「敵戦艦、ルモニエの本隊と接触、戦闘に入りました」
メグミの報告が響く。
続いて、ルリが戦況マップを出しながら静かに言う。
「射程まであと1分」
「ナデシコはこれより本隊に攻撃中の艦隊背後から攻撃します。エステバリス隊発進、ディストーションフィールド出力最大、グラビティブラストチャージ!」
『了解!』
エステバリス隊が右舷ハッチから飛び出す。
ヤマダ、リョーコの機を先頭に、続いてミルトニアのアキト、ヒカルが、最後に遠距離用装備でイズミがナデシコの直上に回る。
「ルリちゃん、敵勢力は?」
「戦艦80、無人兵器800が本隊正面にて交戦中。チューリップよりまだ出てきています。本隊はチューリップから200Kmの地点で足止めされて進めません。背後からの艦隊戦力は戦艦30、無人兵器600」
「メグミさん、カキツバタは」
「接触まで約2時間の予定です」
(間に合う、かな・・・)
ユリカはルモニエ周辺の地形を浮かべながら、思った。





「やれやれ、またかよ・・・」
アキトはミルトニアでぼやいた。
「まあったく!先行と俺たちがこんなに離れてどうすんだよ。・・・ヒカルさん!」
『はいは〜い。いいよ』
先行して大乱闘を繰り広げる、ヤマダ、リョーコの2機との間を詰める。
前方の無人兵器はラピッドライフルで撃ち落し、周囲から群がってくる分はスラスターを小刻みに吹かしながらやり過ごし、なるべく方向転換に時間をとられないようにして射撃する。
「ヤマダ!リョーコさん!もっと下がって!」
背面センサーが警告を発し、瞬間、機体を左にずらして脇を抜けて行くバッタを殴りつける。
「ちっ!おい、ヤマダ!」
『わーったよっ!下がりゃいいんだろ、ったくこれからがゲキガンガーの・・・』
エネルギーライン有効範囲ぎりぎりにいた2機を下げると、ようやく安心する。
「はあ・・・プロスさんじゃないけど、これじゃ胃に穴が空いちゃうよ。・・・誰だよ、戦闘指揮を交代制にしたの」
『まあまあ、次は代わるからさ』
ヒカルがウィンドウを出して苦笑する。
「そうして貰えると助かるけどね」
アキトもつられて笑う。
この程度の戦力ならば、ナデシコとイズミの援護射撃があるので、比較的余裕のある戦闘ができる。
しかし、先行2機に近づくのに、ライフルに頼りすぎたらしい。
残弾数が50発を切り、表示が赤くなる。
「やべ、リョーコさん、残弾数どれくらい?」
『おう、まだ500はあるぜ』
「ヒカルさんは?」
『いけるよ、大丈夫』
「済まないが、俺は戻る。戦闘指揮はヒカルさん、宜しく」
『は〜い、約束だもんね』
『なんだよ、テンカワ。お前もライフルに頼らねえで、ゲキガンガーをだな・・・』
「メグミさん、テンカワ機帰還する。ウリバタケさん、用意お願いします」
ヤマダを無視すると、リョーコが後退してヒカルと組むのを見届け、ナデシコへ後退していった。



