さて、と。
これで最後。
「オモイカネ、調子はどう?」
《良好です。感応速度も凡そ3%アップしています》

ナデシコはサセボドッグに帰ってきました。
ここを出てから1年ちょっと。
久しぶりの帰還です。
テンカワさんが来る頃までは、なんだか何でも屋扱いでクルーもだれて大変だった。
戦勝に浮かれていたのも最初だけで。
特にスキャパレリ・プロジェクト就任艦である、シャクヤク・カキツバタが出来てからはそんなに変わらないのに旧式扱い。
目標ができたのは良かったんだけど、火星への先遣隊って、単なる捨て駒?って感じで。
イネスさんは『企業の論理なんてそんなものよ』とか言ってましたけど。

何とかかんとか、火星に辿りついて、生存者発見。
133人も生き残っていたことに驚きましたが、私は別のことでびっくり。

怪しい人間だと思って監視していたテンカワさんが、古代火星人の技術をその身体で受け継いだジャンパーだった、ということ。
姉であるイネスさんを助けるために、アスカ・コーポレーションの諜報部に入ってナデシコに潜伏したこと。
イネスさんが語った事実。
2人とも、結構過酷な人生送ってきてたのよね。
血は繋がっていないけど、あの2人は唯一の肉親。
この宇宙で自分たち以外に、血を残す人間はいない。

ちょっと、羨ましかったのかもしれませんね。
私が初めて泣いた意味は。

そのテンカワさんは、この整備休暇を利用して速攻アスカ本社へ飛んでっちゃいました。
あ、もちろんボソンジャンプじゃなくて。
色々報告があるみたいで、3日はかかるって言ってたから、帰りは明日でしょう。
そんなに早く戻らなくたっていいのに。
どうせナデシコには誰もいないんだから。

イネスさんも一緒に行きました。
一応、お礼くらいは言っとかないと、ってところです。
アスカの諜報部も結構無理したみたいですから。
この後については、テンカワさんは今まで通り、ナデシコに乗るそうです。
イネスさんは、まだ決めてないみたい。
まあ、あの人の性格だから、ヨコスカ研究所の設備にころっといかされちゃいそうですけど。

他のクルーの皆さんも、大体下艦して実家に帰ったり、遊びに行ったり。
契約更改が地球への帰途であったんだけど、2、3名を残して皆さん更改したのにはびっくりよね。
去年、地球を転戦してた時は文句たらたらだったのに、火星で生存者を発見したことがやる気に繋がったのかしら。
単純よね。

で、私。
火星で結構オモイカネに無理させちゃたから、調整で残ってます。
どうせ帰るところなんてないし。
実家、って人間研究所になるのかな。
でも、今の私の家といえばナデシコだけです。
特に何かして遊びたいってこともないので、オモイカネをいじってる。
まあ、そんなところ。

整備を終えたらナデシコは再び地球各地を転戦することになります。
具体的には、地球各地に打ち込まれたチューリップを破壊して回る、お掃除やさんってこと。
どうやらネルガルってば、連合軍に遺跡の情報を出したらしく、地球とお月様ほったらかして主力艦隊を火星奪回に向けちゃいました。
私たちが火星を後にした6日後。
木星蜥蜴の大攻勢があって、火星に着いたナデシコ級・連合軍同盟との間で第2次火星大戦の火蓋が切って落とされました。
ネルガルが受注した結果、グラビティブラストやディストーションフィールドを装備した相転移式戦艦を配備した連合軍、前回の借りを返さんとばかりに大張り切り。
加えてネルガルの戦艦も最新式の多連装グラビティブラストを装備したシャクヤクと、多連装あ〜んど速射式グラビティブラストに強化フィールドまでくっつけたカキツバタ。
ハリネズミみたいにグラビティブラストを拡散発射する、ドッグ艦コスモス。
ナデシコでも広域放射はできますが、その更に上をいきます。
大気圏では相転移エンジン効率が下がるとはいえ、エステバリスも散々売りつけたらしいし。

はっきり言って、楽勝。
ありていに言えば、よゆー。
ぶっちゃけ、ぼこぼこ。

ネルガル、大儲け。
連合軍も体面保ってほっと一息。
って結果に終わったみたいです。

ただ、問題が。
戦闘後、カキツバタがチューリップに吸い込まれてしまったんです。
どうやら戦闘能力を過信しすぎたみたいで。
単独行動で敵をなぎ倒してたら、木星蜥蜴が物量作戦。
あれよあれよという間に押されて、そのまま口開けて待ってたチューリップへ。
折角助けた火星の人たち、私たちがやったことって無駄になっちゃたのかなって少しブルー。
ま、それはこれ以上考えてもわからないことです。
せめて分散して乗せていたシャクヤクの人たちだけでも、無事でいてくれれば。

それにしても。
ネルガルも商魂逞しいっていうか何と言うか。
もう5番艦作って火星に送り込んじゃってるんだもの。
ナデシコ級5番艦、カトレア。
どーでもいいけど、何で花の名前なの?

