ナデシコの相転移エンジンや放射熱、各種電磁波ならともかく、艦内のコミュニケに気付くセンサーなんて地球にも木連にもあり得ません。
「じゃあ・・・」
メグミさん、嬉しそうに通信を開きます。
・・・誰に?

『おう、どうした?』
え?
「その・・・心配になって」

コミュニケから流れる声に、ブリッジが固まります。
ヤマダさん、ですか?

「メグちゃん、いつの間に・・・」
あまりの事態に、さすがのミナトさんも言葉が続きません。
そりゃ、そうだよね。
そもそもヤマダさん、ヒカルさんと仲良しじゃなかったわけ?

でも、まあ、それなら私も。
「アキトさん」
『ん?何、ルリちゃん』
「え?え〜と、その・・・」
困りました。
話すことなんて考えてませんでした。
私らしくもない。



ピッ!
「あ、ルリちゃん、ちょっと待ってて。ええっと・・・プライベート回線?・・・艦長?どうしたんです?」
『あのね、ルリちゃんに声かけてあげて欲しいの。通信したはいいけど困ってるみたいだから』
「へ?そうなんスか?でも何を言えばいいんです?」
『それは、ほら、ルリちゃんのために戦ってくるよ、とか、何とかかんとかあるじゃないですか』
「いいっ?!な、何ですか、その台詞は」
『いいからいいから。艦長命令です。言ってくださいね〜』
「ちょ、艦長っ・・・って切れちゃった。そんなこと言えるわけないじゃんよ。・・・仕方ない、適当にお茶を濁して・・・」
『ああ、それから』
「げっ!」
『ミナトさんも私も、それからイネスさんも皆でちゃんと言うかどうか、確認してますからね〜』
「・・・・・・」
『じゃ、そゆことで』
「・・・・・・そゆことで、じゃないだろ・・・はあ」



「アキトさん?」
『ん?あ、えーと・・・』
どうしたんでしょう。
妙に歯切れが悪いですね。
それに心なしか、顔も赤いし。
はっ、まさか。
「アキトさん、もしかして宇宙風邪にかかったんじゃ・・・」
『え?いや、違う違う、大丈夫だよ、健康そのもの!』
なら、いいですけど。
『あのう・・・その、ほら、何だ、ね?』
は?
急に『ね?』とか言われても。
しどろもどろですね。
さっきと逆転してしまいました。
『ええと・・・あの、る、ルッリルルリル・・・ごほんっ!』
・・・何を言ってるんでしょうか?
『時間だ!おら、テンカワ!行くぞ!』
『あ、じ、じゃあ、・・・行ってくるよ、ルリちゃん』
「あ、はい・・・行ってらっしゃい」

・・・何だか、嬉しい。
『行ってくるよ』『行ってらっしゃい』
この遣り取りって、新婚さんみたい。
結局、初期の目的なんて何だったんだか。
どうでもよくなっちゃいました。



ピッ。
(To:殺人茶人 From:ぼんきゅぼん
 今の発言は如何に。)
ピッ。
(To:メンバー From:意地悪お姉さん
 ルリちゃんが幸せそうなので『可』)
(From:ドクターモロー
 賛同)
(From:鉄人
 同意)
ピッ。
(Sub:判決 From:殺人茶人
 被告人は無罪。今後のメンバーの健闘を期待する。)



さて。
エステバリス隊はソーラーセイルを開き、宇宙遊泳中。
その間にナデシコは更に敵艦の直線コースから離れ、エステバリス隊の背後へ回り込みます。
「ウリバタケさん、相転移エンジンすぐに臨界まで上げられるようにしといてくださいね」
『任せとけ。もう何人か張り付かせてるよ』
「ミナトさん、ナデシコの艦首を敵艦に向けて、待機」
「ルリルリ?」
「はい、1-9-0です、ミナトさん」
「さんきゅ〜」
「艦長!敵艦、第1ミサイル網にかかりました」
「来たかっ!」
ブリッジがざわめきます。
「敵戦艦、停止しました。ソナーの射出を確認」
「策敵を始めたようですな・・・」
「次の撒き餌に向かってくれるといいけど・・・」





