アキトのミルトニアが格納庫へ入る。
直接キャリアへ入らず、格納庫へ入ったところで立ち止まり、手にしたゲキガンガーの頭部を降ろす。
スラスターは潰してあるが、どんな武装が付いているのかわからない。
もしかしたらまだ生きているものがあるかも知れないので、ハッチをこじ開ける作業まではミルトニアで行わなければならない。
リョーコやヤマダのエステも帰還し、ミルトニアを囲む。
突然の攻撃や爆発に備え、整備班も避難済みである。
『テンカワさん、お願いします』
ウィンドウからユリカが合図をし、アキトはクローを出す。
『おい、テンカワ!クローでこじ開けるのは止めろ!後で調べるんだからよ』
ウリバタケの声に、仕方なくクローをしまい、指先でハッチを探る。

「保安部を前へ」
ジュンの指示で、プロスが数名の保安部員に合図を送る。
艦長や整備班、見守るブリッジクルーの前に出、銃を構える。
「出来る限り発砲はしないで下さいね」
ユリカが念を押し、全員が固唾を飲んで見守る中、ミルトニアの指がハッチを探り当てた。
頭部の口に当る部分が、鈍い破壊音を立てて剥がされる。
ヒカルのエステが中を覗きこみ、思わず声をあげた。

「ちょっとお〜!ヤマダ君じゃない!」

「は?」
格納庫の全員が呆気にとられる。
思いもしなかったヒカルの発言に、緊張感が切れた。
「どれどれ?」
イズミがヒカル機の背後からカメラを向け、中のパイロットが両手を頭の後ろで組んでいる姿を確認した。
「ヒック!」

「はあ?」
再び呆然とするクルーに、イズミが、
「これはシャックリ・・・シャックリ・・・そっくり・・・ふっ」
「はああ?」
完全に免疫の出来ているリョーコやヒカルに比べ、他のクルーは不意を突かれるとどうにもならない。
凍りついたクルーを正気に戻そうと、外部スピーカーから叫ぶ。
『おい、艦長!大丈夫だよ、こいつに抵抗する意志はなさそうだぜ。どうすんだ?!』
「・・・あっ、そ、そうでした。保安部の皆さん、拘束しちゃってください。乱暴にはしないでね」
ユリカの指示で、保安部の5名が動き出す。
連れ出された男を見て、3度、クルーが凍りつく。

「・・・えっとお・・・コスプレ?」
「・・・・・・あ、あはは・・・」
「へ〜、木星の服って変わってるねえ」
「ふーむ、文化の相違ですかな」
「私だって持ってるもん。ウサたんなら」
ミナト、ジュン、ユリカ、プロス、メグミの順でそれぞれ感想を口にする。
ルリの感想は。
「ばか」






ブリーフィングルームで、ゲキガンガーのコスチュームを身につけた木連人、白鳥九十九に対しての尋問が始まった。
「まずは所属と氏名を伺いましょうか」
プロスが笑顔のまま尋ねる。
「木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ他衛星小惑星国家反地球連合共同体連合優人部隊少佐、白鳥九十九だ」
白鳥九十九は両手を縛られたまま、憮然として答える。
ぼさぼさの髪といい、伸ばしたもみあげといい、いかつい顔の角張りといい、ヤマダ・ジロウそっくりである。
もちろん、ヤマダほど騒々しくはないのだが。

「木星圏、と仰いましたな」
プロスがトレードマークのちょび髭を撫でながら言う。
「木星に生命体が生存できるとは思えませんが・・・」
「生命体とはどういうことだ!我々は栄誉ある木星人類だ!」
九十九が叫ぶ。よほど表現が気に入らなかったらしい。
「それは失礼しました。ただ、あなたのDNA鑑定の結果が出ていなかったものですから」
素直に非礼を詫びるプロスだが、目の奥は警戒の色を消していない。
「鑑定なら済んだわよ」
不意にドアが開き、イネスが入ってくる。
「どうだったんですか?」
ユリカが尋ねる影で、プロスの眼鏡が光る。
「人間よ。間違いなく」
「それは、地球人ってことですか?」
「そうね。DNAの配列と基盤をその基準とするのなら、彼は地球人と言えるでしょうね」
ユリカの質問に対して単純明解に答える。
そのやりとりを聞いていた九十九が再び怒鳴る。
「地球人などと一緒にするな!自分はっ」
「木連人なんでしょ」
イネスに語尾を食われ、九十九は沈黙する。
「木星は水素とメタンの海。高速のガス嵐が吹き荒れる環境で人類が生きられると思えない。ならば、彼が妄言を吐いているのか、それとも・・・」
イネスがちら、とプロスとユリカを見る。
この場にいる人間で、イネスの意図に答えられる人間を意識的に選んだ視線だった。
「衛星にコロニーを作った。遺跡の技術を利用して」
ユリカが答える。
「つまり、木星にも遺跡と同じ、古代火星人の技術が残っていた、と。問題はどうしてそこに人類がいるのか、その理由が知りたいですな」
「どう?話してもらえないかしら?」

