ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第十六章 偽りの空間

  ラピスは、目が覚めた後、何か抜け落ちたような違和感を覚える。
 違和感の正体は、アキトの精神を感じない為だと気付く。
 昨日迄は、アキトとラピスの間で精神が繋がっていたのだ。
 そして、やっと、昨日の出来事を思い出す。

  昨日、突然、アキトとラピスの精神の繋がりが無くなり、
 アキトとルリの精神が繋がってしまったのだ。
 そしてその後、ルリとラピスは、明人によって、見知らぬ所にボソンジャンプさせられた。
 其処から、明人の眼を盗んで、ラピスだけ、此処にボソンジャンプで戻ってきた。
 此処に戻って、イネスと話している最中に、催眠術にかけられたように、明人達の所に移動する。
 その後、明人達はボソンジャンプでいなくなり、イネスにイネスの部屋に連れて来られ、
 その部屋で先程まで寝ていた訳である。

  ラピスは、その日どんな事をするか、アキトに教えてもらっていたのだが、
 今日は、アキトと精神が繋がっていない為、どうすればいいのか分からない。
 出来ればアキトが、アキトとラピスの間の精神的繋がりを元に戻す事を
 考えてくれる事を期待したいのだが、アキトがどう考えているのかは、不明である。
 今日の事も、精神的繋がりの事も、ラピスだけで決める訳にいかない、
 アキトの考えを聞いてからでないと、事を進める訳にいかない。

  アキトに教えてもらわなければ、とコミュニケでアキトを呼び出す。
 しかし、アキトの方の映像は、何処かの和室の部屋を映し出しているだけで、
 アキト自身は、その近くに居ないようである。
 しかたなく、直接アキトに会わなければと考え、アキトを捜す。

  この部屋、イネスの部屋には、ラピス一人しかいない。
 アキトの部屋にも誰も居ない、
 ラピスは、アキトの部屋のキーを持っているので簡単に確かめられた。
 食堂には、皆の朝食が用意されていたが、アキトはいなかった。
 そして、医務室には、イネスもアキトもルリもいなかった。
 ラピスは、暫く考えてから、ブリッジに向かう。

  ブリッジで、ラピスは、IFSを操作して、監視カメラの記録にアクセスする。
 最初にA.Iにアクセスした時に、鐘のシンボルが映し出されていたので、
 ラピスは、故障しているのかと思ったが、故障では無いようだ。
 鐘のシンボルが映し出される以外は異常は無さそうである。
 ラピスは、鐘のシンボルの事は、無視して作業を続ける。

  監視カメラに記録されるのは、プライバシーの侵害にならない場所で、
 動きがある場合である。
 ラピスは、現在の時刻に近いものから順に、次々と再生して、
 アキトが写っているものを捜す。
 子供達が食事している所、子供達が食堂に向かって歩いている姿、
 その中に奇妙な場面を見つける。
 黒づくめの服を着た人物が、這って移動している姿である。
 まるで、赤ん坊がハイハイをしているようである。
 「アキト・・・なの?」
 周りには誰もいないが、後ろ姿しか写っていないので、顔は確認出来なかった。
 しかし、ラピスには、黒づくめの服から、アキトとしか思えなかった。

  さらに、通路の壁に手をついて、よろよろと歩いて行く
 黒づくめの服を着た人物を見つけた。
 この場面も、周りには誰もいないが、後ろ姿しか写っていない。
 ラピスは、他にも有るのではと思い、捜したのだが、
 それを見つける前に、アキト、ルリ、イネスが会話している場面を見つける。

  場所は食堂、アキトが皆の朝食の用意し、その近くにルリとイネスが座って話している。
 二人の声は、音量を最大にしてやっと聞こえる程度であるが、話の内容は把握出来た。
 明人が、この世界に来た経緯を二人は話していた。
 主にルリが話をし、時折、イネスが質問したり、アキトが話に加わる場合もあった。
 一番驚いたのは、ラピスと北辰がペアになったと話していた事である。
 ラピスが知りたかった事は、アキトが今何処に居るかであるが、此処にいない事が分かった。

