ナデシコの休暇最後の日。

アキトはルリからその想いを告白され、そして、アキトはルリの想いに答えた。

アキトとルリ、二人の想いはお互い通じ合い。

二人は幸せを手に入れたかに見えた。



だが、その事がナデシコ艦内に、思わぬ波乱を呼ぼうとしている。


アキトとルリはその事に、まだ気付いてはいない。






嵐は確実に、刻一刻と二人に迫っていた。
















機動戦艦ナデシコ騒動記  〜気が付けば〜















●第三日目・中編(1)









時間は、ミナトの部屋でアキト達三人が揃うより少し前に遡る。





その頃、アキトを捜してナデシコ艦内を奔走する者達がいた。


「ア〜キト!どこ〜〜〜!!!どこなの〜〜〜!!!」

「アキトさーん!どこにいるんですかーーー!」

「テンカワーーー!隠れてないで出てこーーい!!!」


言わずと知れた、ユリカ、メグミ、リョーコの三人である。


最初、メグミがアキトの部屋に行った時には既にもぬけの空。

メグミはその後に来たユリカとリョーコの二人と口論になったが、今は三人共に協力体制を敷いていた。


そのわけは・・・今ナデシコ艦内で流れている幾つかの噂。


アキトを捜すユリカ達に、うっかり整備班の一人が漏らした噂が三人の結束を固めたのだ。


その噂とは・・・・・。


  『テンカワ・アキトが、嫌がるホシノ・ルリに無理矢理迫っている・・・。』

  『テンカワ・アキトは、本当は○リ○ンで前々からホシノ・ルリを狙っていた・・・。』

  『実は・・・テンカワ・アキトはあの時、既にホシノ・ルリに手を出していた・・・。』

  『テンカワ・アキトとホシノ・ルリは、既に隠れて恋人同士だった・・・。』

  『鬼○なテンカワ・アキトはホシノ・ルリの弱みを握り、それを盾に・・・・・。』


・・・等々の悪い噂が整備班を中心にして広まっていた。


・・・まあ、中には思考が何処かに逝ったものもあるが。


その噂話を聞いたユリカ達はルリの部屋に急行。

部屋に着いて、ルリもまた居ない事を知り、三人共”まさか”という思いに駆られる。

ユリカ達にとって噂の内容も気になるが、それよりも重大な問題があった。


ユリカ達にとっての重大問題は・・・・・。


『『『ルリ(ちゃん)に抜け駆けされたァァァ!!!!!!』』』


・・・恋する乙女心がそうさせるのか、どうやらそう言う事らしい。



それにユリカ達にとっても、ホシノ・ルリは予想外の相手であった。

・・・手遅れになる前に何としてもアキトを探し出さなければ。

それがユリカ達三人の共通した思い。


そして今、ユリカ達はアキトを捜して、ナデシコ内を奔走しているというわけである。

しかし、ナデシコ内の何処を捜してもアキトとルリは見付からず、今はゲート近くを探索していた。





流石にここまで捜して見付からない事に、ユリカ達の焦りはピークに達してくる。

「くそっーーー!!!何処に行きやがったっ!!!」

リョーコの罵声が艦内通路に響く。

残りのユリカとメグミは・・・・・。

「アキトーーー!!!浮気の一回くらい許してあげるからぁー!!!」

「アキトさーん!!!わたしを捨てるんですかっーーー!!!」

ユリカ、メグミの呼び掛けの内容は、アキト本人が聞いたら根本から否定するだろう事は兎も角。

ユリカ達三人は、このままでは見つからないと思い始めていた。



ユリカが突然、ピタリと足を止める。

メグミ、リョーコの二人は突然止まったユリカの方を見た。

ユリカのその目は、どことなく据わっている。

その据わった目をメグミとリョーコに向けて、ユリカは二人を見据えて告げた。

「リョーコちゃん、メグちゃん、こうなったらアレしかありません・・・。」

「「アレって?」」

メグミ・、リョーコの二人の顔を見回して、ユリカは自分の考えを話す。

「人海戦術です!私達三人だけでは限界があります。

  そこで艦長権限で人員を総動員してアキトを捜します!

