テニシアン島へ戻ったら、何か変でした。
夜だからよくわからなかったけど、あんまり時間が経ってないみたいなんです。
星の位置とか・・・。
コミュニケの時刻を見たら、遺跡へ行ってから2分しか経ってませんでした。
遺跡の時間って、通常空間とは違うみたいです。
アキトさんもわからないみたいだったので、そう結論付けちゃいました。

そうそう、アキトさん。
この呼び方、お気に入りです。
メグミさんもそう呼んでいるところは気に食わないんですけど。
テンカワさん、より文字数が短い分、呼びやすいですよね。
そうです。それだけです。
深い意味なんかありませんよ。

ま、折角なので、この際、呼び方はこっちにすることにしました。


それから、ナデシコに戻って。


「アキトさん〜?!」
ブリッジクルーが合唱します。
「へぇ〜ルリちゃんそんなに仲良くなっちゃったんだ〜」
「テンカワさん・・・契約書・・・」
「ふふふ。一緒だね、ルリちゃん」
別に嬉しくありません。
メグミさん、できれば呼び方変えてくれませんか。
「う〜ん、テンカワ君・・・ちょっと後でいいかな。どうやって女の子を振り向かせるかについて・・・」
聞こえてますよ、副長。
あんまり変なことにアキトさんを巻き込まないでください。
『おお〜〜?ルリルリ、赤くなってるぞ〜』
ウリバタケさん・・・余計なこと言わない方が身のためですよ。
少女を怒らせると恐いんですから。
『おや、ルリ坊。照れてるのかい?』
ホウメイさんまで・・・。
って、何で格納庫や食堂にブリッジの様子が流れてるんですか?

・・・・・・愚問でした。
ここにいないのはイネスさんだけですね。
私を出し抜いてオモイカネを制御するとは・・・さすがです。
もちろん、後で覚えておいてください。

「ルリルリ〜」
うっ。
まずいです。
ミナトさんは強力すぎます。
自分のことより私の好きな人を作ることに一生懸命な人ですから。
「・・・何ですか」
あ、声、裏返っちゃいました。
「ふふ〜ん、何があったのかな〜」
「別に何も」
「そっか。アキトく〜ん」
「ちょっと、ミナトさんっ!」
ミナトさんが冷やかされて真っ赤になってるアキトさんに声をかけます。
それにしても、2人で行って来いって、送り出したの皆さんですよね。
もしかして後でからかうためにやったのかな。
「なあに、ルリルリ。私がアキト君と話すのは嫌なわけ?」
「そ、そういうわけでは・・・」
「なら、いいじゃない。アキト・・・」
「わっわかりました!後で話しますから」
「そう?じゃあ、ご飯食べたらお茶しよっか」
アキトさんもミナトさんには弱いんです。
にこやかに女らしさを振り撒きながら、あの手この手で攻め立てられますから。
女性と母性と、天真爛漫の全ての女の武器を最大限に活かす・・・効率的な攻撃方法ね。
だからアキトさんでは速攻、攻略されちゃいます。
ま、仕方ないですね。
遺跡でのことを除いて話しておけばいいでしょう。










さて、と。
今日もナデシコは戦っています。
残存するチューリップ掃討は連合軍に任せて、月奪還戦に参加してるんです。
シャクヤクやカトレアほどではないにしても、ナデシコの装備は最新鋭にふさわしいものです。
簡単に片付けられるかな、と思ったのが大間違い。
油断大敵。
蜥蜴さんたちも、いつまでも旧式ではないのよね。
火星守備にも戦力を割かなければならない連合軍、一気に全力攻撃とはいかなくて。
地球では結構楽に倒せてたバッタやジョロも、そもそも宇宙用だから以外に苦戦させられてます。

『ちいっ!効かねえっ!』
リョーコさんが舌打ちします。
『無人兵器も進化してるのよ。遠距離射撃じゃ効かないわ』
『なら、ど突き合いってことだな!それなら、任せとけ!』
『俺様に銃なんかいらないぜ!行くぞ!ゲキガン・・・』
ぷち。
ヤマダさんはいいです。
暑苦しいから。
『ルリちゃん』
「はい。何ですか、アキトさん」
アキトさんのウィンドウは開きっ放しです。
ええ、もちろん、「家族」になにかあったら大変だからです。
ミナトさん、私がアキトさんって呼ぶたびににやにやするの、やめてください。
『旗艦の位置を教えてくれ』
「少し待ってください・・・」
さっきからやってはいるんですが、乱戦ぎみで少し遅れてます。
無人兵器や戦艦群をコントロールするのに、やはり電波を使ってはいるらしく、それを追っていく作業なんですけど・・・。

