ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第十七章 ルーツ

  明岐のメンテナンス・ルーム(記憶マージャンの部屋)の説明が
 終わると同時に、アキトが明岐に問い質す。
 「そんなことより、お前は何者だ?」
 そのアキトの言葉にルリとラピスが、不思議そうにアキトを見る。
 二人とも、アキトは、明岐の事を知っている、と思っていたのである。

 「アキト様・・・」
 「その、アキト様は、やめてくれないか。」
 「それでは・・・ご主人様・・・」
 「テンカワさん、か、アキトさん、ではダメなのか?」
 「ええ、やはり、産みの親であるアキト様をそのようには呼べません。」
 この、明岐の言葉に、三人が驚きの声を上げる。
 「ナニーッ!!」
 「アキトさんの子供!!!」
 「なに???」
 ラピスは他の二人が驚いた事に、驚いたようである。

 「アキト様・・・アキト様以外に私の正体を話してもよろしいのでしょうか?」
 「? とにかく、二人にも聞いてもらわなければ、誤解されたみたいだから。」
 ルリとラピスが驚いている横で、アキトは、強引に、明岐に説明を求めた。
 明岐は、メモリーキューブを一つ手に持つと三人に向かって話し始めた。
 「これから、説明しますが、長くなっても、途中で話を遮らず、最後まで聞いて下さい。」
 言いながら、明岐は、メモリーキューブを皆で見られるように、
 1.5メートル位の大きさにサイズを変えた。

  アキト、ルリ、そして、ラピスの三人は、
 話が長くなりそうなので、椅子に座って、メモリーキューブ
 (1.5メートル位の高さの麻雀パイのようなもので、
 麻雀パイでは絵柄がある面が白面になっていて、
 その面に明岐が説明したい映像が写されている)を見ている。
 何故か、ルリだけは、明岐の顔を凝視しているが、話はそのまま続けられた。
 明岐もメモリーキューブに映像を映す為と、メモリーキューブに写っている映像を
 三人に説明するため、メモリーキューブの横の椅子に座っている。

  明岐の話は、ボソンジャンプ・システムを構築した人類の歴史から始まった。
 アキトとラピスが、以前メンテナンス・ルーム(記憶マージャンの部屋)で見た物である。
 その人類は、科学を発達させる前から、テレパシーが使えたのである。
 テレパシーが使えるといっても、肉体関係を持った男と女の間でしか使えなかった。
 しかし、彼等には、そのテレパシーは、大切な宝物であった。
 そして、彼等はテレパシーが使える為、(テレパシーの)相手が死んだり、
 何らかのトラブルにより、相手を失う事を恐れる。

  科学の発達により、物質を瞬時に違う場所に移動させる物質転送が可能になると、
 その物質転送を使って、テレパシーの相手を失う恐怖を軽減出来ないか?と、
 研究が進められていった。
 そして、その研究で、浮かび上がってきたのが、相手が病気になったり、怪我をした時に、
 テレパシーの相手の場所に、物質転送により、瞬時に移動するというものである。

  それまで、物質転送の転送先は、座標位置を元に実験してきたが、
 場所が特定出来ない為、座標位置での転送は、出来ない事になった。
 そして採用されたのが、相手の視界の景色を元に、座標位置を割り出す
 イメージ(テレパシー)・システムである。

  イメージ(テレパシー)・システムを実用化させる為、
 彼等は、テレパシーの仕組みを徹底的に調査、研究する。
 そして、物質転送は光速での移動だが、
 テレパシーの方は、伝達時のタイムロスが全く無い瞬時である事が判明する。
 そこで、物質転送の時に、テレパシーの仕組みを取り入れて、
 物質転送を行う、瞬時の物質転送(ボソンジャンプ)が研究されるようになった。
 ボソンジャンプの研究の始まりである。

  実験では、無生物、及び動物のジャンプは、比較的短い距離なら問題なく成功した。
 しかし、距離が長くなると、ジャンプした物、或いは動物は、
 目的の場所から消えてしまって、探しても見つけられなかった。
 そして、その状態が長期間続いた。
 その間にも、研究は続けられていた。
 ジャンプ元とジャンプ先を、三次元的に示す方法や、
 人間とテレパシー可能な、人間にそっくりなロボット、
 アンドロイドの誕生等がその成果である。

