ラピス・ラズリの怪説ナデシコ
  第十二章 電子の妖精

  無人のはずのナデシコCのブリッジに立つ人影。
 その人影は、ナデシコCのブリッジにボソンジャンプしてきたホシノ・ルリである。

  初めてのボソンジャンプにしては、思った通りの場所にジャンプ出来た。
 等と考えているホシノ・ルリであるが、いきなり絶体絶命のピンチに陥っていた。

  とにかく、エンジンさえ起動出来れば、
 攻撃されても、電子戦にもちこみ、ナデシコを沈められる事は無いはず。
 そう考え、エンジン起動の為に、IFSを使おうとして・・・
 「こ、これは・・・」それ以上の言葉が出てこない。
 IFS端末が、叩き壊されている、ルリのも、ハーリーのも・・・
 IFS端末を使えなければ、オモイカネにアクセス出来ない。
 慌てて、予備の端末を捜しますが、そちらも壊されています。
 IFS端末以外は壊されていないようです・・・
 が、それでは、オモイカネとのコンビで電子戦等は、到底出来ません、
 その上、一人で、何から何まで全てマニュアルで操作しなければなりません。

  しかたなく、マニュアルでのエンジンを起動しようとして動いた所に、激しい衝撃。
 ナデシコが攻撃されている・・・
 「こんな時に攻撃してくるなんて・・・」、思わず声が出てしまったようです。
 次々に衝撃がくる中、マニュアルでエンジンを起動しようとしていたが、
 目的を果たす前に、衝撃の為に、壁にぶつけられました。
 幸い、打ち身だけですんだようです。
 もう、エンジンは起動出来る状態では無くなりました。

  衝撃が、何回も連続してくる割りには、ナデシコの相転移エンジンが
 爆発しないのは、攻撃している方が、手加減・・・
 と言うよりは、重要機関を避けて攻撃している。
 ナデシコが防御も攻撃もしないと分かっているので、
 出来るだけ、攻撃回数を多くしたい為である。
 その為、エンジン部分、ブリッジ部分への攻撃は、控えられていた。
 しかし、その部分への攻撃がなされるのは時間の問題である。

  ルリは、なぶるような攻撃に嫌悪を覚えながらも、コミュニケでオモイカネを呼び出す。
 しかし、オモイカネによる、エンジン起動も、何かが破壊されてしまったのか、出来なかった。
 そして、コミュニケを通して、聞いた事柄は、ルリの想像以上に酷いものだった。
 このままの状態では、エンジンも起動どころか、あと十分もたたない内に、ナデシコは大爆発。
 爆発を阻止する為には、これ以上の攻撃を受ける訳にはいかない。

  攻撃してくる艦に、通信を繋ぐようにオモイカネに指示する。
 相手に降伏の意志を見せ、攻撃の停止を求める為である。
 オモイカネは、通常の機器が使えない為、時間がかかったが、
 なんとか、攻撃側の艦と連絡がついたようである。
 しかし、ルリの前のウインドウには、サウンドオンリーとの表示があるだけである。

  「我々は火星の後継者である、そちらの艦を爆破する、直ちに脱出艇で脱出して下さい。」
 「・・・・・・」
 相手の声は、何かを読んでいるような棒読みです。
 ルリは、何を言っていいか分からず、そのままの状態で、固まっていたが、
 暫くして、「回線オフ!」と一言、コミュニケでの会話を打ち切ったのである。
 ナデシコに、ルリが乗っている、しかも私服でブリッジにいる事を、相手に知らせたのは、
 良い事なのか、悪い事なのか、考えようとしたが・・・・・・

  その時、連続していた衝撃が無くなったのである。
 ルリの推測では、少しの間待ってやるから、その間に脱出艇で脱出しろ。
 そして、その脱出艇は、何か細工されていて、脱出途中で爆発・・・
 というシナリオが浮かぶが、確信まではいかない。
 だからといって、脱出艇を使うつもりは無かった。

