アキトとルリがユリカ達から逃げ出して、クルー達が暴走を始めた頃。


外に出かけていて、ナデシコ艦内にはいない主要クルー達がいた。





ムネタケは軍上層部からの呼び出しで、昨日から出頭したまま、まだ帰ってきていない。

まあ、彼は居ても居なくても変わりないと言う話もあるが・・・。



ジュンは昨日、ユリカの・・・。


『あーーー!ここのお店のケーキってすっごくおいしいの!

  でも・・・朝からずっと並ばないと買えないよぉ・・・。

  うぅぅぅ、食べたいよぉ・・・・・でも、明日は・・・。』


とか・・・。


『あうぅ・・・ここのお店もずっと並ばないと買えないよぅ。

  あーあ、欲しいなぁ・・・でも、時間が・・・・・明日は大事なデ・・・』


と、いう独り言を盗み聞きして・・・好きなユリカの為にと、今頃はまだ何処かの店に並んでいるはずで
ある。

ユリカ本人は、当日はアキトとのデートを画策していたようであるが・・・。

いずれにしてもジュンの想いは、ユリカには届きそうにない・・・なんとも『哀れ』である。



ヒカル、イズミのパイロット組は、各々の『趣味』の為の買い物に出掛けた。

彼女達が傍にいたならば、リョーコも流石にあそこまでの暴走はしなかっただろうが・・・。



アカツキは、艦内の何処かにある秘密の部屋にエリナが監禁。

今頃はエリナの監視の元、全ての通信手段等を絶たれ、山のような書類の決裁に追われている。



イネスは・・・自分の研究室(無許可)にずっと閉じ籠もり、何やら怪しげな研究に没頭していた。










一部の主要クルーを欠いたまま、それでも事態は進展していく。




















機動戦艦ナデシコ騒動記  〜気が付けば〜















●第三日目・後編

















現在、ナデシコ艦内のある場所でアキトは苦悩していた。



アキトの口から思わず苦悩に満ちた声が漏れる。

「ぅぅぅ・・・・・」

アキトが苦悩する原因は、彼の目の前にあった。


彼の目の前を行く一人の少女。


彼女が現在のアキトの苦悩の原因を作っている。


何やら小さく唸っているアキトの様子に気が付いたルリが、振り向いて聞いてきた。

「アキトさん、どうしたんです?」

それに対してアキトは顔を上げて慌てて答える。

「あっ、いや、な、何でもないよ(汗)」

慌てて顔を上げて答えたアキトの目の前にはルリの小振りな、おし・・・が。


(落ち着け!俺・・・うぅぅ・・それにしても、目のやり場に困るぞ・・・(赤))


