オモイカネのアスカへの仕様変更とバックアップも上手くいってるし。
エステバリスの改造作業も順調。
でも、ウリバタケさんいいのかな。
まだ休暇はあるのに、ナデシコに戻っちゃって。

「まあ、ルリルリにはわかんねーよな。男のロマンってやつはよ」
帰ってからアキトさんに聞いたら、
「それは奥さんが恐いだけだよ」
って苦笑い。
所属企業が変わっても、ナデシコはナデシコなんですね。










「ルリちゃん。遊びに行こっか」
アキトさんが突然言い出したのは、今朝の食卓で、でした。
「姉さんは今日遅いんだろ?」
「そうね。夕飯はいらないから、行って来たら?あなたも今日は暇でしょう」
「はい。オモイカネの調整は明後日ですから」
「じゃ、行こうよ。俺、カマクラって行ってみたかったんだよなあ」
アキトさん、私の返事も聞かないうちから意識が飛んじゃってます。
もちろん、私に異存はありませんけど。

「よし、そうと決まったら用意、用意」
いそいそと準備を始めるアキトさん。
カマクラ・・・確か、1000年くらい前の首都ですね。
それにしても、私たち休暇中じゃなかったでしたっけ?
どうしてアキトさんとイネスさんは、仕事に行ってるんでしょう。





・・・疲れました。
ハヤマのマンションから電車、に初めて乗ったんですが。
結構揺れます。
どうしてリニアにしないんでしょう。謎です。
「電車に揺られて、ってのが一番だよ」
火星では全てリニアのはずですが、アキトさんはサセボで慣れたそうです。
まあ、確かに揺られましたけど。
それのどこがいいんでしょう。そんなに嬉しいんですかね。
「アキトさんは毎日、アスカへ行くのに使ってるじゃないですか。どうしてそんなに嬉しいんですか?」
「う〜ん・・・通勤で使うのとでは何か違うんだよなあ・・・」
よくわかんないみたい。

カマクラで江ノ電という路線に乗り換え、ハセ駅で下車。
てくてくと歩いて大仏へ。
「うおお〜、でっかいなあ〜」
火星の市民タワーにもっと大きい銅像、なかったでしたっけ?
「いやあ、やっぱ歴史っていうかさ、違う感じがするじゃん」
アキトさんは相変わらず訳のわからないことで感激してます。
ま、いいですけど。
「でもさ、大仏って大抵座ってるよね。立ったらどうなるんだろう」
「そうですね・・・等身から考えて、24、5mってところですか」
「へえ〜、そりゃすごい」



次は長谷寺へ。
「うんうん、重みを感じるね」
・・・そうしときましょうか。
「736年に創建され、江戸時代には坂東三十三観音霊堂として、参拝者が後を絶たないお寺だったそうです」
「へえ〜、ルリちゃん、よく知ってるね」
「歴史教育も受けてますから」
私はネルガルの研究所に来る前から、遺伝子操作された人間として、それなりの教育を受けてます。
「ふうん。歴史を知ってると、何か違った感じで見られるよね」
・・・そうなんでしょうか。

736年、というと日本は奈良時代ですね。
その頃のカマクラなんて、東国のド田舎。
もちろん、こんなに立派な建造物じゃあなかったけど、ふーん、確かにそんな田舎に作ったことはすごいかも。
紀元前6世紀に仏教が生まれて、王国単位で広まるのに紀元前270年頃まで待たなければならなかった。
日本に伝わったのって、550年くらい。
それから200年でこんなとこまでお寺が建てられるようになったのね。
歴史の重み、ですか。
何となく、アキトさんが言ってたことがわかったような気もしますね。
「参拝していこうか。ルリちゃん」
「はい」
参拝を済ませて、
「どんなお願いしたの?ルリちゃん」
え、お願い、ですか?
「えーと・・・もう一度行ってきます」
ぽかんとするアキトさんを置いて、

(ええっと・・・家族仲良く。よろしく)



江ノ電にも慣れてきました。
私ってすぐ順応するのかな。
慣れると面白いです。
最新鋭戦艦で宇宙を飛び回るのとは、一味違います。
「そりゃそうだよ、ルリちゃん。でも、結構いいもんだろ?」
「そうですね。ゆっくり景色が眺められるのって、新鮮です」
マンションに案内された時も、軍から間借りしているヨコスカドッグへ行く時も、大抵社用車で送り迎えが付きます。
防弾・強化ボディの社用車(護衛つき)では、のんびり景色を眺めるって感じじゃありません。
だから、こんなにゆったり景色を眺められるのは、新鮮で面白い。

