お互い10年以上もとんでもない夢を見せられて。

お互い現実には全然会ったことさえないのに。

お互い相手に心を奪われて・・・。

なんて、これって、とっても不自然な関係よね。

でも・・・





機動戦艦ナデシコ

  〜 紫苑 「君を忘れない」 〜



Phase 1. 「再会」







地球連合極東地区サセボシティ。その港湾都市の一角を占めるネルガル重工のサセボドック。アキトはそこで、目の前に聳える白亜の戦艦を眺めていた。

両舷より突き出るディストーション・ブレードや正面中央にぽっかりと口を空けたグラビティ・ブラストの発射口などは夢の中で見慣れたそれと同じだが、

そのグラビティ・ブラスト発射口の直上のデッキには210度水平回転可能な二連装レールカノンが縦列に二門装備されており、後部デッキにも同じ砲塔が一門ある。

また、左右両舷にはミサイル発射口が二十門ずつ計四十門、さらに対空防御用の二連装120ミリ砲が両舷十五門ずつ装備されている。

加えて、アキトの位置からは見えないが底部の連絡艇ヒナギクの横に陽電子砲が前後二門ずつ設置されている。

「夢とは少し違うが・・・やっぱり変な形だな」

アキトが呟くと、後ろから聞きなれた声がした。

「いや、これは厳しい意見ですな」

驚いてアキトは声のした方に振り向いた。そこには髪を真中で分け、黒縁のメガネをかけてちょび髭を生やした男が立っていた。

「プロスさん、驚かさないで下さいよ」

アキトは苦笑しながら言った。プロスと呼ばれた男は穏やかな笑みを浮かべながらアキトに近づく。

「いえいえ、驚かすつもりでは無かったのですが」

プロスはアキトの横に並ぶと、同じように目の前の戦艦を眺めつつ言う。

「貴方の夢を参考に、装備を増強するよう開発部に働きかけたのですよ」

その言葉にアキトは眉間に皺を寄せると、探るような目でプロスに問い掛ける。

「・・・どこまで知ってる?」

「ドクターが当社に報告した限り、全てを」

プロスはナデシコを見上げたまま答えた。

二人は暫く無言のまま並んでいた。5分ほどそうしていたろうか、アキトはプロスを一瞥すると不機嫌な表情のまま搭乗口へ向かって歩き出した。

プロスも並んで歩き出す。その顔には相変わらず穏やかな人懐こい笑みが浮かんでいる。

「まずは格納庫からご案内しましょうか」

プロスはそう言うとアキトの前に出てアキトを先導するように歩き出した。

「・・・ふぅ」

アキトは小さく溜息をつくと、肩を少し竦めた。そして観念したようにプロスの後について歩き出した。







格納庫では不思議な光景が展開していた。

「踊ってる?」

「踊ってますね」

アキトとプロスは格納庫を所狭しと踊るように動き回る機動兵器を見て呆気に取られていた。

「こらー!とっととエステから降りねーか!!」

整備班の制服を着てメガネを掛けた30歳ぐらいの男がメガホン片手に踊っている(?)機動兵器「エステバリス」に向かって叫んでいる。

