ナデシコはP-3Vポイントでかろうじて残っていた航跡を辿る。
カトレアが交戦したのが10日前。
彼らはカキツバタを途中まで追跡して交戦したのだから、カキツバタ以下和平交渉有志はそれ以前にここを通過している。
「追いつくかな・・・」
ジュンが不安げな声で誰にともなく呟く。
ジュンは戦争を否定しない。
それが木星蜥蜴ではなく、木連と名乗る人間であれば尚更だ。
蜥蜴であったなら、彼も戦争を否定したかも知れない。
戦争に理不尽を覚えたかも知れない。
が、相手は人間である。
人間同士が考え方の違いから諍いを起こすことは、それが人間という感情と理性の生物である以上、仕方のないことだ。
そう考えている。

とは言え、ジュンにも恐怖はある。
だから、戦争が終わるなら、それはそれで良い。
彼が嫌悪するのは、何も知らずに、何も知らされずに命の遣り取りをすることだ。
相手は人間であり、彼らはその昔、国連軍と政府によって月を追放された独立派である。
それを知った今、彼らの怒りも理解できるし、彼らと本当の和解をするために今は命がけで戦わなくてはならないこともまた、彼は知っていた。
この戦争を、彼自身が戦い切った時、地球と木星とが和解していればいい。
戦争の善悪を批判するほど自分は傲慢ではない。
現実に起こっていることを受け止め、お互いが人としての幸福を掴み取るために戦っているのなら、自分もまた、それに従って戦う。

彼はユリカやプロスよりも、ナデシコの誰よりも現実的にこの戦争を捉えていた。

人類の恒久平和。
お題目を信じていない、それだけのことである。



「大丈夫だよ、ジュン君」
隣で艦長シートを立ち上げて、ユリカがジュンの心配を払拭する笑顔を向ける。

ユリカもまた、この戦争で自分たちが成すべきことを考えていた。
カキツバタが中心となって起こした、今回の和平交渉騒動。
でき得ることならば、自分たちが中心となってやりたかったのも、ユリカの本音である。
連合大学で、戦術シミュレーション首席の成績を取っても。
卒業後、すぐに上級士官としてのポストを用意されていても。
どこにも自分の居場所はない、そう思っていた。
自分は戦争がやりたくて連合大学へ入学した訳ではない。
ミスマルの家が、それ以外の道を選ばせなかっただけだ。
もちろん、そのことを後悔はしていない。
自分の力を実感できる場所であったことは、確かな事実であるのだから。

『For The earth area, and human beings' peace and stability.』
連合大の校訓には違和感を覚えた。
これまで感じたことのない、自分の存在価値に対する、挑戦のようなものを感じ取ったのかも知れない。
ヨコハマ・シティにある、統率・策戦教育課程の中央管理棟入り口に掲げられた欺瞞。
白亜の巨棟が、砂上の楼閣に見えた。

『あなたの頭脳をお借りしたい』
元軍人らしく、ネルガルへの忠誠を尽くし、アスカへ移籍しなかったゴートのスカウト時の言葉。
その言葉に、広い屋敷の一室で、ユリカはこう返したのだ。
『ミスマル・ユリカ個人としての頭脳ですか、それとも、連合大で教育を受けた頭脳ですか?』

ナデシコでばかなことばかりをやっている訳ではない。
現在を見つめているだけでもない。

最初の1年は悩んだ。
ただ、自分らしくありたいだけでいいのか。
ナデシコクルーをまとめるために、空回りしているのではないか。
熱意と現実はすれ違った。

火星での救出、地球へ帰還した時、ナデシコクルーは1つではないことを知る。
それぞれが自分だけの目的と現実を抱えている。
それを強引に1つにまとめることは、所詮無駄なことではないのか。
網目のように散らばっている道を、幹線道路にまとめてしまうのは反作用を引き起こすだけだ。
けれど、それを1本の道に繋げることはできるのではないか。
カキツバタ出現の後、クルーが1つの目標に向かったように。
ユリカは命令を出さない。
非常時でもクルーに頼む姿勢を崩さない。
そしてクルーはそれでも自分を信じ、応えてくれる。

クルーの1人1人が『自分らしく』そして、ナデシコが『自分たちらしく』あるための戦い。
それが、今のユリカの真実だった。
だから、戦う。
そして、ナデシコを守る。
そのために軽率な判断はできない。
それはユリカが『私らしく』あるための、最低条件だから。



