テンカワ・アキトは目を覚ました時、自分がその目にしているものが信じられなかった。


いや、信じたくなかったと言うべきか。


上半身裸の自分がホシノ・ルリをベットの上で抱きしめて寝ていたという事に・・・。




・・・正しくは抱き枕にして。
















機動戦艦ナデシコ騒動記 〜気が付けば〜










●第二日目・前編








ナデシコで宴会が行われた翌日の朝。



ナデシコ艦内の、ある一室のベットの上に二人の人物が眠っていた。

その内の一人は、その部屋の主のテンカワ・アキトである。


アキトはベットの上で意識が目覚め始める。

コックをしている為の習慣であろうか、決まった時間になると自然と目覚めるようだ。


覚醒を始めたばかりの朦朧とした意識の中でアキトは何か違和感を感じた。


(・・・・・なにか、いいにおいがする・・・・・なんのにおいだろう?・・・)


甘い、鼻の奥をくすぐるような匂い。


その匂いに誘われるようにアキトは段々と意識がハッキリとしてくる。

意識が覚醒するに従い、自分が何か温かく柔らかいものを抱き締めて寝ている事に気付いた。


アキトは目をゆっくりと開ける。


アキトの目に最初に飛び込んできたものは・・・青みがかった銀髪。

甘い匂いはその青銀の髪からしていた。


(・・・・・えっ?)


どこかで見たことのある髪の色。


アキトの知り合いで、この特徴のある色をした髪の持主は一人だけ。

寝起きの鈍い思考で考えがそこまで至ると、アキトの顔が微妙に引きつる。

そして恐る恐ると視線を自分の胸元の方に向けるアキト。

そこにはアキトの胸に頬を預けて安らかに眠るルリの顔があった。


しかもアキトはそのルリを抱き締めて寝ていたのだ。


アキトは徐々に現状を理解するにつれて、安らかな寝顔のルリとは対照的に顔は青ざめ、額に脂汗が滲み出す。

(昨夜・・・・・何があった?)


アキトは昨夜の事を思い出そうとするが、記憶が途中で途切れて思い出せない。

宴会場でウリバタケ達に酒を無理矢理飲まされた事は覚えている。


問題はその後の事である。


思い出そうとするが、肝心な所がどうしても思い出せないアキト。

その内、どうしても悪い方向へと考えがいってしまう。

昨夜の記憶が無いという事が更にアキトの心に、不安と混乱とに拍車をかけていた。


(お、俺は・・・ま、まさか・・・・・酒に酔った勢いにまかせ・て・・・)


アキトの脳裏に最悪の考えが浮かび、全身に嫌な汗が滲み出す。


(・・・・・ひ、人としての道を・・踏み・・・外すようなことを・・・・・)


この時、アキトの頭の中に浮かんだのは・・・刑務所の牢獄の中にいる哀れな自分の姿。

ルリの年齢を考えるに、世間から『○リ○ン、鬼○』と後ろ指を差さる事は間違いなし。


それ故、現実を認めたくないアキトは心の中で叫ぶ。


(ゆめだ・・・・・誰か!これは悪い夢だと言ってくれぇぇぇ!!!)


悪い夢と思いたい・・・思いたいが、自分の腕の中にある温もりが、無情にもこれは現実だと教える。


何故、こんな事になったのか・・・。


アキトとしてはルリを起こして何があったのか聞きたい・・・だが、ルリを起こすのが怖かった。

もし、最悪の結果をルリの口から突き付けられたら・・・そう考えると恐ろしくて起こせない。


その為、アキトは今だルリを抱き締めた格好で硬直したままであった。







アキトは暫くそうしていたが、悪い考えばかりが浮かんでとても精神が耐えられない。


取りあえずは心の平静を保つ為にも何かないかと目が周りを彷徨う。

そんな、アキトの彷徨う視界に、ルリの穏やかな寝顔が目に入った。



アキトはルリの穏やかな寝顔を見ながら、


(はぁ、ルリちゃんて可愛い寝顔をしてるなぁ・・・)


と、此処まではまだ良かった。


(やっぱり女の子だなぁ・・・柔らかくて、甘くいい匂いがするし・・・。    
 
 ・・・・・って!一体、俺は何を考えてるんだぁぁぁ!!!)


