うふふふ。
あ、いけない。つい、にやけてしまいました。
でも、これがにやけずにいられましょうか。
いえ、いられるわけがありません。(反語)
ついつい、くちょうもひらがなです。

こほん。

オモイカネの調整、ナデシコの改修も予定通り。
いよいよ明日は、再出航のために乗艦です。
ナデシコは再び戦闘と実験の日々を送ることになります。
まあ、今度はアスカ・インダストリーのための、ってとこが違いますけど。

今回の休暇はほんと、色々ありました。

艦長と副長が遊びに来たり。
ウリバタケさんがナデシコに戻ってることを探り当てられて、緊急避難しに来たり。
ヒカルさんがコスプレしたまま酔っ払って来たり。
それを追っかけてリョーコさんやイズミさんが乱入したり。
何だか色んな人が来ましたが、部屋を見て驚かなかったのって、艦長と副長だけでしたね。
どうやら本当にいいとこのお嬢様みたいです。
そうそう、ヒラヤマさんは・・・言う必要もありませんね。

もちろん、アキトさんとカマクラへ行ったりしましたし。
それに、料理にも挑戦してみました。
しかも、アキトさん直々の手ほどきで。
それで、つい頬が緩んでにやけてしまうんですけど。





今日はミナトさんが来ています。
「どうせ行くんなら少しでも近い所からの方が、楽だと思って。ルリルリがどんなとこに住んでるかも知りたかったしね〜」
オオイソシティからなら、そんなに距離は変わらないと思うんですけどね。
で、ミナトさんも部屋に入った瞬間絶句してましたが。
「アスカって、こんな良い部屋用意してくれるんだ〜。私も実家なんかに帰るんじゃなかったな」
「最初は住み難いだけでしたよ。慣れましたけど」
「う〜ん、確かにそうかもね。ところで、今日はアキト君とイネスさんは?」
「アキトさんはホウメイさんのお店に、テスト受けに行ってます。イネスさんは出航後の実験の打ち合わせでアスカに」
「テスト?」
「はい。ナデシコ食堂でコックとして働くための」

そうなんです。
契約はパイロットとしてなんですが、私に料理教えてるうちに完全に火がついたというか。
ナデシコに戻ってからも毎日料理しなくちゃ、って燃え上がっちゃって、この1週間くらいホウメイさんのお店に通い詰め。
そのままナデシコ担当になったプロスさんが、『まあ、お給料もいらないということですし・・・ホウメイさんさえ良ければ構いませんよ』って言ってくれたので、そのホウメイさんにテストしてもらいに行ってるんです。
「ふ〜ん、アキト君って、本当に料理が好きなのね」
「はい。でも、すごく生き生きしてるので、いいことだと思います」
「でも、あんまり構ってもらえなくてルリルリはちょっと不満、と」
「う、そんなことは・・・」
「そお?顔に書いてあるけどな」
ミナトさん、あなどれませんね。
確かに私がにやけてるのは、夕ご飯作るのにアキトさんが手ほどきしてくれる時だけ。
昼間はほっとかれてるので、ちょっとつまらないんですよね。

「ま、ルリルリも勝負かけるんでしょ?」
ミナトさんが、にやついたまま言いますが。
「勝負?」
「チョコよ、チョコ」
「ちょこ」
何のことでしょう。
イネスさんとのお料理勝負は、4戦4引き分け(アキトさんが私に、ヒラヤマさんがイネスさんに軍配を挙げるので、勝負にすらならないことに気がついたのは昨日のことです)で、一時休戦に入っていますが。
「乗艦日が明日ってとこに、整備班の暗躍が見え隠れするわよね」
何か、独りで合点がいってるみたいですけど。
どうしてウリバタケさんたちが暗躍するんでしょう。

