2197年、機動戦艦ナデシコは火星より無事に帰還した。

その後、ナデシコはネルガルと軍との間に結ばれた協定により地球各地を転戦して木星蜥蜴と戦う。

だが、ナデシコのクルー達は木星蜥蜴との連戦に継ぐ連戦で気力体力共に疲れ果て。

その志気はガタ落ちになっていく。

それを憂慮したネルガルと軍はナデシコを急遽ヨコハマドックに入港。

全クルーに三日間の休暇を与える事に・・・・・。





・・・・・これはナデシコで三日間の休暇の間に起こった出来事である。




















機動戦艦ナデシコ騒動記 〜気が付けば〜















●第一日目






ナデシコクルーの休暇の最初の日。

ナデシコ艦長ミスマル・ユリカの音頭でナデシコ艦内で慰安の為の宴会が行われる事となった。

当初はヨコハマの街で宴会場を貸し切りにして、と言う話だったが。

ナデシコの金庫番でもあるプロスぺクターから反対が上がり。

仕方なく宴会場はナデシコ艦内という事となった。

なお、その宴会場は整備班を中心に会場の設置が行われた。


その時のプロス氏曰く。


「何も高いお金を払って宴会場を借りなくとも我々にはナデシコという場所があります。

 場所さえあれば宴会はできます。それで浮いた費用の分を料理やお酒に回せばよろしいかと・・・」


プロスはこう言ったが本音は別のところにあったらしい。


ただでさえ問題の多いナデシコクルー達が街に野放しになる。

しかもアルコールが入った状態でという事に危機感を持った。と、言うのが一つの理由だろう。




他にも理由はあるらしいが・・・・・。




そんなこんなで、今現在ナデシコ艦内では宴会が行われている。

コック兼パイロットであるテンカワ・アキトも厨房で宴会用の料理を作るのに追われていた。


厨房に料理長のホウメイの指示が飛ぶ。


「テンカワ!そっちじゃないよ!その調味料はこっちに入れるんだよ!!」

「はい!ホウメイさんコッチッすね!!」


宴会用の料理はかなりの量だ、何せ200人以上の食べる料理である。

ホウメイガールズの面々も忙しく行ったり来たりして厨房の中を走り回っていた。


二人程はテーブルに並べられた皿に料理を盛り付け・・・。

あっちの方では一人が各種調味料を抱えて走り回り・・・。

その向こうでも何人かが料理の材料を手早く包丁で切ったり、鍋に放り込んだりしている。


コンロの前ではホウメイが中華鍋を振るいながら皆に指示を飛ばす姿があった。


さながら、ここも一つの戦場である。


やがて、粗方の料理も作り終わり一段落した頃にホウメイは厨房にいるアキト達に声をかけた。

「よし!これで終わりだよ。これを宴会場に持っていって片付けが済んだら後は自由に宴会に参加しな!」

「「「「「はーーーい!!!」」」」」

ホウメイの言葉にホウメイガールズの皆は元気に返事を返す。

そんな中、アキトは最後の料理をワゴンに乗せてホウメイに告げた。

「それじゃホウメイさん。俺はこれを宴会場に持っていって来ます!」

アキトの言葉にホウメイは、そちらの方に振り向いて声をかけた。

「あー、テンカワ。それを持っていたら、あんたはそのまま宴会に参加していいからね」

「わかりました!それじゃ行って来ます」

ホウメイに返事を返した後、料理を満載したワゴンを押してアキトは宴会場に向かう。


やがてそこが阿鼻叫喚の場になるとも知らずに・・・・・。









アキトが宴会場に料理を持って到着すると、空かさずミスマル・ユリカとメグミ・レイナードがやって来た。

どうやらアキトが来るのを待ちかまえていたようだ。