  アキトもルリもイネスも、皆、明人の住処に行ったらしい。
 アキトは、明人とユリカが帰ってきているか、その住処が何処か調べる為、
 ルリは、自動車に取り付けられていたオモイカネと話をする為、
 イネスは、その住処で明人が、どんな手続きをしているか調べる為、
 それらを調べる為に、三人でボソンジャンプして行ったらしい。
 ボソンジャンプする前に、アキトは皆の朝食を用意し、
 イネスは、子供達に、今日する事の指示を残して行った。
 子供達には、同年代の子供達の行動と心理を研究するように、
 ラピスには、今日はゆっくり休むように指示が出されていた。

  しかし、ラピスは、イネスの指示を無視した。
 そして、空き部屋、格納庫や通路を捜し始める。
 捜すのは、黒づくめの服を着た人物である、
 ラピスには、その人物が明人ではないかと考えて、捜し始めたのである。

  空き部屋や、通路の隅等を捜していて、かなり時間が経ってしまった。
 ラピスは、未だ何の成果も無く、溜息をつきながら、前方の格納庫を見た。
 そして、格納庫を見下ろせる位置にある通路の手摺りに捕まってぶら下がっている
 黒づくめの服を着た人物を発見した。
 下に落ちれば、怪我をする、運が悪ければ死んでしまうかもしれない。
 そう考えてラピスは、手摺りに近づき、
 「アキト?・・・・・・」
 その人物に手を伸ばした。

 ・
 ・
 ・

  ルリは、楽しく嬉しいはずなのに、気分が悪く、楽しめないでいた。
 今、ルリはドライブ中の自動車の中である。
 その自動車の運転席にアキト、助手席にルリが座って、ドライブ中なのである。
 何故こんな状況になっているのかというと・・・

  アキトとイネスとルリは、明人の住処に来た後、各々別行動となった。
 ルリは、暫く、自動車に取り付けられていたオモイカネと話していた。
 この世界に来たオモイカネが、どんな事をしたかを聞いていたのである。
 暫く話していると、其処にアキトがやってきて、ルリに話しかけた。

  アキトは、この自動車=ワンボックスカーで、後部にオモイカネが取り付けられている=
 をアキト達が住んでいる小島迄、持って行きたい。
 この自動車ごとボソンジャンプして、小島に運びたいのだが、問題が有るらしい。
 問題とは、今のアキトには、この自動車で、自動車ごとボソンジャンプ出来ない事である。
 理由は、アキトが、この自動車を乗りこなしていないし、
 この自動車の構造を良く知っている訳でもないからである。

  ボソンジャンプの種類の一つに、乗り物ごと自分をジャンプさせる方法がある。
 乗り物ごと自分をジャンプさせる為には、ある条件を満たさなければならない。
 ある条件とは、その乗り物を乗りこなす、或いは、その乗り物の構造を良く知っている事である。
 アキトがやろうとしているのは、この自動車を乗りこなし、
 この自動車ごとボソンジャンプして、小島迄持って行く事である。
 その為に、アキトはこの自動車を運転して、乗りこなす必要がある。
 アキトがルリに話した事は、この自動車を乗りこなす為に運転したい、
 その間、この自動車を占有したい、と、ルリに頼んだのである。

  イネスは、明人の住処の持ち主や、役所等で、明人の住処がどんな状況か調べ、
 終わったら一人でボソンジャンプして帰るようである。
 ルリは、その話を聞いて、アキトが運転中でも、オモイカネと話出来るからと、了承した。
 そして、アキトとルリは、二人で自動車に乗り込みドライブとなった。
 (幸いこの自動車は、IFSで運転出来るので、アキトにも運転可能である)
 ルリは、最初、運転中にオモイカネと話していたが、そのうち頭が痛くなってきた。
 どうやら、走行中に話をしていた為、車酔いになったらしく、オモイカネとの話は打ち切った。
 という経過により、ルリとアキトはドライブ中なのである。

  アキトとルリのドライブは単調であった。
 途中で、休憩代わりにスーパーで買い物(主にルリの生活用品である)をした事くらいが、
 唯一の変化である。
 もちろん、この時のアキトは、私服であり、間違っても黒づくめの服装ではない!
 それから暫くドライブを続け、周りに車や人気が無い事を確かめて、
 自動車ごとボソンジャンプをして、その場所から消えた。
 行き先は、南海の小島である。

