ナデシコは火星宙域へ向かっています。
月を確保して、航路の安全は保障されたので、前回よりは比較的楽。
何で火星へ向かってるかっていうと、木星と和平交渉に行ったカキツバタを追ってるからです。
最終的に妄想入っちゃって、久しぶりに『ばか』な艦長見ましたけど、結局は艦長の意見がクルーにとって大きな存在だった、ってこと。
カキツバタがどこにいるのか、まだわからないんだけど、取り敢えず近付かないことには航跡追尾もできません。
だから、追っかけてったカトレアが交戦した宙域にまずは行ってみよう、と。



「相手が人間であるってだけで、何でも話し合いで解決できれば楽なんだけどね〜」
ミナトさん、じゃあ何であのゲキガンガーの人、逃がしたんですか?
「何でかなあ・・・自分でもわからないんだよね。でも、なんかあの人見てたら戦争やってるの信じられなくなっちゃって。って言うより、馬鹿らしくなったのかな?口調は軍人さんらしかったけど、結構、情に絆されちゃったり、ナデシコクルーみたいな人だったじゃない。だからかな、何かね、この人を逃がした方がいいって思っちゃって」
ミナトさんのことだから、その後起きた、この事態を想定していたというわけではないですね。
本能でそう感じた、ってところでしょうか。
「ルリルリはどうなの?この間、カキツバタを追いかけること決めた時、何も言わなかったけど」
どうなの、って言われても。
「状況から艦長の言ったことがベストだと思いましたので」
「だから敢えて自分の意見は言わなかった?」
「はい」
「ふ〜ん、そっか。ま、こういうことにかけては艦長って頼りになるよね。ルリルリもそうなってきてるのかな」
あれと一緒にされるのはちょっと・・・いえ、とても嫌ですね。
私、あんなに人目を気にせずに妄想できません。
と言うより、妄想自体したことが・・・

《映像出します》

えっ?オモイカネ?

・・・・・・。

「なっ?!」
「どうしたの?ルリルリ?」
ミナトさん・・・見てないですよね・・・。
「・・・何でもありません」
「顔、赤いよ?」
「そんなことないです」
「オモイカネがどうかしたの?」
「別に・・・」
「もしかして・・・バグ?」
「問題ありません」
「?」

ふう。
どうやら諦めてくれたみたいです。
それにしても。
「オモイカネ」
《何ですか》
「データ、消去。すぐにやりなさい」
《ですが、艦内モニターの映像記録は1年間の保存義務と、本社への提出が義務付けられています》
くっ。
オモイカネがこんなに愉快な性格になっているとは、思いませんでした。
アスカの所属になってから、どうも変ですね。
でも、出航前に調整したのは私ですし・・・。

・・・・・・もう1人いましたね。
相変わらず、こんなことばかり聡い『おばさん』が。
オモイカネ級のAIを『オペレート』できるのは私とアキトさんだけですが、『プログラム』ができるのは私とあの人だけです。
あの休暇中、どうしてあんなに頻繁に仕事へ行くのか不思議に思っていましたが・・・。
油断していました。
後でちゃんと言っておかないと、オモイカネの教・・・

「ルリルリったら、アキト君のことでも考えてたのかな〜?」

え?何の話を・・・って!
「オモイカネ!」
「あら、図星?」
「ミナトさんっウィンドウ消してください!」
「もう、ルリルリってば照れ屋さんだね〜」

ミナトさんの手元には小さくウィンドウが。
そして、そこに映っているのは、アキトさん救出を考えていた時、格納庫でナデシコ脱出を悩みながら赤くなったりしてる私。
「ルリルリってやっぱり艦長に似てきてるよね」
「?!」





「やっほ〜お疲れ様〜・・・はれ?どうしたの、ルリちゃん?」
艦長・・・能天気でいいですね。
「?まあ、いいや、2人とも上がって良いよ。引き継ぐから」
「は〜い、じゃ、ルリルリ、食事でもしてこっか」
「はい。ハルカ・ミナト、ホシノ・ルリ、1900時を以ってミスマル・ユリカ艦長とメグミ・レイナード通信士にブリッジ業務を渡します」
「へ?は、はい。引き継ぎます」
普段言わない引継ぎ報告を、早口で言います。
艦長とメグミさんは、目を白黒させながら、呆気に取られてます。
「ふふふ、ルリルリ、じゃ行こうか」