  まだ、敵に気付かれるわけにいきませんから艦内放送はしません。

  コミュニケもモニターされている危険性があります。

  まずは人数の多い整備班の人達に話して、各員に連絡して貰いましょう!」

ユリカの言葉にリョーコとメグミは直ぐに賛同した。

「なるほど!人海戦術かぁ!」

「確かに私達だけじゃ・・・人手は多い方がいいですよね!」

三人はお互い顔を見合わせて頷く。










ユリカ達は、アキトをいくら探しても見付からない事に焦り。

しかもルリと一緒に居るという事に、更に内心の焦りが募る。


それは女の勘なのか・・・ユリカ達は少しずつ暴走へと走り出す。



「何としてもルリちゃんの魔の手からアキトを救い出しましょう!」

「「おおおうっ!!!」」

ユリカ達が決意も新たにしていたところに横から声がかかる。

「あれ?艦長達、こんなところで何してるんです?」

ユリカ達が顔を向けるとそこにはミカコが不思議そうに見ていた。


ミカコはホウメイ・ガールズの皆と買い物に出掛けたのだが。

途中で忘れ物に気付き、一人で部屋に取りに返って来ていた。

他の皆は途中で待っていてくれている。


不思議そうに見ているミカコに、ユリカは出会う人達に欠かさずに聞いたのと同じ事を聞く。

「あっ、ミカコちゃん、アキトとルリちゃんを見なかった?」

ユリカの問いにミカコは考える。


(えっーと?そう言えば確かエリが、ルリちゃんがミナトさんの部屋に入るのを見たって・・・・・)


皆と雑談をしながら歩いている時に、エリが話していたのを思い出すミカコ。

「あの・・・アキトさんは知りませんが、ルリちゃんなら見たって・・・」

ミカコの言葉にユリカ達三人は凄い形相で詰め寄る。

「どこっ!何処でみたの!!!」

「何処でですかっ!!!」

「おらっ!言えっ!どこだっ!!!」

まさに掴みかからんばかりに詰め寄るユリカ達に、ミカコは壁まで追い詰められた。

そこでミカコはユリカ達に囲まれて、通路の壁に背中を貼り付かせた状態になる。

「ひぃ!・・・る、ルリちゃんなら・・え、エリが・・・み、ミナトさんの部屋に入るところを見たってぇ・・・・・」

ミカコは得も言われぬ恐怖を感じて、ユリカ達にエリがルリを見た事を告げた。

  
それを聞いてユリカ達は、それぞれ思っていることを呟く。

「ミナトさんの部屋?」

「ちくしょう!ミナトの部屋たぁ盲点だぜっ!」

「ミナトさん・・・そう言う事ですか。」

ミカコはユリカ達が気を逸らしている隙に、壁伝いに横に逃げる。

相手の手の届かないところまで来て、ミカコは走って逃げた。

「わ、わたしもう行きますぅ!そ、それじゃーーー!!!」

走って逃げていくミカコは余程怖かったのか半泣き状態であった。

その時のユリカ達には最早ミカコは眼中に無く。


目指す目的は唯一つ、ミナトの部屋だけだった。




・・・焦りは混乱を呼び、混乱は確実に暴走へと発展していく。










ユリカ達が暴走を始めた頃。


ミナトはアキトとルリを二人きりにした後、行宛もなかったので休憩室で休んでいた。

暫くはコーヒーを飲んだりしていたが、もうそろそろ良い頃だと思い。

自室に戻る為に立ち上がり、艦内通路を自分の部屋に向かい始めるミナト。


暫く歩いていていると、ミナトの後ろの方から遠く聞こえてくる叫び声。



「・・・・・・・・・・ァ・・・・・キ・・・ト・ォォォォォォオオ・・・・」



何だかどんどん近づいてくるその声に、ミナトは本能的に危険を感じる。

思わず近くの物陰に隠れ、恐る恐る声の聞こえる方向を覗き見るミナト。

通路の向こうの方から、凄まじい顔で走り来る三つの人影。

ユリカ、メグミ、リョーコ達三人の姿があった。


(か、艦長達よねぇ・・・・・)