「くぅ〜っ。いいねえ、新型は!この滑らかな動き、最高だぜ!」

エステバリスの外部スピーカーから若い男の声が返ってきた。その声を聞いて、アキトは思わずこめかみを押さえて俯いた。

プロスは表情こそ笑顔のままだが、こめかみにさり気無く青筋が立っている。

「だーっ!そいつはまだ姿勢制御系が調整途中なんだ!さっさと降りやがれ!!」

整備班の男がメガホンで怒鳴る。だがエステバリスのパイロットは全く応じる気配が無い、どころか、スピーカーからは鼻歌まで聞こえてくる。

「よーし、では諸君には特別に俺の必殺技を見せてやろう!」

パイロットの声にアキトの顔が引き攣った。慌ててエステバリスへ向かって走り出す。

「どうしました!?テンカワさん」

プロスもつられてアキトを追って走り出した。

「まずいっすよ、止めないと!」

「しかし、止めるといってもどうやって・・・」

その時、整備員の絶叫が聞こえた。

「人の話を聞けーっ!」

その声をまるで合図に待っていたかのように、エステバリスは低く身を構える。

「やめろーー!」

叫ぶアキト。が、その声も虚しく。

「ガ〜イ、スーパー、ナッパー!!」

叫び声と共に右手を高く突き上げ錐揉みしながら格納庫の天井へ向け飛び上がるエステバリス。が、姿勢制御系が調整途中の機体でそんなことをすればどうなるか・・・。

「お?っわ、わ〜!」

エステバリスは空中で体勢を崩すと大音響と共に背中から格納庫の床へ墜落した。

その様子に足を止め呆気に取られるアキトとプロス。

「かーっ、やりやがった。だから言わんこっちゃない」

整備班の男はメガホンを放り捨てると、倒れたエステバリスに向かって走り出した。

「はっはっは、いや〜、失敗失敗」

エステバリスのコクピットが開き、中から暑苦しい青年が頭を掻きながら顔を出した。

「ガイ!」

アキトが下から睨み上げてパイロットの「名前」を呼んだ。

「げっ、隊長」

ガイと呼ばれたパイロットはアキトに気付くと途端にばつの悪い顔をした。

「お前って奴は、何度言ったら分かる」

「う、うっす」

アキトの咎める声音に冷や汗を流すガイ。いつの間にかコクピットの中で器用に直立不動で立っている。

「後でシミュレーター、フルコースな」

そんなガイの様子に苦笑しつつ、アキトは冷たく言い放つ。

「げっ、マジっすか!?」

ガイの顔が途端に青ざめる。

「ああ、覚悟しておけ」

「うぐぅ」

アキトの容赦ない宣言に、先ほどまでの威勢はどこへやら、ガイは肩を落として項垂れた。

「フルコース、とは?」

二人のやり取りを黙って聞いていたプロスが、おもむろにアキトに尋ねた。

「ああ、エステのシミュレーターには陸戦・空戦・0G戦の各フレーム用にそれぞれ5つのステージが用意されてるんですけど、フルコースっていうのはその全15ステージを休憩無しでクリアするんですよ」

