2198年2月14日、午前10時。
連合軍ヨコスカ・ドッグ。

改修を終えたナデシコ艦内に、アスカ・インダストリー社長の声が響く。

『・・・アスカ・インダストリーの試験戦艦として、我が社の軍事技術テストも行ってもらう。だが、全てはこの戦争に勝つため、地球圏の平和に役立つためということも忘れないで欲しい。企業として奇麗事だけで運用する訳ではないが、企業利益のみでもない。諸君の自主性は尊重しつつ、我々の利益と君たちの目標がうまく共存できることを信じている』

艦体番号AIX-001N。
基礎技術は残したままだが、グラビティブラストやディストーションフィールド、その他の応用技術を完全にアスカ・インダストリーのものに強化したナデシコ。
相転移エンジンは改良され、エステバリスも各パイロット毎にカスタマイズした、アスカのプロトタイプを積んでいる。
能力ではカトレアに勝るとも劣らない、最新鋭戦艦に生まれ変わっている。
後はそれを操る人間の能力が優劣を決める。

艦長はミスマル・ユリカ、副長アオイ・ジュン。
連合大首席と次席の頭脳が、ナデシコの作戦行動を指揮する。

階級が適用されるのはこの2人だけで、後は班制が敷かれ、各班長が代表するのは変わらない。
会計監査はアスカへ転職したプロスペクター。
艦内風紀維持や諸事務を担当するのも変わらない。
衣糧班、リュウ・ホウメイ以下10名。
ネルガルでは主計班だったが、アスカでは衣糧班として制服の支給や糧秣の管理等も行う。
整備班、ウリバタケ・セイヤ以下53名。
再出航時、既に彼の部屋は用途不明の機材で埋まっていた。
戦闘班は、スバル・リョーコ、マキ・イズミ、アマノ・ヒカル、ヤマダ・ジロウ、テンカワ・アキトの5名が作戦次第で隊長を交代で務める。
そして医療衛生班、イネス・フレサンジュ以下6名。

その他、生活班や補給班、設備班などはそのまま残され、制服も混乱を避けるために襟の立っているアスカの制服に変わったが、職域カラーは変更されなかった。



「艦長ミスマル・ユリカ以下総員214名、これよりアスカ・インダストリー所属、機動戦艦ナデシコの試験航海に出航いたします」
『うむ、試験の成功と航海の安全を祈る』
通信が切断され、ナデシコは出航する。





「機動戦艦ナデシコ、発進!」










ナデシコ艦内には発進早々、お祭り気分が蔓延していた。
「さあ、投票は本日19:00までだよー!オッズ表はこちら!」
何に浮かれているのかと言えば、『ルリはチョコをあげるのか』投票だった。
「あげない、10本」
「あいよ、1,000円ね」
「あ、私、義理チョコのみで22本下さい」
「はいはい、じゃ、こちらね」
整備班が中心となって出航直後から始まった投票には、ナデシコのほとんどのクルーが参加していた。

ちなみに、午後2:00現在のオッズは、

あげない=1.5倍
義理のみ=12.6倍
アキト=48.9倍
ジュン=2113.5倍
ウリバタケ=849.7倍
プロスペクター=52.2倍

と、まあここまでは割と身近なクルーが対象となっているのだが。

ミナト=22.3倍
メグミ=79.1倍
ユリカ=120倍
イネス=44.7倍

というのはちょっと。
というよりも、ミナトに負けるアキトもどうかと思うが。
いや、それ以前に、同じブリッジクルーでありながら、万馬券になっているジュンの方が問題かも知れないが。
当の本人は。
「ばか」





St.Valentine in Bridge.

「ユリカ・・・今年も期待するなってことだね・・・」
毎年のことながら、義理チョコ一つ貰ったことのないジュンが嘆く。
黙っていれば他の女性からは貰えたろうに、ユリカ一筋だったため、21年の生涯で一つももらったことがない。
その、ユリカは。
「う〜ん、だって160人にあげるわけにはいかないでしょ?」
義理チョコすら用意しないらしい。
「せめてブリッジクルーだけとか、各班長に渡すとかしないんですか?」
メグミが言うが、
「艦長ですから。特定の人だけと言うわけにはいきません、各班の代表だけでもね」
「ふ〜ん、結構ちゃんと考えてるんですね、艦長」
「うっ、メグミさん、もしかして私のこと、ばかとか思ってません?」
「もしかしなくても思ってましたけどね」

