テンカワさんの経歴詐称事件（？）から、私はオモイカネと彼の監視を続けています。
とにかく目的がわからないことにはどうにもなりません。
考えられることは、
①テンカワ・アキトは実は別人である
②テンカワ・アキトはネルガルのＳＳである
③テンカワ・アキトはライバル企業のスパイである
④テンカワ・アキトはお茶目さんだから皆をびっくりさせようと思っている
⑤テンカワ・アキトは単なる密航者である
経歴が違う理由なんて、このくらいです。
そのうち、
①ホシノ・ルリの記憶力から言っても同一人物である
②あり得る
③あり得る
④・・・・・・あり得る？
⑤コンピューターに詳しければあり得る
影響としては、
①なし
②ネルガルが何か悪巧みしてる
③ナデシコの情報が漏洩する
④・・・・・・
⑤火星に行きたいだけ、もしくは愉快犯
今後の行動として考えられるのは、
①なし
②ネルガル本社と連絡
③ライバル企業と連絡
④・・・皆を驚かす？
⑤火星に着いたら満足
「・・・オモイカネ」
《何でしょう。ルリ》
「この、④って、消してくれない？」
《・・・了解》
何でそんなにさびしそうな色合いでウィンドウ表示するんですか。
邪魔なものは邪魔なの。
仕方ないでしょう。
さて、では、ホシノ・ルリが取るべき対策は、と。
①なし
②・③できる限り通信傍受
④皆にばらす
「・・・・・・」
《・・・・・・》
「オモイカネ」
《・・・・・・》
「リセットしちゃいますよ｣
⑤取り敢えずほっといてもいい
そうしたら、①と⑤だったら別に構わないんだ。
④は置いといて、②と③だったら。
②なら何も問題ない。
幾らネルガルでも、社員乗せた船を爆破、なんてことはしないだろうし、そんなことしても利益はない。
ただ、本社の方で何らかの動きがあって、ナデシコを捨石で使うってことも考えられる。
その場合、ナデシコが情報をつかむ妨害に派遣されたと考えられなくもない。
③も同様かな。
あり得るとしたら、クリムゾンかアスカ、マーベリックくらいだけど。
今のところ特定はできそうにないですね。
どちらにしても自分の身に危険が及ぶような行動は採らないはず。
だから彼が単独行動を採ろうとした時が一番危険。
それに、どちらの場合も火星まで1ヶ月半、連絡なしに過ごすとは思えないから、どこかで通信はするはず。
と、言う訳で。
私はオモイカネと一緒にせっせと監視活動に勤しんでるってわけ。
別に、テンカワさんを庇ってるわけじゃない。
艦長やネルガルの人たちに知らせないのは、私の記憶という曖昧な証拠しかないから。
名前だけ本名を使うなんて惚けたことしてるわりに、改竄の仕方は見事なのよね。
登録された経歴も証拠作り、しっかりしてるし。
その辺はプロ並の鮮やかさ。
いくらこれが本当のデータなんですって言ったって、DNAデータまでしっかり嘘の経歴証拠に使ってあるし、私が見つけたデータの方にはそんな証拠は一つもない。
ナデシコに乗ってるテンカワ・アキトが履歴データにある年に、火星にいたと言う証拠は何もない。
それだけです。
だから、ここは私が一人でやるしかない。
それに、結構色んなクルーと仲良くなったテンカワさんと、煙たがれている私とでは、どちらを信じるかなんて目に見えてますし。
あ、別にそれを悲観しているわけではないですけどね。
あんまり五月蝿くされるよりも快適だし。
そんな訳ですから、オペレーターとしての契約条項に則って今日もテンカワさんの監視です。
艦内カメラで行動を確認して、怪しい動きを見せたらその録画を保存しておく。
と、思っていたんですが、中々尻尾を出しません。
今日も、朝6時に起床。
・・・割と早いんですよね。
私はこの時間に起きることができないので（どうしてできないかは少女の秘密です）、この後の自主トレーニングだけはオモイカネの記録のみ。
戦闘班の皆さんと朝食を採って基礎トレーニング。
ヤマダさんと一緒にやってることが多いみたいですね。
午前中一杯を基礎体力作りに使った後、シャワーを浴びて昼食。
昼食を採った後は戦闘シミュレーション。