  アキトとルリの乗った自動車が、格納庫でジュンプアウトして現れる。
 アキトとルリは、前方上方の手摺りにぶら下がっている黒づくめの人物と、
 その人物に手を差し出しているラピスを発見する。
 アキトとルリは、昨日の明人の件があるので、明人とラピスが争っているように見えた。
 そして、アキトは、ルリの手を握り、ラピスの後ろにボソンジャンプする。
 「ラピス!」アキトが叫ぶ。

  ラピスは、伸ばした手をそのままに後ろを振り返ると、アキトとルリがラピスを見つめている。
 アキトは、ラピスが黒づくめの人物を助けようと手を伸ばしている事に気付く。
 アキトには状況が分からなかったが、ラピスが助けようとしているなら、
 それを邪魔する訳にいかないと思い、ラピスを後ろにやり、黒づくめの人物に手を伸ばす。
 そして、黒づくめの人物の手を握り、身体半分程、引っ張りあげる。

  ルリは、アキトがラピスを後ろにやり、黒づくめの人物に手を伸ばすのを、黙って見ていた。
 アキトが黒づくめの人物を引っ張りあげるのを、見ていて、何か違和感を感じる。
 違和感の正体をつかもうと、黒づくめの人物を眺めていたら・・・
 「アキトさん! 止めて下さい!」何故か、口走っていた。
 「ルリちゃん・・・・・・何を?」
 アキトは、ルリが何を言いたいのか分からず、ルリに向かって聞き返していた。
 「アキトさんは、その女の人をどうするんですか?」

  ルリの言葉に皆が驚く、言葉を発したルリもその言葉に驚いていた。
 「女の人なの?」ラピスは未だ半信半疑だ。
 「えっ!、エーーーッ!」
 アキトは、情けなくも、引っ張り上げかけていた身体を、落としかける。
 慌てて、掴み直したのは良いが、今度は二人とも下に落下してしまう。
 アキトは、落下途中、ボソンジャンプして、ルリとラピスの前に現れる。
 黒づくめの人物も一緒である。

  ルリは、呆然とアキトと黒づくめの人物を見つめた。
 今、突然、アキトとルリの精神の繋がりが無くなってしまったのだ。
 「どうなっているんですか?」
 ルリは、アキトに聴いてみた。
 アキトと黒づくめの人物は、黙ったまま立ち続けていた。
 どうやら、アキトと黒づくめの人物の精神が繋がり、
 二人の間で、話し合っているようである。
 ルリとラピスが待ち続けるのが困難になった頃、アキトが二人に言った。
 「食事をして、イネスさんを待とう。」

 ・
 ・
 ・

 「アキトさん、こんな所に来て、どういうつもりですか?」
 ルリが、アキトに尋ねる。
 こんな所とは、記憶マージャンをした場所である。
 イネスに頼み、プレートを出してもらい、四人でプレートに触り、此処に来ているのである。
 丸いテーブルには、アキト、黒づくめの人物、ルリ、ラピスの順に座っている。
 アキトは、何も言わず黙ったままである、その隣に黒づくめの人物が座っている。
 黒づくめの人物(バイザーはしていない)は、確かにアキトそっくりの顔をしているが、
 ルリの言葉だと女性らしい。

  黒づくめの人物が、皆に喋る。
 「私の事は、明岐=アキ、と呼んで下さい。」
 アキト、ルリ、ラピスの三人が明岐に顔を向ける。
 「最初に、この場所から説明します。」
 と言って、説明をし始める。

 「本来、この場所は、麻雀をするような所ではなかったのです。
 本来の姿に戻しますので、皆さん、この丸いテーブル等は意識しないようにして下さい。」
 「? ?」他の三人は言われた事に首をかしげた。
 「此処は、思った事をイメージにして、実在しているかのように見せる場所。
 丸いテーブルを誰かが、思い浮かべたままだと、本来の姿に戻すのが難しいのです。」
 暫くすると、丸いテーブルと椅子が消えて、大きさがまちまちの丸いボールのような物が宙に現れた。