目の前にある『モノ』から目線を僅かにずらして、心の中で煩悩と格闘するアキト。

アキトは完全に『ソレ』を意識してしまっている。



ルリが少し首を傾けてから再び前を向くと、アキトは急いで顔を下に俯けた。

アキトの心は、ずっとこの調子で乱れぱっなしである。





そんな状況の中、アキトとルリは通風口の中を、ルリの先導で進んでいた。


何故、通風孔の中にアキト達がいるのか。

それは…リョーコに追われていたアキトとルリは、近くにあった食堂に逃げ込んだ時。

そこに居たホウメイにこれまでの事を全て説明した。


その時のホウメイはアキト達の話を全て聞いた後に。

「テンカワ、ルリ坊を大切にしてあげなよ。」

ホウメイは、ただそう言って二人の事を祝福してあげたのだ。

その時のルリは嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな顔で微笑んでいた。


アキト達はその後、厨房の排気ダクトから通風孔に入り追っ手の目を逃れる。

ルリのハッキングにより、コミュケの位置表示で追っ手達の行動は把握していた。


もっとも最初は、ルリがオモイカネに頼んで詳しい情報を入手していたが。

ユリカ達に手を打たれて、今現在、オモイカネの機能は制限された状態である。

それでも艦内を移動するクルー達の居場所くらいは、コミュケを通じて特定出来た。

今はルリが裏技を使い、ユリカ達が見ている情報をハッキングして見ているのだ。


現在は、目の前にあるウインドウに映る艦内構造図を見ながら。

そこに映るクルー達の所在を示す光点と見比べて、一番手薄なゲートへと進むアキトとルリ。










やがて、アキト達は十字路に差しかかった。

狭い通風口の中ではあるが、十字路は他より広くなっている。


ルリはいったん止まって、後ろに付いて来ているアキトに声をかけた。

「アキトさん、大丈夫ですか?」

「えっ?」

下を向いていたアキトは、ルリからの問いかけに顔を上げる。

この時、アキトはまだ止まっていなかった。

その結果は・・・ものの見事にアキトの顔はルリの・・・に衝突。

「きゃっ!・・・・・あ、アキトさん(真っ赤)」

「うわっわわわ!ご、ごめん!ルリちゃん!!」

慌てて謝るアキト。ルリを見てみれば真っ赤な顔で少し上目遣いで睨んでいる。

「ルリちゃん!わ、ワザとじゃないんだ!」

アキトが慌てての弁明する中、ルリは声を抑えて返す。

「アキトさん、声が大きいです。

  大声を出すと私達の居場所がばれてしまいます。」

慌てて自分の口を片手で押さえ、アキトは俯いて小さい声でルリに謝る。

「・・・・・ごめん、ルリちゃん。」

ルリはアキトの叱られた子犬の様な様子に、視線を逸らして言う。

「別に、そんなに謝らなくてもいいです・・・。」

アキトはルリの言葉を聞いて顔を上げた。

顔を上げたアキトにルリは告げる。

「アキトさん、あそこの十字路で一休みしましょう。」

「あ、ああ、そ、そうしょうか。ルリちゃん。」

アキトはルリがまだ怒っていないか、その顔を確かめたかったが、ルリは既に前を向いている。

仕方なく、アキトはルリの提案にそのまま従う。


アキトからは見えないルリの顔は、頬がほんのりと赤く染まっていた。





アキトとルリは十字路に来ると休憩に入った。


その場に寝転がり手足を伸ばすアキト。

「くぅ〜、ずっと腰を屈めたままだたったから何だか腰が痛いよ。」

アキトは、わざとらしくルリに向かって言ってみたが、ルリからの反応は無い。

ルリはアキト前に横向きに両膝を抱えた恰好で座り、顔はアキトから背けて黙ったままである。


そんなルリに、アキトは恐る恐ると言葉をかけた。

「ルリちゃん、さっきの事・・・・・怒ってる?」

「・・・・・いえ・・・怒ってません・・。」

アキトの方に顔を向けずにルリはそう答えが帰ってくる。


自分の方を向いて話してくれないルリに、アキトはまだ怒っていると思ったが。

ルリがアキトの方を向かないのには訳があった。

今更ながらに自分の置かれていた状況に、ルリは気付いたのだ。


(ずっと前を進んでいた間、アキトさんの目の前に私の・・・・・(真っ赤))


そう考えただけでルリの顔は、恥ずかしさの為に熱くなる。


(どうしょう・・・まだ顔の熱さがとれない・・・・・。)


ルリの顔は先程の状況を思い出し、更に赤くなっていた。


そんな状態だから、暫くは二人とも静かに休息していた。



しばらく休憩していると。


そのおかげか、ルリの方は大分落ち着いて顔の火照りも引いてきている。

ただ、落ち着いてくると、ルリはある事が気になってきだした。


自分の事を好きだと言ってくれたアキト。

一体、自分の何をもって好きになってくれたのか・・・。


ミナトに後押しされる様にアキトに告白したルリ。

本当はあの時、自分の想いをアキトが受け入れてくれるとは思わなかった。

それでも胸の奥に膨らむ、自分では押さえきれない程の想い。

それをアキトに、どうしても伝えたかったのだ。

例えその想いが叶わなくとも・・・。

それが、アキトが自分の想いを受け入れ、更に好きだと言ってくれた。

その時どれだけ嬉しかったか・・・ルリは今まで生きてきて良かったと、この時程思った事はない。


だからこそルリは気になった、こんな自分のどこを好きになってくれたのかと・・・。





ルリのそんな様子にも気付かずにアキトは悩む。


(ルリちゃん、まだ怒ってるのかな・・・どうすれば・・。)


