ナデシコはアスカ・インダストリーに買い取られて、現在改修中。
オモイカネもアップグレードしちゃうので、時々は行かなきゃならないんだけど。
とりあえずは休暇中です。
クルーの皆さんも、それぞれ家に帰って。
ウリバタケさんは本当に嫌そうな顔してたけど。
自分の家が嫌なのかしら?
艦長なんか、真っ先に飛び出してったんですよ?
ま、それはそれで問題があるような気もしますけどね。

私たちは、と言うと。

「・・・・・・何、これ」
アキトさんが突っ立ったまま、部屋に入ろうともせずに言います。
「何って・・・お前らの部屋じゃないのか?」
これはアスカ・インダストリー会長室内務課課長のヒラヤマさん。
私は初めて会うのですが、イネスさんが接触してアキトさんのことを頼んだ人です。
見た目は普通のサラリーマンなんだけど。
結構ナデシコクルーに近いもの、感じました。



『おおうっ!お前、犯罪だぞ!』
『ち、ちょっと、課長、何言ってんスか!』
『・・・まあ、来い。いいから来い』
最初の会話です。
何が『犯罪』で、連れて行かれた後、何があったのかわからないんですが。
『ホシノ・ルリさんだね。テンカワのこと、これからも宜しく頼むよ』
戻ってきた後、異様に爽やかな笑顔で私の頭を撫でます。
私、子供じゃありません。
ちょっと減点ですね。
『課長・・・あの・・・』
アキトさんはしどろもどろだし。
そんなアキトさんを無視して、私に耳打ちします。
・・・・・・。
・・・・・・。
いい人です。
はい、それはもう、かなり。
アキトさんの次にしてあげます。



「いえ、それはわかってますけど・・・」
アキトさんはまだ部屋に入るのを躊躇ってます。
「どうしたの、アキト。早く入りなさい」
イネスさんの言う通りです。
後ろがつかえてますから。
私も早く見たいです。これから1ヶ月とはいえ、家族で過ごす部屋なんですから。
概観からすると、まあ、いい部屋でしょうね。
アスカの所有するリゾートマンションだそうですし。

「まあ、いいから入れよ。ルリさんが後ろでぴょこぴょこしてるぞ」
ヒラヤマさんの言葉に、ようやく従うアキトさん。
どんな部屋なんでしょう、楽しみですね。

玄関、広いですね。
靴箱も大きいですが、アキトさんも私もこんなに持ってません。
イネスさん専用になりそうです。
お次は、と。

廊下・・・が、何でこんなに長いんでしょう。
壁に絵画が飾ってありますし。
私、ごてごてしたの嫌いなんだけどな。
廊下というよりは、エントランスホール?
真中の螺旋階段は・・・マンションで中2階を作るって、どういう感覚してるんでしょうね。
ま、でもまあ、アキトさんが絶句したのもわかりますね。
アキトさん、孤児院暮らしで狭いとこしか住んだことがないそうですから。
イネスさんと暮らしていた時も、普通のアパートだったって言ってましたしね。

で、リビングですね。
ドアもなかなか立派なものです。
さすがアスカってところでしょうか。
いよいよリビング、・・・って?

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

何でしょう、これは。
広さは・・・目測で・・・測る気力もなくしそうですが、40畳くらい、ですか。
さり気ない家具での生活空間ごとの仕切りがいいですね。

・・・・・・。

前言撤回。
ヒラヤマさん。さり気なくありません。
このデコキャビネットなんて、高そう・・・
「ああ、それは1900年代前半、イギリスの・・・どこだっけな、まあ200万くらいだったな」
そうですか。

革張りのソファ・・・本物ですね。
ただ・・・大きすぎます。動物愛護協会からクレームきますよ。
ローテーブルは、はあ、大理石ですか。
片面の壁は全面ガラス張り・・・で、外は海。
あ、何か明るいと思ったら、天窓が・・・また随分大きな採光窓ですね。
クリーム色を基調にしてるのはいいんですけど、それにしてもシックな部屋で。

あれ?アキトさんは・・・まだ入口にいたんですか。

「お前、何ぼけっとしてるんだ?台所もあるぞ」
「えっ?・・・おおっ!」
慌てて入ったアキトさん。
走らなくてもダイニングキッチンですから。
キッチンは・・・言うまでもないですね。
アキトさんが狂喜乱舞ですから。