ミナトがそう思っている内にユリカ達は、ミナトが隠れている場所を凄まじいスピードで過ぎ去って行く。

ユリカ達の走り去った方角を見つつ、ミナトは考える。


(艦長達・・・まるで獲物を見付けた猟犬みたいだったわねぇ(汗))


そこまで考えてミナトは何か嫌な予感が走る。

「まさか・・・・・バレた(汗)」

ミナトは何かに祈りつつユリカ達が走り去った方向に自分も走り出す。


(どうか、間違いでありますように・・・・・)


ミナトの祈りも虚しく、間違いなくユリカ達が向かった場所はミナトの部屋であった。










そんな事も知らず、アキトとルリはミナトの部屋でこれ以上は無い程幸せそうにしていた。


お互いが告白して、想いが通じ合った二人。

ルリはアキトの胸に身体を預けて、アキトはルリの小さな身体を優しく抱き締める。

言葉はいらない、お互いの温もりがあれば、ただそれだけで二人は幸せであった。


この時、二人は部屋の扉の直ぐ向こうに『3匹の鬼』が居ようとは思いもしなかった。


その扉の向こうでは、ユリカ、メグミ、リョーコの三人が険しい表情で立っている。

「アキトとルリちゃんはここに居るのね・・・」

ユリカがそう呟くと隣のリョーコが言う。

「艦長!さっさと扉を開けようぜっ!」

それに同調するようにメグミも言葉を挟む。

「艦長、リョーコさんの言う通りです!早く開けましょう!」

ユリカは二人の方を見て頷き、ポケットから一枚のカードを取り出した。

それは艦長に渡されているマスターキー、艦内の殆どの部屋の鍵を開ける事の出来るカードキー。


ユリカは、それをミナトの部屋のキースロットに通す。

部屋の扉はユリカ達の目の前で『ピッ』という音と共にスムーズに開いた。

扉が開くと共に急いで部屋の中に雪崩れ込む三人。

部屋の中に押し入ったユリカ達の見たものは・・・・・部屋の中で抱き合うアキトとルリの姿。

ユリカ達は、そのアキト達の姿を見て愕然としている。


愕然としていた三人の中で一番先に声を上げたのはユリカだった。

ユリカはアキトとルリを指差して叫ぶ。

「あ、あ、ア・キ・トォォォォォォ!!!!!!!!!」





アキトとルリは突然入ってきたユリカ達の姿に驚き、抱き合ったまま硬直していた。

そこにユリカの絶叫を食らい、意識が遠くなりかけるアキトとルリ。

だが、そう簡単に楽にはさせてもらえない。

ユリカ達が凄まじい形相でアキトに迫る。

「あ、あ、アキトォォォ!!!どういうこと!どういう事なのぉぉぉ!!!」

「アキトさん!どうしてっ!」

「てめぇぇぇ!!!何考えてんだっァァァ!!!」

ユリカ達に詰め寄られ、アキトは思わずルリを背後に庇った。

それが更にユリカ達の気に障る。

「アキトォ!何か言ってよ!ねぇアキトォ!」

「テンカワァ!てめぇ!何か言ったらどうだっァァァ!!!」

ユリカ達に責められてもアキトは何も言わない。

いや、言うべき言葉が見付からないというべきか。

今のアキトは頭の中が混乱していて言うべき言葉が纏まらない状態であった。

そんな状態のアキトの背中の方で服が”ぎゅ”と掴まれた。

それにハッとなるアキト。

アキトの後ろではルリが泣きそうな顔でアキトの服を掴んでいた。


(る、ルリちゃん・・・・・くっ、俺がしっかりしなきゃ!)