「・・・出ました。アキトさんと相対位置で0-4-1です。データ、送ります」
『ありがとう』
そう言って、旗艦の位置を確認すると、フィールド出力を全開にして突っ込んでいきます。
イズミさんとヒカルさんが援護しながら後に続きます。
最近はこのパターンが多いですね。
リョーコさんとヤマダさんが殴りあいに夢中じゃ、しょうがないですけど。
戦闘方法が変わったんだったら、オモイカネに言ってアキトさん用の攻撃サポートプログラムを変更しなければ。

後ろに爆発を引き連れながら、敵旗艦に肉薄すると中和ミサイル発射、ディストーションフィールドが薄くなったところへ侵入してラピッドライフル掃射。
フィールド内部に入り込んでしまえば、外装はただの強化装甲ですからね。
旗艦が爆発すると同時に、艦隊の動きが鈍くなります。
『みんな!今の内に無人兵器を!』
アキトさんが叫ぶと同時に、リョーコさんとヤマダさんの攻撃が熾烈になり、あっという間に撃墜数が300を超えます。
ほんと、殴り合いが好きよね。


こうしていつも通りの戦闘が終わるんですが。


「これじゃあ、ただの消耗戦ね」
月戦線に加わって2ヶ月、前みたいに士気の低下はないものの、一進一退の膠着状態がこれ以上続いては、クルーの疲労度も無視できません。
そこで、滅多に使わない会議室で作戦会議。
「そうですなあ。ミサイルにしてもエステバリスの部品にしても、ただではありませんからなあ」
イネスさんに続いて、プロスさんが電卓を叩きながら渋い顔をしています。
「ナデシコだけなら戦果はあがってるんですけどね」
「でも、ジュン君。連合軍全体でみたら結構やられちゃってるんだよね」
「エステを供給しているとは言え、IFSをつけてる軍人は火星防衛に回されてますから。IFS端末を外したエステは機動兵器とは言えませんし」
「でも、そのおかげで随分稼いでるんでしょ」
「ま、まあ、それはいいとして、とにかく、連合軍が戦力増強でもしてくれなければ、ナデシコ1隻では限界がありますからな」
イネスさんの皮肉に焦って話を進めようとしてますが。
確かにネルガルは大儲けよね。
IFS操作のいらない量産エステって言ったって、一番お金のかかるとこ取り外してるんだから、コストなんて小型戦闘艇にちょっと上乗せするくらいなもん。
火星戦線でエステの実力を信じきってる連合軍は発注を続けてるし。
連合軍って、もしかして、ばか?

「今のところ、ナデシコ自体に被害がないのはさすがというところね、艦長」
「えへへへ〜」
艦長が喜ぶ脇で、副長まで嬉しそうです。
「とは言え、このまま殴りあいを続けても、経費が嵩むばかりで・・・」
「どうせ軍から貰ってるでんしょ」
「それはそうですが、全額じゃありませんからなあ」
「こんなに長期間任務になるとも思わなかったから、人件費もバカにならないってところかしら?」
イネスさん、するどい突っ込み入れまくってます。
機嫌悪いんでしょうか?
プロスさんがあんまり可哀想なんで、助けてあげましょうか?
と、思っていたら、整備班代表で参加していたウリバタケさんが不敵な笑いを浮かべてます。
「ふっふふふふふ。どうやら俺の出番らしいな」
いえ、別に。
「何か作ったんスか、セイヤさん」
戦闘班からはアキトさんが参加してます。
『え〜、俺頭使うの苦手なんだけど・・・』
って断ろうとしてましたけど、だからと言って他のパイロットが参加しても変わりませんから。
余計な熱血ばら撒いたり、拳で勝負だなんて言われたり、同人誌の原稿描き始められたり、寒いギャグで会議室凍らされたりしても困りますから。
全部、実際にあった話ですしね。

アキトさんは裏の話より、目に見える武器の方が興味あるみたいですね。
「おうよ!良くぞ聞いてくれました!」
そう言ってスクリーンにエステを表示します。
全員の視線が注目するのにしびれてないで、早く話進めて。
「これ、ですか?」
艦長がエステが手にしてる槍みたいのを指して聞きます。
「おう!ディストーションフィールドを中和させる、『フィールドランサー』だ!こいつの先端部をフィールドに突き刺して刃先を開放させてだな・・・」
「なるほど、中和ミサイルが不要になるということですな。経済的にみても効果的です」
「殴り合いがいらなくなる分、エステの部品節約にもなりますね」
「へえー、かっこいいっスね」
皆さん、ウリバタケさんの話を最後まで聞かずに感想を言い合います。
ちなみに上からプロスさん、副長、アキトさん。
アキトさんはやっぱりアキトさんですね。
「そんで、重力制御システムへの負荷をかけて・・・」
「ほえ〜、凄いですね〜」
「まあ、効果はありそうね。理論的にはまだ改良の余地があるけど」
誰も聞いてませんね。