カマクラ高校前を過ぎて、路線図を見ていたアキトさんが提案します。
「ルリちゃん、江ノ島行ってみようよ。ちょっと歩くけど」
最近運動不足だな、って思ってたのでちょうどいいです。
「いいですよ。少し歩きたいですから」



さすがに1月の海風は冷たいです。
江ノ島に着いたはいいですが、いくら遺伝子操作で体も丈夫とは言え、風邪を引きそうですね。
「寒くない?」
アキトさんが尋ねますが、寒いとも言えません。
「大丈夫ですよ」
「嘘ばっかり。ほら、これ巻いときなよ」
アキトさんがマフラーを私の首に巻きます。
・・・あったかい。
でも、それ以上に、アキトさんの匂いがする。
「どうしたの?暑い・・・ってことはないよね」
・・・はっ。
つい赤くなってしまいました。

「何だか、随分ごちゃごちゃしてるんですね」
この季節です。人は少ないんですが、参堂には建物がひしめき合って、雑然とした感じを受けます。
「そうだね。でも、あの鳥居はすごいね。400年も経ってるんだろ?」
「そうですね。この潮風の中で、補修してあるとは言え驚異的な年数ですね」
私も素直に頷きます。

やっぱり寒いので江ノ島エスカーに乗って、途中乗り継ぎしながら江ノ島神社の邊津宮、中津宮に参拝し、江ノ島頂上部の公園へ。
「・・・変なかたち」
「・・・そうだね」
昔は植物園があって、私たちが感想を漏らした展望塔も、その当時は使わなくなった灯台を展望塔として利用していたそうです。
200年くらい前に建て直して、それも耐用年数を超えたので、外観をそのままに3回ほど更に建て直したそうです。
今、私たちが見上げているのは、30年前に作られた、3度目の建て直し分のものです。
上へ行くほど広くなっていくという変な形ですが、眺めは。
「・・・・・・」
「・・・気持ちいいね。ルリちゃん」
アキトさんの呼びかけに返事をするのも忘れて、見入ってしまいました。
360°のパノラマなんて、ナデシコの展望室でも可能ですが、本物と偽物の違いって言うんでしょうか。
圧倒されてしまったみたいです。
しばらく言葉もなく、ただ眺めていました。

「オモイカネに記憶させたいです」
展望塔を降りてから言った私の言葉は、意外なことにアキトさんに否定されてしまいました。
「だめだよ、ルリちゃん。あの景色はあの時だけのもの。だから思い出に残るんだから」
「そうなんですか?」
「そうだよ。映像記録なんて、気持ちまでは残せないんだよ?大丈夫、楽しい思い出なら絶対忘れないから」
「そう、ですか」
思い出。
それはずっと忘れないんですね。
楽しい思い出なら。
なら、大丈夫ですね。今日のことはきっと一生の思い出だから。

龍恋の鐘、だそうです。
ええと・・・『恋人で鳴らすとけっして別れない』・・・?!
「アキトさんっ!」
思わず大声で叫んじゃいました。
景色を楽しんでいたアキトさんが、びっくりして振り向きます。
いいんです、周りには誰もいないんですから。
それで、アキトさんは・・・まだ電光板の案内を読んでないみたいですね。
すっかり私の案内を待つ姿勢だったのが幸いしたようです。
「あ、あの・・・あ、あれ、あの鐘、鳴らしてみましょう!」
「へ?・・・いいけど・・・どうしたの?」
「いえ!何でもありません!とにかく鳴らしたいんです。そう、そういう気分なんです!」
アキトさんはまだ不心得顔ですが、とにかく引っ張って行きます。
案内を見られないよう、体で隠しながら移動して。
い、いよいよですね。
どきどきしますが。
ちょっと落ち着きましょう。


・・・・・・。


ばんじおっけー、です。


い、いきますよ。


・・・・・・。


いい音色です。
すっごく。

「ルリちゃん?」
「な、なんですか?」
「そんなに嬉しいの?」
「もちろんです」
「・・・そう?」

アキトさん、知ったらどんな顔するのかな。





その後、奥津宮に参拝、フジサワシティ方面へ行こうかとも思ったんですが、鶴岡八幡宮に行ってなかったことをアキトさんが思い出して、ちょっと遅いお昼を食べてから、もと来た路線でカマクラへ。
アキトさんは喜んでましたが、私は既にやることやった、って感じであまり記憶に残ってません。