「アーキト!ねえねえ、もういいんでしょう!だったら早くコッチに来て私と・・・」

ユリカがアキトに声をかけた時にメグミが割り込んでくる。

「アキトさん!そっちに行ったら大変ですよ。私と一緒にどうです?」

ユリカとメグミはアキトを挟んで睨み合う。


そして女の戦いが始まった。

「アキトは私と一緒がいいのぉ!だってアキトが好きなのはユリカなんだからぁ!」

「アキトさんが好きなのは私なんです!艦長こそ邪魔しないで下さい!」

ユリカとメグミはお互い睨み合い牽制する。

アキトはと言うと・・・。

そんな二人の間に挟まれて、ただオロオロするばかりだった。


そこに今度はスバル・リョーコがやって来た。

「何やッてんだよ!見ろテンカワが困ってるじゃねえか!」

リョーコの言葉にユリカとメグミの二人はリョーコを睨み付けて反撃する。

「リョーコさんには関係ありません!これは私とアキトの問題です!」

「何言ってるです艦長!これは私とアキトさんとの問題ですよ!」

ユリカとメグミの言葉にリョーコは『むっ』ときて、食って掛かる。

「なんだとー!てめぇら!もう一度言ってみろぉぉぉ!!!」

今、ここに一人の男を巡る戦いにリョーコが参戦、再び女の戦いが始まった。


それにしても何時にも増して凄みがある。

どうやら三人ともアルコールが入っている様子だった。


アキトは冷たい汗を垂らしながらも気付かれない様にその場から離れた。

本能が生命の危険を感じたようだ。

そろりと静かにその場を後にしたアキトは、人混みの多い集団の中に紛れ込む。

なるべくユリカ達に見付からないように願いながら自分が落ち着ける場所を探すアキト。

だが、ここでアキトが逃げ込んだ集団が悪かった。

その集団とはウリバタケ・セイヤ率いる整備班達だったのだ。


アキトは、やはりと言うかウリバタケ達に捕まる。

・・・・・不運な男だ。

「おう!アキトかぁ、おめぇ〜ちょっとコッチに来い!・・・・・待てぇ!逃げるんじゃねえぇぇ!!!」

「うぅぅぅ、何なんすかウリバタケさん・・・」

アキトは逃げようとしたが周りは整備班達に囲まれている為、観念してウリバタケの元に行った。

ウリバタケは近づいてきたアキトの首に腕を回して逃げられないようにしてクドクドと喋りだす。

・・・・・絡み酒だ。

「なぁ、アキトよう。何でおめぇだけがあんなにもてるんだ!
 俺様だってなぁ!やっと女房から離れられて羽を延ばせられると思ったのによぉぉぉ!!!
 艦長もメグミちゃんもリョーコちゃん!!!
 更にホウメイガールズのサユリちゃんまでがぁおめぇぇにぃぃぃ!!!
 うぅぅ・・・うおぉおおぉぉおおお!!!!!」

喋るだけ喋ってアキトを放り出し、いきなり号泣しだしたウリバタケ。

それに釣られる様に周りの整備班の男達も泣き出す始末。

整備班の男達・・・こちらもかなり酒が入ってる様子だった。

・・・その中には何故かアオイ・ジュンの姿もあったが。

号泣していたウリバタケはキッとアキトを睨みつけ、傍に置いてあった一升瓶を持ってアキトに迫る。

「飲めぇ・・・アキトォ・・・今日はトコトン酒に付き合ってもらうぞぉ・・・・・」

ウリバタケの目は血走り、完全に据わっている。

アキトはまたしても生命の危険を感じた。

後ずさりして逃げようとするアキト。

だが、背後から整備班の男達がアキトを羽交い締めにする。

逃げられないように羽交い締めにされたアキトにウリバタケがにじり寄った

その右手には一升瓶の酒瓶が握られている。

そしてアキトの口に無理矢理一升瓶を突っ込ませるウリバタケ。

(・・・・・よい子はマネをしないように・・・・・)