「私は全部用意したよ」
「ええっ?!」
突然のミナトの声に驚く2人。
「全部って・・・160人分ですかあ?」
「ええ、もちろん」
「それって、凄い金額になりますよね」
「そうでもないかなあ。板チョコ20枚を溶かしてちっちゃくまとめたから・・・」
「へっ?!」
間の抜けた声を出すユリカとメグミ。

「まあ、値段で言ったらディナー一回分くらいなもんかな」
「はあ・・・」
「また、随分けちりましたねえ・・・」
「ローリスク、ハイリターンが身上なの」
あっけらかんと言うミナトに、二の句が継げないユリカ。
ふと気がついたメグミがミナトに尋ねる。
「あの、ミナトさん?ハイリターンって?」
「もちろん、ホワイトデーの100倍返しのことよ」
「・・・そうですか・・・(こりゃ整備班には、たかれないなあ・・・)」





St.Valentine on the earth.

「うう〜ん・・・」

「か、課長!どうしたんですか、いったいっ!・・おい!担架だ、急げ!」
「これは・・・ネルガルの細胞兵器かなんかか?」
「わからん。だが・・・恐ろしい破壊力がありそうだな」

「ガイアがカオスより生まれ出でしより・・・ああ、・・・オリュンポスよ・・・汝の名はシレヌス、テッサリヤへ向え・・・」
「おい!やばいぞ、うわごとがおかしい!」
「・・・ああ、虚しく齢を重ねし者よ・・・天空の鎌にて首を掻き・・・おお、助けてくれ、この命を・・・」
「まずいぞ!ルバイヤートを唱えだした!」
「おい、一体何が原因なんだ?!」
「あっ」
「どうしたっ?」
「・・・銀紙にメッセージが・・・『Iよりアイを込めて、クスッ』・・・?」





St.Valentine in Hangar.

「おい、あの野郎、まさか・・・」
「ああ・・・間違いねえ・・・」
「・・・殺るか?」
「殺らいでかっ!」

「おわああおお!何だ、何だ?!」
「ヤマダ・ジロウ!貴様を艦内裏風紀維持委員会バレンタイン滅殺部隊の名により、処刑する!」
「うおおおおお!何でだーーー!」

「ねえ、リョーコ」
「何だよ」
「義理チョコ、やばかったのかなあ」
「さあ、な」
「格納庫で渡したのが不味かったようね・・・まずい・・まずい・・・」
「イズミちゃん・・・無理してだじゃれ言うことないんじゃない?」
「ま、いいか。次行くぞ。あ〜、かったりい制度だよなあ」
「リョーコ、バレンタインデーは別に制度じゃないんだけど」





St.Valentine in Cookroom.

「アキトさん、はいこれ。私たちから」
「あ、ありがとう」
「ルリちゃんにも分けてあげてね」
「ホウメイさんと私たちの手作りだから、おいしいよ」
和気藹々の厨房。
アキトは休暇中ホウメイの店でテストを受け、見習コックの許可を受けていた。
パイロットとしての契約が優先されるため空き時間のみのコックだが、3日に1日だけルリのチキンライスを作っていた厨房に、いつでもいられるのは嬉しかった。

ここを管轄しているのは衣糧班長のホウメイだが、衣糧の衣の方に従事するクルーは実際にはプロスの下にいるので、調理補助員としては5名の女性クルーが詰めている。
女性、と言うには年齢が若すぎるのだが、整備班垂涎の職場であることは確かだ。
パイロットから義理チョコを貰ったヤマダですら、あれ、なのだから、こんな場面を見られていたら、アキトもただでは済まないだろう。

「アキトさんて、お菓子は作れないんですね」
「うん。食堂で働いてたから。一応料理学校では習ったんだけどね」
アキトは一通りの料理を習得している。
が、働いていた環境もあって、ランチセットや定食といった類のものしか覚えていない。
「食べるのは好きなんですかあ?」
「あはは、ルリちゃんほどじゃないけどね」
ジャンクフードを卒業したルリは、何かに憑かれたように色々な料理に興味を示している。
一番がアキトの作るチキンライスであることには変わりはないようだが、次席を占めるのは、チョコレートやクッキー、ケーキなどの洋菓子だ。
「年頃の女の子って、そんなもんなのかな?」
「そうね〜、私たちも好きだし」
「でもさあ、ルリちゃんって、ほんとアキトさんにしか懐かないよね〜」
「ちょっとあんたら、ルリ坊は猫や何かじゃないんだからさ」
ホウメイが苦笑いをする。
喧しい女の子たちの話題についていってるホウメイではあるが、
(まったく、この年頃の子たちは元気だねえ)
と思ったりもする。