「うおおおっ?!」
「動力手!状況は?!」
『動力に被害はありません。数名が衝撃で軽傷を負いましたが、任務に影響はありません』
「通信手!ミサイル発射予測地点を割り出せ!」
「落ち着け!三郎太」
腕組みをしたまま微動だにしない、『艦長』の腕章をつけた秋山源八郎が静かに言う。
「しかしっ艦長!」
じっと目を閉じたままの源八郎に噛み付く。
ゆっくりと目を開くと、三郎太へ向き直り、『副長』の腕章を指す。
「そんなことでは副長の名が泣くぞ。指導者は常に冷静であらねばならん」
「・・・はっ。申し訳・・ありません」
源八郎は軽く頬を緩ませると、通信手に指示を出す。
「周囲の策敵」
「了解!」
三郎太も既に落ち着いて、艦内の被害確認をしている。
優人部隊少佐として跳躍砲実験艦『かんなづき』を預かる前から、自分の副長としてついてきた三郎太。
(短気はなかなか直らんな)
それさえなければ、源八郎を超える艦長になれるだろう。
事実、デンジンの操縦は彼の方が上である。
源八郎は、木連を背負って立つ指導者となれるよう、三郎太を教育することが自分の責務であると感じていた。

「右舷2時の方向に、敵ミサイル群を発見しました!」
「そうか・・・」
短く答える源八郎に対し、三郎太が意見をする。
「艦長、敵はそのミサイル群の後方にいるのでは?」
源八郎は即答を控えた。
しばし考え込むと、口を開く。
「いや、右舷方向にはいないだろう。このミサイル群は信管と爆薬だけで、完全に我が艦の探知機にかからなかった。だが、右舷のミサイル群はかかったということは、あちらは感応装置を外さず、我々が進んだら自動操縦で向かってくるだろう」
「では、囮ということですか」
「恐らくな。さて、どうするか・・・」
「艦長、囮と見せかけてその背後にいるということは考えられませんか?」
尚も食い下がる三郎太に苦笑して、
「策敵を完全にしなければ、何とも言えんな。敵艦は動力を切っている。対して我々は各種機器が最大稼動中だ。迂闊に方向を変えてみろ。どこから重力波砲がくるかわからんぞ」
「しかし、それぐらいなら本艦の時空歪曲場で防御し得るのでは?」
「そうだな」
のんびりとした源八郎の返事に、三郎太は苛立ちながら、
「それでも、敵は我々がミサイル群に近づいた瞬間に、重力波砲での誘爆を狙っている筈です!その攻撃で我々の時空歪曲場を断ち切ろうというつもりでなのではないでしょうか?」
「ふむ」
「危険を承知で行かなければ、勝利はありません!」
「反撃はどうする」
源八郎の言葉にはっとなったように、三郎太が目を大きくする。
機動性の良くない『かんなづき』では、背後を取られたら危険である。
重力波砲は艦首に2門、ついているだけだ。
方向転換するまで、無人兵器でどこまで妨害できるか怪しいところだ。
跳躍砲も、演算に時間がかかるし、正確な砲撃が難しい。
それだけで方向転換するまで敵を足止めできるかはかなり疑わしいのだ。
敵は散々木連を苦しめ、先の月面防衛戦では白鳥少佐を捕獲したほどの戦艦である。
三郎太の指示が飛ぶ。
「全方向に策敵端子放て!無人兵器の出撃準備!」





「敵艦、動きません」
「慎重ですなあ」
メグミさんの報告に、プロスさんが感心したように呟いてます。
敵に感心するなんて、プロスさんもやっぱりナデシコクルーですね。
「感心してる場合じゃないですよ、プロスさん。ユリカ、どうする?ミサイル群には向かってくれないみたいだよ?」
「大丈夫、大丈夫。撒き餌の方を動かしちゃいましょう!」
艦長の指示が出る前に、コンソールに触れる。
IFSが光り、ナノマシンの動きが活発化する。
「ルリちゃん、やっちゃって」
「了解」
報告と同時にミサイルを操作。
と、すぐに敵艦に接触。
「敵艦、ミサイル網の方向へ動き出しました」
ミサイル網の後方に、鉄分を多量に含む隕石があることは確認済みです。
ナデシコほどの質量はないけど、ピンでは判別するのが難しく、ま、怪しいとは思うんじゃないかな。
「ルリちゃん、ボース粒子の検出、お願いね」
「はい」
「メグミちゃん、エステへの連絡、時間差でないように」
「了解」

