ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第十四章 水難

  黒づくめの人物を見てイネスは考える、どうやって此処を見つけたのか?
 そして、此処に来た方法は?
 しかし、黒づくめの人物を見ているだけでは、何も分からない。
 ルリは、黒づくめの人物の顔を見て、「アキトさん?・・・」と呟くが、
 テンカワ・アキトは、ルリの後ろでベッドに寝ている。
 そうすると、この黒づくめの人物は・・・誰?
 ラピスは・・・黒づくめの人物が言った内容、
 『火星の後継者達のペアにする為・・・』が気になる。
 その言葉は、ラピス達が、火星の後継者達のペアとして拉致された、と、解釈出来る。
 そうすると、ラピスは、火星の後継者達の誰かと・・・ペアにされる予定だった?

  黒づくめの人物は、イネスとルリに目を止めた後、ラピスを見つめる。
 イネスとルリには、黒づくめの人物が何故ラピスを見つめるのか分からない。
 ルリは、黒づくめの人物に声をかけようとしたが、・・・
 「ルリちゃん、無事だったか・・・、あの細工が効いたか・・・」
 ラピスを見つめたまま、黒づくめの人物が言った言葉に、ルリは不思議そうに呟く。
 「細工?」
 イネスとルリが、何か、言葉を発する前に、黒づくめの人物が言葉を続ける。
 「北辰! お前に、この子は渡さない!」
 叫ぶと同時に、黒づくめの人物は、ルリとラピスの手をつかみボソンジャンプしてしまう。
 その部屋に残ったのは、イネスとベッドに寝ていたアキトのみになってしまった。
 「何がなんだか分からない内に、皆、何処かへ、行っちゃったわね。
 私の事を無視して・・・、何故かむかつくわね・・・」
 イネスは、そんな言葉を呟きながら、ベッドで眠っているアキトを起こしにかかった。
 アキトに聞けば、ルリと精神が繋がっているので、何らかの情報が手に入ると考えての行動である。

 ・・・・・・

  ルリは、黒づくめの人物が、未来から来たテンカワ・アキトではないかと考え始めていた。
 ルリとラピス、そして黒づくめの人物の三人が、ボソンジャンプして来た所は、
 屋内駐車場に止めてある車の中だった。
 ルリは、その車の中に浮かんでいるウインドウに、気づいた。
 そのウインドウが映しているのは、先程、ルリ達がオモイカネを設置した場所である。

  彼がウインドウを、閉じる時、そのウインドウには、鐘のシンボルが映し出されていた。
 ルリ達が設置した、オモイカネは未だ、機能していない筈である。
 しかし、そのウインドウは、ルリ達が来る前から、先程の場所を映し出していたようである。
 「アキトさん?」ルリが言った。
 彼は、ルリを見つめた。
 「アキトさん、ですよね!」更にルリが問いかけた。
 「・・・・・・」
 「今のは、オモイカネ? オモイカネですよね?」
 ルリは、答えようとしない彼に、なおも話しかけた。
 「オモイカネ、オモイカネと話させてもらえませんか?」
 オモイカネと話せれば、いろんな事が分かるのではないかと、ルリは考え、言葉にした。

 「俺は・・・テンカワアキト、先程のウインドウはオモイカネだ。
 ・・・・・・今は・・・・・・此処までだ!」
 「どういう事ですか?」
 「・・・・・・」
 「オモイカネと話させて下さい!」
 「無駄だ! 今のオモイカネは俺の言う事しか聞かない!」
 「何故ですか? 何故、オモイカネと話させてくれないんですか?」
 しかし、明人(今ルリと繋がっているアキトと区別する為に、此処にいるアキトは、明人と表現します)は、
 それ以上の事は、何も話さなかった。

  ルリと明人が話している間に、明人は、ルリとラピスを
 屋内駐車場から、同じビル内にある、彼の住居らしき所に連れてきていた。
 「二人とも、この家の中で、おとなしくしていてくれないか?」
 「明人さんは、どうするんですか? 何をしようとしているんですか?」
 ルリが彼に尋ねた。
 しかし、彼は、その問いにも答えようとしなかった。