その後は連合軍とネルガルが、今度は遺跡を巡って大喧嘩するんじゃないかと期待したんだけど(もちろん、単なる野次馬根性です)、木星蜥蜴の次の侵攻に備えて協力。
ま、同床異夢、呉越同舟、どーせ戦争終わったら夫婦喧嘩で一家離散、ってなことになるんだろうけど。
ともかく今のところは蜜月関係。
火星の生存者も残りたいって希望者もいたりして、現在ユートピアコロニー跡に基地作ってます。

そのとばっちりで。
地球と月が手薄になっちゃったもんだから、ネルガルが、「ナデシコ使って掃除しちゃってよ」と言わんばかりに放り出されちゃった、ってわけ。
連合軍もネルガルも、火星のオーバーテクノロジーが最優先、みたい。
ほんと、大人って嫌。

それでも連合軍は結構頑張ってたみたいで、地球のチューリップは相当減ってます。
これなら、ナデシコと残存艦隊で何とかなるかな、ってくらいには。
で、地球のお掃除が終わったら今度は多分、お月様。
地球・月・火星の制空権を確保しちゃえば、後は持久戦に持ちこんでその間に遺跡を解明できれば地球側の勝利。
確かにそうなんだけど。
でも、木星蜥蜴も同じようなテクノロジー使ってるってことは、あちらさんにも遺跡みたいなのがあるってことじゃないのかな。
そう簡単にいかない気がするんだけどね。










近況報告はこれくらいにして、と。
明日にはテンカワさんが戻ってきますが、それで私、ちょっと落ち着きありません。

と言って、ミナトさんが良く口にする『恋』ではありません。
だって、私まだ少女ですから。

落ち着かないというか、落ち着くというか。
落ち着かない理由は、明白です。

テンカワさんが7年前の事を覚えていないから。
あれはきっぱり、夢じゃありません。
それは研究所のデータを見ればわかります。
消えた私に大騒ぎしたんですから。
それに、テンカワさんと繋いだ手の感触だってよく覚えてます。
感覚が明瞭に残る夢なんて、聞いたことありません。
だから、あれは夢じゃないんです。
ええ、それはもう絶対に。

しかも、その記録はもう私の生活の一部です。
私の人格の一部を作っているといってもいいかも知れません。
なのに。
私ばっかり覚えてて、あんなに非日常的な出来事なのにも関わらず、あの人は覚えていない。
不公平です。
思い出させてあげたいです。

でも、覚えてないってはっきり言われるのが怖くて、まだ言い出せません。
言葉に出されちゃったら、それは最後通牒だから。
この、聞きたいけど聞けないって不安定な状態が、テンカワさんがいるだけで私が落ち着かなくなる原因です。


落ち着く理由は、よくわかりません。
いくら私でも、感情を理論化したり数値化したり、は困難です。
特に自分自身のは。

今の私は、なんだか変な気分です。
興奮気味。
どうしてか。
当然、アキトさんとイネスさんの秘密を知ってしまったから。
しかもそれは私にも関係のあることみたいだし。
やっぱり子供なのかな。
あの話を聞いている時、私は少なからず興奮状態にあったのではないでしょうか。
皆はどう思おうと、私だって人並みに驚いたり、嬉しかったり、悲しかったり、怒ったりします。
だから、自分の知識を超えた話を聞いて好奇心が湧いたことは想像に難くない。
残念なのは、あの時の私の身体データをオモイカネに測定させていなかったこと。
もしちゃんと採っていれば、後から分析することもできたのに。
残念です。

まあ、原因分析は難しいけど、現状の把握は簡単です。
私はテンカワ・アキトが気になっているということ。
どういう気になり方なのか。
一緒に居ると落ち着く効能ありってことで。
でも、同時に落ち着かなくなったりもするので、そっちの方の原因を早く取り除かないといけないんだけど。
今は、それでいいんじゃないかな。
ナデシコの戦いはまだ続きそうだし。










いい加減、退屈だな。
誰もいないナデシコになって、既に3日。
ほんと、戦闘ないのはいいことだけど、あんま平和すぎるのも考えものよね。
こんなに暇だと、考えなくていいことまで考えちゃうみたいです。私の頭。