作戦前の説明は、あくまでもイネスとユリカの想像と少しの証拠から導き出された推論に過ぎない。
それはそれで幾ばくかの信憑性のある資料に基づいてはいるが、実際の「木連人」の証言には劣るだろう。

全員の視線がこの縛られた虜囚に集まる。
視線を逸らし、何かを考えていたが、ユリカの一言が彼の鍵を壊した。
「私たちはあなた方の技術力や作戦を聞きたい訳ではありません。真実を知りたいだけなんです」
九十九は、『残忍で冷酷な地球人類』であるはずのクルーを驚いた目で見つめた。
「私たちは戦っています。敵同士に別れて。でも、戦いを望んでいる訳ではありません。みんな、自分の大切なものを守りたいから、それだけのために戦っているんです。それはあなた方も同じではないでしょうか。それならば、あなたたちの真実を、大切なものを教えて欲しい、それだけなんです」
必死に言い募るユリカの表情に、策謀は感じられなかった。

(真実は1つではない、ということか・・・)
虜囚の身でありながら、不思議に穏やかな気持ちを感じる。
木連の勢力や技術、今後の作戦や組織について尋問されるのではないかと思っていたのに、ナデシコのクルーは誰一人それらのことを直接聞いてこない。
あるのは純粋にこちらの事実を知りたいという気持ち、それだけだ。
頑なな抵抗は影をひそめ、彼らに木星の真実を知ってもらいたいという考えに変わって行った。

彼は重たい口を開く。
「凡そ100年前のことです・・・」





白鳥九十九少佐が語ったことは、概要で地球側の非公式資料と同じだった。
月での独立運動、独立派が軍の介入により追放されたこと。
惑星改造が終わっていた火星へ向かった彼らを待ちうけていたのは、国連宇宙軍であったこと。
当時のシャトルから成る船団では、シャトルに簡単な武装がついただけの宇宙軍とは言え、敵うはずもなく、木星方面へ進路を変えたこと。
そして、ここから先は彼らのみが知る、地球からは窺い知れない歴史だった。
木星へ向かったシャトル船団は、絶望の淵にいた。
人類が生息できる最果ての地、火星に降りられなければ後は飢えと渇きでのたれ死ぬか、精神崩壊を起こして自滅するかのどちらかしかない。
『こうなったら敵わぬまでも、宇宙軍へ突っ込んで、シャトル1隻でも火星へ降りられることに望みを賭けよう!』
『最後の我々の意地を見せてやるべきだ!地球へ突撃すれば、一般人も我々の存在を知るはずだ!』
そんな過激な意見も出される中、彼らは木星圏に入った。
木星のリングを避け、接近するに従って、木星のその人類を拒絶するかのような表情に恐怖と絶望がいや増しに増して行く。
高レベルのエネルギー粒子が荒れ狂う磁気圏は広大に広がり、ここで生命体が存在することは不可能だと思われた。
100隻のシャトルに分乗した約20,000人の独立派は、ここで全滅を覚悟したのだ。
長く伸びた隊列を引き摺るようにして、彼らはそれでも一縷の望みに縋って、木星の引力に引かれて行く。
その時、先頭のシャトルが見たものは。