「楽しかった?ルリちゃん」
帰りの電車で。
「はい、とっても」
私は満足しきっていました。
電車の旅行も、名所巡りも、初めての経験です。
また、行きましょうね、アキトさん・・・。





短い冬の陽が落ち始め、夕焼けがルリの白い頬を染める。
今日のルリは今までで一番多くの笑顔と、驚きの表情を見せたのだろう。
少しずつマシンチャイルドから、12歳の平凡な少女に変わりつつある。
車両に乗客は少なく、車窓から差し込む陽光が車内を隅々まで赤く染める。
この休暇が終われば、ナデシコは再び、今度はアスカの実験艦としてデータを集めながら軍の作戦に参加する。
アキトにはパイロット、ルリにはオペレーターとしての日々が待っているのだ。
戦いの中に身を置かねばならない運命であっても、せめて忘れられる1日をあげたい。
そう思って今日の日帰り旅行を持ちかけたのだが、ルリは満足したようだ。
(本当は、こんな日がずっと続くはずの年頃なのにね・・・)

戦争は避けられない現実。
終結させられる力なんて、誰も持っていない。
自分の幸せを守るためには、色んな形で戦っていかなくてはならない。
だから、アキトもルリも、ナデシコで戦っている。
せめて、今の幸せを守るために。

(それでも・・・)
アキトは思う。
できるなら、ナデシコのオペレーターなんか辞めて、地球で生活させてあげたい。
家族に囲まれた平凡な生活。
学校へも行って、同じ年頃の友達を作って。悩んだり、笑ったりする普通の生活を。
どうしてルリだけが戦わなくてはならないのか。

理不尽にも思う。
同じ年代でも、アキトがルリに望むような暮らしをしている子供たちは沢山いる。
いや、むしろ、ルリの生活が異常なのだから。
どこの世界に、常に死と隣り合わせの戦場に身を投じている12歳がいるのか。
これでナデシコがもし、沈んでしまったら、ルリの一生は一体なんだったというのか。
だから。
(絶対に守ってみせるよ・・・ルリちゃん)
ルリの頬にかかった蒼銀の髪を、そっとよけてやる。
『あなたはあなたの守りたいものを守りなさい。私のことを考える必要はないわ。その代わり』
アキトは再会した後、ナデシコで交わしたイネスとの会話を思い出す。
『どんなことがあっても、守り通しなさい。そして、あなたも必ず生きて帰りなさい』

(わかってるよ、姉さん・・・)
沈む夕日が、楽しかった1日の終わりを告げる。
暗闇が空から落ちてきて、車窓にアキトの顔を映す。
その自分に言い聞かせるように、決意を新たにするアキト。
こんな生活をいつか、当たり前のものにしてみせる。

アキトは、体を預けて眠ってしまったルリを、優しく見つめていた。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




25 During a vacation.―31,Jan

「龍恋の鐘はどうだった?」
「?!・・・知ってたんですか・・・?」
「いえね、江ノ島行ったら絶対やるだろうなって思って。その様子だと、やっぱり・・・」
「あ、アキトさんには内緒ですよっ!絶対!」






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《あとがき》

さあ、恒例のゲストキャラコメント、行ってみよー。
(既にあとがきですらなくなってるな・・・笑)

  

b83yrの感想

「龍恋の鐘・・・行って来ようかな、ルリちゃんと一緒に・・・・いや、でもしかし」
お〜い、何を悩んでいる、The fiance of a guinea pig のアキト君
「うっ、うわっ、なっなんでも無いっ、なんでもないんですっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ(汗っ)」
いや、ここで謝られても、それに、ルリちゃんも喜ぶと思うけど
「いっ、いや、だってルリちゃんまだ1×歳だし・・・それに、前回の隊長さんの台詞(T_T)・・・」
ルリちゃんも悩んでいるけどアキト君も悩んでいるんだねえ(苦笑)
「ちっ、畜生、誰のせいだっ、ルリちゃんの歳をもう少し上にしておいてくれれば、俺は〜〜〜〜〜〜(T_T)」
さて、誰のせいでしょう?(にやり)

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