アキトの説明を聞いて、プロスの額に冷や汗が流れる。

「それは、なかなか大変ですな・・・」

「そうですか?俺たちネルガル試験部隊ではよくやってましたよ?」

当然のように言うアキトにガイがコクピットから身を乗り出して叫んだ。

「確かによくやってたけど、クリアできたのは隊長、あんただけじゃねーか!」

「・・・ガイ、フルコース2本が良いのか?」

「いえ、1本で結構であります!」

冷ややかなアキトの言葉に、再び直立不動になって答えるガイ。額には盛大に冷や汗が流れている。

「先ほどから『ガイ』と呼んでおられますが、確かこの方は『ヤマダ・ジロウ』」「ダイゴウジ・ガイだ!!」

プロスの言葉を遮ってガイが叫ぶ。プロスは人差し指でメガネを押し上げながらガイに目をやり、

「おかしいですな、搭乗者名簿には確かにヤマダ・ジロウと」「だからダイゴウジ・ガイだ!!!」

再びプロスの言葉を遮るガイ。プロスの眉がピクリと動く。

「ヤマダ・ジロウとは世を忍ぶ仮の名前。俺の本当の名前はダイゴウジ・ガイ!魂の名前だ!!」

「と言うことです。大目に見てやってください、プロスさん」

「テンカワさん、しかしですな」

「ああ呼ばないと、何にもしないですから、あいつ。腕が一流であれば性格は二の次っていう方針なんでしょ」

プロスはまだ何か言いたそうだったが、アキトの言葉に仕方なく頷いた。

そこへさっきの整備班の男がスパナで肩を叩きながらやって来て、コクピットのガイに向かって怒鳴った。

「おら、いい加減さっさと降りて来い!」

「あ!?降りりゃいいんだろ、降りりゃ」

ガイは男に不服そうな視線を投げると、コクピットの縁に左足を掛けて身を乗り出した。

「ガイ。ちゃんと梯子を・・・」

「とお!」

その様子に一抹の不安を覚えたアキトは、ガイを制止しようと声を掛けたが、次の瞬間にはガイは掛け声と共に宙に舞っていた。

「のわっ!?」

着地の瞬間、ガイは足を滑らせて尻餅をついた。

「へへっ」

照れくさそうに鼻の下を右手の人差し指で擦りながら立ち上がろうとするガイ。だが、なぜかうまく立つことが出来ない。

「おい、おたく、足が変な方に曲がってないか?」

整備班の男が少し引きながらガイの右足を指差す。ガイは恐る恐る自分の右足を見ると、向うずねが途中で外へ曲がっている。

「え、あ、お、い、いってー!」

途端に足を押さえて倒れるガイ。

「こりゃ、折れてるな・・・。おーい、担架だ担架」

整備班の男はのたうち回るガイを見下ろして足の様子を確認すると、顔を上げて集まってきた整備員たちに担架を持ってくるよう指示した。

「はぁ・・・」

アキトはあまりにお約束の展開に思わず溜息をつく。その横を担架に乗ったガイが通り過ぎていく。擦れ違いざま、ガイはアキトに話し掛けた。

「たいちょう。俺の宝物がコクピットに置きっぱなしなんでお願いします」

そう言うとそのまま担架に乗って格納庫から運び出されていく。

「まったく・・・」

アキトはガイの乗っていたエステのコクピットに乗り込むと、シート脇に置いてあるゲキガンガー人形を拾い上げた。

「ゲキガンガー、か・・・」

夢の中のアキトはナデシコではガイと一緒にゲキガンガーで盛り上がっていたが、今のアキトには僅かに感傷に耽る程度のものでしかなかった。

アキトはゲキガンガー人形をジャンパーのポケットに入れると、しっかり梯子を使ってコクピットから降りてきた。そして整備班の男の前で立ち止まると頭を下げた。

「セイヤさん、またよろしくお願いします」

セイヤと呼ばれた男は、アキトを見ると笑みを浮かべてその肩を叩く。

ウリバタケ・セイヤ。ナデシコ整備班長。アキトとはネルガル試験部隊の試作機動兵器の整備を担当して知り合った。

「おお、アキトか。こっちこそよろしく頼むぜ。だが・・・」

浮かべていた笑みを引っ込めると、難しそうな顔をしてアキトを見つめる。

「ガイ、ですか」

セイヤの表情にアキトは苦笑する。

「ああ、ありゃ、何とかなんねーのか?」

セイヤは心底嫌そうな顔をして、格納庫の出口を右手の親指で指差した。

「何とかできるならしてますよ・・」

「・・・だな」

二人は顔を見合わせると、同時に深い溜息をついた。その様子を見ながら、プロスはおもむろに査定表を取り出してヤマダ・ジロウの備考欄に「基本給10%カット」などとメモしていた。