ルリの存在がアキトの心を奮い立たせる。

アキトは自らを奮い立たせ、勇気を振り絞り、目の前のユリカ達と対峙した。


その姿は、嵐の前に吹き消されようとしている蝋燭の炎・・・。

今まさに、アキトの運命は風前の灯火の様であった。


ユリカとリョーコはアキトに食ってかかる。

そんな中にあって、途中から喋らず黙ったままの者が一人。

メグミは途中から押し黙って、ただアキトの顔をジッと凝視したままだった。


それに気付いたリョーコがメグミに言う。

「おい!何黙ってんだっ!おめぇも何か・・・・・。」

メグミはリョーコの言葉を途中で手で制して、ずいっとアキトの前に立つ。

ユリカとリョーコの二人は、メグミの様子に唯ならぬもの感じて口を閉ざした。


メグミはアキトの顔を凝視したまま口を開く。

「アキトさん・・・何時から『そんなもの』する様になったんですかぁ?」

メグミのその言葉の意味が分からず、皆が呆然とした。

いや、その中で一名だけ直ぐにその意味に気付いたが・・・。

メグミはまだ気付かないアキトに言った。

「その『薄い桜色』・・・。」

メグミはアキトの後ろで真っ赤になった顔を下に向け、俯いてるルリの方に目線をやりながら続けて言った。

「ルリちゃんと同じ色ですよねぇ・・・。」

アキトはメグミの言いたい事がやっと分かり、慌てて手の甲で口元を拭う。

口元を拭った手の甲には薄い桜色、ルリの唇の色と同じ色が付いていた。

「あっ・・・・・」

アキトは自分の手の甲に付いたものを見て赤くなる。

それを見て、ユリカ達もメグミの言った事の意味にようやく気付いた。


それでもユリカは事実を受け入れがたいのか、呆然とアキトに問い掛ける。

「あ、アキト・・・・・ルリちゃんと・・・・・そんなぁ・・・
  
  うそ・・・・・うそよねぇ・・・ねぇアキト・・・・・うそって言って!」

リョーコは真っ赤になって口をパクパクさせている。

メグミは黙ったままであったが、その目は据わっていた。


アキトはユリカ達に、自分のルリへの気持ちが本気である事を説明しようと、勇気を振り絞り話しかける。

「そ、その・・・ユリカ・・・メグミちゃん・・・リョーコちゃん・・・」

アキトに名前を呼ばれたユリカ達はキッとアキトの顔を睨んだ。

「・・・ア・キ・ト・どういう事・・・・・ルリちゃんとそこまで・・・・・・・・・・」

ユリカは底冷えするような声でアキトに聞いてきた。

リョーコは、最早先程までとは様子が違い静かに黙ったまま。

メグミは目が完全に据わり、無表情と化している。

ユリカ達、三人の目つきが先程にも増して尋常ではない。



そのままアキトの方にユリカ達三人が冷気さえも漂わせ。

幽鬼の如くユラリと静かに近寄ってくる。


今、アキトは自らの確実な生命の危機を察した。


(し、死ぬ・・・・・おれ・・ここで死ぬなぁ・・・父さん、母さん、もうすぐ・・会えるよぉ・・・・・・・・)