アキトがそう考えていると、ルリの方から恐る恐る話しかけてきた。

「アキトさん・・・その・・・・・。」

「な、なに?ルリちゃん。」

「あの、アキトさんに・・・聞きたい事があるんです・・・。」

「何かな?ルリちゃん。」

「・・・アキトさんは・・・・・私の・・・その・・・何処が気に入って好きになってくれたんですか・・・。」

「・・・・・ルリちゃん。」

「私・・・自分でも分かっています。自分が他の人と比べて、無表情で可愛げが無い事くらい・・・。

  それに、この髪と瞳・・・自然にはあり得ない、人工的に作り出された証・・・私は・・・。」

ルリのその言葉に聞き、それをアキトは心から否定する。

「ルリちゃん!そうじゃない!俺はそんなの気にしない!」
  
アキトはそう言ってルリの傍に寄り、その髪を一房その手に取って優しく言葉を紡ぐ。

「俺は好きだよ。ルリちゃんのこの髪も、吸い込まれそうなその瞳も、とても綺麗で・・・。

  それに可愛げが無いなんて、そんな事は無いよ。

  だってルリちゃんは今日だけでも俺に色々な表情を見せてくれたじゃないか。

  どの表情も可愛くて、俺の心にはしっかりと焼き付いてるよ。」

アキトの言葉にルリの頬が赤く染まる。


ルリの瞳を見詰めながらアキトは言葉を続けた。

「俺は・・・ルリちゃんを守りたい、ルリちゃんには俺の傍に居てほしい。

  これからも、ずっと・・・俺はルリちゃんを離したくない。

  ルリちゃん、今の俺は誰よりも君が・・・好きだよ。」

「アキトさん・・・。」

ルリはアキトの名を呟き、自分の髪を撫でるアキトの手に自分の手を上から重ねた。

アキトの顔を真っ直ぐに見詰めてルリは言う。

「アキト・・さん・・・アキトさん、私も好きです。

  アキトさんのその優しい瞳、温かい笑顔・・・。

  そして、このアキトさんの温もり・・・・・。」

ルリは瞳に涙を溢れさせ、その雫が目からこぼれ落ちる中で言葉を紡ぐ。

「私、知らなかった・・・こんなにも泣きたくなる程の喜びと。

  優しくて、温かく包み込まれるような安らぎがあるなんて・・・。

  私・・・私もずっとアキトさんの傍に居たい・・・絶対に離れたくない・・・。」

アキトはルリの頬に手を添えて、こぼれ落ちる涙をそっと拭う。


二人は狭い排気ダクトの中、もっとお互いの存在を確かめたくて・・・。


ルリはアキトの頭を自分の膝とお腹の間に乗せ。

アキトは仰向けでルリの顔を見上げる。

膝枕に近い状態で、アキトは腕を伸ばしてルリの頬を優しく撫でた。

ルリはアキトの髪を愛おしそうに撫でる。



ほんの数日前までは、こんなにも自分が変わってしまう事など思いもしなかったルリ。


だけどルリは、この自分の変化が嬉しかった。

好きな人の傍にいるだけで、こんなにも喜びを感じる自分の心・・・。


『あなたはね・・・人を好きになり、恋もする、普通の女の子なのよ。』


ルリの脳裏にあの時のミナトの言葉が甦る。


今の自分はアキトを好きになり、アキトに恋をする女の子・・・。


(ミナトさん・・・今の私、普通の女の子です。)


アキトの顔を微笑みで見詰めながら心の中でルリはそう呟いていた。















暫くの休憩を挟んで、アキト達は再び通風孔内を進む。

目的の場所に近いところで、誰もいないことを確認した後、通風孔のフタを外して外に出た。

そしてアキトはルリの手をしっかりと握り、ゲートに向かって走る。


ゲートが近づくとアキトはルリに声をかけた。

「ルリちゃん、もうすぐゲートだよ。

  皆、俺達のいる場所から反対方向に居るみたいだから・・・  大丈夫、出られる
よ。」
アキトの言葉に頷いて答えるルリ。

「はい、アキトさん」



その間も二人は走った。



ここで捕まれば自分達は引き離されて、離ればなれにされてしまう。

それは、今の二人が最も恐れている事だった。





そしてついに物資搬入用のゲートの手前まで辿り着く二人。


そこは広い区画となっている。


通路からその広い区画内に走り込むと、アキトとルリは真っ直ぐにゲートに走った。


だが、後少しでゲートとという所で立ち塞がる人影・・・。


「止まれ!テンカワ!もう逃げられんぞっ!!!」


突然現れたゴートが、アキトとルリに銃を向けて目の前に立ち塞がった。

「なっ!?・・・ゴートさん!」

アキトはゴートが自分達に銃を向けているのに驚いてルリを後ろに庇う。


愕然として立ち止まるアキト達の左右から、メグミとリョーコが現れる。

「アキトさん、もう逃げられませんよ!」

「テンカワ、これで追い詰めたぜっ!」

そしてウリバタケを筆頭にした、その他のクルー達も出てきた。

こちらは無言のままアキト達を見ている。


通路を引き返そうにも、ゴートの銃が真っ直ぐに狙っているので無理だ。


アキトの後ろでルリが悔しそうに呟いた。

「アキトさん、どうやら罠だったみたいです・・・。

  すみません、私がもっと・・・・・。」

そんなルリに対してアキトが慰めるように言う。

「・・・ルリちゃんの所為じゃないよ。

  向こうが此方よりもずっと上手だっただけさ・・・・・。」



アキトとルリが小声でお互い話していると、後ろの方から足音が聞こえてくる。

複数の足音の主は、ユリカ達だった。


ユリカがミナトとプロスを従えて、アキト達の後ろの通路からやって来たのだ。

そのミナトとプロスの後ろにも、数人のクルー達が付いてきている。


ユリカがアキトに向かって胸を張り告げる。

「アキト!これでもう何処にも逃げられないからね!」

これで、アキトとルリは完全に取り囲まれてしまった訳だ。



全てはユリカの作戦。


ユリカは、ルリがハッキングしているだろうと検討を付け、各自のコミュケを数人に分けて持たせた。

更にアキト達が潜伏しているだろう範囲から各班を遠ざけて、ワザとゲートの一つを手薄にする。

そして他のコミュケを外した者達は、手薄になったゲートに網を張たのだ。


潜伏した敵は燻り出すか、誘い出すか・・・。

時間があれば、もっと確実な方法もあっただろうが・・・取り敢えずユリカの作戦勝ちであった。



ゴートがアキトに対して呼び掛ける。

「テンカワ、ルリ君を離して大人しく投降しろ!

  ルリ君を人質にして逃走を謀るとは・・・見下げ果てたヤツめ!」

ゴートのその言葉を聞くと、ルリがアキトの後ろから飛び出して叫んだ。

「待って下さい!アキトさんは悪くありません!」

自分の前に飛び出したルリに驚いたアキトは声をあげる。

「ルリちゃん!?」

アキトを庇う様に両手を横に広げて立つルリ。

ゴートは、そんなルリに諭すように話しかけた。

「ルリ君、君がテンカワに脅されている事は分かっている。

  だが、もう大丈夫だ。後の事は任せて安心して此方に来たまえ。」

ゴートの言葉をルリは、顔を左右に振って否定する。

「違います!私はアキトさんに脅されてなんかいません!

  アキトさんと一緒に居るのは自分の意志です。

  私は・・・私はアキトさんの事が好きです!

