『ルリちゃん!』
「はい、進路クリア、テンカワ機発進準備OKです」
『よし!テンカワ機、出るぞ!』

テンカワさんのピンクのエステが空戦フレームで出撃します。
以前のエステは私がグラビティブラストで壊しちゃったから、予備のエステのカラーリングを変えただけのものです。
他のパイロットはエステから少し離れてしまっていたので、出撃するまでテンカワさん独りで時間を稼がなければなりません。

『ルリちゃん!状況は?!』
艦長がコミュニケで聞いてきます。
ボートを高速で走らせているので時々画像が乱れ、音声も小さくなったり。
「テンカワさんが出撃中です。敵は1機のみ」
『そう、もうすぐ着くから、それまでテンカワさんのサポートお願いね!』
大丈夫です。
テンカワさんのサポートは任せてください。
ずっと見てきたせいか、操縦や攻撃パターンの癖まで把握してますから。
「オモイカネ」
《テンカワ機へのサポートプログラム送信完了》
「よくわかったわね」
《当然》
オモイカネってこんなキャラだっけ?
ま、いいです。

それよりも、今はテンカワさんのサポートに徹しなきゃ。
この間のミスみたいなことは絶対しません。
『ルリ!出るぞ!』
リョーコさんが通信を送ってきます。
「はい。お願いします。敵は・・・」
『なんだ、こりゃ!』
私がリョーコさんに状況説明をしようとした時、テンカワさんからコミュニケが入ります。
何か、驚いてるみたいですね。
切迫した感じじゃありませんから、大丈夫だと思うけど。
「どうしたんですか」
『あ、ルリちゃん・・・こんなのどーしろってんだ?』
後半は私に、じゃないわね。
「オモイカネ、テンカワ機のモニター映像を」
忘れてました。
これがあったのに。
一瞬後、出てきた敵映像を見て、私まで言葉を失っちゃいました。



・・・・・・・・。
なにこれ。

ゲキガンガー?

木星蜥蜴って、ゲキガンガー好きなの?

『おい、ヤマダ!これはお前の担当だろ!』
テンカワさん、陸戦で移動中のヤマダさんに呼びかけます。
『何?!そうか!そんな熱い奴が出てきたんだな!』
熱い・・・あなたにはそうかも知れませんが・・・。
『ルリちゃん』
「はい。何ですか、イネスさん」
『チューリップにボソン反応は?』
「ありません」
『生体反応は』
「それもありません。・・・生体?」
『そう・・・』
何だか、イネスさん深刻そうですね。
私の疑問にも答えようとしません。
いつもなら喜んで説明してくれるのに。
『テンカワ!大丈夫か・・・って、何だあ?』
あ、リョーコさんたちが追いつきましたか。
やっぱり絶句してますね。
無理もありません。
出てきたのが、エステの3倍はあろうかという『ゲキガンガー』じゃね。

「ルリちゃん、お待たせ!状況報告・・・なにあれ」
ようやくブリッジに到着した艦長と副長。
2人も水着のまま固まっちゃいました。
皆さん、戦闘中なんですけど。





結局、チューリップは運搬用だったみたいで、後から来た連合軍に引き渡しました。
ゲキガンガーは何だか勝手に力尽きちゃって、攻撃するまでもなく倒れこんじゃいました。
一体、何なの?

もっとよくわからないのは、ネルガルの指示。
「捕獲したら手を触れずにそのまま、オーストラリア支社の研究所へ運べとのことです。いえ、私もそう言ったんですけどね、まあまあ、そう仰らずに、我々は単なる1社員ですから・・・艦長の仰ることはよくわかってますが、ここはひとつ穏便にお願いしますよ」
艦長とウリバタケさんが大いに噛み付いてます。
プロスさんは冷や汗たらたらで防戦一方。
・・・ゴートさん、手伝わないんですか?
ナデシコが捕獲したものを、一切手を触れずに寄越せってのはないよね。
そりゃ、戦闘なんてしなかったけど。
「漁夫の利って言うんだっけ?」
「テンカワさん、違いますよ」
「へ?じゃあ・・・火事場泥棒?」
「近いかも知れませんけど」
「う〜ん・・・」
私とテンカワさんは、間抜けな会話で傍観中。
・・・とんびが油揚げさらうって言うんだっけ。

一応、連合軍と協力体制とってるとは言え、ナデシコはネルガルが私有する戦艦。
全員ネルガルの社員です。
ま、上からの命令には逆らえないってのもわかるけど。
戦闘ログまで消して寄越せってのは、オモイカネが納得してくれるかな。

「やっぱりね・・・」
不意に呟く声が私の耳元でします。
驚いて振り返ると、イネスさんが何か、怒ったような表情でプロスさんと艦長たちのやりとりを眺めてました。

やっぱり?

