幸せも束の間、ユリカ達に見付かり。


そのユリカ達の追撃から逃げるアキトとルリ。


脱出にも失敗してナデシコ艦内に閉じこめられた二人に、逃げ道はあるのか。





暴走が暴走を呼び、連鎖していく中。



二人の逃避行は周囲を巻き込んで、ナデシコ内に嵐を呼ぶ。



















機動戦艦ナデシコ騒動記  〜気が付けば〜















●第三日目・中編(2)









ナデシコ艦内の一画、そこには以上な程の熱気が溢れていた。



そこに集まる人々、主に整備班を中心にした集団が熱気の根元である。

いや、熱気というよりこれは殺気かも知れない。


その殺気の理由は・・・・・。


「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

  テンカワ・アキトォォォ!!!許すまじィィィィィィィ!!!!!!」

「そうだっ!!!我らが可憐なアイドル!ルリルリを人質にして逃亡するとわぁぁぁ!!!」

「断固!鬼○にして外○なるテンカワ・アキトを討つべしィィィィィィ!!!!!!」

「うわあぁぁぁ!!!あの○リ○ンやろうっ!俺達の!俺達のルリルリに手を出しやがってっ!!!!!!」


あらゆる意味でかなりヤバイ雰囲気が、集団全体に溢れかえっている。

・・・結構、整備班を中心に、ルリの隠れファンが多かったらしい。



こうなったのも、アキトに関しての噂話が艦内に流れていた所為もある。

アキトの噂が広がる中、まず彼等が思った事は『アキトの噂話は本当なのか?』であり。

そこにユリカの艦内放送により、『あの噂は本当だったのか!』と、殆どの者が思い込んでしまった。



そして噂とは、良い噂は広まりにくく、悪い噂はあっという間に広がっていくもの。

アキトの噂話も、何故か極めつけ悪い噂の部分だけが抽出され。

今では大方一つに纏め上げられていた。


『鬼○で○道で○リ○ンなテンカワ・アキトは、ホシノ・ルリの弱みを握り、その事でさんざん脅し。

  これまで口では言えない、あーんな事やこーんな事を裏で強要したあげく。

  それがバレるとホシノ・ルリを人質にして、今現在は逃亡を図っている・・・。』


アキト本人が聞いたら、人生を悲観して木星無人兵器の大軍相手にでも。

泣いてエステバリス単機で突っ込んで逝きそうである。


そして、これは艦内の隠れルリファンの男達の怒りにも火をつけた・・・。

その火は周りに飛び火して、結果、現在の状況となる。





そんな状況で皆が殺気で溢れかえる中、一人の男の大声が響き渡った。

「オラァァァ!!!オメェラァァァ!!!静かにしろォォォ!!!!!!

  今から艦長の指示があるぞォォォ!!!!!!」

大声を張り上げた男はウリバタケだった。

その態度は割と冷静である。

いや、良く見ると餓えた野獣の如く、目が血走りギラギラしていた。


どうやらこちらも、周りに負けず劣らず何処かキレている。


騒いでいた者達がウリバタケの大声により静まり返った。

そこにウィンドウが開き、ユリカが現れる。

ユリカの居るところはブリッジであった。

ルリがいないのでオモイカネは使えないが、やはり通信設備等のあるブリッジが作戦指揮し易いからだろう。


集まった皆を見回しユリカが説明を開始する。


【皆さーん!艦長のユリカでーす!

