ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第十三章 ラピス・ラズリ

  ホシノ・ルリがナデシコCへボソンジャンプした後。
 アキトはルリと精神が繋がったことに、驚いていた。
 ラピスは、アキトとの精神の繋がりが無くなった事に、呆然としていた。
 先程までは、アキトとラピスの精神が繋がっていたが、
 その繋がりが、アキトとルリに鞍替えしてしまったのである。
 イネスは、ルリに、彼女達が使用しているコミュニケを持って行くのを
 提案しようとしたのだが、その前にルリは、ボソンジャンプしてしまった。

  アキトは、ルリと精神が繋がっていると気づくと同時に、目を閉じ、
 「ラピス、イネスさん、俺とルリちゃんは、今、精神が繋がっている。」
 二人は、その言葉を聞くと同時に、アキトを見つめる。
 「で、ルリちゃんは無事なの?」
 イネスがアキトに聞く。
 ボソボソとアキトがつぶやく。
 イネスがアキトの顔に近づく。
 アキトが小さな声で
 「大きな声を出すな、ナデシコCはもうすぐ爆発する。」
 イネスとラピスはそれを聞いて驚くが、声は出さない。
 続いて、二人に、ルリの状況を説明する。

 「ルリちゃんがやろうとしているのは、オモイカネをナデシコCから切り離し、
 安全な所に避難させる事ね。」
 イネスは確認の為に、アキトに聞く。
 「そうだ、何か手はあるのか?」
 「アキト君とルリちゃんの精神が繋がっているのなら、
 アキト君は、ルリちゃんの、見ているものが見えるのよね。
 それなら、アキト君が、ルリちゃんの所にボソンジャンプして、
 ルリちゃんを連れてくれば良いんじゃない?」
 「そうか、・・・ルリちゃんが見ている所にボソンジャンプすれば良いのか。」
 「あっ、オモイカネも助けるのよね・・・、エステバリスを持っていった方が良いわね!」
 「エステバリスか・・・それなら、エステバリスを用意しなくては・・・」
 「用意が出来たら、ルリちゃん所に急いで、手遅れになると、ルリちゃんを失う事になるかも・・・
 それから、ラピスちゃんはコンピュータでナデシコCの追跡調査、
 連絡がつけば、コミュニケで私達に教えて。」
 ラピスは、心此処に有らずといった様子だったが、なんとかコンピュータの操作をやり始める。
 アキトは、手さぐりでエステバリスの準備をする。
 そして、エステバリスの準備が出来ると、ナデシコCにジャンプした。

 ・
 ・
 ・

  ナデシコCから、ルリとアキトが乗ったエステバリスが帰ってきた。
 その知らせを聞いて、ラピスは、コンピュータでの調査を中止した。
 そして、ラピスは考え事に集中する。
 いくら精神を集中しても、アキトとの精神的繋がりが感じられない。
 少し前までは、アキトとの精神的繋がりが確かに存在していた。
 その繋がりが、アキトとルリが、遺跡から帰って来たあたりから無くなったのである。

  ラピスは、アキトと精神的に繋がっている状態が、ずっと続くのを願っていた。
 その願いが、いきなり断たれてしまったのである。
 心の準備も出来ていないのに、精神的な繋がりが無くなった為、
 頭の中が真っ白な状態のまま、コンピュータで作業していた。
 そして、その状態が、ルリが流した消去プログラムを見る迄続いたのである。
 その後は、コンピュータの操作に集中し、それ以外の事を考えないようにしていた。
 そのコンピュータの操作も終わらせたので、アキトとの精神的繋がりが無くなった事、
 こらからどうするか等を、考える時間が出来てしまったのである。

  ラピスは、なんとか元の状態に戻せないか考えてみる。
 アキトとの精神的繋がりを元に戻す、又は、アキトとラピスの精神を繋ぎなおす、
 その為には・・・
 ホシノ・ルリがオモイカネに見せてもらっていた使用上の注意には、
 『男と女の関係になれば、二人はペアになり、互いの精神が結ばれます。』
 と表示されていた事を思い出す。
 ラピスは、アキトとルリがそれを利用して、互いの精神を結んだものと考えた。
 そして、再び、互いの精神を結ぶ為に、
 ラピスは、アキトと男と女の関係になる決意をする。
 決意といっても、ラピスには、障害は、ルリのみ。
 アキトに話せば、アキトが協力してくれ、簡単に実現出来るものと考えていた。
 アキトが、それを断る可能性があるとは、思いもしなかった。