「ふうん、まあまあね」
イネスさん・・・お嬢様じゃないんですから。
「そうでしょう。あ、あとそれぞれの部屋が12畳と18畳の洋室、8畳の和室があるんだが・・・」
「あ、俺和室で!」
アキトさんが急に大声で叫びます。
私もそうしようと思ってたんだけど。
ちらっとイネスさんを見てみます。
・・・はい。決まってますよね。
「私、12畳の方で」
「決まりね。ところで」
「何です?」
「お風呂はどうなってるのかしら?」

はあ〜。も、好きにしてって感じですね。
こんな広いお風呂なんて、落ち着かないと思うんだけど。
シャワー室にサウナまで。
「温泉を引いてあるから、疲れも取れますよ」
そうですか・・・。
それにしても、随分奮発しましたね、ヒラヤマさん。



「で、ここで2人の契約は済ませてしまいたいんだが」
一通り部屋を案内されて、台所(アキトさんは厨房と言い張ってましたが)に興奮するアキトさんを落ち着かせると、リビングでヒラヤマさんが切り出します。
「いいわよ」
「え?課長、俺は?」
「ばかやろう。お前は元々アスカの社員だろう」
「あ、そうか」
アキトさん。まだぼけてるんですか。
「まあ、お前も異動だ。コーポレーションからインダストリーに出向してもらう」
「どうしてです?」
「ナデシコはインダストリー所属だからな。それにお前は諜報部員には向いてないよ」
軽く笑うヒラヤマさんに、イネスさんは納得顔、アキトさんは渋い顔。
でも、確かに向いてないですよね。
「べつに辞めろと言ってるわけじゃなくてな、騙す必要ないんだからこの際他のクルーと同じになっとけってことだ」
ヒラヤマさんなりの思いやり、なのかな。
他人を思いやることなんてしなかった私が言うのもなんだけど。
今ならちょっとわかる気もします。

ヒラヤマさんは、アキトさんを沈黙させると、私たちに向き直って、テーブルに契約書を広げます。
「こちらが開発課の上級顧問としての契約書、そしてこっちがナデシコオペレーターの契約書です」
イネスさんと私、それぞれの契約書と、給与提示書を出します。
覗き込んだアキトさんが絶句します。
「かちょお・・・」
やっとのことで搾り出した声は、世にも情けない声をしていますが。
「何だ?テンカワ」
「これって・・・俺と丸の数が違うんスけど・・・」
ヒラヤマさんがさも情けなさそうな顔をして、
「当たり前だろうが。お前と同じ給料だとでも思ったのか?」
「いや、それはそうなんスが・・・」
「アキトさん、一体いくらで契約してるんですか?」

聞いてびっくり。
アルバイトじゃないんですから。
「私の方針よ。アキトにお金持たせると料理に必要なものしか買わないから」
「姉さん・・・喜んで食べてたの誰だよ・・・」
「安心なさい、アキト。実際の契約額はもっと大きいわよ」
イネスさんの言葉に怪訝な表情のアキトさんと、苦笑するヒラヤマさん。
「ちゃんと私の口座に振り込まれてるわ」
「それは、ピンはねってやつですね」
「ルリちゃん、そういうのは貯金してあげてるって言うのよ」
そう言いながら契約書にサインしようとしたイネスさんの手が止まります。
どうしたんでしょうか。
「ヒラヤマさん。この条項に付け足してもらえないかしら」
そう言って私の契約書を指差します。
ちゃんと私のまで見ていたんですね。
何か、ちょっと、嬉しい。
「どのように?」
「担当者の承諾なき研究はいかなるものも認めない」

え?

あ。

「電算技術関連の研究に協力する・・・これか」
アキトさんも気づきました。
イネスさんもアキトさんも、揃って厳しい表情です。

「そう言うと思って、ちゃんと用意してあります。こちらにサインを」
今度の契約書は、担当者名にイネスさん、それからさっきイネスさんが提案した条項が更に厳しく制限をつけて書かれています。
「いや、弁解するわけではないのだが・・・最初のは社長室の方で用意したものなんだ。貴女から部屋を頼まれた時、『妹の分もお願い』って言われたんでね、急遽作成しなおしたんだが、上が煩くってね。一応提示するだけしろって言うもんだから」
「アスカもそんなこと考えてるんですか」
アキトさんが怒ってます。
「まあ、そう言うな、テンカワ。いくら何でもネルガルのような実験をするつもりはないさ。アスカを信用しろよ。それに、本当にサインするとは思ってなかったからな」
「まあ、いいじゃないの、アキト。こうしてちゃんと用意してあったんだから」
こんなこと言うの、不謹慎かも知れませんが。
私、今すっごく幸せです。
ネルガルのマシンチャイルドとして『買われた』私が、こうして妹扱いしてもらえるなんて。