「何よ、ルリルリ。もしかして全然考えてないの?」
だから、何を、ですか?
それがわからなければ、考えようがないです。
「はあ〜。それじゃあ、この1ヶ月間、何も進展してないみたいね」
「あの、ミナトさん。一体何の話ですか?」
仕方なく尋ねる私に、ミナトさんが思い切り呆れた声を出します。
「ちょっと、それって冗談か何か?お姉さん怒っちゃうわよ」
「いえ、何かわからないまま怒られても困りますが」
「・・・本当にわからないみたいね。まあ、無理もないか。今まで2月14日は戦闘の中で過ぎてったから、私やメグちゃんも、過ぎてから気づいてたくらいだもんね」
「はあ。チョコが何か?」
一体、チョコレートがどうしたって言うんでしょう。
「あのね、ルリルリ。2月14日はバレンタイン・デーって言って、女の子が男の子にチョコレートをあげる日なのよ」
「バレンタイン・デー?・・・そう言えば、そんな日があったような・・・」
確か、お菓子業界の陰謀で、チョコレートを買わざるを得ないように仕組まれた日でしたか。
何でも、女性だけでなく男性にも買わせようと、かなり強引な広告手法をとって広めたために、毎年泣かされる男性も多いとか。

「でもそれが、どうして勝負なんですか?」
「ルリルリ。あなた、ただチョコレートをあげる風習だとしか考えてないでしょ」
「はい。データではそうなってました」
ミナトさんはオーバーアクションで呆れ返ります。
「あのねえ、バレンタイン・デーでチョコをあげるのは、男の子に告白するのと一緒に、なのよ」
・・・告白・・・で?・・・男の子に?・・・すると・・・。
「も、もしかして、それって・・・あ、あの、アヰノコクハクッテコトデスカ?」
「何か台詞がおかしいわよ。ま、そんなとこね」
で、それを?
私がどうしろって・・・いえ、それは、あの、そういうことですか?
「ルリルリは当然、アキト君にあげるのよね」
は?いえ、でも・・・。
ちょっと混乱する頭を整理します。





「・・・いいえ。いいです」
しばらく考えた後で出した私の言葉に、ミナトさんが驚いた表情で、私を見つめます。
きっと、予想外だったんでしょう。
「どうして?」
「・・・・・・」
「アキト君がお兄さんのままでいいの?」
「・・・わかりません」

正直な気持ちです。
アキトさんと一緒にいるのは、嬉しいです。
お出かけしたり、お料理を教えてもらったり。

妹じゃ、嫌っていうのも、正直な気持ち。
でも。

「私、一緒にいるだけでいいんです」
「本当に?」
ミナトさんが優しく尋ねてきます。
「だって、どうすればいいのかわからないんです」
そう。
例え、運良く、本当に運良くですが、世間一般で言うところの『恋人』になったとしても、だからどうしていいのか、それがわかりません。

「一緒にいるだけなら、妹の方がいい。そう思うんです。でも・・・」
「でも?」
「妹じゃ嫌とも思うんです。アキトさんが傍にいてくれるんだったら、妹でも充分なはずなのに」
妹と恋人と、どう違うんでしょう。
どっちも、一緒にいたいって気持ちは変わらないはずなのに。
「ルリルリは多分、アキト君の気持ちが知りたいんだね」
「アキトさんの、気持ち・・・」
「うん。アキト君にも、自分と同じ気持ちでいてもらいたいんだよ」
そうでしょうか。
でも、それはすごく勝手な思いの気がします。

「そんなことないよ。兄妹として、だけなら大切にされてる、そう思われてるってことに不満はないはずよね。でも、ルリルリ自身はそれに満足できてない」
「・・・はい」
「一緒にいるだけなら、ルリルリが言ったように妹の方がいいかも知れない。家族ならいつでも一緒にいられるもんね。だけど、単にそういう環境であることと、好きって気持ちは違うものだから」
どこが違うんだろう。
ミナトさんなら答えをくれそうな気がします。

「アキト君と手を繋いだりする時、安心する?」
「はい」
「手を離す時は?どんな気持ちになるのかな」
「・・・よくわからないです。寂しい、というか、もっと繋いでいたいって感じです」
「胸が苦しくなったり?」
「はい」
「火星の直後くらいの時はどうだった?」
「どうって・・・安心しました。何か、暖かくって・・・」
「それは、初めて家族を感じられたから?」
「はい。そうだと思います」
「でも、今はそれだけじゃないんだよね?」
「はい」