アキトは、ユリカ達のどこか尋常ならざる雰囲気に、向こう岸が幻の如く見えた気がして。

脳裏に、これまでの人生が走馬燈の様に思い出されていくのを感じる。

この時のアキトは、迫り来る確定間近の死を前にして呆然としていた。


と、いうよりユリカ達のあまりの鬼気に当てられ思考が麻痺していたのだが。


それでも頭の片隅に、ルリだけは何としても無事に逃がさねば、という思いがあった。

近づくアキト絶体絶命のその時、部屋の扉の方から誰かの大声が響く。

「艦長達!いい加減にしなさいよぉ!」

扉の方を見てみれば、そこにはミナトが腰に手を当てて立っていた。





突然、後ろから掛けられたミナトの声にユリカ達が振り向く。

振り向いたユリカ達の視線が部屋の戸口に立つミナトに突き刺さった。


(か、艦長達ってば・・・・・マジで・・こ、怖いわよぉ・・・・・(汗))


ミナトはユリカ達の、それだけで人を射殺せる様な視線を受けて、内心冷や汗が流れる。

内心はユリカ達の気迫に圧されて、腰が引けそうになりながらも踏ん張るミナト。

ミナトの視界にアキトの後ろにいるルリの泣きそうな顔が見える。


(くっ・・・ルリルリの為にも、ここで引くわけにはいかないわよぉミナト!)


ユリカ達に対してミナトは気力を振り絞り胸を張って仁王立ちで睨み返した。



睨み合うミナトとユリカ達、先に口を開いたのはユリカ。

「ミナトさん・・・どういうつもりですか?」

ユリカの言葉に、ミナトは逆に聞く。

「どういうつもりって・・・艦長達こそどういうつもりなのかしら?

  ここは私の部屋よぉ。勝手に押し入って何騒いでるのよぉ。」

ユリカはミナトの言い分に声を荒げて言い返す。

「誤魔化さないで下さい!私が聞きたいのは、アキトとルリちゃんの事です!」

ミナトはちらりとアキトとルリを見て、それからユリカに視線を移し口を開いた。

「あら?アキト君とルリルリの事なら。

  アキト君がルリルリに会って謝りたい事があるからって言うから。

  私の部屋で二人が会うセッティングをしたのよぉ」

ミナトの答えにメグミが横から皮肉混じりで聞いた。

「へえぇぇ、アキトさんとルリちゃんがキスするようにですかぁ?」

ミナトはメグミの言葉に、表面上は何とか顔に出さなかったが、内心はかなり驚いていた。

驚きながらもミナトは、内心でアキトに向かって叫ぶ。


(あ、アキト君!・・・あ、あんたわぁ!な、何やってるのよぉぉぉ!!!)


まさかミナトも、アキトとルリの仲がそこまで進むとは思ってもみなかった。

ルリの年齢を考えれば、いくらルリが好きでも、あのアキトがそこまでするとは思わなかったのだ。


(アキト君!あんたわぁ自制心ってものがないのぉ!・・・・・まさか、本当に○リ○ン?)


実際に行動を起こしたのは、アキトが、というよりもルリの方からなのだが。

そんな事をミナトが知るよしもない。

・・・まあ、知ったとしてもアキトの置かれた立場に変わりはないが。

ミナトの中ではアキトに対して言いたい事が色々とあるが、何とか冷静になって考える。


(はぁ・・・それで艦長達の様子が、こうな訳ねぇ。艦長達がこの状態じゃ、冷静な話し合いは無理よねぇ・・・。

  取りあえずアキト君の事はひとまず置いといて・・・。一旦、艦長達の熱が冷めるまで時間を稼がないと・・・。)