時間は少し戻ってアキトとプロスが並んでナデシコを眺めていた頃の、場所はブリッジ。

現在ブリッジには機器調整および業務訓練の為に事前に搭乗してきたクルーが女性ばかり4人、オペレーター・ブリッジで各々の作業を進めていた。

そのうちの一人、メインオペレーター席に座る少女ホシノ・ルリはいつもの沈着冷静ぶりはどこへやら、妙にそわそわとして落ち着きが無い。

「どうしたの、ルリちゃん」

ルリのそんな様子を横目で盗み見ていた通信士メグミ・レイナードが、ルリの左側、サブオペレーター席の向こうから話し掛けた。

「はい?何ですか、メグミさん」

メグミの声にびくっと反応して、慌ててメグミの方に向くルリ。それを面白そうに眺めながらメグミはからかうように言う。

「なんかそわそわしてるなぁって」

「そ、そんなこと無いです」

顔をほんのり赤く染め、どもって否定するルリ。説得力の欠片も無い。

「そう言えば、ルリルリって、いっつもテンカワさんの写真見ながら仕事してるよね〜」

今度はルリの右隣から、操舵士のミナト・ハルカが甘ったるい声でルリを冷やかす。

「えっ、そんなこと・・・」

ない、と言おうとして口をつぐみ俯くルリ。事実毎日ルリは作業中、アキトの写真をオペレーターコンソールの目立たない隅に表示していた。

「でも、なんで今日は写真出してないのかな?(にやり)」

意味ありげに笑うミナト。ますますルリの頬が赤くなる。

「あ、いえ、そんな、別に理由なんて・・・」

勿論、今日がアキトの搭乗日であることをミナトは知っている。だからこそ、ルリは写真を出していないのだと。写真よりももっと見たいものがあるからだと。

その時、ミナトの考えを見透かしたように、4人の目の前に巨大なウィンドウが開いた。映っているのは格納庫のようだ。

「きゃっ」

突然開いたウィンドウに驚いて声を上げる4人、もとい3人。一人、サブオペレーターの少女はニヤニヤと、さも面白そうに、悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「ラピス!」

ルリがサブオペレーターの少女を睨む。しかし、桃色の髪にルリと同じ金色の瞳の少女はルリの視線に全く動じる風もなく、すっくと立ち上がると左手を腰に当て右手を上げて顔の横で人差し指を振る。

「ふっふ〜ん、ルリ姉の考えてることなんて、まるっとお見通しだよ」

ラピスの仕草に小さく溜息をつくと、ルリは目の前の大ウィンドウを見た。ウィンドウの中では丁度アキトがプロスに先導されて格納庫に入ってきたところだった。

「でもテンカワさんて、割とカッコいいよね〜。結構好みかも」

ウィンドウの中でアップになったアキトを見ながらメグミが呟いた。が、目はしっかりルリの方を見て笑っている。

「なっ、ダメです」

メグミの言葉にルリは思わず立ち上がった。

「あれ〜、何がダメなのかな〜」

メグミは意地悪く笑うとルリを下から覗き込む。

「えっ、な、なにって・・・」

ルリは言葉に詰まって視線を泳がす。頬はもう桜色を通り越し、耳まで赤くなっている。

「ルリルリ〜?」

ルリの様子にミナトも意地の悪い笑みを浮かべながら肘でルリの腰を突付く。

「もう、ミナトさん!」

ルリはミナトの方に向き直り、思わずコンソールに乱暴に手をついた。その途端、ルリの前にウィンドウが次々と開く。

『痛い』『もっと優しく』『暴力反対』

「ごめん・・・」

ルリはオモイカネの抗議に小さく謝ると、すとん、とシートに腰を落として俯いてしまう。ミナト・メグミ・ラピスの3人はニヤニヤしたまま、真っ赤になって俯いたままのルリとウィンドウに大写しになっているアキトを見比べていた。







その頃、プロスとアキトは格納庫を出て艦内通路を歩いていた。

「テンカワさんには出航までの3日間、先ほどのヤマダさんとエステの調整をしていただく予定でしたが・・・」

プロスはコミュニケに表示した予定表を見ながら口篭もる。

「ああ、分かってる。一人でやりますよ」

アキトは苦笑してプロスに答える。

「で、今日からでいいんですか?」

アキトの問いにプロスは予定表を閉じると、意味ありげな表情をして答える。

「今日はこの後ブリッジクルーに自己紹介をしていただきます」

「自己紹介?」

怪訝そうにアキトは尋ねる。一パイロットに過ぎない自分がブリッジクルーに自己紹介する必然があるとは思えない。

「はい、艦長・副長と軍からのオブザーバー以外は皆さん揃ってますから」

アキトの怪訝な表情を気にもせずにプロスは答える。

「ブリッジ・・・」

アキトは思わず呟く。ブリッジ。「彼女」のいる場所。そう考えただけで鼓動が早くなるのを感じる。

そこへプロスの次の言葉が追い討ちを掛ける。

「それが終わったら、テンカワさんはホシノさんと一緒にドクターのカウンセリングを受けていただきます」

アキトは思わず足を止めた。

(どういうことだ?俺とルリが?一緒に?一緒に?一緒に?一緒に?・・・)