  ラピスが、アキトの居場所を聞く為に、コミュニケを使用すると、ウインドウが二つ開いた。
 「!?・・・・・・」
 そして、そのウインドウには、
 『調整中です。』鐘のシンボルの表示有り。
 『暫くお待ちください。』こちらには鐘のシンボルの表示は無し。
 今まで、こんな事は無かった。
 ラピスは、その二つの表示を暫く見つめた後、ウインドウをオフにし、
 自力でアキトを捜し始めた。

  同じ頃、アキト、ルリ、イネスも二つのウインドウ見つめていた。
 こちらも同じ様に、
 『調整中です。』鐘のシンボルの表示有り。
 『暫くお待ちください。』鐘のシンボルの表示無し。
 二つのウインドウが並んで表示されている。

  ルリとアキトは、エステバリスで帰ってきた後、イネスの指示に従って、
 オモイカネの設置をしていた。
 漸く、その作業が終わり、ルリがオモイカネと話そうとしたら、
 二つのウインドウが出て、オモイカネと話せないのである。
 従来の此処のA.Iとオモイカネの二系列が同時に駆使出来るようになるはずが、
 この状態になり、どうしたものかと、考えていたのである。

  アキトとイネスは、ルリの疲労を考え、又、夜も遅くなっている為、
 此処の作業は、このままの状態にして、一旦睡眠をとって、翌日、続きをやる事になった。
 多分、その頃には、『暫くお待ちください。』との表示が消えている事を期待して。
 それに、ルリは、朝早くから今までの間に、食事もとっておらず、
 お腹も空いている筈なのである。
 ルリが、今後の身の振り方を決めるまでは、寝泊まり、食事の世話などをアキト達がする。
 そして、その他の諸々の事は、翌日決める事にして、
 アキトとルリは、エステバリスに乗って、格納庫に向かった。

  エステバリスが格納庫に現れ、エステバリスから、ルリとアキトが降りてくる。
 降りてくるルリの頭の中では、一つの想いで占められていた。
 その想いとは、あの事をアキトに知られてはならない。
 しかし、ルリとアキトの精神が繋がっている今、あの事をアキトが知るのは時間の問題である。
 ルリにしても、長期間、あの事を考えないでいる事など出来そうに無かった。
 それは、アキトと一緒にいるだけで、考えてしまいそうな問題なのである。
 それでも、ルリは、あの事をアキトが知るのを先延ばしにしたかった。

  先程までは、オモイカネの事で、頭が一杯だった所為で、あの事を考える暇が無かったのである。
 だが、今は、頭の中にそれが浮かび上がろうとするのを、何とか防ごうとしているのだが、
 妙案がないと、その努力も無駄に終わってしまいそうである。
 ルリは、オモイカネの件では、アキトと精神が繋がっていても、それが頭に浮かんでくる事は無かった。
 そのオモイカネの件の事柄のように、一心に考える事が出来る、他の事柄が無いか考えた。
 そして、見つけた件を、ルリは考えなければ良かったと、後悔した。
 ルリの見つけた件とは・・・

  ルリの見つけた件は、急いで済ませなければならなかった。
 ルリが、見つけた時点で、もう後戻りが出来なくなっていたのである。
 此処はナデシコと同じ構造なので、細部は違っていても、何処に何があるか、ルリには想像出来る。
 目的の場所も、何処にあるか想像出来る。
 急いで行かなくては、ルリは歩き出す、途中から、駆け足になる。
 アキトは、ルリがいきなり駆け出し、姿が見えなくなったので、少し混乱したが、
 アキトの二重になった視界の一方 −ルリの視界である− が見える為、そんなに慌てない。
 一方ルリは、駆けていく途中、視界が二重になっているのに、気づく。
 ルリの頭で、視界が二重、アキトさんにも同じものが見えている、という単語が駆けめぐる。

  脚が自然に遅くなる、ルリはかなり動揺している。
 いや、すごく慌てている。
 「アキトさん! 席を外して下さい」
 言われたアキトは、声は聞こえるはずがないが、精神が繋がっているので、
 ルリが何と言ったかは分かる、分かるが、意味が分からない。
 (席を外す?)
 ルリは、言い間違いに気づいたのか、
 「出て行って下さい。」
 (?・・?・・)
 やはり、アキトには、何がなんだか分からない。

  アキトは、ルリがよく分からない事をつぶやいているので、
 こんな時は、ラピスとの経験から、イメージによる、話し合いに切り換えようとした。
 ルリは、アキトが、イメージによる、話し合いに切り換えようとしているのを知ると、ますます、慌てる。
 「なッ、何を、アキトさん!、アキトさんの馬鹿っ!!」
 アキトは、ますます、分からなくなる。
 「・・・・・・」
 アキトの頭に、なにか閃く。
 (・・・トイレ!)