「ちょっと、ルリちゃん、あなたまた他人気分だったんじゃないでしょうね」
イネスさんの視線がちょっときつくなります。
「あ、いえ・・・」
「取り敢えず、契約内容についてはいいかな?」
「はい」
イネスさんに続いて、サインします。
「よし、じゃあ、後は10日後に1度ナデシコへ来てくれ。オモイカネの調整があるからね。テンカワ、お前は明日報告に来いよ」
「了解しました」
真面目な顔のアキトさんも、ちょっとかっこいいですよ。


その夜は、何だか生まれて初めて家族の幸せを味わったみたいで、安心しちゃったのかな。
オモイカネからダウンロードしてきた『浜辺で散歩編』の途中で眠ってしまいました。










「で、貴女はどうするんです?まだナデシコに?」
静かな音楽が流れるリビングで、ブランデーを傾けながらヒラヤマが尋ねる。
「そうね。まだあの2人だけを乗せるわけには行かないわね」
「だが、テンカワも諜報部員として本気を出せば・・・」
「そういうことじゃなくってね」
アキトを思いやるヒラヤマの誤解を解くべく、笑うイネス。
「アキトとルリちゃんの関係が、ね」
「はあ?」
「やっと本当の家族になれそうだっていう時に、私がいなくなるわけにいかないでしょう。アキトはともかく、彼女はまだ恐れている。この関係が永遠に続くのかどうかを」
「ああ、そのことか・・・」
ヒラヤマは地球へ到着する前の、イネスからの通信を思い出す。
「ルリさんはテンカワのことが好きらしいって、やつですな」
「そう。まあ、らしい、じゃないみたいだけどね。妹じゃ嫌みたいだから」
「ほう・・・」
ヒラヤマは首を傾げる。
そして、前回イネスと会った時と同じ感想を抱く。
「テンカワめ・・・つくづく羨ましい奴だ」

そんなヒラヤマに、イネスは微笑みを浮かべながら説明してやる。
「アキトは13歳までちゃんとした愛情をかけられていなかったわ。テンカワ夫妻は確かにアキトを愛していたけれど、研究に追われてあまりかまってあげられなかった。
火星は社会福祉も充実してなかったから、孤児院でも辛い目に会ったみたいね。あの子を見てきたのは、本当に私しかいない。だから、その分、優しい子に育ったわ。屈折しなかったのはあの子の強さでしょうね。他人の痛みを自分のことのように感じられる子になった」

思い出すような目つきになる。

「一緒に暮らすようになって、『遺跡の仮想空間で、不思議な女の子に会った』って話を聞いた時、何故か悲しそうだったわ。アキトにはあの時、もうわかっていたんでしょうね、ルリちゃんがどんな子かが」
空になったブランデーグラスに、ヒラヤマが注ぐ。

「あの子たちが出会ったのは偶然ではなく、必然。アキトがあの子を家族と認めたのなら、私もそうする。私はあの子たちがどうなるか、それを最後まで見届けたいの」
「人の出会いは、運命。運命ならそれは、どこか偶然の要素から離れたところがある、か」
ヒラヤマの呟きに、
「そうね。強引かもしれないけど。人の出会いなんて、結局はそうなるべくして出会った、としか考えられないわ。確率だけで求められるなら、最初からそうするわね」
少し上気した頬で答える。
「ははは、確かに、俺もできるなら上司を選べる運命の方がいい」
ヒラヤマは笑って、ブランデーの香りを楽しむ。
琥珀色の液体が、照明に揺らぐ光を弾く。