ブリッジは楽観的なムードに包まれている。
ただ独り、ユリカを除いては。
「ジュン君、本隊正面の敵は叩けないね」
「え、こっちが押してるよ、ユリカ」
「ううん、見て」
ユリカの指が、タウルス山脈を指す。
「この先、レーマークレーターの辺りまで、通常レーダーでは察知できそうもない地形が続いてるよ。ユリカだったらここには伏兵を置くけど」
「・・・なるほど、攪乱剤使われたら更に電子戦が厳しくなるね。そうか・・・じゃあ」
ジュンが納得してユリカを見る。
ユリカは明るく笑っているが、心なしか口調が早い。
「うん。早く行かなきゃね。カキツバタへの援護が間に合わなくなっちゃう」
そう言って、第2フロアへ指示を出す。
「ルリちゃん、グラビティブラスト、広域発射。拡散モードにしてランダムに攻撃。一気に片をつけましょう」
「了解、メグミさん」
「任せて。エステバリス隊、ナデシコからのグラビティブラストに注意してください。射線データ送信します」
「オモイカネ、よろしく」
《任せて。グラビティブラスト発射パターン、ノーマルからAへ》
「イズミさんも第2ラインまであげてください」
ユリカに即答しながら、メグミは報告を同時に行う。
「了解。イズミさん、ヒカルさんと合流願います。艦長、アキトさんが帰還しました」
イズミがナデシコの前方へ移動するのと同時に、ウィンドウに格納庫へ入るミルトニアが映る。
それを横目で確認したユリカは、間髪いれずに指示を飛ばす。
「補充終了後出撃。後10分で片づけます」
戦艦は残るところ2隻のみとなった。
今更ハッキングの必要もない。
恐らくアキトのミルトニアが出撃する前に、終わってしまうだろう。

状況を分析したユリカは、その先の指示を忘れなかった。
「ミナトさん、敵戦力殲滅後、西南より本隊後衛部を回り込んでポイントC-15へ。タウルス山脈にカキツバタが到着する前に策敵を完了させます」
「気が早いのね」
コンソールに細い指を走らせて、ルリから回された航行データを入力しながらミナトが答える。
「用心はしないよりし過ぎた方がいいですから」
にっこりとユリカが微笑んだ瞬間、戦力表示の赤い文字が0を指した。





格納庫では。
「なあ・・・やっぱりこの交代制の隊長止めようよ」
アキトが脱力しながら提案する。
「それはこの俺にケン役を譲るってことだな!」
「バカは放っておいてもいいんじゃないかしら」
「そだね〜。リョーコは?どう思う?」
ヒカルがリョーコに尋ねる。
「別に。俺はどっちでもいいぜ」

そもそも機動兵器はナデシコの主たる兵装ではない。
攻撃の中心はあくまでもグラビティブラストであり、エステやミルトニアはナデシコの薄い防御を補助し、北極海で行ったように電子戦が困難な場合に先行偵察をするための兵器と言える。
月面作戦での行動は、前線が無人兵器と戦艦の攪乱、中衛が打ち漏らしの始末、後衛が完全にナデシコの防御専門。
の、はずなのだが。

エステバリスは4機、ミルトニアが1機。
この編成自体が特殊なこともあるが、フォーメーションが確立していない。
いや、フォーメーション自体は存在するが、ヤマダとリョーコを先行させると、突出しすぎてフォーメーションもへったくれもなくなってしまうのだ。
前衛が突出することによって中衛が前進せざるを得ず、ナデシコからのラインが間延びしてしまう。


現在はイズミが長距離攻撃カノンを追加してナデシコの防御にあたり、ヤマダとリョーコが先行偵察と簡単に言えば『殴りこみ』。
前線の2機を繋ぐのがアキトのミルトニアとヒカル。
アスカに所属する前から、このフォーメーションが固定されている。
どうという理由もなく、各自の得意な攻撃パターンからなし崩し的にこうなっていたのだが、本来は機動性に優れ、ジャンプが可能なミルトニアが前線で撹乱するべきだ。
アキトが抜けた穴には、リョーコが本来のポジションに戻るだけでいい。
そう考えて、
「・・・ってフォーメーションの方が、宇宙戦ではいいんじゃないかな」
とアキトは言うが、思わぬところから反論が出た。