  それともマシンチャイルドだからって、私が人を好きになったらいけないんですかっ!!

  私はアキトさんと離ればなれになるのはイヤッ!

  ずっと、大好きなアキトさんの傍に居たい・・・・・居たいん・・です・・・。」

ルリは生まれて初めて心の激情のままに叫んだ。

終わりの方の言葉は、泣きそうな声で消え入るように区画内に響いた。





ルリの心からの叫びの後、静まり返る区画内。


そこに一人の男の声が発せられた。

「俺は、どうしても聞きてぇ事がある。」

皆の視線がその男に向けられる。

「ルリルリの気持ちはよぉ、良く分かった・・・。

  ならアキトよぉ。おめぇの気持ちはどうなんだ?」

その言葉を発したのはウリバタケであった。


アキトがウリバタケの問いに答えようとした時、後ろからユリカが口を挟む。

「アキトは私が好きに決まっ「艦長は黙ってろっ!!!」・・・!?」

ウリバタケは真剣な表情でユリカの声を一喝して遮った。

一喝されたユリカは驚いた顔で呆然としている。

メグミとリョーコもウリバタケの一喝で、何も言えずに押し黙っていた。


ユリカを睨んでいたウリバタケは静かに口を開く。

「俺はなぁ、アキトに聞いているんだ。」

そう言った後、ウリバタケの目はユリカ達からアキトに向けられる。

「どうなんだ?アキト。」

プロスやゴート、ミナトと周りのクルー達も、皆黙ってアキトが何か言うのを見守っていた。


アキトは周りのクルー達から集まる視線を前に、意を決した顔で静かに口を開く。

「俺は・・・ルリちゃんが好きです。

  確かに、ルリちゃんの年齢を考えれば皆が変に思うかもしれない・・・。

  でも、俺もルリちゃんの傍にずっと居たい・・そして彼女を守っていきたい。

  それにルリちゃんの傍にいると俺、すごく心が安らぐんですよ。

  ・・・ウリバタケさん、これが俺の正直な気持ちです。」

そう言った後、アキトはメグミ、リョーコに顔を向けて謝る。

「メグミちゃん、リョーコちゃん・・・ごめんな。

  これまで俺がハッキリさせなかったのが悪かったんだ・・・」

メグミとリョーコは少し悲しそうな顔をしてアキトを見ていた。


それでも二人は落ち着いていた。

ルリのアキトに対する想い、更にアキトのルリに対する想い・・・。

両方を聞かされて、逆に落ち着いてしまった二人。

もしかしたら心の何処かで、こうなるような予感がしていたのかも知れない。


リョーコがアキトに言う。

「・・・おまえが、そう決めたんならしょうがねぇよ。

  それに、そうハッキリと言われたんならオレも諦めがつくってもんさ・・・。

  でもな、一言だけ言わさせてもらうぞ・・・ルリを泣かすんじゃねぇぞテンカワ!」


続いてメグミがアキトに声をかける。

「私、アキトさんの事が好きでした・・・。」

メグミの言葉は既に過去形になっていた。

「でも、アキトさんはルリちゃんを選んだんですよね。

  私・・・アキトさんが私を選ばなかった事を後悔するぐらいのいい女になってみせますよ。

  その時になって後悔しても遅いですからね。」

アキトに向けるメグミの顔は僅かだが笑っている。


元気を出すかのように声に出して言うメグミ。

「あ〜あ、また新しい恋を捜さなくちゃ・・・。

  何処かにいい男でもいないかなぁ。」

メグミもリョーコも、どこかサッパリした顔をしていた。


次にアキトは、三人の内に最後に残った人物に顔を向ける。

アキトの視線の先には、俯いたユリカがいた。



ユリカの方に顔を向けたアキトが声を掛ける。

「ユリカ・・・。」

アキトの声に俯いていたユリカが顔を上げた。

ユリカは今にも泣き出しそうな顔をしてアキトを見る。

アキトはそんなユリカに言うべき言葉をかけた。

「ユリカ・・俺は、お前の王子様にはなれない。

  俺は、ルリちゃんを守る騎士になるって決めたんだ。

  だから・・・ごめん。本当に・・ごめんな、ユリカ。」


アキトの言葉にユリカはとうとう目から涙を零した。

ユリカは目から涙を零しながら首を振る。

「いや・・・いやいやっ!、こんなの・・こんなの嘘だよぉ・・。

  アキトは私の王子様で・・・私の事が好きで・・私の傍にずっと居てくれる・・・。」

泣きながらユリカはアキトに向かって言葉を紡ぐ。

「私は・・・私はアキトが好き・・・・・」

その言葉は小さかったが周りのクルー達にも聞こえた。


ユリカはアキトの顔を真っ直ぐに見て叫ぶ。


「私はアキトの事が大好きなのぉぉぉ!!!!!」
  


ユリカが初めて自分から、アキトの事が好きだと言葉にした。


想いはちゃんと言葉にして伝えなければいけない時がある。

だが、ユリカのそれは遅すぎた言葉、アキトは既にルリを選んだ後・・・。


だからアキトはユリカにこう言った。

「ユリカ・・・・・俺が想いを受け取り、答えたのはルリちゃんなんだ。

  だから、お前のその気持ちには答えられない・・・ごめん。」

アキトの言葉を聞いたユリカは、堪らずにその場から泣きながら走り去る。


走り去るユリカの後を、思わずアキトが追い掛けようとした時、メグミとリョーコが止めた。

「アキトさん、ユリカさんの事は私達に任せて。

  アキトさんが今いくと、ただユリカさんを傷付けるだけ・・・。

  それにアキトさんはルリちゃんを放って行くつもりですか!」

「そうだぜテンカワ。ここはオレ達に任せなっ!