と、言っても、今の私が気にかけてることって1つしかない。
テンカワ・アキトとイネス・フレサンジュ。
これだけです。
もっと沢山あったら飽きずに済んだかもしれませんが、生憎これ以外は売り切れ状態。
で、仕方なくそればっかり考えてます。
考えることは好きだけど、この問題ばっかりはちょっとうんざり。
なぜかと言うと、これって無限ループだから。

イネスさんの話は割と簡単に片付くんだけど。
火星・ボソンジャンプ・遺跡・C.C.・チューリップなどなど。
学問の範疇は私、割と得意な分野ですから。

でも、事がテンカワ・アキトになると、もういけません。

あの人は初めて会ったときのこと、覚えてるんだろうか。
あの人と一緒にいると落ち着くのは何故だろうか。
どうして私は、こんな気分になってるんだろうか。

こんなの、答えが出るはずないんだけど、それでも考えてしまうのはIFS強化体質の悪影響ですかね。
ネルガルももうちょっと考えて欲しいものです。

テンカワさんと会えば、何となく、何かが解決するような気がするんですが。



そう言えば、一番重要なことを忘れていました。
ちょうどテンカワさんも戻ってきましたし、はっきりさせておきましょう。

「テンカワさん、ブリッジで最初に会ったとき、どうして眉をひそめたりしたんですか」
あ、困ってますね。
頭掻きながらそっぽ向いたってだめです。
今日こそはっきりさせるんです。
でないと私、気になって仕方ないんですから。

「あ・・・それは、その・・えっと・・・」
何ですか。
本当にはっきりしない人ですね。
男らしくすぱっと言って欲しいものです。

「あのう・・・」
何なんですか、もう。
いい加減苛々してきました。

「どうしても言わなきゃだめ?」
当然です。
私がどれだけむかついたか、わかってないみたいですね。
言わなければオモイカネにまたテンカワさんの部屋を・・・

「うっ・・・わかったよ・・・」
わかればいいんですよ。
私だってこんな強硬手段には訴えたくないんですから。



・・・面白いですね。
よくああも表情が変るものです。
筋肉、調べてみたい気がする・・・って、もう、まだですか?

「そのう・・・ルリちゃんがあんまりきれいだったもんだから一瞬呆然としちゃって・・・」
・・・は?
どういうことですか?

「いや、だから、こんな可愛い子が乗ってるなんてって・・・」
・・・可愛い?・・・って・・・。
・・・・・・私が、ですか?

「う〜ん、ルリちゃんあんまり自分を意識したことないだろう」
それは、そうです。
そんなことは自意識過剰な人がやればいいんです。

「ルリちゃんってね、一般的な女の子で考えても目を引くほど可愛いんだよ?」
・・・・・・・。

「で、まあ可愛いとかは別としても、そんな子を戦艦に乗せるネルガルって何なんだよ、って思ったから」
・・・・・・・。

「?・・・ルリちゃん?」
・・・・・・はっ。
な、何でしょう、テンカワさん。

「いや、何でしょうって言われても・・・」
ああ、いえ、何の話でしたっけ?
・・・そうです、ええっと、私が可愛いって話・・・で、いいんですよね。

そ、それならいいんですよ。
ええ、まったく問題ありませんから。
まあ、テンカワさんにそういう趣味があったことは皆さんには内緒に・・・

「ちょ、ちょっと、ルリちゃん!そういう趣味って、俺は単に一般的な見解をだね・・・」
ああ、そうそう、イネスさんにも勿論内緒ですよね。
そうですね。
テンカワさん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。
私、こう見えても少女漫画とかで結構勉強したんですから。
こんなシーンも見慣れてます。
ええ、大丈夫なんです。
それで、何の話でしたっけ?










機動戦艦ナデシコ
another side

Monochrome




10 A momentary rest and a little changes…Ruri

火星への航海、そして彼らとの出会いは、確実に少女を変えていった。











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《あとがき》

「あ、ルリちゃん。いらっしゃい♪約束のもの、持って来てくれたの?」
「ええ。アキトさんを諦める代償ですからね。どうぞ」
「わあ!アキトそっくりい〜」
「当然です。イネスさんにお願いして遺伝子レベルで弄くってもらいましたから」
「ほんとにもらっちゃっていいの?」
「どうぞ、遠慮なく」
「でもでも、ナデシコCは大丈夫なの?」
「副長の1人や2人、どうってことありません」

憐れなり・・・木連人・・・(合掌)
 



b83yrの感想
本当にそれで良いのか?、後書きユリカ(苦笑)

アキト君、ルリに誤解されているのでしょうか?(苦笑)

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