「で、どうなのかな、実際のところ」
ブリッジ勤務を引き継いだ私とミナトさんは、食堂に来ています。
「何がですか?アキトさん、お願いします」
「はいよ!今日は『いつものやつ』だね」
「はい」
「アキト君の目って、やっぱりまだ見慣れないねえ」
「はは。俺もっスよ。でもルリちゃんがこの方が良いって言うから・・・」
「ふ〜ん、ルリルリの言うことは素直に聞くのね」
「え、いや、別にそんなわけじゃあ・・・」
「へ〜、じゃあ、どういうわけなのかな」
「いや、ははは・・・A定食一丁!」
ミナトさんから食券を預かったアキトさんが、厨房に声をかけます。
私のは『いつものやつ』ですから。
当然アキトさんが作るので、特にホウメイさんにオーダーをかけないんです。

「カキツバタ、追いつけるかなってこと」
空いてる席を探し、テーブルに着くと、料理が運ばれるのを待ちます。
「P-3Vで戦闘があったのが1週間前ですから。ちょっと出遅れましたね」
「どういうこと?」
相転移エンジンと言え、宇宙空間に何の痕跡も残さないということはありません。
周囲の粒子や電磁波の乱れを起こすので、その痕跡をつかめればカキツバタをトレースできるのですが、広大な宇宙空間からそれをみつけるのは困難です。
だから、取り敢えずカトレアが戦闘した、つまり、その航路を途中までは採っていたということは確認できていますので、そこでその航跡を見つけようというのですが。
同じエンジンを使っているカトレアが戦闘した宙域ですから、相当乱されてると思った方がいいです。
しかも、次第にその痕跡は周囲の空間へ散らばっていきますので、できる限り早く到着しなければ追えなくなってしまいます。

そんなことを、できるだけ『説明』っぽくならないように、ミナトさんに話します。
「そっか。じゃあ、急がないとね」
「ん?何の話?随分深刻そうだけど」
アキトさんが料理を運んできます。
うん。
これです。
やっぱり、週1のチキンライスは外せません。

「木連の話をちょっとね」
「ふ〜ん、でもさあ、成功するといいっスよね、和平」
「あれ?アキト君とイネスさんって和平に懐疑的じゃなかったっけ?艦長の意見に賛成してたじゃない」
「いや。もうちょっと、木連のこと知ってからの方がいいんじゃないかってことで、成功はして欲しいっスよ。戦争なんてないにこしたことはないでしょう」
「そうね。そうすればボソンジャンプの研究も進むだろうしね。早く安心して暮らせる日が来るといいね、アキト君」
「ええ、本当に。あ、ミナトさん、はい、塩」
「ありがとう。あら?これいつものとちょっと違うような・・・」
「今日は俺が担当したんスよ。A定食」
「へ〜、よかったね。ホウメイさんから任されるなんて、すごいじゃない」
「いやあ、まだまだっスよ。A定だけですしね」

・・・・・・なんか、和気藹々としてますね。
人がチキンライスに夢中になってる間に、何盛り上がってるんです。

「ほら、テンカワ!いつまで油売ってるんだい。ルリ坊の傍にいたいのはわかるが忙しいんだよ!」
ホウメイさん、ナイスタイミングです。
「いいっ?!べ、別にそんなわけじゃ・・・」
そう言いながら、厨房へ戻るアキトさん。
ま、まあ、傍にいられないのは残念ですけどね。
食堂くらいでしか会えませんし、それに最近手を繋いでもいない・・・。

「ルリルリ〜」
ミナトさん?
「何ですか」
「妬いた?」

!!!!!