 (気にするな!)
 「気になります!」
 アキトは、同じ様な場面でラピスに用いた言葉を言ったが、上手く対応出来なかったようだ。
 (・・・・・・)
 「目を閉じて下さい!」
 アキトが目を閉じると・・・ルリの視界のみになる。
 ・・・
 「私が目を閉じます。」
 ルリが目を閉じると、ルリが行動出来なくなる。
 ・・・
 「・・・・・・」
 (俺も一緒にしようか?)
 ルリが想像しようとして・・・
 「えっ! そんなッ!! ダメです!!!」

 ・・・・・・

  アキトとルリは一大イベントを終えて、何故か顔を紅くして、食堂に急いだ。
 ルリは、今日の昼食を食べていないので空腹である、やはり、寝る前に食べておきたい。
 食堂に着くと、アキトは厨房に入り、作り置きしていた料理を温める始める。
 ルリは、アキトのそんな様子を見ながらテーブルに座る。
 そして、ルリの後ろから、ルリの横を通ってラピスが、アキトに近づく。
 ラピスが、アキトに向かって言葉をぶつける。
 「アキト! 私と、男と女の関係になって!」

  アキトもルリも聞いた言葉を理解出来なかった。
 理解したくなかったのかもしれない。
 ラピスが、もう一度言葉を発する。
 「アキト! 男と女の関係になる為に、私を抱いて!」
 今度は、アキトとルリも言葉を聞いたのだが・・・
 ガラガラ、ガシャン、ドンドンドン
 ルリの頭に衝撃が走る。
 アキトが、厨房でずっこけた拍子に頭を打ったのだ。
 ルリとアキトは精神が繋がっている為に、アキトへの衝撃がルリにも伝わってきたのである。

  そんな騒動の中に、イネスが入ってくる。
 やはり、イネスも食事に来た、のだが、食堂の惨状を見ると、
 「医務室に運んだ方がいいわね、気絶しているみたいだから。」
 アキトを調べながらルリに命令する。
 「ルリちゃん、医務室に運ぶから手伝って!」
 防災用の保管庫から担架を持ち出し、二人でアキトを担架に乗せ、医務室に運ぶ。

  食堂には、ラピスが取り残されていた。
 暫く、アキトが居たあたりを見つめていた。
 その時、電子音が鳴った。アキトの料理を温め終わったのである。それを知らせる電子音である。
 ラピスはもう一度、周囲を見渡して、おもむろに掃除を始める。
 アキトが散らかした、いや、ずっこけた時に散乱した鍋や陶器が、そのままであった。
 掃除を終えたラピスは、料理を見て、アキトの事を思い出す。
 その料理 −おにぎりである− を、アキトは、朝早く起き出して、作っていた。
 『今日、忙しくなると作る時間が無くなるかもしれない、
 おにぎりなら、こうしてあらかじめ作っておけば、時間を気にしないでもいいから。』
 アキトが、そんな事を言いながら、作っていた事を思い出した。

  ラピスは、温められたおにぎりを一つ手にとり、ゆっくりと食べ始めた。
 アキトが握ったおにぎりを、丁寧に食べ終え、残ったおにぎりを見つめる。
 そのおにぎりを暫く見つめた後、ラピスは、そのおにぎりを全部岡持に入れる。
 そして、岡持を持って、ラピスは食堂を出ていった。

 ・・・・・・

  イネスは、アキトの身体を調べた後、医務室のベッドに寝かせた。
 「特に問題はないわ、暫くしたら気がつくでしょう。」
 イネスがルリに説明する。
 ルリは、アキトの意識がない今の内に、あの事について考える。
 イネスには、あの事を話しても良いかな? と、考える、
 イネスにならば、その事で何らかの助言をもらえる可能性もある。