アキト、心の平静を保つのに失敗する。



一度、ルリの事をそう言う風に意識すると、意識するまいとすればする程に意識してしまう。


その結果、更に精神的に泥沼に嵌り込むアキト。


(ち、違う!俺にはそんな趣味は無い!・・・・・・・・・・はずだ)


既にこの時点でアキトは、自分に自信が持てなくなってきている。

このままでは、アキトが『堕ちる』のは時間の問題かと思われた。



その時、アキトにとって救いの女神が現れる。


いや、不幸の使者か。








アキトが精神的に追い詰められ進退窮まった時に突然、ルリの持つコミュニケの呼び出し音が鳴った。


その音にアキトの身体はビクッと震える。

次いで、寝ているアキト達の上にコミュニケのウィンドウが開いた。

ちょうど、アキト達を斜め上から見下ろす位置だ。

そのウィンドウに現れた人物はハルカ・ミナトであった。


ウィンドウの向こうからミナトが話しかけてくるが。

【ルリルリ、昨夜はごめ・・・ん・・・えぇぇぇ!?】

ミナトの言葉は途中で不自然に途切れた。


ウィンドウの中のミナトは目を大きく見開き硬直している。


ミナトは昨夜の宴会でルリを一人ぼっちにしてしまった事を謝ろうと思って連絡してきたのだ。


だが、今そのミナトが見ている光景は・・・。


上半身裸のアキトがベットの上でルリを抱き締めて寝ている姿。

更に、ルリの格好が悪かった。

昨夜、アキトの腕の中から抜け出そうと悪戦苦闘した所為であろう。

上着の制服もよれよれになって乱れ、スカートが捲れて下着が覗いてしまっている。


これでは、誤解をするなと言う方が無理。


そのウィンドウに向かってアキトはギッギッギッと錆びた音でもしそうな感じで青ざめた顔を向けた。

アキトの目とミナトの目が合う。

そのミナトの目が徐々に吊り上がり、顔が怒りの表情となっていく。


そしてミナトはアキトに対し怒りの声を上げた。

【ア・ア・アキト君・・・あ・あんたぁわぁ!ルリルリに何をしてるのよぉぉぉ!!!】

アキトは青白くなった顔で言い訳をする。

「ち、ちがう!違うんだぁ!!ミナトさん!!!
 
 お、俺が起きたら!ルリちゃんが隣りで寝ていたんだぁ!!」

ミナトはアキトの言い訳にもならない言葉に耳を貸さず、更に責め立てる。

【何が違うのよ!あなた、その格好でルリルリをベットの上で抱き締めていてどう言い訳できるのよぉ!!!
 
 それにルリルリの恰好を見てみなさいよぉ!!!