  彼は、ルリとラピスを、彼の住居の一室に案内した。
 そして、彼は、部屋の隅に置いてある荷物を指さし、
 「ルリちゃん、これはルリちゃんのものだよ、自由に使って良いよ。」
 言われて、ルリはその荷物の中を見て、驚いた。
 その中身は、ルリの洋服、着物、日用品(それも、今迄ルリが、愛用していた物と
 同じ種類、同じサイズの物と思われる)等が一通り揃っていたのである。

  ルリは、どうしようか迷っていた、今までは、医務室のベッドで寝ているアキトが起きたら、
 そのアキトの元にボソンジャンプして帰ろうと思っていたのである。
 今、このまま帰ってしまったら、二度と此処には、来れないのではないか?
 そうすると、後悔するのではないかと考えてしまう。
 「明人さん、これは、私のもののようですが、ラピスのは何処にあるのですか?」
 ルリが彼に質問すると、
 「・・・この子は、ラピスと言う名前なのか・・・・・・」
 明人は、又も、ルリの質問に答えることなく、呟いた。
 彼の言葉を聞いて、ルリは恐怖を覚えた。
 彼の態度、声音に氷のような冷たさが宿っているように感じたのである。

  ルリは明人の言葉を聞いて、黒づくめの人物が、未来から来たテンカワ・アキト、
 との考えが間違っている、と考えを修正した。
 アキトさんがラピスの名前を、忘れるとは思えない、
 そして、こんな、殺気のこもったような言葉をラピスを対象に言うとも思えない。
 そうすると、この人は何者? そして何をしようとしている?
 その人は、二人が寝れるように、その一室(和室)に二組の布団を敷き、二人の寝床を用意していた。
 「俺は用事があるので、二人は先に寝ていると良い。」
 そう言って、明人はその部屋から出ていった。

  明人が出て行く迄、ルリは妙に緊張していたが、出ていってくれたのでほっとした。
 ルリは、とにかくラピスを此処から帰す事にした。
 「ラピス、此処から、イネスさん達の所までジャンプして帰れますか?」
 「アキトと精神が繋がっていない状態でジャンプした事がないので、
 帰れるかどうか分かりません。」
 「そうですか・・・・・・試してもらえないですか?」
 「帰って良いの? アキトと精神が繋がっていなくても、あそこに帰って良いの?」
 どうして良いか分からない不安が声に現れている、ラピスの呟き。
 ルリは、ラピスの居場所を奪いさった悪者になった気がした。

 「あそこにはラピスの部屋があるんでしょう?」
 「・・・無い!」
 ルリは、ラピスの返答が理解出来なかった。
 「無い? どういう事ですか?」
 「部屋は、全部アキトと共同で使用していました。」
 ルリは、聞こえた内容を、思い浮かべる事が出来なかった。
 「共同で使用? どうやって?」
 今度は、ラピスがどう返事をすればルリが理解するのか、分からなくなってしまった。
 「一つのベッドに私とアキトが寝て、一つの部屋で暮らし、お風呂にも一緒に入る・・・・」

  そこまで聞いて、ルリは全身が強ばるのを感じた。
 先程聞いた、ラピスの男と女の関係になるという言葉が頭に浮かぶ。
 これ以上聞くと、何か大失敗をしそうな気がする。
 ルリは、とにかく、早くラピスを帰らせる事にした。
 「あそこに帰って、イネスさんの所に行ってどうすれば良いか、聞いて下さい。」
 ラピスには理由が分からないが、ルリの言葉には、これ以上話したくない、早く帰れ!
 との、凍るような冷たい雰囲気がまとわりついていた。
 ラピスは、これ以上此処に居ても、ルリの態度が冷たくなって、
 ルリとの関係が悪化するだけだと判断し、急いでボソンジャンプした。
 幸い、ラピスは、上手くジャンプして、イネスの所までたどり着いた。

  ラピスがジャンプしてから、暫くして、漸くルリは冷静に考える事が出来るようになった。
 明人は何処かへ出かけたらしく、家の中にはいなかった。
 『・・・先に寝ていると良い。』と言っていた事から、
 車の中では無く、もっと遠くへ行った、ものとルリは推測する。
 明人が居ない内に、オモイカネのウインドウが表示されていた屋内駐車場に止めてある車に行く事にした。