こうなることがわかっていたってことですか?

イネスさん、さっきからおかしいですよ。





揉めに揉めた後、何とか艦長たちを宥めすかしてほっとした表情のプロスさん。
代わりに遊び時間の延長を引き出した艦長が、皆から拍手喝采を浴びてます。
でも、遊びったって、もう夕方ですよ?
いくら南国でもこれから海に行くんじゃ危険すぎません?艦長。
「こんな時間になって延長しても、あんまり意味ないんじゃないかなあ。ね、ルリちゃん」
「そうですね」
「折角2人で遊びに行こうかと思ってたのにね」
「・・・そうですね」
そうです。
折角テンカワさんと遊びに行くはずだったのに。
あ、別にそういう意味じゃないですよ。
ただ、休憩がもらえるのは嬉しいじゃないですか。一般的に。
そ、そう、一般論です、あくまでも。


と、思ってたら、艦長、こっちへ向かってきます。
「テンカワさん、ルリちゃん、2人で行ってきていいよ」
「へ?」
「え?」
はもってしまいました。
エ段でちょうど良かったですね。
「だって、ナデシコを守ってくれたのは2人だもん。戦闘はなかったけど」
はあ、まあ、確かに戦闘はなかったですけど。
「皆が遊んでいる間もナデシコを守ろうとしてくれた、そのお礼だと思って、ね」
「そういうこった。ま、こんな時間じゃ海にゃ入れないだろうけどな。景色を楽しむんだったら昼間よかいいんじゃねーか?」
ウリバタケさんも加わります。
何時の間にか、集まってる皆さん、私たちの方を見て笑っています。
何か、恥ずかしい。
「ルリルリ、ナデシコはちゃんと私たちが守ってあげるから、いっといで」
「ルリちゃん、良かったね〜、アキトさんと2人きりで」
め、メグミさん、何を言ってるんですか!
「あ、赤くなった。テンカワ、おめーも隅におけねーな!」
「ちょ、り、リョーコさん!・・・」
「テンカワさん、契約事項は守ってくださいね」
「何言ってんスか!プロスさん!」
「ルリちゃん、がんばれ〜」
ヒカルさんまで・・・。
「ルリルリ、俺の作った痴漢撃退用リリーちゃん、一緒に連れてくか?」
「ウリバタケさんっ!あなた、またそんなもの作ってたんですか!」

テンカワさんもおたおたしてましたが、イネスさんの、
「行ってらっしゃい。・・(ごにょごにょ)・・」
で、決心したみたいです。
何言われたんでしょう。

「じゃ、お言葉に甘えて」
そう言うと、私に手を差し出します。
「さ、ルリちゃん、行こう」


既視感。


初めて会ったときもこうして手を差し伸べてくれました。
初めて触れた暖かい手。
今でも覚えてます。

クルーにヒューヒュー言われながら、私もそっと手を握り返します。

やっぱり変わらない。
ちょっとごつごつしてるけど。
テンカワさんの手、です。










テンカワさんと私は、エステでテニシアン島に上陸しました。
でも、
「ここは?テンカワさん?」
皆が遊んでたビーチじゃありません。
テンカワさんは黙って私を抱え上げると、エステから降ろします。
やだ、心拍数が上がってる。

「ちょっと上り坂だけど、大丈夫?」
そう言って私に微笑みかけます。
「大丈夫です」
「よし、じゃ、行こうか」

短い夏草が夕暮れの潮風になびいて。
葉の裏がきらきらしてます。
ちょっと息を切らせながら歩く私に、歩調を合わせてくれるテンカワさん。
初めて会った時も、ゆっくり合わせてくれましたよね。
テンカワさんは覚えていなくても、私はよく覚えてますよ。

もうちょっとで上りきるかな、という時。

「わあ・・・」


急に目の前が開けて、凪いだ海が広がります。
青から緑、赤と溶け合うように変わる空に、オレンジの太陽が浮いて。
鮮やかな姿を海に落とす。
紺の絨毯に流したようなオレンジの線。

足元が浮くような気持ち。
このまま空に飛んでいってしまいそう。
優しいオレンジの光が風と溶け合って、体の中を吹き抜けていく。

この空と海の中で生命が息づき、それは太古から変ることのない悠久の営み。
生まれ、育まれた彼らは、その死の前に再び新しい命へと受け継ぐ。
感じることのできない時間の中で、その細い糸は途切れることなく連綿と受け継がれてきた。