 ・・・あ、アキト君・・・あ、あなたって・・人は・・・・・】

ミナトの最後の方の言葉は怒りのあまりに掠れてきている。


アキトはミナトに言われて、今のルリの格好が十分誤解を招く状態なのに今更ながら気が付いた。

更に、その状態で上半身裸の自分が抱き付いている。

誤解ではあるが、弁明出来ない状況であると気付いたアキトは、これで自分は終わったと思った。

それに昨夜の記憶のないアキトは、自分が潔白であるという自信が今ひとつ持てないでいる。

その事があり、アキトはこれ以上の弁解の言葉を口に出せないでいた。

ミナトは、そんなアキトをウィンドウの向こうから睨み付けている。


そんな状況の中、ルリはこれだけの騒ぎにもまだ起きない。

今だアキトの胸で眠っている。

かなりの低血圧であるルリは、朝が弱いので少々の事ではなかなか目が覚めない。

アキトがミナトに糾弾され責められている中、全くアキトとは対照的に安らかな眠りを満喫していた。



そのルリの眠りはアキトにとって二人目の、不幸の使者の到来により破られる。



ミナトだけならばルリルリの将来も考えて必要以上に大騒ぎにはしないだろう。

・・・まあ、キチンと責任をアキトに取らせるだろうが。

アキトの不運はここがナデシコであり、騒ぎを大きくしてしまう者達が多いということであった。


ちょうどアキトが、これで自分の人生は終わった、と心の中で涙を流していた時である。

アキトの部屋の扉が前触れもなく突然開いた。


部屋の主の断りもなく、それが当然の如く入ってくる者。


それはユリカだった。


昨夜の宴会では、メグミとリョーコの邪魔が入り結局は酔い潰れてアキトと二人にはなれなかった。

それ故、一人抜け駆けする為に朝一番にアキトの部屋に来たのだ。


アキトの部屋に入るなり、脳天気な声でアキトに朝の挨拶をしてくるユリカ。

「ア〜キト♪、おはよ・・・ぅ・・・・・」

その言葉も最後の方は掠れて切れる。

ベットの上のアキトとルリの姿を見てしまった為に・・・。

そのユリカの顔は引きつっていた。

ユリカは呼吸困難に陥ったように口をパクパクさせて、ベットの上のアキト達を呆然と見ている。


やっと言葉に出たのは・・・。

「あ、あ、あ、アキト・・・ルリ・・ちゃん?・・・」

自分の見ているものが信じられない。

「ど、どうして・・・ベットの上で・・一緒に・・・・・ね・て・る・の・・・・・」

ユリカの声は途中から低く小さくなっていく。


アキトはユリカが部屋に入ってきた時点で硬直してしまっている。

その状態で、部屋の中は一種異様な静寂に包まれた。

流石にこのままでは、と思ったのか、ウィンドウの中からミナトがユリカに声をかけた。

「・・・艦長?」

そのミナトの声が引き金になったのか、ユリカはキッと目を吊り上げるとアキトに詰め寄る。

「アキト!!!どういう事なのぉ!どうしてアキトとルリちゃんがっ!!!」

近づいてくるユリカに、アキトは慌ててルリを離して起きあがった。

アキトは近づくユリカにただ顔を青ざめるだけで、言い訳の一つも出てこない。


そんなアキトの肩に手を掛けると、揺さぶり叫ぶユリカ。 

「お願い、説明してっ!!説明してよぉぉぉ!!!」

ユリカの叫びに対してもアキトは何も言い返せない。

出来れば、自分自身が説明してほしいと思っているのだから。


そんな中、アキトの隣りでこの状況を説明できる唯一の人物が目を覚ました。

ユリカの大声で流石に目が覚めたようだ。

それとも、アキトの温もりが無くなった所為なのか。

もぞもぞと、動いたルリはむくりと上半身を起こす。

いきなり起きたルリにアキトは驚いて声をかけた。

「る、ルリちゃん!」

ルリは呆っと、アキトに顔を向けた。


そして、口を開く。


「・・・テンカワさん・・・ゆうべは・・痛かった・・です・・・・・」


・・・・・ルリ、爆弾を投下。


ルリのその言葉に、その場の空気が”ビシッ”と音がしたように凍り付いた。


ここでルリが言ったのは、酔っぱらい寝ぼけたアキトがルリの身体をきつく抱き締めた事にである。