  皆さんも既に知ってる通り、現在アキトとルリちゃんが共に逃亡中です。

  ゲートは封鎖しましたから、艦内から逃げ出す事は出来ません。

  アキトは艦内の何処かに潜伏しているはずです。

  そこで、皆さんに手分けをしてもらい艦内を隈無く捜索してもらいます・・・】


ユリカはここで一呼吸空けて、集まった全員を再度見回してから言葉を続けた。


【何としても!!!アキト達を見付け出してとっ捕まえて下さいっ!!!!!!!】


「「「「「「ウオオオォォォオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」


ウインドウの中のユリカが拳を握りしめて力強く言うのと同時に男達の雄叫びがあがる。

それに満足したのかユリカは続けて告げた。


【それでは人数を数班に分けて各班長を決めて、その後班分けが終わりましたら艦内に各自散って下さい。

  作戦行動は追って各班長に伝えますので・・・皆さん!よろしくお願いしますね!】


それだけ言うとユリカのウインドウは閉じた。


もし、そのままウインドウを開いていたら、彼等と自分達の考えが擦れ違っているのに気付いたかも知れない。

ユリカ達はアキトを、ルリの手から取り戻す事をまず第一に考えていた。

もしかしたら、これはアキトの一時的な気の迷いから、ああなったのではないかと・・・。

そんな思いが彼女達の中にはあったのだ。

だからアキトを取り戻した後、じっくりと説得すれば、アキトは思い直してくれるかも知れない・・・。

ユリカ達には、そういう儚き希望的観測があった。


しかし、ここに集まった男達は違う。

そのよい例が、ここに集いし男達を束ねる男。

格納庫の支配者、己の欲望の主、ウリバタケ・セイヤ。


「クッククククク・・・待ってろよぉアキトォ!

  我等が汚れ無きアイドル。ルリルリを汚した罪・・・その身をもって思い知らせてやるぅぅぅ!!!」


ウリバタケは決意も新たにすると班分けも終わった男達に高らかに告げた。


「ヤロォォォどもォォォ!!!何としても俺達の手でテンカワ・アキトを殲滅し!

  ルリルリを外○で鬼○な彼奴の手から救い出すぞォォォ!!!」


「「「「「オオオオォォォォォォ!!!!!!!!!!」」」」」


男達の雄叫びの中、ウリバタケは片手を高く掲げる。


「いくぞォォォ!!!アキト狩りだッァァァァァァァ!!!!!!!!!!」


「「「「「ウオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」」」」」


雄叫びを上げた男達は素早く艦内に散っていく。





最早、暴走は止まるところを知らず。

何時の間にかアキトは狩り出される哀れな獲物になっていた。




















ここで時間は少し遡る。



ユリカ達はミナトの部屋を飛び出した後、ブリッジに着くと直ぐさま艦内放送で緊急事態を発令した。

その放送後、ブリッジにはプロスとゴートが何事かと急いでやって来る。


プロスは何時もの恰好であったが、ゴートは手にスーツケースの様な物を持っていた。

そして、ブリッジに急いでやって来たプロス達は、直ぐさまユリカ達に事情を聞いたのだが・・・。


「アキトが!アキトがルリちゃんと駆け落ちしちゃったんです!」


「艦長!駆け落ちじゃありません!アキトさんは騙されているんです!」


ユリカ達は叫ぶようにプロス達に言ったが、当のプロス達は詳しい話の内容が分からない。

取りあえず、プロスはユリカ達を宥めにかかる。

「まあまあ、艦長、落ち着いてください。落ち着いて詳しくご説明願えますかな。

  どうも我々には今一状況が分かりませんので・・・」

プロスの問いにユリカは目に涙を溜めてぽつりぽつりと喋りだす。

「アキトが・・・アキトがルリちゃんと・・・・・部屋で二人っきりでいて・・・・・キスして・・・。

  それが・・・私達にバレて・・・・・ルリちゃんの手を・・・・・ぐすっ・・・アキト・・・今、逃げてるんです・・。

  うぅぅぅ、アキトぉぉぉ・・・・・どうしてなのぉ(涙)」

思い出したくなかった事を思いだした所為か、ユリカはアキトの名を口に出して涙を流す。


その場で”うるるる”と涙を流して泣きだしたユリカを、メグミが励ました。

「艦長・・いえ、ユリカさん!アキトさんはきっと魔が差したんですよ!

  これは、アキトさんの一時的な気の迷いから起こった事なんです!