「レーダー索敵範囲内に敵影はありません」
「カキツバタ及び連合軍部隊の直線距離での相対位置予測完了。航跡追尾しながらの最大速度で360時間後にランデブー可能」
メグミに続き、ルリが報告を行う。
「これよりナデシコは木連の勢力下に入ります。各班のシフトは戦時Dシフトで勤務体制を採ってください。戦闘班は30分後にブリッジへ。ブリーフィングを行います」
艦内に緊張が走る。
「航跡追尾はルリちゃんとメグミさんで交代してください。オモイカネ」
《何でしょう、艦長》
「ごめんね、あなたを信用していないわけじゃないよ」
《わかっていますよ。お気遣いありがとうございます》
すっかり人間味を増したAIに微笑む。
オペレーターシートでは、ルリも驚いていた。
「どうしたの?ルリちゃん」
心なし目を見開いているルリに気づいたメグミが尋ねる。
「いえ。艦長、いつの間にオモイカネを意思疎通を・・・」
「その辺は、さすがってとこかな」
ミナトが加わる。
「そうよね。ほんと、ギャップの激しい人ですよね〜」
「時々妄想入っちゃったりするしね」
そう言って、笑いあう2人。
すぐ上の第1フロアで、ユリカが頬を膨らませる。
「ひっど〜い、2人とも。これでもユリカは艦長さんなんだから。ぷんぷん!」
「その辺が、ギャップなのよ、艦長」










漆黒の向こうに、微かな光点。
肉眼で確認できない光は、太陽系最高感度を誇るナデシコのセンサーに捉えられた。
「戦艦を補足。距離1000!」
メグミの報告がナデシコを駆け巡る。
「識別コードに該当ありません。敵艦です」
「総員戦闘配備!ダブル・テイクで待機してください」
「了解!エステバリス隊、発進準備のまま待機。戦闘ブロック隔壁閉鎖」

「単なる警備ですかな」
「でも、それにしたって、1隻だけってのはおかしいですよ。もしかしたら、戦闘不能で漂流してるのかな・・・」
ジュンの希望的観測は、メグミの声によって即座に覆された。
「敵艦まで距離900。ディストーションフィールド、電磁場の変調を確認。生きてます」
「ラウンド・テイクへ移行。エステバリス隊、距離200にて発進。ナデシコは敵艦に対し5-0-9を確保」
『了解!』
戦闘隊長のリョーコが答える。
「敵艦に気づかれる前に、先制攻撃を仕掛けた方が良いのではないですか?艦長」
ナデシコの安全を最優先に考える、プロスが声をかける。
「いえ、もし、カキツバタと接触予定の艦だったら困りますから。ディストーションフィールド出力最大!」
ユリカは先制をせず、様子見で行くことにしていた。
1隻だけならば、ルリのハッキングも期待できるレベルになっているし、焦って先制する必要はない。
心配なのは、ジュンの言う通り、1隻でこの宙域にいる不自然さの方だ。

「何かある、よね」
「そうだね。ただ、ナデシコのセンサーにひっかからないということは、他に戦艦が待ち伏せている可能性は少ないけど」
「優人部隊なら、ボソンジャンプで先制してきますよ」
ルリの声に、全員が第2フロアを注目する。
「敵艦内部にボソン反応です」
「ええっ?!」
「エステバリス隊、発進!ゲキガンタイプをナデシコに近づけないで下さい!」
ジュンが驚き、ユリカが慌てて指示を出す。
右舷ハッチから次々と飛び出して行くエステ。
先頭を切って出撃したのはアキトのミルトニアだった。
「あれ?いつもと順番違うね」
『ボソンジャンプにはボソンジャンプってな。俺たちもシミュレートしてるけどよ、テンカワの方がボソンジャンプに対応しやすいだろう』
「珍しくリョーコさん、弱気ですね」
『おい、メグミ、俺は弱気になったわけじゃあねえよ。確実に生き残る方法を採るってだけだ』
ミルトニアのフォローで先行するリョーコが苦笑する。
(俺ってそんなに好戦的に思われてるのか?)