  ルリの前のウインドウ、回線オフから表示されたままだが、
 『ルリさん、この艦はもうすぐ爆発します、脱出して下さい。』
 との表示に変えられて、少し経って、漸くルリが気づく。
 相変わらず、オモイカネのシンボルの鐘のマークを表していない。
 ルリには、オモイカネの人格? 自我? が変化したように思えてならない。
 別人? 別自我? かとも思えるが、オモイカネのできる事、記憶等は、今までどおり。

  今は、別に考えないといけない事が有る。
 何時攻撃が、再開されるのか不明だが、
 それまでの間に、なんとか、オモイカネを助けないと・・・
 ナデシコCそのものは、もう爆発するのを止める手だては無い。
 オモイカネのみを取り出して助けるのであれば、まだ望みがある。
 しかし、ルリには、そのオモイカネを助ける手も思い浮かばない。
 そして、オモイカネを残して、自分だけ逃げ出すのも嫌だった。

  ナデシコCを助ける・・・方法が無い。
 仮に、ナデシコCをボソンジャンプして、別の場所に移しても、
 その場所で大爆発するのを、止める手立てがない。
 オモイカネを助ける・・・時間が無い。
 オモイカネを助ける為には、オモイカネをナデシコCから切り離す。
 切り離してから、ボソンジャンプで、脱出する。
 しかし、その切り離す時間が無い。

  自分だけ、ボソンジャンプで、脱出する。
 可能だが、それはしたくない。
 第一、何処に逃げ出すの?
 軍の関係者はダメ、自分だけでなく相手も危険に巻き込んでしまう。
 同じ理由で、ナデシコに関係する人間もダメ。
 ネルガルに関係する人間・・・アカツキ、エリナの顔が浮かぶ。
 しかし、その気にならない、それに場所も知らないのでダメ。

  最後に、アキトとイネス、ラピスの所である・・・
 微妙な所であるがダメである・・・それに、その場所がイメージ出来なかった。
 オモイカネを犠牲にして、自分だけ助かり・・・それでは、アキト達に会える訳がない。
 ルリには、アキトが火星で同じ様な気持ちで、自分達に会わずに去っていた。と、思えてなら無い。
 アキト達に、連絡がつけば、助けてもらえるかも知れないが、連絡がつかない。

  そして、攻撃が再開された。
 ルリは覚悟が決まったのか、衝撃と熱波の中を、オモイカネの設置してある区画に向かう。
 向かう途中、オモイカネに、ウインドウでプログラム実行の指示を出す。
 そのプログラムは、未完成だし、見た目の姿も遊び心で造ったまま、放置してあったものである。
 オモイカネは、この指示に、前から準備してあるのか、すぐさま実行に移した。
 それは、全世界のいたるところに忍び込ませていた、監視プログラムの消去プログラムである。
 目的は、アキト達の捜索がメインであるが、他の用途にも使えるものである。
 が、ルリ以外の人間は、この存在を知らない。

  ナデシコCから、このプログラムが、全世界に向けて発信された。
 ルリの考えでは、このプログラムの映像化した姿が、見れるのは、ルリの他には、
 ラピス&ハーリーのみだと考えていた。
 そして、二人は、余程偶然が重ならない限り、この映像を見ないだろうと考えていた。
 しかし、ラピスはアキトの為、ハーリーはルリの為ににコンピュータを操作していて、
 二人ともこの映像を見てしまった。

  そして、二人以外にも、その映像を見た人間が存在した。
 ナデシコにあったバーチャルルームと同じようなシステムで、コンピュータにアクセスしていた人間。
 オモイカネのようなA.Iのメンテナンス作業の為に、コンピュータにアクセスしていた人間。
 コンピュータに直接アクセスするようなタイプのゲームをしていた人間。
 研究の為に、コンピュータ内部を調べていた人間。
 コンピュータやネットワークの情報の動きを調べていた、ハッカーやクラッカー。
 他にも、情報の内容を監視している、情報警察等も映像を見ている。