作戦会議と言っても、連合軍第2艦隊の指揮下にあるナデシコとしては作戦行動自体を提案できる立場ではありません。
あくまでお手伝いですから。
無謀な作戦に対する参加拒否権は持っていますが、ウリバタケさんの新作で経費が削減できそうなので、当分はこのまま協力していくということで。
プロスさん、人件費はまだまだかかりそうですよ。
後は今後の作戦概要の確認と、シフトの再調整で終了。
解散しましたが、私とアキトさんはイネスさんに呼び止められて医務室に来ています。

「・・・相変わらず医務室じゃないよな・・・」
「・・・そうですね。何か、増えてませんか」
いっそのこと、完全に研究室、もしくは魔窟でオモイカネに登録しちゃいましょうか。

「あなたたち、『説明』聞く気があるの?」
「いや、それは・・・」
「『話』なら聞きますよ」
イネスさん、恐い顔してますね。
「まあ、いいわ。今回は真面目な話だから。ルリちゃん、オモイカネの調子はどう?」
「え?好調ですけど」
「そう。話って言うのは、オモイカネのことについてなんだけど」
「何かあったのか?」
「あった、のではないわ。オモイカネのバージョンアップをしたいの」
「でもオモイカネは最新版です。あれ以上のコンピューターは軍にもネルガルにも存在しません」
「そう。軍やネルガルには、ね」
「アスカ、か?」
「不正解よ、アキト。アスカが作ったプログラムをネルガルのコンピューターに積める訳ないでしょう」
アキトさんも私も、話がよくわかりません。
それなら、イネスさんが開発したとでも言うんでしょうか。

そんな私たちを見て、
「ルリちゃん、本当にわからないの?」
・・・ネルガルでもアスカでも、ましてや軍でもない。
すると・・・

「・・・遺跡・・・?」
「正解。遺跡だって魔法じゃないんだから、作ったもののロジックに従って動いてるはずよね。完全に把握するのは不可能だけど、ある程度だけ解析に成功したわ」
「・・・すごい・・・」
「あら、この私を誰だと思ってるのかしら?」
イネスさん、簡単に言うけど・・・。
「地球のものでない概念構造を解析するなんて・・・」
IQ160なんて大したものじゃないんだなって。
やっぱり、
「単なる説明おばさんじゃなかったんですね・・・」

・・・はっ!
お、思わず・・・。

「ルリちゃん・・・後で話つけましょう、ね」
「あ、ね、姉さん、それで、遺跡の技術でオモイカネの能力を上げるってことなんだろ?」
な、ナイスフォローです、アキトさん。
「そうよ。確かにオモイカネは優れたコンピューターよね。戦艦のオペレーターを1人で済ませられるようにほとんどの処理を自動で行ってくれるんだから。だけど、その間に入力もしなければならないし、処理されたデータとは言え膨大な量よね」
「はい。だからIFS強化体質でないと、通常時はともかく戦闘時の処理は難しいです」
「そうよね。北極海では艦長と副長、連合大首席と次席が2人がかりで艦内制御で手一杯だったもの」
「姉さん、その話は・・・」
アキトさんが気遣ってくれます。
でも、
「大丈夫です。反省は充分済ませましたから」
マニュアルじゃナデシコの制御は相当大変だったはずです。
お2人とも笑ってくれましたが。
グラビティブラストの充填だけはしておいたので、何とかミナトさんが発射してくれたみたいですが。
「でも、あなたには遺跡のナノマシンが入っている。だから北極海の時のように特殊な状況下でなければ、それほどの負担にはなっていないはずよね」
「はい。でもそれで、オモイカネをどうするんですか」

なかなか本題に入らないので、ちょっと焦れて聞きます。
「その能力を敵艦のハッキングに使うってことよ」
「それなら、今までも試してます。でも、木星蜥蜴のプログラムは地球のものとは・・・」
「だから遺跡のを使うんでしょ」
「あ・・・」
「わかったようね」
「でも、どうやって遺跡のロジック・コードを解析したんですか?遺跡本体はネルガルと軍が厳重に保護していて手が出せないはずなのに」
「ああっ!」
え?
何でアキトさんがそんな頓狂な声を挙げるんでしょう。

「俺が持って帰ったんだよ。遺跡本体には近づけなかったから、その辺に転がってる資材を適当にね」
アキトさんが笑って答えます。
「これを持ってね」
イネスさんが取り出したのは、私の写真?