「テンカワさん?」

アキトの様子にプロスも立ち止まって声を掛けてくる。その声にようやくアキトは我に帰るとプロスに尋ねる。

「・・・どういうことです?」

「と、いいますと?」

「一緒っていうのは・・・」

「おや、ご存知ありませんでしたか?」

プロスは心底以外だといった表情をしてアキトを見た。

「ルリさんも貴方と同じ内容の夢をご覧になってるんですよ。勿論、彼女の側からの視点で、ですが」

「なっ・・・」

プロスの言葉にアキトは絶句した。

(見ていた?ルリが、あの「夢」を?俺が、俺が、俺が!ルリを殺したも同然の、「あれ」を?)

アキトの表情が歪む。

(俺が素直に彼女の元に帰っていれば、あんなことにはならなかった!俺が殺したんだ!俺が・・・)

それは、何事も自分ひとりで抱え込んでしまうアキト故の罪悪感か。握り締めた拳が震える。その様子にプロスが怪訝な顔をする。

「どうしました?」

「・・・いや」

アキトは俯き、首を微かに横に振ると、再びプロスの後を歩き出した。

(そうだ。覚悟は決めていたはずだ。この十年、コックになることを諦め、ひたすらパイロットとしての腕を磨いたのは何のためだ!?ルリを守るためじゃないのか!そう、嫌われていたとしても、憎まれていたとしても、守ることさえ出来ればそれでいい・・・)









「ではテンカワさん。自己紹介をどうぞ」

作戦ブリッジ・オペレーターブリッジ・コマンダーブリッジの三層に分かれたナデシコのブリッジ。その中層、オペレーターブリッジでアキトの自己紹介が始まろうとしていた。

「テンカワ・アキト。パイロット、23歳だ。出身は火星。趣味は、特に無い。ブリッジクルーとは直接顔を合わせることも少ないと思うが、よろしく頼む」

アキトの簡単な自己紹介が終わる。プロスとブリッジクルーが拍手をするが、ルリは一人俯いてアキトとは反対の方向、ブリッジ正面を向いて座っている。

その様子に、ここへ来るまでに感じていた予感が当たっていたとアキトは思った。

(やはり俺は嫌われている・・・)

その考えに、知らず知らず表情が暗く強張る。

「では、ブリッジクルーの皆さんにも自己紹介をお願いします」

アキトの様子に気付いているのかいないのか、プロスは明るい声でブリッジクルーに自己紹介を促す。

「メグミ・レイナード。通信士で〜す。17歳。ナデシコに乗る前は声優をやってました。恋人募集中です。よろしくお願いします」

明るく、少し小首を傾げて自己紹介をするメグミ。

「ハルカ・ミナト。23歳。操舵士よ。スリーサイズは、ひ・み・つ。よろしくね」

口に人差し指を当て、ウィンクするミナト。

「ホシノ・ラピス・ラズリ。サブオペレーター。13歳。ルリ姉と同じネルガルのセンター出身。よろしく、アキト」

柔らかい微笑を浮かべる桃色の髪と金色の瞳を持つ白磁の肌の少女。

「あ、ああ・・・」

意外な人物の存在にアキトは思わずうろたえた。

(やはり、夢とは違う、な。ラピスがここにいるなんて・・・)