「テンカワ」
「はい、何っスか?」
「女の子ばかりの職場じゃ、ルリ坊とひと揉めあったんじゃないのかい?」
ホウメイの言葉に、複雑な表情を返す。
「やっぱりかい・・・」
「・・・ええ、そりゃもう・・・」
溜息をつく2人。
「何も言わずに不機嫌になるのが恐いんですよね・・・」
「兄を取られる妹なんて、そんなものかも知れないけどね」
「そんなもんっスかね」
アキトが首を傾げる。
「まあ、ドクターの直弟子みたいなもんだしねえ。こんなとこ見られたら、お前、命がいくつあっても足りないんじゃないかい?」
「・・・恐いこと言わないで下さいよ。まさか厨房の中までは監視されてないっスから。・・・あれ?どうしたの?」



《見てたりして》
オモイカネがウィンドウを出す。
「ルリルリ?」
突然現れたオモイカネと、休憩を終えて戻ったルリの不機嫌そうな表情に、恐る恐るミナトが声をかける。
「何ですか」
鉄仮面で答える。
「あ、あのさ、ルリルリ、チョコはもう渡したの?」
反応するブリッジクルー。

「ええっ?!ルリちゃん、作ってたのお〜?!」
「だ、誰にあげるの?ただ作っただけよね?自分で食べるのよね?」
どうやらユリカとメグミは、『あげない1.3倍』(午後5:00現在)に賭けていたらしい。
「も、もしかして僕に・・・」
「イネスさんという辺りが妥当ではないかと・・・」
プロスはイネスに、ジュンは自分に、らしい。2113.5倍なのだが・・・。

「誰にですか」
それらの喧騒を一切無視して、醒めた声で応じるルリ。
「・・・誰に、って・・・そりゃあ、アキト君にじゃ・・・」
「渡してません」
全く表情を変えずに、ミナトをちらとも見ない。
(まずい・・・まずいわよ、アキト君。あなた何やったの・・・)
「でも、折角作ったのに・・・」
それでも会話を試みるミナト。
ユリカやジュン、プロス、メグミは『触らぬ神に祟りなし』とばかりに、それぞれの職務に集中しているふり。

「いいんです。アキトさんにはくれる人なんてたくさんいるみたいですから」
そう言うルリが、アキトにあげるチョコレートを持っていないことに気づくミナト。
「ルリルリ、チョコレートはどうしたの?」
もう、ルリは答える気もないらしい。

実際、さっきの休憩でアキトに渡そうとしていたのだ。
だが、食堂の入口でルリが見たものは。

衣糧班の女性クルーに囲まれて、にやけているアキトの姿。
(アキトの尊厳のために断っておくと、あくまでもルリ視点で)
しかも、手にしているのは、チョコレート。

(そ、そんな・・・)

突然の事態に、思わず植木の陰に隠れて様子を見るルリ。
何を話しているかまではわからないが、楽し気な厨房の雰囲気だけは伝わってくる。
そんな様子を見て、何で私がこんなところで隠れてなきゃならないの、と怒りにも似た感情が湧いてくる。
その時、入口に現れたのは。
「・・・あれ?どうしたの?」
「おう、テンカワ。これ!やるよ」
乱暴にチョコレートを差し出すリョーコだった。
後からヒカルやイズミもついて来ている。

二重のショックを受けるルリ。

(何で・・・あんなに・・・)
はっと気づく。
(そうですか・・・バレンタインデーしか告白できないから・・・だから皆さん、今日を待ってアキトさんに告白しようと・・・)
混乱するルリの耳には、リョーコの大声も入らない。
ふらりと立ち上がると、こっそり食堂を後にするルリだった。