「古代の生産工場でした・・・」





全く未知の技術であったため、何に使うのか、どう使えるのかはわからなかった。
が、座して死を待つことを肯んぜず、彼らはそのプラントの解明に乗り出した。
木星の大気中に浮遊するプラントの他にも、イオやガニメデなどの衛星には、浮遊せず地についた工場も存在した。
技術の基礎理論は解明できなかったものの、多大な犠牲と時間を割いて、彼らはようやく使途を発見した。
そのプラントは木星の大気中に浮遊する巨大な相転移炉工場だった。
中には軍事技術ではなく、ナノマシンを用いた惑星改造、主に大気の生成などに利用できる技術も含まれていたのだ。





「我々の先祖は狂喜しました。これで生き延びられると。そして」



「これで地球に復讐できると」





技術を利用して衛星にコロニーを作り、ガニメデ・カリスト・エウロパの3つの衛星に大気を生成した彼らは、その3衛星と宇宙空間に作った宇宙コロニーで一つの国家を作り上げた。
圧倒的に人口が少なかったことに危惧を感じた彼らは、人口増加こそ国力の上昇に繋がる、と早婚と出産を奨励した。
女性は子を産む存在として尊ばれ、狭いシャトル内で強姦などの事件が起こった反省から、刑罰は厳しいものとなり、教育の段階で思想統制が採り込まれて行った。

努力が結実するまでは長期間を要したが、この100年で人口増加率は100年間で平均2.8%という驚異的な数字を記録し、地球圏の小国家くらいの国力を身につけるに至った。
いや、古代技術を考えれば、地球圏そのものと匹敵するであろう軍事力を身につけたのだ。
が、爆発的な人口増加を成し遂げたとはいえ、最初の基準となる人口が少なすぎた。
兵力の絶対的不利は確実であり、彼らは古代プラントにあった無人兵器を活用することを考えたのだ。
こうして国家体制、戦備を共に整えたが、心配だったのは、不足しがちな食料と、古代プラントの稼動年数及び限界であった。
幾つかのプラントは既に使用不能となっており、修理しようにも基礎技術が不明なものをどうすればいいのかわからず、ただ廃棄処分にするしかなかった。
このプラントが全て稼動できなくなった時、彼らは再び滅亡への道を辿ることになる。
古代技術で望遠観測すらもジャミングしているとは言え、地球側もいつこちらに気がつくかわからない。
プラント依存体制からの脱却、生産可能地の必要性、これらが火星への侵攻を決定したのである。





『・・・火星へ攻め込んだのです。我々の正義を貫くために』
コミュニケを通じて、全艦に流される映像を見て、ヤマダは小さく呟く。

「正義・・・か」

手にした超合金ゲキガンガー3を眺め、それから彼の青いエステバリスを見る。
「・・・敵は倒す。地球を守る。それだけじゃだめなのか・・・」





アキトとルリは、ブリッジでその様子を眺めていた。
「アキトさん」
「何?」
「正義って、何ですか?」
アキトは背後のオペレーターシートを見つめる。
ルリの表情は冗談を言っているものではない。

「俺の考えでいいの?」
「はい」
少し考えて、
「善悪の基準以前のもの、かな」
「・・・・・・」
ルリは何も言わない。
アキトが尋ねてルリが答える、そんな関係が逆転していることに苦笑しながら、アキトは続ける。
「全てのことが善悪で片付けられれば楽だけどね。正義なんて結局それぞれの道徳観程度のものだと思うよ」
「アキトさんは、それで納得できるんですか」
「じゃあ、木星人を皆殺しにすれば、問題が解決するとルリちゃんは思う?」
逆に問い返され、ルリは返事に窮する。
「繰り返すだけじゃ、何も進展しないよ。犠牲になった人たちが望む結果が何か、そんなことはわからない。でも、少なくとも戦争を望んでいたとは思えないよ」
「でも、相手は私たちの不幸を望んでいるかもしれません」
「そうだね。だから俺たちは戦ってる。相手の事情を汲むことと、自分の幸せを守ることは別だから。だけど、敵の正体が不明、何だかわからない、ってのよりはマシになったんじゃないかな。人である限り、わかり合える可能性はゼロじゃないから」
ルリが、そうなのかな、と考えてる間に、ウィンドウの様子は変わっていた。





「はいは〜い、質問!」
重い雰囲気を壊したのは、ヒカルの場違いに明るい声だった。
「何でゲキガンガーなの?」
皆、忘れていた、というように改めて九十九の戦闘服(?)を見て、返事に期待する。