ウリバタケはアキトの口に一升瓶を突っ込み、酒を流し込みながら叫ぶ。

「オラオラオラオラオラァァァ!!!!!飲めぇぇぇ〜〜〜飲むんだぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ウゥゥゥ・・・ゴボッゴッボ・・・・・ゲボッ・・・・・タッ・・・ス・・・・・ケッ・・・グボッ・・・・・」

アキトの顔は見る見る真っ赤に染まっていく。

それはアルコールの為かそれとも息が苦しい所為か・・・やがてアキトは目を回してぶっ倒れた。

ウリバタケは中身の酒を全てアキトに飲ませ。

その後、一升瓶を頭上に掲げて高らかに宣言する。

「うおぉぉぉ!!!ヤロォォォーーーどもぉぉぉ!!!

 ここに悪は滅び去ったぁぁぁ!!!俺達の勝利だぁぁぁ!!!!!」

「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」

「さぁぁぁ!!!次に行くぞぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」


果たしてどっちが悪なのか疑問の残るところではあるが・・・。


ウリバタケ達は更なる犠牲者を作り出すべくアキトをその場に置き去りにして去っていく。

次のターゲットはどうやらアカツキのようだ。・・・何かアカツキに対して不満でもあったのだろうか。

こうして宴会場は段々と阿鼻叫喚の地獄絵図に似た様相を醸し出してくる。

全ての人間が倒れ伏すまで・・・・・宴会はまだ始まったばかりだ。





そんなクルー達から離れた所に一人の少女がいた。


ナデシコで最年少のクルーでオペレーターのホシノ・ルリである。

そのルリは皆から離れた場所で、一人ジュースを飲んでクルー達のバカ騒ぎを眺めていた。

さっきまではミナトが傍についていたが今はルリ一人である。

ルリには何が楽しくて酒を飲んでこんなバカ騒ぎするのか良く理解できないでいた。

・・・いや、その歳で理解できたら、そっちの方が将来が怖い気もするが。

取りあえずルリは目の前にある料理を少し摘みながら、オレンジジュースを飲んでいたが。

流石に少々退屈になって来ていた。


まだ少女であるルリに、この様な宴会が楽しめる訳もなく。

それでルリは何か退屈を紛らわせる方法がないか思案する。

「これなら、オモイカネと話をしていた方が良かったかも・・・」

自分で口に出したその考えが妙案だと思ったのか。

ルリは少し考えて、別に自分がここに居ないといけない理由も無い事だと思い、抜け出す事にした。

考えが決まると、早速その場から立ち上がり宴会場の出入り口の扉に向かって歩き出すルリ。


そして、ルリは誰にも気付かれる事も無くその宴会場から抜け出していった。








≪ルリが宴会場から抜け出して数時間後・・・≫



宴会場では既に大方の者達が床に突っ伏し酔いつぶれていた。

それでも、まだその中には元気な者が数名程いるにはいたが・・・。


ユリカ、メグミ、リョーコ達は既にダウン。

ウリバタケ率いる整備班達は・・・。

殆どが陸に揚がったマグロ状態で床に所狭しと死し累々と屍を晒し(いや、死んではいないが)。

その他のクルー達も似たような状態で床に沈んでいた。


それら酔い潰れた者達から離れた壁際の隅に目をやると薄汚れたゴミが一つ・・・。

良く見てみれば分かるが、それはムネタケ・サダアキ提督だった。

どうやらウリバタケ達の犠牲となったらしい。

その後、部屋の隅にうち捨てられて、皆から忘れ去られたと言ったところか。


そんな酔い潰れた者達が床に横たわる中で一人の男が目を覚ます。

目を覚ました一人の男とはアキトであった。

「・・・・・ウップッ」

・・・どうやらまだ酔いが酷い様子だ。

そんなアキトは床を這いながらも出入り口の扉から外に出ていく。

通路に出ると壁にもたれて立ち上がりふらふらと歩きだした。


そうしてアキトが着いた場所はトイレである。

よろよろとトイレの奥に消えていくアキト・・・どうやら気分が悪かったらしく吐いていた。

暫くすると水を流す音が聞こえてくる。