  私達が誠心誠意説得すれば、必ずアキトさんだって過ちに気付いて考え直してくれますよ!」

ユリカはメグミの励ましに気を持ち直して泣きやむ。

この立ち直りの早さはユリカの長所であろう。


立ち直ったユリカは直ぐさまメグミに指示を出した。

「そうよねメグちゃん!あれはアキトの一時的な気の迷いよね!

  よーし、メグちゃん!これからアキトを取り戻します!

  各員に連絡、皆を何処か一箇所に集めて下さい。

  十五分後に今後のアキト捜索の説明をします!」

ユリカの目には決意が表れていた。

その目をメグミに向けて力強く言う。

「頑張りましょう!メグちゃん!」

「はい!ユリカさん!」

ユリカとメグミが新たにお互いの結束を固めている中、そこから離れた場所では。

プロスとゴートがコソコソと隅で話し合っていた。

「ミスター、やはりあの時、もっとテンカワを追及しておくべきだったのでは・・・。」

「しかしですなぁ、あの時はルリさん自身が、テンカワさんの潔白の証言をいたしましたし・・・

  それにですなぁ、ルリさんから証拠の記録映像も提出されおりますから。」

「しかしミスター『あの噂』の事もある。ルリ君はテンカワに脅されていたのでは・・・。

  記録映像も、もし『あの噂』が本当だとしたら・・・ルリ君も皆には、あまり知られたくはないだろう。

  それで、ルリ君が映像に何らかの細工をしたとも・・・。」

「『その噂』は私の耳にも届いておりますよ。しかし・・・私には、そうは見えなかったのですが・・・」

更に、プロスとゴートの二人はお互い小さな声で話しを続ける。

「どちらにしても、昨日の事もありますし艦長達の話だけでは・・・」

プロスとしては一方だけの証言では結論は出せないと考えていた。

ここはやはり、アキト達当事者の話も聞かなければとプロスは思っている。

プロスが内心でそう考えている間もゴートとの話し合いは続く。

「だが、ルリ君の身に万が一の事があり、手遅れになっては意味がないぞ。

  それに、我々がテンカワに一杯食わされていたという事も考えられる・・・」

「はあ、ですが私にはあのテンカワさんに、そのような事が出来るとは・・・」

ゴートはアキトを疑って掛かっていたが、プロスとしてはどうしても釈然としないものがある。

それでも彼等としては、一応の対応を決めておかなければいけない。

「どちらにしても、テンカワさん達の話も聞かなければなりませんなぁ。」

「うむ、ではテンカワを早急に捕縛という事で・・・。」

「はい、そうしなければこの騒ぎも収まりそうもありませんし・・・。」

「ミスター、少々手荒になるがいいか?」

ゴートの言葉に、プロスは少し考えて答える。

「まあ、少しぐらいなら致し方ありませんなぁ。」

プロスの返事を聞くと、ゴートは少し離れたところに置いてあったスーツケースの様な鞄の所に行く。

その鞄を手にして持ち上げると、そのままプロスの所に戻ってきた。

「ミスター、実は前もって用意をしてきた。」

ゴートがそう言って鞄を床に置き、蓋を開ける。

鞄の中には幾つかのパーツに分かれた銃と、その弾が収まっていた。

銃は暴徒鎮圧用に使われるもので、弾はゴム弾である。

プロスはそれを見て、少しばかりの汗を額に滲ませてゴートに聞く。

「ご、ゴートさん、それをお使うつもりですか?」

「そうだ、テンカワ捕縛にはこれを使う。」

ゴートはプロスに答えながらその場に片膝を着き、前屈みで床のケースから銃の各パーツを取り出す。

そして、取り出した各パーツを素早く組み立て始めた。



その様子を見ながらプロスは、ゴートに対して問い掛ける。