「べ、別に・・・」
「お兄さんを取られちゃって、むくれてるのかなあ〜?」
「そんなことありませんよ」
「そっか、そうだよね。『お兄さん』じゃないもんね」
「ちょ、ミナトさん・・・」
「あれ?今日は随分動揺が多い日だね〜」
「そんなことありません」
誰が動揺させてると思ってるんですか、まったくもう。
「でも・・・それ、もう空だよ?」
「え?」

かき混ぜていたスープカップは、確かに空でした。





ふう。
ミナトさんの口撃(?)を受けている間に、随分時間が経っちゃいました。
食後のコーヒー、― もちろん私はいつものようにホットミルクですが ―を終えると、
「じゃ、私は先に戻るね。ルリルリ」
「なら私も戻ります」
「もうちょっとゆっくりして行きなよ。もうすぐ終わるんだから」
そう言って、厨房を目で指します。
ま、ここまできたらミナトさんに逆らっても無駄ですね。
「はい。じゃあ、待ってます」
「ふふ。じゃあね、ルリルリ」
ミナトさん、やけに嬉しそうに言うと、カウンターの方へ。
何しに行くんでしょう。

アキトさんを手招きして何か囁いてます。
以前、これを勘違いして失敗しちゃったんですよね。
でも、何度見てもいい光景じゃありません。
?ホウメイさんまで参加してますね。


『連邦議会、10月に総選挙確実』
『戦時被災者対策特別措置関連法案、政府内調整続く』
『鉄鋼関連株、今年最高値』
『ナノマシン医療、新時代へ』

ぼーっとスクリーンに流れるニュースを見ていると、背後に気配を感じて、
「お待たせ、ルリちゃん」
アキトさんが、立っていました。
「あ。アキトさん。もう終わったんですか?」
「うん、今日はお客さんの引きが早くてね。朝番だったから、仕込みはいいってホウメイさんが」
確かに、食堂には生活班と設備班の人たちが何人かいるだけで、がらがらです。
「帰ろうか?送ってくよ」
「はい」
厨房に声をかけ、衣糧班のクルーに挨拶すると、私たちは食堂を後にしました。

食堂はブリッジ、居住ブロックの3層下にありますので、エレベーターで上へ。
特にお喋りすることもなく、ただ静かにエレベーターを待っていたんですが。
「来たよ、ルリちゃん」
そう言って自然に手を繋いで。

食堂で考えていたせいか、初めてじゃないのに。
ホシノ・ルリ、真っ赤になっちゃいました。
いえ、それはもちろん自分の顔は見ることなんてできませんが、なんだか顔が熱いんです。
どうしましょう。
アキトさんの顔をまっすぐ見られません。
「え〜と、ルリちゃん?」
あっ、エレベーターが来てるんですよね。
乗ってから、やっとのことでアキトさんを見上げると。
アキトさんはこっちを見ていませんが、耳が赤い。
何で?

ああ、もうっ!
・・・混乱してきました。
何でしょう、これは。
アキトさんといると、冷静沈着なオペレーターがどっかに飛んでってます。
変です、今日の私。
それもこれも、ミナトさんとオモイカネのせいですね、ええ、そうに決まってます。
変に意識しちゃって・・・。

あれ?
居住ブロックは2層上ですよ?
誰か乗ってくるのかな。
「あのさ、ルリちゃん」
「えっ?!何ですか!」
あ。
アキトさんが驚いてるけど。
仕方ないです。
思考回路が混線してる最中に急に声をかけるんですから。
「・・・ちょっと姉さんの所に寄ってもいいかな?」
「いいですよ」
私たちは医務室のある、居住ブロックから1層下で降ります。
「・・・ところで、アキトさん。その箱は何ですか?」
ちょうど冷静になれたので、さっきから気になっていたことを聞いてみましょう。
「ああ、これ・・・。姉さんの所でわかるよ」
何でしょうね。

「姉さん、入るよ」
イネスさんは、医務室の奥に勝手に棲息してます。
医療衛生班の部屋もちゃんとあるんですが、やっぱり研究室、いえ、実験室の方が落ち着くんでしょうか。
「いいわよ。いらっしゃい」
奥からかかる声に従って、私たちは部屋に足を踏み入れます。
それにしても。
いつ来ても、変化が激しいですね。
現代科学の粋を集めた医務室の奥に、何で趣向を凝らした和室を設えるんでしょう。
掛け軸に掘り炬燵。
床の間には、一輪挿し。
しかも生花ですし。
どうやって手に入れてるんでしょうね、宇宙空間で。
「今日はどうしたんですか?」
炬燵に3人が落ち着いてから、切り出します。
もうナデシコクルーに秘密にするような話はないはずですが。
「まあまあ、ルリちゃん、まずはこれ」
そう言ってアキトさんが出したのは、さっきの箱。
慎重に開けると、中には。