ミナトはユリカ達の今の様子を見て、作戦変更を決めた。

そして、アキト達にアイコンタクトを送り、小さく指を動かして自分の意図を知らせるミナト。

アキトはミナトの目がちらっとこちらに合図を送り、微かに指が動くのを見た。


流石に、何時もは鈍いアキトも、この時ばかりはミナトの考えを察する。

ルリの方もミナトの意図を察して、そっとアキトの手を後ろから握りしめた。





ミナトが黙ったままなのに業を煮やしてユリカ達が大声で詰問する。

「ミナトさん!黙ってないで何か言ったらどうなんです!」

「黙ってるって事は、ぜーんぶミナトさんが仕組んだ事ですかぁ!」

「本当なのかぁ!そうなのかよぉぉぉ!!!」

ユリカ達の荒げる声を聞きながらミナトはずいっと一歩前に出る。

「ちょっと艦長達、人の恋路を邪魔するものじゃないわよぉ。

  アキト君とルリルリがお互い好きなのは見て分かるでしょう?」

今のユリカ達にとってこの挑発的な言葉に、三人は一斉にミナトへ異論を唱える。

「そんなの変です!大体アキトは私の事が好きなはずなんです!」

「ミナトさん!ルリちゃんは1●歳なんですよ!こんなのおかしいですよぉ!」

「おいっ!テンカワの相手がルリじゃあ!年齢から言ってもおれは納得いかねぇぞっ!」

その心中に『自分達よりずっと年下のルリに負けた』、という女として認める事が出来ないものがあるのか。

本人達の本当の心の内は分からないが、彼女達の言葉からは認めたく無いという思いが見える。

そんな中でミナトは、ユリカ達の言葉を浴びながらも気付かれずに少しずつ、その立ち位置を変えていた。


アキト達もそれに合わせて自分達の位置をずらしていく。

ユリカ達の相手をしながら、その意識を自分に向けさせて。

アキト達から外れる様に微妙に位置をずらすミナト。

ちょうど良い位置まで来ると、ミナトはアキト達の様子をユリカ達に気付かれないように確認する。

アキト達の準備が整ったのを確かめてミナトは、今度はユリカ達の様子を窺う。

ユリカ達の意識がアキト達から完全に逸れたのを確認すると、ミナトはアキトとルリに手で合図を送った。


ミナトの合図と共にアキトとルリは手を繋いだまま扉に向かって走る。

それに気付いたユリカ達が叫んだ。


「あっ!アキトォォォォォォ!!!!!!」

「逃げるんですかっ!アキトさァァァァァァんっ!!!!!!」

「このぉぉぉ!待てっ!!!テンカワァァァァァァ!!!!!!」


アキト達を追い掛けようと、扉に向かおうとするユリカ達の目の前に、ミナトが遮り立ちはだかる。

「待ちなさいっ!!!ここから先は行かせないわよォォォ!!!!!!」

その間にアキト達は、扉を抜けて部屋の外に逃げ出していった。

「ミナトさん!そこを退いてください!あー!アキト!アキト!アキトォォォ!!!!!!」

「くっ!どうあっても邪魔をするんですかぁ!ミナトさん!!!」

「くそっ!どけよぉ!このテンカワァァァ!!!待ちやがれぇぇぇ!!!」

ミナトは出来る限りユリカ達を押し止めたが、一人では何時までも三人を引き留められない。

幾らもしない内に結局ユリカ達の力に負けて跳ね飛ばされる。

「きゃあぁぁぁ!!!」    

部屋の床に跳ね飛ばされたミナトは尻餅をつくような形で倒れた。


ユリカ達は倒れたミナトに目もくれずに扉から飛び出していく。

「リョーコさんはそのままアキト達を追い掛けて下さいっ!!!

  メグちゃんは全てのゲートの封鎖と艦内に艦長命令で緊急事態を発令!