  四人は、椅子に座っているのではなく、
 大小様々、色もそれぞれ違っているボールが宙に浮いている、その周りを囲んで立っていた。
 ルリは、それを見て呟く。
 「太陽系・・・ですか?」
 「ええ、そして、此れは、現在の惑星、及び衛生の位置を忠実に再現している。」
 そして、明岐は、何時の間に出現したのか、麻雀パイのような物をつかみ取った。
 麻雀パイのような物は、明岐の脇の宙に一杯浮かんでいた。
 その全てが、麻雀パイの白のように模様が無かった。

  明岐は、そのパイを三人に、放り投げて渡した。
 受け取った三人は、そのパイをどうすれば良いのか分からずに、眺めていた。
 少しして、三人のパイにそれぞれ違った模様が出来、麻雀パイの白とは違うものになった。
 「それは、メモリーキューブ、イメージを記録する物、
 記憶マージャンでは、過去の記憶を入れてたようだけど、
 本来は、ボソンジャンプのジャンプイメージを入れるための物。」
 三人が持っていたメモリーキューブには、三人それぞれ、今思った事が、詰められていた。

 「地球、期間は、24時間前から今迄。」
 明岐が、喋るのと同時に太陽系の惑星と衛生が半透明になる。
 そして、地球と月を残して、その他の天体が消える。
 地球と月が皆の前で大きくなり、最終的に地球が直径2mくらいになる。
 それらの中に、緑色の点滅が数ヶ所、赤色の点滅が一ヶ所存在している。
 明岐は、緑色の点滅と赤色の点滅が並んでいる箇所を選んで、
 模様が無いメモリーキューブを其処に押しつける。
 直ぐに、メモリーキューブに模様が出来る、その上、そのメモリーキューブが幾つかに分割され、
 それぞれが元の大きさに戻り、結局、複数のメモリーキューブを、明岐は手に入れたことになる。

  複数のメモリーキューブの内から二つ選んで、明岐はルリに手渡した。
 ルリは、一つ選んでメモリーキューブを覗き込む、イメージがルリの頭に広がる。
 ナデシコCのブリッジが浮かび上がる、
 昨日ルリが、ナデシコCへボソンジャンプした時のイメージである。
 もう一つのメモリーキューブを手にとり、メモリーキューブを覗き込む。
 よく確認しなかったのが悪かった。
 バッタが、次々にミサイルを発射させていく。
 次々に爆発がおきる中、ルリ、ユリカ、少女達が苦しむ様を目撃する。

  ルリは、吐き気を我慢して、二つのメモリーキューブをアキトに手渡す。
 暫くして落ち着いたルリは、メモリーキューブを手渡す時、
 アキトに注意する事を忘れていた事に気付いた。
 見るとラピスもアキトも青い顔をしている。
 アキトは、受け取ったメモリーキューブを一つは自分が見、一つはラピスに渡したのだ。
 ラピスに渡した方が、ミサイルが乱舞するものであった。
 その後で、アキトとラピスはメモリーキューブを交換した。
 その結果、ミサイルが乱舞する物を全員が見る結果になってしまった。

  全員が見る結果になったイメージは、明人が最後に行ったボソンジャンプのイメージである。
 「此処では、イメージしてもボソンジャンプしません。
 そのかわり、精神が繋がっていても、此処では効果がありません。」
 それでは、此処は何をする所? という疑問がルリの頭の中に浮かぶ。
 その疑問に答えるように、明岐が喋る。
 「此処は、ボソンジャンプのメンテナンス・ルーム、
 ボソンジャンプ用のナノマシンが正確に働いてイメージが送れたか?
 或いは、どんなイメージを送ってボソンジャンプしたか等を、調べる所です。」

次話へ進む

異味さんの部屋// 投稿作品の部屋// トップ2


b83yrの感想

う〜ん、かなり複雑で解りにくくなってきちゃいましたね

『設定その物』が複雑な場合、どうしてもそういう所は出てきてしまうんで、仕方ないと言えば仕方ないんですが



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送