  アンドロイドといっても、脳以外は、殆ど人間と同じである。
 実際にアンドロイドは、人間のDNAから、脳を除いた身体を造られ、
 脳の部分にAIを組み込んで造られるのである。
 ナノマシンの採用により、人間とのテレパシーも可能になっている。
 そのアンドロイドの誕生以降、長い距離のジャンプの実験は、
 無生物のジャンプ実験(チューリップのように、ジャンプ元と、ジャンプ先に、
 装置を用意し、イメージをその無生物が思考したように偽装しなければならない)から、
 手軽に行えるアンドロイドのジャンプの実験へと変わっていったのである。

  そんな実験を繰り返しているうちに、実験をさせている側の人間に、
 アンドロイドでも、何処にジャンプするか分からない
 実験の犠牲にしてはいけない、と言う人間が現れる。
 そして、十数人が、ジャンプして、行方が分からなくなる。
 アンドロイド達を助けるため、何処へ行くか分からない、
 ジャンプを敢行したのである。

  その事件では、人間が、十数人、行方不明となり、
 技術と実験の知識と、人口が十数人失われたわけである。
 しかし、技術と実験の知識は、失われたわけではなかった。
 その十数人は、それぞれのアンドロイドに自分の知識を覚えさせていたので、
 アンドロイドから、技術と実験の知識を知る事が可能だったのである。

  問題は、人口が十数人失われた、事にある。
 その当時、彼らの種族の子供が次第に生まれなくなってきていたのである。
 人間と人間の子供だけでなく、人間とアンドロイドの子供も同様に
 生まれなくなってきているし、人工授精やクローンも他の問題の為使えないのである。

  子供が生まれなくなり、人口が減少している要因で、最も重要な問題は、
 母体の中で子供がテレパシーの制御を行われるという事があげられる。
 テレパシーの制御とは、母体が、子供のテレパシーを制御して、使えなくする事である。
 そして、子供が成長して、年頃(思春期位)になってからテレパシーが使えるようになるのである。

  テレパシーの制御の問題は、人口の減少問題に、更に悪影響を与えていた。
 その問題により、子供を他人の子宮で育てる事が出来なかった。
 子供を他人の子宮で育てると、母親と子供の間でテレパシーが使えるようになり、
 その結果、母親が発狂しそうになる為、そこで中止になる。
 そして、人工授精やクローンの場合は、テレパシーが使えないのである。

  その人口減少問題の為、十数人の人口減少は、大問題であり、
 何とか、人口減少をくい止めようと、救出作戦が実行された。
 救出作戦といっても、実際には、ジャンプが行われた場所(数ヶ所で実行された)で、
 食料や生存を高めるような品物を、ジャンプさせていただけである。
 水、非常食から、始まり、応急医薬セット、放射線防護服、宇宙服、
 アンドロイドの為の各種装置、陸海空の乗り物、宇宙船、プラント等がジャンプさせられた。
 但し、乗り物、宇宙船、プラントは、テレパシーを応用したイメージシステムが使用されていて、
 手動操作ではなく、全てイメージを使って操作するようになっていた。

  数年後、長い距離のジャンプにも成功するようになった。
 長い距離のジャンプでも、人もアンドロイドも行方不明とならなくなったのである。
 そして、今迄の研究の成果から、いくつかの改良をボソンジャンプに組み込み、
 ボソンジャンプ・システムとして、実用化させた。
 ジャンプのスイッチとなる、イメージ取り込みや、ジャンプ自体は、
 別次元(異世界、或いは平行世界とは違い、その世界と共に有るが、
 通常はその世界に出入り出来ない)から行われる。
 人間は、ナノマシンを使い、別次元にイメージを送り込み、
 ジャンプ元とジャンプ先(場所と時間を含む−但し未来の時間は指定出来ない)、
 及び、ボソンジャンプ対象を指定し、ボソンジャンプを行う。

  いくつかの改良・・・
 ジャンプ元とジャンプ先を表示させる、メンテナンスルーム。
 他に、アンドロイドとテレパシーが使えるようになる為の方法を二種類に増やした事。
 一つは、今までどおり、肉体関係を持って、テレパシーが使えるようにする、もう一つは、
 アンドロイドと二人でボソンジャンプする事で、簡単にテレパシーが使えるようになる。