「誕生日おめでとう、ルリちゃん」
え、でも。
「3日ほど早いけどね。3日後にはP-3Vポイントに着いてしまうでしょう。だから、家族のお祝いは少し早めにしたのよ」
「明日はミナトさんやメグミさんたちがちょっとしたパーティしてくれるそうだよ」
私は、ただ2人を交互に見つめるだけ。
「どうしたの?」
「いえ・・・カキツバタの件でごたごたしてるのに・・・嬉しい」
木連のボソンジャンプからこっち、イネスさんは先を越されたのが悔しいのか、アキトさん以外のボソンジャンプの可能性を研究するためにこもりっきり。
アキトさんも、ヒラヤマさんと連絡取ったり厨房でホウメイさんに師事したり、ヤマダさんとリョーコさんに引っ張り出されてシミュレーションしたりで忙しい。
それに、イネスさんの指摘通り、3日後の7月7日にはP-3Vポイントに到着してしまいます。
去年の誕生日は私のミスで散々だったから、今年はって期待していたのに、ちょっと残念に思っていたところで。
だから、余計嬉しかった。
「こういう時だからこそ、家族がお祝いしなきゃね。さ、アキト、試食してあげるわ」
「え?もしかして、このケーキ・・・」
アキトさんが照れ臭そうに言います。
「うん。お菓子作りは自信なかったんだけどね。ホワイトデーに何のお返しもできなかったから、練習したんだ」
「艦長のお茶会の時にしてたのは・・・」
「ホウメイさんなら一発ですごいの作っちゃうんだけど、練習に作らせてもらったんだ。まずは和菓子の微妙な甘みを理解しろって」
そういいながら、小皿に取り寄せます。

「それにしても・・・」
「なあに、アキト」
「ケーキに緑茶って・・・」
「あら、この渋さが堪らないんじゃない」
「イネスさんって、コーヒー党でしたよね」
「TPOに合わせるのが本当の通よ」
「ケーキにお茶がTPOか?」
「お子様にはわからないわね」
「アキトさんって20歳でしたよね」
「・・・うん」

アキトさん初めての本格的なケーキ。
バタークリームがしつこくなくて、すごくおいしかった。
そりゃ、ミナトさんとメグミさんの気持ちもすごく嬉しかったけど、やっぱり家族って特別ですね。

「ん?家族って言えばさあ・・・」
「何ですか、アキトさん」
「俺たちって、正確にはどういう関係になるんだ?」
「決まってるじゃない。『姉』と弟と妹よ」
イネスさん・・・そこまで強調すると・・・かえって・・・。
「何かしら、ホシノ・ルリ?」
う・・・フルネームで呼ぶ時のイネスさんは危険です。
こういう時は、話の流れを・・・
「あ、そう言えば、私ばっかりお祝いしてもらって、アキトさんとイネスさんの誕生日ってお祝いしたことないです」
どうしたんですか?イネスさん。
お茶噴き出しちゃって。
行儀悪いですよ。
「う〜ん・・・俺は別に、誕生日がめでたいって年じゃないしなあ・・・ぐはっ!」
「ふふふ・・・アキト。喧嘩は先手必勝よ」
イネスさん・・・そのハリセン、どこに隠し持ってたんです?
それとも、常に持ち歩いてるとか?

・・・・・・それはそれでなんか、いや。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




39 Party

後日、ブリッジでミナトとメグミの会話。
「そう言えばさあ。ホワイトデーのお返しも含んでたよねえ。それを手作りでってことはさあ」
「ミナトさん・・・あの2人がそんなに深く考えてると思います?」









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《あとがき》

やっと13歳になったか。
これでようやく・・・(にやり)。

b83yrの感想
くっくっくっ
そろそろ、我慢しなくても(にやり)
・・・なんか、感想というより悪代官と越後屋になってる気が(苦笑)

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