『あなた、何もこの子にそんな運命を背負わせなくても』
『だめだ。この子だからこそ託せるんだ。もう時間がない』
『助・・・けて・・・』
『救援はこないのか?!』
『遅かったわね、アキト』
『・・・子供扱いしないで下さい』
『そう。もう時間はないみたいね』
『・・・・・・ずっとナデシコにいてくれますか?』
『理想だけでは木連を導けんよ・・・』
『正義って、何ですか?』
『そんな・・・どうしてだよっ!』
『沈黙がこんなにも優しいものだなんて・・・』
『・・・優しくなんてして欲しくなかった。』
『これからは、あなたの人生を生きて。』
『さよなら・・・・・・・』
『・・・ジャンプ』
真っ白い空間。
蛍光灯の射すような光ではなく、包み込むような柔らかい光。
5年前、父さんと母さんが死んでから、よく来るようになった。
それまでは嫌だったんだけど。
変な機械。
白い戦艦。
何か、大事なものを傷つけられたような、苦しさ。
夢にまで見るようになってしまった、想い、映像。
『・・・は・・・・の・・・、あ・・・・・の手・・・・』
途切れがちな、少女の声。
白い色は、何もかもを失ってしまいそうで恐かった。
ここに来られるようになったのも、取り戻すことが絶対にできないものを失ったからだって、お姉ちゃんが言ってったっけ。
すごく、居心地も悪かった。
まだ暗闇にいた方がよかった。
でも。
父さんと母さんが居なくなってから、ここは何だか優しくなった気がする。
微かに青みを帯びた白い光が、暖かく感じられるようになった。
ここにはぼく一人しかいないのに、たくさんの人の思いが感じられる。
その一つ一つが、懐かしくて、優しい。
声はないんだけど、心が伝わってくる感じがする。
だから、寂しくなかった。
父さんがいなくても。
母さんがいなくても。
ここでぼくはじっとしている。
いつものように。
時間の流れを感じることもなく。
・・・・・・何だろう?
誰もいないはずなのに。
これは・・・?
誰かの声?
・・・・・・泣いてるのかな?
ぼくはゆっくり立ち上がると、時間も距離も感じられない光の中を、声のする方へ歩いていく。
遠くまで見渡せるのか、足元すら見えないのか、そんなこともわからない空間を迷いもなく。
あそこだ。
小さな女の子が座ってる。
でも、何で?
お姉ちゃんも、ここにいられるのはぼくだけだって言ってたのに。
ここで誰かに会うなんて初めてだ。
不思議と恐くないし、落ち着いてもいる。
どうしてなのか、考えるのは止めておこう。
どうせわからないし、考えてどうなるものでもないから。
とにかく、誰なのか聞いてみなくちゃ。
ここは、どこ?
真っ白い光の中で、私は考えている。
どんな状況であろうと考えること。
そしてさいぜんの結果をだすこと。
それが私のソンザイカチってやつだから。
・・・・・・・わからない。
そんな言葉はつかっちゃいけないんだった。
え、と。
まず、まわりに何があるか。
・・・・・・・なにもない。
じゃあ、今はいつなのか。
・・・・・・・時計なんてない。
わかるようなものもない。
なら、ここに来る前のジョウキョウをかくにん。
・・・・・・。
実験してた。
IFSと新型コンピューターのリンク。
このあいだ人間研究所に来てから、毎日やってること。
いつものとおりのこと。
でも、今日はちょっとちがった。
それが終わってから、今のちちが取り出したのは、変な青い石。
実験目的を言ってくれなかったから、どうゆうものかは知らないけど。
それを周囲に5つ並べて、イメージを流し始めたところだった。
研究所のわたしの部屋のイメージなんか流して、どうするんだろう、って思ってたらここに来た。
・・・・・・状況のかいぜんには役に立ちそうもない。
どうしよう。
「ちち?」
「はは?」
「先生?」
声に出して呼んでみるけど、返事なんてない。
ただ真っ白いやみが広がってるだけ。
自分が声を出したかどうかもわからない。
まずい。
変なきもち。
何だろう。
あれ?
誰か、来る?