「だが、それが先ほどの話と?」
言葉短かに聞くが、イネスには伝わったようだ。
「あの戦闘の前に」
「あの戦闘?」
「アキトがジャンプした戦闘よ」
「ああ・・・」
全てのきっかけとなった戦闘である。
地球上のほとんどの人間がそう思っていない。
ボース粒子はナデシコ以外に、検出できる機器を搭載している戦艦はいなかったし、戦闘ログも完全に消去してある。
だが、事情を知る一部の人間には忘れられない戦闘となっているだろう。
もちろん、ヒラヤマにとっても。
「アキトに聞いたのよ。あなたはホシノ・ルリを愛しているのかって。早計とは思ったけれど、ボソンジャンプに気づかれそうになっていたから、あの子の決意を確かめておきたくてね」
ヒラヤマは黙って聞いているが、内心では、朴念仁のアキトがどんな顔をしていたのか、興味を引かれていた。
「アキトの答えは、『わからない。特別な存在なんだって予感しかない。でも、一生を賭けて守らなければならないのなら、そうする覚悟はある。証明してみろって言うんなら、一生賭けて証明してみせる』だったわ」
ヒラヤマは苦笑する。
「テンカワらしい、な・・・」

「そうね。私がやはり先走りすぎたわ。でも、これで少しは落ち着いたから、今度はゆっくり見てみようと思って」
イネスもつられて笑う。

ふと、ヒラヤマが思い出したように尋ねる。
「貴女はどうなんです?一生を賭けられる人っていうのは?」
「ふふふ。さあ・・・。私は研究と結婚したようなものだから」
艶やかに笑うイネスに、
(・・・血は繋がっていなくても姉弟だな。自分のことには鈍感ってあたりは・・・)
この部屋の支出で痛んだ懐が、何故だか急に寒くなったヒラヤマだった。









機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




24 During a vacation.―10,Jan

ネルガルサセボドッグ。
「いや、仕方ないだろう。こんなことになっちまうなんて・・・」
「うわああああん!艦長の嘘つきーーーーー!」
カキツバタにはハーリーが泣いて走り去る姿があった。






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《あとがき》

途中御礼を。

まず管理人様に。
それから、感想を下さった皆様に。
ありがとうございました。

方位「0-4-1」表記について。
どむどむ様、ありがとうございました。

あれは海図の読み方だそうです。北東の41度ってことになりますね。
ただ、3次元空間である宇宙での方位呼称については、どうするか。
設定参謀であるどむどむさん(勝手に任命・・・笑)と協議中です。

私事ながら、異動があったり自分のHPの存在がばれたり(笑)。
大恐慌をおこしてますが、SSの方は何とか頑張って続けていきます。


さて、今回のゲストキャラは、

b83yrの感想

金持ちの生活・・・・想像出来ん・・・ふっ、所詮私は貧乏人さ(涙)
しかし、前回から思っているのだが、アカツキ達は一体どうしてるのだろうか?


さて、今回のゲストキャラは、The fiance of a guineaより隊長さんです
「おいおいいいのか?、オリキャラだぞ俺は、b83yrはオリキャラ嫌いじゃなかったっけ?しかも、『隊長』だけで名前すら不明だぞ俺は(苦笑)」
んにゃ、オリキャラ自体が嫌いな訳じゃ無いよ、オリキャラばかり目立って本編のキャラが蔑ろにされるのが好きになれないだけで、「オリキャラ」と「本編キャラ」を「共に活かす、活かしあう」関係なら、オリキャラも気にならんぞ
で、今回は、ヒラヤマさんが出てきたんで、こっちもオリキャラの隊長さんをゲストにと
それに、隊長さん妙に人気あるんだよねえ(苦笑)
「まだ、何にもしてないんだけどな、戦闘での活躍があった訳でも無いし(苦笑)」
「けど、俺達の活躍の場面なんて本当は無いほうが良いんだ、兵士が活躍するのがどんな場面かを考えれば」
・・・・・・そういう所なんだろうな・・・・妙に人気あるのは・・・・

さて、隊長さんはアキト君の事嫌いって言ってましたっけ
「それゃそうだろ、俺にだって11歳の娘がいるし、考えてもみろ11歳の俺の娘の事でテンカワアキトぐらいの歳の男に」

「お嬢さんを僕にください!!」

「とか言われたら、どうする?」
それゃ、普通断りますな(苦笑)
「だろ、だからこっちのテンカワアキトも、『犯罪』はやめとけよ、俺だったら、娘がちゃんと成長するまで待つ程度の自制心が無い奴に娘はやれんぞ(笑)」

だそうだよ〜、『瑠璃とルリ』のアキト君〜(にやり)

ずでっ

あっ、あっちでこけてる(笑)

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「ううっ、ラストの方で少しだけ出番が有るのに誰も触れてくれない僕って(T_T)」



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