だが、ユリカ達は別の意味に捉えてしまった。


ユリカの目にじわりと涙が溢れる。

次の瞬間には、アキトに大声で言い放った。


「あ・アキトのぉぉぉぉぉバカァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」


その声が途切れない内にユリカはアキトの部屋から飛び出して走り去っていく。


ユリカが走り去った後、開いた扉の向こうから遠く聞こえて来る声がする。


「・・・・・アキトォ・ォ・ォ・・・の・ォ・ォ・ォ・・・・ロ・リ・・コォォォ・ン・・・・・・・ヘ・・ンタァァァ・・・イィィィ・・・・・・・・・・・・」


アキトは閉まりきらない部屋の扉に向かって腕を伸ばし言う。

「ゆ、ユリカ・・・ち、ちがう・・ちがうんだ・・・・・」

だが、その声には力がない。

その伸ばした腕も扉が閉まりきると、力無く下に垂れた。


気が付けば、ミナトのウィンドウも消えている。

後に残されたのは、アキトとベットの上で呆っとしてまだ目覚めきっていないルリの二人だけだ。

アキトは茫然自失の状態で、ルリに至っては完全に覚醒するには後三十分以上はゆうにかかるだろう。



哀れにも、燃え尽きたように呆然と佇むアキト。


この後十分もしない内にアキトは御用となる運命であった。









あの後、十分も経たない内に再びユリカが、それとミナトがアキトの部屋に雪崩れ込んできた。



部屋に来たのはユリカ、ミナトだけではない、プロス、ゴートに、何故かメグミ、リョーコ等も居る。

皆、これ以上はない程の険しい顔つきだった。


その一団が部屋に飛び込むなり、ゴートの声が響き渡る。

「テンカワ!お前を拘束する大人しくしろ!!!」

言われた当のアキトは、抵抗するも何も今だ呆然としている。

抗う気力も無い状態であった。

よほど、先刻の事がショックだったのだろうか。

ルリの『爆弾』、更にユリカのトドメの『○リ○ン』、『○態』と言う言葉が・・・。


ユリカ達の後から部屋に入ったメグミやリョーコがアキトに詰め寄る。

「アキトさん!ウソでしょう!!ウソだと言って下さい!!!」

「テンカワァァ!ルリに手を出すなんて!お前を見損なったぞっ!!!」

プロスが何とか二人を宥めている間にゴートがアキトの腕を取り、立ち上がらせて連行して行く。


ユリカは連れて行かれるアキトの事を辛そうに見つめていた。

ミナトは毛布を持って急いでルリの傍に駆け寄っている。


ミナトはルリを毛布で包むと優しく抱き締めて謝った。

「ルリルリ、ごめんね・・・ごめんね、一人にして・・・」

完全に誤解しているミナトはルリを抱き締め続ける。

今だ、低血圧の影響で思考が低回転状態のルリは、そんなミナトに対してぼうっとした目を向けて。

「・・・・・・・・・・ミナトさん・・・どう・・したんです・・・」

部屋で起きている状況がイマイチ把握出来ないでいた。


そんなルリは、アキトが居ないことに気が付いたのかミナトに聞く。

「・・・・・・・・テンカワ・さん・・は・・・・・」

ミナトはルリと目線の高さを合わせて、悲しそうにそれでも微笑んで答える。

「ルリルリは気にしなくて良いのよ。・・・早く忘れなさい。」

ミナトはそう言うと、再びルリを抱き締めた。



・・・・・ミナトの中ではアキトは既に犯罪者確定のようだ。



その間に、ゴート達に部屋の外に連れ出されるアキト。


手には拘束具・・・所謂、手錠を掛けられ完全に犯罪者扱いだ。


右側にゴートが、左側にプロスが付いて。

アキトは左右を二人に挟まれた形で艦内の通路を連行されて行く。

その後ろから、開いた部屋の扉に両手を添えて寄り掛かったユリカが声をかけた。

「アキト!私、待ってるから!

 アキトが更正して帰って来るまで、何時までも待ってるから・・・・・」

今のユリカの心境は悲劇のヒロインと言ったところだろうか。


では、アキトの心の中は・・・・・。

(これは・・・まちがいだ・・・・・きっと、ゆめなんだ・・・・・)