ここから、リョーコさんたちも合流して。
今日の結果は10戦7勝。
結構強いです。
「オモイカネ、ちょっと、このIFS拡大して」
私は今日、昼シフトだったので、夜オモイカネの取った記録を確認しているのですが。
ちょっと変なものを見つけてしまいました。
「このIFS、何か違う・・・」
テンカワさんの右手。
形は全く同じものです。
違うのは、リンク中の光。
シミュレーション中は函に入っているので、中の様子はわかりませんが、ハッチが開いた時、まだ端末に手を置いていたため、IFSが光っているのが見えたんです。
普通、私のもそうですが、パイロット用でもIFSはリンク中様々な光が横に走ります。
けれど、ちらっと見えたそれは、白く輝いていて、それが収束する時も走査光が徐々に減って行くのではなく、外周から回転するような光の収束でした。
明らかに、他のパイロットの皆さんとは違います。
コックピット内にいる時は、IFSまで見えません。だから戦闘補助をする私も気づかなかったみたいです。
ま、そうでなくとも、私、テンカワさんにコミュニケ繋ぐときはそっぽ向いてるから気づかないだろうけど。
とにかく、このIFSは何でしょう。
IFSを使用した機体の最先端企業であるネルガルでも、開発した話なんて聞きませんし。
これは調べてみる必要がありそうです。
問題はどうやってテンカワさんに近づくか、ですね。
さすがに映像だけではIFSのリンクシステムや使用ナノマシンまで調べることはできません。
どうしましょうか・・・。
ま、それは後で考えるとして。
今は先に進みましょう。
あんまり夜更かしすると肌が荒れちゃいますから。
さて、夕食です。
私は今日も販売機でハンバーガーで済ませちゃいましたが、この人、どんなに時間がなくても疲れていても、必ず食堂へ行きます。
それで、本当に嬉しそうに食べるんですよね。
そりゃ、私だって好物なら嬉しいけど。
あそこまで食事で喜べるなんて、何か、随分と簡単な人なんですね。
夕食は焼き魚定食。
うん、あれは結構、すきかも。
私の嗜好はほっといて、次、行きましょう。
夕食の後はナデシコ浴場で入浴。
さすがに覗けません。
いえ、やろうと思えば私とオモイカネなら、このナデシコで覗けないところなんてないのですが、少女の羞恥心がそれを許しません。
だから、次はお風呂上りからです。
ヤマダさんに引っ張られて行きますね。
あ、部屋に引きずり込まれました。
IDケースからディスクを取り出すと、やけに旧式なロードマシンに入れます。
・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・アニメ、ですか。
私の趣味じゃありません。
と言って、テンカワさんの趣味でもないようで、必至に脱出を試みますが、その度に大泣きしているヤマダさんに組みつかれて、ことごとく失敗しています。
それにしても、うるさいアニメです。
あ、今聞き慣れた（それも何か、嫌）台詞が。
ヤマダさんが出撃の度に叫んでる『ゲキガン・なんとか』ってこれが元ネタだったんですね。
謎が一つ解けました。
思わぬ収穫ですが、不明点は解決された方がいいに決まってます。
さて、ヤマダさん、あなたもういりません。
何も起こらないようなので、一気に早送り。
ようやく解放されて、自分の部屋へと戻るテンカワさんが映し出されます。
時刻は・・・今から20分ほど前ですね。
通路ですれ違う夜勤の方々と軽く挨拶しながら、疲れた体を引きずるように帰っていきます。
そりゃ、疲れるでしょうね、あんなのに2時間も付き合わされたら。
本当はテンカワさん、ヤマダさんと2人部屋の予定だったのですが、ちょうど一部屋空いていたのとヤマダさんの生態に詳しいヒカルさんの『ヤマダ解説』によって、直前に1人部屋に変更されたんです。
よかったですね。
さて、テンカワさん、部屋に到着です。
IDカードをスキャンすれば自動点灯するはずなんですが、真っ暗です。
個人設定できますから、人によっては手動にしてるみたいですが。
