現在、日本時間で10月20日の午後11時です。
どうして日本時間なのかというと、単に日本人、日系のクルーが多いから。
建前は、サセボドッグが母港だから。
ま、どっちでもいいんだけど。

ブリッジには今、副長と私しかいません。
部署毎に多少違いますが、ブリッジは3交代制です。
私は今日Bシフトなので、後30分でお仕事終わり。
Cシフトのメグミさんと交代の予定です。

最近、どうもイネスさんとアキトさんの様子が変。
昨日も食堂で何だか落ち着かないみたいだったし。
いつもは私が食べてる間、にこにこして見てるのに、昨日はそそくさと厨房に戻っちゃって。
それに、イネスさんが最近ウリバタケさんと何かこそこそ話し合ったり、C.C.Rでアスカ・インダストリーと連絡をとるのも頻繁。
何だろう。
何か問題でもあったのかな。
聞いてみたいんだけど、話してくれるまで聞いちゃいけない気もして。
そう、家族って言ってくれたんだから、私もアキトさんたちを信じなきゃいけない。
そう思います。
だから、話してくれるまで待たなきゃ。
気になるけど、必ず話してくれると思うから。

人のことが気になるって、以前の私だったら考えられなかったかも。
様子が変だとすら思わなかったかもね。

「ルリちゃん、どうしたの?」
あ、メグミさんです。
もう交代の時間ですか。
考え事をしていると時の経つのが早いです。
「いえ、何でもありません」
「そう?ここんとこ戦闘続きで疲れてるんじゃない?ごめんね、明日はもうちょっと早く交代するから」
「いえ、大丈夫です。戦闘も大規模なものじゃないし」
「うん、あんまり大きな戦闘はやだよね。それだけ沢山の人が死んじゃうし。木星蜥蜴みたいに無人兵器作れればいいのに」
「そうですね。でも、無人兵器同士の戦争って、決着つかない気もしますね」
「そうね。あーあ、蜥蜴さんもいつまでこんなこと続けるんだろ。あ、ごめんねルリちゃん、上がっていいよ。ゆっくり休んでね」
「はい。では、後をお願いします」
メグミさんとこんなにお話するのも初めてじゃないかな。
以前だったら気を使ってもらうこともなかった気がする。
これって、いいこと、ですよね。

自室に戻った私は、どさっとベッドに転がり、オモイカネに聞いてみます。
「オモイカネ。今日は秘匿通信あったの?」
《いえ、記録にありません》
「そう・・・」
切断と同時に全てを消去するように言ってあるから、オモイカネも覚えていない。
やっぱり気になるけど。

「木星蜥蜴の計画って・・・」
いつまでも気にしてるとまた無限ループになりそうなので、私はさっきのブリッジでのメグミさんとの会話に意識を戻します。
木星蜥蜴。
2年前に突然木星方向からやって来た正体不明の無人兵器。
チューリップからうじゃうじゃ出てくる、あれはボソンジャンプ。
イネスさんもそう言ってました。
誰も気づいてないみたいだけど、第2次火星大戦のデータはチューリップ5基から、600以上の艦船と5000を超す無人兵器が出てきたとあった。
ただの入れ物だったらそんなに出て来る訳ない。
ネルガルや軍は気づいているかも知れない。
目の前で出てくれば信じざるを得ないだろうし。

ナデシコと同じテクノロジーを使っているのなら、ボソンジャンプを知っていてもおかしくない。
極冠遺跡の技術を持っているということだから。
でも、目的は一体なに?
どうして火星を最初に狙ったんだろう。
もしかれらの目的が地球であるなら、第2次火星大戦に注ぎ込んだ戦力を地球のチューリップに回したはず。
火星の遺跡なのかな?
それもおかしい。
既に相転移エンジンを持っているのだから。

でも、それ以上の技術が遺跡にあるのかも。
まあ、イネスさんなら知ってるんでしょうね。
説明するために隠してるんでしょうけど。
それならここで考えたって仕方ないよね。

「オモイカネ、例の映像、見せて」
《今日はどのバージョンにしますか》
「ん・・・今日は学園編で」
《了解》
オモイカネがCGを流す。
成長していない私とアキトさん。
ほんと、よくできてる。
面影も残ってるし。
ふあ・・・今日も気持ちよく眠れそう・・・おやすみなさい、アキトさん・・・。