現実逃避しようとしていた。


・・・・・哀れなるかな。


こうして、アキトは取り調べの為に連行されていった。








取り調べの為に訊問室に向かう途中でアキトの左側にいたプロスが歩きながら声をかけた。

「テンカワさん、まさか、あなたがこの様な事をしでかすとは・・・
 
 誠に残念でなりませんなぁ・・・・・」

プロスの言葉にアキトは虚ろになりかけた目を向けて。

「俺は・・・覚えてないんスよ・・・・・どうして・・・こうなったのか・・」

アキトの言葉にプロスはメガネを指で押し上げ、キラリと光らせて言葉を返す。

「言いたい事があれば訊問室でじっくり窺いましょう。

 もちろん、黙秘されても構いませんよ・・・」

ここでプロスは一呼吸置いて言葉続ける。

「その場合でも状況証拠は揃ってますし・・・

 ただ、テンカワさんが不利になるだけですなぁ」

プロスはさり気なくアキトを追い詰める。

「まあ、全ては訊問室で聞くと言う事で・・・」

アキトは、それ以上何も言う事が出来ず黙ったままとなる。



やがて、アキト達は目的の場所である訊問室の前まで辿り着く。

そのままアキトはゴートに引き立てられて訊問室の中へと消えていった。









≪取調室≫



連行された後、アキトはプロスとゴートに取り調べを受けていた。



アキトが連れてこられた部屋は少し薄暗く。

室内の調度品は机が一つと椅子が二つ、机の上には電気スタンドが一つだけだった。

刑事ドラマに出てくる様な取調室である。

多分、部屋のセッティングをしたのはプロスだろう。

アキトは、机を挟んで出入り口の扉から奥の壁側の椅子に座らされ。

その向かい側の椅子にはプロスが座っている。

ゴートは扉の傍に立ってアキトの事を監視していた。


プロスはアキトに何度も聞いた事をもう一度聞く。

「では、テンカワさんは何も覚えてないと・・・」

プロスの問いにアキトは答える。

「・・・俺、本当に覚えてないんスよ・・・・・」

アキトの答えを受けてプロスは、

「何も覚えてないでは通りませんよテンカワさん。

 艦長やミナトさんの証言もありますし、実際我々が部屋に踏み込んだ時、

 ルリさんは『あなた』の部屋のベットにいたんですからなぁ。

 テンカワさんはそれで、何もなかったと『身の潔白』を証明できますかな?」

何気に『あなた』と『身の潔白』のところのアクセントを強めに言うプロス。

それに対してアキトは泣きそうな、疲れた顔をしている。


ルリがアキトの部屋のベットで寝ていたのは事実。

そのルリをアキトが上半身裸の状態で抱き締めて寝ていたのも事実。

それ故、昨夜のことを全く覚えていないアキトには反論する術もない。


結果、アキトの精神は、かなりのところまで追い詰められていた。

いっそう、全て認めて楽になりたい・・・そうアキトが諦め掛けた時。

アキトにとって救いの女神が現れる。・・・いや、天使だろうか。


アキトが殆ど人生を諦めかけた時、取り調べを受けている部屋の呼び鈴が鳴った。

どうやら来訪者のようで、ゴートが部屋から出て対応する。

暫くして、ゴートは二人の人物を連れて部屋に入って来た。

二人の人物とは、ハルカ・ミナトとホシノ・ルリである。


どうやらルリは完全に低血圧から脱して目が覚めてるようだ。

ミナトはルリの付き添いであろうか。


ルリはアキトが取り調べを受けている室内に入るなり、

「テンカワさんは、無実です」

と、プロス達に訴えた。


プロスはルリの訴えに対して確認の為に聞いた。