「し、しかしですなぁ、暴徒鎮圧用のゴム弾とはいえ、それはちょっと・・・。

  それにゴートさん。テンカワさんは丸腰ですよ。」

早くも銃の組み立ても終わり、弾を装填し終わると、ゴートは顔を上げて答えた。

「ミスター、もし我々がテンカワのヤツに一杯食わされていたとしたら・・・。

  テンカワは油断のならない危険な男という事になる。

  もしそうなら、テンカワが丸腰だとは限らないぞ。

  それにミスター、コチラを使うわけではない。」

そう言うとゴートは、少し膨らんだ脇の下の懐を服の上から軽く叩く。

「いや、それはそうですが・・・。」

言葉を濁すプロスに対してゴートは、暴徒鎮圧用の銃を手に持って立ち上がると告げた。

「ミスター、それでは行ってくる。」

プロスはこれ以上は諦めたのか、溜息を吐きつつ一応ゴートに釘を刺す。

「はぁ、・・・分かりました。ですが、くれぐれもやりすぎないようにお願いしますよ。」

「・・・・・了解した。」

ゴートはプロスにそう返事を返して扉に向かった。

プロスはゴートの返事に少しの間が空いたのが気になったが。

取りあえずは、アキト達の身柄を確保するのが先決と判断して、深くは考えなかった。








その頃ミナトは・・・・・。


最初、ミナトはナデシコ艦内をユリカ達を捜して走っていた。

ユリカとメグミがミナトの部屋を出てから、そのままブリッジに向かったのを知らずに・・・。


そうしているうちに、ユリカの艦内放送がかかりミナトは急ぎブリッジに向かった。

ブリッジ下部の出入り口の扉まで来たミナトは、躊躇わずにブリッジに入ろうとする。


「ちょっと艦長!あっ『ドスッ』きゃ!」


ミナトはブリッジの扉が開いて中に入ろうとすると、直ぐに目の前で何かにぶつかった。

「ミナトか?すまない。」

ぶつかったミナトの目の前には、ゴートが立って見下ろしている。

そのゴートの後ろで、ブリッジの扉が閉まった。

ミナトはゴートを見上げて呟く。

「・・・ゴート。」

ミナトは呟くと、ふとその目がゴートが手に持つ物に向いた。

ゴートがその手に持っていたのは・・・暴徒鎮圧用のゴム弾装填の銃。

「ゴート、その銃は?」

「心配するな、弾はゴム弾だ。」

ミナトの問い掛けにゴートは答えたが、それはミナトの聞きたい事ではなかった。

「いや、そうじゃなくて・・・そんなの持ち出してどうする気なのよぉ?」

ゴートはミナトに聞かれると、厳つい顔を引き締めて答える。

「ミナト、君がルリ君の事を妹の様に、大切に思っている事は知っている・・・。

  そのルリ君を人質にして逃げているテンカワは、俺の敵だ。」

そこまで言ってゴートは、手に持った銃を胸元まで持ち上げて、不敵な笑みを見せた。

「ルリ君の事は俺に任せろミナト。必ず無事に、君の元に連れてくる。

  そしてテンカワは・・・俺が一発で死止める!!!」

「はい!?・・・・・ご、ゴート?ちょっと待って・・死止めるって(汗)」

ミナトはゴートの言った言葉に、汗を垂らし唖然となって聞き返す。

しかし、ゴートの方はミナトの言葉が耳に入らなかったのか。

「では、行ってくる!」

それだけ言うと『ヤル気』満々で、ミナトを置いて走って行ってしまった。

その場に残されたミナトは、ゴートの去った方向を見ながら呆然と呟く。

「ヤバイわ・・アキト君・・・何かヤバ過ぎるわよぉ・・・・・。」

ミナトの中に、不安な気持ちが沸き上がる。

それでもミナトは頭の中の不安を一時的に片隅に追いやり、ブリッジへの扉に再び振り向く。

ミナトには、本当は今すぐにでもゴートを追い掛けて止めたい気持ちもあったが・・・。

(先ずは、大元の艦長達を何とかしないと・・・)