「エステバリス隊、戦闘宙域に入ります」
「ハッキング、成功。戦艦の火器管制は抑えました。無人兵器制御に移ります」
メグミ、ルリの順に報告が入る。
ハッキングに成功したことで、ブリッジには楽観的な空気が流れている。
ミルトニアとエステバリスも、危なげなく無人兵器を落としていく。「この分なら、楽勝じゃないの〜?」
操艦にも余裕があるミナト。
「ですよね〜、無人兵器はちょっと多いですけど、ゲキガンタイプは出てないし」
メグミも応じるが、その雰囲気は第1フロアでも同じだった。
「どうやら簡単に片付きそうだね、ユリカ」
「うん・・・ならいいんだけど」
「どうしたんです?艦長。何か心配でも?」
「いえ、別にこれといってないんですけど。これまで単艦行動なんて採ってなかった木連の戦艦が1隻で航行してるのはやっぱ、不自然だなあって思って」
「うーん、それもわかるけど・・・ハッキングにも成功してるし、大丈夫じゃないかな」
「それにね、さっきのボース粒子の反応が気になるんだよね。その割にゲキガンタイプが出て来ないってのが・・・」
ナデシコの遠隔センサーが捉えたボース反応は、微弱なものではないはずだ。
いくら高感度でしかも、ルリがハッキング中であるとは言え、80Kmも離れた敵艦内部の微弱なボソン反応を検出できるわけがない。
大質量のものをジャンプさせるつもりだ。



「これは・・・?」
ルリの声が小さく響く。
「え?どうかしたの?ルリちゃん」
単艦戦闘で通信も暇なメグミが気づく。
「いえ・・・」
首を捻りながら、再びオペレートに戻る。
『おい、テンカワ出過ぎてるぞ、少し下げろ』
『ああ、ごめん、リョー・・・』
「後部格納庫にボソン反応増大」
「ええっ?!」
アキトの返事に重なるルリの報告に、ブリッジクルー全員が目を見張る。

「きゃあっ!」
「うわわわ!」
刹那、振動がナデシコを襲い、悲鳴をあげるクルー。
『何だ?!』
『おい、ナデシコ!どうした?』
モニターしていたエステバリス隊も、コミュニケで状況を聞いてくる。
「ルリちゃん。状況報告!」
「後部格納庫半壊。シャトル全壊」
「相転移エンジンには異常ないわ・・・よかった」
「死傷者、ありません」
ルリ、ミナト、メグミの順に報告する。
「敵艦、速度を上げました!突っ込んできます!」
「メグミさん、エステバリス隊に帰艦命令、大至急収容してください」
「え?いいんですか?」
「はい。ミナトさん、最大戦速で敵艦の上方を抜けてください」
「はいは〜い、了解」
「ちょ、ユリカ?」
「訳のわからない攻撃から逃げるのが一番、だよ?」
くるっと振り向いて笑うユリカに、何も言えなくなるジュン。
「エステバリス隊、収容完了しました」
「ボソン反応、今度は左舷ディストーションブレード」
「ミナトさん」
「了解、任せて」
相転移エンジンが咆哮をあげ、急加速で離脱する。
さっきまでナデシコが占めていた空間に、ボース粒子の青白い光が集まり、次第に形を取り始める。
ミサイルの全体が姿を表した瞬間、轟音を放って爆発した。





「一体何があったんだ?」
ブリッジへ召集されたアキトが開口一番に言った。
パイロットシートを立ち上げると、やれやれと言った風に腰掛ける。
他のパイロットもそれぞれ、第3フロアの定位置に着く。
「こういう時は、お決まりの台詞があるんじゃないですか?」
ルリの言葉に、全員が溜息をつく。
わかってはいるのだが、これだけの事態だと一体どの位の長さになるのか想像もつかない。
というより想像したくない。
「まあ、仕方ないよね〜」
「生まれたてのバンビ・・・鹿、立たない・・・しか、たたない・・・しかたない・・・くっくくく・・・」
「ジュン君・・・バンビって、何?」
「・・・僕に聞かれても・・・」
「あらあ、艦長、知らないの?大昔のアニメじゃなかったっけ?」
「この人もいましたな・・・」
「プロスさん・・・あなたが選んだんじゃないんですか?」
ヒカルの後を受けて、クルーを凍りつかせたイズミに嘆くプロス。
そのプロスを恨むように責めるメグミ。
それらを眺め回した後、ルリがアキトに向かって決断を促した。
「アキトさん。諦めましょう」
「ルリちゃんも達観してきたね。じゃ、行くよ」
「はい」