いるんですよね、独り暗い部屋に閉じこもるのが好きな人。
21世紀前半に急増して社会問題にまでなったとかならなかったとか。
研究所で「東洋史」の時、学びました。
ええっと、たしか・・・冬ごもり、じゃなくて・・・山ごもり、も違うし・・・。
ま、いいです。
歴史より、今はテンカワさんの監視です。
動きがないようですね。
既にリアルタイムになっているんですが。
ベッドに仰向けに寝転んだまま、眠るでもなく、天井をじっと見つめているだけです。
ん？
「オモイカネ、拡大」
写真、ですか。
こちらからは何の写真かわかりません。
「オモイカネ、集音最大にして」
『・さん・・・必ず・・・よ・・・』
何か言ってますね。
『姉さん・・・必ず助けるよ。今度は俺がきっと・・・』
・・・・・・・・・。
姉さん、って、姉のことですよね。
あの人のことでしょうか。
『イネス・フレサンジュ』
火星で一緒に暮らしていた人。
助ける、ということは？
今現在、生命の危険に晒されている？
火星の生存者はいない、という公式報告が出されていますが。
生きてる、ってこと？
それをテンカワさんが知っているのは、どうして？
今度は、っていうのも。
前に助けられなかった。
前は自分が助けられた。
前者なら、『今度こそは』って意味。
後者なら、『俺が』にかかる言葉。命の恩人ってことになる。
その人が火星にいる。
だからナデシコに乗った。
でも、自分のことは知られたくない。
または、知られたらナデシコに乗ることができなかった。
だから経歴偽ってまでナデシコに乗ったってこと？
確かに敵の勢力下にある火星まで単独で行ける戦艦なんて、ナデシコか、姉妹艦たちしかありません。
そうまでするほど大事な人ってのはよくわかりますけど。
一緒に暮らしていた家族のはずですから。
あれ、でも。
家族、ならどうして苗字が違うの？
『テンカワ』と『フレサンジュ』
日本人とフランス人、ですよね。どう考えても。
そう言えば孤児院に入った後、イネス・フレサンジュに引き取られたってあったし・・・。
・・・・・・もう。
どうしてこの人はこんなに問題ばかり投げつけるんでしょう。
それに。
薄暗くてよくわからないんだけど、あの後の顔。
あんなに辛そうなテンカワさんを、初めて見ます。
いつもは冷たくしてる私にまで笑顔で接する人なのに。
何か、私まで苦しいです。
どうしてでしょう。
でも、取り敢えず私の負けみたいですね。
あんな表情されちゃ、これ以上はちょっと・・・。
いいですよ、ちょっとだけ疑いを解いてあげます。
ちょっとだけ、ね。
機動戦艦ナデシコ
another side
Monochrome
06 Night which cannot sleep･･･Ruri's situation
ナデシコは火星に到達する。スキャパレリ・プロジェクトの尖兵として。
そして、彼らを待ち受けていたものは。
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《あとがき》
「他のナデシコクルーが登場しませんね」
「もうちょっとしたらね。だいいち、ルリさんがまだ他人に興味を示していないじゃないですか」
「ユリカさんも登場させなければよかったのに・・・」
「はい？」
「いくらアキトさんを追っかけないからって、油断はできませんからね」
「まあ、そうかも知れませんけど」
「早めに登場した人には早めに退場してもらうってのはどうでしょうね？」
「・・・・・・退場？」
「ハーリー君、グラビティブラスト用意。目標、ミスマル・ユリカ」
「・・・・・・君子危うきに近寄らず、かな（汗）」
b83yrの感想
でも、アキトを追わないユリカって物語への絡ませ方によってはこれ以上は無い程のルリの強敵になりうるけど(笑)
しかし、オモイカネが御茶目だ
ルリちゃん、一歩間違えるとストーカーだぞ(苦笑)
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