  おめぇはよぉ、ルリの傍に居てやらなきゃダメだろうが!」

メグミとリョーコはそう言いながら、ユリカの後を追い掛けて通路を走っていく。

アキトは二人の言葉に『はっ』としてルリの方を見る。

ルリは不安なのか、泣きそうな顔をしてアキトの顔を見上げていた。


アキトはそんなルリを安心させる様に言う。

「大丈夫だよ、ルリちゃん。俺は何処にも行かない。

  俺が好きになったのはルリちゃんなんだから・・・。」

ルリはアキトの言葉を聞くと、アキトの身体に顔を埋める様に抱き付いた。

抱き付いてきたルリの身体を、アキトは優しくそっと抱き締め返す。





そんな二人だけの世界を構成する空間。


そこにプロスの咳払いが一つ響いた。

「うおっほんっ!」

そのわざとらしい咳払いにアキトとルリは我に返る。

我に返って周りを見回すとクルー達が取り巻いて二人を見ていた。

二人を見ているクルー達の中には泣いている者や、アキトに血走った目を向ける者もいる。

そんな中で一人、ミナトの顔は満足げに”にやり”と笑っていたが。


周りの状況に気付き、忽ち顔を真っ赤にするアキトとルリ。

顔を真っ赤にしているアキトとルリにプロスが声をかける。

「あー、お二人がお熱いのは分かりましたが。

  ここでそのような事をされても困りますなぁ。」

そのプロスの言葉に更に顔が真っ赤になる二人。


そんな二人にプロスが告げる。

「お二人には少し事情聴取をしたいので私と共に来て戴きます。

  テンカワさんにルリさん、よろしいですな。」

プロスのその言葉に、アキトとルリは自分達の置かれた状況を思い出す。



アキトはルリを守るかのように抱き寄せプロスを睨み付けた。



アキトとルリが、お互い内心で恐れている事・・・。

それは、自分達が離れ離れにされる事だ。


ルリはナデシコ唯一のオペレーター・・・。

ルリの代わりのオペレーターは他には居ない。

ましてや、ルリの親権は形式上ネルガルにある。

ネルガルにとっては、ルリは商品価値の高いマシンチャイルド。

このまま二人の仲を黙ってみている訳はない。

アキトを排除する方向に動く事は予測できた。

ルリに比べてアキトは半端なコック兼パイロット・・・。

オペレーターとは違い探せば幾らでも代わりがいる。

今回の件でアキトがナデシコを降ろされる可能性は極めて高かった。

そうなれば二人は離れ離れにされてしまう。


アキトとルリは決して離されまいと、お互い強く抱き締め合いプロスを睨む。

そんな二人の様子にプロスは困ったように。

「いやはや、どうもそんなに私を睨まれましても・・・これは困りましたなぁ。

  私はただ、お二人から事情聴取をしたいと思ってるだけなんですが。」

表情だけ見れば、少しも困った様子には見えないプロス。


そんなプロスにルリが睨みながら言う。

「イヤです!ネルガルは私とアキトさんを引き離すつもりです。

  でも、私は絶対にアキトさんと離れません!」

ルリの言葉にプロスは答える。

「はあ、ルリさん。そうは言われましても、私は会社に仕えるしがないサラリーマンですので・・・。」

プロスとルリのやり取りを聞いていたウリバタケが口を挟んできた。

「おい、プロスさん。ルリルリとアキトを引き離すつもりか?

