「カキツバタより入電。相転移エンジンの出力低下、相転移砲使用不能・・・」
報告するメグミさんの声にも、力がありません。

作戦開始より8時間、1400時。
ナデシコがタウルス山脈の裾野で戦闘に入ってから、1時間。
予定よりかなり遅れて、カキツバタが姿を表しました。
けれど、それは満身創痍といった表現が似合う姿で。
月宙域の戦闘で、カキツバタがチューリップよりジャンプアウトした時もそうでしたが、火星で目を付けられてから集中攻撃を受けているようです。
ディストーションフィールドは健在ですし、完全に停止したのは相転移砲で使用するエンジンのみのようです。
本体2基の相転移エンジンは出力が落ちているものの、なんとか戦闘には耐えられそうね。

ナデシコはエステバリス隊のフォーメーション変更が効いたらしく。
確かに、リョーコさんの指揮は安定しています。
山脈西裾から、ウィトルウィウスのクレーター付近まで敵を押し退けた、まではいいんだけど。
本隊がまだルモニエのチューリップに手間取っているので、援軍の見込みはなし。
月の裏側を制圧した、シャクヤクを含む第2艦隊主力も攻撃に参加していますが、チューリップの防衛ラインをなかなか突破できません。
第2陣が西から、艦隊主力が北から、こじ開けようとはしているんだけど、敵も最後のチューリップということで、相当粘っているみたい。

「カキツバタの相転移砲が使えないとは・・・当てが外れましたなあ」
プロスさんが、さもがっかりしたように言うと、艦長は、
「そうですね。でも、今はカキツバタと協力してこの艦隊を撃破することだけを考えましょう」
さすがに士気に影響するような態度は採りません。
普段はばかやってるけど、戦闘時は頼りになりますね。
「ルリちゃん、ハッキングの状況は?」
「10分待ってください。解析終了したところです」
「カキツバタよりエステバリス隊発進。・・・艦長!」
「へっ?!」
油断していたのか、地が出てしまいましたね。
打って変わったような笑顔で報告するメグミさん。
「カトレアが降下を開始、主力艦隊が北部防衛ラインを突破しました!」
途端に、ブリッジクルーの表情が明るくなります。
月上空でチューリップの飛来に備えていたカトレアには、相転移砲が積んであります。
後は・・・。
「第2艦隊がチューリップを叩くのが先か、ナデシコが沈むのが先か・・・」
プロスさんの呟きは、切実な響きでクルーの胸に染み込みます。
けれど、沈むでもなく、逆にパイロットは活気付いたみたいですね。

『おっしゃ!やってやるぜ!テンカワ!援護しろ。前衛に詰めるぞ!』
『了解!』
『ヤマダ、ヒカル、もっと出ろ!後ろは気にすんな!』
『おう!』
『りょーかいっ』
『イズミ、いけるか?』
『ふふ・・・守って見せるわよ。安心しなさいって』
『おし!フォーメーションCからFへ、各自残弾数確認怠るなよ!』
『了解!!』

気合を入れ直して、敵の無人兵器群へ突撃していきます。
木星蜥蜴(蜥蜴、でいいのかな)もナデシコがここで待っていたとは思わなかったのか、カキツバタを待ち伏せしてタウルスからの艦隊と挟撃するはずが、逆にカキツバタとナデシコに挟撃される形になって、プログラムが乱れているようです。

それにしても・・・。
旗艦へのハッキングがなかなか進まない。
いい加減苛々してきたところに、



「前方50Kmにボース粒子を検出!どうして?!」
メグミさんが叫び声のような報告をします。
私も思わず、ハッキングの手を止めて、ブリッジのウィンドウを見つめます。

センサーが捉えたのは、テニシアン島で見たゲキガンガー。

「また、あれか・・・」
副長が呟き、
「チューリップもないのに・・・どうやったんでしょうなあ・・・」
プロスさんも独り言のように言います。
でも、イネスさんの説明では、C.C.があればジャンプはできるはず。
無人兵器は意思が存在しないから、チューリップという出口が必要。
でも、人間だったら。
現にアキトさんはボソンジャンプできます。
すると、あのゲキガンガーには・・・。