2人で声を揃える。



「・・・説明して」



「よろしい、後部格納庫に直撃したミサイルの破片分析の結果から『説明』しましょう。まずミサイルというものは、通常、レーザー・シーカーと呼ばれる探知器部分と、弾頭、ジャイロや自動操縦装置などを内蔵する誘導部、推進及び飛行制御部から成っている。ところが今回使用されたミサイルはこのレーザー・シーカーと飛行推進部、誘導部がなく、つまるところ単純な爆薬とでも言うべきものと考えた方がいいわ。しかもこの爆薬に使われているのは成型炸薬を利用し、しかも質の悪いことにノイマン効果で貫通力を高めると同時に、子弾を用いて周辺への被害を拡大させる効果をも併せ持つため、これがナデシコに直撃した場合の被害を想定すると・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・この時、TNT火薬による爆発の運動エネルギーを想定して、本件の爆弾と比較するならば、・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・もちろん、これらの非人道的攻撃方法は、2122年のポンディシェリ条約で各国家間及び民族間における紛争において禁止されているわ。また翌年2123年の地球連合加盟地域における生体兵器および非人道的攻撃技術開発に関する研究分野規定のD規約33条2項の但し書きにもそのことは明確に規定されている。これらを批准した加盟国および地域は全加盟数の92%に及んでいるから、地球上でこういった攻撃方法が採用される可能性は現在では著しく低下しているといって良いわ。そもそもこれら戦争と平和に関する条約や国際的取り決めを鑑みるに、1618年の30年戦争に端を発する・・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・では、木連の軍事技術でここまでのボソンジャンプが可能かと問われれば、私は是、と答えるわね。けだし、彼らの手にした範囲は食料生産プラントや軍事技術プラントにとどまらず、ボソンジャンプジなどの民間転用可能な、いえ、正確に言えば軍事転用が可能な民間技術プラントにまで及んでいることはは先の月面作戦で皆も知っている通りよ。して、そのボソンジャンプとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・・さて、ここでこれまでの蜥蜴戦争における、木連の戦術を振り返ってみましょう。無人兵器による無差別殺戮から始まり、その後、動力・熱源その他の探知による限定破壊を行ってきた彼らだけれども、第5次月面奪還作戦で実戦投入されたゲキガンタイプ。その最大の脅威となり得るのは・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・・・・・・・・・と、言う訳。わかったかしら?」





《※途中7時間分省略させて頂きました。Byオモイカネ》




「・・・あのさあ・・・姉さん」
「あら、さすがはアキト、慣れてるわね。で、何?」
「・・・いえ、まずは私が質問していいですか、アキトさん?」
「ふふふ。OKよ。詳しくやさしく丁寧かつコンパクトに答えてあげるわ」
「本当でしょうね・・・では、聞きます。なぜ医務室からブリッジまで5秒で来られるんです?」
「私だからよ」
「・・・・・・・」
「それより、戦闘中でしょ?皆を起こさなくていいの?」
「あっそうだ!ルリちゃん」
「はあ・・・誰のせいだと思ってるんですか・・・皆さん、起きてください。戦闘は継続中。敵艦は現在ナデシコの後方より等速度で追尾中です。起きてください。艦長、艦長カンチョウかんちょう〜」

もぞもぞと動き始める人塊。
「はれ?おばあさまは・・・?」
「何寝ぼけてるんですか?艦長」
「ううん・・・うあっ・・・お前、勘弁してくれ・・・」
「ウリバタケさん、恐妻家なんですね」

アキトもパイロットを叩き起こす。
「あ、ああ・・・テンカワか・・・ジョーが迎えに来たのかと思ったぜ・・・」
「お前な・・・」
「ほえ?アキト君だ。終わったの?」
「終わったよ」
「お・・・テンカワじゃねえか・・・ってことは、ここは地獄なのか?」
「ちょっと待て」
「・・あら、テンカワ君・・・嵐は去ったのね」
「イズミさんが普通なんて・・・(姉さんって木連より怖いよ・・・)」





「あれから8時間・・・艦長、奴らは逃げるだけで何も仕掛けてきませんね」
「そうだな。何をたくらんでいるのか・・・」

何もたくらんでいなかった。





「どうしたんですか?アキトさん」
「ん?いや、何か首の後ろがちくちくするんだよね」
アキトが首筋をさすりながら言う。
「ちょっと見せてください」
しゃがむアキトの肩に手を置いて、ルリが覗き込む。
(あっ・・・何か、ルリちゃんの手って暖かいなあ・・・って、何考えてんだ?俺!)
1人顔を赤らめるアキトに、離れたルリが言う。
「別に何ともありませんね・・・どうかしました?」
「え?いや、ははは・・・なんでもないよ」
慌てて手を振るアキト。
どうもバレンタインからこっち、やけにルリが気になって仕方がない。