「・・・」

ラピスの自己紹介が終わると、オペレーターデッキを沈黙が支配した。次に自己紹介するはずのルリは、まだ俯いたまま微動だにしない。

「では、次はルリさん、お願いします」

プロスが促すが、それでもルリは顔を上げない。

「・・・ルリさん?」

プロスが怪訝な顔でルリに声を掛ける。その時、ラピスがそっとルリの肩に手を置いた。

「ルリ姉」

ラピスの声にルリが漸く顔を上げて振り向いた。

「!」

ルリの顔を見てアキトは息を呑んだ。アキトだけでなく、その場の全員が。

ルリは泣いていた。おそらく、アキトの自己紹介の時からずっと泣いていたのだろう、赤く染まった瞳から、ルリの頬をキラキラと雫が流れ落ちていく。

そのまま、流れ落ちる涙を拭おうともせず、ルリは立ち上がった。そしてアキトに向かって一歩、また一歩と近づいていく。アキトはルリを見つめたまま微動だにしない。

やがて、アキトに手の届くところまで来て立ち止まる。

アキトはルリのその涙に濡れた瞳を見て、自分の今まで感じていた不安が全く意味の無いものだと気付いた。

そこにあるのは嫌悪でも憎悪でもない、懐かしさと優しさと愛しさの混じった、とても暖かい何か・・・。



二人は見詰め合う。

アキトを見つめるルリ。

ルリを見つめるアキト。

微動だにせず見詰め合う二人。

他のクルーはその二人の様子を息を殺して見つめている。

やがて、ルリの左手がゆっくりとアキトに伸びる。応じるようにアキトの右手もルリに向かう。そして二人の手が合わさったとき、それは起こった。

「っ!」

二人の身体から突然迸るナノマシンの輝きの奔流。クルーは突然のまぶしい光に思わず目を覆う。

だがラピスだけは、真剣な目つきで何かを確かめるように二人の様子を見つめている。

(・・・これは)

アキトの脳裏にあの夢の場面が次々と浮かんでは消える。しかし、それは確かに「あの夢」だが今まで見たことの無い場面ばかりだった。

(これは、ルリの見てきた夢!?)

ルリの脳裏にも、同じくあの夢の、しかし見たことの無い場面が浮かんでは消えていく。

(これは、アキトさんの見てきた夢・・・)

やがてあの最後の場面が浮かび、「夢」の交換が終わった。同時にナノマシンの輝きも消え、二人はどちらからともなく手を離す。

再び見詰め合う二人。息の詰まるような緊張感が周りを支配する。だれかの唾を飲み込む音が、ひどく大きく聞こえる。

そんな中、ラピスは複雑な表情で二人を見つめている。

(まさか・・・、失敗!?)

その時、アキトが一歩前に踏み出した。そして両手を前に伸ばすと、ルリを包み込むように優しく抱きしめた。

「・・・やっと、会えた」

アキトの頬を流れ落ちる涙が、ルリの頬を濡らす。応えるようにルリもアキトの背中に両手を回す。

「・・・もう、離れません」

ルリの頬からも再び涙が溢れ出し、アキトのシャツの胸に染みを作る。

その様子を見て、ラピスはほっとした表情で小さく頷いた。





その頃、医務室。

コミュニケのウィンドウにブリッジの様子が映し出されている。

「・・・どうやら、うまくいったようね」

ミカンを食べながらウィンドウを見ていた白衣に金髪の麗人が、ラピス同様ほっとした様子で呟く。

「さて、忙しくなるわね。準備しておきましょうか」

そしてニヤリと笑みを浮かべると、ホワイトボードを取りにいそいそと医務室の奥へと消えていった。



次の話に進む

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<<後書き>>

格納庫のシーン、長すぎ?(笑)。ガイ、最初は骨折しないはずだったんですが(苦笑)。

ではまた次回でお会いしましょう。




<<予告>>

「説明しましょう!」


Next Phase : Chapter 2. 「抱擁」

Next Character

 Ines Fresanjeu




b83yrの感想

歴史が変わっているというのにガイは骨折

「何とかできるならしてますよ・・」、アキトのこの台詞がガイという男を一言で説明してますな(苦笑)

さあ、次回からはルリとアキトのらぶらぶも〜どか、そして説明はどうなる?

次回は、イネスさんの説明だけで、ほとんど終わっちゃったりして(笑)

次の話に進む

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