『乗ってるわね。人が』
コミュニケを通して、イネスさんがブリッジに現れました。
「・・・やっぱり、そう思いますか」
艦長が問い掛け、それでもまだ信じられないように、
「でも、生体ジャンプは・・・」
『それは地球側の研究での話。木星側が成功していたとしても不思議ではないはずよ。アキトだってジャンプしているじゃない』
「それはそうですが・・・」
『まあ、捕獲すればはっきりするわ』
イネスさんの言葉に、艦長が決断しました。
「リョーコさん!」
『わーてるよ!ゲキガンガーはテンカワに任せろ。全機テンカワ機を援護!フォーメーションD!』
「ルリちゃん、ハッキング急いで!」
その声に、副長が猛烈な勢いでオペレーションに集中し始めます。
グラビティブラストを連射し、ナデシコは周囲の無人兵器をなぎ倒しながら、前進。

エステバリス隊もゲキガンガーへ向かい、もう少しというところで。



『ちくしょうっ!間に合わなかったか!』
リョーコさんの無念そうな声が通信から流れます。
ゲキガンガーの腕は、カキツバタのエステを貫いていました。
「パイロットは?!」
副長が立ち上がって、大声をあげます。
「生体反応はあります。アサルトピットからは逸れているようです」
「メグミさん、あのエステに通信介入できる?」
「・・・・・・いえ、艦長、向こうから・・・」
「えっ?!」
皆が驚きの視線を向け、メグミさんが通信回線を開きます。





画像は出ませんが、声がブリッジに流れます。



『私は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体突撃優人部隊少佐、白鳥九十九である』





はい?

木星人、とか木星軍じゃ駄目なわけ?





「やっぱり、ほんとだったんだ・・・」
メグミさんの呟きが、静かなブリッジに流れます。
むろん、誰もそれには答えられず。
ブリッジクルー全員が、目の前のスクリーンに見入ってる。
『AESTE06:KAKITSUBATA-02』
中継機はカキツバタ搭載の月面フレーム、エステ02。
それを人質に取った状態、いえ、盾にした状態でカキツバタとナデシコの間に立つゲキガンガー。

『我々木連は無益な殺戮を好まない。大人しく武装解除に応じて欲しい・・・』


「まずいですな。カキツバタだからまだ手を出していませんが、軍が来たら躊躇なく見殺しでしょう」
「・・・そうですね。軍がこなくても、ここまで来たら・・・」
副長、やっぱりあなたが一番軍人に近いですね。
まあ私も、反対はしませんが。
作戦は成功しそうなんですから、ここで一機のエステのために引き下がるなんてことは戦略上からも戦術上からも容認できません。
だからと言って、以前の私のようにそれが当然だとも思えないんですが。今では。

「・・・カキツバタの月面フレームとの中継維持に全力をあげてください。ルリちゃん、ディストーションフィールド出力状況を」
相手の要求内容を考える冷静さも失っていたクルーが、艦長の一言で我に返りました。
「フィールド出力、100%で安定」
「メグミさん、こちらからの通信はできる?」
「無理です。カキツバタに向けられた通信に無理やり介入してますから、音声拾うので精一杯です」
「カキツバタに通信繋げて」
「はい」
「7時の方向、アルケシア方面より敵艦影をキャッチ」
「イズミさんを回して!」
「通信、開きません!」
「ええっ?どうして?!」
「ジャミングされているようです。ナデシコとエステの通信回線確保しかできません」
メグミさんが肩を落とします。
早く私がハッキング成功させなければなりませんね。

「あのエステはどうするの?」
ミナトさんの質問は当然かも知れません。
カキツバタがどう動くかわからない以上、最悪の事態を想定しなければ。
でも、ゲキガンガーの捕獲とエステの救出、これを同時に行うのは困難です。

きっと今のブリッジで明確に方針を打ち出せるのは、私と副長だけ。
でも、ここはナデシコですから。
私と副長の考えを言葉にするのはこの状況じゃちょっと、ね。
やはり艦長の決断は必要です。

艦長も、少し考え込んでいましたが、
「ルリちゃん、敵の武装分析できる?」
「それは無理です。ネルガルなら持っているかも知れませんが」
即答する。
「そっか・・・」
残念そうに呟く艦長の眼前に、突然、ウィンドウが現れて。
「ひゃっ!・・・・・・って、イネスさん?」
『艦長、アキトがジャンパーだってこと、忘れたの?』
「ああっ!」
「・・・あっ」
私まで忘れていました。

『アキト、あなたも忘れてたでしょう』
『あ、その・・・』
『言い訳はいいわ。行きなさい。艦長、いいわね』
「あ、はい。オッケーです!テンカワさん、カキツバタのエステの救出とゲキガンガーの捕獲、お願いします」
『了解!』