私は声もなく、遥か昔から変わらない風景を見つめています。



次第に光が細って。
空に濃いブルーが広がっていく。



太陽が水平線に姿を隠すまで、私はじっと立ってました。





「気に入ってくれた?」
テンカワさんの声に気づいた私。
でも、しばらくは声も出ません。

「はい。とっても」
ようやく声を絞り出しましたが、まださっきの感動から抜けきれません。
「そう。良かった。ブリッジからこの岬が見えたからさ。きっと凄い景色なんだろうなあって思って」

辺りは夜の色に包まれ、頭上には星が太陽に変わって存在を主張するように輝きはじめます。
私たちは岬に座って、月明かりに照らされた海を眺めています。
潮騒が子守唄のように静かに流れて。
何だろう、不思議な気持ち。

白い月明かりに長く伸びたテンカワさんの影と、ちょっと小さな私の影。
その影の周りの草が、潮風で波打つ。
涼やかな風が頬にあたって。
テンカワさんが横にいることに安心しきった私。

「ルリちゃん」
しばらくした後、テンカワさんが私に言います。
「前に、俺言ったよね。ルリちゃんは家族みたいなもんだって」
風に乗ってテンカワさんの言葉が運ばれてくる。
「はい」
「ルリちゃんは俺たちのこと信じてくれるかい?」
「どうしてそんなこと聞くんですか?」
当然のように尋ねる私に、テンカワさんが笑顔を向けます。
白い月明かりに照らされたテンカワさんの笑顔。
私はまた既視感に竦め取られそうになってしまいました。

「ルリちゃんと会ってからもうすぐ半年だね」
関係ないことを話し始めるテンカワさん。
私は黙っています。
だって、出会ってから本当は・・・。
「火星に着いて、姉さんと会って、ルリちゃんは変わったよ。ルリちゃん自身は気づいてないかも知れないけど」
「いえ。わかってます。今まで私はネルガルの言う通りに働くだけの人形でしたから」
そこまで言うことなかったかな。
テンカワさんが少し寂しそうな目をしています。

そうですね。
この人は自分のことより他人の気持ちに敏感ですから。
他人の痛みの方が、自分の苦しみよりわかる人だから。

「でも、テンカワさんとイネスさんが私を家族にしてくれました。まだ、ミスばっかりしてるけど・・・」
「そんなことないよ」
「でも、私、テンカワさんを死なせそうになったり・・・」
「ルリちゃん、変だなあ。そういうミスを補い合うための家族だろ?」

そうか。そうなんですね。
家族の温もりを失ったものにしかわからない、支えあう気持ち。
きっと、いる人たちも持ってるけど、当たり前すぎて考えたりはしない。
でも、家族がいない人間は、考えなくちゃ気づかないことも多いんですね。

「・・・はい。そうですね」
「うん。そうだよ。反省したんだったら、それでいいんだよ」
相変わらず優しいです。
「でね、ルリちゃん。本当はもうちょっと大人になって、色んなこと経験するのを待つつもりだったんだけど」
何の話でしょうか。
「さっき姉さんに言われたんだ。1つは『ルリちゃんに思い出を作ってあげなさい』で、もう1つは」
テンカワさん、何故か言い難そう。

「『ルリちゃんに真実を告げなさい』」

え?
真実?

疑問符しか浮かばない私の手を取って、テンカワさんが呟きます。



「ジャンプ」










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




16 Vacation

2人の体をナノマシンの紋様が走り、青い粒子が包み込む。
次の瞬間、岬には人影はなく、潮騒だけが変わらぬ音を響かせていた。










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《あとがき》

「うふふふふ」
・・・・・・。
「ふふふふふ・・・これは、次回アレですね」
・・・・・・。
「きっとアレでしょう。アレに相違ありません。いえ、必ずアレです」
・・・・・・絶対やらない。

がす。





≪お詫び≫

えーと、すいません。(いきなりかよ)
誤字のご報告をいただきました。
やばい!と思って見直してみたら、出るわ出るわ(苦笑)。
不特定多数の読者の皆様に、そんな推敲不十分のSSを晒していたことをお詫びいたします。
注意を自分に促すために、訂正せずにおいとこうかと。
そんくらい直せよ!ってご意見もあるかと思いますが、どうかご寛恕ください。

 

b83yrの感想

b83yr的にはアレでもOKなのですが(おいっ)
誤字か、私も結構してるな(汗)

しかし、12歳のルリとの仲を冷やかすナデシコクルー・・・・・ほんと〜にいいのか?(笑)
まあ、実際にはアキトが信頼されてるって事だろうが
本気で12歳のルリ相手にアレなアキトと思われていたなら二人っきりになんてさせないし(笑)

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