「ユリカ」
副長の報告。
それだけでブリッジクルーは、どんな状況になったか理解しました。
同じ進行方向に向けて、敵艦、エステ、ナデシコが直線になったんです。

「相転移エンジン始動、ディストーションフィールド全開、エネルギーライン各エステバリスにコンタクト。ミナトさん!」
「OK!最大戦速で突っ込むわよ!」
オモイカネの始動報告ウィンドウが開く前に、ミナトさんがナデシコを加速させます。
戦艦とは思えない、非常識な速度で敵艦、エステバリス隊に向かっていくナデシコ。

「ボース粒子検出。本艦2Km前方です」
「ミナトさん!」
「だ〜いじょうぶ。抜けちゃえるわ」
私は、ブリッジの喧騒も遠く聞こえるくらいに、オペレート集中。
最大戦速で突っ込みつつも、ミナトさんの勘で速度に緩急をつけてますから、ジャンプアウト後動かないボソン砲なんて、簡単には当たりません。
でも、グラビティブラストやゲキガンタイプが来る前に、ボソン砲の射出装置を壊さなければなりません。
ミナトさんの勘と向こうの勘が噛み合ってしまう可能性もありますし。

「2発目、来ます!あ・・後方200mだ」
「私の勘はそうそう外れないわよ!」
「・・・ミナトさん、人格変わってません?」

「エステバリス隊の迎撃範囲に入りました!」
「ルリちゃん、まだ?!」

「3発目、来ま・・・」
「みつけた」
「エステバリス隊、攻撃開始!」
『了解!』
3発目がナデシコの後部近くで爆発します。
距離が短くなってきて、精度も上がってる。
ぎりぎり、かな。

「敵ゲキガンタイプの発進を確認!」
『よっしゃ、俺に任せな!スーパー、ナッパーーーー!』
・・・まあ、ゲキガンガーにゲキガンガーで対抗するのも何ですしね。
いいんじゃないでしょうか。
あ、でも・・・。
「あれにもディストーションフィールドあるのよねえ」
その通りです、ミナトさん。
それも、バッタやジョロのようなちゃちなやつじゃありません。
だから、当然こうなるわけですね。
「ヤマダ機、敵と接触。つかみ合ってます」
捕まった、とも言いますが。
一応、メグミさんもいるので言葉を選びました。
『ヤマダ!今行くぜ!待ってろ!』
『ヤマダ君!大丈夫〜?アキト君、そっちお願いね〜』
リョーコさんたちが向かいましたから、大丈夫でしょう。

「4発目・・・っ!!」
「避けきれない?!」

「きゃあああっ!」
4発目は運悪く、左舷ハッチ付近で爆発。
ディストーションフィールド内での爆発に、衝撃も大きい。
私も、シートから弾かれてしまいました。
お尻が痛い・・・。

あ、アキトさんは・・・。
ようやくコンソールにつかまり、ウィンドウを覗きます。
顔、しかめっ面だけど、しょうがないよね。

「テンカワさん!精度が上がってます!ナデシコが!」
艦長の声に、
『くそっ!・・・ジャンプ』
そう叫ぶと、ミルトニアが消えます。
かと思ったら、ボソン砲射出装置直前に現れ、そして。










・・・・・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「おおお〜〜〜〜〜!」×212(つまり、アキト、ルリ以外)

「アキトさん・・・ばか」










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




41 Doubt

破壊されたデンジン。
脱出ポッドの中で、三郎太は暗い疑念にとりつかれていた。
「・・・あれは・・・白鳥少佐?・・・まさか・・・」







 

《あとがき》

うふふふ(邪笑)。
いよいよ、ですよ。

銭湯、いや、戦闘も終わりそうだし。
(このネタ、33話の管理人様感想でもそうだけど、わかる人どれくらいいるんでしょう・・・苦笑)

うふふふふふふふ。
くすくすくすくすくす。(やばめ)

b83yrの感想
銭湯・・・・にやり
私は知ってるけど教えない♪<意地悪bさんも〜ど

さてと、では、感想を
アキトっ、何を言った何をっ!!
気になるぞっ!!

次話へ進む

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