「ああ、聖典ですから」
「はい?」
「木連の若人は皆、ゲキガンガーで育ちます。我々の理想なのです」
「はあ」
「じゃあさ、ヤマダ君とは気が合うかもね」
「・・・ヒカル、お前その状況想像して言ってるのか?」
「う〜ん、想像はしたくないですよね〜、ミナトさん」
「そお?面白そうじゃない」
「ジュン君、ゲキガンガーってどんな話なの?」
「ユリカ・・・僕に聞かないでよ・・・」

「はいはい、それはそれとして。取り敢えず白鳥さんの今後の扱いなんですが」
流れを戻したのはプロスだった。

「それは・・・連合軍に引渡し、しかないですよ」
「え〜、でも軍人なんかに引き渡したら何するかわからないですよお」
「いや、まさかボソンジャンプの人体実験なんかはできないし」
「でもさ、拷問くらいはするかも知れないわよ」
正当な意見を述べるジュンに、ミナトとメグミが反対する。
軍の存在意義にまで話が発展している3人に対し、ユリカは黙ったまま、考え込んでいる。

「艦長、いかがしますか?」
プロスの言葉にも、腕を組み、目を閉じたままだ。
「ユリカ、気持ちはわかるけどどうしようもないよ」
「艦長、ナデシコは軍艦じゃないんですよ」
両方の意見を黙ったまま聞き続ける。
不意に目を開くと、じっと九十九を見つめ、おもむろに言った。
「ナデシコは軍に所属していません。また、木連と地球の間に捕虜交換条約も存在しません。軍とアスカ、上の話し合いで決められることです。アスカ社員である私に決定権はありません」
何かを言おうとする3人を、手で制して続ける。
「ナデシコはあと2時間で、ウィテロ基地に到着します。それまでにアスカの決定が出るでしょう。皆さんは持ち場に戻ってください」
いくら民主的な決定方法を持つとは言え、ナデシコの最高責任者の言うことには従わざるを得ない。
その場はユリカが締めて散会した。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




34 Justice and GEKI-GANGER

「いいのですか、艦長」
黙って微笑むユリカの視線の先には、ナデシコのシャトルが映っていた。








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《あとがき》

ゲキガンガー。
あんまり絡めたくないです。
と、言うのも、あれが劇中アニメとして重要な位置にあることはわかってるんですが、

『暑苦しすぎる』

と言うわけで、ヤマダと木連の心中にのみ存在させておこうか、と。
彼らの価値基準としてはちゃんと存在させますので。
ゲキガンガーファン(?)の方、それでお許しください。

さて、『外道及びその被害者』シリーズできたキャラコメ、
「び〜だっしゅ」で逃避行した後も続くのか?!

結果は ↓

b83yrの感想
いっ、いかん、逃避行してないで、ちゃんと感想書かなくては(汗)
ゲキガンガー・・・確かに暑苦しいかも
ギャグで絡める分には良くても、シリアスやろうとするとどうしても難しいものが

では、今回の『被害者』さんは、『頑張れ、ユリカさん』から、被害者ナンバー1及び4番、ホシノルリさんです♪
「どうも(ぺこり)」
おおっ、今までで1番マトモな反応かも
「そうですか?、私は一番おかしな反応だと思いますけど(苦笑)」
えっ、そうかな?
「だって、普通の女の人は怒ります、3股なんてかけられたら」
たっ、確かに(汗)
「しかも、アキトさんの事を『外道』とか、私達の事を『被害者』とか」
えっ、え〜〜と、内心怒ってます?(汗っ)
「いえ、怒ってません、言われても仕方の無い関係ですし(苦笑)」
(心底)ほっ
「でも、こういう関係の事を冷静に話せる私って、『壊れルリに見えない壊れルリ』ですね、やっぱり(苦笑)」
確かに(苦笑)
「それと、らいるさんにお礼を」
お礼ですか
「はい、こちらのユリカさんはアキトさんに恋愛感情を持っていないし、これならこちらの私とアキトさんが結ばれても、ユリカさんが泣かずにすみますから、本当にありがとうございます、らいるさん(ぺこり)」

・・・・・こっ、今回はギャグが無い・・・・

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