「まあったくよ!誰がこんな面倒くせえ制度つくったんだか。義理チョコなんて嬉しいもんなのか?テンカワ」



(アキト君は・・・厨房、か)
「艦長」
ルリに直接聞くのを諦め、自ら背景調査に乗り出す。
「ちょおっといいかしら?4,5分で戻るからさ」
「ええっ・・・でもお・・・」
ちらちらとルリを見ながら渋るユリカ。
不機嫌状態のルリを宥められる人間がいなくなるのは辛い。
どうにも艦長の威厳がないが。
「大丈夫。すぐに戻るから、お願いね〜」
ユリカの言葉を待たずにブリッジを出て行くミナト。
後には『私、不機嫌ですから』と背中で語るルリに、ただ脅えるクルーしか残されなかった。
「ばか」
ぼそりと呟くルリに、冷たいものが背中を滴り落ちるのを感じる、ユリカだった。





ブリッジからの眺めも真っ暗な空と黒い海だけになる。
ブリッジシフトのA勤務終了時刻、つまり、ここからは当直を残すのみである。

「あがろっか、ルリルリ」
「はい」
ミナトとルリは一緒にブリッジを出る。
今日の第2フロア当直はメグミだ。
第1フロアには副長のジュンが残り、ユリカはルリに脅えながら、そそくさと自室へ戻ってしまっていた。
「じゃ、後お願いね、メグちゃん」
「はい、お疲れ様でした〜」
機嫌良く答えるメグミ。
喜ぶほどの金額を賭けなかったユリカと違って、相当な掛け金を払っているらしい。
ルリの不機嫌オーラを物ともしないほどの。
(ふふふ、このままルリちゃんが誰にもあげなければ・・・1.2倍であろうと・・・ふふふ)
1.2倍・・・そこまで下がったのか。





「ねえ、ルリルリ」
「何ですか」
ふと、足を止めたミナトを振り返る。
少しは落ち着いたらしい。
ミナトを残してさっさと行ってしまわないルリに安堵する。
「もしかして、ルリルリってさ・・・」
食堂で全てを納得したミナトが、言う。

「義理チョコって知らないんでしょう」

「・・・は?」
きょとんとした眼でミナトを見つめる。

大きく溜息をつき、
「まあ、ね〜。確かに私も言わなかったし。あのね、ルリルリ、チョコレート全てが告白じゃないのよ」
「え、でも、昨日ミナトさんが・・・」
「う〜ん、だから、それはごめん!」
「・・・・・・」
「職場の人にただ配るだけの『義理チョコ』ってのがあるのよ」
「職場・・・?」
「アキト君の職場って、厨房と戦闘班でしょ。それ以外の人からは貰ってないわよ」
「・・・あっ!」
ようやくミナトの言いたいことがわかって、急に恥ずかしくなる。
やはりデータからの知識だけでは、咄嗟の判断に問題があるようだ。

「アキト君、まだ厨房にいるわよ。いってらっしゃい」
愕然としたままのルリに優しく微笑む。
「はい!」
勢いよく返事をすると、ルリは食堂へ駆け出していった。

後に残ったミナトは。

「ふふ。ルリルリはちゃんとチョコレート渡せるし、私は儲かるし。一石二鳥よね」
・・・インサイダー取引まがいのことをしていた。





「ふう。やっと終わったか」
夕食後の清掃を終えて、一息ついたアキトは、夜食の準備に入ろうとしていた。
ナデシコの食堂は、正式なコックがホウメイだけのため、夜勤クルー用に開店はしていない。
そのため、夜勤シフト開始後に夜食を用意し、置いておくのだ。
朝・昼・晩の食事は食券制で全員が支払うが、夜食だけは無料である。
そのため、特に整備班などでは夜勤希望者が異様に多く、ウリバタケがシフト調整に追われているらしいが。

「しかし、二足の草鞋は厳しいけど、やっぱり料理っていいよなあ」
独り言を呟きながら厨房に入る。
食材を用意している内に、自分も空腹感を覚える。
(何かなかったかな・・・)
料理人として、夜勤者のために作る料理をつまみ食いすることは、プライドが許さない。
かと言って、余ったものを食べようにもまだ食材は手付かず。
ふと、エプロンのポケットに突っ込んだ手が、堅い感触に触れる。
(あ、これ、ミナトさんから貰ったやつだ)
ポケットから引き抜いたのは、薄いがきれいにラッピングしてあるチョコレート。
(まあ、とりあえず・・・)
包みを丁寧にはがす。
この辺りは変にまめ。