ミナトさんは、少しずつ質問していきます。
私はまだ、よくわからないままですが、さっきよりはもやもやが薄くなった感じです。

「どきどきしたり、切なくなったり、そんな感じなのかな」
「多分・・・そんな感じなのだと思います」

ここまできて、ミナトさんがゆっくり微笑みました。
「きっと、それが恋、じゃないのかな?」
「え?」
「妹だったら、安心するだけで終わりだよ。切なくなったりしない。ルリルリが気になってるのはね、アキト君が自分のことをどう思っているのか、それがわからないからよ」
「アキトさんは私のことを家族だって・・・」
「ううん、そういうことじゃなくて」
なら、どういうことなんでしょう。
またわからなくなります。

「ルリルリと同じようにどきどきしたり、苦しくなったりしてるのかな、ってこと」
「アキトさんが、私といる時に?」
「そう。こう言ったらいいのかな、アキト君がルリルリのことをどう定義しているかじゃなく、手を繋ぐ時や離す時、一緒にいる時のアキト君の心や感情の動きが知りたい」
「あ・・・」
「もっと触れていたい、全てを知りたい、そう思うことが妹との違い」

感情が、言葉で説明できるものじゃないことくらい、私にもわかります。
でも、それだけではわからない私のために、ミナトさんは一生懸命言葉で伝えてくれようとして。
「だけど・・・それは我が儘ですよね」
「そうじゃないよ、ルリルリ」
真剣に、でも笑って続けます。
「アキト君がルリルリのこと、もっと知りたいって思っていれば、それはお互いがわかりあうってことになるわよね。お互いがわかりあって、気持ちを共有すること、それがしたいんじゃないの?」
「そう、かも知れません」
「アキト君の胸に抱かれたい?」
「えっ?!と、突然何を・・・」
「ふふふ、変なことじゃないよ。ただ、アキト君の胸の中にいたいのかってこと」
ちょっと困ったようなミナトさんの表情に、私独りで先走ったことが恥ずかしくなっちゃいました。

「・・・はい」
よく考えれば、そういう気持ちはもってたみたいです。
素直に認めてしまいました。
「手を繋ぐことより、腕を組みたいって思うこと。腕を組むことより、胸に抱かれていたいって思うこと。それはね、心臓、ううん、心に近いところに触れていたいからだよ」
「こころに近いところ・・・」
「家族の絆っていう輪の中にいるだけじゃなくて、ね」
「・・・・・・」
「想いの強さはね、家族だから強いとか、そういうものじゃないよ」
私の不安を先読みしたんでしょうか。
ミナトさんの言葉で、はっきりした気がします。

だけど、不安がなくなるわけじゃない。
「でも、アキトさんがどう思ってるかは・・・」
「わからないよね。だから不安になる。でも、だからより相手のことを知りたいと思う。・・・やっぱりルリルリはアキト君が好きなんだね」
そうなんですね。
ミナトさんの言う通りです。
「・・・はい。私、やっぱり妹のままじゃ嫌です」
「うん。アキト君なら大丈夫だよ。ルリルリを傷つけるようなことは絶対にしないから。そんなことする人だったら、私も応援なんかしないしね」
「はい」
「気持ち、伝えたい?」
「・・・できるでしょうか」
「ふふ。焦らなくたっていいよ。今は、ルリルリがはっきり恋だって気づいただけでも前進したんだから」

そうですね。
「チョコレート、作ろっか?」

アキトさんの気持ち、はっきり聞くのは、正直言ってまだ怖いです。
でも、何もしないで消化しきれないままなのも嫌です。
「ただあげるだけでもいいんじゃないかな?アキト君だって嬉しいと思うよ」
「そうですね。作ってみます」





アキトさんの返事は聞きたいけど。
今は、私の気持ちを伝えられるだけでもいい。
ホシノ・ルリ、一世一代の決心でした。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




27 During a vacation.―13,Feb

長かった休暇も終わる。
ナデシコはアスカの試験戦艦として大改造を施され、戦線への復帰を待っていた。








次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2




《あとがき》

ひさしぶりに《あとがき》らしいものを。

いよいよ後半へ。

怒涛の展開が待っている(といいな)。
驚愕の事実が君を襲う(かもしれない)。
そして遂にらぶらぶモード突入(かなあ)。

なんだかどこまでもいい加減な作者ですが(笑)。
後半もよろしく。

b83yrの感想

では、こちらも感想(らしき)モノを
やっぱり、『好きになった人に自分の事も好きになって欲しい』っていうのは当然の気持ちの動きですから
気持ちはちゃんと伝えないとね

次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送