  アキトとルリちゃんを見付け次第その場で捕縛するように全クルーに通達!」

「任せろぉぉぉ!!!」

「わかりましたぁ!!!」

部屋の外の通路から聞こえて来るユリカ達の大声を聞きながら、ミナトは腰を押さえて立ち上がる。

「あいたたた・・・もう!腰を悪くしたらどうしてくれるのよぉ」

ミナトは愚痴をこぼしながらも、その目は心配そうに扉に向けられた。


扉の方を見ながら小声で呟くミナト。

「ちょっと艦長達、緊急事態の発令って・・・いくら何でもそれはないんじゃない。」

ミナトの誤算はユリカ達のキレ具合を見誤った事である。

まさか、艦長命令を使ってそこまでするとは、ミナトは思わなかった。





やがてミナトは、腰の痛みが引いてきたので立ち上がり。

艦長達を追い掛ける為に扉を抜けて通路に出た。


ミナトは通路に出ると、腰の具合を確かめた後、しっかりした足取りで歩き始める。


暴走を始めた艦長達を追い掛けて、何としても止める為に・・・。










アキトはミナトの部屋から逃げ出した後、ルリの手をしっかりと掴み艦内を走っていた。


目指すは外部への出入り口であるゲートだ。


だが、アキトと違いルリは途中で息切れし出して、既にアキトの手に引っ張られる形になっていた。

「はぁはぁはぁ・・・あ・・アキト・・・さ・・ん」

走り続ける中、ルリの様子に気付いたアキトは声を掛ける。

「ルリちゃん!大丈夫かい!」

「はぁはぁ・・・私・・もう・・・はぁ・・・だめです・・はぁはぁはぁ・・・」

アキトはルリの体力がもう限界に近い事を知り、一つの手段に出る。

「ルリちゃん!」

ルリの名を呼び、アキトはちょっと立ち止まるとルリを抱き上げた。


突然立ち止まり抱き上げてきたアキトにルリは驚いて声をあげる。

「きゃっ!あ、アキトさん!」

ルリを横向きに抱き上げて再びアキトは走り始める。


ルリの状態は、所謂お姫様だっこで、アキトに抱きかかえられている。

「ルリちゃん、ごめん!こっちの方が早いからね・・・しっかり掴まってて!」

「・・・は・・はぃ・・・」

ルリはアキトの首に両手を廻して抱き付く形になり、顔が熱く火照っていた。


そんな中でも周りの状況はどんどん進展していく。



    ビィィィィィィィィ!    ビィィィィィィィィ!    ビィィィィィィィィ!



ナデシコ艦内に警報が大音量で鳴り響き、続いて艦内放送が流れた。


{緊急事態発生!緊急事態発生!ゲートを直ちに緊急封鎖して下さい!
  
  只今、アキトさんとルリちゃんが逃亡中!総員、アキトさん達を見付け次第捕まえて下さいっ!!!}

〈皆さーーん!!!これは艦長命令でーーすっ!!!アキトを捕まえてちゃってくださーーーい!!!

  アキトォォォ!!!ルリちゃんと駆け落ちなんてダメなんだからぁぁぁ!!!!!!〉


メグミの放送の後に、続いてユリカの命令が余計な事も付け加えて飛ぶ。


アキトはこの放送を聞いて叫ぶ。

「だっぁぁぁ!!!ユリカのやつなに考えてるんだぁぁぁ!!!」

こうしている間にも追っ手はアキト達に迫っていた。

まだ見えないが通路の果てからリョーコの大声が聞こえてくる。

「・・・・・テン・カ・ワァァァァァ!!!・・・・・」

後ろ方から聞こえてくるリョーコの声に焦るアキト。

どうするべきか焦るアキトの耳元でルリが言う。

「アキトさん、多分ゲートには間に合いません。

  何処かでやり過ごさないと、このままだと私達捕まります。」

アキトはルリの言葉にゲートからの脱出を諦めて通路を横に曲がる。





そして、ただ身を隠す場所を探して、アキトはひたすら艦内を走るのだった。
















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●あとがき


第三日目・中編は、長すぎて二つに分ける事になりました(汗)。

まあ、これくらいの長さが読みやすいのではないかと思いまして、分けた次第です。


第三日目・後編はもっと長いですけど・・・。



さて、アキト君とルリちゃんの二人。

らぶらぶになったと思ったら、早速試練です。

二人は無事に、迫り来る追っ手から逃げ切る事が出来るのか?




次は『第三日目・中編(2)』です。


b83yrの感想

怖いぞ、ユリカ、メクミ、リョーコの3人(汗)

 

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