やがてトイレから出てきたアキトは再び通路に出てフラフラと歩き出した。

アキトの顔はまだ赤く、目は焦点が定まっていない。

・・・・・まだかなり酔いが残っているようだ。

それでも通路をふらふらと歩いて行く。

おそらくアキトは自分の部屋に戻る気なのだろう。

だが、疲れたのかそれとも再び気分が悪くなったのか、アキトは途中の通路で座り込んでしまった。


そのアキトの後ろに近づく人影が・・・・・。










アキトが宴会場で目を覚ました頃、ルリはブリッジにいた。


オペレーター席でオモイカネと長い時間お喋りしていたルリだが、流石にそろそろお休みの時間である。


【オモイカネ、私そろそろ部屋に戻って寝るね・・・】

【ルリ、またね】

【うん、またね・・・オモイカネ】


ルリはオモイカネとのアクセスを切るとIFSコンソールから手を離し。

オペレーターシートから立ち上がると後方の扉からブリッジを出ていくルリ。


暫く、通路を自分の部屋に向かって歩いていたルリは前方に人が座り込んでいるのを見付けた。


それはアキトであった。


ルリは怪訝に思いながらもアキトの後ろから声をかける。

「テンカワさん、こんなところで何をしているんです?」

その声にアキトはゆっくりと振り向いた。


・・・その顔はまだかなり赤い。


アキトは声をかけてきたルリの顔を下からのぞき込む様にして見上げて・・・。

「はぁ〜れ〜、るりひゃん・・・ろうひたのぉ〜」

舌が回らないようで呂律が怪しいアキト。しかも、酒の匂いがまだする。

ルリはその酒の匂いに、ほんの少し眉を顰めながらもアキトに聞く。

「テンカワさんこそ、こんな所に座り込んでどうしたんです?」

「・・・じぶゅんのへひゃにねぇ〜かへろうとおもぇてひるんだひょぉ」

何か滅茶苦茶怪しい言葉を喋るアキト。

それでもルリはアキトの言いたいことを理解したようだ。

「テンカワさん、ちゃんと自分の部屋に戻れますか?」

「らいひょうぶ・・・らいひょうぶらよぉ・・・るりひゃん・・・・・」

アキトはそう言って壁にもたれてよろよろと立ち上がると、壁に手を付いて、そのままフラフラと歩き出す。

ルリは頼りなげな足取りのアキトの後ろ姿を見て、いつもの彼女ならする事の無い行動に出た。

「テンカワさん・・・私が部屋まで連れて行きます。
 
 ちゃんと部屋に戻れるか心配ですから・・・
 
(それに、テンカワさんには、オモイカネの件やピースランドの時にもお世話になりましたから・・・)」

ルリは最後の方は口には出さずにアキトに言うと、その腕を掴んだ。

そのまま引っ張る様にアキトの部屋がある方へと誘導する。


相手がアキトでなければ、ルリもそこまではしなかっただろう。


アキトはルリに引っ張られるままに、頼りない足取りながらも大人しく付いていくのであった。





やがて、ルリはアキトを引っ張ってアキトの部屋の前まで来た。


二人は部屋の前に来たものの、アキトはルリの後ろで突っ立ったままである。

部屋の前に来ても反応が無いアキトに、仕方なくルリは部屋のキーの事を聞く。

「テンカワさん、部屋のキーはありますか?」

ルリに言われてアキトはノロノロと服のポケットをアッチコッチ探してやっと部屋のキーを見付け出した。

アキトは自分で、そのキーを部屋のキー・スロットに通そうとするが手が震えるのかなかなか通せない。

それを見かねたルリはアキトに言う。

「テンカワさん、部屋のキーを貸して下さい」

ルリはアキトからキーを受け取るとシュッとキー・スロットに部屋のキーを通した。

部屋のロックが外れて、扉が軽い音を立てて開いていく。

扉が開くとアキトはルリにお礼を言った。

「・・・るりひゃん・・・あひがとうねぇ・・・」

「それじゃ、テンカワさん・・・お休みなさい(ペコリ)」

ルリのお休みの挨拶を聞きながらアキトは自分の部屋の中に入っていく。

ルリもこれで一安心とでも思ったのか、扉が閉まりきる前にその場を去ろうとしたが。

アキトが部屋に入って、扉が閉まりきる寸前に部屋の中から何かをひっくり返す様な大きな音が響いてきた。


   ドガッ!ガッシャーン!!!