「では、ルリさんはテンカワさんの身の潔白を証明できると・・・」

プロスの問いに、ルリは一言。

「出来ます」

そう言ってルリは、自分のコミュニケを操作して言った。

「お願いオモイカネ、昨夜の記録を出して」

【OK!ルリ】

ルリはオモイカネを呼び出し、記録されていた映像を自分のコミュニケのウィンドウに映し出す。

「本当はプライベートに抵触する事ですが・・・非常事態ですので」

ルリはそう言うとウィンドウを拡大して、映し出された映像をその場の皆に見せた。

そこには、ルリが艦内の通路でアキトに会ってから、アキトの部屋に着くまでの事と。

その後、アキトの部屋の中で何が起こったのかが映し出されていた。

艦内のほぼ全てを制御、監視しているオモイカネは、昨夜の出来事も記録していた。


・・・・・特にルリの事を常に見守っているオモイカネである。


ルリは映し出された映像を前にして。

「このようにテンカワさんは、皆が考えている様な事はしていません。

 これでも足りないなら、私自身が何処にでも出頭して証言します」

毅然とした態度でプロスに言った。


その後もルリは、プロスにアキトの弁護を続ける。

その時のアキトの目にはルリの姿が女神か天使に見えた。

何せ、殆ど諦めの境地に達していた自分を助ける為に、ルリが弁護してくれているのだから。


大人達相手にアキトの弁護をするルリの姿はアキトの目に眩しく映る。


・・・・・アキト、余程追い詰められていたのだろう。


結果、プロス達が出したアキトの処遇は・・・。

オモイカネの記録とルリ自身の証言により、アキトは釈放と決まった。

だが、酒に酔っていたうえの事ではあるが、アキトがルリを一晩中抱き締めて拘束していた事も事実。

それには、ルリ自身の弁護とアキトが酒を無理矢理飲まされた事も考慮にいれて酌量の余地ありとされ。

給料を3ヶ月間の10%減給とプロスの長い説教の後で釈放されるという穏便な処置となった。


それと、アキトに酒を無理矢理飲ませたウリバタケ達も、この後プロスにこってりと絞られる事となる。


アキトは、自分はルリに何もしてはいなかったと分かり安心する。

それにより、幾分か心の余裕を取り戻した。


アキトの弁護が終わり、そのアキトに対する処遇も出た後、ルリ達は部屋を出る為に扉に向かう。

部屋から出て行こうとしているルリの後ろ姿にアキトは声をかけた。

「・・・ルリちゃん」

ルリはアキトの声が聞こえなかったのか、アキトの方を振り向く事なく、そのまま部屋から出て行った。

アキトは、ルリにお礼と迷惑をかけた事を謝ろうと思っていたのだが。

仕方なく、ルリには後から礼と謝罪をする事に決めたアキト。


だが、アキトは気付いていない。

この部屋にいる間、ルリがアキトと一回も目を合わせようとしなかった事に・・・。









プロスの長い説教が終わった後、アキトは無事釈放された。

アキトは釈放されると同時にユリカ達に囲まれる。

ユリカ達はアキトが釈放される事を知り、部屋の外で待っていたのだ。


アキトを取り囲み話かけるユリカ、メグミ、リョーコの三人。

「アキト・・・良かったぁ無事釈放されて・・・」

「アキトさん、大丈夫でしたか・・・私、心配してました・・・」

「テンカワ・・・どこも、乱暴されなかったか・・・」

しかし、話しかけるユリカ達に対してアキトの目は何処かジト目で据わっている。


アキトは目を半眼にしてユリカ達にボソリと言う。

「・・・・・俺の事、信じてなかったくせに」


・・・・・アキト、今回の事で人間不信にでも陥ったか?