「グラビティブラスト、チャージ」
艦長が指示を発します。
「了解、グラビティブラストチャージ開始」
「テンカワさんとリョーコさんはエネルギーラインに注意しながらブローディアとナデシコの中間に展開。ラインを断たれないようにして下さい」
『了解!』
「敵艦隊、レーダーに捕捉」
「イズミさんはナデシコの防御を。ヤマダさんはヒカルさんのバックアップで先行」
『りょうか〜い』
『任せろ!博士!』
「はあ・・・あの方は本当にゲキガンガーですなあ」
プロスさんがぼやいてます。でも、スカウトしたの、プロスさんですよね。
「艦長、2機だけで先行させるのはマズイのでは?」
戦闘以外では影の薄いゴートさんが、艦長の左隣りでスクリーンを見ながら言います。
「いいえ、あの2人なら大丈夫。最前線じゃないんですから。前衛の部隊との回廊を確保する方が大事ですし」
とか何とか言ってるうちに、戦闘は始まって。

ナデシコは第2艦隊第14防衛隊旗艦ブローディアの真横、結構深いところにいるからそれほど激しい攻撃に晒されてる訳じゃないんだけど。
ま、要するに旗艦の護衛みたいなもん。
ナデシコに守らせれば安心だろうとでも思ってるんでしょう。
そんな消極的な考えしてるから膠着状態が続いてるんだと思うんだけどな。

「圏外からチューリップ来ます!大きい!」
メグミさんが悲鳴のような声をあげます。
ブリッジ全員が、メインウィンドウに目を凝らします。
息を呑んで見守る中、次第に黒い闇から姿を表したのは大型のチューリップ。
ルーティンワークの気分で戦闘してたんだけど、どうやら敵さん、まじみたい。

でも、これはマズイです。
「イネスさん」
『見てるわ。・・・マズイわね。来るわよ』
私は急いでイネスさんのコミュニケを開き、小声で連絡を取ります。
「これでボソンジャンプは・・・」
『真実を明かさなくても、事実は認めざるを得ないわね』

そうしているうちにも、チューリップの先端が6つに割れ、中から艦隊を吐き出していきます。
ブリッジは固唾を呑んで、その光景を信じられないという表情で見守り、
「な、何よ、何でこんなに入ってるの?」
ミナトさんが緊張に耐えかねたように声を出します。

「入ってるんじゃありません。出てくるんです」
「ルリルリ?」
「ルリちゃん?」
「出て、来る・・・?」
「・・・一体どこから・・・」
ミナトさん、艦長、副長、ゴートさんが驚きながら私を見ます。
これでボソンジャンプそのものがばれるわけではありませんし、
「ぼんやり見てるだけでは、ナデシコは沈んでしまいます。現状認識とその適切な対処だけで充分のはずです」

私の一言でブリッジが元に戻ります。
「そうだね、ルリちゃん!・・・メグミさん、前線の戦況報告を!」
「あ、はい!出撃中のエステバリスは3割が消滅、母艦は健在です」

戦況は悪化していきます。
ナデシコクルーは何とか正気に返って健闘していますが、数の違いは如何ともしがたくて。
私も敵旗艦を策敵して、何とかハッキングを仕掛けようと思っているんですが。
まだオモイカネも慣れていないので、上手くいきません。
「敵なおも増大」
え?これは・・・?
「イネスさん」
『どうしたの?』
「チューリップよりボソン反応増大、識別信号が『カキツバタ』と一致する戦艦が来ます」
『来たわね・・・・・・生体反応は?』
「確認できません。来ます!」
イネスさんの質問はわかります。
チューリップを通り抜けたと言うことは、恐らく中のクルーは・・・。

「何あれ?!」
艦長の眼がチューリップに釘付けになってます。
チューリップを固定映写していたメインウィンドウには、ゆっくりと現れるナデシコ級の白と赤のツートンカラー、カキツバタが映し出されています。
「カキツバタ?!」
全員が声を揃えます。
「どうして・・・?」
既にブリッジクルーは全員頭の中が真っ白のようです。
無理もありません。
信じられない光景をこの短い時間で2度も目撃したのですから。
「生体反応・・・」
ありません、と言いそうになった私の口が開いたまま止まってしまいました。
「ええっ??!!」
カキツバタがグラビティブラストを乱射しながら、連合軍と合流しようとしています。
けれども、視認できるだけでも満身創痍、ディストーションフィールドも弱いようです。
「カキツバタが・・・木星蜥蜴と戦ってるってことは・・・」
艦長が呆然としたまま、呟きます。
私にも信じられません。
私とアキトさんが遺跡に行けたのはナノマシンがあったから。
どうしてカキツバタが・・・。