  ルリは、あの事を話す決心をすると、イネスに向かい、
 「イネスさん、話したい事があるんですが・・・」
 「何?」
 「艦長・・・ミスマル・ユリカさんについてです。」
 「・・・アキト君も一緒に聞いた方が良いんじゃないの?」
 「いえ、アキトさんに話して良いか分からないんです。
 どうしてあんな状態になっているかも分からないし、どうすれば良いかも分からないんです。
 イネスさんなら、説明出来るんじゃないかと・・・。」
 「説明! 説明ね! 分かった、話して頂戴。」

  此処でルリがイネスに話した内容は、秘密のルートを通してルリが得た情報である。
 もちろん秘密のルートの事は、話から除外してある。
 情報自体は、何処かの海洋上の戦艦に軟禁されているユリカを撮影したもの、
 多分、監視カメラに撮られたものから推定したものである。
 ミスマル・ユリカは、その戦艦の上で、個室を与えられ、毎日適度な運動と、
 色々な医学上の検査をする毎日を送っていた。
 目的は、遺跡に捕らわれていた後遺症の治療とリハビリである。
 そして、それを補佐する、一人の青年。
 ユリカは、彼の事をアキトと呼んでいる。

  毎日暇な時間が有り、その暇な時間に、青年相手に、ゲームをしたり、
 将来の生活を想像、及び計画したりして過ごしていた。
 そして、毎日が、ユリカは楽しそうなのであるが、相手の青年は何故か怯えているようである。
 が、当のゆりかは、その事には気づいていなさそうである。
 よく分からないが、その青年は、ユリカに服従しているような感じなのである。

 「どう思われますか? イネスさん。」
 「不明だわ・・・悪いけど、その件では、私は力になれないわ。」
  ルリは、イネスを凝視した。
 「本気でいっているんですか?」
 「本気よ! これ以上アキト君の問題を増やしたくないの!」
 ルリの頭に疑問が浮かぶ。
 「これ以上? アキトさんの問題? どういう事です?」

  イネスが何か思い出すかのように、頭をかしげて考え込む。
 「貴方、アキト君と精神が繋がっているのよね!
 それなら協力してくれないかしら?」
 ルリはイネスの言っている事が分からなかった。
 「・・・・・・」
 「アキト君の精神の調査、問題があれば治療・・・それを頼みたいのよ。」
 「それは、イネスさんの仕事です。」
 「分かっているわよ、でも、両方とも私には出来そうもないのよ。」
 「何故?」
 「これから説明するわ。」

 「ルリちゃん、貴方、マインドコントロールって知っている?」
 「たしか・・・洗脳に似た技術で、相手の思想、考え方を変える技術。」
 「そう、その相手の考え方を変える時に、洗脳は、相手が気づくけど、
 マインドコントロールの場合は、その相手がマインドコントロールされているとは気づかない。」
 「・・・・・・」
 「ミスマル・ユリカを護る、身体的にも精神的にも・・・」
 「・・・どういう事ですか?」
 ルリはそう言ったが、次のイネスの言葉は予想出来てしまった。
 「テンカワ・アキトは、ミスマル・ユリカを護る、身体的にも精神的にも、
 そう、マインドコントロールされていると考えると、
 テンカワ・アキト、ミスマル・ユリカの行動が、無理なく納得出来てしまうのよ!」

 「本当なんですか?」
 「分からないから、貴方に頼むのよ。」
 「・・・・・・」
 「・・・アキト君に、昔の事を思い出してもらうのは危険なのよ。
 しかし、思い出してもらわないと、確認も治療も出来ないの!
 ついでに言うと、ミスマル・ユリカの方も、マインドコントロールの事は知らないと思うわ。」
 「? 何故ですか? そうすると・・・」
 「・・・ミスマル・ユリカが、勝手に色々言ったり、やったりしてきた事を、
 テンカワ・アキトが、勝手に解釈して、自分を縛りつける重荷にしてしまった。
 こう解釈すれば良いのかしら、でも、これもマインドコントロールになるんじゃないかしら。」
 ルリは思い出していた、アキトが昔の事を思い出して、ナデシコAにボソンジャンプした事を。
 そして、何故イネスが、ミスマル・ユリカの件で協力してくれないのか理解した。