言ったかと思うと、ミルトニアのジェネレーターである、可変ウィングの間のバックパックからC.C.が放出されます。
いくらアキトさんでも、機動兵器をジャンプフィールドなしにジャンプはさせられません。
青い光に包まれたかと思うと、次の瞬間にはゲキガンガーの背後に、ミルトニアの機影がありました。
『もらったあっ!』
叫びながら、実体化するや否や背中にフィールドランサーを突き刺します。
その隙にリョーコ機が素早くエステを救出。
と、巨大な機体が揺らぎ、開きっ放しだった音声が、小さく悲鳴をあげます。
『お、おい・・・冗談だろ?』
刺した場所が良かったのか、悪かったのか。
小規模な爆発を連鎖させ、ゲキガンガーが崩れ落ち、頭部が射出されます。
「あの頭を逃がさないでっ!」
艦長の声に、呆気に取られていたアキトさんが、飛び上がります。

結果を確認する前に、敵影確認がなされました。
「アルケシアからの艦隊より人型兵器の発進を確認!ゲキガンガーです!」
「また?!」
いよいよハッキングが急務です。

狙うのは敵の大型戦艦、ゲキガンガーの母船と思われる船。


・・・・・・・

「カキツバタとの通信、回復しました!」

・・・・・・・

「グラビティブラスト発射!」

・・・・・・・

「ゲキガンガー、数確認!3機です!」

・・・・・・・

「ミナトさん!距離を取ってください!」

・・・・・・・

「回避しきれない!」

・・・・・・・





・・・見つけた。

「艦長、ハッキングに成功しました」
1つ成功すれば、後は同じ要領。
新たに出現した戦艦にも同様にハッキング。
「おお・・・」
「動き、悪くなったね」
「あ、でも、ゲキガンガーは変わらないみたい」
「人間、だからね」

『ゲキガンガーって言うなあああ!』
ヤマダさんがフィールドランサーで突っ込んでいきます。
『だ・か・ら!フォーメーションってもんを知ってんのか!おめーは!』
後を追うリョーコさん。
さすがに人型兵器の母艦だけあって、苦労しましたが、成功すればこっちのもの。
マニュアルに切り替えたようで、動きが目立って鈍くなります。
どうやら母艦にも人間が乗っているみたい。

エステバリス隊が無人兵器をぼこぼこにして、ナデシコの射線を確保。
後はグラビティブラスト撃ち放題。

「テンカワさんは?」
『ああ、つかまえた。これより帰艦する』
「テンカワさん、無事でよかったです。ありがとう」
『え、い、いや・・・』
アキトさん、幾ら余裕ができたからって、何赤くなってるんですか。
まったく、もう。

「後は掃討戦です。できる限り捕獲するようにして下さい」
艦長の指示を追うように、朗報が入ります。
「艦長!カトレアがチューリップ撃破に成功!月面を奪回しました!」
ブリッジが歓喜に湧きます。



こうして、第5次月面奪還作戦は成功しました。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




33 Recapture, ascendancy, and human beings.

捕獲したのは1機で終わった。全速で離脱する敵艦を追う余力はなく。
作戦開始から12時間、1800時。ナデシコはウィテロ基地へ帰還した。











次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


《あとがき》

ようやく作戦終了ですね。
戦闘シーンはこのくらいでちょうどいいんじゃないかと。
はやいとこナデシコの日常に戻りたいもので。
(言い逃れ?)

b83yrの感想
銭湯・・
戦闘シーンはこのぐらいで丁度良いんじゃないでしょうか
実際の問題として、あんまり専門用語が飛び交うような戦闘シーンが長く続くと、解からない人は疲れちゃうし
戦闘シーンで大切なのは、緊迫感とわかり易さの両立じゃないかと思ってる私
さて、今回のゲストは
まあ、順番的に予想してた人も多そうな、『頑張れ、ユリカさん』から、外道なアキト君の被害者その3〜〜〜
ラピス〜〜〜

し〜〜〜ん

あれっ?
お〜い、ラピス〜〜
「すいません、ラピスって人見知り激しくて」
あっ、アキト君・・って、なんでラビスはアキト君の後ろに隠れて人を疑わしそうに見てるのかな?
いや、疑いの目って言うより・・・
「いっ、いや・・言って良いですか?、凄く言いにくい事なんだけど」
・・言ってみてください(汗)
「b83yrさんって、色々と悪い噂が絶えなくて、すっかり怯えているんです、貧乳好きとか幼女趣味とか・・・それで、すっかり北辰辺りと同一視するようになって(汗)」

・・・・・・・

ひっ、貧乳好きでも幼女趣味でもないやいっ!!
それに北辰と同レベルかいっ、わたしゃ(涙)
うわ〜〜〜〜〜〜ん(T_T)<ダッシュ
「あっ、び〜だっしゅ・・・・」


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送