  そんな事してみろ、俺達だって黙ってないぞっ!。」

ウリバタケの言葉に同意して、周りのクルー達も頷く。

「それに俺は、ホウメイさんに言われたんだよ。

  ルリルリの幸せが何なのかよく考えてみなってなぁ。

  俺の目から見たらアキトの傍に居る事、それが今のルリルリの幸せだと感じたぜ。

  なぁプロスさん。この二人の為に何とか出来ねえのかよぉ。」

ミナトもプロスに言う。

「プロスさん。私からもお願いよぉ。

  ルリルリとアキト君を引き離すのは止めて・・・。

  それに好き合っている二人が幸せになっちゃいけないって言うのぉ。

  いくらネルガルだからってそれは横暴よぉ。」

プロスは周りからの抗議と嘆願に困ったように答えた。

「しかしですなぁ。どうするのかその事を判断するのは私ではなく上の方達なんですよ。

  それにまだ、そうなるとは決まった訳でもありませんし・・・。」

プロスがそこまで言って周りのクルー達を見回す。


クルー達を見回した後、プロスは仕方なさそうに口を開いた。

「はぁ、分かりました。

  テンカワさんとルリさんが引き離されないように、私が出来るだけ上層部と掛け合ってみ
ます。」
そう言ったプロスにゴートが口を挟む。

「ミスター、良いのか?」

プロスはゴートに向けて答える。

「まあ、クルーの人達に暴動を起こされるよりは・・・。

  (それに、どうやら私もナデシコに染まったようで・・・)」

プロスはゴートに苦笑して答えながら、内心ではそれも悪くはないと思う自分がいた。


プロスは再度、クルー達を見回して告げる。

「では、皆さん。そういう事でよろしいですかな?」

今この場に居るクルー達は、一応はそれで納得したのか異議はでなかった。


まあ、アキトとルリを引き離すという判断が下った場合。

その時にはどうなるかは分からないが・・・。


アキトとルリも取り敢えずは、大人しくプロスの指示に従った。

二人は上層部の判断が下るまで自室で謹慎ということである。





暫くして、ナデシコ艦内の非常態勢は解かれた。

それと共に艦外に居たクルー達も帰ってくる。

帰ってきたクルー達はアキトとルリの事を聞き、驚きはするものの二人の事を批判する者はいなかった

その事には陰で、ミナト、ホウメイ、ウリバタケ達が中心になってアキトとルリを擁護した事が大きか
った。




プロスはこれらの事が一段落すると。

後をゴートに任せて、ネルガルのトップである会長の元へと向かった。













ナデシコ艦内に秘密裏の内に作られた部屋・・・別名『缶詰部屋(アカツキ専用)』。



その部屋にはネルガル会長『アカツキ・ナガレ』が監禁されていた。

外界からは隔離された部屋の中で、秘書の『エリナ・キンジョウ・ウォン』の監視の元。

アカツキは堪りに堪った書類決裁に追われている。


ナデシコクルー達に三日間の休みがあるのに対して、アカツキには休み無し。

アカツキは最初の日の宴会には出たが、それ以外は此処で監禁状態であった。


そのアカツキの顔はやつれ、目の下にはクマを作り、機械的に書類に判を押していく。

「エリナ君、そろそろ休ませてくれないかなぁ〜・・・。」

アカツキの訴えに無情にも返ってきた言葉は・・・。

「何言ってるんです。書類はまだまだあります!

  今日中にはこの書類を全部仕上げて貰いますからね!」

そう言って傍にある机の上に山と積まれた書類の束をエリナは指差した。

アカツキはその書類の山を見て、何処か虚ろな乾いた笑いをあげている。


ちょうどその時、部屋にプロスからの専用通信が入った。

この部屋に連絡を取れるのはナデシコ内ではプロスとゴートのみである。

【会長、ちょっとよろしいでしょうか?実は困った事がありまして直接お話したい事が・・・。】

アカツキはプロスからの通信に飛び付くように応対した。

流石にこのまま書類と睨めっこを続けるのは嫌だったようだ。

「いやぁプロス君!僕に直接話したい事があるって言うのかい。

  もちろん構わないよ!直ぐにでも来てくれたまえ!」

プロスはアカツキの必死の形相に少し引き気味になり答える。

【で、では、直ぐにそちらの部屋に窺いますので・・・。】

プロスはそれだけ言うと通信を切った。

通信が切れた後、部屋の中では言葉を挟めなかったエリナがアカツキを睨んでいる。

エリナの視線に気付かない振りをしてアカツキは冷や汗を流しつつ祈った。


(プロス君・・・早く、急いで来てくれよ(汗))


アカツキはプロスが部屋に来るまでの間、ひたすらエリナの視線に耐え続ける事となる。





プロスは暫くしてからアカツキの居る部屋にやって来た。

そのアカツキの秘密の執務室に今居るのは三人の男女。


そしてプロスはたった今、ナデシコ内で起きた出来事をアカツキに報告し終わったところである。

途中、エリナが怒って口を挟もうとしたが・・・。

それをアカツキが大企業のトップに立つ者の目で制して、プロスに最後まで報告させた。


報告を聞き終わったアカツキは静かに目を瞑っている。

プロスはそんなアカツキに探るように話しかけた。

「会長、どういたしますか?私としましては艦内のクルー達の反応も考えまして。

  ここは下手なことはせず、しばらくは静観した方がよろしいかとは思いますが・・・。」

プロスの言葉にアカツキは目を開いて答える。

「まあ、それで別にいいんじゃない。

  でも以外だったなぁ、テンカワ君とホシノ君がねぇ・・・。

  僕はてっきり艦長と、だとばかり思ってたんだけどねぇ。」

アカツキは軽い口調で話す。

その口調からは、どこか面白がっている節が窺える。


だが、ここでエリナが抗議をあげた。

「い、いいわけないでしょうがっ!!

  ホシノ・ルリはネルガルの貴重なマシンチャイルドなのよ!

  それに彼女の歳を考えなさい!世間体ってものもあるわ!