はい?

きょとんとした私に、イネスさんがお得意の説明をしてくれます。
「外部からの干渉を遺跡が妨害しているから、この間まで遺跡の仮想空間に入れなかったのよ。でも、テニシアン島で行けたでしょう。そのジャンプができるかできないかの違いは、ズバリ、ルリちゃんよ」
「はあ。私のナノマシンですか?」
「違うわね。ボソンジャンプはイメージ伝達で行うもの。あなたはジャンプする時イメージしなかったでしょう。まあ、アキトのイメージ伝達を増幅するくらいはしたかもしれないけど」
「じゃあ、何ですか」
「アキトのイメージの強さの問題でしょうね。ナデシコであなたに会って、アキトの仮想空間へのイメージが強くなった。多分、ルリちゃんと過ごした一瞬がよっぽど強い思い出になってたんでしょうね」
「うん、あそこで他の人に会ったことなんてなかったから。意識は感じるんだけど、実際に人間を見たのって後にも先にもあれっきりだしね」
・・・ちょっと照れてしまいますね。

「まあ、それでルリちゃんの写真でもあればイメージ伝達は上手くいくんじゃないかって、姉さんが言うもんだから、ミナトさんに貰ってさ」
「遺跡に跳んで、ちょこっとサンプルを持ち帰ってもらってたってわけ」
「ネルガルや軍も、中心部までは到達できてないみたいだったからね」
「まあ、それでも解析には苦労したけど。やはりテンカワ博士の研究資料がないのは痛いわね。ネルガルに資料と資材の交換でも持ちかけたらいいんだろうけど、それはちょっと、ね」
そんなことしてたんですか。
私が気づかないなんて。
あ、そうだ。
「オモイカネ」
《はい、ルリ》
「あなたは知ってたの?」
《はい。ドクターに言われて監視システムを一時カットしましたので》
まあ、医務室の監視システムをカットするくらいなら艦長権限がなくとも・・・。それでもやっぱり侮れない人には違いないようですね。
「それで、あなたはプログラム更新に賛成なの?」
《はい。危険はないと判断します》

「それで?どんな風になるんだ?」
アキトさんはまた知らされてないみたいですね。
イネスさんを信じきっているというか、うまく利用されているというか。
「さっきも言ったでしょう。敵艦のシステム掌握よ」
「でも、掌握って、どうなるんだ?」
「まあ、簡単に言ってしまえば、行動不能に陥らせてマニュアルに変えさせる。うまくいけば相手の火器管制をのっとって、こちらの武器として使う・・・まあ、ここまでうまく行くとは思えないけど」
「ここのところの戦闘で、旗艦が各戦艦へ艦隊コントロールを行っているのは確かですね」
「無人兵器にもコンピューターは積んであるから、ある程度独自に判断して動くけれど、戦艦からのサポートがないとやはり動きが悪くなるわね。エステだってそうでしょう」
「そうすれば俺たちも多少戦いやすくなる、か」
「そうですね。今日くらいの小規模な艦隊ならまだしも、大規模な艦隊でこられたら、第2艦隊とナデシコだけじゃピンチです」

こうして、ウリバタケさんに実作業はお願いして、オモイカネに新しく木星蜥蜴へのハッキングシステムを搭載したんですが・・・。
後から考えると、この時既にイネスさんは気づいていたんですね。
木星蜥蜴の正体に。










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




18 Fighting and new arms

月戦線は膠着状態が続く。嵐の前の静けさのように。









 

次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


《あとがき》

ルリさん、ルリさん。
「何ですか?」
イネスさんの話の中でもそうですけど、結構大事なこと見落としてますよね。
「そう?」
だって、6話で・・・

さくっ。

「ふう。こんなところでネタばれしてどうするんですか。それはちゃんと3・・・」

すこん。

「ホシノ・ルリ、あなたもよ。こら、ばからいる、あんたもいい加減にしときなさい!」

うぐ・・・エリナさん、どうしてあなたがここに・・・
それにしても・・・こんなのばっかり。ぱた。
 
 

b83yrの感想

ミナトさんって、TVの時点でもし本気でアキトの争奪戦に参加してたらあっさり勝負つけてそうだよなあ(笑)
ナデシコのクルー達が、みんな目立たないようでもしっかりと堅実に働いているようで
やっぱりこういうのは良い物です


 

次話へ進む

Mono〜の部屋// らいるさんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送