驚いたルリは急いでアキトの部屋に入ってみた。


そこには、部屋に置いていた『ちゃぶ台』をひっくり返して部屋の床に倒れているアキトの姿。

どうやらアキトはそのちゃぶ台に躓きそのまま倒れ込んだらしい。

部屋の床にはちゃぶ台の上にあったものが散乱している。

・・・・・なお、アキトの部屋に何故ちゃぶ台があるのかは不明である。

ルリはアキトの傍にいき、俯せに倒れているアキトの身体を揺さぶって声をかけた。

「テンカワさん!大丈夫ですか?・・・しっかりして下さい」

「・・・・・う〜、らいじょうぶぅ・・・らいじょうぶぅ」

アキトは上半身を起こしてルリに答える。

ルリは物が散らばった床を見て、溜息混じりにアキトに言う。

「はぁ・・・取りあえず、テンカワさんはベットの方へ。

 ここは、私が片づけます・・・」

ルリは何とか立ち上がったアキトをベットの方にやると、散らばった床を適当に片づけ始めた。

(・・・・・何故、私はこんな事してるんだろう?)

ルリは頭の中にふっと自分の現在取っている行動に対しての疑問が浮かんだ。

それでもルリは、まずは目の前の物を片づける事を優先する事にした。


床に散らばった物を片付けていると、後ろの方からアキトの声が聞こえる。

「う〜、あひゅ〜いなぁ・・・」・・・・・ごそごそ・・・・・


   バッサァ・・・・・ドッサッ・・・


アキトの声に続いてごそごそとした音の後に、何かがベットに倒れ込む音がした。

その音にルリは、後ろの方にあるベットを振り向いて見る。


ベットの上にはアキトの姿があった。


暑かったのかアキトは上の服を全部脱ぎ、上半身裸の状態でベットの上に仰向けで大の字になって寝ていた。

ルリはアキトのその姿に少し呆れていたが、一応アキトに声をかける。

「テンカワさん・・・風邪引きますよ」

しかし、アキトにはルリの声など聞こえていない。


既にアキトは夢の中だ。


ルリはどうしたものかと迷った。


部屋は空調がきいているから、別に風邪は引かないだろうと思う。

このまま部屋を後にしても問題はないとは思う・・・けど。


ルリはここでまた、普段の彼女なら取らないだろうと思われる行動を取る。


アキトのベットの傍にきたルリは、まずベットの端に両膝を乗せた。

そして自分の身体がアキトの身体の上を跨ぐ様にして、向こう側にある掛け布団を掴む。

ベットの向こう側に押しやられている掛け布団をアキトに掛けてやるつもりのようだ。

だが、そのまま掛け布団を引っ張ろうとした時、思いも寄らない事が起こる。


突然、寝ていたアキトが身体を起こしたのだ。

その結果、アキトはルリの身体とぶつかる。

ルリの身体に当たったアキトは何を思ったか、ルリを両手で抱きしめ再びベットに倒れ込んだ。


ルリは驚いて思わず声をあげる。

「きゃっ!」

その際に両手、両足でしっかりとルリを抱き込んで左側に寝返りをうつアキト。


・・・・・今のルリの状態は正しくアキトの抱き枕状態だった。


ルリは慌ててアキトに抗議する。

「テンカワさん!離してください!テンカワさん!!!」

アキトが強く抱き締めている為か、ルリは締め付けによる痛みと苦しみを感じて、更にアキトに訴える。

「テンカワさん!離して下さい・・・苦しいです」

だが、当のアキトは熟睡状態なのか全く反応がない。


ルリはアキトの腕の中から何とか抜け出そうと藻掻く。

しかし、非力な少女の力では大の男の力には敵うはずもなく。

暫く悪戦苦闘していたが、やがて力尽きた。

「はぁはぁはぁ・・・・・これは・・・はぁ・・困りました・・・・・」

呼吸が荒くなったルリは、一旦落ち着いて息を整えようとする。