「いや。今の形が最高だな」
突然の声に驚いて、後ろを振り返るパイロットたち。
ウリバタケがスパナ片手に、5人に近づく。
「セイヤさん・・・どうしてです?」
「いや、ちと変えるくらいだな」
アキトの問いに、ウリバタケが少し訂正を入れて答える。
「まあ、整備士の俺が口出すのもお門違いかも知んねーけどよ。機動性から言ってもミルトニアが中衛にいるのは避けられん。援護に向かい易いからな。テンカワとペアになるのはヒカルちゃんかリョーコちゃんだろう。ここは変えどころだと思うぜ」
「何でだよ」
リョーコの口調が尖ったように聞こえるが、彼女自身にそういった意識はないのだろう。
「恐らく戦闘指揮能力はテンカワよりリョーコちゃんのが上だ。諜報部員と正式な教練を受けたものの違いかも知れんがな。だが、リョーコちゃんが前衛にいる以上、戦場全体を見渡した指揮は執れねえよな?」
「うーん、まあ、確かにな」
前線での戦闘能力にけちをつけれらるのかと思っていたリョーコだったが、そうではないことに気づいて、素直に頷く。
「じゃあ、リョーコと私がチェンジってこと?」
「結婚式のクライマックスね」
「はあ?」
アキト、ヤマダ、ウリバタケが一斉に声をあげる。
リョーコは頭を抱え、ヒカルはどこ吹く風といったようにあらぬ方を見つめる。
「指輪の交換・・・チェンジ・・・ふっ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・あの、説明、続けていいか?」

「・・・はっ!」
アキトが危険な台詞を耳にして、辺りを覗う。
どうやら要注意人物はやって来ないようだ。
その姿を見て、他の4人もはっとしてきょろきょろし始める。
「どうした?テンカワ」
ミーティングから外されることの多いヤマダが、事情を飲み込めずに尋ねる。
「いやね、姉さんが・・・」
「呼んだ?」

「うおわあああっ!」
全員が飛び退く。

「ど、どうして・・・」
「・・・どこで聞いてたんだ?」
「・・・・・・び・・びっくりした・・・」
「・・・姉さん、・・・やっぱいい」
「何よ、アキト。あなたたちが呼んだじゃないの」
しれっと言うイネスに、声を失う5人。
そんな様子を全て無視して、イネスの独壇場が始まる。

「で、戦闘フォーメーションの話ね。リョーコちゃんは元々近接戦闘オンリーじゃないし、前衛のままでいると、ヤマダ君のフォローでかえって持ち味をなくしてしまうわね。だったら近接フォローが得意なヒカルちゃんをヤマダ君と組ませた方がいい、と。それに、アキトは人を使うのは向いてないし、ミルトニアの機体性能から言ってもリョーコちゃんのフォローの方がいいわね。中衛でアキトのフォローがあれば、リョーコちゃんも余裕を持って戦闘指揮が執れるでしょう。アキトとヤマダ君のペアも考えられるけど、アキトを前衛に回せない以上、ヤマダ君を中衛に下げるよりは前衛で敵を撹乱させた方が使い道としては効率的よね。それに、リョーコちゃんなら、エステの機動性を最大限に引き出して、アキトのミルトニアと息を合わせられるだけの適応力を持っているでしょうけど、ヤマダ君、あなたには無理よね。そう考えれば、ヤマダ・ヒカルの前衛、アキト・リョーコの中衛、あら、これがルリちゃんに聞かれてたら変な誤解を受けそうね。まあ、いいわ。これだけ『説明』すれば、最高の組み合わせであることがあなたちにも理解できるでしょう。イズミさんの位置は変わらないわね。あなた以上の正確さで遠距離攻撃ができるパイロットはいないし。とまあ、そういうことよね」

「あ、ああ・・・(俺の台詞が・・・)」
うな垂れて仕事に戻るウリバタケをよそに、すっきりした表情でイネスは、
「じゃ、そういうことで。また何かあったら『説明』と言ってちょうだい」
そう言って爽やかに去っていった。