  ネルガルの企業イメージにも響くわよぉ!!!」

肩で激しく息をしていきり立つエリナにアカツキは飄々と答える。

「でもねぇエリナ君。

  民間人やホシノ君の様な歳の少女を戦艦に乗せて戦わせている時点で、既に世間体は悪い
よ。
  まあ、そうならないように情報操作をしてこちらの都合のいいようにしているけどね。

  つまり、やりようはいくらでもあるってことさ。

  何ならテンカワ君とホシノ君は婚約者同士って事にしてもいいしね。

  そこら辺の事はプロス君に任せるよ。」

話を振られたプロスはアカツキに聞く。

「よろしいのですか会長?」

「ああ、構わないよプロス君」

アカツキのあっさりした返事にプロスは少し考える。

正直プロスは会長のアカツキが、二人の仲をこうすんなりと認めるとは思っていなかった。

プロスは内心の事は表には出さずにアカツキに答える。

「では会長。その辺のところはお任せ下さい。」


それに納得できないのはエリナ。

眉を逆立てて文句を言おうとしたが、アカツキはそれを軽く手で制した。


真面目な顔になったアカツキはエリナを見ながら口を開く。
  
「なにエリナ君、物は考え様さ。テンカワ君もまたこちらにとっては重要な人物だよ。

  生体ボソン・ジャンプの成功例・・・ネルガルが求めていたものの一つ。

  それにホシノ君の親権はネルガルが持っている。つまり、身柄はネルガルが押さえている
んだ。
  となれば、テンカワ君だって恋人が居るネルガルからはそうそうは離れられないって事だ
よ。
  二人の絆が深まれば深まるほどにね。

  実験への協力とかは時期を見て、ホシノ君の事をちらつかせて協力を要請すればいい。

  ネルガルにとっては別に損じゃないってことだよエリナ君。」

そこまで聞いてエリナは黙ったまま考えこんだ。


やがて渋々ながら答えるエリナ。

「・・・分かったわよ。」

短く答えたはしたが、エリナの中にはまだ納得出来ない部分があるのか。

機嫌が悪く、直ぐに部屋から出ていこうとした。


部屋から出る時に振り向いて、アカツキに向かって言うエリナ。

「会長、そこの書類は必ず今日中に仕上げてちょうだい!

  もし、さぼったりしたら・・・分かってるわよねぇ。」

エリナは冷たい声でアカツキにしっかりとクギを刺して部屋を出って行った。



残された二人、アカツキとプロスはお互い苦笑している。


少しの間の後、プロスはアカツキを真っ直ぐに見て静かに聞いた。

「それで、会長の本心はどうなのですか?」

プロスの問いに対してアカツキは・・・。

「さっき言ったことが僕の本心だよ。」

そう言った後に更に言葉を続けるアカツキ。

「でも・・・将来テンカワ君とホシノ君の間にどんな子供が生まれるのか。

  そのことにも興味があるねぇ。プロス君は興味ない?

  何なら、テンカワ君とホシノ君の部屋を今から同室に変えてもいいよ。」

プロスは苦笑しつつ、アカツキに聞く。

「会長はテンカワさんとルリさんが将来結婚することもお認めで?」

アカツキはそのプロスの問いには答えず。



ただ、アカツキのその目は楽しげに笑っているように見えた。














その日の晩、ナデシコ艦内の食堂に主要クルー達が集まった。

ここに集まったのは、ユリカ、メグミ、リョーコ、それとアカツキ、エリナを除けた主要クルー達であ
る。

食堂に来ていないユリカ達はどうしたかというと・・・。

何処から持ってきたのか、ユリカの自室で宴会の残りの酒で自棄酒をしたらしく。

今は三人仲良く医務室のベットの上で、イネスの『手製の薬』を飲んで大人しく寝ている。

・・・なんだか魘されているのは気のせいだろう。

アカツキは、未だ缶詰部屋でお仕事中・・・もちろんエリナの監視付きだ。



まあ、それはさておいて・・・。



食堂に集まった皆の前で、プロスより今回の件についての説明が行われた。

説明と聞き、そわそわとして落ち着きがない人物が一名ほど居たが、皆が見ない振りをする。


取り敢えずプロスもそちらは見ないようにして、クルー達の前に出て話を始めた。

「えー、実はテンカワさんとルリさんの処遇が決まりましたのでお知らせします。」

プロスが皆の前でそう告げると、アキトとルリの顔が心なしか赤くなる。

プロスはそんなアキト達二人をチラッと見てから話しを続けた。

「テンカワさんとルリさんは婚約者同士となりました。

  これはネルガルの決定でもありまして、当人達には既に話をして了承を得ております。

  まあ、これに関してはルリさんのお歳も考えるに、世間体というものもありますので・・・。

  なお、テンカワさんは今まで通りにナデシコ勤務を続けてもらいます。」

そこまでプロスが言うとクルーの中から手を挙げて質問が来た。

「プロスさん、質問!