そう思いミナトはアキト達の心配をしながらも、ブリッジの中へと入っていった。






ブリッジに入ったミナトはユリカ達の姿を捜す。

ユリカとメグミは通信席の近くであれこれ話し合っていた。

そこにリョーコから通信が入ってきた。


《すまねぇ艦長!テンカワ達を見失った!》


リョーコの連絡にユリカは答える。


「そうですか・・・では、リョーコさんは一旦ブリッジに来て下さい。

  ここで今後の作戦の話し合いと指揮をしますから。」


《分かった艦長、直ぐにそっちにいくぜ!》


リョーコは返事を返して通信を切った。

通信が切れるのを見計らい、ミナトはユリカ達に声をかける。

「ちょっと艦長達!」

背後からのミナトの声にユリカ達は振り向く。

ミナトの姿を認めると、先ずはユリカが口を開いた。

「何?ミナトさん。私達は今忙しいんです。

  アキトを早く見付けないといけないから、邪魔しないで下さいね。」

それに、続きメグミがミナトに言う。

「そうです。私達はアキトさんを早く捕まえて目を覚まさせなきゃいけないんですよ。

  ミナトさん・・・私達の邪魔をする気ですか。」

メグミがそう言うと、ユリカと二人でミナトを睨む。

ユリカ達はルリの味方であるミナトを、自分達の敵とみなしたのか。

ミナトは二人の様子にたじろぎ、心の中で呟く。


(これは・・・私一人では不利だわぁ。)


何も喋らずにミナトが黙ったままなので、ユリカ達は再び作戦の話し合いの為に前方を向いた。


その様子を見ながらミナトは考える。


(もう一人、味方がほしいところよねぇ)


ミナトはそう考えながら周りを見回すと、その視界にプロスの姿が入った。

いままでユリカ達にばかりに気がいって、プロスには気が付かなかったミナト。

すぐさま、プロスの傍に行きミナトは訴えた。

「プロスさん、何してるのよぉ、早く艦長達を止めなさいよぉ!

  このままだとアキト君とルリルリが大変な事になるじゃない!」

ミナトの訴えにプロスは表面上は飄々として答える。

「はあ、そうは言われましても、艦長達があの様子では・・・。

  それに、何故こうなったのか詳しい事も分かりませんし・・・。

  ミナトさんは、何か詳しい事情を知っておられますかな?」

プロスに聞かれてミナトはこれまでの経緯を話した。

アキトとルリを自分の部屋で会わせた事や、二人は本当にお互い両思いで。

それを知った艦長達が暴走している事などを、ミナトはプロスに手短に話す。

「まあ、大体の状況は分かりました。」

プロスはそこまで言ってユリカ達を見る。

「ですが・・・どちらにしてもこの騒ぎを収めるにはテンカワさん達が捕まらないと。

  とても収まりそうにありませんなぁ。」

ミナトは怪訝に思い、プロスの見ている方に目を向けた。

そこでは何時の間にか、ユリカがウインドウに映る血走った目をした男達に激を飛ばしていた。

「何としても!!!アキト達を見付け出してとっ捕まえて下さいっ!!!!!!!」

それを見てプロスは、ミナトに向き直り言う。

「と、いう今の状況では最早途中で止めるのは難しいですなぁ。」

「そ、そんな・・・何とかならないのぉプロスさん!」

ミナトはウインドウに映っていた男達の血走った目を見て、更に不安になっていた。

プロスはミナトの不安な様子を感じたのか、ユリカ達に聞こえない様に小声で話す。

「そうですな・・・テンカワさん達が捕まった時に直ぐにでも私共が介入しましょう。

  テンカワさんとルリさんの身柄をこちらが押さえれば、彼等はそれ以上は手が出せないはずです。

  理由などは、事情聴取とか言っておけば何とでもなりますから・・・。」

ミナトはプロスの言葉を聞いても不安が拭えない。

不安の一つは、さっき出会ったゴートの事である。

「プロスさん、さっきゴートが銃を持ち出していたけど・・・大丈夫なのぉ?