そんな中、頭のはっきりしてきたクルーたちが、話の続きを始めた。

「つまり、ボソンジャンプによって、爆弾を直接ディストーションフィールド内に送り込んできた、と」
ようやく人心地のついたプロスが確認する。
「すると、ディストーションフィールドは・・・」
「無意味ね」
「遠距離からのグラビティブラストも?」
「単なる消耗戦に過ぎないわ」
「じゃあ、打つ手なしってこと?」
ミナトの言葉にイネスは。
「いいえ、突破口はあるわ。敵がその気ならとっくにやられている筈。その・・・ボソン砲にも弱点があるのよ」
「・・・射程?」
「それと、精度。敵は、接近しながら攻撃してきた所を見ると、遠距離のボソン砲攻撃はまだ出来ないみたいね。それに最初のボソン反応から初弾までの時間が異様に長い。そのことから考えれば、ジャンプ位置の設定、ゲキガンタイプも長距離のジャンプはできないみたいだから当然なんだけど、演算、これに時間がかかるみたいね」
ルリの答えに付け足す。
「ハッキング中に見つけたよくわからないプログラムは、それだったんですね」
「そうね。それの掌握は可能?」
「難しいですね。中枢コンピューターからは独立しているようでしたから。火器管制に組み込まれていないと言うことは、試験段階なんでしょう」
「エステで突っ込むってのはどうだい?」
ヤマダが意気込むが、これはウリバタケに一蹴される。
「エネルギーラインを超えるんだぞ?辿り着く前にガス欠になっちまうよ」
「あ、じゃあさ、アキトさんのミルトニアなら一瞬で敵艦の前に出られますよね?」
アキトさん、の言葉と甘えたようにアキトを見る目に、ルリがぴくっと反応するが、メグミは全く気づいていない。
クルーは、名案だというようにアキトを見るが、アキトは肩を竦める。
「ごめん、前みたいにナデシコを基準にして見える範囲ならともかく、何もない宇宙空間をイメージするのはちょっと・・・」

これには全員ががっくりする。

「何だよ、いざって時に役にたたねえなあ」

ヤマダの不用意な一言がルリを刺激した。



(じゅ、ジュン君・・・怖いよお・・・)
(ゆ、ユリカ・・・か、艦長じゃないか、ほら、君が何とかしないと・・・)
(うう・・・ひどいよ、ジュン君・・・)

(リョーコお・・・何とかしてよ)
(ば、ばか言え・・・死にたくねえよ・・・い、イズミ・・・)
(そ、そうだね、イズミちゃんのギャグで・・・って、気絶してるねえ・・・)

(ウリバタケさん・・・お得意の工作で何とかなりませんか・・・)
(じょ、冗談じゃねえ・・・死ぬのはヤマダだけで十分だ!)

《要人警護システム、起動します》
「うおっ!オモイカネ、待った待った!!」
「止めないでください、アキトさん」
「ルリちゃん!落ち着いてよ!ほ、ほら、ヤマダもちょっと軽く言っただけだしさ、ね」
「そ、そうよ、ルリちゃん。あれくらい私だって言ってるじゃないの」
イネスもいつもの冷静さを失って、必死に説得する。
「・・・家族は別です。オモイカネ、発射」
《了解》

「うぎやああああああ!」

静まり返るブリッジで、ルリが無表情に言う。
「大丈夫ですよ。気絶する程度に抑えてあります。初犯ですし」










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




40 A new threat

作戦名『釣』
そんな安易なネーミングが、ナデシコクルーの限界だった。











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《あとがき》

『深く静かに戦闘せよ』
実は一番好きな話だったりします。
話自体、というよりBGMとの調和が。

ですので、次回は『勇壮なるナデシコ』を聞きながらどうぞ。

b83yrの感想
おっ、出てきましたねボソン砲
ボソン砲って、戦艦みたいな移動目標に使われたから対処のしようも有ったけど、軍事基地みたいな固定目標に使われたらどうしようもない気が
さて、テンカワ・ルリのファンサイトの投稿作品でありながら、ユリカの活躍の多いこの話(笑)
「ルリ×アキト派=アンチユリカ派」である必要なんてないし、この手の活躍を見せてくれるユリカは結構好き

ちなみに、私の持論
「恋敵のレベルが落ちるとヒロインのレベルまで落ちる」
「ヒロインは、魅力のある恋敵以上の魅力を見せてもらってこそヒロイン」
「ルリは、壊れキャラなんかを引きたて役にしなくても、立派にヒロインとして通用する」

この話のユリカはルリの恋敵じゃないけど、お馬鹿な『だけ』の描写のされてるユリカより、『より』ルリを活かしてる所が好き

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