  しかし、今度は、行方不明になった人達の場所へ行く方法がなくなってしまった。
 その代わりに、一つの仮説が注目を集め始めたのである。
 彼等は、似たような世界、平行世界とかパラレルワールドと言われている世界に
 ジャンプしてしまって、帰えりたくても帰れない状況にある、という仮説である。
 そして、その仮説を証明する人間が現れたのである。

  彼は、自分が異世界にジャンプして、またこの世界に戻ってきたと、主張した。
 メンテナンスルームで調べても、その主張に矛盾は見いだされなかった。
 だが、彼は、再び異世界にジャンプしようとはしなかった。
 おそらく、この世界に戻れなくなる、と、考えている為だと思われる。
 その仮説には、続きがあって、行方不明になった人達は、この世界に戻ってきたと主張する彼と違い、
 この世界に戻る為のナノマシンが体内に無い、との説である。
 確かに、長い距離のジャンプに成功する前と後では、ナノマシンの成分が違っている。

  長い距離のジャンプに成功する時のナノマシンには、
 以前にはなかったイメージを送り込むようになっている。
 そして、そのナノマシンを平行世界に送り込む方法が、研究され、実施された。
 メンテナンスルームで調べられた、異世界に行けるイメージを元に、
 ジャンプするべき目的地を算出する。
 その目的地に、二種類の装置を、ボソンジャンプさせる。

  二種類の装置の一つが、アキト達が演算ユニットと呼んでいたものである。
 ナノマシンを作成し、人体に注入して、(上手くいけば)ボソンジャンプ可能な身体に変身させる。
 その装置には、変身させる対象が、ボソンジャンプ出来る身体かどうか調べる機能と、
 その身体を、一時的に保護(拘束)する機能も備わっている。
 もう一種類は、アンドロイドを作成する装置である。
 アンドロイドをDNAからつくりだす装置と、AIとのセットである。
 この装置にも、対象のDNAが、ボソンジャンプ出来る身体かどうか調べる機能と、
 その身体が近くにあれば、一時的に保護(拘束)する機能が備わっている。

 「そして、二つの装置は、アキト様の世界に現れました。」
 画面には、演算ユニットとアンドロイドをつくりだす装置らしきものが、映し出されている。
 「演算ユニットについては、どうなったか不明なので、もう一つの装置についてのみ話します。」
 明岐の言葉に、ルリがついに我慢しきれなくなり、
 「何故ですか? どうして二つ共、説明してくれないんですか?」

  少しの間、ルリの顔を見つめ、再び、画面に向き直り、ゆっくりと語りだす明岐。
 「知らないからです。普通、演算ユニットと思われている装置は、
 ボソンジャンプ可能な身体以外に対しては作用しないはずです。
 ところが、その装置は、ナノマシンを不特定多数に対して作成、使用していたようですが、
 どうしてそうなったのかは、判っていないのです。」
 それから、明岐は、画面をアップにし、アンドロイドをつくりだす装置のみ映し出す。
 「この装置は、戦艦の近くにジャンプアウトしました。
 そして、戦艦とこの装置を発見した人々は、この装置のAIを、戦艦を制御する為のAIと認識しました。
 後に、ナデシコと呼ばれる戦艦の制御AIとして、その装置のAIは組み込まれました。」

 「お、オモイカネ! それじゃあ・・・」
 ルリ、アキトに、初代ナデシコのオモイカネが思い出される。
 そして、もう一つ、頭の中で答えが浮かび上がろうとするが、
 明岐の話が、そのまま続けられた。
 「AI以外の装置も初代ナデシコの艦内に運び込まれていました。」
 その装置の外観は、演算ユニットとそっくりです、
 が、サイズが違っていて、こちらは、長さが2メートル半位の箱、
 ちょっと背が高く、幅が広い、ロッカーを横にしたような形である。
 最初は、その中の中央にAIが置かれていたのである。

 「奇怪しいですね! 私は、こんな装置を見た記憶はありませんが?」
 ルリの疑問に、明岐が答える。
 「ナデシコの何処に運び込まれたのか判りませんが、
 ナデシコ出航の二日前に、ボソンジャンプしてきた人間が現れたので、
 その人間を確保して、AIの命令により、ある場所に避難したからではないでしょうか?」