  しかし、玄関から出ようとして、玄関の扉を開ける事が出来なかった。
 扉の横に取り付けてある装置、その装置の画面に、
 『声紋、網膜パターンのチェック、及び、質問に答えて下さい。』
 と表示してあり、試しに、「此処を開けて下さい!」と言ったら、
 その画面に『登録されていない声紋です。』と、表示されて、扉は閉まったままだった。
 無視して扉を開けようとしたら、感電してしまった。
 「トラップですか?」
 家の中を捜し、ゴム手袋をして再度開けようとしたが、今度は、
 キーッキキーッ、至近距離で、いやな音がし続けた。
 扉から手を離すと、音は止んだ。

  玄関から出るのは諦めて、屋内駐車場に止めてある車には、
 ボソンジャンプで行こうと、車の中の景色を思い浮かべる。
 しかし、車の中にボソンジャンプしないのである。
 (何故? どうしてボソンジャンプ出来ないの?
 車の中の景色を、覚え損なったのかしら・・・・)

  ボソンジャンプを諦め、今度は、ベランダのガラス戸を試してみた。
 正確には、そのガラス戸の外がベランダだろうと推測した、ガラス戸である。
 今度は、感電、いやな音、と、殆ど同時に作動する・・・
 そして、ガラス戸は、押しても引いても、動こうとしなかった。
 トイレの窓はルリが通るには狭すぎてパス、
 そして、風呂場の窓で試したら、頭から水をかぶりびしょ濡れになってしまった。
 今回は、感電、いやな音、水責めが、殆ど同時に作動したようである。
 (明人さん・・・)ルリは、怒りで冷静に考える事が出来なくなっていた。

  とにかく、明人に文句を言ってやりたかった。
 それとは別に、意地でも、ボソンジャンプで車の所に行きたくなってくる・・・
 見た限りでは、この住居の中からは、一切外を見る事が出来ないようになっている。
 鍵穴はないし、ガラス戸には、しっかり雨戸がしてある。
 そして、窓や、扉を開けるには、それらの窓や扉の近くの装置に、
 認証(声紋、網膜パターン、及び、質問事項への答え)される事、が、必要になるらしい。
 (明人さん、これでは、私を牢獄に閉じ込めているのと、同じです!)

  再び、車の中の景色を思い浮かべる。が、相変わらず、ボソンジャンプ出来ない。
 それならと・・・先程の和室を思い浮かべる。
 今度は、ボソンジャンプ出来た。そして、ルリの身体から、和室に、水の雫がこぼれ落ちる。
 ルリは、水の雫に気がつくと、慌てて、部屋の隅に置いてある荷物のなかから、
 着替えとタオルを抜き出し、再び、ボソンジャンプして、風呂場に戻る。
 明人の住居の中ならボソンジャンプ出来るが、屋内駐車場に止めてある車迄は、ボソンジャンプ出来ない。
 ルリには、その違いが分からなかった。

 「何故この家の中ではボソンジャンプ出来て、屋内駐車場の車迄ボソンジャンプ出来ないんでしょう?」
 風呂場の中で、シャワーを浴びながら、ルリが呟く。
 着替えのついでに、シャワーで汗を流しているのである。
 (アキトさんならちゃんとジャンプ出来るのかな? それとも私と同じ様になるのかな?)
 少しの間、アキトの事を考えたが、相変わらず、アキトは眠ったままのようである。
 それから、屋内駐車場の車の中を・・・
 その前に、今の姿で車の中にジャンプした場合を考えて、直ぐ此処に帰れるように、
 風呂場の景色も思い浮かべれるように準備する。
 そして、屋内駐車場の車の中を思い浮かべる。
 ジャンプ!!