「前方よりグラビティブラストの斉射、来ます」
「ミナトさん!」
「こんなの避けきれないよ〜!」
束になって迫るグラビティブラスト。
「きゃあっ!」
大きい揺れがナデシコを襲います。
慣性中和が効かないくらいの。
でも、そのおかげでクルーの意識が戻ります。
「状況報告!」
「ディストーションフィールド出力65%にダウン。左舷ディストーションブレードに被弾、中破。負傷者ありません」
「メグミさん、エステバリス隊を下げて!ルリちゃん、艦隊の被害状況は?!」
「ブローディアが被弾、小破です。艦隊戦力の60%が消滅」
カキツバタに気をとられていたのは、連合軍とナデシコだけ。
木星蜥蜴は敵か味方か、の判断しかしないようで、唖然としている間に、かなり戦力が落ちています。
これは、かなりピンチです。
でも、ナデシコがなくなったら、アキトさんの帰るところがなくなちゃう。
何とかしなきゃ。でも・・・。

『ルリちゃん!大丈夫?!』
「アキトさん!・・・何とか大丈夫です。だけど!」
『旗艦の位置はわかった?』
「はい、それは何とか・・・でも、ハッキングまでは・・・」
『そうか・・・。艦長!』
「え?あ、はいっ!」
『ナデシコは一時後退して戦域を離脱して下さい。旗艦は俺が叩きます』
「ええっ?!」
「正気かっテンカワ!」
『おいっ!てめえ、おいしいとこどりすんじゃねえっ!』
ヤマダさん、グラビティブラスト撃ちますよ?
ブリッジクルーも白い眼で見てます。
でも、それどころじゃありません。
『おい!テンカワ!無理言うんじゃねえ!お前独りで辿り着けるわけねえだろう!』
リョーコさん、この乱戦の中でも通信を聞いていたようです。
リョーコさんの言う通りです。
「イネスさん!イネスさんもアキトさんを止めて下さいっ!」
私もミナトさんも大変な状況になってます。
攻撃を避けるのに精一杯で、アキトさんを説得する余裕がないんです。
ですから私は、慌ててイネスさんに呼びかけます。
ですが、コミュニケからの応答はなく、代わりにブリッジで声がします。

「やるのね。アキト」
『姉さん・・・ごめん、でも俺ナデシコを・・・』
アキトさんの呼び掛けに全員が「えっ?」という顔をします。
「行ってらっしゃい。あなたの守りたいものを守ればいいわ」
『ありがとう。姉さん』
私も一瞬、思考が止まります。
視界の端で副長が慌てて、サブオペレートのコンソールに向かうのを認めましたが、
「アキト、さん・・・?」
『ルリちゃん。俺、ルリちゃんを守りたい。ナデシコを守りたい。もう自分の身の安全ばかりを考えて誤魔化し続けたくないんだ。だから、行くよ』
「・・・・・・」
『大丈夫。ちゃんと約束したろ?ルリちゃんと一緒にいるって。帰ってくるよ、姉さんとルリちゃんのいるナデシコに』
そう言うと、ウィンドウのアキトさんは小さく呟きます。

『ジャンプ』

突然消えたエステバリスに、ブリッジが驚愕に包まれる中、私はイネスさんの服を掴んで叫んでいました。
「どうして?!どうして行かせたんですかっ?!エステバリスに乗ったままなんですよ!」
イネスさんは落ち着いて私を引き剥がすと、
「大丈夫よ、ルリちゃん。C.C.は積んであるわ」
・・・えっ?
「ほら」
イネスさんの指の先に、14の瞳が集まります。
戦域表示に映る、『AESTE00―TENKAWA』の文字。
そして、消えていく赤い光点。
「ええっ?!・・・・・・敵旗艦撃沈しました・・・」
メグミさんの声が驚きから、だんだんと細くなって。
「ほら!あなたたち!こんな所で死にたいの?!」



そうして、短く、長い戦闘は終わりました。















アキトさん・・・。
どうしてアスカのことまで言ってしまったんですか?
「ルリルリ」

ミナトさん、心配してくれてるのはわかるんですが・・・。
今は誰とも話したくありません。

「ホシノ・ルリ。わからないって顔してるわね」
イネスさん・・・。
「・・・わかりません。どうしてアスカのことまで言う必要があったんですか」
アキトさんは全てを話してしまいました。