  テンカワ・アキトがミスマル・ユリカにマインドコントロールされていると想定すると、
 アキトにミスマル・ユリカの事を知られたら、状況が複雑になってしまう。
 アキトが、今の状況で、身体的にも精神的にもユリカを護ろうと行動すると、矛盾が生じる事になる。
 アキトから結婚を解消されると、精神的にユリカが傷つく。
 アキトがユリカの元に帰り、結婚生活を続けると、アキトが逮捕され、精神的にユリカが傷つく。
 それに、ユリカの所為で、アキトが傷ついたと知れば、これも、精神的にユリカが傷つく。
 これでは、ミスマル・ユリカが、遺跡から開放された時、アキトはユリカに会える訳がない。
 それに、マインドコントロールの事を、知らされて、アキトとユリカの過去を振り返れば、
 様々な、その事を強調する出来事が思い出される。

  そうなると、ルリもアキトかユリカかを、選ばなければならない。
 ルリは、ユリカが無意識にした行為を、恨めしく思いながら、アキトの所に留まる決心をする。
 本当は、未だユリカがアキトをマインドコントロールした、と決まった訳ではないのだが、
 「イネスさん! 私は何をすれば良いんですか?」
 「そうね、やる事は、此処での暮らしに慣れてから、考えましょう。」
 「・・・・・・」
 何故か、ルリは、イネスに肩すかしをくらった気分になった。

  アキトが、未だ気づかないので、何処で寝ればいいか尋ねようとしたら、
 そこに、岡持を持ったラピスが医務室に入ってきた。
 ラピスは、岡持を開けておにぎりを出す。
 ルリもイネスもラピスを見つめる。
 ラピスもルリとイネスを順番に見つめて、
 「食べて!」
 「あ、ありがとう!」
 「私も、食べて良い?」
 三人は、暫く無言で食べていたが、最初にラピスが、話し始めた。

 「ホシノ少佐。」
 「あっ、私はもう少佐ではありません。今となっては、軍人も今日限りです。
 私の事は、ルリで良いです。」
 「それでは、私の事はラピスと呼んで下さい。
 ルリは、何故アキトとペアになったのですか?」
 ルリには、ラピスが何の事を言っているのか分からなかった。
 「ペア? ですか?」
 「アキトとルリは精神が繋がっている、その状態の二人を、ペアと表現するのでは?」
 「そういえば、書いてありました。」
 「男と女の関係になれば、二人はペアになり、互いの精神が結ばれる、
 だから、アキトとルリは、男と女の関係になった。」
 ルリは唖然としてしまった。
 「ちょ、ちょっと待って下さい、私とアキトさんはそんな関係にはなっていません!」
 今度は、ラピスがきょとんとする番だった。
 「えっ、違うの!」
 「違います! 遺跡で、ナノマシンの投与を受け、此処にボソンジャンプして帰って来たら、
 もう、アキトさんと精神が繋がっていたんです。」

  今度は、三人とも納得がいかない、不思議そうな顔をしていた。
 「ルリは、望んでアキトと精神を繋いだ、のではないの?」
 「違います。」
 「分かった、ルリは、私と違って一人で生きて行けるから、
 アキトと精神を繋ぐ必要がないんだ!」
 又、話の要点が見えなくなったルリである。
 「何の話です?」
 「私は、アキトと、精神が繋がるまでは、自分で判断して決める事が無かった。
 アキトと会う前は、いろんな判断を全部他の人がやって、私はその人が、
 判断した通りに実行するだけだった。」
 「つまり、操り人形と同じで、その人に服従していたと・・・」
 「だから、・・・今の私は自分で判断する事が難しい、
 その為、一人で生きる事が出来そうにありません。」
 「それで、アキトさんとの精神の繋がりを復活させようと・・・」

  複雑な思いが、渦巻いていた。
 「ラピス! もしも、アキトさんに会わなかったら、どうなっていたの?」
 「分からない? 私以外の子も、同じ様に、自分で判断して決める事は、無かったみたい。」
 何の為に? との疑問が、皆の頭にあった。
 その疑問に答えたのは・・・
 「火星の後継者達のペアにする為。
 精神が繋がる為に、自分では判断しないで、
 相手の言う事を無条件で実行してくれる相手と、ペアになると都合がいい。
 少女にしたのは、火星の後継者達は男が多いので、相手は女性、
 そして、無条件で言う事をきかせるには、幼い頃から教育した方が効率がいいから。」
 医務室の入り口に、その人物は立っていた。
 テンカワ・アキトとソックリな顔、バイザーに黒づくめの服を着て。

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b83yrの感想

トイレですか、リンクっていうのも不便(笑)

しかし、ラピスの扱いを考えると、火星の後継者っていうのは、つくづくろくでも無い組織ですな



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