  ジャンプ、成功したような感覚があったので、周りを見てみたが、
 相変わらずの風呂場の中であった。
 しかし、さっき迄は、風呂場の中には、なかったものが存在していた。
 ルリの足元に顔があるのである。
 その顔は、医務室で寝ているはずのアキトの顔である。
 アキトの顔の下には、当然、アキトの身体が存在した。
 ルリは、思いもしなかったアキトの出現に、ぽかんと口を開けたまま、
 暫く凍りついていた。

  ルリの硬直が解ける前に、アキトが半目を開けて喋る。
 「・・・んっ、ラピスか・・・、成長したな・・・」
 ルリはアキトが何を言っているのか考える、
 その間、身体を隠す事も思いつかず、静止したままだ。
 そして、仰向けの状態で横たわっていた、アキトが、
 ルリの胸から、その視線を下に移動させようとして、
 漸くアキトが、ルリの何処を見ているか、そして何処を見ようとしているのか気づいて、
 「何処を見ているんですか!!!」
 ルリは、アキトの頭を蹴っ飛ばした。

 「ぐわぁぁぁ!」「キャァッ!」
 アキトの頭を蹴っ飛ばした瞬間に、ルリも、頭に衝撃を感じる。
 運が悪い事に、またもやアキトは気絶してしまった。
 それは、ルリにとっても不運であった。
 遠くの方で、「誰だ! この家で何をしている!」明人の声が聞こえる。

 「アキトさん! アキトさん! 起きて下さい! 寝ている場合ではありません!」
 ルリは自分がした事は忘れて、アキトを起こそうとしたが、
 なかなか、アキトの意識は回復しなかった。
 「それじゃ、・・・は、風呂場を調べてくれ、俺は・・・・」
 誰かが、風呂場を調べに来るらしい。
 ルリは、何故か、アキトを隠さなければ! と思い、
 アキトを隠す方法を必死になって捜した。

 ・・・・・・

  女性が、入浴中のルリの姿を見て、呟いた。
 「ルリちゃん・・・、一人?」
 女性は、風呂場の中を見ながら呟く。
 ルリも、女性の顔を見て、驚く、暫く呆然としてしまう。
 ブクブク
 「ユリカさん・・・」
 ルリは、何か聞かなければ、と思うが、質問する事が出来なかった。
 「一人だよね・・・、もう一人誰か居るって聞いてたんだけど・・・」
 「・・・・・・」
 「まっ、いいか、お風呂から出たら、三人で話そうか、三人で話すのも久しぶりだよね。」
 そう言いながら、ユリカは居間の方に戻って行った。

  ルリは、アキトが見つかっていないか確かめる為に、風呂場から出て、居間の方を覗き込んだ。
 ルリが出て行った後、浴槽の底から、アキトの身体が浮かんできた。
 「ラピスは、ボソンジャンプして、逃げたようだ。どうやら、手遅れだったようだ。
 捕まえに行く! これを持って一緒に来てくれ。」
 明人がユリカに言っているのが、ルリの耳に聞こえる。
 それから二人は、玄関を通って出て行った。
 ルリは、玄関から出れるか? と思い確かめてみたが、結果は外には出られなかった。

  ルリと別れて、ボソンジャンプで帰ってきたラピスは、
 イネスとアキトが居るであろう医務室に向かう。
 そして、そこでラピスが見たものは・・・
 アキトが寝ているベッドの側で、行ったり来たりして、独り言を言っているイネスであった。
 ラピスは、イネスが何故そんな事をしているのかは分からなかったので、
 空いている椅子に座って、イネスがラピスに気づくまで待つ事にした。

  イネスが、そんな事をしている訳は、
 それは、イネスがアキトを起こせないでいたからである。
 アキトが起きた後、状況説明をしたいのであるが、上手い説明を思いつかないのである。
 直ぐばれるような下手な状況説明はしたくないし、
 だからといって、上手い状況説明が出来るような情報もつかんでいない、
 しかし、状況がまったく分からない、と言うのも癪に障る。
 といった事情で、イネスは、アキトを起こそうとしては、状況説明を考え直し、
 そして、又アキトを起こそうとしては、状況説明を考え直す、といった事を繰り返していたからである。

  幸か不幸か、その事について、イネスはそれ以上考える事が出来なかった。
 いや、考える必要がなくなったのである。
 アキトがボソンジャンプして、いなくなったのである。
 が、別の事を考えなくてはいけない事態に陥った事に気づいた。
 「ら、ラピスちゃん、い、何時から居たの?」
 ラピスは、少し考えてから答えた。
 「30分位前から。」
 イネスは、ラピスの答えを聞いても、何も意味がない事に気がついた。
 そして、暫く考えたすえに、今までの事は無視する事に決めた。