ルリは息が落ち着いてくると、いつもの冷静さが戻ってきた。 


(・・・今の私は・・・テンカワさんの抱き枕状態。

 しかも、両手、両足でしっかり抱き締められてますね)


ルリは自分が置かれた状況を分析、それに対する対応を考える。


(私の力では・・・抜け出すのは、今は無理ですね。
 
 ミナトさんあたりにコミュニケで連絡をと、も思いましたが・・・。

 それだと、テンカワさんが大変な事になりそうです。
 
 それに・・・宴会場のあの様子だと・・・・・呼ばない方が無難ですね・・・。
 
 これは、やはりテンカワさんが腕を解くか、しないとダメですか・・・。)


アキトの腕からどうやっても抜け出せない事にルリは溜息と共に呟く。

「はぁ、テンカワさんの力が強いのか・・・それとも、私が非力なのか(・・・おそらく両方でしょうね)」

それでもアキトの腕の中から抜け出そうと悪戦苦闘したおかげか、少しは身体の締め付けが緩くなった。

それにともない身体への痛みや息苦しさ等は無くなってはいたが。


現状ではどうする事もできないと確認したルリは改めてアキトの様子を窺う。

アキトの顔を下の方から覗いて見てみると、すやすやと寝息をたてていた。

その顔を見ていると、ルリは怒りとかそういうものよりも何だか可笑しさがこみ上げてくる。

アキトの無防備な寝顔、それと自分を抱き枕にして寝ているアキトの姿を思い浮かべて・・・。

「くすっ、まるで子供みたいです」

そのアキトの寝顔を見ていると、ルリは身体の緊張感がとれて力が抜けていくのを感じる。




そうしていると何処からか音が聞こえてくる。


遠く・・・そして今、最も身近なところから。

   

   トックン、トックン、トックン・・・・・



ルリはアキトの胸に耳を付ける。


アキトの胸の奥から心臓の鼓動の音が聞こえてくる。


そして自分の中からも・・・・・。

   

   トックン、トックン、トックン・・・・・



(私の音もテンカワさんと同じ・・・・・)



その鼓動の音を聞きながら、ルリはアキトの腕の中で確かな温もりを感じていた。


(これが、人の温もり?・・・・・温かい・・・・・それ・に・・・)


ルリはアキトの心臓の音に耳を澄ませて聞き入っていた。

その音を聞いている内にルリは段々と眠くなってくる。



暫くすると、部屋の中からは二つの小さな寝息が聞こえてきだす。


ルリはアキトの腕の中でいつの間にか眠りについていた。








アキトの胸の鼓動の音を子守歌にして、その温もりに包まれて・・・・・。















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●あとがき


先ず始めに。

このSSは某所の閉鎖に伴い、SSBBSに投稿していたのを改めて再投稿する形となりました。

再投稿を受け入れて下さいました此処の管理人さん、『b83yrさん』ありがとうございます。





この作品は『アキト×ルリ』のらぶらぶ物の話です。

ただ、ルリの年齢の為、アキト君は苦労するみたいですが(笑)

それと『第一日目』『第二日目・前・後編』『第三日目・前・中・後編』『おまけ話』を予定してますので。





b83yrの感想

真神津さん、投稿ありがとうございます

某所の閉鎖で、SSBBSの真神津さんの作品の続きが気になっていたので、私のHPに今までの作品を纏めて、投稿して下さる事はとても嬉しい事です

やっぱ、ルリ×アキトのらぶらぶ物はよいですねえ♪


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