 「そうですか・・・!? ボソンジャンプしてきた人間? ですか?」
 再びルリが、疑問を口にする、が、これはルリにも答えが解っていた。
 「アキト様が、ナデシコにジャンプアウトされ、その装置に身体を確保され、
 ある場所−確率的には、火星の遺跡が有力です−にボソンジャンプしたと考えられます。
 その二回のボソンジャンプのさいに、アキト様の精神だけが、
 そのナデシコのオモイカネの中に残ってしまったようです。」

 「なるほど、そういう事だったのか!」
 アキトが、つぶやくが、話はそのまま続けられた。
 「その装置がボソンジャンプしたのは・・・
 アキト様の身体を確保した後、AIは、その装置の中に戻ろうとしたのですが、
 何故か、AI自身が束縛されていて、動けなくなっていたのです。
 おそらく、ナデシコの制御AIとして組み込まれた過程で、
 機械的にか、複雑な命令服従のプログラムの為なのか、
 AIの動きを封じられていたのです。
 ただ、AIとその装置の間での通信は可能だったので、
 AIは、その装置に、ボソンジャンプしてアキト様の安全を確保しろと命令しました。」

 「ところが、その装置がボソンジャンプして、アキト様を守っている最中に、
 アキト様の身体がボソンジャンプしてしまいました。
 そこで、その装置は、アキト様を守っている最中に、採取していたDNAや血液の抗体、
 アキト様の各種検査結果を基に、アキト様の頭脳を除いた肉体(アンドロイドの身体)を造り出し、
 その肉体を仮死状態にして、AIからの連絡がある迄、保存していたのです。」

 「その後、ナデシコの制御AIとして組み込まれたAIは、
 一回、記憶マージャンに呼び出された他は、
 ナデシコ内から周りを観察、記憶して、その時が来るのを待っていました。
 そして、昨日、その時が来て、AIが自由に動けるようになり、
 アキト様から造られた肉体(アンドロイドの身体)を
 保存していた装置を(ボソンジャンプで)呼び寄せ、
 その肉体にAIが入って私(明岐)が生まれたのです。」
 明岐が話した事は、アキト、ルリ、ラピスの三人が思っていた通りだった。

 「オモイカネは、最初、アンドロイドのAIの周りに、オモイカネの機械や
 オモイカネのプログラムが取り巻く形になっていたのが、
 次に、オモイカネの自我が加わり、アンドロイドのAIの周りに、
 オモイカネの機械やプログラムと、オモイカネの自我が取り巻く形になりました。
 そして今は、AIは私(明岐)に、自我はアキト様がおられた艦のAIに移っています。
 これは、オモイカネから、AIが私(明岐)に移動すれば、
 オモイカネは機能しなくなりますので、
 自我には、貴方達の艦のAIを乗っ取ってもらいました。」

  それから、明岐はアキトに向かって話し始めた。
 「アキト様、これで私の正体がわかってもらえたと思います。
 そろそろ、私達の世界に帰る準備をしたいと思うのですが。」
 アキトは明岐の言葉を理解し損ねてしまった。
 「帰る準備?」
 「ええ、此処に記憶されている、私達の世界から来た時のイメージ、
 或いは、誰かが私達の世界にジャンプした時のイメージを取り出して、
 そのイメージを利用して、私達の世界に帰るのです。」

 「俺と、お前とでか?」
 アキトが、明岐を指さしながら聴くと、
 「いえ、この四人で帰ります。」
 明岐の答えに、ルリとラピスも驚く。
 「何故ですか? 私もラピスもアキトさんも、貴方の世界には行っていないはずですが?」
 ルリの言葉に、明岐が答える
 「貴方達三人とも、テレパシーとボソンジャンプが使えますので、
 私達の世界の人間の可能性は高いはずです、
 もし違ったとしても、私達の世界で、結婚し子孫を残してほしいのです。」

最終章 スペシャリスト

異味さんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


b83yrの感想

ボソンジャンプの設定は、こう持ってましたか

ちなみに、セガサターンのゲーム The blank of 3yearsで、火星の遺跡やボソンジャンプの種明かしは、一応されてるんですが、『二次創作』なんだし、これはこれで有りでしょう

ゲームは、本編見てる人の一部しか見てないだろうし

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送