 「ラピスちゃん、ルリちゃんともう一人は?」
 「・・・・・・」ラピスには、どう答えて良いかよく分からなかった。
 「ルリちゃんは無事なの?」
 「無事・・・、ルリが、此処に戻れって・・・」
 「此処に? どうして?」
 イネスは、ラピスの答えを、正しく理解する事が出来なかった。
 「イネスさんに、どうすれば良いか聞いて、とルリに言われました。」
 イネスは、ますます、分からなくなってしまった。
 「ラピスちゃん、最初からもっと詳しく話してくれる?」
 そして、それから二人は長い話し合いに入るのだが・・・、途中で、邪魔が入る事になる。

  医務室から、ルリの足元にボソンジャンプして来たアキトは、未だ寝ぼけていた。
 眠っていて、ボソンジャンプした事は理解していた。
 そして、ボソンジャンプした先が、久しぶりに風呂場だったが、
 目を開けると、金色の眼とストレートの長髪の娘が、シャワーを浴びている。
 ラピス!、また風呂場にジャンプして来てしまったらしい。
 でも、何故?、絵画のモデルのように動かないのだろう?
 そして、何時の間に、胸が成長したのだろう?
 「・・・んっ、ラピスか・・・、成長したな・・・」
 背も大分大きくなって・・・しかし、短期間で、こんなにも大きくなるのか・・・
 そう考えて、上半身から下半身を見ようとしたら、
 頭に衝撃があり、気を失った。
 気を失う前に、何かを見たと思ったが、後から思い出す事は出来なかった。

 「アキト・・・・アキト・・・・起きて・・・・」
 誰かが、俺を呼んでいる・・・
 ラピスか? それとも・・・ ?・・・
 身体が沈んでいる・・・深く深く・・・
 地獄に行く途中なのか・・・その証拠に息が出来ない。
 身体も動かないし、顔も固定されているようで動かせない。

 「ルリちゃん・・・、一人?」
 (! ルリちゃん!)
 (はい! 暫く辛抱して下さい!)
 声が聞こえる、が、呼吸が出来ない。
 (く、苦しい! た、助けて!・・・)
 (黙って下さい! 暴れないで下さい!)
 暴れだそうとして、先手をとられて、たしなめられたが、
 おとなしくしていれば、窒息死してしまう。
 とにかく、顔の上にある、弾力のある物体をどければ、呼吸出来るかもしれないと、
 手で掴もうとしたら、既に自分の手を誰かが掴んで動かせないようになっている。

  ブクブク
 顔を動かそうとした為、口から泡が出てしまった。
 「ユリカさん・・・」
 (静かにして下さい!)
 何か恥ずかしがるような、怒っているような言葉が、聞こえる。
 静かにして下さい、と言われても、息が出来なくて苦しいのは、我慢出来ない。
 (苦しい! 何とかしてくれ!)
 「一人だよね・・・、もう一人誰か居るって聞いてたんだけど・・・」
 (私だって、恥ずかしいのを我慢しているんだから、アキトさんも我慢して下さい!)
 「・・・・・・」
 それで、漸く、アキトもどんな状況になっているのか理解した。

  アキトが浴槽の底に仰向けに横たわり、脚が半分以上湯船からはみ出している。
 アキトは、ボソンジャンプしてきた時、下着しか着ていなかったので、素足が見える状態である。
 医務室のベッドに寝かされる時、イネスに汚れていた服とズボンを脱がされていたのである。
 そして、そのアキトの頭に、ルリが腰かけている姿勢で、ルリの胸から上が湯船から出ている状態である。
 アキトが、その様子を想像してみる。
 (そんな事想像しないで下さい!)
 そうすると、俺の顔の上がルリちゃんのお尻。
 (眼を開けないで下さい!)
 「まっ、いいか、お風呂から出たら、三人で話そうか、三人で話すのも久しぶりだよね。」
 眼を開ける?
 そこで、アキトは力尽きてしまう・・・

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b83yrの感想

う〜む、みてる分には面白いが、アキトにとっては洒落にならん状況(汗)

アキトと明人の事とかユリカの事とか、どんどんややこしい事に


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