  その上、ルリは、その映像を見ても、ハーリー以外は、ルリだと気づかないのではないかと思っていた。
 そのハーリーだが、ルリの考えとは違い、この映像を見ているのである。
 休暇の最初の日から、ルリが居ないし、ネット上に変な噂が流れているはで、
 わざわざ、複雑な手続きを経て、軍のコンピュータ、それもIFS端末が使えるコンピュータで、
 ルリが何処に行ったのかを調べていたのである。
 それでも、ルリの行方が分からないので、どうしようかと思っていた所に、先程の映像である。
 ハーリーはその映像に見覚えがあった。
 ルリが、何か漫画かアニメのような物体を操作していたので、何か聞いた所、
 「これは、私の遺言のような物で、実際に見る事は無いでしょう。」
 とルリが言った時の映像である。
 そして、「未だ未完成だし、そのうち大幅に修正するつもりなので、今は秘密です。」
 とも言っていた、その映像である。
 「か、艦長が・・・、艦長が・・・」
 操作していたコンピュータの事も忘れ、そのままの姿勢で固まっていた。

  なんとか、オモイカネの設置されている区画に、ルリはたどり着く。
 これから、オモイカネをナデシコから切り離し、宇宙空間に押し出そうとの考えである。
 運が良ければ、オモイカネは無事『死なず』に済むはずである。
 それでも、切り離すには時間が足りない、エステバリスで強引に引き剥がせば、
 直ぐだと思われるが、そのエステバリスを持ってくる時間も無ければ、
 ルリが、エステバリスを操縦出来る訳でも無い。

  エステバリスといえば、やはりアキトさんが思い出される。
 私はアキトさんに、私の心を・・・・・・
 ・・・・・・伝える訳にはいきません。
 伝えられる位なら、レシピをもらった時に、とっくに伝えています。
 そんな事より、早く工具を使って、オモイカネを切り離さなくては、
 (工具を使うより、エステバリスで強引に引き剥がした方が早い。)
 ん? エステバリス? 何時の間に?
 直ぐ横にエステバリスが立っています。
 願望が幻となって現れているのでしょうか?

 (エステバリスに乗って!)
 エステバリスに乗る? 私は操縦出来ませんが?
 (何をぼけているんだ! 未だ頭が混乱しているのかい? ルリちゃん!)
 ルリちゃん?
 (今から見える映像は、エステバリスの操縦席だ、その映像を見ながら、其処にジャンプして!)
 その言葉が終わると同時に、私の視界が、二重になります。

  突然、今の視界にエステバリスの操縦席が重なって見えるようになった為、
 驚いてしまいましたが、これで、なんとか、オモイカネを助け、私の命を長らえさせる事が出来そうです。
 次の瞬間には、エステバリスの操縦席にジャンプしていました。
 それも、アキトさんの膝の上です、
 確か、ラピスさんから聞いた話だと、アキトさんとラピスさんはジャンプ後、向かい合っていた、
 と聞いたと、思うのですが、何故、私はアキトさんと同じ方向を見ているのでしょう?

 (る、ルリちゃん、そんな事より、オモイカネ!)
 「えっ、どうして?」
 そうでした、今は、そんな事より、オモイカネを助けないと。
 未だ私は、考えた事が相手に伝わるという事が、分かっていませんでした。
 (じゃぁ、思いっきり引き剥がすから・・・)
 「あっ、そうではなくて、こういう感じで、そっと引き剥がして下さい。」
 (えっ、さっきは強引にって言ってた・・・・)
 こんな時、精神が繋がっていると便利だなと、感心してしまいました、
 こんな風にしたい、というのが言葉ではなく、イメージとして伝わるのですから・・・
 そう、アキトさんと私は何時の間にか精神が繋がってしまったようです。
 でも、何故?

  その後、私達は、エステバリスを駆使して、なんとか、オモイカネを
 ナデシコから、引き剥がす事に成功し、ナデシコCが爆発する直前に
 元の南海の離れ小島に、ボソンジャンプしました。

 

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b83yrの感想

ルリもオモイカネもなんとか助かったようです
ルリとアキトは、ラピスとアキトのリンクのように繋がってしまったと言う事なのでしょうか?



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