アキトの言葉にユリカ達は汗ジトになり乾いた笑いを上げるのみ。


「「「あは・あは・ははは・は・・・・・」」」


そんなユリカ達をジト目で見つめていたアキトは突然、笑顔を浮かべて、

「でも、ありがとう心配してくれて」

と、ユリカ達に礼を言った。


アキトは別に怒っている訳ではなかった。

ただ、ちょっと意地悪をしただけである。


元来、人の良いアキト。

自分の事を心配してくれていた相手に本気で冷たくは出来ない。

それに、ユリカ達が自分の事を心配してくれていたのが結構、嬉しかったりする。


アキトに礼を言われたユリカ達は最初キョトンとしていた。

でも、アキトが本当に怒っていない事を知ると自分達も笑顔となる。

ユリカは嬉しくなりアキトに言った。

「そうだ!アキトの釈放祝いに、私が腕によりをかけて愛情の籠もった手料理を作ってあげる!」

そのユリカの言葉に触発されて残りの二人も、

「それでしたら、私だって!」

「お、俺だって作るぞ!」

同じ様に声をあげた。


ユリカ達の思わぬ発言にアキトは額に脂汗を垂らす。

ユリカ達の手料理・・・アレを食べるのは命がけだ。

流石に、これ以上不幸な目に遭いたく無いアキト。

「い、いや・・・遠慮しとくよ」

空かさずユリカ達に断りを入れる。


ちょっと不服そうなユリカ達ではあったが、大人しく引き下がった。

あまり無理を押してアキトに嫌われたく無いという考えが働いたのだろう。・・・珍しい事である。


その後、アキト達は通路の真ん中で話すのは何だからと場所を移動する事にした。






アキトは、暫くユリカ達と歩きながら話していたが、その目が前方に青銀の輝きを捉える。

少し近づくと通路の先に、立ち止まり此方をジッと見つめるルリの姿があった。

そのルリはアキトと目が合うとプイと視線を逸らして走り去っていく。


それを見ていたユリカがポツリと言う。

「アキト、ルリちゃんに嫌われちゃたね」

ユリカが何も考えずに言った言葉がアキトの胸に突き刺さった。

アキトは、ルリの走り去った方向を見ながら呆然と呟く。

「・・・・・・・・・・嫌われた?」

その言葉に何故か心の奥が痛い。


『ルリちゃんに嫌われた』


その言葉の意味をアキトが頭の中で理解していくと同時に胸の奥の痛みも強くなっていく。


アキトはその場に立ち尽くし、何故ルリに嫌われたのか原因を考える。

・・・・・他の理由である可能性とかは既に頭の中に無いアキト。

だが、アキトに思い当たるのは一つだけだった。
 

(俺は、信頼してくれていたルリちゃんに酔っていたとはいえあんな事を・・・。

 一晩中抱き締めたまま・・・抱き枕にするなんて事を・・・・・)


ルリを一晩中抱き枕にしていた事が原因だと思ったアキトは、

(ルリちゃんは女の子なのに・・・あんな事をされて、きっとショックだったに違いない。

 俺はルリちゃんの信頼を裏切り、心を傷つけたんだ・・・・・。)

嫌われたのは自分がルリの心を傷つけた所為だと思い込んだ。


アキトはルリを傷つけたという思いで胸が苦しくなる。

そして、自分を責めるアキト。

(俺は自分の事とばかり考えて、ルリちゃんが傷ついてるとは考えもしなかった。

 謝らなきゃ・・・ルリちゃんに会って謝らなきゃ・・・・・)

アキトは己を責めると同時に、ルリに会って謝りたいという思いが募る。


元々、思い込みの強いところがあるアキト。

ちゃんと確かめたわけでも無いのに、完全に自分がルリを傷つけたんだと思い込んだ。



そのアキトの後ろではユリカがメグミとリョーコに睨まれている。

ユリカの言ったことで、アキトがルリの事に対してショックを受けている。

メグミとリョーコはその事を機敏に察した。


だが、ユリカは分かっていない。

「アキト、どうしたの?」

ユリカが声をかけると、アキトは後ろにいるユリカ達に振り向き。

「俺・・・ちょっと用事が出来たから。

 ごめん!・・・・・それじゃまた!」

そう言ったアキトはユリカ達を残して、その場を走り去っていった。

後に残された三人は、アキトが走り去って行く後ろ姿を見送るしかなかった。


ユリカはメグミとリョーコに責められる。

「「艦長!!!」」

ユリカは訳が分からず。

「ほえっ!?

 な、何・・・私、何か悪いこと言ったの?」

・・・・・人の心の機微に疎いユリカらしいと言えばユリカらしい。


ユリカ達と別れた後、アキトはルリを探して艦内中を歩き回る。










ひたすらルリの姿を求めて・・・・・。


















≪ 続く ≫


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●あとがき



二日目・前編、アキト君に訪れる危機(笑)

人生の窮地をルリに救われたアキト君ですが、まだまだ試練は続きます。

次はアキト君がルリを追い掛けてナデシコ艦内を走り回る『第二日目・後編』です。


b83yrの感想

それゃまあねえ、アキト君『犯罪者』扱いされても仕方のない状況だし

ルリだから無罪の証明してくれたけど、もし、ルリぐらいの歳の別の相手だったら無実の罪で刑務所の牢獄の中・・・・(T_T)

でも、まだまだ試練があるそうで(苦笑)

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