後に残されたパイロットは。

「・・・・・・アキト君って、あれに毎日耐えてたんだ・・・」
「・・・ふっ」
「テンカワ・・・見直したぜ」

「・・・どうも・・・」

ヤマダは脳のCPUがついていけなくなったらしく、燃え尽きていた。



「ええ、構いませんよ。エステバリス隊のフォーメーションは、戦闘班で決めて下さい」
ユリカはアキトから報告を受けて、新しいフォーメーションを追認した。
「でも、テンカワさん、どうしたんです?なんか、やつれてません?」
『い、いえ、別に・・・はははっ、じゃ、まあ、そういうことで』
「はあ」
消えたウィンドウの前で怪訝な顔をするユリカと違って、ルリはその原因に思い当たっていた。
「アキトさん」
『何?ルリちゃん』
「イネスさんですね」
『はは・・・はあ』
「もう・・・エステのフォーメーションについては私が『説明』しようと思っていたのに・・・」
ルリの小声に、アキトは敏感に反応する。
『へっ?!ル、ルリちゃん・・・?』
しかし、それには答えずに、なにやらぶつぶつとイネスへの文句を言うルリを見て、アキトはこっそりと通信を切り、大きく溜息をついた。



「次の戦闘は恐らく、激戦になります。以前の月宙域での戦闘と同等の激しさになるでしょう。皆さん、準備を怠りなくお願いしますね」
言葉の内容とは裏腹な明るい口調で、ユリカがナデシコ全艦に渇を入れる。
ミナトとメグミがびくつきながら様子を眺めていたルリも、その声で我に返る。
「ルリちゃん、エステバリス隊へのフォローとハッキングに全力で当ってね。艦内制御と火器管制はジュン君に渡しちゃっていいから」
「えっ?!・・・僕がやるのか・・・あれ、大変なんだよなあ・・・」

「ミナトさん、操舵は任せます。周辺状況から最善の航路をお願いします」
「おっけー。お任せ」
「プロスさんには私のお手伝いをお願いしてもいいですか?」
「戦況分析ですな。やりましょう」
「メグミさん、ナデシコ艦内とエステ、カキツバタとカキツバタのエステバリス隊との通信確保、絶対に途切れないようにして下さい。これからの戦場で味方はカキツバタだけですから」
「了解です」
「ルリちゃん、ここから先、電磁波利用のレーダー使える?」
「遮蔽物が多すぎます。地形的に見て困難ですね。熱源探知とX線他幾つかのセンサーのみです」
「では、策敵プローブ射出。メグミさん、ちょっときついけど、お願いね」

次々と指示を出す。
それらの指示が終わらないうちに、敵艦隊が現れた。



「総員戦闘配備!エステバリス隊、発進!」
ユリカが戦闘開始を告げた。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




32 Preparation

作戦開始より8時間。ナデシコはカキツバタと合流した。
ウィトルウィウス付近でナデシコが見たもの。それは。










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《あとがき》

ふう。
戦闘シーンから逃げまくってるワタクシ。

お詫びと訂正。
  1. 第29話  批難命令>避難命令
  2. 月面奪還作戦・月面奪回作戦の混在

以上ですう〜(光○の、決○Uより月英さん)

すいませんでした。

これが更新される頃にはカウンター30000いくかなあ。いくといいな。


b83yrの感想

なんか、イネスさんの『悪』影響受けてそうなルリ(汗)

戦闘シーンか・・・ふっ、私なんてマトモに書いた事なんてないぞ<開き直り

さて、今回のゲストは

『頑張れ、ユリカさん』より、外道なアキト君の被害者その2、

 

「みなさ〜ん、私がアキトの被害者その2、ミスマルユリカで〜す、ぶいっ♪」

 

・・・・なんつ〜明るくて嬉しそうな『被害者』なのやら(苦笑)

それに、自分で言うなよ、自分で(苦笑)

「あはは〜、つい(苦笑)」

ちなみに、何故ユリカさんが被害者その2なのかと言えば、ルリちゃんの方が先だったから(笑)

「でも、嬉しいけど一寸残念だな、らいるさん格好良い私を書いてくれるけど、アキトとは一緒になれない訳だし」

まっ、まあ、その辺りはテンカワルリのファンサイトなんで、

あっ、そう言えばテンカワ・ユリカって名乗らないんですか?

「うん、だってあっちのSSじゃルリちゃんもラピスちゃんも、「テンカワ」なんて名乗ってないし、ユリカだけ特別扱いなんて嫌だから」

う〜ん、『ユリカさんヒロイン化計画』から路線変更したのに、なんか、ヒロインらしい発言(笑)

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