  それに、アキト君の事を『死止める』何て言ってたのよぉ。」

「い、いやいや大丈夫ですよ。あれはゴム弾ですし。

  それに、彼には私がクギを差しておきましたから・・・。」

そう言っているプロスの背中では、汗が一筋流れていた。

ミナトの方は、それでも心の中の不安を拭えないでいる。

プロスもまた、一抹の不安から心中で祈りに近い心境で呟いた。


(ゴートさん、本当に頼みますよ・・・・・(汗))


ブリッジでミナトとプロスの二人が不安になっている間も、ユリカ達は各捜索班に指示を与えている。


このままでは、アキトとルリが捕まるのも時間の問題であろう。


(アキト君、果たして五体満足でいられるのかしら(汗)・・・)


ミナトはブリッジでの状況を見守りながら、そう思わずにはいられなかった。




















一方、ナデシコ艦内の一画では、血眼になって走り回る男達がいた。


「おいっ!テンカワはいたかっ!」

「だめだ!何処にもいねぇ!」

「くっ、一体どこに隠れやがった!」


それはナデシコ艦内で交わされる、捜索班達の声。

テンカワ討伐隊と化した男達が、血眼になって艦内を走りまわる。


そのリーダーとも言えるウリバタケもまた、アキト達を見付ける事が出来ないでいた。

「班長!まだ何処からもテンカワ発見の報がないっス!」

ウリバタが率いる班員の一人が班長のウリバタケに報告する。

「アキトのヤツ、何処に行きやがったんだ・・・。」

アキトが見付からない事に苛立つウリバタケ。

そこにユリカから通信が入ってきた。

【ウリバタケさん、食堂の方に向かってください】

「おぅ艦長、食堂に何かあるのか?」

【はい、リョーコさんがアキトを見失った経路から、食堂に向かう公算が高いんです。

  それにナデシコ艦内で、アキトが最も頼れる人はホウメイさんですから。】

「分かった。俺達は今から食堂に向かう。また何か新しい情報が入ったら教えてくれよぉ艦長。」

ウリバタケはユリカとの通信を切ると、その足で班員達を引き連れて食堂に向かった。





食堂の前に着いたウリバタケ達は、直ぐさま食堂内に足を踏み入れる。

一通り食堂内をアキトが隠れてないか見回した後、最も隠れていそうな厨房の中に入ろうとした。

だが、先頭を行くウリバタケの前に厨房の奥から出てきた人物が立ち塞がる。

「なんだいあんた達、この厨房に何か用事でもあるのかい?」

厨房の奥から出てきたのはホウメイであった。

立ち塞がる様に厨房の出入り口に立ってウリバタケ達を見ている。


ウリバタケは内心にアキトへの怒りがあるのか、目に少しばかりの怒りの色を滲ませてホウメイに言った。

「ホウメイさん。すまねぇが厨房の中を調べさせて貰えねぇか。」

当のホウメイは、そんなウリバタケに対しても別段臆する事なく、堂々として問い返す。

「そらまた、どうしてだい?」

ホウメイは更に相手の目を真っ直ぐに見て、ずいっとウリバタケ達の方に身を乗り出した。