  つまりそれは、アキト君はナデシコから降ろされる事はなく。

  ルリルリとのお付き合いもネルガルは許すと・・・いうことなの?」

質問をしたミナトにプロスは答えた。

「ええ、ミナトさんその通りですよ。」

それを聞いたミナトはルリの方を向いて話しかける。

「ルリルリ、良かったわね。これでアキト君と晴れて恋人同士よぉ♪」

ミナトの言葉を聞いてルリの顔がより一層赤くなった。


そこでプロスがアキトとルリに注意をする。

「テンカワさんとルリさん。お二人は今後は婚約者同士という扱いになりますが。

  これは一応世間体というものを考えまして、とった処置ですので。

  くれぐれも、お互い自重した行動をして下さい。」

プロスはそこまで言ってから、アキトの方を見て言葉を続けた。

「特に・・・テンカワさん。

  自制心を強く保ち、決して早まった行動はしないで下さいよ。」

アキトはプロスの言葉に顔を真っ赤にして、反論しようとしたが言葉が出てこない。

隣のルリもまたプロスの言った言葉に何かを思い出したようで、顔を真っ赤にして俯いている。

そんな二人の様子を周りのクルー達は、微笑ましく見守っていた。


だがプロスはアキトとルリの様子から、若干の不安があるのか念を押すように言う。

「本当にっ!ほんとーに、お願いしますから、風紀を乱さすような事はお互い自重して下さいよぉ。」

更にその後、プロスはアキトとルリに艦内での行動などに注意するが。

プロスの話が長引きそうな感じになったところで、厨房から声がかかった。

「プロスさん、もうその辺でいいさね。

  ちょうどこっちも出来上がったから、そろそろ始めるよ。」

ホウメイがそう言うとホウメイガールズの五人が料理の盛られた皿を手に厨房から出てくる。

実はさっきからずっと、食堂内には美味しいそうな匂いが充満していた。

厨房でずっとホウメイ達が料理を作っていたのだ。


次々にテーブルの上に運ばれてくる料理。

その間、他のクルー達は呆然と見ている。

先に我に返ったジュンが皆を代表してホウメイに聞いた。

「ホウメイさん、これはいったい?」

ジュンの言葉にホウメイが答える。

「これはわたしからの、ささやかなテンカワとルリ坊の婚約祝いだよ。

  だから皆、遠慮しないで食べておくれ。」

ホウメイの言葉にアキトとルリが側に行き声をかける。

「ホウメイさん、俺達の為に・・・ありがとうございます。」

「・・ホウメイさん、ありがとう・・ございます・・・。」

ルリは嬉しいのか涙声になっていた。

ホウメイはルリの頭に手を置いて微笑んで言葉をかける。

「ルリ坊、こんな時は泣くもんじゃないよ。

  こういう時、女の子は目一杯幸せそうに微笑むもんさね。」

ホウメイの言葉を聞くとルリは微笑みを浮かべて返事を返した。

「はい、ホウメイさん。」


その時のルリの微笑みは一瞬周りの皆が見取れる程、綺麗な微笑みだった。


ホウメイはそれからアキトの方に向いて言う。

「テンカワ、ルリ坊を悲しませたりするんじゃないよ。

  あんたがしっかりルリ坊を守って、幸せにしてあげな。」

「はい!ホウメイさん。俺、ルリちゃんをきっと幸せにします!」

アキトがホウメイにそう告げた時。

アキトに対して周りのクルーの口々から冷やかしとからかいの言葉がかけられた。

だが、どの言葉の中にも皆の暖かみが感じられる。



皆の暖かい励ましと祝いの言葉が一段落したところでプロスが告げた。

「えー、それでは皆さん。

  話は料理をいただきながらご歓談してもらうという事で。

  それに、せっかくの料理が冷めてしまっては勿体ないですからな。」

プロスの言葉に皆に異論はあるはずもなく。



その後は、クルー達は料理に舌鼓をうちながらアキトとルリを肴に話しがはずんだ。























ナデシコの三日間の休暇、最後の日の晩。

食堂で行なわれたアキトとルリの婚約祝い。

それが終わって皆が解散した後、アキトとルリは展望室に来ていた。

外からの月明かりの中、二人は座って静かに展望室から見える星々を眺めている。

アキトはルリの肩に手を回し自分の方に抱き寄せて、ルリも体をアキトに預けて寄り添う二人。


二人はただ黙って寄り添うだけ・・・。






この三日間の騒動の中、色々な事があった。



  気が付けば・・・相手の存在が心の中で大きくなっていて。



  気が付けば・・・お互いが大切な存在になっていた。

  

  気が付けば・・・二人は恋人同士で、今は婚約者となっている。



二人とも自分達がこうなるとは思ってもみなかった。











アキトは隣のルリに静かに声をかけるる

「ルリちゃん・・・。」

ルリはアキトの声にゆっくりと顔をあげた。

「アキトさん・・・。」






お互いの顔が惹かれるように近づいていく。










月明かりの中、二人のシルエットが重なる。










それを見詰める今宵の月はただ静かに二人を照らしていた。


















こうしてナデシコでの三日間の間に起きた騒動は幕を閉じる。

そして明日からは再びナデシコは戦場へと出撃していく。


戦争という非日常の中の日常・・・ナデシコ内での人間模様。






ナデシコでは、これからも色々な騒動が起こり、非日常の中の日常を繰り広げていく。


明日という日を信じて。




















そしていつか、ナデシコでのそれが二人にとっては良き思い出となる事だろう。












<おわり>








●あとがき



ナデシコ騒動記〜気が付けば〜の第三日目・後編でした。

取り敢えず、これで『気が付けば』は終わりです。

後は今回出なかったユリカ達の様子やその後などを、外伝みたいにして書くかもしれません。


まだ未定ですけど・・・・・。


b83yrの感想

真神津さん、御苦労さまでした

ユリカもルリの裏をかくぐらいの優秀さをもっているんだから、TVの時点でもっとその優秀さを見せてくれてれば

でも、「アキトへの感情に流される」部分が折角の優秀さを駄目にしちゃってるからなあ

本当に勿体無いキャラなんですよね、ユリカって

 

所で、ラストのアキトとルリは、社内規定違反じゃないかな(にやり)

では、何時か外伝が来る事も楽しみにしてます、真神津さん♪

 

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