火星から地球へやってきたこと。
イネスさんに幼い頃から面倒を見てもらった、実の姉以上の人であること。
アスカ・コーポレーションの諜報部員であること。
ボソンジャンプができること。
古代火星の遺跡について。

ただ、イネスさんがアスカと接触したこと、私にジャンパーの可能性があることは言いませんでした。
その後、プロスさんや艦長に連行されたアキトさんに代わって、イネスさんが技術的な説明をして。
さすがに、いつものような説明ではありませんでした。
イネスさんとアスカのこと、私のことを言わなかったのは、アキトさんの優しさ。
自分だけで罪を被ろうという。
そして、私を守ろうという。
でも、どうしてアスカのことまで言ったのか、それにカキツバタの生存が明らかになった以上、どうして私のことまで隠したのか、納得いきません。

私はアキトさんに守ってもらうだけの存在なんですか?
私だってアキトさんを守りたいと思っているのに。
アキトさんにとって、私はやっぱり守りたいだけの妹なんですか?
私は、アキトさんのこと・・・。

「ルリちゃん、直接聞きなさい。アキトはきっと答えてくれるから」

「そうでしょうか・・・」
でも、アスカのことを明らかにすることは、ナデシコを降りること。
アキトさんは私から離れたいんでしょうか・・・?

「ルリルリ」
ミナトさん・・・。私、アキトさんの気持ちがわかりません。
「ルリルリ、アキト君のこと一番信じてあげなきゃいけないのはルリルリでしょう。彼がアスカの諜報部員だってわかって、クルーも動揺してるわ。今、一番しっかりして、彼を守ってあげなきゃいけないのはルリルリじゃないの?」
「でも・・・」
確かに、クルーは暗い目をしています。
一緒に戦ってきた戦友が、ライバル企業のスパイだったわけですから。
「私は信じてる。だって、ルリルリが好きになった人なんだから」
「そうね。ミナトさんの言う通りよ。今ナデシコを、アキトを救えるのはあなただけなのよ」
ミナトさんもイネスさんも、小声で話しかけます。

そう、ですよね。
私、アキトさんが好き。
アキトさんを守りたい。
一緒にナデシコを守っていきたい。

「・・・はい。ありがとうございます」
こんな言葉が素直に言えるようになったのも、あの人のおかげだから。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




20 Changeable fate and Unchangeable ・・・・・・

ボソンジャンプ。火星先史時代の遺跡。アスカとネルガル。カキツバタの生還。
様々な想いで、ナデシコは揺れていた。









次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


《あとがき》

佳境?!佳境なのか?
「自分でもわからないとは・・・やれやれ、君も相当なばかだねえ」
あ、あの・・・びしばし勝手に出演しないでください、アカツキさん。
 


b83yrの感想

今回の感想ゲストキャラは、『瑠璃とルリ』より疑惑の人、アキト君です(笑)
「疑惑って(汗)」
心配するな、君がロリコンなんかじゃない事は、よく解かってるから(にやり)
「そのにやりは、なに?(汗)」
でもまあ、君が犯罪者かどうかは別の問題だけどね(にやり)
「うっ(汗)」

さて、とうとう佳境に入りそうな展開ですが、アキト君はどう思います?

「おっ、俺は別にロリコンじゃなくて相手が瑠璃だから・・・ブツブツ」
「俺だって悩んだんだ、迂闊な事言ったら瑠璃にロリコン、変態扱いされるんじゃないかって、でも、瑠璃はどんどん綺麗になってくるし・・・・ブツブツ」


お〜い、アキト君、人の話はちゃんと聞く様に
「えっ、いっいや、その(汗っ)」
「いっ、いやあの、こちらのアキトも早くルリちゃんに・・・・でないと他の男にルリちゃんを取られる・・いや、そうじゃなくて(汗)」
ほうほう、つまり、『瑠璃とルリ』の世界では、他の男に瑠璃さんを取られたくなくて、焦ったと(にやり)
「悪いかっ!!(赤)」
いえいえ、別に悪くはありませんよ(にやり)


さて、これ以上、問い詰めるとアキト君の名誉に関わる問題も出てきそうなので、これまでにしておきましょう
しかし、感想になってないな、これ(苦笑)

次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送