ウリバタケ達はホウメイからプレッシャーを感じてたじろぐ。

「お、俺達はアキトのヤツを捜しているんだがよぉ。

  その・・ここが一番怪しいんでな・・・中を・・その、ちょっと調べさせて貰いてぇんだ・・・。」

ナデシコのお袋さんとも言えるホウメイを前にして、流石のウリバタケも段々と口が濁ってくる。

ウリバタケの少し目線を泳がせながらの言葉に、ホウメイはあっさりと許可を出した。

「別に構わないさ。でも、言っとくけどテンカワはここには居ないよ。」

「そ、そうか。それでも、まあ一応って事なんでな・・・。」

ウリバタケがそう言うと、ホウメイは厨房への出入り口からその身を退けた。

退いた出入り口から厨房の中に入っていくウリバタケに、ホウメイは声を掛ける。

「厨房の中の物を散らかしたら、あんたらがキッチリ片付けるんだよ。

  片付け終わるまでは、ここからあたしが出さないからね!」

後ろから掛けられたホウメイの声に答えるウリバタケ。

「あ、ああ・・わ、分かった。」

少し上擦った声でそう返事を返した後、ウリバタケは厨房内でのアキト捜索を開始した。

ウリバタケ達は貯蔵庫から物置、更衣室など隅々まで調べたが、アキト達を見付ける事が出来ない。


やがてウリバタケ達も、ここにアキトが居ないと確信したのか、厨房から出てきた。

その間、ホウメイはテーブルの席に座って待っていたが。

ウリバタケ達が出てくると立ち上がり彼等に声をかける。

「艦長の放送はあたしも聞いたよ。それから、ちょっとした噂もね。」

その言葉に、ウリバタケ達の視線がホウメイに集まる。

「だけどね、これだけはあたしはあんた等に言っときたいと思ってね。」

ホウメイはそう言った後、ウリバタケ達を見回して言葉を続けた。

「あたしの目から見て、テンカワとルリ坊、あの二人はお互い好き同士だよ。」

ウリバタケがホウメイに言う。

「だけどよ・・・艦内ではアキトのヤツがルリルリを脅迫して、無理矢理言うことを聞かしてるって話が・・・。」

「何言ってるんだい!あんた等はテンカワやルリ坊本人から話は聞いたのかい?

  ただ一方的に、そう決めつけてるだけじゃないのかい?」

ホウメイの言葉にウリバタケ達は皆押し黙る。

黙ったウリバタケ達にホウメイは続けて言った。

「まあ、これはあたしからの忠告だよ。

  もう一度、よく頭を冷やして考えてみな。

  いい大人が、ただ噂とかに振り回されてるんじゃないよ」

ホウメイにそう言われてウリバタケは、少しの間考えていたが。

やがて、神妙な顔でウリバタケは口を開いた。

「確かになぁ、俺達は噂を鵜呑みにしてアキトの言い分もまだ何も聞いちゃいない。

  ホウメイさんよぉ。俺達、もう一度良く考えてみるぜ・・・。」

ウリバタケはそう言うと、班員達を連れて食堂から出ていこうとする。

扉から出ていくウリバタケ達に、後ろからホウメイが更に声をかけた。

「あんた等、ルリ坊の事を本当に思ってあげてるなら。

  ルリ坊にとっての幸せが何なのかも、良く考えてみな!