「君は、誰?」
少年は優しく尋ねる。
少し癖っ毛を立たせ、どこか不自然さを感じさせるブラウンの瞳が女の子を見つめる。
彼の放った声は周囲の光の闇に溶け込んで、何の余韻も残さずに消えていく。
「ルリ。ホシノ・ルリ」
女の子は蒼銀の髪を揺らせて少年を見上げる。
金色の双眸が少年の瞳に出会って、微かに揺れる。
「そう。・・ぼくはテンカワ・アキト。アキトだよ」
そう言って手を伸ばすと、ルリと名乗った女の子の手を引いて立たせてやる。
「どうしてここにいるの?」
手を繋いだまま、立ち上がったルリに聞く。
ルリは首を横に振る。
「・・・わからない」
そう言いつつも、不安を全く表さない金の瞳に驚く。
5、6歳位だろうか。
アキトよりも7、8歳下に見える女の子は非日常の中で、何の動揺も見せない。
「恐くないの?」
思わず尋ねるアキトに、無言の答えが返ってくる。
その様子を見て、アキトは思わず口元を綻ばす。
自分の質問の間抜けさに気が付いたからだ。
(そう言えば・・・)
視線はルリから話さないで考える。
(お姉ちゃんが、『あるべきものがなくて、あってはならないものがある事が一番恐ろしいわ』って言ってったっけ・・・)
彼にとってもルリはいてはならない存在なのだが、彼女にとってもそうだろう。
この空間自体が、彼女にとってあってはならないものに違いない。
さっきの質問には、何が、が完全に抜けてしまっている。
「ここは、どこ?」
微笑みを浮かべたままで立っている少年に、ルリが瞳を向ける。
アキトは確かめるようにゆっくり辺りを見回すと、答える。
「秘密の場所だよ」
「それは、答えじゃない」
表情を変えない女の子に対し、アキトは笑う。
「そうだね」
そして、ふと表情を改めると、
「ここは、存在しない場所。空間ではない空間。ぼくにはそれしか言えない」
そう言うと、遠くを見つめるかのように目を細める。
つまり、彼にもよくわかっていないのだ。
そう結論付けると、ルリはそれ以上の追求を諦める。
次にするべきことは。
「どうやったらここから出られるの?」
情報の収集・環境の把握・現状の認識、それら全てが徒労に終わるとルリは、次のアルゴリズムに従って行うべきことを実践しようとする。
「送ってってあげるよ。お家はどこだい?」
アキトはゆっくりと歩き出す。
ルリの歩幅に合わせて。
「ネルガルの人間研究所」
「ふーん。それって、地球?」
「うん」
「そっか。大丈夫かなあ、心配だけど」
何を心配しているのか全くわからないルリは黙って後をついていく。
引かれた手が暖かいな、と思いながら。
時々、首をかしげながら歩くアキトを見ながら、
(いやな場所じゃない・・・いいきもち・・・)
と、思う。
安心したのか、普段なら煩わしいだけの会話も苦にならない。
と言っても、アキトが一方的に話すだけだから、会話にはなっていないが。
「ルリちゃんはいくつ?」
「5歳、だって」
「・・・だって?・・・ま、まあ、いいや。でもほんとにどうしてここに来ちゃったんだろうね」
「ぼくは時々来てるんだ。何か、安らぐ感じがするだろ?」
「ここには誰も来ないんだ」
「来られないっていった方が正確なんだけどね」
「さっきの話だけど、一応、火星になるのかな。ここ」
「ぼくがユートピア・コロニーから来たわけだからね」
「だから地球に正確に送れるか、心配なんだ」
ルリは歩きながら、『何てよくしゃべる口なんだろう』と思っていた。
勿論、発声器官が原因なのではなくそれを用いるところの人間の成長環境や人格形成過程、それに伴う脳の発達や思考回路が話す内容や話し方、頻度に影響することはわかっている。
だが、テンカワ・アキトという人間がここから抜け出すまではともかく、これ以降のルリに関係してこない以上、興味は彼自身ではなく、彼のよく動く口に向けられていた。
研究所ではこんなに良く動く口を見たことがないから。
「さ、着いたよ」
ルリがやたらと暖かい手とよく動く口に気を取られている間に、アキトは歩みを止めて言った。
周囲を見渡すと、どうやら何も変っていない。
人間研究所はこんなところじゃない、そう思ってふと、隣に立つアキトを見上げるルリ。
ルリの考えを誤解したようで、アキトがこれまで以上に優しく言う。
「大丈夫だよ。さ、ルリちゃん、眼を閉じて、ここに来る直前のことを考えてくれるかな。この辺りが一番イメージしやすいし。それで元に戻れるはずだから」
ルリは誤解を解くのも面倒なので、黙って頷くと、表情を変えずに軽く頭を下げる。
「ありがとうございました。さようなら」
アキトが少し表情を翳らせたような気もするが、眼を閉じる。
ぼうっとし始めた意識の中で、アキトの声が聞こえた気がした。
「またね、ルリちゃん」
ホシノ・ルリは闇に消えた。機動戦艦ナデシコ
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Monochrome
《あとがき》
はじめまして。
らいるです。
この度、管理人様のご好意でこちらに投稿させて頂くこととなりました。
カップリングは・・・・・・って言う必要もないですね(笑)。
この場をお借りして。
投稿をご快諾頂いたb83yr様に感謝いたします。
そして、この短い駄文にお付き合い頂いた読者様に。
b83yrの感想カップリングについては・・まあ、テンカワ・ルリのファンサイトですし(笑)今回は、ルリとアキトの最初の出合いなんですねアキトもなにか重いモノを背負っているようだしプロローグの時点なのでまだ多くの事は言えませんがでは、らいるさん投稿ありがとうございました
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