「へえ・・・」
つい、口をついて出る、感嘆。
(ミナトさんって結構家庭的っぽいもんなあ)
きれいに型取られているが、明らかに手作りとわかる。
ハート形のチョコレートの上に、ホワイトチョコで描かれた、銅鐸。
オモイカネのマークだ。
その下には、『AKITO』と、これも白で書かれている。
(でも、何でオモイカネなんだ?それに、全部手作りでやったのかなあ)
疑問と感心を胸に、一口、齧る。
その時。

かたん。

「?・・・あれ、ルリちゃん?どうしたの?」
食堂の入口には、ルリが立っていた。

「アキトさん、それ・・・」
ルリの視線を追ったアキトは、自分の手元に行き着く。
「ああ、これ?夕方ミナトさんがくれたんだ」
「え?」
不思議そうに聞くルリに、アキトも不思議そうに答える。
「どうかしたの?」
ルリはアキトにゆっくりと近寄ると、確認するようにチョコレートとアキトを交互に見つめる。
アキトはまだ疑問符を浮かべたままだ。

「あ、あの・・・おいしいですか?」
「へ?うん。すごいよね、ミナトさんって。俺がビターかホワイトしか食べないって知ってたのかな?変に偏ってるからわざわざ話したこともないんだけど」
「・・・あの・・・」
言いにくそうにもじもじしているルリに、アキトも更に疑問を感じる。
「どうしたの?何か変だよ、ルリちゃん」

意を決したように面を上げるルリ。
「あの、それ、私が作ったんです・・・」
二口目を齧ったまま、アキトの時間が止まる。



自分のしたことに気が付くまで、少しの時間がかかる。



音を立てて青ざめていくアキト。
「えええっ?!ご、ごめんっ!ルリちゃんっ!うわあああ、ど、どうしよう・・・」
「え?いえ、あの、アキトさん?」
「ルリちゃん、誰かにあげるつもりだったんだよね、俺、とんでもないこと・・・」
チョコレートに書かれた文字に全く意識が行かないアキトが、錯乱状態でルリに謝る。
「アキトさん?アキトさんってば!」
「うああああ、どうしよう、どうすればいいんだあ!」
「アキトさんっ!」
滅多に聞けないルリの大声で、一瞬動きが止まる。
「それはアキトさんにあげるために作ったんです!」

「・・・へ?」
白い肌を全身真っ赤に染めて、ルリがアキトを見つめる。
「あの、バレンタインだからって、ミナトさんが・・・」
「これ、ほんとに、俺に?」
「・・・・・・はい」
消え入るような声で頷く。
真っ青だったアキトも、ルリを見ながら、次第に青から赤へ変わっていく。

「あ、その、迷惑だったら・・・」
「そんなことないよ!迷惑なんて、そんな、・・・えっと、ありがとう、ルリちゃん」
大げさに否定すると、鼻の頭を掻きながら、ルリの方を見ないでお礼を言うアキト。
(やばい・・・何でこんなに嬉しいんだ?俺・・・)
地球連合指定特定重要文化財並みの鈍感さは、全く改善されていない。

「あの、ほんとにおいしいですか?」
上目遣いに見上げるルリの視線から、自分の顔を逸らす。
(な、なんだ・・・何がどうなってるんだ・・・?)
混乱しながらも、何とか笑顔を作って、
「うん、ほんとにおいしいよ」
やっとのことで答え、視線を合わせる。
頬を染めるルリに、アキトの混乱はその度を深める。
2人ともに言葉もなく、無人の食堂に立ち尽くしてそわそわする。

その状態は、夜食を取りに来たクルーにみつかるまで続いていた。

話を聞いた、イネスの感想。

「ばか」










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




28 A re-departure, and .....

翌日のナデシコ艦内には、掛け金を失ったメグミその他大勢の悲鳴と。
大儲けしたミナトの高笑いがいつまでも響いていた。







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《あとがき》

はい、わかってます。
お約束です。

バレンタイン・・・若いっていいなあ・・・。

b83yrの感想

でも、『お約束』だからこそ読んでみたくなる話ってモノもあるんですよね
しかし、ミナトさん・・・・・悪人っ、でも許すっ(笑)
さあ、アキト君はこの後ルリコン(ロリコンにあらず)の道を進むのか(笑)

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