  いいかい!これはあたしからの、もう一つの忠告だよ!」

ホウメイの言葉を背に受けて、ウリバタケ達は食堂から出ていった。

ウリバタケ達が出ていった後、ホウメイは天井を見上げて呟く。

「テンカワ、ルリ坊を幸せにするんだよ。」










ウリバタケ達が食堂を後にした頃。

ブリッジでは、ユリカ達が各班に指示を与えていた。


「B班はバーチャルルーム周辺を・・・、D班は男性居住区を・・・。」


指示を与えている班の中には、一班だけ女性のみで編成された班が・・・。

「ミカコちゃん、あなた達は女性居住区や風呂場等を重点的に捜してね。」

【あうぅぅ、どうしてわたしが・・・本当なら今頃、皆と・・・・・ぐすっ。】

どうやらミカコは運悪く、艦内から逃げ出せなかったようだ。

それと同じで艦内にいた、名も無き数名の女性クルー達も巻き込まれていた。

まったく、運が悪い人達である。



各班に指示を与えながらもユリカの顔は曇っていた。

何か考え事をしているようだが、それに気付いたメグミがユリカに問い掛ける。

「どうしたんです。ユリカさん?」

メグミのユリカへの呼び方も『艦長』から、『ユリカさん』で、すっかり定着したようだ。


メグミから問い掛けられてユリカは答える。

「どうもね・・・これだけ捜してアキト達の影すら見付けられないのが・・・それに時間も・・・・・。

  うーん、やっぱり・・・それしか無いかな・・・・・・・・・・よし!」

何やら一人だけ納得して、そして結論を出したようなユリカ。

「メグちゃん、リョーコちゃん、ちょっと来て!」

訳は分からないが、ユリカに呼ばれてその傍に集まるメグミ達。

「二人とも、ちょっと耳を貸して・・・。」

「え?ええ・・・。」

「一体、何んだってんだ?」

ユリカは二人の耳元で小声で喋る。

『どうも・・・・・そういう・・・・・だからね・・・・・ここは・・・・・。』

『え?・・・・・なるほど・・・・・つまり・・・・・流石!ユリカさん・・・・・。』

『ちっ!それで・・・・・そういう事か・・・・・どうする・・・・・わかった!・・・・・。』

三人で小声で話合う姿は何やら悪巧みをしているようにも見えた。

その証拠に三人の口元が最後の方でニヤリと笑いの形を作る。



ユリカ達三人を離れた場所からプロスとミナトは見ていたが。

二人共、一瞬ではあったがユリカ達のニヤリ笑いを見てしまった。

「プ、プロスさん・・・艦長達の様子が変よぉ(汗)」

「は・はは・・・そ、そうですなぁ(汗)」

ミナトもプロスもお互いに額を僅かに汗が垂れる。

ユリカ達の『ニヤリ』笑いを見てしまった為に、その胸中にはイヤな不安が膨れるばかり。



そうしている内に、ユリカ達はお互い頷き合い、離れた。

ユリカがメグミとリョーコに言う。

「それじゃ!メグちゃん、リョーコちゃん、手はず通りに!」

「はい!任せてください!」

「おう!こっちも任せなっ!」

メグミとリョーコの二人は、ユリカにそう答えると、ブリッジ出口の扉に向かって走り出す。

ユリカは二人がブリッジから出ていくと、ウインドウの方に振り向く。

そのままウインドウに映されている、艦内を移動する光点を眺めていた。

光点は一つ一つが各班の現在位置を示している。

それを見ながらユリカは、腕を組み悠然としていた。



ウインドウを見ながらユリカは考える。

何時までもゲートを封鎖したままとはいかないと。

艦外に出掛けているクルー達もやがて帰ってくる。

実際、ゲートから何名かのクルー達の連絡が来ていた。

また、軍の方からも問い合わせが来ている。


艦内に潜むアキト達を捜す時間は、思った以上にユリカ達にはないのだ。

本当なら艦内を虱潰しに捜索するのだが、完全に捜索し終わるまでの時間がない。

その間に見付かるかどうかも分からない。

そこでユリカはある策を実行に移す。

後は、アキト達が上手く掛かってくれればと、ユリカは考えていた。





そのユリカ達の動きに慌てたのはミナトである。

ユリカ達三人が慌ただしく動き出した事で、ミナトは慌ててプロスに訪ねた。

「プロスさん!艦長達は何をするつもりなの!」

「いえ、私にも分かりませんが・・・艦長が何か思い付いた様ですなぁ。」

プロスはユリカ達の動きにも慌てずに、ミナトに答えた。

ミナトはメグミ達を追い掛けようかと思ったが、ユリカがまだブリッジに居る事で思いとどまる。


そしてミナトはユリカに強い口調で訪ねた。


「艦長!あなた達は一体何をするつもりなのぉ!」


ミナトの問い掛けにユリカは振り向き、何時もと変わらない笑顔で答える。


「それは、今は言えません。後のお楽しみです!」


ユリカは笑顔でそう答えたが。

ミナトには、ユリカのその笑顔が何故か怖く感じた。














 

〜第三日目〜後編へと進む

真神津さんの部屋// 投稿SSの部屋// トップ2




●あとがき


アキト君とルリちゃんに迫る包囲網・・・。

果たして二人は、ユリカ達にこのまま捕まるのか?



第三日目・中編も終わり、次は第三日目・後編です。





 


b83yrの感想

ホウメイさん、やっぱいいよなあ

さて、ユリカの悪だくみ(あえて、こう言おう(笑))は、どうなるか?

 

〜第三日目〜後編へと進む

真神津さんの部屋// 投稿SSの部屋// トップ2



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送